シナリオ詳細
得るものは名誉の傷のみ、失うものは何もなし
オープニング
●
「うー、寒ぃっ」
ここは「処刑場」だと誰かが言った。
鉄帝国北東部に広がる貧しい大森林地帯『ヴィーザル地方』。
”力こそ全て”のこの国においても、顧みられない土地というのは存在する。
厳しい凍土に閉ざされるこの土地に赴任することは、多くの兵士たちにとっては「左遷」を意味していた。
連合王国ノーザン・キングスと名乗る少数民族たちからの国土の防衛、という任務はあるにはある。しかし、負けぬが当然、勝っても奪って欲しいような土地はない。
目覚ましいような名誉もなく、勝利もなく。ただただ、錆びついて戦士としての生命が終わるのを待つのみ。それが、多くの軍人の理解であった。
最近やってきた将校は、赴任を命じられて以来、失意のままに表に姿を現すことはないという。
上が上だから、いくら鉄帝の軍人といえども、末端の兵士たちの士気があるわけなどなかった。
上官の目を盗んで訓練をサボっている始末。
決意を秘めたノルダインの戦士たちが、それを睨んでいた。
「で、奴らは何をしている?」
『冬瓜の』ウルスラグナはノルダインの荒くれ者たちをまとめ上げる男であった。筋骨隆々、その手にある斧は心なしか体格のせいで片手斧にすら見える。
「……芋、焼いてます。落ち葉集めて」
「ぐはははは、愚かな鉄帝軍人どもが! 油断しおってからに! だが、まあ、それは都合が良いというもの」
「……ま、こんなところに来ちゃあ気持ちはわかりますけどね。俺たちヴィーザルの民には、なんにもないっすもんね。肥沃な土地も、なーんにもね……」
「何もないだと、嗤わせる。俺たちはそこで生きてきた! 人がいる、男は鉱山、女子供は奴隷でも、手仕事でもさせればよいわ。俺たちはそうやって生きてきた、そうだろう?」
この寒村は、防衛の手が薄い。
なぜならば、ここを奪おうともめぼしい資源はなく、「何の利益もない」はずの場所なのである。しかも、冬となれば細々とした工芸品があるくらいの土地だ。
だが、彼らは、理屈では行動していなかった。「攻められるから、落とせそうだから、落とす」。「手に入るから、奪い取る」。
凍てつく峡湾を統べる獰猛な戦闘民族ノルダイン。
ただ、戦いが好きだった。
「ノルダインの誇り、見せてやるわい!」
●
かくして、ノルダインに占領された国土について、鉄帝の要人たちが集まる会議が行われた。
「お父様!」
会議室から出てきた父親を、エミリア・スカーレットが呼び止める。
「派兵は決まりましたか? 今にも民が苦しんでいるはずです。命さえあれば、この私、すぐに、出立します」
答えたのはエミリアの父ではなく、にやついた鉄帝軍人であった。
「おや、ご息女ですかな? 勇ましいことです。こと鉄帝においては美徳でありますな。しかし……”兵は出さぬ”と決まりました。残念ですが」
残念、という割には、貴族は嫌な笑みを浮かべている。
「なっ、ど、どうしてですか!?」
「”利益がないから”ですよ。ノルダインにもあの村を維持する力はありますまい。放って置いたら、そのうち放棄されるでしょう。ああまったく、ほんとうに、鉄帝の軍人と来たら戦い、戦い、戦いで。予算のことなど考えないのですからな。その点、ジェルド様は分かっていると思いますが……」
「エミリア。国から兵を出すことは不可能だ。維持管理ならまだしも、奪還に割くことはできない。ない袖は振れぬ」
「ですが、占拠された民たちは怯えているはずです! 眠れぬ夜を過ごしているはずです。……お父様!」
●
「あんな言い方、ないですよ。民を放っておくだなんて!」
憤慨するエミリアに、溝隠 瑠璃(p3p009137)は首を傾げた。
「……それってさ、勝手にやれば”いいよ”って言ってない?」
「へ?」
「国として兵を出すのはできないけど、”駄目”とは言ってないでしょ? 維持管理になら手を回せるって言ってるんじゃないかな。つまり、勝手にやる分には目を瞑るってことなのかなって?」
エミリアはパチパチ瞬きして。
「……お父様! 回りくどすぎますよ!?」
かくして、イレギュラーズたちは、蛮族から寒村を取り戻すこととなった。
- 得るものは名誉の傷のみ、失うものは何もなし完了
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月05日 22時01分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●冬
「そう、このままでは村の人達が……見過ごすわけにはいきませんわね。必ず奪還して、彼らが冬を越せるように尽力しましょう!」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、この事態を聞いて真っ先にはせ参じた者のひとりだ。
力がない者でも豊かに暮らせる鉄帝を。それが、ヴァレーリヤの理想だ。
「ヴァリューシャ、この子を連れて行っておくれ。ハイテレパスで連絡が取り合えるはずさ
どうか気を付けて………」
『神鳴る鮮紅』マリア・レイシス(p3p006685)は、ヴァレーリヤにそっとリスを託す。
腕を登るリスに、くすぐったそうにヴァレーリヤは笑う。その微笑みは、ハイテレパスを通じてより近く、マリアへと伝わる。
「ありがとう、マリィ達も気をつけてね?」
「無辜の民を理不尽に虐げている。この事実だけで十分です。暴虐なるノーザン・キングス、死すべし」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)にとっては、ノーザン・キングスは明確な敵だ。
(こういう内戦じみた小競り合いになんか正直関わりたくないんだけど……まあ今回はオリーブさんがやる気だし、ね)
『深緑の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は優秀な射手だ。
「頼りにしています」と、オリーブが短く言った。
「損得で動いてない相手はいつも面倒ですねー」
桐神 きり(p3p007718)の目は計算高く輝いた。目には目を、無法者にはそれなりの手段を。
「わぉ! こんなに有名人が集まってくれたゾ! 感謝だゾ!」
『ラド・バウD級闘士』溝隠 瑠璃(p3p009137)は、集まった面々を数える。
「こんなにも……正義のために動いてくれる方がいるのですね」
「そんな心配しなくても大丈夫だゾ、エミリア! 僕達が付いてるんだ、必ず成功するさ。親友を信じろって」
「まぁ、今回は手段を選ばなくてもいいみたいですし、楽なやり方でやらせてもらいましょう。あちらさんも戦えればそれで良さそうですし、win-winってやつですね」
「だねっ!」
手段を問わず……それには瑠璃も賛成だ。きりの方は少なからず保身と、仲間の安全と、少々の良心を混ぜたようなバランスを保っていたかもしれないが。
「鉄帝国にもこうして、無数の部族が凌ぎ合う場所が存在したのですね」
『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)は外套をきつく巻き付けた。
「……余り、詳しくはありませんでしたが……それに少し寒々しい。風邪を引かぬようにしなくては」
「豊かではない土地で、冬に向けた備蓄を浪費されるのは困るよな。居座るのは奪って引き上げるよりなおたちが悪い気がする」
『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、一歩引いた目線から彼らの営みを眺めている。
「ある意味、彼らは『狩猟民族』なんだろうな。戦い、狩って、奪い取り、育てはしない。俺の故郷にもそういう民族が居た筈だ」
善とするでもなく、悪と断じるでもなく。『捩れた一翼の蛇』の系譜はそれを見ていた。
●旅芸人一座
呼び止められて軋みをあげる馬車。
天幕をめくり、顔を覗かせたヴァレーリヤは驚いた顔を浮かべる。
「以前は自由に通れたと思ったのだけれど、何がありましたの?」
荒くれ者は、何か言おうとして言葉を失った。和傘を傾げれば、……しきみが顔をのぞかせた。
「私、東方の地で芸を嗜む花榮と申します。
かの地では武芸者なるものが存在し、大仰なる戦乙女の装備をしておりますが、お気になさらず」
ちらりと酒場の喧騒を一瞥し、笑みを浮かべる。戸惑いと思慕がない交ぜになった感情。手のひらの上を転がすのも慣れたもの。
しばし見とれて呆然としていた戦士は、慌てて武器を求める。
「出るときに返していただけますよね?」
「ふん、そんななまくらが大事か?」
見る目がないのはそちらの方だとオリーブは内心で吐き捨てる。ダミーの武器だ。手入れの良い長剣は包みに隠してあるし、ばれたところで出し物に使うといえばそれほど咎められることもないだろう。
「そう、困りましたわね。次の村で公演する約束をしていますのに……あの、これを受け取って下さいませんこと?」
ヴァレーリヤがそっと袖の下を差し出すと、相手はにやりと笑って受け取った。
やはりお金は共通言語である。綺麗ごとでは事はならないというのなら……清濁併せ飲んで、強かに。
「この村で食料や薪の補給をさせてくれるなら、酒場で一芸をお見せ致しますわ」
ヴァレーリヤがさりげなく目くばせし、荷物を馬車の奥にそっと押し込んだ。リスがくるりと一回転を見せたのは、おそらくはマリアの助けであろう。
(こういう器用な事は苦手ですが、他の二人がいます。そう思うと多少は気が楽ですね)
●潜入
「よっ、と」
ミヅハは難なく山の中を移動していく。普段獲物を追い掛け、山を走り回っているだけあって、するすると枝の隙間を駆け抜けていった。
「うんうん、捕まってないみたいですね。まあ大丈夫だと思ってましたけど」
といいつつ少しは心配している……のは内緒だ。
「ふむ、村人はおそらくは盾にされることはないだろうが……」
アーマデルは村を観察する。ある程度は自由に動いているようだ。
「しかし、無計画な連中だね……。冬を越せなければ意味がないじゃないか……。協力して冬を越す選択肢はなかったのかな……」
そこに豊かさはない。薪は少なく、備蓄の食料もまた多くはないだろう。
「うう、あそこに困っている民がいるというのに……」
「……エミリア、正々堂々と出来なくて不満なのはわかるけど、今一番大事なのは民の安全と命でしょう? なら多少卑怯な手段を使おうと勝たなきゃ、ね?」
悔しそうに唇を噛みしめるエミリアを、瑠璃がなだめる。
勝たなければ、この村に先はないのだ。
「わかってほしい……お願いだよ。
それにエミリア……腹芸とか無理でしょ?」
「たしかに……」
潜入の方に回ったら、殴り込んでいたような気がする。
「大丈夫、エミリアは僕が守るから」
「瑠璃……!」
マリアは、念入りに酒場の周りを確認し、合図を待った。
……。
「行こう、ヴァリューシャ」
●戦いの火蓋は切って落とされる
「よろしければ一芸、披露させて頂いても?」
花榮を名乗るとき、しきみは不思議な心地になるものだった。
一瞬の間隙。
大半の兵士は酔い潰れている。練達上位式にて使役する式神は、油断なくあたりを見張っていた。
しきみは並んだ酒瓶をあっという間に斬り伏せる。
「それでは皆様、ご注目くださいませ!」
ヴァレーリヤが視線を集めているその間に、音もなく斜面を滑り降り、仲間たちが奇襲を仕掛けていくはずだ。
真っ先に動いたのはオリーブだった。
オリーブはさりげなく隠した包みを破り、いち早く長剣を手にしていた。
振り向きざま、柄のまま思い切り振り下ろす。リスが肩をおり、その先には……。
「お待たせ! 存分に暴れたまえ!」
「マリィ、さすがです」
窓からほいと武器を差し入れるマリア。
奇襲に回った一行は、この短い間に、倉庫に奇襲をかけて武器を奪還していた。
ヴァレーリヤは、次の瞬間には華麗にメイスを突きつけている。
「武器を捨てなさい! 貴方達も、無駄に犠牲を出したくはないでしょう?」
しきみのかすかな動きは、やはり視線を集める。繰り出すその手に輝く闇の月は敵のみを照らす。
「皆様、外へ!」
オリーブが長剣を抜くと、磨き抜かれた刀身には、きらりとしきみの月が映った。
「おとなしくしていれば巻き込まれはしまい。できれば、屋根のある場所へ」
アーマデルがジェットパックで斜面を降り、住民たちを避難させていく。
目を丸くする村人はその姿に不可思議な神聖を見いだし、素直に家へと引っ込んでいく。
ノルダインの戦士の攻撃は、アーマデルを阻むに足りない。敵は、自信に溺れず、はじめに助けを呼びに行くべきだった。最も、それはかなわないだろうが……。
英霊残響:怨嗟の音色が不協和音を奏でた。戦士の体は、思うように動かない。助けを呼ぼうにも、声はかすれていくばかりだった。
「それじゃあ、いくゾ、エミリア!」
「きゃっ」
瑠璃がエミリアを姫抱きにし、空を飛んだ。
「どっせえーーい!!!」
メイスを受け取ったヴァレーリヤが、猛牛のごとく突撃していく。
「!」
(エミリア、あれをやりたいんだな?)
「どっせえええい!」
続けて名乗りを上げて突っ込んでいくエミリアをそのままにし、瑠璃はエミリアに向かっていく敵をとらえる。喉を掻き斬られ、兵士が音もなくその場に沈む。
「こちらです!」
ヴァレーリヤがメイスをかかげ、住民を誘導していく。
「よっと」
空中から舞い降りたきりが、血桜を抜いた。敵の攻撃をかわして、そのまま、跳ねるように攻撃を続ける。
跳溌。
ノルダインの戦士たちは、カッとなり、武器を振り上げる。
「狙い通りですけれど、……頭を冷やしたほうがいいと思いますけどね……」
なにも犠牲を増やしたいでもなし。
「鉄帝の民に、手は出させません」
オリーブは、H・ブランディッシュを振りぬいた。重い刀筋、その勢いは二人を相手取ってなお鈍る気配はない。
「一人として逃がすつもりはありませんが、降伏は受け入れます」
ノーザン・キングスだからと無差別に殺したなら、理不尽を強いる奴等と同じだ。
だが、ほとんどのノルダインの戦士の目はらんらんと輝いている。
「ふははは、貴様、面白い、面白いわ!」
やってきたのは隊長格。
こいつが、元凶か。
オリーブは至近戦を挑む。斧とぶつかり合う剣。鍛え上げた鉄騎種の肉体は、一歩も引かない。
横を、寸分の狂いなく突き抜ける矢があった。
オリーブは確信する。ミヅハだ。
その矢は敵、3体を思い切り貫いて、ぐんと雪を溶かしていく。すれすれの攻撃に敵は息をのんだが、オリーブがそれを恐れるはずがない。
射手の腕を確信している。
さあ、つかの間の雪解けだ。
●閉ざされた氷に口づけを
戦士の渾身の一撃を、アーマデルはひらりとかわす。
もしも1対1の正々堂々たる決闘であれば、力で勝てはしないだろう。だからこそ戦場を選ぶ。遮蔽物に身を隠し、見えぬ角度から蛇鞭剣ウヌクエルハイアが相手を襲った。
捩れた一翼の蛇の吐息。鮮やかな赤が雪の上に小さく点々と花を咲かせる。その毒は、炎は。勇猛な戦士を容赦なく追い詰めていく。
油断したのだ、と思った頃にはもう遅い。
「いいですね、いい感じですよ」
きりの斬刻が、相手を瞬殺した。
堅い革鎧の隙間を縫う、見事な一撃。
「おっ、いいねいいね」
瑠璃が死角から姿を現し、一体。
目の前の相手は、自分の想像もしえない強者だった。
いや、これほどの至上の最期はない。
戦士は力を込め、きりへと最期の一撃を見舞う。聖躰降臨の棘が、深く戦士の体をむしばんだ。
「そうですか……」
きりは黙って、血桜を振るった。
騎士の手本のようなエミリアの攻撃だけならばかろうじて対処もできよう。だが、その他の一撃はあまりにも軌道が読めなかった。
「はい、油断禁物っと」
瑠璃の外三光が、戦士の姿勢を崩す。今だ、と心得たエミリアが思いきり刃を振るう。
「なかなかいい感じだね。この調子でいこう、エミリア!」
同時刻。
「ぐあっ」
しきみのスケフィントンの娘が、相手を覆い尽くしていった。
優雅で美しい、その仕草。
不意に現れた「強者」であった。ばたばたと敵がやってくるが、同時に、その数は少ないと感じる。
……奇襲組がうまくやっているのだろう。
逃げ遅れた住民を背中にかばっても、相手取るものは十分、手が足りる。
「今は外は荒れているようでございます。此処におりますやう」
「ええ、ええ。全力でお守りいたしますとも!」
「無為に人々の命を脅かすことはあまり美しくはありませんでせう?」
しきみに対峙する荒くれ物は、にやりと笑ってただ強者を狙う。
『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』
ヴァレーリヤが聖句を唱え、メイスを突き出した。
衝撃波が生じ、多くを吹き飛ばす。
「ボス、こいつ、マリア・レイシスっすよ! ラド・バウの!」
蹴りです、と警戒を伝える前に。音速を突き切って、紅雷が炸裂した。それは名前よりも痛烈な自己紹介。マリアは電磁増幅脚甲ver.2で、空にないはずの地面を蹴った。
蒼雷式電磁投射砲・雷吠絶華。
放電したマリアは青い雷を帯びる。 膨大な疑似電気・磁力。すべては一点に集中し、砲弾となって相手を貫く。
蒼く輝く軌跡を残す雷光。
すべてを焼き尽くし、よそ見をさせない鮮烈な一撃。
根底に流れる力への渇望。マリアもそれを知っている。
「強くなれ」と、彼女は言った。
援護のための構えをとった副官だったが、視覚の外からの攻撃が、スリングを打ち落とす。
(は、一撃!?)
威嚇射撃がたまたま当たったわけではないとは、痛烈にわかる。体勢を崩すことを見越して一矢。そしてスリングを打ち落とす一矢。
これほどの射撃手、ノルダインでも見たことはない。
「下がれ、若造! こいつはウルスラグナの獲物だ!」
オリーブは住民が避難したことを知った。もう、周りを気にする必要はない。苛烈な攻撃を繰り出していく。
目の前の戦士が振るうその剣は、鉄帝のもの。おそらくは占領の際に奪ったのだろう。オリーブは怒りを込めて剣を強く握り、正義を信じて長剣を振るう。
リーガルブレイドが、戦士を打ち砕いた。
「フハハハハ、相手にとって不足なしだ! ”紅雷”! しかとこの目に刻んだぞ!」
ひときわに大柄な男が、びりびりと電気が流れる斧を握り直す。
アーマデルのフレンジーステップが残党の一体を狩りとった。
「おのれ、鉄帝め……!」
見当違いの言葉に、瑠璃は首をかしげた。
「あくまで僕はエミリアの騎士で……親友だゾ? エミリアを泣かせたり……害する者は……死ね」
瑠璃の瞳は暗く輝き、敵の喉を掻き切った。
「げえっ、瑠璃蝶」
……と、後退する副官が、そこへ居合わせた。
「おお! 僕も有名になってきたのかな!? 嬉しいぞ! お礼に命だけは助けてあげるね」
言葉にならない悲鳴が上がる。
「……玉潰しも奇襲の一つだゾ!」
「勉強になります!」
エミリアがまた一つ強くなった。
(皆さんがご無事そうなら、まあ、いいですけどね)
もう一人の男に、きりは斬刻を繰り出した。
ミヅハの投石が、逃げていく敵を撃ち抜いた。
「狩人は獲物を逃がすことはないんだぜ!」
雑兵ならばともかく、指揮官に情けをかける気はない。ここで打ち砕いておかなければ繰り返すだろう。ここまでか、と覚悟を決める。
「さっきの矢、あんたか。最期にようやく顔が見れた。うわ、思ったより若いな……」
ミヅハを見て顔を引きつらせる男。
ミヅハは頷き、3歩下がる。
「どうやって葬ればいい?」
アーマデルの問いに、男は笑う。
「武器を折って送ってくれ。俺たちの部族は、そうしたらあの世でも戦い続けられると信じてる。ああ、久しぶりに楽しかった。占領の時より。たぶん、ボスもきっと……」
スリングを構える男よりも先にミヅハが射貫いた。
ここでひとまず遊撃は終わりとなりそうだ。
「そろそろ決着がつきましたかね?」
血しぶきから目をそらすように、きりが言った。
「もうそろそろ終わりでせうね」
しきみが一人を打ち伏せた。
オリーブの至近での一撃が、ウルスラグナの後退を阻み、選択肢を狭めていく。
正面でウルスラグナと向き合うマリアは、大斧の一撃をかわし続けていたが、最後の一打をかわしきれないとみるや受け止めることに転じた。
電磁闘衣・剛雷が、電磁反発フィールドを展開し、勢いを殺す。
これほどまでの使い手は、そうそうはいるまい。
ああ、戦場に生きる者か。北の果て、世界は広い。
「見事……」
男が最後に見た光景は、赤い雷。満足そうな最後だった。
それは、とても身勝手でもある。
(美学のため、自己満足のためだとして、……人を苦しめていいわけじゃない)
けれど、オリーブは歯を食いしばり、その光景を見届ける。
●つかの間の暖かい日差し
晴れ間から、太陽が満ちていく。
「やりました、やりましたよ瑠璃!」
「みんなのおかげだね!」
にこにこと笑う瑠璃は返り血を浴びている。
「もうしばらくは凝りてくれるといいですねー」
無事に済むのは良いことだ。きりはこの町の平和に思いを馳せる。
「これで……この町も冬を越せるはずです」
「皆無事かい? 肝が冷えたよ……」
マリアが一人一人を見渡す。
「マリィ! ええ、ええ、無事ですよ」
「ええ。大丈夫です。しかし、……寒いですね」
しきみが、はらはらと旅芸者の変装を解いていった。
「でしたら、私、あたたかい飲み物を貰ってきますわ」
ヴァレーリヤがぱあと顔を輝かせる。
「戦いのあった場所は衛生的な問題が出易いからな」
アーマデルは一人一人、戦死者の遺体を埋めていった。故郷では、死体が蘇ることもままあったが……。彼らは死後も戦い続けるのだという。
オリーブは取り戻した鉄帝の武器を返すべきか迷ったが、既に刃こぼれがひどく、使い物にはならなさそうだ。ノーザンキングス。その墓に、刃を折って、墓標の様に突き立てる。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
蛮族との戦いでした。お疲れ様でした!
戦って散るは彼らの本願。おそらくは、とても満足していることでしょう。
鉄帝の思惑と、敵の身勝手な美学に付き合わされた住民も、これで安心して冬を越せます。
ご縁がありましたら、また一緒に冒険しましょうね。
GMコメント
貴族様の言葉って難しいですね!
暖房をつけてないと動けなくなってきました、雪国からお送りしております。
ノルダインの部族から、鉄帝の土地を取り戻してください。
●目標
鉄帝北東部の寒村の奪還。
討伐でも、撤退でも構いません。戦って死ぬことは名誉です。
●状況
ちょうど防衛にあたっている将校の交代があり、防衛ラインが緩んでいたのですが、この機会にノルダインの兵力が領土を広げんと村を占領してしまいました。
鉄帝にとって「明け渡そうとも痛みはない」土地であり、鉄帝は兵力を出す気がありません。
また、占領したはいいのですが、ノルダインの財政状況は芳しくなく、おそらくは冬を越せません。村人たちを救うためにはこの土地の奪還が必要です。
故に、イレギュラーズたちに声がかかりました。
●天気
時刻は薄暗がりになりかけたころ。天候は雪。
ちらほらと雪が降っています。
●場所
北東地域の寒村です。
小さな村で、人口は30名ほど。
・入口
北と南に入り口があり2名ずつ見張りがいます。他は山の斜面に囲まれていますが、頑張ればそちらから侵入もできそうです。
・酒場(兼、宿屋)
残りは町の南入り口付近にある酒場でバカ騒ぎをしています。かなり油断していて、それも鉄帝軍人ではない者たちがわざわざ取り戻しに来るとは思っていません。酔っぱらっています。
・倉庫
取り上げた武器は北口のあたりの倉庫に置いてあります。
ほか、ちらほら民家があります。
旅の商人や吟遊詩人、その他の人間は上手く言いくるめられれば武器を取り上げられたあとに村に入ることができることもあります。心得があれば、忍び込むのも容易でしょう。
村人を盾にしたりすることはありませんが、どっちかといえば、財産とみなしているためです。敵には一般人を庇ってやるような情はありませんので気を付けて戦ってやると吉でしょう。
●味方勢力
エミリア・スカーレット
「正義のためならば、この剣を振るうことに迷いはありません!」
鉄帝軍人の娘。
上記の事情により、公に鉄帝が動くことはないのですが……さりげなく父親が手を回してくれたようです。奪還さえすれば、防衛のための手を回して維持ができます。
エミリアは、止めなければ正面から突撃する気がしますが、陽動を任せるもよし、止めて忍ぶも良し。そこそこ戦えます。
●敵勢力
『冬瓜の』ウルスラグナ
「蛮族と侮ったことを公開するがいいわ!」
ノルダインの勇猛な戦士。隊長格のヒゲ男です。
豪放磊落。巨大な斧を武器としています。
言葉は通じますが、かわせる言葉は肉体言語。つまり戦わないとだめです。
正面から堂々と戦おうと誘われれば、戦士の誇りにかけて出てくるでしょう。
罠や毒などの搦手を自分が使うことはありませんが、「それもまた強さの一つ!」と笑い飛ばすほどの度量はあります。
『ひより見』ニワ
副官です。ノルダインの同盟、ハイエスタのとある部族の長の息子。同盟相手ではあるが、一枚岩ではないノーザンキングスにおいて人質という形でノルダインで育ちました。
この攻略が無益なことはわかっていますが、それでも分け隔てなく(手加減なしに)接してくれる隊長には感謝しており、しぶしぶ付き合っている、というのが本音でしょうか。
武器はスリング。どちらかといえば絡め手が好き。
ウルスラグナとは違い、壊滅的であれば撤退する程度の余地はあります。
熱心なラド・バウのファンであり、たまに斥候として町に降りるついでに見に行ってるとか。ある程度(自己申告)の知名度の猛者は知っているかもしれません(フレーバーです)。
例:「こ、こいつは『二つ名』っ!!! 気を付けてください!」
ノルダインの戦士×12程度
村を乗っ取り、我が物顔で歩いている蛮族です。
威張り散らし、酒を飲み、村でトラブルを起こしています。彼らを温めるために余計な薪が必要であり、村は貧困にあえぐことになるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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