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シナリオ詳細

再現性東京2010:真庭香織、危機一髪。或いは、死者と笑う夜…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●拝啓、死者より。求む笑顔を
 練達。再現性東京。
 その一角にある白い屋敷。
 近隣住民から“真庭邸”の愛称で親しまれているその屋敷には、仲の良い家族が暮らしていた。
 父と母と1人の娘、そして朗らかな使用人たち。
 彼らは近隣住民から愛され、そして彼らもまた近隣住民を愛していた。
 だからこそ、真庭夫妻が急死した際、近隣の者たちは悲しんだ。
 1人残された娘……真庭香織の心情を想い、涙を流した者もいる。
 気落ちし、陰鬱な気配を纏う香織の姿を見て、何も出来ぬ自分を恥じた者もいる。
 しかし、いつからだろう。
 しばらくの間、幽鬼のごとく落ち込んでいた香織であったが、ある時期からかつての笑顔を取り戻しつつあるようだった。
 
「そろそろハロウィンの時期ね。ねぇ、毎年この時期になると、父は庭を開放してパーティを開催していたわよね?」
 真庭邸の一室で、香織は家事手伝い兼ドライバーを務める男にそう問うた。
 長らく真庭一家に仕えてきた彼の名は“五木”。
 真庭一家からの信頼厚い初老の男性使用人である。
 影に日向に一家を支えたその手腕と献身。世が世なら、執事長の肩書きを与えられていたかも知れない。
 もっとも、現在の真庭邸には彼を含め3名の使用人しか残ってはいないのだが……。
「えぇ、えぇ。お父上は人の笑顔や笑い声を一際愛するお方でしたから」
「そうよね。あの人は、もてなし好きだったから」
 この世を去った父を想い、香織の胸は僅かに痛む。
 けれど、それはすぐに溶けて消えた。
 残されたのは、陽だまりのように暖かな気持ちだけ。
 失った者は戻らない。
 父は香織が嘆き、悲しむことを喜びはしない。
 そんな父が、残してくれた者はなんだ?
 それは莫大な財産と、誇り高き“自身の生き様”だった。
 家族の笑顔の為に。
 友人たちの笑顔の為に。
「手の届く範囲に、ほんの小さな幸せを……」
 ぽつり、と。
 香織が口にしたその言葉は、亡き父が生前よく言っていた言葉。
 彼の口癖だっただろうか。
「……香織さん」
「五木さん。パーティの手配を。いつまでも私が立ち止まっていることを、あの方はきっと喜ばないと思うから」
 思えば、悲しみと涙と欲深き者たちの悪意に満ちた葬式だった。
 笑顔を愛した父と母の最後を飾る催事として、それはあまりにも相応しくない。
 父と母を送るのならば、それはきっと皆の笑顔であるべきだ。
「屋敷を笑顔で彩りましょう。それが2人への、何よりの手向けとなるはずよ」
 幾千万の花束よりも、たった1人の笑顔をここに。
 煙たいだけの線香よりも、甘いケーキと蝋燭の香りを。
 陰鬱とした御霊燈は、かぼちゃのランプに置き換えてしまおう。
「えぇ、はい。はい。すぐに手配致します。どうぞ私にお任せください!」
 目尻に涙を、口元には笑みを浮かべた五木はそう答えた。
 と、そこで彼はほんの一瞬、表情を暗くし声を潜める。
「ですが……香織さんの命を狙う者もまだいます。パーティに乗じて、刺客が差し向けられる可能性も」
「そうね。その点だけが懸念だけれど……そうだわ。彼らに依頼してみましょう」
 
●正体不明のスケアクロウ
「と、いうわけで……私たちが護衛に呼ばれたというわけね?」
「そういうわけで、みなさんが護衛に呼ばれたというわけなのです」
 マリア・ドレイク(p3p008696)の問いに『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は軽い調子で言葉を返す。
 場所は練達。
 真庭邸の庭。ハロウィンパーティの会場となる。
「当日は100名を超す近隣住人が真庭邸を訪れるです。近隣でも催しを実施しているところもあるので、人の行き来は活発。見知らぬ人も沢山いるのです」
「まぁ、私たちからしてみれば、見知った顔の方が少ないのだけれど……」
「でしたら何ら問題はないのです」
「問題しか無いわ」
 数多の一般人の中から、香織に差し向けられた刺客を見つけ出し対処する。
 言葉にすればたったそれだけ。
 けれど、実行に移すのは至難であろう。
「おまけにパーティの最中と来てはね……念のため聞かせて貰うけれど」
「パーティがめちゃくちゃになるような真似は駄目駄目ですよ? 誰かが泣くような結果になっては、香織ちゃんが悲しむです」
「……でしょうね。会場は真庭邸の庭。なかなかに広いわね。花壇も多く、当日はブッフェスタイルの軽食と菓子が振る舞われる……か」
 そして、ハロウィン特有のおどろおどろしくも可愛らしい飾り付け。
 薄暗い庭を照らすは、かぼちゃをくり抜いて作ったランプ。
 ジャック・オー・ランタンという妖精を模した者らしい。
「参加者たちの多くは思い思いに仮装をしていると……怪しい奴のオンパレードだわ」
 香織を囮に、刺客を誘き出す。
 或いは、パーティ参加者の中から刺客を捜して捕まえる。
「刺客の捕縛は無視して、パーティ終了まで、香織を守り通すという方法もあるかしら? 騎士役はあの少年に任せてもいいけれど」
 と、マリアは顎に手を当てそう呟いた。
 彼女の言う“あの少年”とは“神崎匠”のことだろう。
 つい数ヵ月前に香織と知り合い、想いを寄せる近隣の高校生だ。
 現在、香織とは友人関係を築いているそうだが……。
「いいところのひとつでも見せる機会を作ってあげたいところだけれど……今回は少し危険かしらね?」
 そう言ってマリアは手元の資料に視線を落とす。
 今回、香織を狙う刺客の名は“スケアクロウ”
 案山子の異名を取る、性別、年齢、国籍のすべてが謎に包まれた男だ。
 ターゲットを始末するためなら、同じ場所に何ヵ月だって留まり続けるというその仕事ぶりを指して“案山子”とそうあだ名されている。
「得物はナイフや、その場にある“物”……フォーク1本で1国の要人を暗殺したこともあるとは、恐れ入るわね」
 そう言ってマリアは自身の拳に視線を落とす。
 彼女がその気になれば、拳1つで他者の命を奪うことも可能だろうが……。
「殺害方法も多岐にわたるのね。爆殺、毒殺、絞殺、射殺、刺殺……まさに手当たり次第と言ったところね」
「ボクたち風に言うなら【弱点】【猛毒】【業炎】に注意、というところなのです」
 姿の見えない敵をどう発見し、香織を守り抜くか。
 依頼達成のためには、その手段を考じる必要があるだろう。
 加えて、パーティ会場に混乱をもたらさない為の配慮もだ。
「まぁ、どうにかなるでしょう……面子は集めておくから」
 報酬の用意はよろしくね、と。
 そういってマリアは、資料を纏めて抱えると、踵を返して素早くその場を後にした。

GMコメント

アフターアクション、ありがとうございます。
こちらは「再現性東京2010:或いは、オー・マイ・ラブ…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3836

●ミッション
パーティ終了まで真庭香織を守り抜く

●ターゲット
・真庭 香織
黒く艶やかな長髪を持つ美しい少女。
つい最近、多額の遺産を相続し大きな家に1人暮らし。
亡き両親の想いをついで、ハロウィンのパーティを開催することにした。


・神崎 匠
17歳の高校二年生。
陸上部に所属している。
174センチ。割と顔はいい方と評判。
少々思い込みが激しい傾向にある。
香織とは現状、友人同士。

・五木
真庭家使用人。
他数名の使用人たちを取りまとめたり、香織の送迎を担当する初老の男性。
真庭家に仕えて長く、香織やほかの使用人たちからの信頼も厚い。

・スケアクロウ×1(?)
性別、年齢、国籍、すべてが不明な暗殺者。
おそらく香織の親戚に雇われ、彼女の命を狙っているようだ。

環境利用殺法:物中単に大ダメージ、弱点、猛毒or業火
その場にある物を利用し、ごくごく自然にターゲットを死に至らしめる。

●フィールド
真庭邸の庭。
時刻は夜。
100名を超えるパーティ参加者が常時出入りをしている状態。
警備員やパーティスタッフはいるが、身分証の提示などが義務付けられておらずあくまでトラブル回避用の人員。
ハロウィンパーティゆえ、皆思い思いの仮装を楽しんでいる。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京2010:真庭香織、危機一髪。或いは、死者と笑う夜…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月31日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
流麗花月
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
嫉妬の後遺症
シルフィナ(p3p007508)
はじまりはメイドから
イスナーン(p3p008498)
不可視の
マリア・ドレイク(p3p008696)
守護竜
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ

●ディス・イズ・ハロウィン
 月明かりの下、騒ぎ、笑う怪物たち。
 ミイラ男に吸血鬼、魔女に悪魔にゾンビにかぼちゃ。
 思い思いの衣装を纏った彼ら彼女らは食事や歓談を楽しんでいた。
 楽しく不気味な、今宵はハロウィン。
 
 場所は練達。
 再現性東京、真庭邸。
「お嬢様、分かってると思うけど、口に入れるものには気を付けてね」
 パーティの様子を見守る真庭香織の傍に立つ、『白い死神』白夜 希(p3p009099)がそう言った。片腕をギプスで固めたミイラの仮装。本日は香織の従者に扮して護衛役を担うようだ。
「えぇ、分かってる。分かってるけど……パーティの参加者さんたちがこれだけ飲食しているのだから問題ないのではないかしら?」
 供される軽食に毒が混ぜられているのなら、とっくに何十人も病院送りになっているはず……と香織は思う。
 不安に顔を曇らせる香織の足元で、黒い猫が「にゃあ」と鳴く。
 猫の鳴き声に呼ばれたように『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が傍に寄る。
「真に警戒すべきは人から薦められたものだな。立食パーティという形式上、毒を混ぜたものを自然と手渡せる。殺す側からすればお誂え向きの会場だが……守り切ってみせるさ、必ずな」
「なるほど。そうね……注意するわ。ところで汰磨羈さん、その恰好は?」
「猫娘な巫女侍のコスプレだ」
 ぴょこぴょこと頭の上で猫耳が動く。
 よく出来た造り物……というわけではなく自前の耳だ。
「さっき先生って呼ばれてなかったかしら?」
「そう呼ばれることもあるな」
 何しろ長く生きているもので。
 属性過多なきらいはあるが、生きているうちに人はいろいろ背負うものが増える生き物。
 人ではないが……。

 獅子に扮した『地を這う竜』マリア・ドレイク(p3p008696)は、傍らに立つ神崎匠へ囁くように言葉を投げる。
 現在、香織は執事の五木から何かしらの報告を受けているところだ。
「神崎。貴方、あの執事と会ったことは?」
「あ? あるよ、そりゃ。香織さんの送り迎えはあの人がやってるんだ。って言っても、言葉を交わした回数なんて数える程度だけどさ」
 ゾンビメイクの神崎匠は、頬についた血糊を擦ってそう言葉を返した。
「そう……」
 顎に手を添え、マリアは何かを思案する。
 五木たち使用人が、暗殺者と入れ替わっていた場合の対策を考えているのだ。
「相手は優秀な暗殺者のようですからね。前もって変装されているのなら、そう簡単には気づけませんよ」
 マリアと匠の背後から、静かな声が投げられた。
 立っていたのは狼男に扮した男性。名をイスナーン(p3p008498)という。
 彼自身、元々諜報活動や暗殺を生業としていただけあって、その手の知識も豊富であった。
 今回のターゲットである暗殺者“スケアクロウ”についても、事前に調べて来ているようだ。

 会場の中央で談笑する数組の男女。
 中でも率先して話題を供しているのは金の髪の小柄な女性。『彼女への黙祷を』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)であった。
「まぁ、それじゃあ地域の方以外も多く参加されているのね? 真庭さんの人柄かしら。皆さまから愛されていて、うらやましくなってしまうのだわ……じゃない、しまいますわね」
 参加者たちとの会話を通して、華蓮は情報収集に励む。
 ちら、と華蓮が視線を向けた先ではメイド姿の『はじまりはメイドから』シルフィナ(p3p007508)がドリンクの乗った盆を片手に楚々と歩んでいた。
 華蓮の合図を受け、シルフィナは1つ頷くと、得た情報を仲間へ伝えるべくインカムにそっと手を伸ばした。

 真庭邸、二階バルコニー。
 会場を一望できるその場所で『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)と『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)は言葉を交わす。
「必ず、香織さんの笑顔も守り抜いてみせるわ!」
「えぇ、悲しみで悼むばかりが葬送ではありませんからね。立ち上がり、真剣に歩み出す助けとなれること、誇らしく思います」
 吸血鬼に扮した2人の手元には、警備員の配置図と備品のリスト。
 つぶさに会場を観察し、人の配置や物の配置にズレがないかを確認しているのだ。
 スタッフの配置を確認し終えた2人は、会場内の警備に参加するべく移動を開始。
 そんな折、2人の付けたインカムに希からの連絡が入った。
 
●案山子という名の暗殺者
 真庭香織という少女は、儚げな見た目に反しこれでなかなか豪胆だ。
 例えば、父の知り合いだという企業役員や、地域の地主が相手でも朗らかに対応してみせるし、握手などにも快く応じた。
 彼らが、自身を狙う暗殺者かも知れないとそう理解していながら。
「……お嬢様。シルフィナ以外が持って来た料理には勝手に手を付けないでね」
 身の安全を最優先にするというなら、パーティに参加させるべきではない。
 そんなことは、希も理解しているのだが、父の意思を継承したいという香織の意思を優先するのなら、その点は妥協できない。
 なのであれば、護衛を任された自分たちが彼女を何としてでも守り通す以外に道はない。
 幸い、ここまで香織に接近して来た者たちの中に不審者はいなかった。
 現状、料理やドリンクに毒が入っているということもない。
「真庭様、白夜様。よければこちらを」
 噂をすればなんとやら。
 軽食とドリンクを盆に乗せたシルフィナが香織たちの元にやってきた。
 念の為に、と毒見をしてから希はそれを香織に手渡す。オレンジジュースとサンドイッチというメニューであったが、ハロウィンを意識してかパンにはかぼちゃの模様が焼き付けられていた。
「それと、華蓮様からのご報告ですが、現状怪しい人物は見当たらないとのことです。それと、新たに数名が敷地内に立ち入りました」
「えぇ、了解です……そちらは、蛍さんと珠緒さんに行ってもらうわ」
 インカムを通じて、希は2人へ連絡を送る。
 ちょうどバルコニーから降りて来た2人は連絡を受けると同時に会場内へと紛れて行った。
 
 会場を進む珠緒は、ちらと頭上へ視線を向けた。
 空を舞う黒い影。彼女の使役する蝙蝠だ。
「怪しい動きをしている人はいない……みたいですが」
 油断はできない、と吸血鬼の衣装を纏った珠緒は告げる。
 隣を歩む蛍は、無言で小さく頷きを返した。
 会場内に新たない入った一団は、どうやら地元の保育園に通う園児たちのようだ。その引率役を務める職員は、はしゃぐ子供たちにばかり意識を向けている状態である。
 と、そんな折……蛍の行使していた【感情探知】が反応した。
 探知していたのは“焦り”の感情だ。
「見つけた。こんなに笑顔に溢れたパーティーの中で「焦り」を覚えているなんて、おかしいわよね?」
 珠緒の手を引き、焦りを抱く“誰か”の元へと移動する。
 人混みを掻き分け2人が辿り着いたその先では……。
「あら? お帰りなさい。よければお2人もサンドイッチをいかがかしら?」
 なんて、朗らかに笑う香織の姿。
 その頭には魔女の被る三角帽子が乗っていた。
「「…………」」
 そして、そんな香織の背後には頬を赤らめ身を悶えさせる匠の姿。
 感情探知で拾った“焦り”の感情は、どうやら匠の抱いたものであるらしい。
「か、香織さん、かわいすぎないか?」
 珠緒と蛍に匠はそう問いかける。
 顔を見合わせ、無言のままに2人は警備へと戻る。

 イスナーンは、ウェイターとして給仕に精を出している。
 パーティの参加者たちにドリンクを渡し、空いたグラスを回収する。
 そうしながらも、持ち主不明の荷物や不審物が落ちていないかを彼は細かくチェックしていた。
 幸いなことに、そう言った物は今のところ発見できてはいないけれど……。
「考えすぎ、ということもないでしょう。相手はあらゆる手段で暗殺を試みるようですし」
 と、彼がそう呟いた、その時だ。
「きゃぁっ!!」
 会場の外から悲鳴があがる。
 悲鳴に吊られ、そちらを向いたイスナーン。
 見れば真庭邸の前の通りで煙が上がっているではないか。
 様子を見に駆け出すイスナーンのその前を、五木が通り過ぎていく。
「イスナーン様は会場の警備を。私が様子を見て参ります」
 駆ける五木にその場を任せ、イスナーンはドリンクの乗った盆をテーブルに置く。
「イスナーン様、こんな所にいらっしゃいましたか」
 そんな彼に声をかけたのはシルフィナだ。
 軽く言葉を交わした2人は、混乱の収束へ向けて行動を開始した。現状、白煙の発生原因は不明だが、既に参加者たちが慌て始めていることが分かる。
 この混乱に乗じて、スケアクロウが香織の暗殺に乗り出す可能性もあるだろう。
 護衛役は仲間たちに任せておけばいい。

 人混みをそっと抜け出して、華蓮は会場の外へと向かう。
 護衛役の仲間たちや、スタッフに扮した仲間たちが混乱の収束や香織の警備についている今、自由に動けるのは自分しかいない。
 そのため、白煙の発生原因を調べようと1人行動を開始したのだ。
 そんな香織の視線の先から、五木が会場へと戻ってきた。ゆったりとした足取りだ。おそらくパーティ参加者たちの不安を煽らないようにという配慮だろうか。
「あの……」
 香織の護衛に就くにあたって、五木とは顔を合わせている。
 白煙の原因を知るべく、華蓮は五木に声をかけた。
「はい? いかがしましたでしょうか?」
「先ほどの煙の件、詳しくお聞きしたいのだわ。ここでは何だし、バックヤードの方がいいかしら?」
「だわ? あ、いえ失礼。バックヤードはスタッフオンリーとなっておりますので、申し訳ありませんが……あぁ、もしや香織様のお知り合いの方でしたか?」
「……初めまして。華蓮と申します。真庭様との友人関係の伝手で、参加させて頂きました」
「なるほど。然様でしたか。先ほどの煙のことならご心配なく。後ほど全体に向けご報告させていただきますので、どうぞそれまでお待ちください」
 どうぞお楽しみを、と。
 そう言って五木は踵を返す。
 その後ろ姿を見送って、華蓮は会場の外へ向けて駆けだした。
 
 汰磨羈とマリアが香織の周囲に視線を巡らす。
 会場を埋める人混みを割り、五木がこちらへやって来た。会場外で起きた異変……白煙の発生原因を調べに出ていたはずだが、どうやら調査は終わったらしい。
 五木が香織の元へと着いた、その直後……。
『五木さんを止めるのだわ! そいつがスケアクロウよ!』
 2人の付けたインカムに、華蓮からの連絡が入る。
「なっ……」
「神崎!  お姫様のナイト、任せたわよ!」
 華蓮の連絡を耳にするなり、マリアと汰磨羈は即座に行動を開始した。
 汰磨羈は腰の刀を抜き、五木へ向けて斬りかかる。
 マリアは声を張り上げて、香織の隣に立つ匠へと指示を飛ばした。
 困惑し固まる香織の前で、五木……正しくは、五木に扮したスケアクロウがその懐からナイフを抜いて……。
「香織さん、危ないっ!」
 何が危ないかなんて、きっと理解していないのだろう。
 スケアクロウが動き始めるより先に、匠は行動を開始していた。
 彼はマリアの警告を全面的に信用することに決めたのだろう。
 果たして……。
 スケアクロウの放ったナイフが、匠の腹部に突き刺さる。
「きゃぁぁ!?」
 目の前で起きた凶行に、香織は思わず悲鳴をあげて。
 匠の身体がぐらりと倒れた、その直後。
 汰磨羈の刀が、五木の背へと振り下ろされる。

●誰でもない男
 地面に転がる発煙筒。
 そして、脱ぎ捨てられた黒いマントと赤いウィッグ。
 五木によって設置されたものだろう。現場に向かう途中には「立ち入り禁止」の看板が設置されていた。
 そのせいで周囲に人の姿はない。
 ただ1人だけ……気絶し、縛られた状態で植え込みに倒れた五木を除いて。
「っ……⁉ やっぱりなのだわ! さっきの五木さんの反応、まるで私のことを知らないみたいだったもの……」
 パーティ参加者に紛れ込んでいるとはいえ、五木とは顔を合わせている。
 そんな華蓮を、彼が知らないはずがない。
 だと言うのに、先ほど五木は華蓮を単なる“一般参加者”として扱ったのだ。
 五木の安否を確認するより先に、華蓮はインカムのスイッチを押す。
「五木さんを止めるのだわ! そいつがスケアクロウよ!」
 仲間への指示を出した華蓮は、急ぎ五木に駆け寄った。

 腹部を刺され倒れる匠。
 その体を抱きしめて、香織は大きな悲鳴を上げる。
 友人が目の前で刺されたのだ。17の少女に冷静でいろと言うのは酷な話だろう。
 匠を刺した五木……スケアクロウは汰磨羈の刀を回避して、素早くその場を飛び退いた。スケアクロウを追って、汰磨羈とマリアが駆けていく。
「た、匠! しっかり!!」
 悲鳴をあげる香織の前で、匠はゆっくりと目を開けた。
「い、てて……だ、大丈夫。衝撃で意識が飛んでただけだから」
「……意識が飛んでただけって、だってナイフで……」
「いや、これ。マリアさんのアドバイスで、服の内側に仕込んでたんだ」
 と、そう言って。
 匠が服の内側から取り出したのは、先日発売されたばかりの週刊漫画雑誌であった。
 そんな2人の様子を見ながら、希はライフルへ手を伸ばす。
「人が多すぎる、精密射撃……いや、格闘で取り押さえるしか」
 屋敷の裏へ向け逃げていくスケアクロウ。
 狙い撃つには、間に居る人の群れが邪魔だった。
「……仕方ないね。私はこのまま2人の護衛を続けよう」
 万が一、スケアクロウに仲間がいた場合のことを考えて。
 スケアクロウの捕縛は仲間に任せ、希は香織の護衛を継続することにした。

 香織のあげた悲鳴によって、一度は沈静化したけていた参加者たちが再びざわめき、混乱し始めた。
 その様子を伺っていた蛍と珠緒は、スケアクロウの捕縛へ向かうことを諦めた。
 無理やりに人混みを分けて移動すれば、会場に余計な混乱を起こしかねない。
「皆に任せるしかなさそうだね」 
 【保護結界】を展開しつつ、蛍はそう呟いた。
 混乱の最中に器物が破損することを警戒しての行動だ。
 一方、珠緒は近くに居た子供たちの保護へと動き出す。騒ぎに巻き込まれてしまうことで、子供たちが怪我を負うことを嫌ったのだ。
「さっきの声は何? 何があったの?」
 子供の1人が今にも泣きだしそうな声でそう問うた。
 そんな子供の頭を撫でて、珠緒は告げる。
「大丈夫よ。心配しないで」
 怯えた様子の子供を安心させるには、しかし言葉だけでは不足のようだ。
 そんな珠緒の様子を見かね、菓子を片手にシルフィナが子供たちへと近づいた。
「どうぞ。よければこちらを」
「うん。ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんは食べないの?」
「私は私で残った料理やお菓子を後でいただきますので、大丈夫です」
 にこり、と。
 どこかぎこちない笑みを浮かべて、シルフィナはそう告げるのだった。

 素早く振るわれたナイフが、マリアの腕を深く切り裂く。
 舌打ちを零し、マリアは素早く数歩後退。
 そんな彼女を追い越して、刀を構えた汰磨羈が駆ける。
 流石のスケアクロウも刀を相手に切り結ぶつもりは無いようで、即座に踵を返して逃げ出す。
 わざと狭い道を通っているのは、少しでも追手の動きを制限したいからだろう。
 障害物が多くなればなるほどに、汰磨羈も刀を振るいにくくなるのだから。
「逃げるなら、深追いする必要ってある?」
 と、マリアは問うた。
「執念深い暗殺者のようだからな。ここで捕縛した方がいいだろう」
 汰磨羈の答えに、マリアは1つ頷くと。
 汰磨羈を追い越し前に出て、その場でくるりと踵を返した。
 そして、深く腰を沈めると体の前で腕を組む。
「分かったわ。追いつかせるから、屋敷の外に出る前に、さっさと仕留めてしまいなさい」
「あぁ、任せておけ」 
 マリアの組んだ手の上に、汰磨羈は素早く足を乗せる。
 その瞬間、マリアは全身のバネを使って汰磨羈の身体を斜め前方へと投げ飛ばした。
 弾丸のように加速し、宙を飛ぶ汰磨羈。
 その手に握られた刀が、きらりと怪しく光って見える。
「……⁉ な!?」
 汰磨羈の接近に気づいたスケアクロウが、驚愕に目を見開くが……。
「相手が悪かったな。諦めろ」
 一閃した汰磨羈の刀が、スケアクロウの首筋を打つ。
 刃を反した状態での峰打ちだ。
 もっとも、骨に罅ぐらいは入ったかもしれないが。
 
 意識を失いスケアクロウが倒れ伏す。
 彼が向かっていた屋敷の裏口からは、男1人を引き摺りながらイスナーンが現れた。
「そいつは?」
「逃がし屋、ですかね? 裏口で怪しい動きをしていたので、捕まえてきました。尋問でもして、依頼主の情報や証拠を集めてやりますよ」
 と、そう言って。
 気を失ったその男を、スケアクロウのすぐ隣へと放り投げた。
「それが終わったらパーティーを楽しみましょう」
 狼の付け耳を付けなおしつつ、イスナーンはそう宣って微笑んだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
依頼は成功となります。
スケアクロウは無事捕縛され、香織の命は守られました。
余談ですが、身を挺して香織を庇った功績により香織→匠への好感度がUPしました。

この度がご参加ありがとうございました。
また縁があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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