PandoraPartyProject

シナリオ詳細

よいの味

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



「今年もこの──ワイン解禁を祝う季節がきたぞ!」

 ローレットの扉を開け放ち、外からの光を後光として浴びる容姿端麗な男にアーリア・スピリッツ (p3p004400)とポテト=アークライト(p3p000294)はぱっと振り返った。
「ヴォードリエのワインが!?」
「そうか、もうそんな季節なんだな」
 前のめりに立ち上がったアーリアは男──モリス・ド・ヴォードリエの持つ1本の瓶に目を輝かせる。それを見たポテトはああ、と頷いた。
 モリス・ド・ヴォードリエ。小さいながらも葡萄の栽培が有名なヴォードリエ領の領主である。彼はようやく訪れたワイン解禁日に伴い、既知の間柄へワインをお裾分けしているらしい。とはいっても領民の作ったワインだ、通常より小さめの瓶に詰め転売しないような者にしか渡していないと言う。つまるところ『お試し』の品であった。
「君たちもこれを飲んだら市場へ出回っているワインを買いに行くといい。まだ我がヴォードリエの名を冠するワインの味を知らない者がいれば是非とも宣伝してくれたまえ!」
「成程。それなら誰かを呼んで一緒に飲もうか」
「いいわねぇ! 合うおつまみ知ってるのよぉ」
 すぐさま予定を練り始める女性2人にモリスは満足そうな笑みを浮かべた。これから今年のヴォードリエワイン──ヴォードリエ・ヌーヴォーと言うべきか──は多くの人々に飲まれることになる。しかしその味は例年通り、いや例年以上に美味しいものになっていると彼は確信しているのだ。確信の理由を聞けば『当然だ』と言わんばかりに
「僕の顔が美しいことと同じさ」
 と告げるのだろうが──彼の大好きな領民たちが作ったワインである。やはり彼にとっては当然なのだ。



「というわけで、ヴォードリエのワインよぉ~!」
 場所を移してアーリアのサン・サヴォア領。ここの酒場はアーリアのお気に入りである。ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)が「これがヴォードリエの」と興味深そうに瓶を眺める。
「ヴォードリエワイン、楽しみです!」
「そうねぇ。でも酔い過ぎに気ぃ付けて、ね?」
 ノースポール(p3p004381)も目をキラキラさせて言えば、隣に座っていた蜻蛉(p3p002599)が微笑まし気に彼女を見ながらそっと案じる声を出す。ノースポールの大好きな彼は、彼女が酔いつぶれてしまったなら──迎えに飛んでくるかもしれないけれど。
「それにしても、揃えたねぇ」
 テーブルへ所狭しと並べられたおつまみや軽食にルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は感心の声を上げる。ここまであれば、何かしら自分の口に合うつまみが存在することだろう。ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)は用意されているチョコレートに視線を注いでいる。ワインと言えばチョコレートとのマリアージュも比較的よく聞く話だろう。
「リゲル、この前みたいにあまり……その、」
 こういう場で惚気ないでくれよ、と言われたリゲル=アークライト(p3p000442)は妻であるポテトを見て真剣に考えた。いや、考えるまでも無かった。
「可愛いポテトを自慢せずにいるのは──」
「リゲル!」
「あら、いいじゃないの」
 おしどり夫婦のやりとりを聞いていたアーリアはにんまり。リゲルが当然と言うように頷き、ポテトが「え」と呟いて固まる。
「折角美味しいワインと美味しいおつまみがあるんだもの。楽しみながらコイバナといきましょ!」

GMコメント

●お酒とおつまみを楽しもう!
 リクシナなんだ、言わずとも知れたことだろう? ──宵に酔いつつコイバナしましょう。

 お酒やおつまみに関してはプレイングで指定すれば大体出て来るでしょう。だってこの酒場はアーリアさんの領にあるアーリアさん御用達ですから。ヴォードリエのワインも勿論用意されていますし、なんならもう市場で追加分を買ってきたことにしてもOKです。
 もちろん「お酒に弱い!」「空きっ腹にアルコールはちょっと……」という方の為にノンアルや軽食も用意されています。

 相談ではこんな感じのこと話すよ~とかこんなもの食べるよ~と宣言しつつ、もう飲み始めちゃいましょう。リプレイの頃には良いほろ酔い具合ですよ。

●ご挨拶
 ご指名ありがとうございます。愁です。
 ワインとチョコレートって、こう、ほいほい酒が進んじゃうんですよね……。
 甘酸っぱいプレイングをお待ちしております。

  • よいの味完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月15日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談11日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

リプレイ


「今年はのんびり楽しめていいわねぇ! ということで解禁よぉー!」
「前はいろいろと大変だったようですけれど、今回は平和に楽しめそうでよかった」
 心の底からウキウキとしている『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が嬉々としてヴォードリエワインを開ける。その傍らで尻尾を彼女のクッションにしながら『キールで乾杯』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)はグラスへ次がれるヴォードリエワインを興味津々に眺めていた。鼻をくすぐる香りに早く飲みたい思いが強くなる。
 それにしてもと『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)はモリス・ド・ヴォードリエが来た時の事を思い返した。あれでも――あれとか言ったら失礼なのだが――立派な領主なのである、彼も。だというのに自ら知らせにくるとは驚きだ。
「ポテトに聞いた時は驚きましたが、アーリアさんのお勧めなら間違いはありませんね。これ、以前飲ませて頂いたものと同じ産地でしょう?」
「そうよぉ、大人の階段を登った時のヴォードリエ・ワイン!」
 ポテトの傍らで微笑む『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)に深く頷いたアーリア。そう、去年はまだ未成年だったリゲルも今年はとうとう飲めるのである! ちなみにヌーヴォーではないヴォードリエワインは既に嗜んでいたりするのだった。
「ふふ、うちもとても楽しみにしていたの。それに色っぽいお話が聞ける言うてたし、ね?」
「そうそう。お誘いありがとうね」
「こういうのは新鮮な感じがするな? たまには悪くない」
 『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)の言葉に『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が頷き、『紅獣』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)は視線を周囲へ巡らせる。ルーキスと夫婦で飲むことが多いから、こうしてワイワイ大人数で飲むというのは久しぶりと言ってもよいだろう。
「恋バナをする機会は初めての方もいますね! 楽しみです♪」
 今宵は酒ではなく惚気に酔いしれたい『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)。皆の元へ飲み物の入ったグラスが行き渡ったならそれを掲げて。
「それじゃあ、今年の豊作に――かんぱぁい!」
「乾杯」
「かんぱーい!」
 それぞれ軽くグラスを合わせ、ヴォードリエヌーヴォーを楽しむ。ノースポールは恐る恐るチョコレートも食べて見て目を丸くする。
「な、なんだろう、いつもと違う感じ……!」
「マリアージュというらしいな」
 ポテトの言葉に知識を増やしたノースポール。どうやらその『マリアージュ』はチョコレートのみに限らないらしい。うっかり酒が進みそうだ。
(水も挟みながら慎重に味合わないと)
 折角酒が揃えられているのだ、ここで色々試せなきゃ勿体ない。そう視線を向けた先には大量の瓶が用意されている。今の1杯目で開封されたものもあれば、大半はまだ未開封でもあり。それらは元々用意されていただけでなく各々が持ち寄った追加も混ざっているようだ。
「酒飲みが集まると1本や2本じゃ済まないからね」
 そう告げるルーキスはワイン以外の果実酒と、軽めのリキュールをそこに混ぜている。ノースポールとしては度数の高くない酒が用意されているのは有難い。ちなみにカムイグラの米酒を持ち寄ったのは蜻蛉で、お手製の大きなミートパイとカスタードパイはルナールだ。
「口に合わなかったら残してくれな?」
「そんなことはありませんよ」
「ああ、美味しい。ワインも飲みやすいな」
 リゲルとポテト夫妻が美味しそうに食べ、カスタードパイにノースポールが反応する。チョコレートではないけれど、これもまた甘いおつまみになるかもしれない。ポテトは薄らと頬を上気させて、既にリゲルに案じられているようだ。
「アーリアさん、美味しい飲み方とか知ってますか? あと、良い肴も」
 ふかふか尻尾を堪能しながらアーリアはミディーセラの言葉にそうねぇとテーブルの上を眺める。今回はヴォードリエワインに合うものを主体に用意しているので、良い肴と問われたならばほぼどれでもということになる。けれども折角だから自分が一番にお勧めするもので食べてもらいたい。
「ん? アーリアさん、このお水とっても美味しいです!」
「そう言ってもらえると嬉しいわぁ。領地の天然水なの」
 にっこり笑うノースポールの手には水のグラス。この天然水で作った氷も用意済みだ。その言葉と酒のラインナップにミディーセラはふむと小さく呟いて。
「ヴォードリエのワインだけでなく、これだけたくさんあるのですから……どれだけ試してもいい。そういう事ですね?」
「勿論! それにご飯の肴ならこの辺りだけど、もっと良い肴が今夜はあるから楽しみねぇ」
 もっと良い肴――馴れ初めとか、切欠とか。惚気があればここの酒全種類だってあっという間だろう。
「ふふ、良いですね。すっかりなくなるまで飲みましょう」
「一緒に皆さんの恋バナも! 誰から話しますかっ?」
 ほんのり頬を上気させたノースポールが見渡す。それじゃあと一番手に名乗り上げたのはルーキスだ。……ということは必然と、そのパートナーたるルナールも一緒に話すこととなるだろう。
「まあ、私たちの場合は『傍にいて落ち着くか否か』が先だからあまり参考にならないだろうけど」
 苦笑を浮かべるルーキス。2人の場合はその前から関係があったものだから、愛や恋といった感情は後からくるものだったようだ。それはそれとして、ルナールは大変分かりやすかったようだが。
「傍に居ないと眠れないって」
「「!?」」
「あー、うん。事実だから否定出来ない。……ルーキスは俺の癒しだし、な」
 グラスを煽るルナール。その頬が赤いのは果たして酒のせいなのか。気が付けばとんとん拍子に血痕することが決まって姓も揃えたわけだが、関係が大きく変わったわけでもないのでそういった感情は分からないままだったりする。それでも『落ち着く』以外の感情を探すとしたら――。
「――ルーキスを手放す気はないって感じかな……」
 思うままに口にして、はたと気が付けば皆の視線を一斉に集めてしまっている。
(もしかしなくても、とんでもない事を言ったんじゃないか?)
 手放す気がないって相当の執着心が溢れた言葉なのでは。いや溢れてる。しかし口にした言葉はもう戻せない。
「わあ、ルナール先生が照れてるー」
 耳まで真っ赤にしてそっぽを向いたルナールにルーキスがニヨニヨと笑いながら指摘する。そんな関係にノースポールはくすりと笑った。リゲルやポテトもにこにことしている。
「2人は成熟した夫婦の絆を感じますね」
「ああ。新婚だとは思えないな。でもお互い大事にしてる」
「ほらほら、私たちの惚気はおしまい。新鮮な惚気をよこせー」
 ルーキスが次のバトンをポテトへ渡そうと絡む。先ほどより上気した顔は少し危うそうだが、それでも「私たちか?」と驚く反応を見るからにまだ理性は残っていそうだ。
(……人の縁は奇妙なものだね)
 そんなポテトへバトンタッチして、ルーキスは小さく目を眇める。まさか友人同士での飲み会ができるだなんて、元居た世界では思いもしなかっただろう。
「私の番か……そうだな」
 バトンを渡されたポテトは隣に座るリゲルを見上げ、嬉しそうに笑う。今年からリゲルが酒を一緒に飲めるようになったから、また新たな一面を知ることができたのだ。
「リゲルがきりっとしていて格好良くて素敵な姿は皆知っていると思う。でも酔ってふわふわしたのも可愛いんだ」
「うふふ、そうねぇ」
 リゲルの酒に付き合ったアーリアは――あの時リゲルは酔いつぶれて二日酔いだったなどと思い出しながら――にこにこと酒を飲む。ああ、人の惚気と酒のマリアージュ。
「ポテトの方が愛らしいに決まっているだろう? 皆も存じているはずですよ」
 リゲルは前半をポテトに、そして後半を皆へと言い聞かせる。彼女は誰よりも母らしく、妻らしい女性なのだと。料理が出来て気配りもでき、更にリゲルへ一途なのだ。
「特に家庭料理が美味いのですよ」
「まあまあいいわねぇ! リゲルくんは何が好きなのかしら」
 グラスをパカパカ開けては更に注いでいくアーリアに答えるリゲルは、皆へも酔い潰してしまわないよう酒を進める。ポテトはすでにふわふわとして彼に支えられていた。
「次はポーさんかな」
「私ですか? えへへ、ちょっと照れますが」
 とはいってもまんざらじゃないノースポール。だって幸せ一杯だもの!
 そんな彼女の馴れ初めは彼の家だったりする。庭がとても素敵で、そこから彼との交流が始まったのだ。一時は親友にまでなった彼女らであったが、その気持ちがやがて独占欲へと変わった時の驚きと高揚感といったら。
「誰にも取られたくない、って思って。それで、親友以上の感情に気付きまして……」
 ひゃー! と赤面しながら手近な場所にあったクッションをもふもふするノースポール。甘酸っぱい恋愛にリゲルは笑みを浮かべる。
「ふふふー、ポーも幸せ一杯だな!」
「そうだな。いつも応援したくなる」
 デートする場所教えてくれ、とやりとりするポテトとノースポール。そのうちリゲルを誘っていくのかもしれない。
「皆、色々あるんだなぁ」
「ねー。全然違う。それじゃ、次は――」
「……え?」
 きょとん、と蜻蛉がルーキスを見る。席順からすればルーキス&ルナールペア、リゲル&ポテトペア、ノースポールときて蜻蛉という流れは妥当である。
「惚気、惚気ねぇ。うちはずっと片思いよ」
「蜻蛉の相手といったらあの人だろう? いろいろおでかけしてるって聞いたけど」
 ポテトの言葉に苦笑しながら頷く蜻蛉。確かに共に出かけることはあるが、それでも彼から言葉は返ってこない。出会った時から変わったことも、変わらないこともあるのだ。
「そも、生きてくれるだけで万々歳みたいなとこあるよって」
「ああ、海洋では色々ありましたからね……」
 リゲルの言葉に蜻蛉は冷たい海を思い出す。あそこから生きて帰れたからそれでいい――そう割り切れるほど心は簡単じゃないのだ。
 はぁ、と机に肩ひじついてため息を漏らす。皆の幸せな話を聞くのは嬉しいし楽しいけれど、そんなだからちょっぴり羨ましくもあって。
「……な、なにやの、うちの事はええんです! 次行きましょ、次!」
 気付けば皆の視線がくすぐったくて、蜻蛉は頬を赤らめるとアーリアたちの方を向いた。一緒に、もってきた米酒の瓶を持って。
「ほら、お酒空っぽになっとるよ」
「あ、嬉しいわぁ」
 とくとくとく、と注いでもらってアーリアは蜻蛉を見る。その視線に気づいた蜻蛉はふっと笑った。
「それでも、一度決めた事やからね。傍におれるだけでええんよ」
 割り切ったと言うべきか、諦めたと言うべきか。待つことに疲れ果ててしまうその前に、言葉が欲しい――なんて言わないのだ。
「追加で飲むなら開けるけどどうするルナ?」
「開けるか」
 ルーキスの問いに躊躇いなく瓶を空けたルナール。その膝に乗せられたルーキスは彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「あんまり顔に出ないけど、行動は見事に酔ってるんだよなあ」
「そうか?」
「そうだよ」
 素面になった時が楽しみだ、とルーキスは心の中で独り言つ。さあ、ルナールの膝上で次のペアの話を聞こうじゃないか。
「私とミディーくんは海で遊んだのが最初だったわねぇ」
「ええ。知り合ったきっかけは……出会ったことこそがそうだったのかもしれません。ね?」
 アーリアの方を向いてにこりと笑うミディーセラ。特別なことは無い、友人の友人くらいの関係で遊び始めたのだ。酒好きということで一緒の酒を飲んで、出かけて、隣で過ごして。
「どの思い出も大切で、記憶に残っています」
「ふふ、そうねえ。そういうのが積み重なって、長生きのミディーくんとずっと一緒に居られたらいいのにって……」
 酒のせいかすらすらと饒舌だったアーリアだが、そこでぽんっと一気に赤くなった。自分の発言が頭を巡ったらしい。そんな彼女にミディーセラがにこにこしているのだが、気づく余地もなく。
「こ、これ以上はむり……パス!」
「パスしても私ですよ、アーリアさん」
 くすりと笑ったミディーセラは酒をひと口含み、皆の方を向く。
「……こうやって昔を思い出したり、話し合ったり。ずうっと2人で続けていけたらいいなって。わたしはそう思っていますわ」
「~~~っ!!」
 ずうっと2人で。その言葉がアーリアの中をループして、耐え切れず机へと突っ伏す。ノースポールが驚きの声を上げた。
「ア、アーリアさんっ!?」
「あらあら。ふふ」
 楽し気に眺めた蜻蛉はミディーセラへ視線を移す。そこには悪戯に成功したような表情の彼がいた。かと思えば、アーリアががばりと起き上がって。
「の、飲むわ……! こうなったら恥ずかしいなんて思わなくなっちゃうくらい飲んじゃいましょ!」
「あーりあ、おかあり!」
 私も! と言わんばかりにポテトがグラスを上げるが、その身は何故かリゲルの膝上にある。これはルーキスとルナールたちとは逆で、ポテトがリゲルへ乗り上げたのだ。リゲルが慌ててグラスを取り上げようとするが、させまいとポテトはグラスを抱きしめる。
「ポテト」
「やら、まだのむの……!」
 その攻防戦にどちらが勝ったのかと言えば――注がれたグラスを見れば明らかと言うやつだ。



 宴もたけなわ。わいわいと賑やかにする友人たちの話を聞きながらアーリアは目を細める。
「……まさかこうしてこの街の酒場で、皆と一緒にお酒が飲めるなんてねぇ」
 その言葉に隣へ座っていたミディーセラがちらりと視線を寄越して、反対の隣に座っていた蜻蛉も目を瞬かせる。それにはっとしたアーリアは笑顔を浮かべて酒瓶を手にした。
「ほらほらぁ! まだまだお酒はあるわよぉ!」
「あーりあ! のむ!」
「ポテトはそろそろやめておいた方がいいんじゃないか?」
 すっかりふわふわなポテトがばっと挙手して、それをリゲルがどうにか押しとどめようと――これ以上飲ませたらやばそうなので――攻防戦を繰り広げる。くすくすと眺めた蜻蛉はそのまま柔らかな微笑を浮かべてアーリアを横目に見た。
「人生、何があるかわからないものよ」
 その言葉は先ほどの呟きに返しているだけにも聞こえるし、アーリアの心の内を呼んでの言葉にも聞こえる。真意はわからないけれど、アーリアはそうねぇと笑った。
 この街はアーリアの故郷だ。そして逃げ出した場所でもある。此処にいる皆はとっくに気付いているのかもしれない。
(奇跡、よね)
 こうして皆と飲めるのも――大切な人と隣に居られるのも。
 机の下、皆のあずかり知らぬ場所で手と手が触れ合う。お酒で上がった体温を分け合うように触れて、指を絡めて。
「ねぇ、ミディーくん。いつか……『アークライト』とか『グリムゲルデ』とか……その、」
 同じ苗字を名乗れたら、なんて。酔いに任せてとはいえアーリアの頬は赤く、ミディーセラはそんな頬を見ながらからんとグラスの氷を鳴らした。
「……わたしの名前はお師匠さまたちにもらったものなので……もしそうなるとしたら、それをあなたに渡すことになるんでしょうか。それともあなたという名前をもらうんでしょうか」
 考え込むミディーセラにアーリアはぱちりと目を瞬かせ、小さく笑った。嗚呼、こんなことを考えるような日が来るだなんて!
「んん……」
 不意にノースポールが小さく唸る。彼女はすっかり酒を飲む手も止まって、先ほどからクッションにぎゅむぎゅむと顔を押し付けていたのだが。
「ねむい……」
「あら、大丈夫?」
 隣にいた蜻蛉が声をかけるも、もはや顔を上げる事すらない。このまま眠ってしまいそうだ。
「おー……想定外の酔いつぶれ。寝かしてやろう」
 苦笑したルナールが立ち上がり――ようやくルーキスは解放された――自らの上着をノースポールへかけてやる。酒でぽかぽかと温まっているだろうが、それでもこの季節に油断はならないだろう。送り出した彼氏も心配してしまう。
「ここにいること、つたえて……ます、の……で……」
 そう呟いたきりくぅくぅと眠ってしまったノースポール。どうやらそろそろお開きにした方が良さそうだ。
「それなら最低限のお片付けはしていこうか」
 ルーキスは転がりまくっている瓶を眺めて立ち上がる。あんまりにもな状況では酒場も困るだろう。ルナールも手伝ってごみをまとめ、瓶は瓶でまとめておく。
「手伝えなくて申し訳ない」
「その状態じゃ無理だよねー」
 恐縮するリゲルにルーキスは苦笑を浮かべる。彼の膝上では妻であるポテトが幸せそうに眠っていた。安眠する妻を退けるわけにもいかないだろう。しかも寝落ちする前に『りげる、ずっといっしょ』とか殊更幸せそうに言われたら。
「ふふ、ええねぇ」
 蜻蛉がポテトの寝顔ににっこり笑う。起こさぬようにそっとその頭を撫で、次いでノースポールの真っ白な髪も優しく撫でた蜻蛉はつと目を細めた。
「……此処におる子らは、ずっと幸せでおってね」
「んー……」
 返事をしたかったのか、偶然なのか、小さく答えたノースポールに蜻蛉はまたくすりと笑って。彼女の迎えが来る前に、とルーキスたちの手伝いへ立ち上がったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。(コイバナを)ごちそうさまでした。
 PCの前でとてもにこにこしながら書きました。

 それではまたのご縁をお待ちしております。ご発注ありがとうございました!

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