シナリオ詳細
新婚夫婦を強奪せよ
オープニング
●バシータへの逃避行
幻想北部、城塞都市ロシーニ・クブッケ。その街中を若い男女が一頭の馬の背に乗り、城門に向かって疾駆させていた。
「ちっ、新婚の夫婦か……止まれ!」
城門を守る衛兵達の一人は、馬の背に乗っている者達を見ておおよその事情を察した。このロシーニ・クブッケでは領主が初夜権として、新婚夫婦の新婦を新郎よりも先に抱くのがまかりとおっている。馬上の男女は、それを嫌った夫婦なのだろう、と。
とは言え、白昼堂々の城門突破など許すわけにはいかない。ましてや、それが初夜権から逃れようとする夫婦とあっては。初夜権を逃れようとする男女は決してロシーニ・クブッケの外に出さないよう、衛兵達は領主に厳命されているのだ。
故に、衛兵は馬の進路を塞ぎ、馬上の男女に向かって止まるよう叫んだ。だが、大切な妻を領主の手から守ると覚悟を決めている男の前には無意味だった。男は意を決した表情で鞭を振るい馬の尻を叩き、馬を止めるどころか加速させた。女は振り落とされないよう、男にきつくしがみつく。
全速力で迫ってくる馬の前に立ちはだかるなど、並の衛兵に出来ることではない。恐怖に道を開けてしまった衛兵達の、止まれ、止まれと言う叫びが虚しく響く中、男女を乗せた馬は城門を強行突破した。
「ええい、おのれ……! あの馬を、追うぞ!」
一人を領主への連絡役とすると、衛兵達は馬に跨がり男女を追った。
「もうすぐ、バシータだ……何とか、逃げ切るぞ……」
逃避行の最中、男は後ろを振り返り、衛兵達からの距離を確認する。追いつかれはしないものの、引き離すことも出来ない。だが、二人が目指すバシータまではもうすぐだった。
二人が近隣の他領のうちバシータを目的地とした理由は、領主が女性であることだ。故に、妻に対して初夜権を求める可能性はほぼ皆無であろうし、上手くすれば庇護を得られるかも知れない。
そして、バシータ領まで入ってしまえば、衛兵達はそれ以上の追跡が不可能となる。武装した兵士が他の領主の領土に入ると言うことは、領土を侵犯する意志があると見られても仕方ない。相手次第では、領主同士の私戦に発展してもおかしくはなく、衛兵達の独断でそんな事態を引き起こすわけにはいかない。
やがて領境を超えてバシータ領に入った二人は、後ろを振り返ると、衛兵達が領境を超えて追ってこないのを確認する。そのまま衛兵達が見えなくなるまで進んだところで、二人は馬を休ませると、互いにきつく抱きしめ合いながらバシータまで逃げ切れたことに安堵の笑みを浮かべるのだった。
●女領主の一計
「今回の話は、他言無用で頼むぞ……さて、お前達は、『初夜権』と言うものを知っているか?」
領主の館の応接室で、『バシータ領主』ウィルヘルミナ=スマラクト=パラディース(p3n000144)が目の前のイレギュラーズ達に向けて切り出した。初夜権を知る者と知らないものとで反応が別れたのを確認すると、ウィルヘルミナは続ける。
「男女が結婚する際に、権力者が新婦を新郎よりも先に抱ける、と言う権利だ。
下らん権利ではあるが、これを巡って隣の領主と厄介なことになっていてな……」
初夜権を嫌ってバシータに入った夫婦の引き渡しを、ロシーニ・クブッケの領主が求めているというのだ。しかし、元々初夜権など存在しない異世界の出身である上に、軍人上がりとは言え自身が女であるウィルヘルミナとしては、初夜権などというものを認める気はなく、引き渡しに応じるつもりはない。
だが、ロシーニ・クブッケの領主は強硬であった。引き渡しに応じなければ、一戦交えてでも夫婦を取り戻すと言う。ロシーニ・クブッケの兵力はバシータの兵力を大きく超えており、これをただの脅しと断じてしまうのは、万一を考えると危険だ。そして、領土が鉄帝に近くそちらに備えねばならないウィルヘルミナとしては、こんなことで兵力を損ねるわけにはいかなかった。
「……とは言え、唯々諾々と要求を飲んでその夫妻を引き渡すのも業腹でな。そこで、一計を案じた」
ロシーニ・クブッケとの私戦を回避するために、ウィルヘルミナはロシーニ・クブッケの兵達に夫婦を引き渡す。そして夫婦を連れたロシーニ・クブッケの兵達がバシータ領を出たところで、イレギュラーズ達がその一行を襲撃して夫婦を奪い、バシータに連れ帰る。それが、ウィルヘルミナの案だ。
バシータ領の外で夫婦が奪われたなら、それはロシーニ・クブッケの兵達の落ち度となる。仮にウィルヘルミナの関与が疑われたとしても、公には要求に応じて夫婦を引き渡している以上、そんなことをする意味がないし、それなら最初から引き渡しに応じていないと反論出来る。
「件の夫婦も、襲撃役が特異運命座標ならと言うことでこの案を了承してくれている。
お前達に汚れ役をさせてしまうのは心苦しいが……どうか、この役目を頼めないだろうか?」
夫婦を守り、かつ戦を避けるとなれば他に手段はないのだろう。ウィルヘルミナは深々と頭を下げて、イレギュラーズ達に対して依頼への参加を乞うた。
- 新婚夫婦を強奪せよ完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月31日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●待ち受けるイレギュラーズ達
初夜権を嫌って逃れた夫婦を巡る、ロシーニ・クブッケとバシータの間の交渉では――交渉と言うよりも、一方的な恫喝と言うべきものであったが――バシータが折れることになった。夫婦が逃れて数日後の正午、領境にてバシータ領主が用意した馬車ごと、夫婦はロシーニ・クブッケの兵士達に引き渡される。
だが、領境からしばらく離れてバシータ側の姿が完全に見えなくなった辺りには、バシータ領主から依頼されたイレギュラーズ達が夫婦を強奪して連れ帰るために待ち受けていた。
夫婦を乗せた馬車と兵士達の一行が遠目に見えると、『清楚にして不埒』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は馬車へと使い魔であるねずみのカットを走らせる。実のところ知恵を持つホムンクルスであるカットは、無事に馬車の中に侵入して、主人に持たされた手紙を渡した。
「このねずみはきっと貴方達を守ってくれるし、必ず助けるから絶対に無茶をしないで」
バシータ領主と示し合わせたとおりに、間違いなくイレギュラーズ達がいる。その確信を得られた夫婦は、ひしと抱きしめ合ってイレギュラーズ達の襲撃を待った。
(まったく、初夜権とか悪趣味とゲスにもほどがある! クソ貴族共、全然変わりゃしない……。
王様とガブさんにきつく言って貰わなきゃね!)
そのミルヴィの、初夜権とそれを振りかざす領主への憤慨は激しかった。
(ま、その前にしっかりとっちめてやるからサ。覚悟しとけよ…!)
ロシーニ・クブッケの一行を待ちながら、ミルヴィは昏く笑う。
「領主としての云々は理解可能な脳無だが、愛を阻む『所業』など壊し尽くすべきと説く。
解かれた質感は酷く皴塗れ、しかし融ける事赦されぬ大壁だろう。
ならば體壁たる私が『貴様等』に魅せて邪ろう。牢を破る為に必要なのは恋獄の炎に違いない」
三メートルの巨体を持ち、全身が黒一色の『メリサス街道の三日月悪魔』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)も、ミルヴィの横で赤い口を見せながら笑ってみせる。
「くだらねえ事してやがる。ロシーニ・クブッケの領主をぶっ殺してやりてぇよ」
『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)の憤りは、特に激しい。その理由は、ロシーニ・クブッケの領主が初夜権を振りかざすだけでなく、他領の領主を武力で恫喝したことにもあるのだろう。
「だが、まずは夫婦を助けるとするか。そうすりゃクソ領主の鼻を明かしてちったぁ溜飲も下がるかもな」
とは言え、依頼はそこまでは求めていない。だが、依頼を成功させるだけでも気は晴れようというものだ。「クソ領主」がどんな顔をするかを、ルカは楽しみにすることにした。
「初夜だかなんだか知らねーですが、他人のものを勝手に奪おうなんてのは身勝手な方でごぜーますねー」
『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)の言葉は棒読みで、言うほどの嫌悪は感じられないように見える。だが。
(本当ならその方を始末……いや、イーゼラー……様に捧げてやりてーですけど、今回はそれが目的じゃないですからねー。
代わりに奴の息がかかった兵士共を始末しましょー。そうすれば目的も達成出来ますしねー)
内心では、ひどく物騒なことを考えていた。後に、生き残った兵士達は恐怖と共にピリムの事を領主に報告することになる。
(初夜権か。いたずらに反感を生むばかりの下らん権利だ)
初夜権をそう断じたのは飛燕(p3p009098)だが、飛燕は初夜権の是非を論じるつもりなどない。
(夫婦を連れて来いと言われれば連れて行こう、逃がせと言われれば逃がそう。
それが任務ならば)
繰り返される戦争の中で、厳しい掟以上に徹底したプロ意識で「忍」として働いてきた飛燕にとって、任務こそが全てであった。そして、今回の依頼が夫婦をバシータに逃がせというものであるから、飛燕としては逃がすまでなのだ。
(初夜権、ですか。
拙の居た世界でもそういった物が存在した、らしい、という話は聞いた事はありますけれど……。
此処には此処の法が、ルールがあるのはわかります。納得するかどうかは別として)
軍馬に跨がる『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)は、内心で独り言ちる。複数の異世界が襲来してきた異世界から混沌に召喚されたにとって、ロシーニ・クブッケ独自の制度があるのは理解出来る。故に、ステラは初夜権自体は非とはしない。ただ、この夫婦のように納得出来ない者が出るのもまた理解出来る話だった。
(初夜権ですかぁ、あれ何のためにあるんでしょうかねぇ)
初夜だろうがそうでかなろうが気にしない鏡(p3p008705)としては、初夜権と言うものは理解しがたいものだった。だが、今はそんなことはどうでもいい。
(ま、依頼にかこつけて好きに人が斬れるなら、誰が得しようが損しようが構いませんよぉ)
鏡がこの依頼に参加したのも、依頼を大義名分に兵士達を斬るためだ。そして、官能的な快楽を得られる斬殺の時間は、もうすぐそこまで迫っているのだ。これから味わう快感を想像し、鏡は陶然とした笑みを浮かべた。
一行の最後尾では、『紅擁』ワルツ・アストリア(p3p000042)が初夜権への憤りを露わにしている。
「……ったく、最低ね。新婚の幸せを粉々にする様なルールがまかり通ってるだなんて。
こういう理不尽を跳ね除ける為に、力を望んだってものだわ!
全力を尽くすにはこの上ないミッション、思う存分仕事させて貰うからねっ!」
得た「力」の象徴とも言える大口径スナイパーライフル『Cauterize』の銃身を撫で、ワルツは「仕事」の時を待った。
●兵士達は敵たり得ず
馬車と兵士の一団が来るのを発見したイレギュラーズ達は、襲撃を開始する。
「どうもぉ、この馬車もらっても?
あ、返事はいいですよぉ──もうアナタ死んじゃってますのでぇ」
最初に動いたのは、鏡だ。加速装置『疾風り伝説~流星一条~』をフル稼働した鏡は、まさに疾風となって瞬く間に馬車の御者に接近し、心臓に刀を突き立てて殺めていた。鏡が問うた時には、御者は口から血を吐き、ぐらり、と横に傾いて馬車から落下していた。
「――は、ぁ」
ゾクゾクとした快感が、鏡の背中を駆け上る。
「皆さんにはなーんの恨みもごぜーませんが、私達の目的の為、私の趣味の為………あぁついでにイーゼラー様の為、始末されてくださいましー」
「ぎゃああああっ!」
「ぐあああああっ!」
御者が殺され、兵士達が鏡に意識を向けた瞬間。兵士長の右後方にいた兵士二人が、ピリムの妖刀『斬脚緋刀』で、太股の上部から下を斬り取られた。脚を奪われた兵士達は悲鳴を上げながら、バランスを崩して落馬する。
「まず二本ー、頂きですねー」
抑揚のない、間延びした口調で満足そうに笑うピリムの姿に、兵士達は恐怖する。
それでも状況を把握し、部下に指示を出そうとした兵士長だったが、果たせずに死んだ。ルカの放った黒く大きな顎が、バリボリと兵士長を噛み砕いてしまったからだ。
「……ちっ、タイマンにもなりゃしねえ」
まさかリーダーがこんなに呆気ないとは思わず、ルカは舌打ちした。しかし、それも仕方のない話なのだ。ルカの放つ黒顎魔王の威力は、まともに決まれば中堅クラスのイレギュラーズさえ戦闘不能に陥れかねない。それを一地方領主の兵士長程度が、耐えられるはずもなかった。
「ちょっと! やり過ぎだよ! 殺すことは無いじゃない!」
兵士長にスーパーミルヴィ☆キックを食らわせてやろうと思っていたミルヴィは、襲撃早々に二人が死亡し、一人が脚を切断されるという惨状に抗議の声をあげた。しかしルカはともかく、鏡とピリムは明らかに故意であり、聞き入れる様子はない。
ハイ・ルールがある以上、依頼の達成が最優先であり、実力で鏡やピリムを止めるわけには行かない。ミルヴィはもどかしく思いながらも、馬車の左側に回り込み、肉感的な肢体を見せつけるように踊る。
情欲に囚われた兵士五人がミルヴィに迫らんとするが、それは阻まれた。
「己が成せるのは『肉壁』で在る事よ。改めて『貴様等』を強奪する――胸にも脳にも刻むが好い【メリサス街道の三日月悪魔】とは私の異名よ。Nyahaha!!!」
オラボナが夫婦に向けて高笑いしつつミルヴィの前に躍り出て、壁となったからだ。黒い巨体に兵士達の槍が突き刺さる。
「人間どもめ。その程度ではこの『肉壁』は貫けんぞ。Nyahaha!!!」
だが、オラボナにとってこの程度痛くも痒くもないものであった。悠然と、オラボナは高笑いを続ける。
ステラは軍馬を駆り、馬車へと突入する。兵士長は死に、その右後方の兵士は足を奪われ落馬して戦闘どころではない。馬車左側の兵士はミルヴィに集中しており、ステラから馬車への道を遮る者はいなかった。
「馬には可哀想ですが……」
ステラは馬車の前に到達すると、下馬しながら黒顎魔王を放つ。黒く巨大な顎は、落馬した兵士達のすぐ後ろにいる兵士の馬を狙って噛みつかんとする。それに驚いた馬は、急に後脚で立ち上がった。その背に乗っていた兵士は敢えなく落馬し、身体を噛み砕かれていく馬の悲鳴が響いた。
(うちの前衛陣は傑物揃い、なんて思ってたけど、何か凄まじいことになっちゃってるわね。
でも、私は一人一人確実に撃ち落として仕事するまでよ!)
馬車周辺の状況にやや引き気味になりながらも、ワルツは『Cauterize』を構え、引金を引く。タン、と言う銃声と共に、弾丸がミルヴィに集まった兵士達の一人の、肩口に突き刺さった。
「うぐっ……ぅぁ……」
出血と苦痛に、朦朧とする兵士。だが、この兵士の受難はまだ終わらない。
(まさか、兵士長がまっさきに倒されるとはな。ともかく、今撃たれた兵士から確実に消す)
兵士長を最後に叩くつもりであった飛燕は、目論見とは全く違った展開になったことにやや驚きを覚えつつも、すぐにそれを忘れ去って駆けた。忍の為すべきは、任務達成のため目前の状況に対して最適な行動をすることなのだ。
そして飛燕は、ワルツの狙撃を受けた兵士を確実に消すことを選んだ。その兵士の後背に素早く回り込むと、飛燕は高く跳躍する。そして、魔刀『黒魔』の刀身を背中に突き立てる。その一撃で兵士は意識を失って昏倒し、ドサリと馬から落馬した。
馬車の右側後方の兵士二人は、前に出てピリムに槍を突き立てようとするが、掠り傷を負わせるに留まった。
●ことごとく倒れゆく兵士
鏡とステラは、連携して馬車の護衛に当たる。それはいいのだが。
「こんにちは綺麗な奥さん、素敵な旦那さん。
しばらく騒がしくなりますけどリラックスしててくださいねぇ。
……あぁ何でしたら、その中で少し早めの初夜を迎えててもいいですよぉ」
「……あの、鏡さん?
確かにご夫婦に声を掛けるのは、安心して頂く為にも良いかもしれませんけど……。
その、そういうのは、セクハラに当たるのでは……!」
馬車の中の夫婦に声をかけた鏡に対してステラが咎めるが、とてもこんな場所で事を致せようはずがない。人や馬の悲鳴や断末魔が響き、馬車の周囲には血のにおいが漂っているのだ。その上で鏡の顔は御者を突き殺した快楽によって上気しわずかながらも緩んでいるのだから、セクハラ以前の問題だった。
「あなた達の脚も、頂きますねー」
「ぎゃあーっ!」
「いでえよおぉーっ!」
ピリムは、先程突きかかってきた兵士達の片脚を『斬脚緋刀』で斬り落とす。先程脚を斬られた兵士達と同様、バランスを崩して兵士達は落馬し、自らの流した血の中で苦痛にのたうち回った。
「お前らにゃクソ領主に従った責任があるだろ!
本当に嫌なら仕事やめるなり、領を出るなり方法はあったはずだ」
「そ、そんな……」
ミルヴィに集った兵士の一人の腕を掴みながら、ルカはその兵士を問い詰める。しかし兵士とて任務に従ったまでであり、責任と言われては困惑するしかなかった。だが、ルカはその態度を許さずさらに問い詰める。
「簡単じゃねえ事ぐれぇわかってんだよ。
お前さんらは簡単じゃねえからって、簡単な方に流されたんだ。
そりゃあお前自身の選択だ。ならその責任はテメェで取るしかねえだろうが!」
そして、全力でブン、と放り投げた。兵士は空中で放物線を描いてから地面に叩き付けられ、そのまま気絶する。
残る兵士三人は変わらずミルヴィを狙うが、やはりオラボナに阻まれる。
「如何した、人間どもめ。先程と全く変わらんではないか。Nyahaha!!!」
三本の槍がオラボナの巨体に突き刺さったが、先程と同様に何の痛痒も感じないとばかりに、オラボナは高笑いを響かせた。
(本当は隊長に食らわせてやるつもりだったけど、これで早く終わらせた方がいいよね)
戦闘に時間をかければ、兵士達はますます殺されたり足を奪われたりしてしまう。自身への攻撃をオラボナに庇ってもらったミルヴィは、オラボナの膝に脚をかけ、三角跳びの要領で跳躍する。
「――天罰覿面ッ! ミルヴィきーっく!!!」
そして空中で身体を捻ると、兵士の一人の鳩尾に高速の二段蹴りを叩き込んだ。兵士は身体を「く」の字に曲げて馬の背に倒れ、そのまま昏倒した。
「二人目、撃ち飛ばすわよ!」
一人目への狙撃を成功させたワルツの心中には、紅い焔が燃え滾っていた。紅擁状態と言う、ワルツのギフトによるものだ。勢いに乗ったワルツは、ミルヴィの前の兵士の片方に向けて再び『Cauterize』の引金を引く。
放たれた銃弾は二人目の兵士の肩口に着弾し、今度は兵士はすぐに昏倒して落馬。
「もうちょっと、アゲたかったかな」
ワルツの心中の紅焔はますます燃え盛っていたが、これで終わりなのがワルツにとっては少し残念なところであった。
(これで、こちら側は終わりだな)
あとは右側で落馬している兵士が残っているが、鏡か、そうでなければピリムが片付けて終わりだろう。もっとも、依頼は夫婦をバシータに連れ帰るまでであり、飛燕としてはまだ油断は出来ないし油断するつもりもない。
ともあれ、ミルヴィの前の最後の兵士に対して、飛燕は先程同じようにその後輩に回り込んでから跳躍すると、背中に魔刀『黒魔』の刀身を突き立てる。そして『黒魔』の刀身を引き抜かれた兵士は、背中から滝のように血を流しつつ落馬した。
最後に残った兵士は、飛燕の予想どおり鏡に斬殺された。
●バシータへの帰路
戦闘は終わったが、昏倒した兵士を殺めようとする鏡と、生死問わず兵士の脚を斬り取って持ち帰ろうとするピリムに対し、それを止めたいミルヴィとの間で一悶着が起こった。
この対立は他のイレギュラーズ達が間に入り、鏡はそれ以上殺さない。死体の脚はピリムが持ち帰るのを許容すると言うことで決着する。
昏倒した兵士達は拘束された上で、オラボナの神性による治療を受け命を取り留める。そして、ミルヴィが渡した『次はお前だ』と言う手紙と共にロシーニ・クブッケへと返された。
「連れ帰るまでが依頼だ。Nyahaha!!」
と言うオラボナの言葉に、イレギュラーズ達は馬車の頭をバシータへ向けて、夫婦を送り届けにかかる。
(ま、アレだけやれば流石に怖がるだろ)
戻ってきた兵士達の惨状を見て、ロシーニ・クブッケの領主がどんな顔をするのか。それを想像したルカの心は、襲撃の前よりはすっきりとしていた。
(何で私の馬にこんな……)
ピリムを止める際の交換条件として、六本の脚を軍馬で運ばされることになったステラは、歩きながら困惑していた。そして、バシータに帰ったら絶対にお祓いをしようと心に誓う。
(どうせくっついたりしないんだから生きてる兵士の脚も持って帰りたかったでごぜーますけどー、まー仕方ねーですねー)
そのピリムは、妥協を強いられたとは言え六本の脚を持ち帰れることになって、割と喜んでいるようだった。
(邪魔されるとは思ってましたけどぉ、せめてもう少し殺したかったですねぇ。
中途半端に疼いているのをぉ、どうしましょう?)
一方の鏡は、いろんな意味で欲求不満な様であった。
「初夜権なんて振りかざされて、悔しかったね……辛かったね……」
ミルヴィは馬車の中で、夫婦にそう声をかけて慰める。夫婦は戦闘の惨状もあってかやや怯えた様子を見せながらも、うんうんと頷いた。
やがて馬車はバシータに到着し、領主の館にて夫婦とイレギュラーズ達とが別れる段になる。
「結婚、おめでとう。荒々しい祝福になっちゃったけど。
バシータでいつまでも仲良く、幸せにね」
深々とイレギュラーズ達に頭を下げる夫婦に対し、ワルツはそう告げながら笑顔を向けた。その言葉に、夫婦は笑顔を浮かべて頷く。
(――任務、完了!)
夫婦と別れた飛燕は依頼の完遂を確認すると、次の任務を求めて領主の館を辞していった
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
シナリオへのご参加、どうもありがとうございました。皆さんのおかげで、夫婦は無事にバシータへと連れ戻され、ロシーニ・クブッケの領主の手から護られました。すごいことになってたような気はしますが。
どうも、お疲れ様でした。
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。今回は、領主の初夜権を拒んでウィルヘルミナの元に逃れた新婚夫婦を守って下さいますようお願いします。領主の兵の一行を襲撃する役回りであるため、この依頼は悪属性となります。
●成功条件
夫婦をロシーニ・クブッケの兵達から強奪し、バシータ領内に連れ帰る
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
バシータ~ロシーニ・クブッケ間の街道。道は平坦で障害となるものはありません。天候は晴れ。
襲撃のタイミングは引き渡しから24時間以内の範囲でイレギュラーズ達に任されていますが、夜ですと戦闘を行うには暗視が必要になります。
なお、夫婦の引き渡し自体は正午に行われます。
●兵士長 ✕1
ロシーニ・クブッケの兵士達のリーダーです。馬に乗っています。
実力はそれなりに高く、中堅クラスのイレギュラーズ相当です。
一行の中では、先頭に位置しています。
装備は槍、円盾、革鎧。サブウェポンとして剣。
●兵士 ✕10
ロシーニ・クブッケの兵士達です。こちらも馬に乗っています。
実力は新人イレギュラーズに毛が生えた程度です。
先頭の兵士長と合わせて、馬車をぐるりと囲むようにして移動しています。
装備は槍、円盾、革鎧。サブウェポンとして剣とクロスボウ。
●使者 ✕1
ロシーニ・クブッケからの使者です。後述する馬車の御者をしています。
戦闘能力はありません。
●夫婦
初夜権を嫌ってバシータに逃れてきた新婚夫婦です。ウィルヘルミナが馬車を用意しており、その中にいます。
馬車は外見だけの張りぼてで、素材が脆いため、イレギュラーズ達がその気になれば簡単に壊せます。
なお、馬車を引く馬は駄馬です。兵士を全員倒すのでなければ、馬車ごとの逃走は難しいでしょう。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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