シナリオ詳細
逢魔ヶ時の森。或いは、団子はいずこに迷うのか…。
オープニング
●逢魔ヶ時の神隠し
豊穣のとある峠茶屋。
忙しない日々の合間に訪れた、ほんの僅かな憩いの時。
熱い茶などを啜りつつ黒影 鬼灯 (p3p007949)は、秋の風と金木犀の香りに包まれ沈黙していた。
その腕の中には穏やかに目を閉じる人形“章姫”の姿。
「あら~、かわいい寝顔ねぇ」
うふふ、と微笑むアーリア・スピリッツ (p3p004400)がそっと章姫の頬へ指を伸ばした。
その手の前に、そっと自身の手を割り込ませ鬼灯は閉じていた片目を開く。
「アーリア殿、眠っているので……」
「あら~、ごめんなさい」
怒られちゃった、と悪戯っぽく舌を出しアーリアは手元の杯に視線を落とした。
透き通った透明な酒。
甘くすっきりとした飲み口が特徴の豊穣の酒だ。
「自然は豊かで、食事も美味しい。いいところだね、豊穣は。眠たくなるのもよくわかるよ」
くすりと笑みを零した錫蘭 ルフナ (p3p004350)は、遠くの山へと視線を向けた。
この辺りは豊穣でもひと際に自然の豊かな区画なのだ。
「少し妙な気配もするけれど……平和よね」
茶屋の前を行き交う人々を眺め逢華 (p3p008367)はそう呟いた。
風に揺れる紺の髪をそっと抑え、吐息を一つ。
そんな逢華を一瞥し、リオーレ (p3p007577)はパチンと指を弾いた。
「お呼びでしょうか、坊ちゃま」
果たしてどこから現れたのか。リオーレの背後に執事服を纏った老爺が現れた。
リオーレに仕える“爺”と呼ばれる執事の男性だ。
「うん。彼女の言った“妙な気配”が気にかかるんだよね。何か知らない?」
「然様でしたか。それはおそらく“逢魔ヶ時の森”のせいではないでしょうか?」
「なんだい。それ? 楽しそうだね」
爺の言葉に反応を示すランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)が、僅かに身体を乗り出した。
“逢魔ヶ時の森”という名に好奇心が疼いたのだろう。
「この辺りの森の通称ですな。正確には、森で起こる異変のことを指してそう呼ぶそうですが。なんでも、森の中で突然に周囲が暗くなるのだとか。それはまるで夕暮れ時の空のように、僅か数メートル先に居る者の顔付きさえも分からないほどだとか」
夕暮れ。黄昏。誰ぞ彼。
昼と夜の境の時間には、魔が出るという。
魔物に逢う時間……ゆえに逢魔ヶ時。
「魔に魅入られた者は、そのまま帰ってこられないとか……」
「はぁん? そりゃなかなか面白そうだ。よし、噂を確かめに行ってみるかい?」
なんて、冗談めかして伏見 行人 (p3p000858)はそう言った。
彼のこの言葉が、冗談では済まなくなるなんて、この時は誰も予想だにしていなかった。
●暦への依頼
音もなく、その男は茶屋の前に現れた。
黒衣の忍装束に身を包んだ青年だ。
「頭領。それに奥方も。ちょうど良いところに」
鬼灯の前に膝を突き青年は告げた。
忍集団『暦』の“水無月”。
鬼灯の部下にあたる鷹匠であり、暦一の秀才と謳われる忍であった。
「水無月か。わざわざお前が来るとは、何か大事でもあったか? それに流星も一緒とは」
鬼灯がそう告げると同時、水無月の背後に黒衣の少女が降り立った。
齢14になる若き忍であり、水無月直属の部下だ。
「頭領。先ほど、暦に依頼が舞い込みました」
「読み上げろ」
「はっ」
短く言葉を返し、流星 (p3p008041)は懐から1本の巻物を取り出す。
「依頼の内容は人……探しとなるでしょうか。子供達が遊んでいる最中森の中に迷い込んでしまったので、見つけ出してほしい。プチトマトやスライムに異物混入する前に早く立派な団子に戻してやらないと……とのことです」
「……………………………は?」
長い長い沈黙の後、鬼灯はやっとのことでその一言を絞りだした。
話に耳を傾けていたイレギュラーズの面々も、同じようにぽかんとした表情を浮かべていた。
そんな一同の顔を見渡し、水無月は深く頷いた。
「依頼人は……団子だ」
「団子? 妖の類か?」
「……いや。すまない頭領。そこまではまだ不明のままだ。だが、報酬として団子の食べ放題を提示されている」
『ならば、行くしかあるまいよ』
水無月の言葉を継いだのは、彼の肩に停まる鷹であった。
鷹の名は“ナナシ”。水無月の相棒である。
- 逢魔ヶ時の森。或いは、団子はいずこに迷うのか…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月08日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●逢魔ヶ時の森
豊穣のとなる森の中。
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は頭上を見上げ、吐息を零す。
「暗くなった? これが逢魔ヶ時というやつか?」
昼間だというのに空は暗く……否、ランドウェラたちの周囲は気づけば闇に包まれていた。口元に笑みを浮かべた『精霊の旅人』伏見 行人(p3p000858)は興味深げにカンテラを掲げる。
「世界は広いな。こういう事象もあるのか」
カンテラの中で光が踊る。事前に協力を取り付けた光の精霊が踊っているのだ。
「ひっ……さ、さっきまで明るかったじゃない!?」
表情を強張らせた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が、おそるおそると暗闇の中で手を伸ばす。事前の取り決めに従って『小さな王子様』リオーレ(p3p007577)へ助けを求めたのである。
暗闇の中、アーリアの手が白く小さなリオーレの手を掴む。
けれど、その時……。
「まって……リオーレさん、いなくない?」
「……え?」
困惑するアーリアに向け『Felicia』逢華(p3p008367)がそう告げた。
行人がカンテラを掲げ、周囲を白く照らしたところ、なるほどやはり逢華の言った通り、リオーレの姿はそこになかった。
「でも、じゃあ……」
ちら、と自身の手元へ視線を落とすアーリアの顔が青ざめる。
彼女と手を繋いでいた“ソレ”は、まるで闇を塗り固めて作った人型のような“何か”であった。
「い……いゃぁぁ!?」
暗い暗い森の中、アーリアの悲鳴が木霊する。
迷子の団子を探してほしい。
それが依頼の内容だ。
「頭領、木々が邪魔で団子らしい影を頭上から探すのは難しい……代わりと言っては何だが、遠くで“逢魔ヶ時の森”が発生したようだ」
そう告げたのは、黒い装束に身を包んだ忍……忍集団『暦』の水無月であった。
「そうか。急に辺りが暗くなるという話だったが……正直、しゃべる団子に比べるとインパクトに欠けるというか、全然あり得そうというか……」
頭領と呼ばれた黒衣の男……名を『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)と言う。
「迷子の団子ちゃんたちを、はやく連れ帰ってあげなくちゃ!」
その腕に抱えられた人形……章姫が拳を握りそう言った。
そんな章姫の視線を受けて、水無月は1つ頷いた。頭上を舞う鷹……ナナシへ合図を送り、即座に捜索範囲を広げる。
そんな水無月の足元に『黒き断頭台』流星(p3p008041)が跪き頭を下げた。
「師匠! 至らぬ点があろうとなかろうと目一杯ご指導賜りたく!」
その言葉を合図とし、彼女の肩から鷹が飛び立つ。鷹の名は“玄”。流星とは長年苦楽を共にしてきた相棒だ。
ナナシと玄による上空からの捜索と、地上の散策による二面作戦。
迅速に迷子の団子を探し出す心算であった。
志気も高く団子の捜索に当たる暦たちを一瞥し、『森の善き友』錫蘭 ルフナ(p3p004350)は「はて?」と首を傾げる。
「親団子子団子孫団子……ダメだ、理解できない、けど、理解してもいけない気がする。何で皆、あっさり受け入れているんだろう?」
疑問は尽きない。
そもそも団子がしゃべって動くとは一体どういうことなのか。
ルフナにとって団子とは本来食物だ。
今回の依頼の報酬として団子の食べ放題が含まれていることも、ルフナの思考をかき乱す原因の1つであった。
迷子の団子を助け出した報酬が、団子の食べ放題とは一体全体何事なのか。まさか助けた子団子たちを食べることになるのだろうか。
考えれば考えるほどに理解が遠のく。
けれど、しかし……。
「安心せよ、ルフナ殿。俺も正気を失う魔導書の類いでも読まされた気分なのだ……」
ルフナの肩に手を置いて、流星は静かにそう告げた。
とはいえしかし、任務は任務。
納得は出来ずとも、目的さえ判明していれば行動に移ることができる。忍とは得てしてそういうものだ。
一方そのころ、森のどこか。
リオーレは頭を抱えて唸る。
「え、まって……くらいのも、こわいのもヤダっていったけど……1人っきりはもっとヤダよ!?」
つぶらな瞳に溜まった涙は今にも決壊しそうなほどだ。
そんなリオーレの背後では、老執事がハンカチ片手に待機していた。
「坊ちゃん。爺が付いておりますぞ。一刻も早く、皆さまと合流いたしましょう!」
「はっ……そ、そうだね。爺。爺も一緒に行くんだからね? いい!?」
「えぇ、もちろん。爺はいつでも坊ちゃまのお傍に」
と、そのようなやり取りの末、リオーレと爺は仲間を探して歩き始めた。
●迷子の団子はどこですか?
「おい、こっちだ。俺が相手になってやる!」
腰の刀を引き抜いて行人が叫ぶ。
人影が、行人の方へと顔を向けた。
黒い顔に浮かび上がった眼球が、ぎろりと行人を睨みつける。
そして人影は行人へとゆっくり手を伸ばす。
「鈍いな……」
弓を構えたランドウェラが困惑した声をあげる。
人影の動きは鈍く、また行人に向けて腕を伸ばしてはいるものの、そこに敵意や悪意のようなものは感じられない。
行人もまた困惑した表情を浮かべたままに刀を一閃。
抵抗もなく人影の腕が切断された。
周囲の闇に人影の腕が溶けて消える。
「何だ……?」
困惑した表情を浮かべた行人だが、次の瞬間、その頬が歪に引き攣った。
見れば行人の手首を、影の腕が掴んでいるのだ。
肘から先のない黒い腕。よくよく見れば、その腕は周囲を包む闇から伸びているようだ。
「手を離せ」
ひゅん、と空気を裂く音がしてランドウェラの矢が放たれる。
疾駆した矢は正確に人影の喉を貫通。悲鳴をあげることさえなく、人影の姿は霧散した。
直後、周囲を包んでいた闇が晴れる。人影が消えたせいか、それとも時間経過によるものか。とにもかくにも“逢魔ヶ時の森”は終わったらしい。
けれど、しかし……。
「おっと……待ちなよ。僕をご飯だと勘違いするお馬鹿さんにはお仕置きしなきゃいけないんだけど……害を与えに来たわけではないのだよ」
そう告げてランドウェラは弓に第二の矢を番える。
闇が晴れたその直後、行人の姿は消えていた。
代わりにその場に現れたのは、1頭の巨大な熊である
「ぐるる……」
低く唸る黒い熊。首元の体毛だけが白いのは、そういう種類の熊だからだろう。
熊にとっては、突如目の前に数名の人が現れたのだ。困惑は一瞬、即座に熊は戦闘態勢を整える。
「くっ……も、もう大丈夫よぉ」
ランドウェラの威嚇を受けて怯んだ熊の背後に、アーリアが素早く歩み寄る。甘い吐息と囁きにより、彼女は熊を【魅了】したのだ。
動きの止まった熊に向け、逢華は地面を蹴って接近。
腕を振るう動作と共に、熊に閃光を浴びせかける。
「ぐ……るぅ」
閃光に焼かれた熊が白目を剥いた。
ぐらり、とその巨体が揺らぐ。
倒れ掛かる巨体を素早く回避して、逢華はふふんと鼻を鳴らした。
「医療班が攻撃しちゃダメなんて誰が決めたんだろうね。腐っても僕らは”暦直属部隊”だよ?」
パチン、と弾いた指の先で光が散った。
日頃使用する機会の少ない神気閃光を存分に使えて、どうやら機嫌が良いらしい。
「けど、これからどうしましょう? 2人も消えてしまったわよ?」
額に浮いた冷や汗を拭い、アーリアは言う。
リオーレと行人は“逢魔ヶ時の森”によって姿を消した。事前情報にもあったように、2人は森の何処かに迷っているのだろう。
「まぁ、なんとかなるんじゃない?」
困り顔のアーリアとは正反対に、飄々とした様子でランドウェラはそう告げる。
影から影へ。
音もなく疾駆する忍が3名。
鬼灯、水無月、流星に先行し、1頭の柴犬が駆けていた。
つい最近、ルフナが飼い始めた柴犬だ。主の役に立てることがうれしいのだろう。激しく尾を振りながらの団子捜索である。
「柴犬くんが、甘い匂いを見つけたみたいだよ。もしかしたら……」
『迷子の団子かもしれないな!』
「……なんでナナシは団子に食い気味なのさ。ちゃんと水無月さんや鬼灯さんに食べさせてもらってないの?」
頭上を舞うナナシに向け、ルフナは問うた。
ナナシは一瞬、水無月の方へと目を向けて誤魔化すように視線を逸らす。
「しかし、一口サイズの団子。かくれんぼが好きでフィールドが森か……」
「見つけ出すのが大変そうね!」
鬼灯の呟きに、章姫はそう言葉を反した。
章姫の小さな手には光源として燈會が握られている。燈會の淡い光の中に、鬼灯の影が揺らめいた。
柴犬の後を追う一行だが、ふとそこで何かに気づいた流星がはっと瞳を見開いた。
「頭領。水無月殿。すまない、玄が“逢魔ヶ時の森”に飲み込まれた」
「なに……?」
流星に促され、鬼灯は頭上へ視線を向けた。
一行の進行方向にはしかし、逢魔ヶ時の森特有の闇など見受けられなかった。ただ、いつも通りの森が広がっているだけだ。
「どうやら、外部からは“逢魔ヶ時の森”が発生したなど、分からないようだな」
そう呟いた水無月は、ナナシへ向けて合図を送る。
玄の消えた周辺を、窺うようにナナシはぐるりと旋回していた。
「ねぇねぇ、おしゃべりな団子さん、見なかった?」
リオーレの問いに、森の木々はざわりざわりと葉鳴りを反す。
背後で様子を見ている爺には、木々の声は聞こえない。
木の葉が鳴っていたのは、ほんの十数秒ほどだっただろうか。
リオーレは数度頷きを反すと「ありがとう」と晴れやかな笑みを浮かべてそう言った。
「爺、あっちみたいだよ!」
新たな進路を指し示し、そう告げるリオーレの指先は震えていた。仲間たちからはぐれ、森の中に1人きり。
イレギュラーズの戦士とはいえリオーレはまだ齢11の少年。怖くないはずがないのだ。
けれど、迷子の団子を探すため、こうして奮闘している姿に爺はひどく感動を覚えた。
「坊ちゃま、爺は嬉しゅうございます」
白いハンカチで涙をぬぐい、感無量といった様子で爺はそう呟いた。
木肌に刀で矢印を刻み「これでよし」と行人はそう言葉を零す。
逢魔ヶ時の森に飲まれた行人は、自身のギフトにより大まかな現在位置を把握していた。現在は、仲間たちの元へ向かって移動中というわけだ。
そんな行人の耳に、どこか遠くから声が聞こえた。
『おぉい! むかえに来たよ、こわくないよぉ!』
聞いたことのある声だ。
どうやら、先に逸れたリオーレがどこか近くにいるらしい。
「……あっちか」
その声を頼りに歩き始めた行人だったが……。
直後、カンテラの中で妖精が急に騒ぎ始めた。
「何だ?」
妖精はどうやら、何かしらの異変を察知したらしい。
一瞬、思案した行人は妖精の導きに従い進路を変える。
進む方向を木に矢印として刻み付け、行人は森を駆けていく。
●かくれんぼ
猛り狂う猪と、それを狙う巨大な熊とが対峙する。
本来であれば狩場を別とする2種の獣がこうして顔を合わせているのは、偶然などでは決してなかった。
2頭の獣は甘い匂いに誘われて、餌を求めてその場に来たのだ。
餌……それはつまり、木の根元に身を潜めていた4体の団子の子どもたちである。
身を寄せ併せ、震える団子が涙を零す。
『タスケテ! ダレカ、タスケテ!』
食べてもらうのが団子の本懐。
子どもとはいえ、彼らも団子だ。いずれは誰かに食されて、空腹を満たす糧となることは理解している。
けれどそれは今ではなく、そして相手は獣でもない。
希望を言うなら、若い女性に食べれたいのだ。なぜなら彼女たちは、とても美味しそうに兄たちを喰らってくれたのだから。
遊びに出かけたその先で、獣に食われて終わるだなんて、そんなのは嫌だ。
だからこそ、団子たちは声を張り上げ叫ぶのだ。
『タスケテ! タスケテ!』
人気のない森の奥。
その声が誰かの耳に届くはずはないとわかってはいるが、それでも叫ばずにいられない。
手も足もなく、ただ美味いだけの団子に出来ることなんて、それぐらいしか無いのだから。
しかし、けれど……。
「助けを求める声がしたと思ったが……本当に団子がしゃべってるよ。この辺りじゃこれが普通なのか……? いや、周りの困惑具合からするとこれが普通じゃないよなぁ」
諦めずに、叫んだからこそ。
生地も裂けんばかりに声を張り上げたからこそ、奇跡は起きた。
刀を手にした行人は、団子の姿を視認するなり熊へ向けて斬りかかる。
野生の勘か、熊は寸でで刃を交わし、鋭い爪で行人の胸部を切り裂いた。
飛び散る鮮血。衝撃に揺らぐ行人へ向け、猪が突進を慣行した。
だが、しかし……。
『―――――っ!!』
頭上から舞い降りた1羽の鷹が、猪の片目を鋭い爪で斬り付けた。
流星の相棒、玄である。どうやら逢魔ヶ時の森に飲まれた玄は、団子の傍へと迷わされていたらしい。
玄の攻撃を受け、脚を止めた猪に行人は蹴りを叩き込む。
その隙を突いて、熊の爪が行人の肩を切り裂いた。
地面に飛び散る血の雫に、団子の子どもが悲鳴をあげた。
けれど、しかし……。
「みつけた! すぐに回ふくするからね!」
傷を押さえる行人に、淡い光が降り注ぐ。
それはリオーレの行使した【メガ・ヒール】の光であった。
「ボクがいるんだから、安心してたたかってね!」
「リオーレか! おう、よろしく頼むぞ!」
回復役がいるのなら、思う存分に刀を振るえる。団子の護衛をリオーレに任せ、行人は熊に目掛けて斬りかかる。
猛り狂う猪に、襲い掛かるは2羽の鷹。
玄と、玄の知らせを受けて飛翔してきたナナシであった。
さらにナナシの到着から僅かに遅れ、茂みから柴犬が跳び出した。わぉん、と威勢も良く吠え猛る柴犬に猪は一瞬、身を固くする。
その隙に、とばかりに地面を這って伸びた魔糸が猪の脚を絡めとった。
姿勢を低くし、鋭く周囲に気を配りつつ鬼灯は部下へと指示を出す。
「水無月、流星、団子と章殿を頼む。怪我をさせるな」
「任せてくれ」
「了解した、頭領」
個にして群とはこのことだろう。
鬼灯の指示の元、水無月と流星は素早く行動を開始。熊と猪の相手は仲間に任せ、章姫を連れて団子の元へと駆け抜ける。
「団子さん、もうすこしでお父さんとお母さんのところに帰れるのだわ。おうちまで一緒にいましょうね」
流星の腕から降りた章姫が、木陰で震える団子たちへとそう告げた。
涙を零し飛びつく団子を抱き止めながら、章姫は告げる。
「大丈夫。舞台の幕は、きっとすぐに降りるのよ!」
鬼灯の魔糸が猪の首を締め上げる。
猪が絶命するのとほぼ同時に、行人の刀が熊の喉を切り裂いた。
野生の獣の2頭や3頭、彼らの敵にはあり得ない。
「これでお終いだな」
「まて。まだ油断するには早い」
警戒を解きかけた流星を、水無月は短く制止した。
「……ほう、これが噂の怪奇現象か」
いつの間にか闇に飲まれた空を見上げて、鬼灯はそう言葉を零す。
「っ⁉ な、なになに? 何事!?」
突如の闇にルフナは大きな悲鳴を上げる。
視線を左右へと振るが、生憎とどっちを見ても闇ばかり。数メートル先の仲間の顔さえも判然としない暗闇の中、ルフナは背後に何かの気配を感じて叫ぶ。
「あぁああああ!! そ、そっちが逢魔ヶ時の森ならこっちは澱の森だし?!」
直後、ルフナの全身から膨大な量のマナが溢れた。
きらきらとした新緑色の燐光が、闇を飲み込み掻き消していく。
そうして姿を現したのは、ルフナの故郷である「澱の森」の光景だった。闇を掻き消し、森が顕現した刹那、ルフナの背後で黒い人影が掻き消えた。
逢魔ヶ時の森が消えるとともに、正体不明の“何か”もまた、どこかへ姿を消したのだ。
「た、たすか……った?」
闇が消えたのを確認し、ルフナは唖然とした表情で、呆けたようにそう呟いた。
団子を見つけ、合流するなりアーリアはリオーレに抱き着いた。
「もう大丈夫よぉ。もう迷子にならないように、安全な所に避難……」
と、そこまで言って言葉を区切る。
暗い森の中、安全な場所など何処にあるのか。そう考えたアーリアは、ふと自分の胸もとへと視線を落とした。
「まぁ、これで任務は完了だ。早く親団子の所へ帰ろう」
これ以上、何か起きる前にな、と。
そう言ってランドウェラはリオーレの手にこんぺいとうの瓶を持たせる。
こんぺいとうに興味を持った団子たちが寄って来るのを、何とも言い難い表情でランドウェラは見下ろしていた。
森を抜けた一行を、待ち受けていたのは若い女性だ。
団子女郎と名乗った彼女が、団子4兄弟の親であるらしい。その名前から察するに、きっと彼女も団子なのだろう。或いは、そういった類の妖かもしれない。
とはいえ、これで任務は完了。
峠の茶屋に戻った一行は、団子女郎の用意した山ほどの団子を供される。
「ふむ……これは、なかなか」
パクパクと団子を頬張る水無月は、どこか嬉しそうだった。そんな彼の手元に、鬼灯は団子の乗った皿をそっと差し出した。
「水無月お兄ちゃん、僕の分のお団子も全部どーぞ」
「此方も食べて貰えないだろうか? 俺には少し量が多かったようで……」
さらには逢華と流星も、水無月の元へ団子を運ぶ。
水無月は、ほんの一瞬思案して……。
「仕方あるまいな。せっかくの報酬を残すのも悪い。あぁ、どんどん持ってくるといい」
なんて、言って。
上機嫌に、彼は団子を口へと運ぶ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
迷子の団子たちは無事に保護され、親元へと送り返されました。
いずれは彼らも立派な団子に成長し、誰かの飢えを満たしてくれることでしょう。
いつか豊穣の地で、成長した彼らを食べる機会も、ともするとあるかも知れませんね。
というわけで依頼は成功となります。
この度は依頼リクエストありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
森で迷った団子たちを探し出す
●ターゲット
・団子4兄弟
森で迷ったひと口サイズの団子たち。
白、赤、緑、黄の4色。
味はそれぞれ
プレーン
桜
よもぎ
きび
となっている。
好奇心旺盛。けれど、臆病。
好きな遊びはかくれんぼ。
子どもゆえか、小さくて丸ければそれは“団子”だと思っているようだ。
・逢魔ヶ時の怪
突如として周囲が暗くなり、近くの者の顔さえ判別できなくなる怪奇現象。
さっきまでそこに居た誰かが、別の“何か”に入れ替わっているかもしれない。
魔に逢った者は、気付かぬうちに道に迷ってしまうのだという。
●味方NPC
水無月
鬼灯の部下で忍集団『暦』のうちの一人。
相棒のナナシと共に偵察、地形把握、味方への司令塔等をこなす暦一の秀才。
甘党。
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1157446
●フィールド
峠付近の森。
鬱蒼とした木々の生い茂る森。
この地域では“逢魔ヶ時の森”という怪奇現象が起こり得る。
周囲が突如暗くなり、数メートル先の景色や人の顔さえ判別できなくなる。
その時、一緒に居るうちの誰かが“何か”別のものに入れ替わっているかも知れない。
その他、森に現れ得る動物は大体生息している。
洞窟や小川、沼地などもあるかもしれない。
熊が冬眠の準備を始める時期ですね。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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