海の亡骸へ零す涙

オープニング

●海の亡骸へ零す涙
　海洋王国の一角、元・冠位とリヴァイアサンとの戦いが繰り広げられた地、フェデリア島近海。
　壮絶な戦いの痕跡は、もう海上においては残ってはいないものの……海底にはそれら痕跡が残っていることだろう。
　……そして、そんな海域にまことしやかに流れる噂、『幽霊船』。
　深夜の刻、ボロボロの帆に朽ちた船体が海上に姿を現わし、遭遇した船を全て海中に沈めてしまうとの事。
　しかし。
「まぁ、流石に嘘だろうさぁ……！　さぁ、いくべぇかぁ！」
　と、信じぬ海の男達がいるのも事実。
　元々ここ、フェデリア島近海は海洋王国とカムイグラを結ぶ航路の中継地点であり、昼夜問わずに船が往来している……だからこそ、油断があったのかもしれない。
　先の船の男達も、そんな油断と共に出航し……海洋王国よりカムイグラに向けて進む。
　……と、その時。

－－ドォォン！！

　突如響き渡る、砲撃の音。
　その音に気付き甲板から周囲を見渡すと……薄暗闇の中にぼんやりと姿を現わす『幽霊船』。
　人外の呻き声を上げる亡霊達が、生きし者に対する恨みを露わにしながら、交易船へと襲い掛かる。
「うわ、な、何だこいつら……っ！！」
　海の男達は、そんな亡霊達の襲撃にさしたる対応も出来ず……亡霊達に食い荒らされていった。

●
「イレギュラーズの皆さん、事件なのです！」
　と、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、ローレットに集うイレギュラーズ達へ声を掛ける。
　そして、振り返り立ち止った皆へにっこり笑顔を御浮かべると共に、早速。
「今回、ユリーカの元に海洋王国での幽霊船の噂ってのが舞い込んで来たのです！　色々と情報を集めていくと、これが根も葉もない噂ではなく、本当に幽霊達が乗った幽霊船ってのが、フェデリア島の近海の辺りに現れている様なのです！」
「そしてこの幽霊船なのですが、夜の刻、この海域を往来している船へと襲撃を仕掛けている様なのです。特に、対船戦闘装備が無い船を中心に襲い掛かっている様なのですよ！　だから、敢えて無防備を装い海域を進む事で、この『幽霊船』を誘い出す事が可能だと思うのです」
「ちなみに幽霊船なのですが、薄暗闇に紛れて船へと接近、先手の一撃として、幽霊船の船首にある砲門から、砲撃する様なのです。その砲弾は船体に穴を開けるような事は無く、大きな音だけを上げる、いわゆる空砲の様なのです」
「でも、その空砲の後、すぐさま船に接舷し、乗組員である亡霊のクルー達が次々と乗り込んでくる様なのです。彼等は生きとし生けるもの全てに恨みを持っていて、死を与えるべく様々な武器を振るってくる様なので、その辺りには注意して欲しいのです！」
　そして、最後にユリーカが。
「幽霊になって尚彷徨う幽霊船……ちょっと可哀想な所はあるのですが、でもこのまま彷徨わせ続けて良くはないのです。イレギュラーズの皆さん、どうにか宜しく他飲みます、なのです！」
　と、ぐぐっと拳を握りしめた。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●現虚の境
　海洋王国、フェデリア島近海。
　先日迄、元・冠位＆リヴァイアサンと戦いが繰り広げられたこの地ではあるが、既に戦乱に決着が着き、今は穏やかな水面が広がる海域である。
　……しかし、そんな海域に最近まことしやかに流れるは、幽霊船の噂。
　既に幽霊船によって船が沈没させられ、乗組員らも海の藻屑と消えた……という話すら流れてきていた。
「わ、幽霊だ……」
「そうだな。嘗ての『絶望の青』を徘徊する幽霊船、か……」
　そんな話を聞いて、『Merrow』メル＝オ＝メロウ（p3p008181）と、『ストームライダー』メリッカ・ヘクセス（p3p006565）が言葉を紡ぐ。
　更に『戦気昂揚』エイヴァン＝フルブス＝グラキオール（p3p000072）と、『幻蒼海龍』十夜 縁（p3p000099）の二人も。
「全くだ。あいも変わらず海洋では幽霊船が発生か……」
「そうだよな。夏はとっくに終わったってのに、相変わらず幽霊船やら亡霊やらの絶えねぇことで……」
　肩を竦める二人、そこに『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル（p3p003529）も。
「またしても静寂の青のアンデッドの類いなのです。これも大号令黎明以来、１４回の出撃と１３回の頓挫を重ねて、つもりに積もった怨嗟、なのでしょうか……」
　瞑目するクーア、それに『壁を超えよ』杠・修也（p3p000378）も。
「そうだな……生きとし生けるもの全てに恨みを持って居る、か……自分たちは新だのに、何故お前達は生きているのか、とでも想って居るのだろうか？　それともまだ、戦いが終わった事を認識出来て居ないのか、単純にただもうそういう存在になってしまったのだろうか」
　顎に手を当てて考える修也、それに『狐です』長月・イナリ（p3p008096）が。
「幽霊船の乗組員達がどんな無念を持って死んでしまったのかは分からない。だけどその無念を今を生きる生者に向けるのは筋違いよ。死者は静かにこの海原で眠ってなさいよね」
　その言葉に修也が。
「まぁいまだに彷徨う幽霊船の乗員が何を思っているのか、想って居ないのかはわからないが、彼等にとってはここが絶望の青のままなんだろう。だがもう、終わったんだ。静寂の青と呼ばれる様になった。ここがその名に変わったように、彼等にも静かな眠りへついてもらうとしようか」
　と言うと、クーアも。
「そうなのです。一朝一夕で祓いきれるものでもないかもしれませんが、今回の怨恨も、私の焔で無事『終わらせて』差し上げるのです。全てのひとの末路に、麗しき焔あれかし。それが放火を修める私からの願いなのです」
　瞑目し、決意するクーア。
　そしてエイヴァンと縁が。
「せっかく大号令が成功したんだ。もう少しゆっくりさせてくれてもいいんじゃねえのか？」
「ああ。ま……成仏できねぇやつらを海に還してやるのも、大号令を生き残った俺達の責任ってやつだ。さくっと終わらせて、弔いに旨い酒を捧げてやるとしようや」
「そうだな。これも仕事は仕事だ。やることはやらせてもらうとしよう」
　縁の手には、どこからか仕入れた少し高級な酒。
　勿論それは、死した幽霊船の船員達にに対する弔いの為。
　メリッカと、『屋根裏の散歩者』フラッフル・コンシール・レイ（p3p008875）も。
「本当、やるせない気持ちになるけど、それはそれ。せめて安らかに眠れるように葬ってあげようか」
「そうだな。もう夏とも言えない時期だ。ハロウィンの参加者という訳でもない。マナーの無い皆様には、早々にお帰り願わなければね」
　……そんな仲間達の言葉を聞いたメルが。
「みんなの話を聞いてると、幽霊が人を襲うのってお決まりなんだね？　あたしはあまり驚かないけど、でも良く無い事だよね？」
　その言葉にイナリが短く頷く、そして。
「あたしも、船を襲うのでお決まりの『人魚』なんだ。歌で誘って人を海に引き込む。だから……色々想う所あるんだよね。一体何があってそんなに憎しみを抱えてしまったのかは知らないけど、皆が安心して海を渡れるようにしないとね……♪」
「そうね……お願いだから、私達を引き釣り混むような事はしないでね」
「うん、大丈夫だよ……♪」
　にこっと笑うメル。
　そしてイレギュラーズ達はフェデリア島より漕ぎ出て、ユリーカから聞いた、幽霊船の出現場所へと向かうのであった。

●幽世の船
　そしてフェデリア島を漕ぎ出て数時間。
　更に、次第に空は暗くなり始めてきた。
　しかし暗くなり始めても、船首に立つメル。
「これ、普通の船の航海って感じするよね……♪」
　と言いながら、陽気な歌を歌い、己を「発光」させ、周囲を照らす事で、灯りを確保。
　とは言え陽気な歌も、周囲の暗闇が拡がり始めると不安な気持ちは段々と強くなってくる訳で。
　更には不気味、かつ不穏な気配が漂いつつある海面を見渡しながら。
「……どうだ？」
「いや、まだみたいだだな」
　縁と修也の二人が声を掛け合う。
　いや、二人だけが暗視を持って居る訳では無い。
　他のイレギュラーズ達も、暗視を得る携行品などを持込み、この暗闇に対処していた。
　とは言え、一切の燈が無い状態では、幽霊船に気付かれないかもしれない……だから、フラッフルの用意しておいたカンテラを船の数カ所に掲げ、周りからもその灯りが視認出来る様にする。
　そんな灯りに対し、別の手段を取るのはエイヴァンとイナリ。
　エイヴァンは発煙筒を持込、煙を上げて目立たせる。
　更にイナリが、小鳥のファミリアーを召喚し、取りあえず近くを飛ばせる事で、周囲の戦況を俯瞰する様にする。
　そんな体勢で、幽霊船の搭乗をただただ待ち構える。
　そして……周りに完全に他の船の気配が消え失せた時。
『……』
　深夜の海上に、ゆらゆら……と姿を現わす幽霊船。
　音も無く、イレギュラーズ達の乗る船の近くに現れる。
　そのまますぐに、砲門を向け、続けて響く砲撃音。
「……来たぞ！」
　その砲撃音の方向に直ぐに注意を向ける縁。
　しかし、みるみる内に幽霊船は船へと接近、接舷。
　そして、幽霊船の中から次々と、海賊の様な姿を模した亡霊達が姿を現わす。
　まずは、10匹の亡霊達が、イレギュラーズの船へと乗り込む……だが、その後方には、更なる追っ手の影が見えている。
「敵の数が多い、持久戦か……」
　とフラッフルは唇を噛みしめる。
　が、その横から早速縁が、亡霊達の真っ正面に進み出て、対峙。
「さて……幽霊船ってやつは亡霊連中を全員倒せば勝手に沈んでいくのかね？　まぁ、取りあえずこいつらを倒すとするか」
　僅かに笑みを浮かべた縁が、先ずは先手の一撃として、青刀『ワダツミ』を振るい、最初の10匹を列攻撃の範囲に収め、更には怒りを付与していく。
　勿論、怒りを負った亡霊達は、縁を軸に攻撃開始。
　至近距離で攻撃する亡霊は、牙で以て攻撃するが、一歩後ろに居る者達は亡者の呼び声を叫び、縁だけでなく、その周りの仲間達に対しても効果を及ぼす。
　続いてクーアが。
「本当、敵の数が多いのです。ですが、こういった戦場は得意なのですよ！」
　と、亡霊達に宣言すると共に放火の一撃。
　続くイナリが、中距離の位置から『贋作・天叢雲剣』を振るい、亡霊の中心で爆破する攻撃を放ち、混乱させる。
　更にメリッカはマギ・インスティンクトで自己強化を行いつつ、そのままルーン・Ｈにて、亡霊の頭上から雹の雨を降り注ぐ。
　更に同じく後衛に位置するメルが。
「暗い海を渡る絶望の歌……どう？　君たちにもぴったりだと想うんだけど……♪」
　と、呪いを帯びた歌声『ディスペアー・ブルー』を亡霊達に聞かせて、敵の呪殺及び魅了効果を付与。
　更にエイヴァンは、敵に対し威風堂々たる口調で。
「生きてるやつがうらやましいんだろ？　ほら、お前らの獲物はここにいるってな！」
　と『名乗り口上』を発動し、縁に加えて怒りを付与。
　更に修也が魔砲で、傷ついた亡霊を一直線に貫き、撃ち抜く。
　腹に風穴が開くも、でも動く亡霊達。
　そして、最後にフラッフルが。
「あの亡霊の叫び声は、できるだけ対処しておいた方が良さそうだな……」
　と言いつつ、仲間達の不運を解除する為に、光翼乱波で回復を行う。
　次の刻、更に幽霊船の中から、更に五体の亡霊達が戦場へと乗り込んでくる。
　先の刻では流石に5体も倒せていないので、敵の数は増加という状況。
　それに、まだ敵の後方からは更なる亡霊達が現れてきている。
「さすがに数が多いね、嫌になる。でも、人より疲れにくい体だ、せいぜい働くとするさ」
　と、フラッフルは幽霊達を一瞥しながら一言。
　そして、第二陣の亡霊達に対しては。
「まだまだ不完全なのですが、これが私の餞なのです！」
　と、素早くクーアが再び放火にて、敵を纏めて炎獄の中に叩き落とす。
　一方イナリは、マギ・ペンタグラム、及びルーンシールドを自分自身に付与し、準備を整える。
　ただ、イナリの後に亡霊達の行動。
　とは言え手段は変わる事無く、亡者の呼び声と、亡者の牙の二つで以て、怒り効果を付与為てきたエイヴァンと縁へと攻撃してくる。
　ただ、二人は決して引き下がりはしない、エイヴァンは盾として、敵の前進を抑え込えつつ、メイドインメイドで自己回復。
　一方縁は。
「送り火兼、この暗闇で俺の居場所を他の奴らに知らせる目印にもなるって訳だ」
　と、新たに現れた亡霊達を中心に『龍神之燈』で纏めて攻撃。
　そして、修也は立ち位置を修正。
　敵が一番多く、一直線上に並ぶ位置へ移動した上で、魔砲にて攻撃を行う。
　流石に今迄結構なダメージを受けていた亡霊達数体は、耐えきれずに散る。
「良し。取りあえず不死身って訳じゃないのは証明されたな」
　との修也の言葉にクーアがこくり、と頷き。
「ならば、どんどんと燃やし尽くすまでなのです！」
　と満面の笑み。
　後衛のメリッカは、マギ・インスティクトとルーン・Ｈで連携。
　更にメルは。
「せめてゆっくり眠れるような子守歌を歌ってあげるね……♪」
　と、穏やかな微笑みと共に、更にディスペアー・ブルーで、敵への魅了効果を重ね掛け。
　そして、最後にフラッフルが仲間達の体力の残り具合を見て。
「回復しましょう」
　と、ブレイクフィアーにて、エイヴァンを更に回復。
　その後も亡霊達は、毎刻毎に5匹ずつ、幽霊船から押し寄せてくる。
　が、範囲攻撃を仕掛ける事により、数刻毎に五匹程を殲滅する。
　ただ、戦闘開始から9刻目。
　とうとう、幽霊船から現れる敵は零となり……残る亡霊は、35体程。
　ただ、イレギュラーズ達の攻撃により、総じて結構なダメージを受けている。
「まだまだ数が多い様だけど……後は、減らすだけ？」
「ええ、その様です……もう一息です」
　メリッカの言葉に皆が頷き、フラッフルが励ます。
　そして、イナリが。
「一気に仕留めるわ」
　と、マギ・ペンタグラムとルーンシールドにより、自己強化を重ねた状態で、敵陣のど真ん中へと『天孫降臨・八坂ノ神道』で移動。
　周囲の亡霊達は、ど真ん中に現れたイナリに猛攻を仕掛けるが、自己強化の効果のお陰で、ダメージを無効化。
　とは言え長い時間は持たないので、ど真ん中から周域を纏めて高火力の一撃を放ち、5匹を倒す。
　更にはクーアが神気閃光、縁の龍神之燈、エイヴァンのルージュ・エ・ノワールが連携し、攻撃し、更に5匹を仕留めていく。
「後、半分だ！」
　と修也が残敵数を仲間達に宣言する。
　残る半数の敵も殆どが手負いであり……五体満足な亡霊はもはや居ない。
　更に数刻が経過し……やっと、残る亡霊は2体にまで減少。
「良ーし、これでも喰らうんだよ！」
　とメリッカが直接ルーン・Ｈで、頭上から攻撃。
　その一撃に、頭から転倒した亡霊。
　そして。
「これで、終わりだ……！」
　とエイヴァンの『ルージュ・エ・ノワール』が決まり……50匹居た亡霊達を、どうにか全て打ち倒すのであった。

●喪失
　そして、全ての亡霊達を倒した後。
　先ほど迄接岸していた筈の幽霊船は……まるで煙の如く、姿を消失。
「やっぱり、ね……」
　とイナリが考えを巡らせる。
「ん……？　何を、考えて居るのですか……♪」
　とメルが小首をかしげる戸、イナリは。
「この幽霊達は、倒れる事で……恐らく皆の記憶から、存在が抹消される様な呪いが掛けられていたのかもしれないわね。誰にも記憶も、記録もされずに死んでいってしまう事って、とても悲しい事だと思うわ」
　と言いつつも、イナリは強く目を閉じ……戦った彼等の事を、記憶に強く刻み込む。
　その一方で、縁は幽霊船に接岸された所に、持ち込んでおいた酒瓶を開ける。
「……どれだけ長い間彷徨ってたかは知らねぇが……これでやっと眠れるだろう。俺の奢りだ、遠慮しねぇで受け取りな。長ぇ船旅への労いってやつさね」
　と、手向けの言葉を捧げながら、酒をその場に注ぐ。
　そして、エイヴァンも。
「そうだな……せっかく静寂の青まで辿り着いたんだ。そろそろゆっくり休んでもいいんじゃねぇか？　お前らの無念も願いも、全部俺がその先に連れてってやるからよ」
　と、姿を失いし亡霊達に呼びかける。
　そんなイレギュラーズ達の弔いの声を聞いてかは分からないが、周囲に漂う、陰鬱たる気配は、ほんの僅か……和らいだ様な気がする。
　そして、弔い酒を撒き、亡者の平穏を願いし後。
「皆、お疲れ様。陸に戻るまでの見張りは僕がしておこう。ゆっくり休んでくれ」
　と、仲間達へ休むように促し、フラッフル自身は甲板にて、周囲の立ち番を担う。
　波間を進む船に、空からの僅かな星の瞬きが差し込んでくる。
　それを見上げながら、フラッフルは。
「ああ、今日も星は綺麗だ……」
　と、目を細めるのであった。

成否

成功

ＭＶＰ

なし

状態異常

なし

あとがき

亡霊達が何を伝えたかったのかは判りませんが……でも、皆様が倒してくれた事で、彼等は迷わず逝く事が出来たと思います。
参加頂きました皆様、ありがとうございました！