PandoraPartyProject

シナリオ詳細

兵の夢、人の心

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ツワモノノツドイ
 兵部省――カムイグラにおいて軍事を司る七扇がひとつ。
 乱の気配あれば赴き、なくとも警戒にあたり、日頃は諸術を学び、武芸の修練や教習を欠かさない武人が殆どだ。
 そんな兵部省で、とあるやりとりが為されていた。
「騎射の稽古も良いでござるな。舶来の文物、たいへん興味があるでござるよ」
 そう声を弾ませるのは、陽という名の獄人の女性だ。燃えるような赤髪すら楽しげに揺れている。
 騎射――いかに速く的確に馬上から射るか。その技術を培うための競技は、笠懸などとも呼ばれている。
「場は整えられるだろうか?」
 端的に尋ねたのは一人の少年――神宮寺塚都守雑賀。この省において兵部卿と呼ばれる立場のひとだ。
「手配済みですわ。神使様と触れ合えるのを他の方も喜んでいて……食糧も用意できそうですの」
 兵部卿に答えた女性は花ノ宮 百合香なる八百万で、今から心踊るらしく陽と同じで嬉々としていた。
 そこへ、鬼の面をつけた八百万、渡辺・慶事が訪れる。
 彼は辺境での状況を雑賀へ手短に伝え、報告の終わりに気にかけていたことを尋ねた。
「……セツが先日、神使の世話になったとのこと」
「ああ、今も念のための養生だ。そろそろ飽きる頃合いだろう、連れていってやると良い」
 雑賀からの一報に「そうか」と呟く青年の声音は、鬼面で窺えぬ表情よりも明白に心情を物語った。

 いずれも、これまで神使――イレギュラーズに助けられ、または救われた兵部省の人々だ。

 慶事は成すべきことを終えた途端に下がろうとしたため。陽がすかさず声をかける。
「ひとつ手合わせはいかがか、慶事殿!」
「俺はすぐ任務に戻る。すまないが他を当たってくれ」
 浮き立つ陽を一瞥し、今しがた高天京へ着いたばかりの慶事は淡泊に答えた。
 慶事が京へ戻るのは報告時のみだ。京での警備を主とする陽にとっては接する機会の少ない相手でもある。
 しかし慶事自身は、京へ留まることに積極的ではない。なかったのだが。
「神使も訓練に参加するというに、貴殿抜きとは寂しいものだ」
 雑賀のさりげない一言で、立ち去ろうとした慶事がぴたりと静止する。
 そんな彼に目も呉れず、雑賀は言葉を連ねていく。
「特異運命座標なる者の武具も、術技も、多くは外よりのもの。さぞ珍しかろうな」
「……訓練は何処で?」
「巻狩を行うところで、ですわ」
 百合香がすぐさま答え、そうか、と短い返答がなされる。音にはやはり、慶事の心が乗っていた。
 こうして意思が出揃ったところで、雑賀は告げる。神使には文を送り、訓練に招くつもりだと。
「我らはつわもの。治平の世を民に、この豊穣なる地にもたらすべく動く者だ」
 あどけなさを残す顔に、迷いの色はなく。
「よって神使との此度の交流、実に良き機会となろう」
 楽しんでもらえれば良いのだが、とは口に出さずに、雑賀はそうっと瞼を伏せた。

GMコメント

 兵部省から神使の皆様へ、お誘いの文が届きました。

●目標
 兵部省の人々と友好を深める

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

●舞台
 京から少し離れたところにある平地と森が舞台。
 妖や悪人に見立てた人形や的が設置された、狩り場兼訓練所の一つです。
 また、森には鹿や猪といった野生の獣も生息しています。

●行動について
 以下を参考に、楽しんで頂ければ幸いでございます。

(1)訓練や手合わせ
 兵部省の人や仲間と一緒に訓練したい方はこちらへ。
 己の術技や、仲間との連携を兵部省に披露したい方もどうぞ。
 獲物を追いつめる巻狩や、馬上から矢を射る笠懸も可能です。
 ちなみに兵部省の人々は、カムイグラでは珍しい武具や訓練方法に興味津々。

(2)休憩や食事といった交流
 休憩用に設けられた陣幕で、訓練の合間に食事や交流ができます。
 陣幕でなくても、適当な場所で休憩して大丈夫ですよ。
 陣幕には、各種おむすびや粥、お茶などが用意されています。
 もちろん、皆様からの持ち込みやその場での調理も大歓迎!

●お友だちと参加なさる方へ
 プレイングに【グループ名と人数】か【お相手のIDと名前】をご記入下さい。

●その場にいる人物
 面識の有無などは気にせず、お気軽に交流なさってください。

・神宮寺塚都守雑賀
 国と帝に忠誠を尽くす兵部卿。神宮寺 塚都守 紗那さんの関係者さん。
 見目は少年そのもの。武芸に秀でており、刀を常に携えている。

・陽
 パワフル侍な鬼人種。茶屋ヶ坂 戦神 秋奈さんの関係者さん。
 辛味油を使った料理が好物で、よく町の惣菜屋へ食べに行くそう。

・渡辺・慶事
 辺境での警邏を務める、鬼面をつけた精霊種。炎堂 焔さんの関係者さん。
 主に鬼人種と共に行動する。槍が得物で、趣味は自己鍛錬と武具の蒐集。

・花ノ宮 百合香
 棍を武器とする精霊種のお嬢様。不動 狂歌さんの関係者さん。
 護身術を幼少より学んでおり、身のこなしも素早い。

・セツ
 風と槍を操る鬼人種の男性。普段は渡辺・慶事と行動を共にしている。
 複製肉腫に感染していたが、先日、神使に救われたばかり。

 それでは、ご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。

  • 兵の夢、人の心完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年10月16日 20時51分
  • 章数1章
  • 総採用数15人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)
日々吐血

 日輪をも吹き落とす野分が合図となり、黒影 鬼灯(p3p007949)が紋章を顕す。
 対する渡辺・慶事と同士の一党は――駆けた。半ば黄色い佳景に黒が走り、突き破らんとする慶事の穂先がもうひとつの黒を捉える寸前、章姫が無邪気に跳ねる。少女が獄人らの気を一瞬引く様を、鬼灯の月が見下ろした。
 天がいかに青かろうと、昏い運命が獄人たちを照らす。
 続く鏖ヶ塚 孤屠(p3p008743)の一突きは、相手を終わらせるべく揮うもの。ゆえに彼女の穂先は、相対するセツから微塵も逸れずにいた。セツも己の槍で受け、軌道を変えようとする。
 そしてセツがそのまま槍を押し返すも、先見した孤屠の動きが――ほんの一歩分、早い。孤屠は手の力を少しばかり緩めて槍の向きそのものを変え、勢い余ったセツはたたらを踏む。孤屠は嬉しげに鼻を鳴らす。
「ふふ、気は抜かないでくださいね! 言ってはなんですが強いですよ、私」
「承知!」
「ではいざ……ぼあーっ!」
 前兆もなく孤屠が血を吐いた為、セツや周囲の獄人だけでなく、鬼灯もぎょっとした。
「ああコレ日常茶飯事なのでお構いなく!」
「し、しかし……」
 動揺するセツへ、孤屠はにこやかに言葉を連ねる。口許の赤を拭いながら。
「今日はむしろ調子が良いくらいなので!」
「む、う。分かりませんが分かりました」
 困惑していたセツも、孤屠の言を信頼するがゆえにすぐさま戦の気へと切り替えて。
 孤屠とセツの技が交差する。穂先をぶつけ、流して、踊らせて――両名は丁々発止と渡り合う。
 その一方で。
「鬼灯くん!」
 章姫の声が耳朶を打った時にはもう、慶事の槍が眼前へ迫っていた。
 詰められたか、と判断した途端、無味な繊維の塊を噛んだ時の感覚が、鬼灯の思考を妨げる。しかしそれも瞬き程の刹那に過ぎない。すぐさま彼は紫苑の月を冠する一手にて、獄人たちを突き崩す。
 慶事のように耐える者もあれど、膝を折り、ふらつく者もいて。
「忍の妙技、お楽しみいただけたかな?」
 鬼灯が閉幕を告げれば、歓声が四辺から挙がる。
「噂に聞く手腕、技の運び、しかと学ばせて頂きました」
 鬼灯の能力と人柄を好いた獄人たちが、次々彼へ声をかけた。ふむ、と鬼灯はそこで小さく唸る。
「忍の中でも、俺の様な戦い方をするものは多くはいないだろう」
 獄人たちがそれに頷く中、一息ついた孤屠もセツへ笑顔を傾けていた。
「約束通り、お手合わせできて良かったです。……体、ほぐれましたか?」
「ええ、お陰様で。実に素晴らしいひとときでした」
 健康的な彼を認め、孤屠の眦も自然と和らぐ。
 そうした様子を見やり、慶事は今の一戦を思い返すかのようにじっと佇む。
「渡辺様とその同士の方は、攻手に重きを置かれているのですね」
 打ち合いを眺め、特性の把握に専念していた只野・黒子(p3p008597)が、そんな彼へ話しかける。彼の絶えぬ視線を感じていた慶事は、すぐに首肯した。軍学者とも思える黒子の言は、自陣の連携を適切に補強するもの。そう慶事も理解している。
 それに自分の居た日本との違いに興味がある黒子同様、慶事たちも外の手法には並々ならぬ関心があった。
「鶴翼の陣立てならば、兵の損失も防げるでしょう」
 黒子が次に提案したのは、陣形による連携だ。
「只、片翼の機能を失えば忽ち崩壊しますが」
「……配置する人員を見定めねばな」
 慶事の返答へ、正しくと言わんばかりに黒子が顎を引く。すると。
「黒子殿の炯眼、より大きな規模の演習でも受けたいものだな」
 口角の片側すらもたげぬ慶事だが、黒子の知識が己や仲間の戦力を高めると確信しているようだ。
 言の葉には、淀みなき音が乗っていた。
「有り難いお話です」
 黒子は常と変わらぬ柔らかな面差しで応じる。そこへ響いたのは。
「千颯さ……雑賀さーん! いかがでしたか! 私の槍術!」
 孤屠がぶんぶんと手を振れば、見学中の雑賀から笑みと頷きが返った。
 彼女が咲かせた明るい雰囲気に、黒子もふっと頬を緩め、次なる一戦を慶事たちへ托す。
「もう一度お願いできますか? より最適化が叶えばと思いますので」
「まだ遊べるのね!」
 聞き付けて逸早く喜んだのは、鬼灯と共にある章姫で。
「あっ。暦へのご依頼もおまかせなのだわ!」
 宣伝もぬかり無かった。

成否

成功


第1章 第2節

神宮寺 塚都守 紗那(p3p008623)
彩極夢想
フラッフル・コンシール・レイ(p3p008875)
屋根裏の散歩者

「そーなんですの! 雑賀ったら昔は夢でめそめそしてばかりで」
「……なるほど、意外な一面だ」
 神宮寺 塚都守 紗那(p3p008623)の声が朗々と、遮るものなき空にそれはもう朗々と響いた。
 目を瞠るフラッフル・コンシール・レイ(p3p008875)の音も彼女につられ微かに量を増す。
「でしょう? お姉ちゃんがいいこいいこしてあげてたんですのよ!」
 微笑ましい話ゆえに周囲は騒然とし、歩み寄った雑賀が咳払いをする。
「姉上。昔の話を人前でなさらないでください」
「本当の話ですのに??」
 後日、兵部卿の意外な一面を目撃! という速報が省内を飛び交うだろう。いとふびん。
「居ないところで噂はよくなかったかな、雑賀さん」
 天真爛漫な紗那の傍ら、会釈したフラッフルの悠揚たるや。
 雑賀はしかしフラッフルの言にかぶりを振る。
「噂は交流の一種だ、難はない。ただ内容が少々……」
 もどかしい物言いにフラッフルが小さく笑うと、雑賀の眼がふいと逸れた。
「はいどいたどいた、セツ君は向こうですのね」
 弟の腕を紗那が押し退け先へ歩を運ぶ。フラッフルも続きつつ、また君の話も聞かせてくれ、と雑賀へ心傾けて。
「僕は人の話を聞くのが好きなんだ」
 フラッフルの一言に、そのようだ、と雑賀は呟くだけだった。
 間もなく二人が訪ねたのはセツの元。鍛練中の動きは実に軽快で、認めた二人は頬をふくりと上げて声をかけ、セツも姿勢を正し応じる。
「お体の調子はいかがですの?」
「お蔭様で、御覧頂いた通りです」
 見物していた二人を察していたらしく、口端が緩む。
「フラッフル君もとても心配していましてよ? 勿論わたくしも」
「心配はしていたさ。こう見えて僕は優しいんだよ」
「こう見えて、ですか」
 額面通り受け取ったセツが眸を丸くする。彼の印象は少し違うらしい。
 その眼差しに気付いたフラッフルは、なんてね、と悪戯じみた一片を付け足す。
「先般の戦いは初の大仕事だったからね。成果を確かめにきたんだ」
「初……恐れ多くもそのような機運にお救い頂けるとは」
 初めてはたった一度きりのものであると、セツも理解していたのだろう。改めて有り難みを痛感したのか、彼の声色は心なしか震えていた。だからフラッフルはほんのり笑みを綻ばすせる。快復した彼は充分過ぎる成果だと、そう思えて。
「セツ君、怖い夢は見ておりませんか?」
 そこで紗那が懐かしむような色を唇に刷く。
「睡眠は大事ですの。フラッフル君と二人で子守歌でも歌って差し上げても宜しくてよ?」
 えっ、とセツが頓狂な声をあげる。
「そうだね、いいかもしれない。僕の歌が君に何を見せるかは、保証はしないけれど」
「いえ、流石にそれは……」
「遠慮なさらずに!」
「この際だ。限界まで気を許してもいいと思うんだ」
「だ、大丈夫ですので……!」
 迫る二人にたじろぐ青年という構図が可笑しかったのか、周りは温かな目で見守るばかりだ。

成否

成功


第1章 第3節

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

「陽ちゃーーん! やっほー!!」
 蒼穹を貫かんばかりの大音声で駆け寄ってきたのは、茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)その人だ。
「秋奈殿、少し振りでござる!」
 咲いた陽の笑顔を目撃した周囲から、微笑ましげな視線が一時集う。
 秋奈もそれに気付きはしたが、今は。
「もう! なんか食べよう!!!」
 開口一番ならぬ開口二番、腹底の靄を吐き出すように秋奈が提案して。
「コレはアレよホラ、ロレトレだってなんか遊ぶのやってーし!」
「ろれとれ」
「イチャイチャ……じゃなく交流だけで過ごすのもいいじゃないかー!」
「いちゃいちゃ」
 秋奈がひっつき、陽は少しばかりの惑いを目許に刷く。
「……戦いは箸休めでいいじゃんよー……」
 言いながらぐりぐり頭を押し付けてきた秋奈の、常とは少しばかり異な声色に。
「然らば紗の如き湯葉に、辛味油を垂らした品など如何でござろう?」
 活き活きと告げた陽を、秋奈はじいっと見つめる。
「好きだねー」
「好きでござる」
 迷わず言いきった陽へ、秋奈は密かに持っていた包みから取り出したわらび餅を――。
「くらえー!」
「ふんぐっ」
 陽の口へ押し込んだ。秋奈は鼻を鳴らして、次なる標的にと大量の食事が並ぶ台を見やる。
「あそこにあるの、食べまくるよー!」
 すると餅を飲み込んだ陽の双眸が途端に輝く。
「つまりカチコミでござるな!」
「カチコミだよー!」
 賑やかな二種の音が、黄へ色づきつつある野にこだました。

成否

成功


第1章 第4節

希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫

 深靴の踵を高らかに鳴らし、少女は刀を揮う。
 希紗良(p3p008628)に迫撃した一振りが散り急いだ楓の葉を裂くのを見るや否や、彼女は一太刀で獄人を打つ。
 よろめく獄人の代わりに花ノ宮 百合香が跳んだ。突き出された棍は素早く、咄嗟に身を捻った希紗良の腕を叩く。痺れは走れど少女は一瞬を逃さず、棍を弾き返し――漸く勝敗がついた。
「いやはや希紗良殿はお強い」
「ええ、とても。素晴らしい演習になりましたわ」
 対峙した獄人や百合香が声を弾ませるも、当人は些か浮かない顔で。
「強き剣士とは、きっと心も技に応じた強さを持っているのでありましょう」
 希紗良の声は少しか細い。
「……なれど、キサにはまだ『心の強さ』というものが分かりませぬ」
 どうあるべきか。どうすれば良いのか。
 あどけなさを残す彼女に、私もわからないのだと百合香は微笑んだ。
「ただ私、お姉様みたいに多くの人を助けたくて。その為に一分一秒、向き合っておりますの」
「向き合う、ですか」
「ええ。考えて、立ち止まって、また歩いて。その繰り返しですわ」
 希紗良は、受け止めた言の葉を喉へ流し込み、深々と頭を下げた。
「……もう一戦、よろしくお願いいたします、であります!」
「はい! 一緒に強くなれたら何よりですの」
 百合香の言葉に、希紗良は温まる心地を覚え瞳を揺らす。
 今はただ己に克ち、鍛えあげる。
 いつか。この身この命の全てを賭して戦う、その日のために。

成否

成功


第1章 第5節

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

 豪快な笑声が野に響き、森を震わせた。
 兵部省の人々は、これぞ正しくかのゴリョウ・クートン(p3p002081)の姿かと色めき立つ。
 咲き初める葉の紅が風に乗る中、ゴリョウは一閃を闘衣で耐え、次の相手では槍の穂先に突かれ――動きを、流れを、己が身で感じ取り捌いていく。
「ぶはははッ、その意気や良し、だな!」
 打ち込まれながらも楽しげな彼へ、挑みたがる者は多かった。勿論ゴリョウ自身、ただ掛かり稽古の受け手に回ったわけではない。兵部省の面々から受けた一手は、確実に彼の糧となる。
 そんな彼の様相は、見物人の感興をそそるもので。
「私もひとつお相手願おうか」
 次に歩み出たのは、兵部卿の雑賀だ。
「訓練させていただけるたぁ光栄の極み!」
 ゴリョウも躊躇なく応じ、始めの合図と共に迫った一振りを防ぐ。天高くへぶつかった時の音が鳴る。守りの技術に関して自負するゴリョウに、易々と一撃は通らない。けれど雑賀も臆せず、流麗な刀捌きで一点を攻め立てた。
「ぶはははッ、良い打ち込みだなぁ!」
 一瞬のようで時間にして一分。
 いち稽古として区切りがつけば、穏やかな表情のまま、雑賀は身を引き。
「やはり噂に聞く鉄壁。……まだまだ時間はあるか?」
 雑賀の問いにゴリョウが周りを一瞥すると、順番を待つ人々が浮き立っていた。
 彼の在り方は見る者の拳に熱をもたらし、得物と闘志を握らせる。
「おお、当然だ! どんどん掛かってきてくれ!」

成否

成功


第1章 第6節

星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束

 在りし日の面影を探す隠岐奈 朝顔(p3p008750)へ声をかけたのは、兵部省の陽だ。どうしたのかと問われ、朝顔が伏し目になる。
「伯母さ……知り合いが働いてたはずで。ご存じないですか? 星影鬼灯って、言うんですけど」
「存じ上げている」
 返答しつつ朝顔の風貌を認めた陽は、ひとつ唸ってから。
「既に兵部省を辞職なさったと聞いたでござるよ」
 そこまで答えた。
「本当に辞めちゃってたんだ……」
 俯いた朝顔の眸が陰る。しかし思考は沈むばかりではない。ふるりとかぶりを振った彼女はすぐに面を上げる。
「……稽古を、お願いできますか?」
 肯った陽との稽古もまた――朝顔にとって大きな意味を持つ。
 研ぎ澄ませた心を糧に朝顔が振るうは大太刀。同じく刀を得物とする陽と鍔競り合いの接戦となる。
 呼吸を乱しながらも朝顔は、次手へすべてを篭めた。救うための一撃は彼女の眼差し同様、真っ直ぐに陽を裂く。しかし朝顔の刀身がどう流れるか、相手も読んでいた。一撃受けるのを前提に、陽は朝顔の喉元へ切っ先を突きつけて。
「随分と生き急いだ攻法でござるな」
 続けた陽の一言が、朝顔の瞳を揺らす。
「私、急いで強くならなきゃいけないんです……もっと、もっと」
 朝顔が拘うのは想いという名の――枷にも成り得る力。
「……ごめんなさい、でも今はこういう戦い方しか……!」
 そう話す朝顔へ陽は説く言葉を連ねず、ならばもう一戦為合おうと誘うだけだった。

成否

成功


第1章 第7節

エマ(p3p000257)
こそどろ

 ここは日の当たる場所だと、エマ(p3p000257)は思った。
 眩しげに眼を細め、彼女はカムイグラに住まう人々と言葉を交わす。彼らとの訓練を重ねたエマが、次に手合わせするのは渡辺・慶事だ。
 槍を得物とする彼との対峙に、小刀を握りしめたエマは笑みを浮かべる。
「えひひ、よろしくお願いしますね。では、いきましょう」
 真っ向から挑むのはエマの性に合わない――というより、普段は選ばぬ道だった。
(選ばないだけで、やれなくはないですから)
 槍が力を篭め的を突くまでのほんの僅かな間、エマの刃は風のように槍を掠めていく。小刀に煽られ軌道が逸れた穂先を凌ぐと、彼女は軽やかに攻め入って。
 その動きで踊り出た影を、慶事が払う。
 かき消えた黒の合間を縫い、忍び寄ったエマの足が――慶事の膝を押す。
 む、と慶事が一声発してすかさず石突で押し返すも、そこにはもう影も形もなく。
 次に彼がエマの姿を捉えた時には、槍の柄を片腕で抑えられていて。
「こういうのは得意な方ですよ、えひひっ」
 手にした小刀は彼の鎖骨へ添えられていた。
「……良い腕だな」
 殆ど独り言のように慶事が感心したため、エマはまじろぐ。
「俺の仲間にも受けさせてやってくれ」
 言いながら慶事が一瞥した先、獄人たちが気合い充分な面持ちで待機していて。
 一度は目を見開いたエマも、すぐに眦の緊張をほぐす。
「構いませんよ、えひひ」
 ――やはりここは、日の当たる場所だ。

成否

成功


第1章 第8節

マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー

 蹄が芒を蹴り、野を疾駆する。跨がるのは物々しい武装の兵ではなく小柄な少女だ。
 平野から森へ、彼女は馬を走らせた。狙撃も馬術も親しんできた身ゆえ、マギー・クレスト(p3p008373)は臆さずその細腕で二挺の銃を構える。
 弾が星のごとく瞬き的を射抜く度、笠懸を共にする兵部省の面々が感嘆の声をあげた。
「やはり地力があるのでござろう」
 赤髪の陽が讃えた通り、マギーの馬を用いた射撃は、初めてとは思えぬ成果を出す。
 戻ってきた少女は、頬を上気させて馬をおりる。
「ありがとうございます。……想像とは違いました。馳せ参じることが叶い、良かったです」
 銃を見つめるマギーの眼差しは穏やかながら、きらきらとした輝きを宿す。
 カムイグラでの勉強はどれも、彼女を一回り大きくさせるものだった。だからこそ興味も尽きない。
「マギー殿の舶来品、たいへん美しいものでござるな」
 装飾の施された双銃へ、陽の興味が寄る。
「そう評価して頂けると、ボクも嬉しいです」
 目許も声も和らげて少女が言うと、陽たちの笑みもより色濃くなっていく。すると。
「その銃の姿、再びご披露頂ければ幸いです!」
「今一度、先程の精密なる射撃をッ」
「……宜しいでござるか?」
 前のめりな仲間を抑えつつ陽が尋ねる。マギーはぱちりと目を瞠った後。
「的を絞るのにもう少し慣れたいので……見ていて頂けると助かります」
 そう話して会釈した彼女に、陽たちは大いに喜んだ。

成否

成功


第1章 第9節

只野・黒子(p3p008597)
群鱗

「然らば、一つ巻狩で試行してみますか」
 はじまりは只野・黒子(p3p008597)の提案だった。
 彼は彼らの演習を元に煮詰めていこうと考えた。幸い野も森も充分な広さを有している。全土を巻き込む戦となればまた違うだろうが、各部隊ごとの特性を活かすには手頃な戦場だ。
 渡辺・慶事率いる一部隊と他幾つかの部隊が、黒子の教えを受けている。そのため彼らに黒子も同道し、猪を相手にした横隊からの鶴翼といった陣形の変化や挙動を確かめていくことにした。
 猪の唸りが響く。闇雲に突進する獣との対峙は、演習に持ってこいだ。四辺を見渡しつつ黒子が形勢を見守り、そして術者との連携において支援も司る。
 黒子から知恵を授かって以降、彼らの動作にも違いが出始めた。
 手仕舞いを終えた後の感想戦においても、また同様に。
「槍衾の使用時機を見誤らないようにしましょう」
 黒子中心となって輪ができていた。各々が神妙な面持ちで聞いている。これまで重ねてきた黒子の言動が、信を得たのだろう。
「敵攻勢が勇猛であれば、流れもまた違ってきます」
「勇猛、か」
 どのような相手を、状況を思い浮かべたのか慶事はひとつ唸った。
 そこへ黒子が静かに言葉を向ける。
「……我々だけが、というのは崩れ易いもの」
 念を押すように紡いで。
「ならば戦えるものが多いほうが良い、とは思います」
「……そうだな」
 話は暫く続いた。すべては彼らの糧となるために。

成否

成功


第1章 第10節

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

 水浴びを終えたゴリョウ・クートン(p3p002081)は、兵部省の人々の手を借りて、鼻歌混じりで調理に取り掛かっていた。
 料理人ゴリョウのもと、休憩用陣幕には見事な豚汁とカレーが並ぶ。
 栄養食として優れた豚汁は、カムイグラの人々にとっても慣れ親しんだ味。けれどゴリョウが作る豚汁は、具もたっぷり、寒さにも負けず湯気を立てる熱々のもので。
 ほぐしたササミなど、たんぱく質の摂取まで考えを巡らせたカレーもまた、兵部省の面々には好評で。
 そこかしこに溢れるのは、カレーを頬張る彼らの感激に似た唸りや、豚汁を啜ったときの感じ入るかのようなため息。それらはゴリョウにとって、この上なく美味しい光景だ。
「このような食もありますのね」
 珍しいカレーに興味津々だった花ノ宮 百合香が、うっそりとした息をこぼす。
「口に合うなら何よりだが、どうだ?」
「ええ、とても美味しゅうございますの。毎日でもいただけますわ」
 百合香だけでなく、周りの獄人や八百万たちも同じ所感を口にした。
「大量に作れるのも良いですな」
「しかも飽きがこない。これを戦場で用意できれば……」
 感想を交換し始めた彼らを眺めて、ゴリョウ本人も満足げに頷く。
 繊細な豊穣舌に合わせて努めてきた成果が出たようだ。
「がはははッ! 旨い飯がありゃモチベーションも上がるしな!」
 再び辺りに豪快な笑い声が轟く。
 カレー文化が、この豊穣なる地にも広がりつつあった。

成否

成功


第1章 第11節

只野・黒子(p3p008597)
群鱗

 渡辺・慶事らの手合わせを見物してからの助言、演習への同行と調整。長いようで短い秋の一日を、兵部省のため尽力してきた只野・黒子(p3p008597)は、休憩のため張られた陣幕で席につく。
 彼を労うため、茶を入れたり食事をよこしたりする獄人も多く、黒子は彼らの厚意をありがたく受けながら、慶事と言葉を交わす。
 黒子が進んで話題にあげたのは、自身の世界における教育のこと。
「初等から中等までは学びが義務でして。以降は……国の補助も有りますが、各々が道を選択するのです」
 耳馴染みの薄い話に、慶事よりも彼と行動を共にする獄人たちの方が、強い興味を寄せてきた。
 どういう道があるのか、と尋ねた一人へ黒子が話すたび、感嘆の唸りが四方から溢れる。
 ただ慶事だけはずっと、押し黙ったまま耳を傾けるのみで。
「そうした道を選べるとは、黒子殿の住まわれた世界は素晴らしい所ですね」
 獄人のひとりが楽しげに言葉を連ねたところで、黒子は少しばかり眸を伏せた。随分、遠くへ来たものだ。
「……俺の世界の歴史が語るのですが、文武の他に『技』を学ぶのが良いかと。それもなるべく早い内に」
 学びには時間も金もかかる。痛感しているからこそ黒子はそう告げて。
「とはいえ兵部省だけで進めるのは、役割の違いもあり難しいと思いますが」
 それでも。
 我々だけが戦うのではない。言葉の意味をしかと伝え終え、黒子は漸く息を吐いた。

成否

成功


第1章 第12節

メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

 紅葉の錦が編まれゆく山を遠くに、メリー・フローラ・アベル(p3p007440)の一手は猪の横腹を叩く。毛並みがぶわっと波打った後、猪が盛大に倒れた。
 ふ、とメリーが短い息を吐き、眺めていた兵部省の人々へ振り向く。
「これが殺さずの技」
「見事でござる。一瞬、屠ったように見えるというのに」
 赤髪を揺らし頷いていた陽が、猪を一瞥する。身動きが取れないだけで息はあった。
 メリーが次に標的としたのは、じっと様子を窺っていた鹿だ。慈悲なる力を拡散し、跳ねて去ろうとした鹿をふらつかせる。突然脱力した鹿を遠目に、またもや陽たち獄人が感心の声を連ねた。
「ね? あとこれも不殺の技よ」
 一連の流れの終いに、メリーの解き放った目映い光が周りの獣をぐったりさせる。
 見物人から沸き起こった拍手が静まる頃、メリーはぽつりと唇を震わす。
「……わたしね」
 透る声に獄人たちが耳を傾け、静寂が漂う。
「邪魔な奴は片っ端からブチ殺したいと思ってるの。本当は」
 包み隠さず話してみれば、陽たちも首肯で続きを促した。
「だから必要なのよ。選択肢は多い方がいいもの」
 そう話したメリーが思い浮かべる光景で、真に強いと思えるのは――命を奪うだけではない力を持った者。
 するとそこで、陽がゆっくり頷く。
「今一度、技を拝見したい。いかがでござろう」
「勿論いいわよ。そのために来たんだから」
 答えるメリーの双眸は、心のままに柔らかく揺れた。

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