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シナリオ詳細

再現性東京2010:飴村事件

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●A-net
 http://adept???.net

 希望ヶ浜の怖い噂を教えてくれ

 1:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 教わった所に調査に行く。


 ――カタカタとキーボードを叩く音が響く。匿名掲示板での夜妖情報収集を行うべく『スレ主』天雷 紅璃(p3p008467)は再現性東京内に存在するインターネットの検索結果を目を皿にしながら眺めて居た。勿論、彼女のギフトである『異世界の掲示板』の情報も使用しながら、だ。
「うーん」
 小さく唸る。希望ヶ浜の住民は『今までと返歌の無い日常の延長戦』を望んで居ると言うのに、どうしたことか『非日常』を好む性質を持つ。それ故に、オカルトトークを持ち掛ければスレッドは勢いよく伸びている……のだが。
「ねえねえ、紅璃ちゃん。此れって何かな?」
 後ろでディスプレイを眺めて居た綾敷・なじみは一つ気になるのだというようにディスプレイを指さした。
 何気ないレスには『飴村事件』と書かれている。他の噂話はオーソドックスなものからあのコンビニでドリンクを買うと袋に虫が入っている等など多岐に渡るが、どうしたものか、それだけが目を引いた。
「……飴村事件?」

●『飴村事件』
「と言うわけで事件だよ」
「です」
 紅璃の傍らでなじみがどどんと胸を張った。二人が差し出してきたのはとある掲示板のスレッドを一部分のみ印刷したものだった。
『飴村事件』と書かれたレスポンスに、どうしたことか二人とも興味を惹かれて調査したらしい。
「実は、色んな場所に同じようにこの事件について掲載されてるみたいなんだ。
 肝心の事件の内容についてはどこにも存在してない。けど……『口にするのも憚られる恐ろしい事件』であるように皆が何故か認識するんだ」
「なんだっけ、牛さんの、ほら、何かあるよねえ?」
 なじみは「そういう聞いちゃいけない怪談みたいだ」と唇を尖らせる。これは夜妖であろうという結論がカフェ・ローレット内でもまとまった。
 曰く――『架空の事件であるはずなのにそれが恐ろしい怪談で有るかのように匿名掲示板で発達していく』のだ。そこで語られた内容より夜妖が暴れ出す可能性、となじみと紅璃は顔を見合わせる。
「一先ず、この事件については継続的に調査してみよう。
 ……スレッドのURLは皆のaPhoneに送っておくから、気になる怪異の情報は教えてね。
 で、なじみさんたちが気になったのはこの、『怪ビル』ってやつなんだけど……」

 243:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 怪ビルのヤツも飴村派生だっけ?
 あの、突然異世界に入り込んでてってやつ

 260:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 飴村事件の詳細を知ったヤツが秘密裏に処理されてるんだろ、怪ビル

「……と、言うわけで、この怪ビルは『夜妖』であります」
「どうして分かったの?」
 にんまりと微笑んだなじみに一人で調査したんだろうな、と紅璃は溜息を吐いた。

 気付いたら別の場所を歩んでいた。そして、目の前にはビルが存在し、どうしてか入らなくてはいけないと脅迫観念的に足を運んでしまう。
 中に入れば「ごん、ごん」と繰り返す黒い人影が存在し――……

「その黒い人影さえ対処すれば『怪ビル』は倒せると思う。うんうん、一先ず、夜に集合して『飴村事件』の話でもしながら皆で迷い込みに行こうぜい」

GMコメント

夏あかねです。
<希譚>が『元から用意されていた存在』ならば、こちらは『今から作り出される存在』ですね。
まずは、調査から。

●成功条件
『飴村事件』より派生した『怪ビルの夜妖』の討伐。

●『怪ビル』
 オカルト掲示板に書き込まれている噂話。『飴村事件』と呼ばれる『架空の有り得もしない怪談』の集合体の一つ。

 飴村事件について検索して他愛もない会話をしていた何時もの帰り道。
 気付いたら別の場所を歩んでいた。そして、目の前にはビルが存在し、どうしてか入らなくてはいけないと脅迫観念的に足を運んでしまう。
 中に入れば「ごん、ごん」と繰り返す黒い人影が存在し……それに捕まれそうになった時、財布の中に入れていたお守りが熱を発し、気付いたら家の前に立っていた。

●『怪ビルの夜妖』
「ごん、ごん」と何故か繰り返す黒い人影です。戦闘能力は不明ですが、夜妖のテリトリーである『怪ビル(異世界)』に引き込まれるために注意が必要でしょう。
 周囲は昏く、正攻法で倒せるかも不明です。本当にホラーテイストな空間ですので、この討伐対象以外の夜妖や『本当の幽霊』も潜んでいる可能性がありますね……?

●『飴村事件』
 オカルト掲示板に『中身も存在しないのに皆知っている気がするとても恐ろしい口にしてはいけない怪談』として語られてる事件。
 どうしてかそれは目を引き、『それに纏わる夜妖の噂』を書き込みたくて仕方が無くなります。そして、その噂は本当に夜妖を生み出しているようですが……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

それでは、新たな『噂』を見つけにいってらっしゃいませ。

  • 再現性東京2010:飴村事件完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月06日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
天雷 紅璃(p3p008467)
新米P-Tuber
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
越智内 定(p3p009033)
約束

リプレイ


 それは本来、存在して居ないはずの事件であった。『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は興味深そうに画面を覗き込む。生み出された噂が夜妖を作り出す。怪異を認められずに居ながらも非日常を好む住民達は皆、知らず知らずのうち『異世界のルール』の中で生きている。
「……何とも皮肉な話だな」
「元からいた存在じゃなくて生まれてくるものってのが怖いね。
 だってそれって、噂をする人が居る限りはこの一連の騒動に終わりはないって事だろう?」
 目の前に何かが存在した、と。そう口にすれば『居た事になる』というならば、飛び出した言葉を引っ込めることが出来ないこの現状をどう例えれば良いのだろうか。『綾敷さんのお友達』越智内 定(p3p009033)は「それって、なじみさんみたいな夜妖憑きが増えるかも知れないって事だろう?」と呟いた。
「ああ。其れが『噂話』へ変貌するというならば。
 都市伝説や怪談の類であるのなら、明確な形式を有した話である必要は無いという事か。
 火があれば、水があれば、と精霊が其処に存在するかのように悪性怪異とは斯くも簡単に生み出される。……聊か、見積もりが甘かったようだ。よもや、そこまで厄介な存在だったとは」
 溜息を一つ。『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は肩を竦める。aPhone10で確認した『飴村事件』の概要には様々な憶測が飛び交っている。その中でも、異世界へと辿り着くという『ネタ』は人気が高そうだ。
「究極的に怪異という物が人間が生み出す以上、既出の怪談などとも類似性が見つけられそうだが。
 これは、音の怪異なのか。境界で音を立てる怪異。音は聞こえるが、その姿は不明瞭。
 正体は小動物だったりするが、どうなのだろうな」
「小動物が暴れている、などと書けば白けてこの話も終了、かもしれないな?」
 実際にはスレッドは伸び続け、どれだけ『話題を消す』事ができるかは定かでは無いのだと『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)の無表情を眺めながら『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は肩を竦める。
「しかし、相手の情報収集は容易だ。こうも無尽蔵に要素を付け足されると困るが、全てが混じった存在が生み出されると言うよりも小出しにしてくれる方が有り難い」
 愛無の指先がスマートフォンの画面を突く。拡大された書き込みは『飴村事件って何さ?』と問い掛ける質問であった。
「中身なんて存在しないから誰も答えられない。けれど、皆が知っている気がするとても恐ろしい口にしてはいけない怪談ねぇ……言ってははいけないというのが『一番魅力的』だ」
 実際に噂の真実はこうでした、と打ち消すのが一番だろうと『流離人』ラムダ・アイリス(p3p008609)が告げればニコラスも「ああ、そうだな」と頷いた。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花。上質な怪談をちんけな三文喜劇に作り替えてやろうぜ」
 例えば、『マネキン人形が廃棄されていた』。『隙間風が吹き込むことで唸り声に聞こえた』『アート気取った落書きだ!』と適当に告げれば良いだろうと。架空の有り得もしない怪談には必ず『真実』が存在して居ると提案してみるのが良いだろうと告げる言葉に悩ましげに『スレ主』天雷 紅璃(p3p008467)が呻いた。
 ――オカスレ発祥の夜妖なんてのもいるんだね。まぁ怪談、都市伝説の性質を考えればありえる話ではあったよね。何はともあれ掲示板とあれば私も頑張らなくっちゃね!
「……とは、言ってみたけど面白半分で伸びていくとちょーっと困るなあ!
 けど、対処はしやすい噂で流れを固定してやれ。いけ、コテハン! 私は『ゴンゴン』って『言語道断』が途切れてたとか、逃げたら後が怖い希望ヶ浜の先生が夜に出歩く生徒に注意してた説を推すよ!」
 多数の情報をそこに混ぜ込んで。『なかったこと』にならずとも今回だけは一先ず収束へ向かわせるために。努力を怠らぬイレギュラーズ達はスレッドと格闘し続ける。
(飴村事件。語ってはいけない事件、か。
 この再現性東京で語ったらいけない外の世界のことだよな。もし本当にそんな事件があったなら差し詰めその境界をぶち壊そうとした事件だったりすんじゃねぇか。……なんて推測は今はいいか)
 ニコラスはふと、懸命にスレッドと戦うイレギュラーズの横顔を見た。曖昧すぎる恐怖を分かりやすい恐怖に変えて、語り定めて都合の良いものにすれば良い。
「都合が良い」
「そう! ごんごん言ってる話でしょ? 会長知ってる知ってる。
 ちなみに、ごん、ごんって最近いろんなカルト教団の間で流行ってる言葉らしいよ!ㅤこの前の教祖集会(嘘)でもみんな使ってたし!(嘘) 会長も普段からごんごん言ってるごんよ!」
 笑顔で軽やかに嘘を吐く『口達者な会長』楊枝 茄子子(p3p008356)に「なんだってー!」と反応する綾敷・なじみ。彼女に「信じないで」と肩を叩いた定は朗らかに笑ったなじみをみて、ぽつりと零した。
 ――僕は、夜妖の憑いた人間を相手にしなければならなくなったとき、戦えるのだろうか。


『話に夢中になっていれば見知らぬ場所に来たと錯覚してもおかしく無い、開発が多くて姿を良く変える地域がある。
 また、そういう場所で入口が開かれた建築物があれば、このようなスレッドに訪れるオカルト好きはついつい入ってしまうものだ』
 物語の調子で書き込んだグレイシアに興味をそそられる者も幾人か存在する。『今から話すのは前に経験した話で、似ていると思った』と冠を付ければ流れは其方に固定されるというわけだ。
『異世界に入り込んだと思ったが、その場にいた、黒い作業着を着た開発関係者に注意をされた』
 ならば、とスレッドに書き込まれるのは『怪しい作業では?』『人目を避けるなんて秘密組織だ!』などと面白半分の言葉が書き込まれていく。
「中々……想像力も豊かな者達だな」
 呟くグレイシアに紅璃はからからと笑った。「まあ、オカスレってそんなもんだとは思うけど!」と言いながら、流れを見守り『怪ビル』への道を辿り続ける。
『それじゃあ、今から行ってくるか』と囲んだのはラムダ。つまり情報収集役をそのスレッドの中で買って出たというわけだ。
 行ってらっしゃいと送り出す者大多数、その中でも止めた方が良いと危機感や警察が来るかもと正義感を翳す者もちらほらと見える。
「……まあ、行ったと言いながら適当なことを書き込んでなかったことにするわけだが」
「けど、『異世界』に行くのはまあ、確かなんだよね……」
 小さく溜息を吐いた定は相手が夜妖だと言われようとも恐ろしさは拭えないのだと非難の声を上げた。
「黒い人影が発する『ごん』って言う言葉自体に何か意味があるのかな……? 何か機械が動いている音の様にも思うけれど」
 スレッドを眺める。前回この怪ビル事件ではお守り効果で助かったという旨のみが書き込まれていたが、他に何か『怪ビル』の解決方が無いのだろうかと目を皿のようにして確認し続ける。
「噂の信用度は即ち目にする頻度の多さだ。スレ内で良く見られる方法があれば確認して置こう」
「うんうん、で、気になるのは『お経を唱えた』とかだけど、やっぱりそういうのは万国共通なのかな……って」
 紅璃と定がスレッドを読み込む中で、突然『それは宗教組織の集会だ!』という流れが勃発した。茄子子考案、そして複数人がその案を流布するカルト教団の中で流行していて、『ごん』を広げる練習をしている説が有効打になりそうである。
「会長凄くない?」
「あ、ああ……俺の流した『ビルの黒影の『ごん、ごん』というのは牛蒡のこと。つまりそいつは廃ビルで牛蒡鍋をしようとしてるおっさんなんだ。こんなとこで牛蒡鍋してるのがバレたらまずいから口止めの為に追いかけ回したってのが真実』よりも勢いよく拡散されている」
 茄子子が胸を張った。ニコラスのそれは多少の無茶はあるが面白さで数人には『ワロタ』などとレスポンスを貰っていた。
「放置しておいたら怪ビルはカルト教団のゴンゴン集会と言うことにはならないだろうか。いや、ならないな。そもそも、この怪異や最早顕現しているというならば『潰しておいて』、この続きがないようにすることが一番だ」
 愛無はaPhoneを無造作にポケットへと突っ込んだ。怪異譚である以上、その噂が第二第三の『怪ビル』を作り出さないように気をつければ良いのだ。現状の怪異に『カルト集団の~』という設定が付属したとしても夜妖で有ることに変わりは無いのだから、この話から興味を失せさせることが一番だ。
「秘密裏に処理云々というのは催眠による記憶処理で、異世界やお守りの熱云々はその記憶処理による偽りの記憶に過ぎない……と、なると『良くあるスレッド』の話になったのではないか? 実在する宗教法人にそっと触れることで――」
 ふと、そこまで口にした後、汰磨羈の目に止まった書き込みは実に希望ヶ浜らしかった。

 ――静羅川立神教の集会だったりして?

「静羅川立神教?」
「え? 会長の商売敵ってこと!?」と茄子子は驚いたように肩を跳ねさせた。
「……あ、希望ヶ浜だと一番目立つ新興宗教ってやつかな? なじみさんは――ううん、あんまり知らないかも」
 定は彼女が口をはくりと動かした様子から『あ、言葉を喰われた』んだとそう感じた。成程、夜妖憑きとは面倒な存在である。汰磨羈とグレイシアは彼女に待っていてくれと別れを告げて、歩き出した。向かうのは『怪ビル』――怪異に『逢い』に行くために。


 点滅する信号はやけにリズミカルに切り替わる。混乱したかのように赤と青を行ったり来たりとするその光の中をぐんぐんと進んでいけば、怪ビルと呼ばれるその『空間』が眼前には存在した。
「ここか……」
 汰磨羈の足下で猫が周囲をきょろりと見回している。伸びる影を鮮やかに照らすのは愛無の輝きとグレイシアの炎である。その異様な『灯』の中でグレイシアは自身と共に異界へと踏み入れた存在以外は異形――未知の存在として扱うのべきだとまじまじと怪ビルの中を見回した。
「怪異とは面妖だな……こうも存在をしっかりと作り出せるというのか」
 呟くグレイシアに愛無は「臭いがあるか解らんゆえ。他の者とはぐれないようにという意味合いのが強くなりそうだが……『厭になる存在の主張』を臭いで行われると敵わん」と小さく呟いた。
 怪異の弱体や鎮静を行えば適度に攻撃を行い対処すれば良いだろう。排気口などは溝鼠が走り回っていたであろうが故に、『人影』だけを素早く見分けて討伐を行い帰還したい者だ。
「あんまり離れなちゃだめごんよー! 会長が良い言葉教えてあげるごん! 覚えて帰ってごん! 『遠足はおうちに帰るまで!』ごん!」
 にんまりと微笑んだ茄子子が誰かの手をぎゅうと握る。ラムダは「誰の手を握っているんだ?」と静かに問い掛ける。
「え?」
「今、誰かの手を引いただろう?」
 茄子子は周囲を見回し「違うの?」と言う視線を向けるが定も紅璃も首を振る。そもそも片手にはaPhoneを握って居り、もう片方の手は有事のために開けてあった二人の手を握ることは出来ないはずだ。
「……」
「えっへっへ、やだなー。会長をびっくりってオギャアアアア!」
 茄子子が叫んだ。ラムダはくる、と振り返り「黒い影のお出ましか」と叫ぶ。
「思わず素が出たごん! 今日のキャラ付けはごんだごん!
 でたな黒い影!ㅤみんな!ㅤなんかいい感じに倒すごん!」
 統率を取る茄子子に『さっき彼女は誰の手を握ったんだ、怖い、やめてよそういうの!』と叫びだしそうな定はポケットに入れていたヘッドライトの灯を其方に向けられない儘、「ええ……」と小さく呟いた。
「怖いけど、やるしかないんだよね……!」
「ああ。『誰の手を握ったのか』は非常に興味深いけど、夜妖を倒すことこそが先決だね?」
 真実あーんど現実はこんなもんだった、という情報提供を行うつもりだったラムダは思わぬ所で『ホンモノ』と出会えてしまったかも知れないと肩を竦めた。

 ゴン――ゴン――

「どういう意味だごん!」
 びしりと指さす茄子子に紅璃は「ゴンしか言わないごん……あ、映っちゃった」と小さく呟く。
「ううん、兎も角! 録画しておいたのに何か微妙なオーブが映っていても気にしないでおくよ!
 さあ、行こう! 肝試しの結果をスレッドに書き込まないと住民達が待ってるんだ!」
 終わったら記念撮影を行って投稿するのだと紅璃が指させば、するりとその隙間を抜けるように愛無が前線へと飛び出した。粘膜で生成された触手はぐるりと絡みつく。黒い影の正体を、と考えれど、それが『この怪談より発生した夜妖』なのであれば、実体は存在しないのかも知れない。
「さて、こちらが流した噂の効果は如何程かな?」
 しかし、 汰磨羈が呟くように黒き影はその体から意味の分からぬ文字の羅列が描かれた札をぼとぼとと落とし、次第にその輪郭が『一人の人間』――しかも、おじさんである――を象り始める。噂が広がったという事か。
「ごん……ごん……」
「黒いローブの下には一人の男が宗教法人の集会のリハーサルを行っていた、か。
 そして、それならば特別な攻撃能力も有さないだろう。打楽器は五月蠅くて敵わないが――」
 此れならば、容易に倒せると 汰磨羈は地を蹴った。モノクル越しまじまじと見遣ったグレイシアは男の足下から黒き影を錬成する。影には影をと言いたげにずるりと這い上がっていく蛇が吸い取れば「ごん!」とけたたましく男が叫んだ。
「良ければプレゼントだ」
 グレイシアはお守りを投げて寄越す。その刹那に、定とラムダが攻撃を与えれば夜妖は驚く程簡単に膝をついた。
「ていうかこれ人影倒したら終わるやつなのかな?」
「この怪ビルは終わっても『飴村事件』ってのはまだまだ終わり知らずだろう。
 複数の噂が絡み合った以上は『更なる派生』がある可能性は否めない」
 ニコラスは小さく呟いた。茄子子が「ええー」と小さく呟く声に「仕方が無いだろう」と懐中電灯の光を当てながら、攻撃を重ねていく。幽霊に物理攻撃の効果があるかはさておいて、夜妖には確かに『攻撃』が敵っている。つまり、幽霊と夜妖は全く別の個体だとでも言うことか。
「寺生まれじゃないけど悪霊退散悪霊退散、封っ!」
 叫ぶ紅璃の激しい『寺生まれごっこアタック』により夜妖のその体は霧散する。
「もしもし」
 定はほっと一息吐いたのも束の間というようにゆっくりと前を指さした。
「あのお守り、燃えてない?」
 赫々たる炎を上げ始めたお守り。どうやらこの場所への拒絶反応か『異世界あるある』なのかおまもりが熱を持って、どうしてか発火しだしたようである。
「で、さっき誰の手を握ったんだ?」
 ラムダの問い掛けに茄子子は「ひとり、ふたり」と数えた後、「皆居るからだれかでしょ?」と微笑んだ。
「いや、待ってほしい。今、一人多くなかったか?」
 ニコラスの問い掛けにグレイシアと愛無ははた、と想い出す。危険だからとなじみの事は外に置いてきた筈だ。
「と、兎に角帰るごんーー!」
 ……本当に誰か居たのか、事実は不明なのである。

 最新版aPhone10を手にして定は『肝試し終了!』と書き込んだ。
 続くように、何もなかったと写真をUPするラムダと紅璃。怪ビルに関してはこれ以上の面白半分の噂は立たず、何事かが起ることはないだろう。
 だが、飴村事件は全容の語られぬ怪談だ。それ故に、様々な派生が起らないとは限らない。グレイシアは「井戸の底に、エレベーター……無数の噂が存在して居るのだな」と小さく呟く。
 それぞれに対してのアプローチがどのようになるかは分からない。もし次も怪談が現われたならば――寺生まれではないことを悔やむ紅璃に茄子子は「ねえ、今一人多くないよね!?」と何度も何度も問い掛けた。
『皆で肝試ししたけど、出たのは猫くらいだったよ』
 ――そう可愛い二股尻尾の猫ちゃんさ! と、言えば「私の事かい?」と揶揄われるからお口にチャック。にんまり笑顔のなじみの下へと揃って帰ろうではないか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 967:以下、希望ヶ浜住民がお送りします 2020/0?/??(?) xx:xx ID:p3pxxxxxx

 で、実際飴村って?

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