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シナリオ詳細

Circonda il confine

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 夜もすがら森の中。ホウホウと夜鳥の鳴く声が聞こえてくる。
 秋の風がながれて森の中をかけぬけた。
 複数の足音は落ちた枝を踏んで国境へと向かっていく。
「待て――!」
 シメイ・シュフォールは森の中を走っていた。
 この所、幻想国との国境地区に盗難が相次いでおり、シメイが調査に来たのだ。

 天義で起った大戦の折、騎士としての地位こそ返上したシメイだが、国の為に働くことを嫌った訳では無く自分の力が必要とされるならば『面倒な仕事』を引き受ける事さえあったのだ。
 かつては、天義の教えに忠実だった男も冥刻を経て変化する。
 断罪の名の元に剣を振り下ろした日々。海洋に逃げた一家の娘から密告を受け断罪に出向き、密告者の姉を取り逃がしたこともあったかもしれない。
 それに反するように己の妻と子供が大戦で命を落とした。
 何の為の忠義か。シメイの心は澱み迷ってしまった。
 だから、騎士の地位を返上し片田舎で暮らす事にしたのだ。

 シメイは盗賊を追い立てる。
「へへ、チョロいちょろい!」
「あばよ! じじい!」
 しかし、あと一歩の所で幻想側の国境を越えられてしまった。
「くそ……っ」
 小賢しい盗賊団は国境を越えればこちら側の『騎士』達が手出しできないのを知っている。
 それは逆説的に向こう側からも同じ。
「頼るしかないのか……」
 大戦を鎮めた特異運命座標ならば、国境を越えて盗賊団を捕まえることが出来るだろう。
 シメイは自分の力が及ばない事に歯がゆさを感じたが、同時に他人を頼るという強さを得ていたのだ。


「よく来てくれたイレギュラーズ諸君」
 幻想国の一角。聖教国ネメシスとの国境近くに領土持つファーレル家の当主リシャール・エウリオン・ファーレルは和やかな笑顔でイレギュラーズを労う。
「君たちに来て貰ったのは、お願いしたいことがあるからだ」
 ここ最近ファーレルの領内で盗賊が出没する事件が発生している。
 盗賊達は財宝や金を盗んだ後、越境して追っ手を逃れているのだという。
「それは厄介ですね」
 リシャールの娘リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)が父親を見つめた。
 リースリットにとっては、父の役に立てるチャンスである。頼ってくれた事を嬉しく思っていた。
「こちらから『騎士団』を出すとなると天義側も黙ってはいないでしょうしね」
 マルク・シリング (p3p001309)は最大の懸念点を述べる。
「あー大事にすると不味い感じ?」
 国や領地を警護する騎士団が国境を越えるということは、政治的な軋轢を生みかねない事件になるのだとリシャールが説明するのに、コラバポス 夏子 (p3p000808)は納得した。
「だから、俺達が呼ばれた訳ですね」
 リースリットの隣に座るベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が自分達が呼ばれた理由を推察する。

 ――――
 ――

「そうだ。つまり特異運命座標である君たちは越境を許されている存在だ」
 聖教国ネメシスの街ルシェルファレンで、シメイはイレギュラーズに向き直った。
 この街は幻想国との国境近くの都市だ。
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)はシメイの何処か見覚えの有る目に心が掻きむしられる。
「では、私たちが向こう側の仲間と協力して盗賊団を捕まえるという事ですね」
 改めて現状の作戦を問いかけるクラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)。
「ああ。私たちもあの盗賊団には手を焼いている。怪我人も出ているのだ。
 勿論、報酬は満額を出そう。この国を救ってくれた英雄達ならば造作も無いことだろう?」
 シメイの言葉は何処か自嘲めいたニュアンスを持っていた。
 しかし、困っている事には変わりない。
「必ず盗賊団を捕まえて見せます」
 リゲル=アークライト (p3p000442)は立ち上がりシメイに手を差し出す。
 その隣にはポテト=アークライト (p3p000294)が見守っていた。
「ああ、任せたぞ」
 リゲルの手を取ったシメイが激励と共にイレギュラーズを送り出す――

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。よろしくお願いします。

■依頼達成条件
 盗賊を捕まえる

■フィールド
 夜の森の中です。
 木々に覆われていますが、戦場となる国境付近は開けています。
 盗賊は天義側から幻想側へ逃げています。

■盗賊団
 幻想と天義の国境付近に出没する盗賊団です。
 片方で悪事を働いたあと、追っ手から逃げるために越境します。
 今回は天義の住民に怪我人が出ているようです。
 ずる賢い奴らです。逃げ足が速いので注意が必要です。
 バランスが良い編成です。

・前衛パワー型3人
 剣と斧で攻撃をしてきます。近距離攻撃です。

・前衛スピード型5人
 短剣で攻撃してきます。近距離と投げナイフです。

・後衛2人
 弓で攻撃してきます。遠距離攻撃です。

・回復2人
 回復します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • Circonda il confine完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月25日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ


 日が暮れて辺りが真っ暗になった森の中には夜行性の鳥の鳴声が響く。
 聖教国ネメシスにある森の中でイレギュラーズは待ち伏せしていた。
「国境を超えられればその国からの追跡が困難になる事を逆手に取っている盗賊団……ですか」
 聖教国ネメシスの街ルシェルファレンから盗賊達が逃げてくるのを待って居る『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は暗視の着いたゴーグル越しに見える視界に溜息を吐く。
 騎士団始めその国に属するものは、国外に逃げた輩を追うことはできない。
「多少は頭のいい団なのかもしれませんが、ローレットの存在までは頭になかったようですね」
 木々の間に身を潜め盗賊団が自然会話で、盗賊団が通るのを感知する手筈だ。

「く、国境を利用するなんてそんな頭があるのに盗賊だなんて!」
 むすっとした顔で『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が憤慨する。
 アーリアの傍らには幻想側で待つ仲間のファミリアーが飛んでいた。
「……こうやって私達が、国境を越えて手を取り合えるように、国同士が手を取り合えればいいのにね」
「ああ、、賊にとっては国境は関係ないのかもしれないが……私たちイレギュラーズは国境を越えて手を取り合えるんだ」
 特異運命座標たる英雄たちは国を自由に行き来できるのだと『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は呟いた。その隣には『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が真剣な眼差しでルシェルファレンの方角を見つめている。
 シメイ・シュフォールから託された期待に応えられるように気を引き締めるリゲル。
「天義と幻想の平和のためにも、賊たちを放っておけないな」
 優しくリゲルの肩にポテトが触れた。
「それに天義の民を傷つけるとは……許しがたい。逃さず捉えて司法の裁きを受けさせよう。
 ポテト、今回も宜しく頼むよ」
「あぁ、リゲルも頼りにしてるぞ。ちゃんと捉えて、きちんと裁いて貰おう」
 お互いを気遣い合うリゲルとポテトの言葉。
 長い年月を共に過ごしていれば抜け落ちてしまう言葉というものがある。
 しかし、二人はあえて言葉にすることで、そこに生まれる信頼を確かめるのだ。
 お互いを大切だと伝えるために。

「来ました」
 木々のざわめきと、吹いてくる風に乗って齎される盗賊達の匂いをクラリーチェとリゲルが感じ取った。
 息を潜め盗賊達が目の前を過ぎ去っていくのを待つ。
 足音を鳴らし、森の中を駆け抜けていく盗賊。
 その後ろをイレギュラーズが追いかけるのだ。
「待ちなさい、この国境は越えさせないわぁ!」
 アーリアの叫び声を合図に四人は走り出す。一定の距離を保ち、盗賊を国境へと追い立てるのだ。
「……ま、越えさせないのは彼等がいるからだけど!」
「国境を越えられる前必ず捕えて見せるぞ!」
 ポテトが声を張り上げた。アーリアとポテトの女性二人が声を出せば、追いかけてきているのは女ばかりだと油断するかもしれないとポテトは考えたのだ。
「けっ、追いかけてきてるのは女ばっかりかぁ?」
「だが、足はこっちの方が速い。国境を越えれば天義側の人間は追いかけて来ないはずだ」
「流石はボス。頭いいなぁ!」
 盗賊達の下品な笑い声が森の中に響いた。

 ――――
 ――

 幻想国ファーレル領。天義との国境で待機する『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は盗賊達が現れるであろう方向を注視していた。
「確かに両国とも大体的に兵を出し辛い場所ではあるけれど……平時とはいえ、よくもまあ入り込んだものです」
 自身の父親の領内において、浅知恵の効いた子悪党が入り込んでいるとは、面白くないとリースリットは真剣な眼差しをする。
「……シュフォール卿には感謝しなければならないですね」
 この話を持ってきたのは先に損害が出ている天義側からだった。
 イレギュラーズに大捕物を任せるとはいえ、幻想国側の領地を持つ領主リシャール・エウリオン・ファーレルと市井に身をやつした元騎士シメイとでは立場が違う。
 シメイとしてはリシャールに軽くあしらわれる覚悟があったのだろう。
 しかし、自身の娘がイレギュラーズとなったリシャールは、国境を越える力を持った者達に任せる判断をしたのだ。それは、シメイが立場が下であるという分をわきまえた上で、天義側の願いを聞き入れる形式に持って行ったからこそ成り立ったもの。秘密裏に共同戦線を張ることが出来たというわけだ。

「僕たちが国境を越えて動くことで、両国の垣根が下がっていく。そうあれたらいいと思うよ」
 マルク・シリング(p3p001309)はアーリアと交換した梟のファミリアーを撫でる。
「国境が無用だとは言わないけれど、お互い3歩くらいは踏み込めるような、そういう関係がきっと、良好なのだと思う」
 一触即発な緊張感漂う物では無く、軍隊演習がうっかり国境を踏み越えても笑って許し合うような仲であればいいのだ。
「全然歓迎大歓迎。どんな形でも困った時に、我々頼ってくれるの嬉しいね。
 ……いや咎は前提でダメだけどさ」
『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)は怠そうな笑顔で肩を竦めた。
「我々はこの後 打ち上げする程度には仲も良く。立場とか国境とか軽く超えてるってか。
 あんま気にしてないんだよね。ワイだけか?」
「所属する国が違えど、我らはローレットの特異運命座標。戦友としてであれば、幾度となく肩を並べる事は出来よう。何かを願うのであれば、自らが変わらなくてはな」
 夏子の問いかけに『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は同意してみせる。
「めんどくさいよな~体裁とかメンツとか……。もっと気楽に仲良くお茶でもすりゃ良いのに。
 ……出来ないワケもあんだろけど」
 サイバーゴーグルを下ろして夏子が口を尖らせた。
「ま、盗賊団には更生してもらう為、キッチリ一網打尽と行きますか」

 盗賊団に見つからない様に明かりを消しているマルクはアーリアに渡した梟と視界を繋げる。
 逃げている盗賊が最後に発見された位置と、自分たちの捜索範囲から、現在盗賊が居ると思われる区画を絞り込むのだ。
 ベネディクトも鳥を飛ばし、索敵を開始する。


「おいおい、あいつらずっと追いかけてくるぜ。どうする?」
「女にしてはしぶといな」
 盗賊団が悪態をつきながら森の中を走っていた。
 アーリアの焦るような演技は効果的だったのだろう。疑う事無く盗賊達は国境へと近づいていく。
「ボス、もうすぐ国境だぜ。一気に抜けよう!」
「ああそうだな……!」
 森が途切れ、盗賊団が勢い良く国境に駆け込んだ。

 だが、それを待ち受けるベネディクト達の姿が見える――

「何……っ!?」
「待ち伏せだと!?」
 盗賊団は目の前に立ちはだかる幻想側のイレギュラーズに驚き、足を止める。
「悪いが此処から先は通行止めだ、投降してくれ。これ以上暴れぬなら不用意に痛めつける事はせん」
 ベネディクトの声が高らかに響き渡った。
「チッ」
「貴方がたを包囲させて頂きました。痛い思いはしたくないでしょう。
 大人しく投降する気はありませんか?」
 追いついてきた天義側、クラリーチェが投降を促す。
 捕らえられたら只では済まない事を分かっている盗賊団は拒否するだろうとクラリーチェは思った。
 しかし、大義名分とは必要なものである。一度は投降を促さなければ相手を無秩序に制圧する盗賊と同じなのだ。
「貴方達はやり過ぎたのです。もはや逃げ場は無い、と心得なさい」
 盗賊の舌打ちが聞こえる。
 降伏勧告に応じるはずもないのだ。盗賊達はその身一つで成り上がったという自負がある。
 腕っ節に自信があるからこそ、自分達は勝ち抜けると思っているのだ。

「俺達が負けるかよ!!!!」
 盗賊達の怒鳴り声が夜の森に響く。
「天義側の者もアークライト卿を始め、早々たる面子が集まってくれている。
 ──どうしてもやるというのなら」
 ベネディクトが鋭い睨みを利かせた。
「仕方ありません、戦って解らせるしかないでしょう」
 リースリットの声に、各々の獲物が抜かれる。
「貴方達はマナガルム卿達が織りなす壁を超えることはできない。
 そして退路は俺達が塞がせてもらう。この双璧、崩せるものならやってみるといい!」
 リゲルの叫びに盗賊達が動いた。
「精強なるローレットが作る双璧を超える必要があるぞ!」
「ファーレルの名に於いて。――私達が此処に居る意味、思い知らせて差し上げます」
 蒼銀月を掲げたベネディクトと白銀の双剣を翻したリゲルが挟撃を開始する。

 ――――
 ――

「って訳だ賊の衆 平和の為 手前等の為 捕縛する~☆」
「くそ! 調子に乗りやがって!」
 夏子の挑発に盗賊団はまんまと引っかかる。

 ベネディクト達、幻想の騎士達と共闘でき嬉しくもあり心強いとリゲルは胸に満ち足りた気持ちを抱く。
 盗賊達を逃がさない様にベネディクトや夏子と手分けして何重にも怒りを重ねるのだ。
 リゲルに叩きつけられる敵の剣。それに反撃するように相手の目を焼く閃光が放たれる。
「ちっ、戦い慣れてやがる」
「何者だ!? てめぇら!」
 リゲルの反撃に相当な手練れだと気付いたのだろう。
 盗賊達が言葉を発している隙に、クラリーチェが四方より迫る土壁を作り出した。
「ぎゃあ!?」
 倒れてくる土壁に盗賊団の一人が叫び声を上げる。
「くそ!」
「逃げようとしても無駄ですよ。逃がしませんから」
 クラリーチェの無慈悲な声が盗賊を震え上がらせた。

「騎士の殿方が抑えてくれている間に……まずは厄介な回復手の方を封じちゃうとしましょ」
 アーリアは精神を研ぎ澄ませる。陣形が乱れている隙に盗賊の回復を絶つのだ。
「そう長引かせる気もないの、封印で大人しくしてもらうわねぇ」
 魔性の囁きは甘く深く。恋を語るファム・ファタルは刹那の夢へと誘う魔法。
「なんだ。くそ。何だこれ!」
 アーリアの魔法に耳を塞いだ盗賊は、回復する事なんて出来ないほど混乱してた。
「くすくす、命までは奪わないわ。だから抵抗しないで? じゃないと、ほら。痛い目を見るだけじゃ済まなくなっちゃうからぁ。……ね?」
 色気のある唇から繰り出す言葉の数々は、きっと甘いだけではない。

 リゲルは敵の攻撃を受け続けていた。
 一つ一つは大した傷にもならないものかもしれない。
 しかし、積み重なれば強打が入り、傷も増えていくのだ。
 その覚悟を持ってリゲルは耐え忍んでいる。
「心配ないぞ。リゲル。私が着いているからな」
「ああ、心配してないさ。ポテトが居てくれるだけで、俺はいくらだって耐えられる」
 ポテトが施してくれる回復はリゲルの傷を瞬く間に癒やすだろう。
 しかし、ポテトの役目はそれだけではないのだ。
 同じ戦場に守るべき人が居るというのは、騎士にとって何よりも奮い立たせる要因。
 ポテトが居てくれるだけで、リゲルは頑張ることが出来る。
 傷の痛みなんて吹き飛んでしまうのだ。
「回復は私に任せてくれ、その分賊は任せたぞ!」
「ああ!」


「いやぁ詰めが甘くて良かった。君達はまだやり直せるからさ」
 夏子が閃光と爆裂音を響かせ槍を横になぎ払う。
 度肝を抜かした盗賊達は何事かと振り向いた。その瞬間に仲間が横腹に飛んでくる。
「げぇ!」
「ぐぬぬ。なんて奴らだ! 国境を越えてくるなんて!」
「知らなかった? 国交友好マシマシでさ? 共同戦線とか張れちゃうワケ!」
 夏子は敵の悪態に笑って見せた。
「ホントだってこの連携だぜ? この後アチラの女性達も交えて打ち上げだってあんのよ」
 親指でアーリアたちを指し示す夏子。
「……」
 戦場に流れる沈黙に「……あるよね!?」と夏子は振り返る。
 その隙をついて盗賊が夏子の腹に剣を叩き込むが、脇と膝で食い止められた。
「へへ。ヤル気あんねぇ~?」
 夏子はそのまま剣の腹を掴んで盗賊の重心を崩した所で蹴りを叩き込む。
 ゴロゴロと地面を転がった敵にマルクの閃光が瞬いた。
 目から入って来る強烈な光は、視神経を摩耗させる。
 マルクの閃光は命を奪わない。しかし、目から入った光は痛みを伴うのだ。
「うわあ! 痛い! 何だこの光! 目が痛い!」
「やべえよ! やべえ!」
 それはもう、のたうち回る程の痛みが盗賊を襲う。
『激しく瞬く神聖の光は邪悪を裁くネメシス』というか、目が焼けて痛い感じだ。
 この光は敵だけを差し、命を奪わないものだ。盗賊の命を生かす重要な戦術だった。
 マルクが戦場を制圧できるのは、ベネディクト達が敵の注意を引きつけているからだ。
「まだ、行けそうかい?」
「ああ、問題無い。もう少しやれる」
 敵の攻撃を受けながら、怯むこと無く盗賊を蹴りつけるベネディクト。
「舐めやがって! 受けてみやがれ!」
 怒りに我を忘れベネディクトに剣を向ける盗賊を、ガントレットで受けて足の代わりに槍柄で払う。
 ベネディクトは冷静に、自分へ向かってくる中で一番傷ついている者を見極めた。
「ぐあぁ!」
「くそ、またやられた!」
「なあ、ボスもう諦めた方が良いんじゃ」
「うるせえ! ヘタレどもめ!」
「だってよお、こいつら、強す……ギャァ!」
 殺さないように槍柄でなぎ払い、戦意を削いでいく。

「無理をしてでも生け捕りこだわる程ではありませんけれど」
 盗賊の鼻先を雷が駆け抜けた。連なる雷撃はうねり、のたうち、蛇のように戦場を走る。
 リースリットは小さく息を吸い込んで盗賊達に向き直った。
「――もう一度だけ聞きましょう。レガド・イルシオン、ネメシス、何れにももはや貴方達の逃げ場はありません。降伏なさい」
「けっ! 誰が……っ!」
 威嚇するようにリースリットがボスの頭を掴んだ。こめかみをギリギリと締め付けられるボス。
「消えますか?」
 この世から。
「生け捕りにこだわりませんよ?」
「ひ、ひぃ! わ、分かった。投降する! だから命だけは!」
 ガタガタと震えて懇願するボスの頭を離し、リースリットは微笑んだ。
「懸命な判断です」
 夜の森に静けさが訪れる。

 ――――
 ――

「お互いの国の面子やらがあるのかもしれませんが、こういう輩に柔軟に対処できるような連携を取れるようになれたらいいのでしょうね」
 クラリーチェは縄で縛られていく盗賊を見ながら呟いた。
「じゃあ、他に盗ったものは無いんだな?」
 ポテトが盗賊に詰問する。彼等がこれまで盗ってきた金貨や宝石を出来るだけ元の持ち主に返したいという思いからだった。
「これで全部だよ。嘘じゃねえ。殺されるのは御免だからな」
 プイと視線を逸らした盗賊にポテトは頷く。

「シュフォール卿、本当にありがとうございます」
 リースリットは父親の代わりに頭を下げる。
 公の立場同士では成し得なかった事、民の為に切欠をくれたことに感謝を込めた。
「国境問題は解決が難しい問題だ。ローレットが溝を埋め懸け橋となれるならば嬉しいものだ」
 様子を見に来ていたシメイに盗賊を多めに引き渡したリゲル。
 天義側に多めに盗賊を渡せば、国境を越えた戦線を打診したシメイの顔も立つだろうと考えたのだ。
「……シメイさん、こんなこと甘いかもしれないけど。彼等のずる賢さは、きっとうまく使えるはず。
 どうか、生かして償いを」
 シメイはアーリアの言葉を聞いて大丈夫だと肩を叩く。
「ああ、こいつらは責任を持って更生させると約束しよう」
 以前のシメイであればこの場で首を刎ねていただろう。悪しき者に未来は無いのだと断罪しただろう。
 しかし、今の彼は違うのだ。
 後悔を抱えて贖罪を己に課している。そんな自分が他人の命を奪えるはずもないと思っているのだ。
「じゃあ、お元気で」
「ああ、また何処かで」
 アーリアは小さくなったシメイの背中に頭を下げた。

「今回も見事な手腕だったな」
 ベネディクトは仲間に笑顔を向ける。
「そうだな、すべき事が終わったら祝杯の一つでも皆であげるとするか」
「祝杯は……そうですね。それもいいかもしれません」
 ベネディクトの笑みに、リースリットも返した。
「よし、打ち上げだな! みんなお疲れ様」
「ふう。疲れたなあ。美味しいご飯が食べたいね」
 ポテトがリゲルの指先に触れて、それを握り返す。
 戦いの高揚は安堵へと変わった。

「お酒は程々がいいなあ、僕はあんまり飲めないから」
 マルクがファミリアーの梟を自然へと帰しながら微笑む。
「いやいや、やっぱお酒とめしっ! ねえ、アーリアさん!」
「えぇ勿論、ぱーっとやりましょ!
 ふふ、夏子くん……今夜はその軽そうな外面、潰してひっぺがしてみせるわぁー!」
「え、ちょ。そんないきなり大胆だなぁ!」
 ぺろりと舌を出した夏子にアーリアの陽気な声が弾む。
 盗賊をファーレルの衛兵に引き渡し、イレギュラーズは夜の街に消えて行った。

成否

成功

MVP

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子

状態異常

なし

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 MVPは奮闘した方にお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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