シナリオ詳細
<忘却の夢幻劇>小鬼達の市
オープニング
●小鬼の苦労
「なんでですかー! なんでなんですかー!!」
秋風冷たい夜の中、木陰で不満の声をあげる小鬼が一人……。
*
実りの秋、艶やかな果実がこの世ならざる市に並ぶ。葡萄に柘榴、冬の林檎に春の苺、夏の無花果。季節を無視したそれらは魔性の果実、妖精達の食事。一口食べれば人の子は妖精郷への焦れに囚われる――。
故に大人達は言う。秋の夜に出歩いてはならないよ、秋の夜には<小鬼の市>が立つよ、妖精郷の境に立つよ――市の品に魅入られたら、この世にはいられないよ、と。
――そのはずであった。
「なんでなんですかー! なんでなんですかー!」
緑肌の小鬼娘が地団駄を踏みながら、ひそやかに、遠くで開かれている市を見ている。背は低く、十歳程の子ども程度。尖った鼻に尖った耳、小さな牙にざらついた肌は伝承に出てくるゴブリンそのもの。豪華な貫頭衣の裾を踏みかねん勢いで、憤慨している。市は奇妙ににぎわっているが、そこにいるのは妖精郷の住人ではなく――人の子ばかりであった。
「なんで! 妖精郷との境に! 人の子が! 市を立てているんですか! 人の子はどこまで図太くなれば気が済むんですかぁっ!」
一人二人の望まぬ客が迷い込むなら、小鬼流の悪戯で『もてなす』のがいつもの常。しかし、此度は小鬼退治の僧侶が来たのでもなければ、不遜な魔術師が来たわけでもない。
「お嬢、出ていってはなりません。あれは、<盗賊の市>でやす」
がっしりとした体格の小鬼がそっと小鬼娘に耳打ちする。お嬢と呼ばれた小鬼娘はじたばたするのをやめてぎょっとした顔になった。
「<盗賊の市>……」
「そうでやす。人の子のはぐれ者達が夜にやり取りする市でやす。盗品に麻薬に奴隷、あっしらのような妖精の民も売り買いされているようで――実験用や、愛玩用や、魔法薬の材料に」
おっかないおっかないとがっしりとした小鬼は溜息をつく。小鬼娘はむー、と言いたげにじたばた手足を動かす。
「これは黙ってはいられません! 戦争です! 戦争ですー!!」
●二つの『市』
「というわけでだ、<盗賊の市>と<小鬼の市>の開催場所がかぶってしまったようなのだよ」
『学者剣士』ビメイ・アストロラーブはどこから持ってきたのか、艶やかな柘榴を手の中でもてあそびながら<特異運命座標>らに話しかけて来た。いつもの本、暗い革の装丁に、掠れた黄金の箔押しで『忘却の夢幻劇』と題名が記された書物は挿絵の頁が開かれたまま、机の上に置かれている。挿絵には地団駄を踏むゴブリンめいた生き物と、市の遠景が描かれていた。
「不幸な事故だ、と言えば事故なのだが、シマを荒らされた<小鬼の市>の代表者、小鬼領の姫君が盗賊達に本気の報復を考えているらしい。このままでは死者が出る。正直盗賊の死者はどうでもいいのだが、妖精側はまずい。彼らは数百年単位で根に持つからね。姫君が死のうものなら国一つに呪いをかけるかもしれない」
ビメイはすっと柘榴を剥く。宝石のような赤い粒が皮の中から覗く。
「まあ、そうなると人間対妖精の大戦争となって、『忘却の夢幻劇』はしっちゃかめっちゃかだ。まあ、これは想定しうる限りの最悪の事態ではあるのだけどね――そうでなくても、人と妖精の間に禍根は残るだろう」
柘榴の粒を口に放り込み、ビメイは困った顔を浮かべた。
「君達は小鬼側に協力して、盗賊を追い払ってほしい。時に人を惑わすとはいえ――最初にいたのは小鬼、妖精族の方だからな」
ただし、とビメイは付け加える。
「平和的に、だ。武力はいけないよ? あくまで妖精族に悪戯され尽くした盗賊が、這う這うの体で逃げ出すように仕向けてくれ。盗賊達は迷信深い。妖精の仕業だと思えば二度と近づかないだろう。それでは、「楽しい悪戯」の内容と吉報を待っているよ」
- <忘却の夢幻劇>小鬼達の市完了
- NM名蔭沢 菫
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月27日 22時15分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●<盗賊の市>
暗い森の中にぽつりぽつりと明かりが灯る。禁忌の市、<盗賊の市>。小鬼達の領域に入り込んだということを知らぬ盗賊らは自らの武勇伝を話したり、取引をしたり、酒や薬に溺れたりしている。
その中に優美にステップを踏みながら現れた一人の女――『足女』沁入 礼拝(p3p005251)に人々は息をのむ。遅れて来た商売女だろうか、と誰かが言う。答えを微笑みで返し、礼拝は歌を口ずさみながらステップを踏む。
「秋に肥えた月が登る、この世ならざる魔性の市場……冬の林檎に春の苺、一口食めば心は妖精郷に囚わるる……」
ちらりちらりと見える足は人の心を引き付ける至高の美。見た者に足へのフェティシズムを抱かせるのが礼拝のギフトであった。
「いいぞ、別嬪さん! その足に口付けさせてくれ!」
一人の盗賊が叫び、他の者らも沸き立つ。礼拝は女神のように微笑む。その様子に盗賊達は男女構わず釘付けになった。
「口付けは、ご遠慮くださいね? ――それでは、次の歌と舞を――。森に迷い込んだ子供の歌など、如何でしょうか。望むなら、酌も致しましょう」
くるりと回る礼拝の足に、盗賊達は沸き立った。
その様子を見て、『両手にふわもこ』アルム・カンフローレル(p3p007874)は酒を片手に語り出す。
「森に迷い込んだ子供の話と言えば――なあ、こんな話を知っているかい? この森にまつわる、おっかない話さ」
ふんわりと笑った彼は語る。
「この森は妖精郷との境にあってね。今日のような夜は……妖精達が悪戯しに現れるそうだよ。妖精と言っても羽の生えた可愛らしい者達だけじゃない。人を獲物にする獰猛な魔性の狩人達。木の洞から現れる人さらいの妖婆。それに、徒党を組んだ小鬼達……」
「兄さん、話としては面白いな。吟遊詩人かい?」
そう返す盗賊であったが、目は闇を心配するように揺らいでいた。そういえば、この辺りの森には妖精が出ると言っていたのではないか――その噂を隠れ蓑にしようと言い始めたのが誰か忘れたが……。ああ、嘘だ。そんなことがあってたまるか。
「どんな話にも、少しばかりは真実が隠れているものだよ?」
へらりと笑ったアルムの様子は妖精を思わせる。思わず盗賊達は怯え、各々酒を飲んで酔いに逃げ始めた。
暗躍するのは『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)。
――おうおう、これまたガラの悪いのがまー揃っていますこと。
そして舞い踊る礼拝や語るアルムをちらりと見る。多くの盗賊達は二人に意識を取られており、盗賊にはあるまじき油断しきった状況である。
――あの長耳に性悪女、上手くやってるじゃねえの。
得意の忍び足で影から影へ。強面の傭兵崩れと細身の狡猾そうな商人が商談をしている側にそっと身を潜る。商談が成立し、二人が礼拝の舞に目を取られた刹那、閃くは手先の早業。短剣を素早く盗み取り、その場から逃げ去る。
「で、俺の短剣はどこだ? 金貨だけ貰って逃げるたあふてぇ商人だ」
「いえ、先ほどまで確かに……そちらこそアタシの店に難癖をつけるつもりですね?」
商人の護衛がぬっと現れ、傭兵崩れを睨みつける。傭兵崩れは即座に商人の護衛の顔に拳を一発。数拍後、乱闘が始まり、しめしめとキドーは小さな牙を見せて笑う。そして次の混乱を引き起こす為にまた影から影に消えていく。
●姫と盗賊
時間は戻る。妖精郷との境にある天幕で、四人の提案を聞いて考え込むかのように皆を見る小鬼娘。そしてその横に立つ大柄な小鬼。戦の準備が次々と進んでいるようで、
「悪戯で市を崩壊させるのですか?」
<特異運命座標>達の存在を胡散臭げに見ていたカシャとドゥイ、そして配下の小鬼達であったが、同族らしきキドーの姿を見て、警戒を解いたのであった。
「確かにお嬢、我ら小鬼族の本分は正面切っての戦ではなく悪戯と奇襲。この異邦人らの言うことには一理ありやす」
「むむむ、落とし前を付けたいのはやまやまですけど……」
「小鬼のよしみだ。力を貸してやろうじゃあねえの、別嬪さん」
むぅ、と考え込むカシャに話しかけるのはキドー。話が通じる同種の女に出会えたことで、ムクムクとむくれ上がった下心があふれ出しそうな様子。別嬪さんと呼ばれたカシャは考え込んだ頭を上げて、ぱっと喜びを顔に浮かべる。
「外つ国の小鬼に会うのは初めてですけど。あなた、面白い方ですね? 名前は――?」
「お嬢?」
「キドーだ、可愛い子ちゃん」
カシャはさらに喜びを顔に浮かべる。ギザギザとした歯を見せて笑む様子は姫君というよりただの娘であった。それを見てやれやれとドゥイは肩をすくめた。
「戦争は止めです! 小鬼らしく悪戯をしますっ! そしてキドーさんはすべて終わったらわたしの天幕まで来るようにっ! 外の話を一杯聞かせること!」
「ははは、おめでとうキドー君。ところで小鬼の皆にお願いがあるんだが――」
アルムはカシャとドゥイ、そしてその配下らに話しかける。
「――と、言う訳なんだ」
内容を聞いて、小鬼達はこれは面白いとにたりと笑った。
●崩壊
市の物陰、逢引きをするにはちょうど良い木陰に腰かけるは二人。
「素晴らしい市でございますね。ねぇ、あの恐ろしい檻には何が?」
「ああ、エルフ――と言っても都市に住んでる奴じゃない、森に隠れ住む純粋な妖精の血族達だ。もう売り手が付いているから残念だったな、お嬢さん」
奴隷商の男はいきなりやってきた礼拝に心地よい驚きを感じながら、彼女の注ぐ赤葡萄酒を味わっている。空になった盃に礼拝は酒を注ぐふりをしてわざとこぼし――。
「まぁ、ごめんなさい、貴男。ふふふ、最近寒いもの、風邪をひかないように暖めてあげるから許してくださる?」
礼拝は素早く顔を近づけ、奴隷商の瞳を望みこむ。相手を魅了する魔眼に囚われ、男の酒で鈍った頭はさらにぼんやりとする。
「ところで――『鍵を、下さらない?』」
「ああ、そうだな、鍵を、渡さなければ……」
夢見心地のままで鍵を礼拝に渡す男。いい子ね、と言いたげに礼拝は笑みを口元に浮かべ、影に潜んでいたキドーに鍵束を放り投げた。
「おい、このエール小便くせえぞ!」
「だれよ、あたしの商品に糞たれた馬鹿は!」
市のあちらこちらで怒声が響き渡る。
「暴れ鳥だー! 暴れ猫も出たぞー! 何かわからん奴も出、ああっうちの商品がっ!」
『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の召喚するファミリアーや式神らが暴れまわる。ファミリアーは糞をぶちまけ、式神らは商品に突撃しては破壊していく。客に上手く偽装したメリーが騒動の原因だと気づく者はなく、式神やファミリアーは殺されても殺されても次から次へと現れてくる。
「――なあ、この市、本当に呪われているんじゃないか――」
物はなくなり、喧嘩はいつもより多く、果てはこの動物騒ぎである。いやそんなことがある訳が、と盗賊達は虚勢を張るが――。迷信深い心は皆一つの結果にたどり着きかけていた。
――本当にここには、妖精が出るのかもしれない。
●小鬼達の帰還
キドーは光を見てにやりと笑う。礼拝は魅惑的な表情を崩さぬまま、檻から出てきたエルフ達を見ている。
「助けてもらった礼は言葉でしか出来ぬが、麗しき乙女よ――」
礼を言うエルフの長らしき男に、くすりと礼拝は笑う。
「ふふふ、誰かが鍵をかけ忘れたのでは? 私のようなか弱い女が盗賊から物を盗もうだなんて出来るはずもありませんもの」
よく言うよ、と言いたげなキドーの視線を無視しながらしれっと答える礼拝であった。
アルムは小鬼達に話した内容を思い出していた。
――俺が合図をしたら、小鬼達を一斉にけしかけて、盗賊達を驚かせてほしいんだ。
見ればメリーの引き起こした騒動に上手く隠れて、礼拝とキドーが奴隷らを解放した様子。そろそろか、と思い、準備をする。
「故に、人々は言う――このような秋の夜には、<小鬼の市>がたち――それを邪魔する者らは、酷い目に合うとね。こんな風に!」
唱えるは神気閃光。小鬼らへの合図であった。
「おい、なんだ、目が見えないっ……!」
盗賊達の眩んだ目が元に戻れば、そこには無数の小鬼。飲み食いし、商品を好き勝手におもちゃにしては遊んでいる。いきなりのことに盗賊達は武器を抜く間もない。
「やっぱり出るんだ、誰だこんな森を開催地に決めた奴は! こんなとこにいられるか――!」
「待て金を払え馬鹿!」
「ああっ、アタシのドレスが!」
「おい、エルフ達はどこに行った――」
大騒ぎの市に奇妙な楽が流れる。太鼓とフルートの音が奇妙な和音を作り上げ、その奥から小鬼の群れが列をなして現れる。輿に乗ったカシャは満足そうに辺りを眺め、側にいるドゥイに何事か話しかける。ドゥイは大声で叫ぶ。
「皆の者、お嬢の命だ! 悪戯に生きる小鬼族の心意気を見せろ!」
後は大混乱であった。小鬼達は様々な悪戯道具と素早さを生かして盗賊達を驚かす。メリーの引き起こした騒動で商品はめちゃくちゃであり、キドーの暗躍で商談は破談。アルムの怪談で恐怖に囚われた盗賊の群れは右往左往し、その様子をエルフ達と礼拝が見ている。
やがて、人々は散り散りになって消え、後に残るは妖精の民と<特異運命座標>達のみであった。喝采を上げる小鬼達は、何時しか祭りを始めていた。
盗賊達はまことしやかに<小鬼の市>の噂をする。ある森の奥には本物の<小鬼の市>がたち、そこに不用意に足を踏み入れると、災厄が襲い掛かる、と。件の森に近づく盗賊はもういない。なにせ、小鬼の災厄をその身で味わったのだから。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
神秘と怪奇の『忘却の夢幻劇』へようこそ! ろばたにスエノです。
バッティングしてしまった二つの市。<小鬼の市>が無事開催できるように、盗賊達を追い払って下さい――ただし、平和的に。
●今回の舞台
妖精郷と現世の境にある森の中、そこにある開けた場所です。時刻は夜更け、<盗賊の市>の辺りはぽつぽつと灯りがともっており、視界は確保できます。市の規模は売り手買い手合わせて五十人程度、扱っているのはこの辺りの国ではご禁制の品(毒、麻薬、奴隷(種族問わず)、等々)と盗品が殆どです。
●目標
『<盗賊の市>を悪戯でめちゃくちゃにし、市の参加者を追い払う』
死者が出なければ、なんでもありです。驚かし、脅かし、惑わし……想像力の赴くままにやって下さい。
●登場人物達
カシャ:小鬼娘。小鬼領の姫君で<小鬼の市>の代表者です。いわゆるゴブリンですが、『忘却の夢幻劇』では彼らは妖精族として扱われています。血気盛んな所があり、自分達の居場所を荒らした盗賊達をなんとかしてとっちめようと憤慨しています。とはいえ人間を憎んでいるわけではなく、<特異運命座標>達から説得されれば、悪戯で盗賊を追い払う案には納得してくれるでしょう。
ドゥイ:カシャの右腕、小鬼領の戦士長です。がっしりとした体格で小鬼族の中では大柄です。冷静で、血気盛んなカシャのストッパーでもありますが、本人はその立場を嫌がっておらず、むしろ楽しんでいる節があります。カシャをお嬢と呼んでます。
小鬼達:カシャが呼べば沢山出てきます。皆悪戯好きなので、悪戯と聞けば喜んで手を貸すでしょう。
盗賊達:<盗賊の市>の開催者とその参加者です。ご禁制の品を売り買いしたり情報をやり取りしたりしています。前の市の場所が衛兵らにばれたため、<小鬼の市>の噂があって誰も寄り付かない森を新しい開催地と定めました。皆それなりに腕が立ちそうですが、酒を飲んだり薬を服用していたりするものも多く、油断しています。
●サンプルプレイング
「悪戯、楽しそうね。どうせ悪いことをしている人達なのだから、めちゃくちゃにしてしまいましょう!
私は忍び込んで売られているお酒に笑い茸の粉末を入れるわ。楽しい市なのでしょう? 少しくらいのハプニングは必要よね。
こうしておけば、つぎの悪戯も仕掛けやすくなるはず!」
それでは、よい冒険を。
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