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シナリオ詳細

<神逐>Let's aaaaaaaaaaaaaaaaaaaall give name!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●万人よ世界に名を刻め
「マイネエェェェェェェェェェェェェェムイズ、『鬼刑部』梅久ァ!」
 馬上より鎖のついた巨大な十文字槍を手ぬぐいでも回すかのように軽々振り回し、呪獣たちを強引になぎ払いながら突き進む鎧武者。
 かぶとの下で目を光らせ、降り注ぐ血色の雨がつのより落ちた。

 『獄人死兵隊』という部隊が、かつて存在していた。厳密には今も存在し、獄隊の略称で呼ばれることがある。その時はもっぱら、「獄隊にやらせておけ」「試しに獄隊を放り込め」「獄隊なら替えが効く」「獄隊で時間を稼げ」といった文脈で語られるばかりであった。
 彼らの仕事は戦うことであり、鬼人種差別が法規的に撤廃され実質的な農奴から解放された彼らが公務員として唯一できる作業でもあった。それまで桑をふるか獣を狩るかしかしてこなかった者たちの多くに政治に加われるほどの学はなく、それでも上京すればよい稼ぎが得られ家族に仕送りができるからと、多くの鬼人種がこの部隊へと志願し――そのうち生きて帰ったのはほんの一握りであった。
 彼らの仕事は戦うことであり、由緒正しき八百万武官様の代わりに戦って死ぬことであった。
 『猫も杓子も文武文武と蝿ならむ』という詩に唄われたように、次々と上京してくる鬼人種を刑部省の古株役人達は煙たがりすぐに消費される部隊へわざと配属させては消していったのである。もちろん、それ自体が悪だとは言い切れない。獣狩りや地元での喧嘩程度しか経験のなかった者たちが戦に慣れるには難しく。訓練するにも費用がばかにならぬ。かといって鬼人種だからと追い返すことが許されない以上、必然としてそうした部隊が生まれることもやむをえぬことである。
 獄隊は強力な妖怪退治や都や京郊外を襲撃する地方部族や敵対的な大名勢力への時間稼ぎとして投入され続け、頻繁に人が入るにも関わらず人員は十人かそこらといった酷い有様であった。目を輝かせて入隊した新人がその日のうちに妖怪の餌となり、左手首から先だけを遺族に届けたなんて話も珍しくない。
 ある日、そんな獄隊を変えた人物があった。
 入ったその日から修羅の如く戦い続け、幾度となく死線にあいつつもそれをくぐり抜け、幾多の生傷をこしらえては大酒を飲んで無理矢理にでも戦場に飛び出し続けた。
 仲間達が次から次へと死んでいくなか、彼だけは生き続けた。
 生き続けたから技がつき、生き続けたから知恵がつき、生き続けたから信頼をえた。
 やがて彼の名は希望をもって語られ、部隊は自らをこう呼ぶようになった。
 ――『梅久騎兵隊』。

「隊長、ここは俺が抑える。ローレットの『小童』殿と合流してくれ!」
 巨大な骸骨めいた妖怪に左腕を肩までかじられながら、安形忠敬という名の鎧武者がその顔面を殴りつけていた。田舎に母と三人の弟をもち毎月仕送りをしているという大酒飲みだ。
 その横では溶解液を頭からかぶった斐川博臣という武者が鎧と地肌をとかされながらも獣のごとくうなりを上げて戦斧を妖怪の頭にたたき込んでいる。女とみれば種族問わずに声をかける伊達男だ。
 腕をかじり取られてうめきつつも、安形が喉をしぼって叫んだ。
「これ以上街に入られれば人が死ぬ! 女子供が泣きながら死ぬぞ! そんなの許せるか!? 許せねえよなあ!!」
 斐川が顔を半分ほどとかされながらむりやり頬を拭って吠えた。
「こんな時だってのに刑部省の連中は内輪もめだの国崩しだの、あいつら市民をなんだと思っていやがる。ああ!?」
 両手に八尺三寸の大野太刀を一本ずつ握った巨漢が現れ、ぶくぶくと肉をつけたこれまた巨大な妖怪を切り裂いていく。片目は今さっき潰されたのか、目や全身のあちこちから大量に出血している。蝋坂一敬という農家の息子で、身体の大きさゆえに怖がられ集落から追い出された男だ。
「政治家、信じらんも。オレ、信じるん、梅久サンだけだも」
 もそもそと訛りの強い口調でしゃべり、妖怪たちへと襲いかかっていく。飛んできた無数の骨の槍が刺さるが、それでも止まらずに走り続けた。
「……すまん!」
 振り返らず、梅久は馬を走らせる。
 大呪の影響を受けて凶暴化した妖怪たちを相手に、自分の部下達が生き残れるとはとても思えないが。
 だが。
 やらねばならない。
 前へ、進むしか無いのだ。
 故に叫べ。
 故に名乗れ。
 この世界に生きた証を、死のその時まで刻むのだ。
「マイネェェェェェェェェムイズ安形忠敬ァ!」
「マイネェェェェェェェェムイズ斐川博臣ィ!」
「マイネェェェェェェェェムイズ蝋坂一敬ィ!」
 梅久の名乗りを真似て、彼らは命を『捨てがまる』のだ。
「地獄で再び、飲み交わそうぞ! 兄弟ィ!」

●大呪獣百鬼夜行と梅司鬼兵隊
 黄泉津瑞神が大呪のけがれによって歪み凶神となった今、カムイグラは前代未聞の危機に瀕していた。
 妖怪たちは荒れ狂い、あらゆる亡霊が恨みと憎しみを吐き出しながら人をとり殺し、それに乗じた魔種たちが一斉決起し、破壊し尽くした後の権力を飴とした天香派役人や貴族たちが帝から離反し、混沌を極めた高天京は見るも無惨に焼け燃えていた。
 兵は足らず、足りても死に、ローレットだけが今や頼りだ。
 彼――梅久騎兵隊隊長『鬼刑部』梅久もまた、そうしてローレットを頼った一人である。
「隊は……?」
 彼を出迎える形になったイーリン・ジョーンズ(p3p000854)は、梅久のあとに続く傷だらけの兵達を見回して小さく言った。
「半分は死んだ。もう半分は今から死ぬだろう」
 重く返した梅久に、イーリンは小さく息をつく。
 指揮系統が混乱し各部隊がバラバラになったという話は聞いていたが、そんな中でも梅久の隊はマシなほうだったのかもしれない。統率がとられ、死に場所を選ぶ程度には現状が分かっているのだから。
「将を借りたい。小童(わっぱ)、お主もだ」
「分かってるわよ。そっちは兵を貸して。私たち一人ずつで指揮を執るわ。それと、いい加減私を小童って呼ぶのをやめない?」
「生き残ったら考えよう。それと……」
 うん? と首をかしげるイーリンに、梅久は頷いた。
「例の答えも、聞かせてやろう」
 半端な言い方ながら、すぐに思い至った。だから『うん』とだけ答えて、仲間達へ振り返る。
「聞いた? 戦力差は倍ほどあるみたいだけど、私たちは兵を率いて戦わなきゃいけないみたい。引けば民が死に、逃げれば国が滅びる。シンプルな条件よね……まったく」
 いつものように、唱えよう。
「『神がそれを望まれる』」

GMコメント

■あらすじ
 大呪によって国が滅びかけた今、呪いをうけて凶暴化した妖怪たちが群れを成し市民の避難所へと進行しています。
 これを食い止め撃滅すべく、大幅に数の減った梅久騎兵隊の兵達を率い、あなたが隊長となって戦うのです。

 以下は今回限定のルール解説になります。
 騎兵隊長ルール、敵戦力、騎乗戦闘、撤退と敗北の四つです。
 ちょっと長いので順番に解説していきましょう。

■騎兵隊長ルール
 このシナリオにて、皆さんはそれぞれの隊をもつ『隊長』です。
 デフォルトで『[PC名]隊』と呼称されますが、好きな部隊名をつけてもいいでしょう。
 兵数はPCを除いて5名前後が編成され、いま出られる兵士をかき集めある程度バランスをとった状態になっています。
 戦闘能力は『そこそこ高い』です。自分と同格くらいに考えても問題ありません。
 最も重要なことは兵達の士気を上げることなので、指事の的確さとか戦闘経験とかレベルとか隊長らしさとかそういう辺りはあまり気にしなくてOKです。

 PCは彼らに指示や方針を与えながら戦闘を行うことになります。
 といっても全員の使用スキルをPC口調で宣言していったら必ずパンクするので、大雑把な指事をプレイングに書いておくにとどめましょう。(これを汲んで、実際には細かく指事を出したり号令を行ったりします)
 急に部下を与えられてもよくわからないという方は、ひとまず『自分の強みを引き出すには味方がどう動いてくれたら理想的か』を基準に動かすとハマると思います。
※梅久は自分の部隊を編成しているので、合計で9部隊で敵軍に挑む形になります。

■フィールドと騎乗戦闘
 非常に広大な町中フィールドを駆け回り、突撃をかけてくる妖怪の群れと戦います。
 フィールドの広さや双方の機動からして、軍馬(かそれに準ずるアイテム)に乗っていないと戦場に置いて行かれてしまいます。
 また馬上では若干の判定ペナルティが生じ、『騎乗戦闘』スキルによってこれを軽減できます。
 また軍馬アイテム自分で装備してきた場合もペナルティ軽減対象とします。
 (軍馬アイテムをもっていなかった場合、梅久の軍から借り受ける形になります)

■敵戦力
 『大呪獣百鬼夜行』と仮称した妖怪の群れです。
 オーソドックスな妖怪たちですが大呪の影響を受けて凶暴化し、人間に対する強烈な殺意をもって動いています。
 幸いなことに彼らに統率力がなく、個体ごとに能力が大きく異なるので連携した戦い方は難しいようです。
 注意すべきことがあるとすれば、これらの戦力がこちらの1.5~2倍ほどあり、すさまじい勢いで攻めてきたり兵達の死体を遊び半分で弄んだりしてくるためこちらの勢いが弱まるとすぐに潰されてしまうだろうということです。
(※注意:今回はPCが雑魚敵群を蹴散らす状況ではなく、部隊全体で敵にあたることになります。1部隊単位を自分のPCの延長身体だと思って戦ってください)

■撤退と敗北
 味方部隊がすべて撤退ないし死亡した場合、このシナリオは失敗扱いとなります。
 また撤退するには戦闘続行可能な味方の補助を要するため、皆さんには以下の選択をしてもらうことになります。
・部下を生かして逃がすか、死ぬまで戦わせるか
 生かす場合早期に撤退することになるため、部隊全体の耐久力が低下します。
 ただし死ぬまで戦うと決めた場合部隊の耐久力が大幅に向上します。
 梅久騎兵隊は基本的に『死ぬなら戦って死にたい』と考えているようです。
※部隊が壊滅した場合、ギリギリの戦力だけ残してPCを撤退させようとします。もしそれでも撤退しきれなかった場合、最悪の事態も起こりうるでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <神逐>Let's aaaaaaaaaaaaaaaaaaaall give name!Lv:15以上、名声:豊穣10以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年11月17日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
シルキィ(p3p008115)
繋ぐ者
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ

●命捨てがまり
 見よ夜空に暗雲が流れ凶月の目映いことよ。
 京の都はまばらに黒煙がたち、屋根の上に立てば何軒も遠くからいびつな津波のごとき百鬼夜行が迫り来る。
 『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は瓦屋根の上で腕組みをすると、ぴょんと飛び降りて愛馬『グリンガレット』へとまたがった。
(避難所を死守する。そして、梅久騎兵隊とともに、帰還する。
 どちらもこなさねばならないのが、辛いところだが……皆、その覚悟で、来た)
「隊長どん」
 武者鎧の男達が彼女のもとへと集まってくる。
 どれも馬にまたがり、傷だらけの身体をどこか誇らしげにすらしていた。目に宿る闘士はギラギラと輝き、空の凶月をも払わんばかりである。
「ここがわしらの死に場所じゃ。死ぬまで戦ばせんと、生き甲斐もなか」
「…………」
 それがお前達か。エクスマリアはわずかに目を細め、これまで散った仲間達のことを思った。
(死地でこそ、生きねばならん。それを死を覚悟した精兵達にこそ、教えてやらねば、な)
 なんの未来も展望もなく、容易に命を賭けられる。これは地球における紛争の歴史を例に取るまでもなく有効な戦力であり、これが鬼人種に多く発生するカムイグラという土地柄ゆえにこの梅久騎兵隊はあるのだが……。
「こういう奴らと組むときこそ軍師の腕の見せ所だよ。
 勝手知ったる街で地の利在り、我らが加わり人の利在り、後は戦場で天の利を掴むだけだ」
 駒が駒たりえるからこそ、棋士は有効手を指せるもの。
 『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は武者鎧のような装甲を施された改造車椅子を操作すると、膝をつく軽装の兵士たちの前へとでた。
「梅久騎兵隊にもこういう部隊があったんだねえ。専門は偵察って聞いたけど……君、名前は?」
 問いかけると、先頭の般若面を被った男が顔を上げた。
「名は御座いません。『般若壱番』とお呼びくださいますれば」
「ん」
 盤上すべてが見えなければ手を指すことはできない。
 そこへきて、般若壱~伍番は連携することで高純度の観察情報をもたらすことのできる偵察部隊である。
 ぱちんと柏手をうつシャルロッテ。
「さて、はじめようか。君たちが生きて死ぬための、ゲームだ」

 空高くにて飛翔する『至剣ならざる至槍天』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)。
 彼女の周りには赤墨で『八咫烏』と鎧に書き付けた飛行種武者たちが陣を組むようにして浮かんでいる。
「隊長? 聞いても良いかしら」
 フルフェイスのかぶとのせいで分かりづらかったが副隊長は女のようだ。
「あん?」
「部隊名を『八咫烏』にしたのは、なぜかしら」
「そりゃあ、アタシらが皆を導くためさ。勝利という道筋にな!」
 降下し、軍馬へととびのるエレンシア。
 部隊員たちが彼女に続く。
「こちらの方が数は劣っちゃいるが敵は統率の取れない烏合の衆だ!
 数がいくらいようがバラバラじゃ大したこっちゃねぇ!
 まとまって同じ目標を持って動くアタシらの方が上だ! 行くぞ!」
 持ち場へと走り出す八咫烏隊。
 その様子を眺めていた『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)は『格好いいねえ』といって笑った。
「おうい、幻夢桜の。準備はいいかい」
 軍馬に飛び乗る若い男。かぶとを外したスキンヘッドの青年は、どうやら獅門と同い年のようだ。
 自分もまた軍馬へ飛び乗り、手綱を握る獅門。
「いいぜ。『梅久騎兵隊』といやぁ俺ら田舎もんの憧れだ。一緒に戦えて光栄だぜ」
「おいおい獅門さんよ、今はあんたが隊長だぜ? 一緒どころじゃねえ、あんたが『率いる』んだ」
「へえ、出世したもんだ」
 キヒヒと歯を見せて笑い、無骨な大太刀を肩に担ぐ。
「ょっとばかし敵が多いが……なーに、精々こっちの倍くらいだろ。
 つまりいつもより1匹だけ多く斬ればいいって事だ。何とかなるさ! 俺らも行くぞ!」
「「応ッ!!」」
 走り出す獅門鬼獅子隊。
 それらを確認すると、『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は自分の部隊へと振り返った。
「戦場に行くのはいつだって、生き抜く馬鹿と死ぬ馬鹿のどっちかよ。
 あんた達はどっちよ? どっちにしても一度出れば引き返せない。
 生き抜くか、魂を私に捧げ人の身に余る快楽を永遠に享受するか」
 即席のハチマキに『利香隊』と書いて額に結ぶ兵士達。
 機動力を重視してか鎧は軽く、馬もすらっとした体型をしていた。
 ぴょんと『GRND』に飛び乗る利香。
「覚悟ができた奴だけ着いてきて」
「覚悟など、とうに」

 堂々とたつ虎の背に、『雷虎』ソア(p3p007025)は横乗りしていた。
 前に居並ぶはソア隊の兵士達。
「みんな、よろしくね。
 戦いの前に聞いて欲しいな。
 だって死ぬ気の顔でいるんだもの。どうせなら戦って死にたい、そうでしょう?
 でも、今日は違うんだよ。これからボクたちは妖のやつらに勝つの。
 この戦いが終われば明日もその先も生きられるの」
 目を閉じてみて、と言いながら自分も目を閉じる。
「みんなには何が思い浮かぶかな。
 恋人の、奥さんの、お子さんのお顔かな? 好きなご飯? それとも綺麗な景色? それはずっと続いていく。
 生きていればその隣に笑顔のあなたがいる。死ぬとしたら仲間のその未来のために死ぬんだよ。
 だから、どうせならなんて思わないで。
 苦しい時にも諦めない想いがあなたの足を支えるから。生きようとする力が敵の命を狩る武器に変わるから」
 一方では『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)が『木蘭』という勇猛な馬にまたがり手を高くかざしていた。
「引けば民が死に、逃げれば国が滅びる……なら、『死ぬまで戦う』しかない、よねぇ。それでも」
 集まった鬼蚕隊の兵達へ振り返る。
「それでも、わたしは『死なせないよう、死力を尽くす』。
 それがわたしにできる、唯一且つ最大の礼儀。
 ……だから、お願い。一緒に戦って!」

 梅久率いる騎兵隊が一定のリズムで蹄を鳴らし、今にも妖怪たちの群れへと突撃しようとしている中。
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はラムレイにまたがり命を下した。
「いるんでしょう、グランディス」
「は、司書殿。ここに」
 黒い武者鎧を身につけたグランディスが筆と『知識の砦・伍』をそれぞれ出し、イーリンへと掲げた。
 命令したとおり、隊員たちの名前がその紙には記されている。名字の無いもの、自分の名前が漢字で書けないもの、様々だったが、イーリンはパタンと閉じて懐へと入れた。
「私は、貴方達を忘れない――この戦いが終われば全員に名前を教えるわ。だから死なないで。だから私も、覚悟する」
 イーリンは彼らに、『決死の覚悟で戦え』と命令をした。
 皆頭を垂れ、力強く『御意』と答えた。
 それが、彼女たちの契約である。
 本心は、口には出さぬ。
 その代わりに。
「「『神がそれを望まれる』!」」
 ――その為に誰一人、欠けさせるものですか!

●京炎上
 巨大な生首が表通りを転がっていく。
 軒先につながれ逃げ遅れた馬をがぶりと食いちぎり一瞬にして飲み込むと、正面から向かってくる集団に目をこらした。
「怯むな! 叫べ! マイネーム!!」
「「マイネーム・イズ――!!」」
 イーリン率いる司書隊である。
 あちこちの家屋内に人間が残っていないかとあら探ししていた妖怪たちがわらわらと現れ、司書隊を迎え撃つ。
 対して得物に魔力を流し雷の波をもって払うイーリン。この土地で覚えた『波濤魔術(偽)・雷返し』である。
 両翼の鉄砲隊がそれに続いて乱射を仕掛け、着弾を確認したと同時に笛を鳴らす。
 まるで統一意思をもった生物のように一糸乱れぬ反転をみせた司書隊は一目散に後退。
 それを追いかけ妖怪たちが走り出す――が、そうしてたどり着いたのは両脇を高い塀に囲まれた十字路であった。
 両脇の道より待ち構えていたマリア隊とシルキィ隊。
「力の限り、敵を仕留めろ。感電や体勢不利を蒔いた後なら、各々の攻めもより効果的に、なる。
 倒した分だけ、失う命を食い止められる。
 全力で戦い、全霊で生き延びろ。お前達も、梅久騎兵隊も、この場で終わる暇などない、ぞ」
 エクスマリアが号令代わりに放った『光翼乱破』の術式と共に、向かいから突っ込んだシルキィの『チェインライトニング』が重なり妖怪たちを十字路中央に足止め。そこへ二部隊の兵たちが一斉に斬りかかることで妖怪たちをすりつぶしていった。

「呂参地点にて敵軍撃滅。被害軽微!」
「司書隊、マリア隊、鬼蚕隊ともに健在。指示を請う!」
 ハイテレパスその他の様々なスキル連携によって情報が伝わってくる。
 その中心にいるのはシャルロッテだった。
 高台より街を見回しつつ、机には将棋盤。変わった文字の彫られた駒をパチパチと並べながら、シャルロッテは小さく笑った。
「統率のとられていない、人を殺戮するためだけの怪物。……なら、誘導は容易。そして地の利はこちらにあるために、奇襲もまた容易。
 必要なのはそれを可能にするための情報と集計。そして伝達、だ」
 爆弾を抱えて飛び込むだけが戦争じゃあないよ。と、シャルロッテは新たな駒を配しながら言った。
 それを見て振り返り、最適化した情報を呼びかける兵。
「八咫烏隊、鬼獅子隊へ、保伍地点!」

 天空にて陣取る偵察兵からの伝達をうけ、八咫烏隊エレンシアはギラリと笑った。
 通りを馬で駆け抜け、豪快にカーブ。
 進行していた人面虎の一団がそれを認めて吼え始めた。
「ッハ! 数ではこちらが劣る戦か。いいねぇ!
 高々妖怪風情が調子に乗りやがって!
 面白れぇ、まとめて叩き潰して思い知らせてやらぁ!」
 槍を頭上で振り回し、先陣を切って突っ込むエレンシア。
 それを真っ向から迎え撃とうと走り出す人面虎たち――の真横から。
「さあ行こう、絶対に避難所には通さねぇし、俺らも死なねぇ。
 やられる前に全部ぶった斬ってやらぁ!!」
 民家の屋根に待ち伏せていた獅門たちが跳躍。
 大太刀を大上段からたたき込み、人面虎の首を切断。更に広範囲に向けて爆弾が投下される。
 不意打ちを受けた形となった人面虎たちが崩れた所へ今度こそエレンシアの部隊が突入をかけた。

 その一方では。
「マイネェェェェムイズソアァ!」
 虎にまたがったソアが隊を率いて人面鴉の集団へ攻撃をしかけていた。
 広いエリアで雷の爪と暴風を振り回し、虎の機動力を生かして妖怪たちの間をかけまわる。
 笛の音が聞こえた途端に一斉にターンし、小道へと逃げ込んだ。
 それを追いかけスピードをあげる人面鴉たち――を待ち受けていたのは民家や馬小屋に身を潜めていた利香の部隊であった。
 壁を破壊しながら飛び出した彼らは妖怪たちを切り裂いていく。
 有効打を与えて敵部隊を半壊させると、利香は魔剣グラムを振りかざしてすぐさま撤退命令を下した。
「裏の抜け道を使うわよ、ポイント虎で合流!」
「「応!」」

 ――碁盤が湧いておる。
 そう、伝令役の兵士は都上空を羽ばたきながら思った。
 格子状にきっぱりとひかれた道のなか、ごく少数ながら米俵や瓦礫を用いたバリケートがおかれ、時にはそこへ誘い込むように妖怪たちがなだれ込んでは周囲に配した部隊が圧していく。
 戦とは大群に向けて叫びながら大勢で突撃するものと相場を決めていた彼らにとって、この光景はひどく新鮮で、そして画期的なものだった。
 いわゆる――ゲリラ戦、である。
「これが、生き残る戦い……か」
 されど数の差が消えるわけではない。
 ぶつかるたびに兵は徐々に摩耗し、勢いは衰えていく。
 そしてそれを見越したかのように、大物は現れた。

●ジンカン入道
 長屋がつま先の一蹴りで粉砕し、屋根をまたいで巨人が歩く。
 それまで民家から頭一つ出る程度の大きさだった妖怪が、いつの間にやらさらなる巨大化を果たしていたのだ。
 巨人は頭を箱のようにぱかりとひらくと、脳が入っているべき場所から大量の餓鬼を召喚。
 まっすぐに避難区域へと進行していく。
「これは……ちょっとマズいわね」
 利香は星花火を天に放り投げ知らせを送ると、餓鬼の群れめがけて部隊を率いて突撃した。次々にしがみつき、膨れた腹を爆発させる餓鬼たち。
 勇猛果敢な騎兵隊といえど、その猛攻に晒されればただでは済まなかった。
 次第に飲み込まれていく利香隊……しかし。
「待たせたな! 八咫烏隊、突っ込むぞ!」
「遅れをとんなよ鬼獅子隊! ここが男の見せ所ってなぁ!」
 餓鬼たちをエレンシアの槍が何匹も同時に貫き、振り払う動きで民家の壁に叩きつける。
 連鎖する爆発を背に、獅門の大太刀が餓鬼を三匹まとめてぶった切っていった。
 更に、上空や屋根の上から次々に飛びかかる般若面の兵士たち。
「さあ今まで我慢してきたご褒美だ!!
 難しい事は言わん、突撃、突撃、突撃しろ!!!
 我々の為に出来上がった据え膳だ!」
 シャルロッテの温存した偵察部隊である。
「ちょっと、こんな投入のしかたして大丈夫なの? あの巨人は!?」
 餓鬼を切り払い、至近距離の爆発にも関わらずほぼ無傷で乱れ髪を整える利香。
 車椅子で彼女の横に並んだシャルロッテは首をかしげた。
「問題ない。見なよ」

 屋根から屋根へ飛び移る虎。その背にまたがるは、ソア。
 そのまた横を、エクスマリアが走っていた。
「命を捨ててでも、引かず戦う。良い覚悟、だ。良い兵士、だ。
 だが、それだけでは、足りない。死んで終わる程度では、戦は、止まらない。
 まだ、お前達には、生き抜いて貰う。それを望む、声がある」
 鉄砲隊による射撃がジンカン入道を襲い、飛びかかったエクスマリアとソアはその巨体を爪や変幻自在の髪を用いて無理矢理よじ登っていった。
 心臓部に近い位置まで登ると、エクスマリアは雷の球体を、ソアは雷を纏った爪をそれぞれ叩きつける。
 ボンッという爆発音と共に胸が破裂し、ジンカン入道は膝を突いた。
 剥がれ落ちていく肉。ぼたぼたと流れる肉を自ら払い落とし、ジンカン入道は巨大な髑髏となって強引に走り出す。
 目指すは一路、避難区域。
「童女(わっぱ)! やはりここが、死に場所ではあるまいか」
 梅久は馬を駆りながら巨大な髑髏を追いかけ始めた。
 そこへ併走するイーリン。
「誰もが生きよ生きよ長生きせよと言う。だが長く生きて何になる。我らは戦って死ぬのが生涯であり定め。それが長引いたとて、何が……」
「さて、なんでしょうね。あなたはもう知ってるんじゃないかしら」
 イーリンが振り返ると、グランディスが小さく頷いて返した。
「名乗りなさい」
 髑髏を指さし、梅久へと顎をしゃくる。
 梅久は話をやめ、十文字やりを振り回しながら馬ごとターン。
 そして。
「マイネエェェェェェェェェェェェェェムイズ、『鬼刑部』――」

「「梅久ァッ!!!!」」
 背後より響く無数の声に、梅久はハッとして振り返った。
 続く声はバラバラだが、どれも誰かの声だった。
 避難所より響く、民の声である。
 声援、である。
「貴方の命に私達の命も賭ける。突っ込むのは、一緒に勝つ時。即ち勝鬨よ」
 『わかるでしょ?』そう首をかしげてみせるイーリンに、梅久はハハッと声をあげて笑った。
「素敵滅法――グレイトフル也ッ!!」
 仮面の下で笑ったのを、確かにイーリンは感じた。
 イーリンもまた薄く笑い、『カリブルヌス・改』を解き放つ。
 必殺技? 否、必殺につなげるための技――つまり、『詰め技』である。
 直撃をうけた髑髏が思わずその場に膝を突き、妖気によるガードが剥がれ落ちる。
 そこへシルキィの鬼蚕隊が到着。
「決めるよぉ、皆!」
 部隊が広く展開し、シルキィの糸を複雑怪奇に張り巡らせていく。その糸が一斉に炎をあげ、髑髏をがりがりと切り裂き始める。
 梅久隊、そして残存したすべての部隊が髑髏へ集中し、そのすべてのリソースを一斉にたたき込んでいく。
 そうしてできあがった巨大な炎柱が、勝利ののろしとなったのである。

●忠
 未だ炎の消えぬ街を、騎兵隊が走って行く。生き残った民や仲間を回収するためだ。
「あのときの問いに、答えよう」
 槍を地につき、燃える都を見つめる梅久。
 その隣で、イーリンは黙っていた。
「我は、民に忠を尽くす」
「それってすごく難しいことよ?」
「……努力する」
 グッと拳を突き出してみせる梅久に、イーリンは拳を打ち付けることで応えた。
 そして。
「気づかせてくれたこと、感謝するぞ――」
 梅久は、イーリンを新たな名で呼んだ。

成否

成功

MVP

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女

状態異常

なし

あとがき

 ――百鬼夜行の壊滅を確認しました
 ――避難所の民は無事に守られました
 ――梅久騎兵隊の追加損失は軽微に抑えられました

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