シナリオ詳細
守護る力。或いは、自警団“リオック”の想い…。
オープニング
●自警団
多くの人がその地で死んだ。
それを引き起こした張本人である騎士・オォルは既にこの世を去っている。
けれど、しかし……。
オォルの起こした“悪の祭典”に参加するため、その地に集った悪人たちはまだまだ多い。
場所は幻想のとある村。
悪人たちから村の仲間を守るため、1人の若者が槍を手に取り立ち上がる。
彼の名は“リオック”。
逆立てた赤の髪に、粗末な鎧を纏った青年だ。
彼はかつて、村一番の荒くれ者として知られていた。
近くを通る旅人たちに喧嘩を売り、金品を奪い取るなどしていた盗賊まがいの行為に手を染めたこともある。
あの日。
オォルが死んだ、あの日。
“悪の祭典”に参加したリオックは、運良く命を取り留めた。
傷つき、囚われた罪人たち。
命からがらその場から逃げた罪人たち。
そして、あの地で命を失った罪人たち。
彼らに敗北を与えたものは、圧倒的な“力”とそして“正義”であった。
「あぁ、俺は……俺はあんな風に死にたくない。村の皆にも、あんな風に死んでほしくない」
命からがら村へと逃げ帰ったリオックは、その日から鍛錬を開始した。
纏う鎧は粗末だが、十字の槍だけはどうやら上等なものらしい。
それを振るう力があれば、きっと村を守れるだろう。
誰かを救う力になることもできるだろう。
そんな彼の志に賛同する仲間たちも出来た。
とはいえ、10名から成る同志たちは、誰もが喧嘩さえもしたことのない者たちだ。
中には15の少女さえもいる。
1人などは、つい最近になって村を訪れた齢70の老爺であった。
「件の村……いずれ悪人どもの隠れ家となることもあろうな。その時、真っ先に襲われるのはこの村だ」
近いからな、と老爺“マゴット”は告げた。
リオックとマゴットの視線の先では、木刀を手に打ち合う同志たち……自警団の姿がある。
気迫だけは確かなものだが、残念ながら実力の程は非常に怪しい。
「ペンドラなどは足も速いし、目も良いが……それを活かせてはおらん」
ペンドラ。
自警団で最も若い15の少女の名である。
「あぁ。分かっているさ、マゴット爺。だが、今はこうして地道に力を磨くしかねぇぞ?」
溜め息を零し、リオックは応える。
そんなリオックへ視線を向けて、マゴットは暫し思案した。
「やはり師が必要じゃないかの? そうだな、件の混沌戦士たちと言ったか? 頼めんのか?」
「……元悪人の俺がか?」
「元じゃろ? 頭ぁ下げて、血反吐を吐いて鍛錬する姿でも見せりゃ、きっと教えてもらえるさ」
と、そう言って。
マゴットは、オォルの持つ槍を指し示す。
「その槍、魔槍の類のようだ。学べば彼らの使った技も、多少は再現できるようになるんじゃないか?」
●混沌トレーニング
「ってわけでな、訓練を付けてくれって頼まれたんだが、お前さんらで行って来ちゃくれないか?」
そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)はルーキス・ファウン(p3p008870)へ手紙をわたす。
ひどく悪筆であるが、どうやらそれはリオックの書いたもののようだ。
心を入れ替え、村を守りたい。
だから、手を貸してほしい。
手紙の簡単に内容を纏めるのなら、そんなところだろうか。
「たしかに俺も野放しになった悪人たちの行方は気になっていました。ですが、それなら“悪の祭典”のあった村に俺たちが行って、一網打尽にしてしまえば良いのでは?」
と、そう問うたルーキスに向け、ショウは笑みを浮かべて見せる。
「それもいいかも知れないが、それでは一時凌ぎにしかならない。その地に住まう者が力をつけなくては、いつか限界が訪れるさ」
「なるほど。悪人退治ではなく、そのための力を得る“協力”か」
「戦場で培った経験やら、トレーニングメニューやら、実践形式の訓練やら、できることはあるだろう?」
例えば、依頼人のリオックは槍を武器とした前衛戦士。
老爺マゴットは、長く知識を蓄えた知恵者だ。
また、聞くところによれば少女ペンドラは脚力と視力に優れるという。
適材適所。
或いは、チームワーク。
混沌戦士たちが日ごろから実践している事であろうとも、一般人には上手くこなせる土壌がないのだ。
「土壌作りの手伝いってのもたまには悪くないだろ? 芽を撒くってのは、それはそれで難しいが」
まぁ、なんとかなるだろう。
と、そう言って。
ショウはくっくと肩を揺らして笑うのだった。
- 守護る力。或いは、自警団“リオック”の想い…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年10月25日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●訓練開始
川の岸辺に並べたそれは、木と藁を組んで作った的だった。
的からおよそ10メートルの距離を取り『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は両手に紅色の刀を構える。
すぅ、と短く空気を吸い込み……次の瞬間、シャルロットは地面を蹴って駆けだした。
姿勢は低く、銀の髪を靡かせながらあっという間に10メートルの距離を詰める。
流れるように刀を一閃。
斬撃の音はなく。
ただ数瞬の静寂の後、的は中央付近でばっさりと斬られ地に落ちた。
「まあこんな力だから、私は直接的な訓練には参加しないわ。でも、こういったわかりやすい強敵がいたら、という想定で心構えを教えるわね?」
と、シャルロットは告げる。
彼女の赤い瞳の先には、都合11名の男女の姿。その多くは若者で、中には15歳ほどの少女さえ混じっている。
とある村近く、林の中の訓練場。
彼ら11名は、村を守る自警団の面々だった。
一体、どういう経緯でこんなことになったのか。話は数十分ほど遡る。
村を守るための力を身に付けたい。
しかし、技術も知識も足りないまま、独学で訓練を積んだとて、碌な結果は得られない。
だから、稽古を付けてほしい。
そんな依頼を受け『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)を始めとする8人は、村を訪れた。
「力なくとも志ある彼らを見ていると、無性に自分が恥ずかしくなってしまいます……」
拙いながらも、必死で稽古を積む11人の自警団たちを見つめながら『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)はそう呟いた。
うん、と1つ頷くとルーキスは『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)を伴い自警団たちの元へと向かった。
ルーキスの姿に気づき、1人の青年……リオックという村の若者だ……が稽古を中断。
とある魔道具絡みの事件の折、彼はルーキスと面識があった。とはいえ、その際は敵同士だったのだが……。
「自分も修行中の身ではありますが、お役に立てるのであれば喜んで協力させて頂きます」
「すまねぇ。恩に着るよ」
リオックが深く頭を下げた。
それに続き、残り10名も声を揃えて礼を言う。
「時間ももったいないですし、まずは的を作りましょう。幸い、エルはペンキを持ってきています」
こうして、イレギュラーズによる戦闘訓練が始まった。
「前の事はよく知らないけど……村を守るために、わざわざ依頼してきてくれたんだもん。できるかぎり力になってあげたいね」
「えぇ、そうよね! 守る為に戦おうっていうのは、とってもとっても素晴らしいのだ!」
『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)と『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が言葉を交わす。
「村の人に戦う力を付けるなんて初めてだよ、何か先生にでもなったような気分♪ みんなと一緒に、カナも何か学べるように頑張らなくちゃ!」
訓練用の木刀で、自身の腕を叩きながら『二律背反』カナメ(p3p007960)は言った。
3人の見守る先では、シャルロットが戦場での心構えについて説いている。
腕を組んでその様子を見守りながら『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)は笑っていた。
「うむうむ。まずは座学であるな。ならば拙者も参加しよう」
と、そう言って至東はひっそり自警団たちの間に混ざる。
●守るためには生きること
「まず、盗賊の多くは分かりやすく“強そうな者”をリーダーに据えていることが多いわ。そうやって強敵を前に出すのは恐怖のシンボルという意味合いが強いわね。力が強いと注目されるし、わかりやすい恐怖を与えられる。何のためかわかるかしら?」
シャルロットの問いに答えたのは、自警団唯一の老人“マゴット”であった。
「ふむ。被害を受けたくないからかの? 強者の圧で獲物を委縮させ、本来の力を出せなくする。獲物の攻撃対象を強者に集中させることで、他の盗賊たちは自由に動ける」
長く蓄えた顎髭を扱きながらマゴットは言う。
マゴットの瞳は、シャルロットの真意を探るかのように細められていた。
「つまり、こういうことかの。狙うのなら、リーダーではなく雑兵たち……と?」
「ご明察ね。強敵以外を倒し続けると敵は組織を維持できないわ。強敵とリーダーの二人で村を占領しても、いつか寝首をかかれるだけよね?」
シャルロットとマゴットの視線が交差する。
一瞬の沈黙。
シャルロットは実戦で積んだ経験でもって、マゴットは長年蓄えた知識でもって、その答えに辿り着いた。
後はそれを実践に移すだけ……とは言ったものの、言葉にするのと、行動に乗せるのとではその難度は桁違いだ。
「儂らにも出来る対策はあるかね?」
「そうね。強敵が現れた時は散開して他の手下の撃破。散開の際に何人かは逃げるフリして鏃に毒を塗りに行くとか、搦手で強敵撃破を目指すのもいいわね」
「でも、逃げるなんて……」
困惑した声をあげたのは、ペンドラという小柄な少女だ。
自警団最年少の彼女は、リオックと同じぐらい“村を守りたい”という想いが強いように思う。
「村を守る、という目的からはズレているように思われるかもしれぬ。が、それは拙者らとそなたの、「村」というものの認識が異なっておるからにござる」
ペンドラの疑問に答えを返すのは、至東であった。
彼女の脳裏に過るのは、訓練中の光景だった。両手に木刀を握ったペンドラは、力の差も顧みず相手に打ち込んでは、何度も弾き飛ばされていた。
猛攻と言えば聞こえは良いが、至東の目から見れば、それは命を捨てた自爆特攻と変わりない。
「1つ……村とは何か。土地か、建物か? 実りか、景色か? それとも住まう民草の安らぎか? まぁ、どれも正解でござるな。しかし、そのどれも、ただ1人のそなた無しには到底たち行かぬものに候」
「わたし無しでは……?」
「つまり“生きているって、いいよネ!”ということでござるな。まずは生きて。すべての選択肢は、そこから始まるもの。忘れちゃダメでござるよ?」
そう言って、至東はにこりと笑ってみせた。
座学は終わり、訓練は実戦編へと移行する。
まず初めに前に出たのはコゼットとカナメの2名だ。
「あたしが教えられるのは、回避とか防御とかかな。相手の攻撃は回避すれば痛くないし、当たっても痛くない当たり方すれば、長く戦えるんだよ」
例えば、コゼットの役割は回避盾だ。
敵の攻撃を引き付け、回避し、その間に味方に攻撃してもらう。
攻撃が集中する恐怖やプレッシャーと常に向き合う必要はあるし、目まぐるしく変化を続ける戦場を観察し続ける目の良さも重要だ。
「まぁ、一番は当たらない事なんだけど、どうしても当たる時は当たるからさ、そういう時のために、傷は負うけどできる限り致命傷にならないように上手く対処する技術は欲しいよね」
コゼットの言葉を引き継ぎ、カナメは告げた。
「至東っちも言ってたけど、やっぱり“生きてこそ”なんだよね。その点、痛いって良いよね……凄く生きてることを実感出来るから……うぇ、うぇへへへ」
「か、カナメさん?」
頬を赤らめ、笑い始めたカナメの肩をコゼットは叩いて正気に戻す。
回避や防御の技術はともかく、痛みを快感に変換する技能に関しては訓練を積んでどうにかなるものではないかもしれない。
そういった、ある種の性癖を開花させるには“天性の才能”か“変化に至るきっかけ”が必要だ。
「まぁ、実戦において、肌で感じてもらうがよろしかろう。拙者がこうして指を立てたなら、皆の衆、拙者から一目散に逃げるがよろしい」
そう言って歩み出たのは至東であった。その背後にシャルロットも続く。
「拙者が捕まえた御仁から、たっぷりきつーく絞らせてもらうのでご覚悟を」
「それと、2人も自警団に混ざるといいわ。お手本を見せてあげないと、ね?」
こうして、超実践的な回避・防御訓練が始まった。
訓練の様子を眺めつつ、花蓮とエルシア、エル、ルーキスは食事の用意を開始した。
「訓練はもちろんだけど、もっと大事なこともあるのだわ。それは、毎日ちゃんと、健康的な食事をする事なのだわよ」
調理器具や食材を持ち込んだのは花蓮だ。
訓練がひと段落したころには、自警団の面々もきっと腹を空かせていることだろう。なにしろ至東とシャルロットの指導は苛烈を極める。
「あうっ⁉ う、うぇへへ」
シャルロットの振るう木刀に打たれ、カナメは恍惚とした悲鳴をあげた。
至東の刀が足元を薙ぐ。
視認できぬほどの速度で放たれたそれを、コゼットは軽い動作で回避してみせた。
にぃ、と至東は笑みを浮かべて刀の軌道を強引に変更。
横薙ぎの斬撃から、真上に向けた斬り上げに切り替えた。コゼットは咄嗟に兎毛で覆われた小盾を構える。
インパクトの瞬間、脱力することで盾ごと彼女の身体が飛んだ。
スタン、と軽い音を立てて着地。
「すごい……」
一連の様子を見ていたペンドラが、思わずといった様子で感嘆の声を零した。
そんなペンドラに、コゼットはくすりと笑みを返す。
「これをやるには、身軽なことと、目が良いことが、重要かな……? ペンドラさんとか、向いてそうだね」
「ほんとに?」
「うん。ほんとほんと。やってみる?」
教えてあげる、とそう言って。
コゼットは自身の盾をペンドラへと手渡した。
訓練の様子を眺めつつ、ルーキスは感嘆の溜め息を零した。
「イレギュラーズから教えを乞う機会は中々無いですが……なるほど、学ぶことは多そうですね」
と、そう呟いたルーキスの視線の先では、自警団の面々が悲鳴を上げて次々地面に倒れて行った。
流れるように駆け抜けるシャルロットの斬撃を受けたのだ。得物は木刀、大幅に手加減をした攻撃だが、そこはそれ……手を抜かれていても、木刀で殴られれば痛いのである。
例外があるとすれば、それは……。
「色んな所から気を失わない程度にビリビリじわじわ痛んでくるのが、最っ高に気持ちいいんだよね……うぇへへ……」
極度のマゾヒストぐらいのものだろうか。
都合4回。
シャルロットの連撃をその身に受け、カナメは恍惚と笑っていた。だらしなく開かれた唇からは、涎が垂れそうになっている。
驚嘆すべきはその観察眼か。
左右に構えた木刀で、斬撃を受け流し受けるダメージを最小限に抑えてみせた。
どこに当てられるとまずいのか。
どこになら当てられても問題ないのか。
そう言った点を熟知しているからこそ可能な芸当であった。
訓練場から幾らか離れた川の畔。
マゴットの訓練を付けるのはエルとエルシアの2人であった。高齢ということもあり、走れないマゴットは、後方支援の訓練に参加したのだ。
「精霊術師にとって、精霊は友達――それは半分合っていて半分は違います、正確には、知らない街で出会った荒くれ者と友達になるようなイメージでしょうか?」
ふむ、と顎に手をあててマゴットは自身の杖を掲げてみせる。
その先端には、燐光を撒きながら舞う小さな光球。
マゴット本人は自覚していなかったようだが、彼は精霊と交流できる才能の持ち主であったらしい。
「チームワークが大事です。そのためには、仲間が動きやすい状況を整えることが必要だと、エルは思います」
敵の動きを牽制し、或いは強引に隙を作る。
その手段として彼女は遠距離からの攻撃を推奨していた。
「精霊に力を譲渡するイメージです。そして、与えた力を杖の先端に留めて……」
「最初は、狙いやすい場所から、攻撃していいって、エルは思います」
お手本ということだろうか。
的へ向け、エルは魔弾を射出する。
解き放たれた魔力の弾丸は的の中央に命中。藁と木っ端が周囲に散った。
「なるほどのぅ。しかし、儂の視力では……あぁ、いや」
頼めるか? と、杖の先に灯る精霊へ向けマゴットはそう問いかけた。
精霊の纏う光が、ほんの一瞬、輝きを増し……。
直後放たれた光弾が、的に命中して爆ぜた。
「お見事です。素早い足も武器を軽々と振るう為の腕もなかったとしても、嘆く必要はないのですよ……志を祈りに篭めれば、神秘の力が味方するでしょう」
控えめに拍手を送りながら、エルシアはそう告げる。
「少しずつでも、攻撃をしっかり重ねる事が出来れば、大丈夫だって、エルは知ってます。前に立つ方を信じて、後ろから攻撃して、支えることは大事です」
「うん。頭でっかちの爺が、ようやく役に立てる術を見つけたよ」
そう言って笑うマゴットの声は、どこか嬉しそうだった。
1人の老爺とエル、エルシアによる訓練はこうして穏やかに……けれど、しっかりとした密度でもって進められていく。
柔らかく煮込んだ肉と粥。
食欲をそそるスパイシーな香りが周囲に満ちていた。
ぐったりと地面に倒れる自警団の面々に、花蓮は食事を配って回る。
「日々健康的で美味しい食事を摂って規則正しい生活をしている事が、いざという時の活力になるのだわ」
差し出された皿を、リオックは黙って受け取った。
栄養吸収率と、食べやすさに配慮された軽食だ。ひと口、それを口に運べば最後、匙は止まらずあっという間に皿の中身は空になる。
使用されている材料はごくわずか。貧しい村でも用意できる範囲のものだ。
けれど、盗賊たちに襲われてしまえば、これっぽっちの食事でさえも用意できなくなってしまう。
父が、母が、友人が、村の子供たちが。
飢えて悲しむ光景など、決して見たいものではないのだ。
「強く、ならねぇとな」
「えぇ。きっと、貴方ならそれを成せるのだわ」
決意を新たにするリオックに、花蓮はそっと微笑んだ。
●踏み出す1歩
西の空に夕日が沈む。
それは訓練の終わりを意味していた。
「訓練の仕上げに、自分と一対一での打ち合いをしてみませんか?」
訓練の仕上げとしてルーキスはそんな提案をした。
リオックの槍とルーキスの木刀が激しく打ち合う。
リーチの上では槍が勝るが、手数というなら2刀の方が圧倒的に上だ。
加減されてこそいるものの、ルーキスの木刀は槍を受け流し、その腕や胴を打ち据える。
「ぐっ……」
苦悶を噛み殺すリオック。
一方、ルーキスは「おや?」と表情に疑問を浮かべた。
急所を狙って放った斬撃だが、しっかりと逸らされているのだ。日頃の使っている刀と、訓練用の木刀では使用感も違って来るとはいえ……。
「こうも当たらないなんてことが……」
そんなルーキスの疑問に解を与えたのは、試合を見守る花蓮の声援であった。
「そうそう、実戦で全てを回避なんて……まあ、ごく一部の人にしか無理なのだわ。回避できるものと出来ないものを瞬時に見分けるのだわよ……無理ならガードするの!」
「なるほど……あれか」
花蓮の行っていた訓練は、彼女の投げたボールをひたすらに回避し続けるというものだった。もともとリオックは他の自警団に比べて戦闘能力は高い。
その分、戦闘技術よりも回避と防御技術の習得も早かったのだろう。
「帰ったら俺も試してみましょう……かっ!」
一閃。
ルーキスの木刀がリオックの脇腹を打ち据える。
苦悶し、地面に倒れるリオック。けれどその手から槍は離さない。
「まだまだっ!」
すぐさま復帰し、リオックは再びルーキスへ向け挑みかかる。
何度も打ち据えられ、地面を転がっては、そのたびに立ち上がる。
リオックの身体はボロボロで、槍を持つ手も震えていた。
「駄目だの。リオック1人では隙を作ることもできん」
「あぁっ、もっとフェイントとか混ぜて!」
マゴットとペンドラが思わずといった様子で言った。みれば、他の自警団員たちもきつく拳を握っている。
「私は信じています。彼の心根の尊さを、強さを……」
「よわよわなエルは、皆様からたくさんのことを、学びました。なので、一緒に強くなりましょう」
リオックの助けに向かいたがる自警団員たちへ、エルシアとエルはそう告げた。
「1対1では距離を取るのも難しいわね」
「ならばいっそ前に踏み込むのはどうでござる?」
シャルロットや至東には、打開策が見えたようだが……戦闘に不慣れな自警団の面々にはまだそれは難しいだろう。
戦いとは選択の連続だ。
一瞬事に切り替わる戦況。
即座にそれを見極め、行動を調整する必要がある。
「やっぱり、後1歩のところで躊躇ってるよね。そうだ、後でゴブリンとか、なんか動物とか。殺してみようか? いざって時にとまどったりしちゃうと、死んじゃうよ」
なんて、コゼットが告げたその直後。
「はぁっ!」
リオックの放った渾身の突きが、ルーキスの肩を打ち……。
「お見事。その調子でリオックさんには是非、この自警団の代表として皆を引っ張っていく存在になって欲しいですね」
ルーキスの刀がリオックの顎を殴打した。
意識を失い倒れるリオック。我慢の限界だったのだろう。
団員たちが一斉に、彼を助けに駆けだした。
「うへーつかれたー。教えるってこんなにも大変なんだね?」
戦闘訓練を終え、感想を語り合う自警団を眺めつつカナメは大きなため息を零す。
実力のほどはともかくだが、リオックが志を失わない限り、団員たちは彼の後に続き戦うことができるだろう。
それは、ある種の“スキル”とも言える。
新たな技術の習得という訓練の目的は、無事に達成できただろうか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
自警団への訓練は無事に終了しました。
訓練の中で、戦闘スタイルを確立させた者や、新たな技能を得た者もいるようです。
依頼は成功です。
この度はご参加ありがとうございました。
また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
こちらのシナリオは「悪禍騒乱。或いは、騎士は悪の御旗のもとに…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4057
●ミッション
村の自警団の訓練。
戦う力を身に付けさせること。
●ターゲット
・リオック
“悪の祭典”に参加していた村の荒くれ者。
祭典の顛末に思うところがあったのだろう。
心を入れ替え、自身の住まう村を守る自警団を立ち上げた。
逆立てた金の髪。粗末な鎧。
“学習する十字魔槍”を持っているため、訓練の内容によってはスキルを身に付けることも出来るだろう。
・マゴット
最近村に越してきた齢70の老爺。
身体はすっかり衰えているが、かなりの知恵者であるようだ。
・ペンドラ
自警団最年少。
15歳の小柄な少女。
脚力に優れ、目も良いがそれを使いこなす術を知らない。
・自警団員×8
20前後の若者を中心に結成された自警団。
村を思う気持ちは強いが、喧嘩すらしたことが無いので戦闘能力は低い。
また、鍛錬の仕方などにも詳しくはない。
女性2名、男性6名。
体力だけはあるようだ。
自警団の主な目的は、自分たちの住まう村の警護。
そして“悪の祭典”が開催された村が悪人たちの巣窟とならないよう守護すること。
●フィールド
“悪の祭典”が行われた村……から、少し離れた位置にある隣村。
村の周囲には川や林、岩山がある。
自警団が鍛錬に使っているのは主に林と川の間。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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