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シナリオ詳細

ハクスラネコ2〜沈黙の徹甲弾〜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 それはある依頼を終えた後の事だ。
 依頼完遂後に辺りの索敵に務めたヒィロ=エヒト(p3p002503)たちイレギュラーズは突如姿を見せた謎の赤いシルエットを追って行った先、が見つけたのはただならぬ気配を放つ洞窟の入口だった。
「あの洞窟にこの事件を紐解く手掛かりが!? みんな、行こっ!」
「待ちたまえ……どうも怪しいぞこの洞窟、それに偵察なら私に心得がある。ここは少数で内部を確認するべきではないか?」
 意気揚々とヒィロが暗い洞窟へ侵入しようとしたところで待ったが掛かる。
 一同は待ったをかけた鎧姿の男へと視線を向け。そも如何にも怪しい彼の素性を問い質した。
 彼は、モンスター討伐に来たイレギュラーズと時を同じくして田舎村を訪れたのだという。
「あなたは?」
「私はこの領地を治めるサーバイン家に仕える騎士である。ギュスタイド砦から参ったのだが……ただならぬ事の気配に加え、この洞窟を貴女たちと発見するに至った次第だ」
 ギュスタイド砦のデンゼル、と彼は名乗った。
「先の様子から察するに、一戦交えた後なのだろう? 見るからにここは魔性の巣窟だ。無理せずここは私に信を置いては下さらんか」
 デンゼルと名乗った初老の男はそう言うと、ヒィロをはじめとしたイレギュラーズ達の了解を求めた。
 暫し、考え込む。
 乳白色のスライム『ハクスラネコ』と、洞窟へ逃げ込んだ赤い影は何かしらの関係性がある。
 怪しい事は怪しいが、この場面で嘘偽りを並べるほどデンゼルが愚かにも見えない。整然とした男の言葉に、一同は首肯した。
「じゃあ、デンゼルさんを先頭に行ってみようか!」
 索敵技術に長けているというデンゼルに続いて洞窟へと潜って行く者達。
 暗く、湿った空気の漂う闇の向こうで彼等が見たものとは。

●注:モンスターハウスだ!
 ――洞窟を進むにつれて視界が赤く染まって行く。
 頭上や足下だけではない。洞窟の奥に広がっている空間は外部からの陽射しが届かなくなって来た辺りから、僅かに発光している赤い結晶が壁面を覆っていたのだ。
「……硬い」
 こつこつ、と拳で叩く。
 手を伝う感触からしてその硬度は見た目通り石塊と同等なのだろう。
 騎士デンゼルは暗視の技術は必要なかったかと安堵しながら、しかしその異様に顔を顰める。
 確かに結晶化しているようだが、このような鉱物が土地から産出されたという記録はない。当然聞いた事も無かったのである。
「む、こちらは……二手に分かれているのか」
 やはりといえばやはり。洞窟を進み往く先で二つに分かれた道が現れる。
 薄明るくも見通すには薄暗いといった、微妙な距離感。爛々と輝く結晶がどれだけ奥まで続いているのか判断を鈍らせた。
「私が右に行こう。いざという時は声を上げる、暫し待たれよ」
 分かれ道の一方へと往く騎士を一同は見送った。
 ――戻って来た騎士デンゼルの顔色は、赤い光に照らされながらでも一目で分かるほどに青くなっていた。
 膝から崩れ落ち、額から脂汗を浮かせた男は一言告げる。
「…………あの奇怪なスライムどもの幼体が、二十近い数で蠢いていた……」
 なんだあれは。そう震える男は訝し気に見下ろして来る一同を見回して首を振った。
「こちらは危険だ……もう一方を見て来よう」
「普通にやっつけてきちゃだめ?」
 かっくん、と首を傾げるヒィロにデンゼルは信じられない物を見る様な目で見返した。

 ……赤い壁を伝い歩いて行く先に見えた広間の様相に、一行はそれぞれ異なる反応を伴いながら目を見開いた。
 そこには、無数の壁画が描かれていた。
 描かれているのはいずれも絵の具や木の実を潰して作った塗料、中には石壁を刻んで描かれた物もある。
 絵の周囲には淡い光を放って踏ん張っている乳白色が数匹。その身はぷるるんとした流動体のようで、スライムのような柔らかさと弾力を兼ね備えたボディになっているのが視えた。
 しかし、彼等はただのスライムではない。
 そのボディに生えたネコ髭、ネコ耳は非常に特徴的で、その鳴き声もまるで猫のよう。
 彼等が『ハクスラネコ』なる存在ならば。その傍で見守り、身を寄せて鳴いている母なる存在は何者だろうか。
「みゃーあ」
 赤い光沢。その質感こそはハクスラネコ同様にぷるんとした艶があるが、体格や形状は完全に別物だ。
 すらっとした長い手足の先にある丸っこい肉球、同じく滑らかで長い胴体から続くお尻から生えた長い尻尾は、どう見ても『ネコ』だった。
 ともすれば、まるでネコを模した硝子細工の様にも、風船人形にも見えるほどだ。
 赤いハクスラネコは洞窟に集まった大勢の仲間を前にして鳴いた。
 低くも愛らしい鳴き声である。
「にゃーん」
「にゃーん」
「にゃーん」
 ぷるるん。ぷるん。ぴょんこぴょんこ。
 赤いハクスラネコの鳴き声に呼応して飛んだり跳ねたり、口々に鳴く彼等は謎の一体感があった。
 そんな彼等、ハクスラネコの前で優雅に座す赤いハクスラネコは、とある壁画の一部をてしっ、と肉球で叩いた。
「みゃーあ」
 そこに、描かれていたのは。
 剣を振りかざしているかのように見える鎧兜の人間と、ハクスラネコ達だった。

●赤いハクスラネコとハクスラネコ
 人気が失くなった村。
 その村を西に抜けると見える谷沿いに、怪しげな洞窟は在った。
「……とんでもない事になってしまったなぁ。なぜこんな事に?」
 初老の髭カールを巻いた騎士。ギュスタイド砦のデンゼルが頭を抱えていた。
 洞窟発見から数日が経っていた。
 しかるべき手続きを踏んだ後に、砦の名を借りて彼は改めて洞窟に棲み付いたハクスラネコたちの討伐をローレットに依頼した為だ。
 だがそれが良かったのか、悪かったのか。なんとその数日の間に洞窟に潜んでいたハクスラネコ達は更に十匹ほど増えていたらしい。
 デンゼルは顔を歪めて言った。
「地形がハクスラネコに適した環境な為か、洞窟は長い通路が二本に枝分かれしており。それぞれ奥に居住区と、何らかの情報を共有するためのアトリエスペースとなっていた。
 知能があるのか無いのか。壁画から詳細な情報は読み取れなかったが……首魁と思しき個体は特定している」
 恐らく巣の規模が大きくなるか、新たにハクスラネコが外に出て行くかは時間の問題だろうと彼は言った。

 赤い、ハクスラネコ。
 あの赤い結晶を洞窟内に生み出して巣を作っていた、謎の多い魔物だ。
 数や地形、個体の秘める脅威度からデンゼルはローレットにこのハクスラネコの討伐を依頼したいと改めて声に出した。
「赤いハクスラネコは、それはそれは美しいスタイルでな。あの蔑むような眼差しで見下ろされながら肉球でぺしっとされたい」
 デンゼルはバグった。
「……ん、こほん。すまない。相手はたかがスライムかもしれないが数が数だ。どうか気をつけてくれたまえ」
 最後に、デンゼルは洞窟の方を向いて呟く。
「まったく。一匹や二匹ならともかく、あの数はな……」

GMコメント

●依頼成功条件
 ハクスラネコの殲滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に不明点があります。

●討伐目標
 ハクスラネコ幼体&成体(20+10)
 狡猾なスライムの大群です。得意技は体当たり。
 可愛らしい見た目で相手を油断させたり、移動手段に用いる馬などを行動不能にしてくる特性があります。
 とにかく好戦的で、敵味方関係無く突っ込んで来る成体もいれば。赤いハクスラネコを庇う幼体もいるようです。

能力)「にゃんっ」(至・近・単 威力(小) )
   「にゃーん」(至・近・貫 威力(中)・【必殺】 )
  訳『ままはぼくがまもるにゃ…』(全力防御で赤いハクスラネコを庇う)

 【赤いハクスラネコ】
 賢い気がする猫型スライムのモンスターです。
 猫のようなフォルムですが、その機動力や反応は高く。攻撃力に関してもそこそこ侮れない気がします。

●目標地周辺・状況(ロケーション)
 幻想のとある田舎村すぐそばにある洞窟。
 (道幅はおよそ10m。戦闘時は敵との距離40mを開けて始動、これは後述の戦闘発生場所全てに適用)
 洞窟内は赤い粘液の様なもので固められていることでセメント等で強固に補強されているに等しく。意図的な崩落を起こす事は不可能。
 洞窟は入口から少し入った所で二手に分かれており、
 ひとつはハクスラネコの居住区、もうひとつは壁画が並んでいる広大なアトリエスペースとなっているようだ。
 (※居住区は敵の数が多く。 アトリエには首魁および少数の強敵)

 ハクスラネコを全て撃破する為にどちらかのルートを攻略してからもう一方へと行く連戦や、同時攻略などが想定されます。
 なお敵の数の詳細は主に 居住区(20)アトリエ(10+1) といった内容となっております。

●最後に
 初めまして、シナリオを運営させて頂くいちごストリームと申します。アフターアクションいただきありがとうございます!
 ハクスラネコも予想外の早さでその生態と謎が明かされる、怒涛のアフターなアクション続編!
 皆様のご参加をお待ちしております!

  • ハクスラネコ2〜沈黙の徹甲弾〜完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月02日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
桐神 きり(p3p007718)
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
伽藍ノ 虚(p3p009208)
     

リプレイ


 ハクスラネコ――ネコというが、厳密にはスライムの一種である。
 奴らは女王アリ……いや女王ネコ……とにかく女王的な存在である高貴で綺麗なハクスラネコを頂点としているという――ならば。
「ここまで来たら、ハクスラネコにとことん付き合っちゃうよー!
 ふっふっふ、一番奥まで行ってOHANASHIできるといいな!」
 以前に出会った事のある『咲く笑顔』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は意気揚々と。
 狙うは一点、女王のみ! 居住区を早々に殲滅し、奥に座す奴に会おうとイレギュラーズ達は進む。ハクスラネコたちは見た目は猫の姿からして、なんとも警戒心を解かれそうになる可愛らしさがある、が。
「それも生存戦略なのでしょうかー……なんというか、事情を知らなければ庇護欲を掻き立てられる姿ですわねー道の途中にダンボールで捨てられでもしていたら拾ってしまい像ですわー」
「と言っても洞窟を占拠したり、繁殖が早かったりと実はかなり、かなりヤバい生物なのでは……? 人も動物も見た目によらないというかなんというか……まぁここで潰せれば一安心できますか」
 洞窟に侵入した『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は眼前を灯りで照らし、桐神 きり(p3p007718)と共に進んでいく――情報によれば居住区にしろアトリエにしろそう遠くはない。
 奴らとはすぐにでも戦闘になる事だろう。見た目の可愛さからすると些か手が出しにくくなる気もするが、騙されてはいけないのだ――故に。
「先手必勝だな。居住区だけで戦いが終わる訳でもないんだ――早々に倒すとしよう」
「あー……そうですね。
 ボスが出てきたらアレですし、その前に数を減らしていきたいところです……」
 『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)が見えた居住区に魔砲の一閃を放つ。障害物すら穿ちて、その中にいるハクスラネコ達をなぎ倒し――さすれば『     』伽藍ノ 虚(p3p009208)が前に出て炙り出されてきたネコ達を押し留めんと撃を飛ばす。
 同時。修也は別方面へとファミリアーの猫を放ちて監視を務めさせる。
 此方での戦闘中に向こうが動かぬという保証は無いのだ。万一戦闘の気配を察して押し寄せて来れば挟み撃ちの形になる可能性もある……故に警戒を。影に潜ませ己がもう一つの目とすれば。
「はぁ……しかし洞窟ねぇ。やっぱ狭い所は飛びまわれなくて嫌だなぁ……
 まぁ受けたからにはきっちりやるけど。スライム達はこういう所が好みなのか」
 『天統七翼鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)は閉所空間での戦闘に吐息一つ零しながら、イレギュラーズ達の襲撃に気付いて出てきたハクスラネコ達を一掃する。
 それはェクセレリァスの放つ金色の一閃。
 異界兵器『波動砲』――その模造たる一撃である。収束された魔力は数多を貫く槍が如くと成り、ハクスラネコ達を焼き尽くさんと炸裂させるのだ。味方への誤射が無いように注意しながら一帯を焦土とさせるソレは正に竜の息吹。
 慌てるハラスクネコ達。反撃にと、難を逃れた者達が数をもって押し寄せてくるも。
「外に再侵攻される前で幸い? この数が近くの街に押し寄せてきてたら面倒だったかも」
「くぅ……危険な生物とは分かりますが……――やっぱり可愛いですよね」
 その裏に回った『紫緋の一撃』美咲・マクスウェル(p3p005192)がハラスクネコ達の陣形を乱すべく熱砂の嵐にて敵を討つ。更に『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が一匹たりとも逃さんと前に出て彼らを抑えるのだ。
 近くに至れば本当に可愛らしく見える。特に幼体は小さく、なんとも、本当に子猫を前にしているような気分になるものだ。
「ですが……ですが、手加減は出来ません! 見た目に惑わされませんよ私は……くっ!」
 されどリディアは苦渋の決断! 一寸目を逸らし、しかし理性を保って敵へ斬撃を。
 戦いの闘志を漲らせ、迷いを断ち切り己が輝剣に全霊を。
 全てを両断する――七つの剣技が一つ、断空牙の輝きが居住区へ蹂躙の意志を魅せていた。


「にゃーん」
「にゃーん!」
「そんな甘えた声を出しても駄目だよ! 絶対、後ろには抜かせないから!」
 敵の行動を先読むヒィロは敵陣へと跳び込み、己が内に携えし闘志を迸らせハクスラネコ達の目を引き付けていた。
 彼女を倒さねば――この先に進むことは出来ない――!
 そう想わせるほどの闘気。注意を引き付けられ、集合する様な形となれば。
「耐久性も変わったのかな……もしも私の術に耐えきる程までいくと、流石に洒落にならない」
 そこへ連鎖的に行動した美咲の一撃が敵を穿つのだ。
 ヒィロに当たらぬ様に熱砂の嵐を。ある程度調整する必要がある故に自由自在とはいかないが――敵の数が多ければ着弾地点の選択肢は多い。また、彼女らの負傷具合によっては治癒へと回ってもいいだろうと思考を重ねて。
「にゃにゃーん!!」
「ふむ――幼体はさほどでもありませんね。あんまり早くもありませんし……まぁ、例の赤いリーダーの方が気になりますが。もしかしてやっぱり三倍の速さと強さを持つんでしょうか」
 某彗星の事を考えながら、きりは己が妖刀にて幼体達を斬り捨てる。
 高速の抜刀。神速の斬撃。目にも見えぬ一閃は容赦せずにその命を奪うのだ――
 あまり時間をかけてもいられない。ハクスラネコ達が前に出てきて、立ち位置上中々数多き敵だけを狙うのと言うのは難しくなってきたが、それでも地力においてはイレギュラーズ達は優勢だった。
「だが――どうやらアトリエの者達が気付いた様だな。何やら動きを見せているようだ」
 その時、修也の放っていたファミリアーが捉えた光景はアトリエ方面での事。
 居住区に侵入者がいる事に向こう側のハクスラネコ達が気付いたのだろう。
 このままではやはり懸念通りに挟撃となってしまう恐れがある――故に。
「全力で行くよ……! 目標照準ッ、疑似波動砲模倣式(デミウェーブガン)、照射!」
 ェクセレリァスの咆哮が敵を撃つ。
 出し惜しみなしの全力だ。再度収束させた魔力が抵抗する幼体達を狙い、焼き払う。
 初手の襲撃の際に修也やェクセレリァスなど多くの者が多数の幼体達を巻き込む一手を放てている為に、効率よく奴らの数を削れている――アトリエからこちらに敵の増援が来るまで、あと少しばかり余裕があれば。
「上手くいけば万全の状態で向こう側への備えも出来そうですわねー急ぎましょうかー」
 ユゥリアリアの歌声が更なる追撃と成すのだ。
 彼女の、居住戦が始まった時に皆に戦いの加護として齎した銃帯の号令もまた大きな意味を持っていたと言えるだろう。それこそが敵を捉える眼を育て、殲滅の為の速度を加速させる。
「にゃーん、にゃーん!」
「ふふ。もちもちぷるぷるしてて可愛いですねー……ちょっと撫でるぐらいならいいでしょうか? いえやっぱりだめですよねー」
 さすればハクスラネコの幼体達がなんとも可愛らしい高い声で鳴くのだが――これは罠だとユゥリアリアは撫でたい欲望が顔を出しながらも、ぐっと堪える。
 ああ出来る事なら撫でたり愛でたり存分に行いたい。見るだけでも心癒されるのだから直に触った時の感触などきっと天に上る様な感覚を得るだろう……されどそれでも。それでも堪えて――彼らを一撃。
 攻勢の勢いを増させ、そして。
「これで――お仕舞いです!」
 リディアの輝剣が残存の幼体達を薙いでいく――『にゃ~ん!』という悲痛な叫びが聞こえればちょっと心が痛むのだが――いやいや! これも、いやこれこそがハクスラネコ達の恐ろしい所! とユゥリアリアと同様に己が心の平穏を保つ。
 彼らは好戦的。戦う間においても全力で体当たりしてくる個体が幾つもいたし、その一撃にはそれなりに確かな痛みもあった。幼体でこれなのだから、大人達の一撃はもっと……
「と、来ましたか……やれやれ袋の鼠はゴメンですね……ネコだけに」
 その時。後ろから来る気配を感知したのは虚である。
 ネコ達を狩りに来たのに己らがネズミになっては洒落にならぬと、しかし幼体達の殲滅は幸いにしてほぼ完遂できている――まだあと少し残ってはいるが、彼らの数では挟撃と成り得るほどの脅威ではない。
 二正面をやったとしても十分に対抗できると思考して。
「さ、紅い個体はどこでしょうね! きっちりと倒して、脅威は排するとしましょう!」
 きりは即座に動く。余力は十分、気力も十分。
 いざやハクスラネコ達と決戦を――と!


 にゃーん! にゃーん! にゃーん!
 居住区が襲われたと理解したハクスラネコ達は怒り(可愛い)と共に進撃していた。
 アトリエにいたのは幼体ではなく成体達である――幼体よりも強く、体の大きい者達。
 数こそ幼体より少ないが決して侮りがたいであろう。
 ――故に。
「目標補足ッ! マシンファミリアーズ&ブレードウィップ射出……行けっ!」
 ェクセレリァスの一撃が敵を先んじた。髪を変化させ、無数の蛇腹剣が如く。
 かの一撃は距離を――いや、空間そのものを跳躍し敵の全周囲へと展開されるのだ。避ける道を潰し、追い詰め、その身を穿つ。ナノマシンと液体金属により構成された翼刃が掩護し、縦横無尽が一撃をハクスラネコへ。
「にゃにゃーん!」
「ほう。やはり幼体と異なり、そう簡単にはいかせてくれないか……
 そこまで賢いなら、人に懐いてほしいものなんだがな……」
 されど成体達は素早く動いてイレギュラーズに対処を。陣を瓦解させず、前へと進んでイレギュラーズ達に体当たりせん――迅速たる動きを見れば流石以前の上位種と修也は感心する者だが、同時に残念でもある。どうしても彼らが人の敵である事に。
「やっぱり無理だよな……仕方ない」
 敵意と殺意をもって襲い掛かって来る成体達――薙ぎ払うは再び魔砲の一閃。
 奥に見える赤い個体も狙い穿つ。あれが情報にあった個体だろう。言語は分からないが、なんとも周囲の個体を統制している気もする……一刻も早く奴を弱らせたい所だ。
「にゃっ!」
「にゃーん!」
「とと……中々激しくじゃれてきますね……」
「でも突破口が無いわけじゃないね! あの赤いのを集中的に狙おう!」
 突進し、あるいは貫いて来ようとする成体達。
 虚は押し留め魔力を注いで反撃を。さすればヒィロは跳躍し――再び美咲との連携で敵を吹き飛ばさん。
 刃に乗った闘志が光り輝き、敵へと振るえば強靭なる衝撃を生み出すのだ。
 目標は――あの赤いハクスラネコ!
「にゃーん!」
 狙えば『ままに手を出すな!』とばかりに周囲の個体が庇ってくる。
 が、それが狙いだ。
 つまり親を狙えば狙う程守護すべく動く個体がいるのだ。守護に回れば攻勢には容易に転じられまい――敵を釘付けにし、足止めする事が出来て。
「全く。意思疎通と共存が出来ればわざわざ討伐しなくてもいい道があったかもしれないでしょうに。こんな壁を生み出す事が出来るような――知性もあるなら尚更にね」
 同時。美咲が思考するは、押し込めつつ段々と見えてきたアトリエの事について、だ。
 硬く安定した壁。周囲くらいは見える光源を設置する事が出来る技術、あるいは魔術?
 そしてなによりアトリエの情報――これは文化と教育の概念があるという事か?
「最終的に全て殺せばよいのだ、と安易には言えないなぁ」
 彼らを根絶やしにするのは正しいのか否か。
 勿論、これは依頼だ。
 真実を議論するつもりはなく、この場においては容赦せず殲滅するつもりではある――成体達と激突しているこれより先が正念場とし。周囲に気力を満たす加護の号令を齎せばまるで言霊が如く――味方を襲う苦境を跳ねのけ力を宿すだろう。
「にゃーん……にゃにゃ、にゃーん!!」
 それでもハクスラネコ達にとっても退けぬのだとより攻勢は強まって。
 突進。体当たり。機動と優れた反応を活かして、壁を蹴って思わぬ所からの攻撃も。
 そして赤い個体も動き出す。
 一際大きく鳴き声を上げたのは――何かの号令か?
 美咲の言に対抗するかのように周囲に喝を飛ばせば、自らも動いて前線へ。
「さぁ一緒にあそびましょうかねーほーらこっちですよー」
「うーんやっぱりちょっと早いですし、力も強いですね……でも斬らせてもらいますよ!」
 その瞬間を見過ごさなかったのはユゥリアリアだ。
 敵の総てが前進してきて前衛を突破している個体もおり、混戦となり始めている今――全力で庇いに行けるであろう個体を狙う。それは自らの地を媒介に生成した氷の槍。鋭く折れぬ、しかして幻の如き一閃は宙にてその姿を煌めかせながら徐々に溶けるのだ。
 故に捉え難い。在りながらにして消える運命の途上にある一閃。
 着弾し、成体の一匹の動きを阻害すれ――ば。
 同時に赤い個体をきりが狙うのだ。
 悪意と呪いを込めた斬撃を一つ。邪魔をする個体すら貫いて、奥にいるソレに届かせる。
 もはやこれより先に戦いは無し。温存していた力を解き放ち、全力を。
 徐々に弱まるハクスラネコ達。にゃーんと奮戦するも、それでも一匹一匹突破され――
「ハクスラネコ……ううっ、根絶やしにするのはやはりどこかで『やめろ』と叫ぶ自分がいるのですが――しかしこれも討伐してくれとの依頼! この一撃にて……終わらせましょう!」
 そしてリディアが再び戦いの気を己が身体に巡らせる。
 敵の残数は少なく、故に最後の攻勢を。
 込めるは全霊。『にゃ、にゃーん!』と震えるその姿を見るや、戦う意思が別の意味で折れそうだが――それでも、もう幾体も斬ったのだ。今更手を抜ける筈もない! 一匹斬ったなら全部斬る!
 彼女が己が剣に宿すはレオンハート小国に伝わる七つの剣技の一つ。
 蒼炎が如き闘気を最大出力で武器に宿す――蒼炎の構えだ。
 如何なる相手も真正面から粉砕する絶技。それは獅子を思わせ、万の難題を乗り越える為に生み出された至高の一閃が一つで――ハクスラネコ達に終わりを齎さん!

「にゃああああああん!!」

 直後、斬撃。
 赤い個体の身に走る輝きは剣の痕か。
 超速の振り抜きは痛みが突き走るよりも早く――ハクスラネコの命を奪って。

 亀裂が迸り、その身を砕いたのであった。


 念のためにとアトリエの内部にまで進んだイレギュラーズ達であったが、残敵はいないようだ。敵意を感知する修也の術にも一切の反応がなく……残ったのは恐らくハクスラネコ達が生み出してあろう壁画のみ。
「ふーむ。見れば見る程不思議なものだな……こんな文化を生み出す事が出来るとは」
「この壁画は、きっとハクスラネコ達が描いたんですよね? だとすればやっぱり、かなり知能が高いのでは……? 文化を理解し、共有する事が出来るというのは一つの価値観を持っている訳で……」
 リディアも見据える壁画。
 鎧兜の人間と、ハクスラネコ達には一体どんな意味があるのか……
 これは人間達との戦いを描いたハクスラネコ達の歴史か? 或いは鎧兜の人間達と戦うための戦術を書き記した未来への道しるべか――? 分からないが、スケッチでもしておこうかと思案して。
「うーむどうにも文明的なものを感じますね……調査を行うよう進言した方がいいのかもしれません……」
「随分と大層な壁画ですのねーでもこれ、どうやって描いたのかしらー?
 まさかあの手だけで描いた訳でもないでしょうしねー」
 虚も眺めながらハクスラネコ達の文化圏の匂いを感じていた。彼らなりの美術を感じ……ユゥリアリアもまたその『手段』について思案を巡らせていた。
 壁画となれば相応の『道具』が必要だ。色、付ける為の筆。場合によって彫るモノ……
 どこから調達したのか、或いは自ら作ったのか……?
 このアトリエには特にそういう道具は見当たらないが、さて……
「ていうかそもそもこいつら何食べるの? この壁画の技術で何か売って、食物を買ってたりとか……いや流石にそれはないかしら?」
 美咲にとっては彼らの食糧源も謎であった。妥当な所であれば草食動物であり、近くの野草などを食べていた可能性だが、あの狂暴な性質を考えると肉食であるとしても不思議はない。集団で動物でも狩っていたか。
 ――いずれにせよここのハクスラネコ達は殲滅した。もう生き残りはいない。
 彼らが洞窟からでて、周辺に何か害を与える事もないだろう。
 依頼主のデンゼルへ報告しに行こう。

 ひとまず脅威は――取り除かれたのだと。

成否

成功

MVP

リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進

状態異常

なし

あとがき

 この度、代筆を担当しました茶零四です。お待たせして申し訳ありませんでした。

 ハラスクネコ達……一定の文化を築くスライムネコ達……その上油断ならない可愛さを持つネコ達……しかしその姿に油断して放置していれば、いずれ被害が人間に無かったとは言えません。しかし皆様の活躍により平穏が訪れる事となったでしょう。

 それでは、ありがとうございました!

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