シナリオ詳細
脱法白衣は成敗です!
オープニング
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「きゃー!?」
「またか!」
「どこだ?」
女の悲鳴。一気に騒がしくなる練達の生活区。人の輪の中でさめざめと泣いている女は──新品のような真っ白ピカピカの白衣をまとっていた。
「さ、さっきまで着ていなかったのに……どうして……どうして」
「俺も一緒にいたんだ、間違いない」
恋人か同僚か、傍らの男が口添えする。人々は悪態をつきながら周囲を見回した。
近頃多発するその事件は、練達でのみ発生していた。本来決められた場所でのみ自らの白衣を着用するものだが、どこにいても気づけばまっさらな白衣が着せられているのである。
不要な場で白衣を着る理由などない。というか白衣という性質上TPOが守られていない。これはいわゆる『違法白衣』なのである。特別な理由がない限り──それこそ『只今実験中』とでもない限り──は白衣を着て街中を歩いていたら人々から眉を顰められ、遠巻きにされることになるのだ。一体誰が進んでそのような行為をするだろう。ドMか?
「やあ、どうしたんだい?」
そこへ声をかけてきたのは『Dr.』マッドハッター(p3n000088)。御付き──ではなく世話係のファン・シンロンを傍らにつけていないあたり、彼を撒いてきたのだろう。今頃消えたマッドハッターを探して練達中を走り回っているかもしれない。マッドハッターからしてみれば彼の御付きは要望したわけでもないので、自由にやっているのだろうけれど。
声をかけられ振り向いた一同だが、その視界にマッドハッターを入れた彼らはあんぐりと口を開けた。不思議そうにマッドハッターが小首を傾げてみせるが、一同は目を泳がせたり明らかに顔を背けたりと挙動が怪しい。
「面白いことがおきているようじゃないか」
「あ、いや、」
相変わらず視線を泳がせていた男。マッドハッターが自らに起こった変化──彼としては『面白いこと』──着せられた白衣に気付くのはもうまもなくのことだった。
●
「いま、練達で脱法白衣通り魔が暗躍してるのです!」
バァン、とテーブルに羊皮紙を叩きつけた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。その羊皮紙はいま言っていた脱法白衣通り魔に関するものらしい。
「白衣を通り魔的に着せていく輩なのです。しかも皆さんが気づかない間に、あれよあれよと違法白衣を着せていくのです!」
また新たな単語を口にするユリーカ。なんだ違法白衣って、
曰く、白衣はいつどこでも着て良いわけではないらしい。TPOを守り、不必要な際には脱ぐものなのだと。通り魔を野放しにしておけば調子に乗って、練達のみならず諸外国へも違法白衣が増えていくかもしれない。
「あのマッドハッターさんも着せられたらしいのです」
「推しぴが!?!?!?」
椅子を倒しながら有栖川 卯月 (p3p008551)が立ち上がる。それは何の叫びだ。推し(マッドハッター)のレア姿を目にも記憶にも写真にも収められなかった悲嘆か。それとも妄想爆発した歓喜か。
「推し、ぴ……?」
かくりと首を傾げたノア・マクレシア (p3p000713)は視線を卯月から羊皮紙へ。練達では今や研究区画のみならず白衣を着る者──違法白衣だったか──が横行しているらしい。皆指摘されてから気づくというのだから相当のやり手だろう。
「白衣……真っ白、ピカピカだけど、光らないの……」
お宝じゃないのか、と呟かんばかりのミア・レイフィールド (p3p001321)だったが、いやいやと思い直す。脱法白衣の輩は大量の白衣を持っている。ということはそれ自体か素材かを買うための『金』は持っているということだ。通り魔を取っちめて残っている金をせしめてやれば良い。
「でも、どうしてそんなに白衣を……?」
「わからないのです。でも、着せられる中には白衣アレルギーの人もいるかもしれないのです! 危ないのです!」
アイラ・ディアグレイス (p3p006523)は白衣を着せられ、突然もだえ苦しみ始めるヒトを想像してふるりと震える。そんなアレルギー聞いたこともないがここは混沌。『あるはずがない』は通用しないのだ。誰とも知らぬ相手ではあるが、これ以上の余罪を増やす前に止めさせねば!
かくして。立ち上がった4名と、それにつられて立ち上がった4名は、脱法白衣通り魔をとっちめるべく練達へ向かったのだった。
- 脱法白衣は成敗です!完了
- GM名愁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年10月29日 22時26分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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依頼を受けたイレギュラーズ一同は、近未来的な姿を見せる練達の生活区画へ降り立った。
「困るんだよねぇ」
そう呟く『黒白衣愛好者』御幣島 十三(p3p004425)は白衣をまとっている。しかし困っているのはそこじゃない。周囲からの哀れみがこもった視線だった。なんとも居心地の悪さを感じさせるが、決して着せられたわけではない。これは自分で来た白衣、なんなら自宅から持ってきた白衣である。
「これ、白衣って言うんだ……お医者さんとかが着ているやつだよね」
『鏡の誓い』ドゥー・ウーヤー(p3p007913)は隠れた前髪の下から興味深げに十三の白衣を眺める。機会がなければそうそう見ることも近づくこともない代物だ。
そう、本来であればこれくらいの反応が普通なのである。
「脱法白衣……違法白衣……??」
一体どういうことなのかとしきりに首を傾げるとは『墓場の黒兎』ノア・マクレシア(p3p000713)。『あなたの虜』ラピス・ディアグレイス(p3p007373)も不思議そうな表情だ。
「違法とか合法とかあったの?」
「というか違法なのです? それとも脱法なのです?」
微妙に意味合いが違うだろうと『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)はなんとも言えない表情。頼むからスッキリさせてくれ。
「ねえ、アイラは──」
そう言いながら振り返ったラピスは言葉を途切らせた。視線の先にいた愛しい人、『あなたの虜』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)が何やらブツブツと呟いていたから。
「い、いけません……違法白衣ですよ? そんな、は、白衣だなんて……」
いけないという割に頬はとても上気しているし、何だか嬉しそうにもみえる、ような。彼女は一体何を考えているのだろう?
そんなアイラと別ベクトルで何を考えているかわからない──いや、ある意味わかりやすいかもしれないイレギュラーズも1人。
「推しぴが……白衣? 推しぴと白衣?? 推しぴが?? え???」
『『Dr.』マッドハッター推し』有栖川 卯月(p3p008551)は混乱の最中にいた。推しぴことマッドハッターが白衣を着た(着せられた)らしい。なるほどそれはわかっただけどどうして私がいないのにその状況にしてくれやがったんだ???
「ついでに人様に迷惑をかける有害白衣オタな犯人を捕まえればいいんですね??」
人様に迷惑がかかっていることはあくまで『ついで』である。本命は白衣の推しぴ(マッドハッター)。絶対にファンミーティングかチェキ会で白衣姿のツーショットを撮ってもらうのだと燃える卯月の心境など知らず、ノアはこくりと頷いた。
「うん。よく、わからないけど……悲しむ人がいるのは、よくないこと」
「犯人の正体がわからないのも怖いな……」
ドゥーは町の様相を呈する生活区画へ視線を走らせる。人、人、人。混雑と言うほどでもないが、それでも空いているというほどまばらでもない。あの中の誰かなのか、それとも。
「探すのは効率が悪そうだ。誘き寄せるか?」
十三の言葉にアイラもようやく依頼を思い出したか。小さく咳払いひとつして彼へ頷いた。
「ええ。逃げられないように、どこかへ追い込みたいですね」
「他の人たちに、被害が出ないようにしたい、ね。白衣アレルギー……? の人が、いるかもしれないし」
ユリーカの言っていたことを思い出すノアに一同はなんとも言えない表情を浮かべる。違法、脱法のあとはアレルギー。なんでもつければいいと思われている気がするのは果たして気のせいか。
まあ何はともあれ。始めようとしなければ始まらないのである。
「それでは、捕物帳と参りませう」
ヘイゼルの言葉に皆が頷く。こういう時はまず聞き取りだ。生活区画で人々に声をかけ、イレギュラーズという立場と依頼の話をするとあれよあれよと情報が集まってくる。とはいえ、いつのまにか着せられているだとか通りを歩く全ての人に着せていったとか、聞きようによっては犯人の武勇伝のようだったが。
「地図、貰えました!」
戻ってきたアイラが手にしているのは練達、それもこの生活区画を中心にしたマップだ。本来の用途は非常時の避難経路確認らしいが、この際道が詳細にわかればなんだって良い。
「このあたりとか、追い込められそう、だね」
「うん。あとは……このあたりとか」
ノアとドゥーが地図を覗き込み、良さげな行き止まりをリストアップする。現場もしっかり確かめ、聞き込みの結果とこちらの作戦に最適な場所を割り出した。
「ある程度人通りがある方がいいんだっけ」
「うん、そうみたい。違法白衣を見て欲しいのかな」
ラピスへそう答えながらアイラはむぅと眉を寄せる。完全に愉快犯の所業ではないか。なんとしてもとっちめなければ!
「囮役は複数いた方がアタリやすいんじゃないか? 俺もなってみようか」
十三は自らの白衣を脱いで畳む。白衣の上から白衣を着せてくるかもしれないが、きっと『普段白衣を着ている者が着ていない姿』が大事なのだ。例え水着を着た時ですら白衣を羽織ったほどの白衣常用者ともあれば、逆に白衣を着ていない姿を怪しまれても不思議なない。これはもはやアイデンティティのひとつなのである。
「追い込みは……任せる……の♪」
『しまっちゃう猫ちゃん』ミア・レイフィールド(p3p001321)の言葉にアイラと十三は頷く。囮以外は別の場所に隠れるなり人混みに紛れ、その瞬間を狙うのだ。
「罠は踏まないようにな」
十三は持ってきたものを使ってトリモチっぽいものを作り、一般人が踏まなそうな場所へ設置する。必然的に行き止まりのある路地へ近い場所となるが、これは各々が踏まないように気を付ければ良いだろう。
「それでは私は上へ」
ヘイゼルはそう告げると水無月の羽根で空へと上がる。屋根の高さまで飛翔した彼女はそこへ足を付け、耳を澄ませた。
(雑踏、ざわめき……まだそれらしい悲鳴はありませんか)
しかしそれも時間の問題だろう。通り魔は日中でないと行動を起こさないらしい。ほぼ毎日騒動を起こしているとも言っていたから、今日も今日とて動くだろう。
他の仲間たちも雑踏に紛れたり、死角に隠れたり、あるいは段ボールを被るなどして気配を薄くする。さあ、あとは相手の動き出しを待つだけだ。
(──きた)
ほどなくしてヘイゼルの耳が1人の悲鳴を聞いた。そこからもう1人、さらに1人。その方向へ駆けていく非常に軽い足音も捕らえる。もうすぐ囮のいる地点である。
(着せる、という行為をするのならば。当然標的の『背後』に立たなければいけない。それなら)
トリモチを背後にしていた十三、その近くにいたアイラ、そして鋭い聴覚を持つ面々は『べちゃ』という何とも気の抜けた音を耳にする。振り返ったアイラの髪の下からふわりと蝶がすり抜けた。煌めくそれは迷うことなく真っすぐに愛する片割れへと飛び、伸ばされた指先に留まって。
──きたよ!
その言葉と共に駆け出すラピス。彼女が身体を張ったのだ、自分も頑張らないわけにはいかない。他の仲間たちも続々と集まり、ぺちゃぺちゃと音を立てて逃げる通り魔を追い立てる。行き止まりに足を止めた通り魔が上を仰げば、
「観念しては如何でせうか」
屋根からヘイゼルが急降下し、飛行の力で衝撃をいくらか緩和しながら降りてくる。
目の前には行き止まり。
背後にはイレギュラーズ。
上空からもイレギュラーズ。
正に八方塞がりな状況に、通り魔がくるりと振り向いた。その姿は──。
「……白衣?」
「白衣だね……」
「見えてる……の……?」
「いや、流石に見えてないんじゃ」
「でもこっち振りむきましたし」
「穴……空いてる、とか?」
「その中に推しぴが来た白衣回収されてたりしません?????」
──多種多様な意見が出たが、その姿は複数の白衣で包まれたナニカだった。
「……あー、大人しく縄につきたまえー。君はマッドハッタークラスタたちに包囲されている」
逃げ場はないぞと投降を呼びかける十三だが、その程度で大人しくお縄につく通り魔ではない。ヘイゼルが素早くブロックし、ノアがオトモダチで盾を作るも──。
「ふむ?」
「……あ」
ふと見下ろせばそこには白衣。あれ、いつ着せられた?
「そもそも私は元から白衣を着ていたのですよ?」
「「え??」」
聞き返す声は通り魔からではなく後方の仲間たちから。ばさりと今着せられたばかりの白衣を脱ぎ棄てれば先ほど見た通りのヘイゼルだが、ひらりとコートの裾を返してみれば確かに白衣である。裏地を見なければわからないが、どうやら白衣の外側に布を足してコートへ仕立てている様だ。
「お洒落はさりげないところから。これ見よがしに見せびらかすのは品が無いのです」
おお、と思わず感嘆の声を上げるイレギュラーズたち。ノアもその中に混じっていたが、いざ自分の姿を見下ろすと困惑する。
(これが違法白衣状態……?)
あんまりよくわからない。これが素直な感想だろう。だがしかし問題は『これを脱ぐか否か』である。何があるかもわからない白衣など着続けたくはないが、仮に脱いだとしてもまた着せられるのではないだろうか。いたちごっこになってしまうのでは。
「えっと……どうしよう?」
困惑している間にも、さらなる犠牲者は出続ける。自前白衣を着なおした十三もやはり白衣の上から白衣を着せられ、それをぽかんと見ていたドゥーもまた自らの視界に入った白へぎょっとする。
「……!?!?」
白衣だ。白衣を着ている。白衣を着せられている!?
(め、目立つ……!)
なるほどこれがTPOか。確かに普段黒や灰という無難な闇に溶けやすい色を纏うドゥーからすれば、真っ白というのは『そもそもTPOがなっていない』。死にそうなくらいに恥ずかしく、ともすれば崩れ落ちてしまいそうだ。
(ああ、でも、ここで心を追ってしまったら更なる被害者が……!)
倒れる訳にはいくまい。耳まで真っ赤にしたドゥーはつんざくような悲鳴を聞いた。仲間の声に振り返ればアイラが口元を両手で抑え、目を見開いている。
「ぁ、だ、だめ、待って、え? 待ってくださいだめです、あの、あの、えっあの???」
「アイラ?」
「あああぁぁぁぁっっだめ歩かないで!!!?!?!?」
「……アイラ??」
不審に思い1歩踏み出そうとしたラピスがまさかの制止に留まる。そして気づいた──白衣着せられてるじゃん。白衣を着せられた程度、そしてそれに気付いたからと言って動揺するラピスではない。けれども。
「アイラ、大丈夫?」
「ラピスの白衣、ラピスが白衣を……くっ、敵ながら素晴らしい判断です。火力の出るボクを潰そうだなんて」
通り魔を睨みつけるアイラ──なんている筈もなくただただラピスをガン見している。口角がひくひく上がりたそうにしているが、そこは最後の一線と気を張って……あ、だめそう。
「あの、アイラ。落ち着いて。ね? 戦闘中だから、」
「ラピスだめ、今のキミはボクに恍惚だとか呪殺だとか魅了だとかを与えてしまうから!!!」
うん。彼女が壊れたことはよくわかった。大丈夫、戦闘続行しよう。
魔神目次録を展開する白衣姿のラピスに何だかアイラが悶えているがこの際仕方ないとしよう。戦闘が終われば元の彼女に戻ってくれるはずだ。戻ってくれるはずだよな?
「ボクをこんなにして! 許しません! ありがとうございます! 貴方を倒して白衣を大切に持ち帰りますよ!!」
……大丈夫、か?
狙撃していたミアの尻尾が不意にぴんっと伸びる。それは着せられた白衣の下から現れていた。
「素早い……の。ミアでも見切れないなんて……」
ダボダボの白衣をじっとりと見下ろし、しかしそれだけだろうと白衣を観察するミア。真っ白なところはミアとお揃いだ。萌袖状態の白衣はくるりと回ってみればワンピースのように広がる。
「ふふん……にゃー♪」
ちょっと楽しくなってきて猫ポーズするミア。初めての白衣もばっちりお似合いである。無邪気な様子を見せていたミアは、相手の気が緩んだとみるや否やアビスロブをぶちこんだ。命中。にゃは♪ と楽し気な声が漏れる。
「これもミアの、ピカピカのため……なの♪」
そう、目的を忘れちゃいけない。全てはオーダークリア、報酬、ピカピカのためである。
「というか、ちゃんとルールを守ってくださいよ!! そんなんだからネットやらなんやらで──」
卯月の言葉はそれ以上続かなかった。こちらもこちらで零れ落ちんばかりに目を見開く。ひらりとはためくのは自らが着せられた真っ白の、白衣だ。
「待って、待って?」
いや顔が良いオタク代表であることは自覚済みなので白衣を着たところで似合わないなんてあるわけもないのだけれどこれは推しぴとペアルックを通り越してもはや彼シャツならぬ彼白衣なのではないだろうかこれが推しぴの着た白衣とイコールかどうかなんてのは些細な問題でそもそも同じ犯人に着せられた時点でもうそんな次元の問題ではないのである(ここまでひと息)。
「白衣を着せられた推し見たかったなあ。ぐすん。そんな姿運営と本人次第でしかないしどんなにオタクが金を積んでも所詮無力なのに見れなかったもうほんと無理死ぬ病んだ」
ぐずぐず泣き始めぶつぶつ言い始めた卯月。自身の言葉に追撃ダメージを貰っているようである。きっとファントムナイト(ハロウィン)の時期だからイベントをやってくれると期待するしかない。
さて、ここまでなかなかに阿鼻叫喚な──おもに2名程か──であったが、とうとう最後の1人にも真っ白が纏われる。
「ボクまで!?」
「……うん、悪くないかも」
自分の姿を見下ろすアイラにその姿を眺めるラピス。これこそ真にペアルックというやつではないかと気づいたアイラが頬を染める。
だがしかしTPO。そしてアイラは暑がりさんなのであった。
「えいっ!」
勢いよく脱ぎ捨てるアイラ。それをすかさずキャッチしたラピスが「2人きりで見せてね」とそれを畳む。やはり持ち帰る心づもりらしい。
「ボク、まだキミの事を許してませんよ! ほんとうに……ほんとうにっ! ボクのラピスに触ったのとか! 白衣を着せたのとか!」
「はっ……私の推しぴにも、触った……」
ゆらり、と卯月も立ち上がる。ラピスも目を瞬かせ、少し考えこんだ。そうか、触ったことになるのか。触られたことになるのか。
「つまり僕のアイラにも。うん、そっか……始末しようか」
彼の不穏な言葉にノアやドゥーがぎょっとした視線を向け、ラピスは牢にぶちこもうと言いなおす。殺さなければセーフなはずだ。
(でも……結構弱そう……)
ドゥーがそっと視線を向けた先には相変わらず白衣で全身を包んだ通り魔がいるのだが、その挙動は明らかにおかしい。もう倒れてしまいそうである。だがしかしアイラは容赦なかった。
「いいですか、そういう諸々って奥さんであるボクの役目なんです! 女の嫉妬は怖いんですからね!!」
彼女の感情を表すかのように苛烈なる炎が蝶を象って飛んでいく。それは鱗粉をまき散らしながら通り魔の纏っていた白衣を焦がして、燃やして──。
ガシャン。
おおよそ人が倒れたとは思えぬ音が響く。イレギュラーズは思わず顔を見合わせ、通り魔へ近づいた。
白衣の燃えた下にあったのは──ロボットだったのだ。
「~~♪」
ミアがうきうきと仲間の着せられた白衣や落ちたそれを集める。数名持ち帰るそうだが、それでもそこそこ集まるだろう。これも売れば多少は儲けになるはずだ。特に女の子が着用済みの白衣は一部の方々に特別高く買ってもらえるかもしれない。
「ようやく、落ち着く……」
邪魔な裾がなくなってほっとしたノアをミアは「手伝うのっ!」と白衣集めへ連れて行く。その背中を見送り、ドゥーはすっかり動かなくなったロボットへ視線を向けた。
(どうしてこんな奇行を……いや、どうしてこんなロボットを)
製作者は愉快犯だったのか、それとも別の意図があったのか。壊れたロボットが答えるはずもなく、ドゥーはそれを背に通りへと出て行った。仲間たちももうそちらへ行っている。あとはこのロボットの制作者を探すだけとなっていた。
その暫し後。「白衣を発注し過ぎて配るためのロボットを作った」という人物がお縄についたという話題と事の顛末に、練達の人々は酷く安堵したのだという。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
プレイングがとても面白かったです。
それではまたご縁がありますように。リクエスト頂いた皆様はご指名ありがとうございました!
GMコメント
●成功条件
脱法白衣通り魔の捕縛
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に注意してください。
●脱法白衣通り魔
違法な白衣着用人々へ強要する通り魔。神出鬼没ですが、怪奇現象ではありません。一連の騒動により、相手は気配を殺すことに長けたモノであると推定されます。ただしヒトなのか動物なのか、生物なのかすらわかりません。
通り魔は逃げることを白衣を着せることと同じくらい優先します。戦闘はまあまあ強いくらいです。やつをにがすな。
逃げられないとわかったら白衣を着せにかかるでしょう。そう、あなたたちですよ。通せんぼしていても戦っていてもいつの間にか着ていることになります。覚悟はいいな?
このシナリオでは主にPCが『違法白衣を着てしまった』時にどう考え、衝撃を受け、どんな奇行を繰り広げるかお考え下さい。
●フィールド
練達の生活区画。現代チックな街の様相を呈していますが再現性東京ではありません。あくまで練達にあるひとつの生活区画です。故に住民はモンスターも許容する者たちであり、同時に変人奇天烈な研究者たちでもあります。
区画には路地裏や行き止まりなども存在しており、うまく追い立てて大人しくさせれば捕縛できるでしょう。
少なくとも彼らにとって『違法白衣』『脱法白衣』は意味が通じるものであり、いけないことであると認識しています。白衣は適切な場所で着るからいいんだよ。わかるな? な??
●ご挨拶
ご指名ありがとうございます。愁です。
やつをゆるすな。それはそれとして違法白衣に気を付けて。フリですよ?
それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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