PandoraPartyProject

シナリオ詳細

付喪神まであと少し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「あと一年、もしかすると後半年かしら」
 幽美(ゆみ)は古びた額縁に入った絵画を恍惚の表情で眺めている。丑三つ時、あられもない姿で絵画の前に立ち尽くす。
 美術品を愛でてる様子ではない。我が子を愛おしそうに見つめる母親というわけでもない。
 眼前の絵画を盲愛するよう誰かに暗示をかけられたといったほうが近い。真夜中にくっきりと開いた瞳孔も異様だった。何にせよ丑三つ時にすることではないはずだ。

「奥様、いくらなんでも体に毒です。お休みください」
 使用人である華武(かぶ)の声は耳に届かない。

 幽美の夫は七扇は治部省の外交事務に携わる要職に就く。家庭にはゆとりがあり、夫婦仲も円満といえた。結婚十年目だが子供はいない。
 幽美は精霊種ながら傲慢さの欠片もない穏やかな人となりで彼女の周りで争いごとは滅多に起きなかった。無論、鬼人種の差別なんて無縁の貴婦人であった。
 現に邸宅の使用人に身寄りのない鬼人種の少年を住み込みで雇っていた。
 夫婦ともに人格者で鬼人種の少年を実の子供のように育てた。このまま子供が生まれないなら家督を継がせてもよい。そこまで信頼していた。
 華武も寵愛を心から感謝し、全身全霊で夫婦に尽くした。夫婦と鬼人種の少年は理想的な関係であったと言える。

 そんな貴婦人がおかしくなったのは三か月ほど前。立派な額に入った年代物の絵画を画廊で購入してからだ。

 ――海辺に立つ蛇。それが絵画の内容だ。

 豊穣に蛇はいないこともないが、わざわざ主役に抜擢するような存在ではなかった。
「赤い瞳が綺麗」
 彼女の一目惚れだった。まるで宝石の様だと画廊で幽美は言ったが、夫の善辰(よしたつ)にはどす黒い血の色に見えたそうだ。
 今思うと、その時点で幽美はあれに魅せられていたのかもしれない。

 善辰の朝は早い。よって就寝も早いので元々宵っ張りな幽美とは寝室を分けている。それもあって深夜の騒ぎも気づかれないことの方が多い。

 額に入った絵画は付喪神に近づいていた。それは間違いない。
 手をかざして語りかけると、波長な様なもので返答を返す。明確な意識があるのだ。
 絵の返す反応は日に日に強くなり、簡単な喜怒哀楽を表現するまでに成長した。

 幽美はある日、七扇に付喪神に詳しい者いることを知る。早速、善辰に頼んでその人間に絵を見てもらった。

『近い将来だ。このまま無事に過ごせれば付喪神になれるだろう』そう夫婦に告げた。
 幽美は歓喜し、それから一日中絵画の前で立ち尽くすことが増えた。何故か一糸まとわぬ姿でいることも多くなった。絵画がそうさせるのだろうか。
 幽美はやつれ、遂には語ることすら出来なくなる……。それでも絵画の前に立ち続けた。 
 
 善辰の伝手で名うての医者に見せても原因は分からない。
 もはや八方塞がりか? 「僕が奥様を救います」

 鬼人種の華武は、枯れ木のようにやつれた幽美を救うため勇気を振り絞って……幽美の絵を奪い森に逃げた。敬愛する奥様の大事な大事な絵を盗んでしまった。
 でも、そうすれば幽美の憑き物も落ちる。全て元通りになる。そう信じていたが……。

 華武は豊穣北部にある無人の祠に急いだ。息が切れても走り続けた。あの祠は神聖な場所らしい。だからそこに絵画を封印してしまえば。
 ――気づかれていないよね? 邸宅を出てから半刻後、初めて後ろを振り返ると、髪を振り乱しながら裸足で駆けてくる幽美の姿を遠目に見た。


「絵画を持って逃げた使用人を取っ捕まえる」
 それだけだ。『黒猫の』ショウ(p3n000005)は気だるそうに吐き捨てる。
「おっと、補足があった。依頼主は豊穣の名家の旦那で、失踪した奥さんも多分一緒だから連れ帰ってほしい、そうだ」
 使用人と奥さんの不逞なロマンスか?
 ま、どうでもいいが。簡単な仕事だと思うからよかったら受けてもらいたい。
 ショウはあっさりと説明を終えた。

GMコメント

日高ロマンと申します。よろしくお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい★

●依頼達成条件
 失踪した夫人を連れ帰る

●シナリオ補足
・祠がある森に入ったところからシナリオはスタートします
・祠の近くにターゲット達がいます
・時間は夜
・戦闘の判定によってはイレギュラーズは負傷または重傷を負う可能性があります

●敵対勢力
 ???:つよい

  • 付喪神まであと少し完了
  • GM名日高ロマン
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月23日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
陰陽 秘巫(p3p008761)
神使
如月 追儺(p3p008982)
はんなり山師
リレイン・ヴァース(p3p009174)
新たな可能性

リプレイ

●静寂の森にて
「――霊験灼然で、地元の人にはよく知られているようです」
 『鏡面の妖怪』水月・鏡禍(p3p008354)は事前にこの森と祠について入念に調べあげていた。
 夜の帳が下りてから大分経つ。空気は凛と冷え透き通っている。静寂の中にあるのは一同の気配だけであった。
「ほな、件の祠はあれの封印に使うつもり、という分けですわなぁ」
 ふむと、思案しつつ『アヤシイオニイサン』如月 追儺(p3p008982)は僅かに首を傾げる。
 しかし、あの小童は正気なんどすかえ。絵か御婦人に魅せられただけの様に見えなくも無いねんけど……。依頼人の旦那は別の意味で真っ黒ですわなぁ。
 不可解な点が多く簡単には事は運びそうもないと、小さくため息をつく。
「確かに勘ぐれるところは色々あるね」
 追儺の含みを察して『特異運命座標』ヴェルグリーズ(p3p008566)が言葉を拾った。
 だが、それはそれ。俺は割り切るつもりだ。例え相手が同族だとしても。ヴェルグリーズは複雑な思いを胸に秘めつつも黙々と歩を進める。間もなく森の中腹といったところで、

「前方に何かが……。こちらの様子をうかがっています」
 周囲にいる敵対者の存在をいち早く察知したのは『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)。半径百メートルは彼女のテリトリーだ。
「――あれはどう見てもお目当てのあやかしと違いますなぁ」
 前方の草むらには兎程度の身の丈の生物が立っており、神使一同を見つめていた。身の丈は小動物だが頭部は老婆のものにすげ変わっている珍妙な存在だった。
 ぎらりと追儺の眼光が輝くと奇怪な小動物はすぐさま退散する。
「あれはただの魑魅魍魎」
 妾の艶笑を拝むには身の丈に合ってませんわなぁ……。『神使』陰陽 秘巫(p3p008761)は怪しく囁いた。
 静寂の森が霊験あらたかとはいえ、魑魅魍魎が湧くのは普通ではない。生まれかけの付喪神を狙って集まってきていると考えるが妥当だ。 
 一同は周囲を探索しつつ祠に向かう。恐らくその付近に幽美と華武がいると予測していた。

●数日前のこと
 善辰の屋敷にて。

 ――わたくしは敬虔なシスターです。信心深いです。わたくしを信じて間違いありません。さぁどうぞ――。
 数日前にライ達は依頼人である善辰のもとを訪ねていた。
「絵画について……夫人について……使用人について……。ご存知の事を教えて頂けませんか? さぁ――」
 大丈夫、懺悔の内容を漏らすことは絶対にありませんから。ライは物言わぬ善辰に無言の圧をかけ続ける。
「しかし、神使の皆様に依頼をした時に全て話しましたし、これ以上の話はとても人には……」
「これ以上の話? では何かあるのですね。話すと楽になりますよ。さぁ。さぁ、どうぞ」
 結局、ライの巧みな話術でローレットには伝えていない情報を引き出すことに成功した。

 ――幽美がおかしくなってから善辰とは一切会話をすることがなかったそうだ。
 また、いつしか幽美は善辰を見ると逃げるようになったとも言っていた。きっと、あの絵のせいだ。絵を買ってから気が触れてしまったのだと。
 絵の呪いに違いない。善辰はそう確信しているようだった。ああ、聖職者の方、どうかこのことは内密にしておいて欲しい。
「ええ、もちろん」

「さて、依頼人から得た情報を発表しますね」
 ライは当然のように情報収集班に共有を始める。懺悔の内容は決して漏らさないという彼女の言葉は真っ赤な嘘である。
「オレからもネタがある」
 『朱の願い』晋 飛(p3p008588)は隣人や家人に限らず情報網を駆使して事件に関係しそうな者を軒並み洗っていた。
「画廊も勿論洗ったが、あれはシロだ」
 まがい物ばかり扱っているロクでもないディーラーだが、『本物』を見抜く力はないだろう。飛はそう踏んでいた。
 素人が偶然『当り』を引く可能性もゼロではないだろう。或いは絵が人を選んだのか……。結論はまだ出ない。
「オレも依頼人とは直接話してみたいと思っていた。行って来るぜ」
 飛はライから得た情報を踏まえて善辰との対話に臨む。

 ――再び善辰の屋敷にて。
「また貴方達ですか。私との会話より、妻と使用人を早く探してください」
 善辰は感情をおくびにも出さずに淡々と答える。
 隣人の話だと善辰の評判はすこぶるいい。幽美は三か月前からおかしくなった。華武は勤労で善辰の知人の屋敷にも時々手伝いに行っていたらしい。全てローレットに入ってきている情報と一致する。
 だが、何かおかしい点がある……そうか。
「別にいいが、アンタ何でそんな冷静なんだ?」飛は善辰に問う。
 今回の失踪は不貞を疑う状況だと言える。愛する妻と後継者と考えていた部下がこうなった以上、普通はもっと激昂してていい筈だ――。こんな状況なのに落ち着きすぎている。
「私は、あまり感情を外に出さないものでして。内面はほら、こんなに心配しているのですよ?」
 善辰は泣き笑いの様な不自然な表情を不意に浮かべて見せた。
 普通じゃねぇだろ。飛は善辰に強い疑念を抱いていたが物的証拠はない。また優先すべきは消えた二人の確保のはずだ。今日のところは一旦引くことにした。

「簡単な仕事、ね」屋敷を去った飛は独り言ちた。
 俺ぁそういう仕事に何度騙されてきたかわかんねぇのよ!

 その頃。もう一人の情報収集班である『新たな可能性』リレイン・ヴァース(p3p009174)は飛とライと別行動を取っていた。
 リレインがどうしても会っておきたかった相手は『ご夫婦が絵の鑑定を依頼した者』であった。
 相当な審美眼、あるいは霊能力に近いものを有しているのではないか。絵画が事件の鍵であるはずだしそれを実際に見た人の話は聞く価値がある。そう考えていた。
「お邪魔します。ある事件を調査してまして」リレインは絵画の鑑定士の屋敷を訪ねた。
「あんた、神人ってやつだね。初めて見たよ。お上がんなさい」リレインの真面目な内面を感じ取ってのことか、鑑定士は快く受け入れてくれた。
「(よかった、上手くいけばリーディングを使わなくて済む)」

「……あの絵画ね。あれは本物だね。いずれ付喪神になれるだろう」
 この鑑定士は絵画を専門としており「これは」と思っていた絵画が後に付喪神となる様を何度も見てきた。言葉に嘘はないようだ。
「禍々しさ? そんな絵ではないよ。むしろ、蛇は魔除けとして信仰する人もいるくらいだ」
 鑑定士は話を区切るようにお茶を啜る。これ以上の情報は無さそうであった。
「あの絵をめぐって実際に盗難も失踪も起きています。何かあるんです」
 これ以上の大事になるのは、貴方の望みでもないのでは? リレインは食い下がる。
「う~ん、変な点ね。そう言えば絵よりもむしろ、いやこれはちょっと言えないな」
 それ! リレインはすかさず鑑定士の思考を読み取った。

 ――絵には何の邪気もなかった。絵が騒ぎを起こしたのは悪気はなく、ただ力を制御できないだけだろうなあ。
 ――おかしいのはあの旦那だ。何かに憑かれているどころの騒ぎじゃない。まるで悪意が服を着て歩いているような。
「これは情報収集班のお二人にも早く伝えないと……」

●ツキモノオトシ
「歯ごたえがないのう」
 神聖な術式で魑魅魍魎を退けながら『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は悠々と歩を進める。
 ようやく遠目に祠が見えてきた。皆も同様に続く。
 瑞鬼は精霊を操作して保護対象の情報を集めていた。華武と幽美はまだ生きている。そして、二人はあの小さな祠の傍にいると。

 一同は森の奥深くにある祠の前に到着した。
 数日前の聞き込みの結果は皆に共有済みだ。
 善辰が危険な存在なのでは?
 森に侵入する前にそのような意見も出た。しかし幽美と華武の保護を最優先とし、善辰はその後に――そう結論付けた。
 
「で、あれが件の絵か。わしはあまり好きではないのう……」
 小さな祠は古い木材で組まれていた。お世辞にも美麗な建造物ではないが古き物の風情がある。正面には扉があり、中には絵画『浜に立つ蛇』が納められていた。
 蛇は義娘を思い出すから、嫌いではないのじゃが。この絵は好きくないの。
 瑞鬼が呟くと、辺りの空気が徐々に変っていく。まるで幽世の口が開いて何かがこちら側に流れ出してきているかのように。
 すると、祠の裏から二人の人影がゆらりと躍りでる。低く身構えこちらを警戒しているようだ。
「絵は祠に納められています。これで最低限の封印にはなっています」
 だからすぐに暴れ出すことはないはずだ、と鏡禍。由緒ある祠であることは調査済みだ。つまり敵対者は使用人と婦人の二名となる。
「二人はどうみても正気じゃねぇな」飛は軽くため息をつき、戦闘態勢を取る。
「やっぱり駆け落ちちゅう感じには見えへんわなぁ」まぁ確保してから考えまひょか。と秘巫。

 華武は予想外の素早さで飛び回り、簡単に狙いをつけさせない。
 だが、ライは慈悲の名を冠する魔銃から渾身の弾丸を撃ちだした。見事、華武に直撃させる――だが彼はまだ倒れない。少年ながらも鬼人種の意地を見せたのか、或いは魅了の影響で痛覚が吹っ飛んでいるのだろうか。
「小童、どこ見てはるんどすかぁ!」
 追儺は意図的に華武に接近して攻撃を誘う。背後からはリレインが破邪を唱える。皆、あくまで不殺を貫く方針であった。
「……僕の邪魔をしないで」華武は追儺に挑みかかる。
 ――小童の鬼哭酒を味わうのは五十年早いどすなぁ。追儺は華武を突き放し、そこに瑞鬼の術式が直撃すると少年はそのまま崩れ落ちた。
「わかりやすくていいのう」瑞鬼は倒れた少年の傷を癒す。ぶん殴って大人しくすればいいのじゃろ? と口角を上げた。

 華武の確保は完了した。飛び回る華武を追い、神使の半数は祠から少し離れてしまっている。幽美は――。

「命を奪うつもりはないけれど」
 ヴェルグリーズは幽美と対峙する。打って出る際は勿論、手心を加えるつもりではある。だが可能であれば武に頼らずとも……説得を試みる。
「……狂気が私にささやくの。それに耐えられない。でもあの絵は私をまもってくれる……」
 瞳孔が開いた瞳で宙を見つめている。
 やはり錯乱しているのか。致し方ないとヴェルグリーズは幽美に歩み寄る。そして彼女の細い腕に触れた際、異様な膂力を感じた。魅了による暗示の力であろうか。
 そして幽美は絶叫するや否や激しく暴れ始めた。亡者のようにやせ細った四肢を渾身の力で振り回す様は違和感を感じる。だが、
「汝の相手は妾やろ」秘巫が幽美の前にゆらりと立ち、妖しげに鬼が艶笑を浮かべる。
 入陽耽陰――。秘巫の陰と陽が入れ替わる。先ほどまでの妖しく端正な顔立ちが、今は妖艶さとあどけなさをあわせ持つ少女のものに見えた。

 鬼の艶笑を拝み続けた幽美は泡を吹いて白目をむいた。
 間もなく卒倒するかと思いきや、祠まで駆け、素早く絵画を取り出した。
「……あれが見ている……私をたすけて!」
 幽美は蛇の絵画を盾にした。
 絵画に描かれた蛇は口から黒いもやを吐き出すと、それは絵画を飛び出て現実世界のものとなる。
「この攻撃は……呪い。でも絵からは邪気は感じません」鏡禍は絵画の性質を悪ではないと判じた。
 鏡禍は胸をなでおろす。これで彼を討たなくていいはずだ、と。
 しかし絵画の蛇は幾度も呪いをまき散らす。邪気が無くとも制御できないのであれば斃すしかない。
 再び呪いの一撃が神使を襲う。
 危ない、避けてください。鏡禍が叫ぶ。だが秘巫は微動だにしない。間もなく黒いもやに全身を包まれる。
「妾そんなもん効かへんのよ。やから、ちゃぁんと殴って首を落としたってな?」
 ふふ、うふふっ、愉しいなぁ。呪いの海で秘巫が嗤う。

 依然として幽美は絵画を盾にして身を守る。
「使用人だけじゃねぇ。夫人も無事に連れ戻す」
 飛は武器を使わず捕獲を狙う。同時に呪いから仲間を守るために神秘の鎧を創り出す。
 リレインは被弾した仲間の傷を癒しつつ、絵画の意識に問いかける。
「どうか応えて」
 もしあなたが邪悪でないのであれば壊したくないのです。百年大事にされてようやく生まれようとしているのだから。
 聞こえているのなら返事をして。このままでは絵画は破壊されることになってしまうから。幽美の生還を優先するならば絵画は致し方なしになるという結末は既に決まっていた。
 そう覚悟したところに、華武を捕獲したライ達が戻る。そこからは多勢に無勢。一気呵成に、かつ慎重に幽美を確保する。
「命を奪うつもりはありませんから」ついには鏡禍が放った慈悲の一撃で幽美は倒れた。
 幽美が失神すると蛇の絵は連動するかのように力を失い、ただの絵画に戻っていた。これにて制圧完了となる。
 
「無事、確保できましたね」とライ。
 今から屋敷に戻しても元の生活になんて戻れないのに……とは口に出さない。ちなみに華武の処遇についてだが皆が生還を望まなければ、ライの手で『慈悲』を受けることになっていた。間一髪であった……。
「所詮は小童。絵画の方はどうどす?」
 より強い方と戦いたかったですわなぁ。追儺は絵に戻った蛇の頭を名残惜しそうに指で撫でてみる。絵の蛇が一瞬たじろいだ気がした。

 ヴェルグリーズは一息つくと、少々の疲労感を覚えた。戦闘中も絶えず絵画の処遇を案じていた気疲れであろうか。
 絵画の救済を願いつつ同時に覚悟もしていた。自分と近しい存在であろうともヴェルグリーズは今は人側にある。人に仇なすのであれば詫びつつも斃していただろう。
 力を使わなくて良かった、『別れ』させなくてよかった。そう安堵する。
「これでよし。完了です」
 鏡禍は祠に絵画を納め簡単に封印を施す。これで絵が人を惑わすことはないだろう。鏡禍は扉の隙間からちらりと絵画を見納めした。
 立つ鳥跡を濁さず、神使達は憂いを残さず祠を後にする。

 ――さて。
 瑞鬼は精霊たちに語りかける。やはり事前に調達した情報の通り依頼人・善辰は引き返すことが出来ないところまで進んでいた。
 絵画の付喪神はむしろ、かの者の狂気から婦人を守っていたと。
「なんとまぁ……面倒なやつらじゃ」
 はてさて……鬼が出るか蛇が出るか……。

●エピローグ
 イレギュラーズの活躍で幽美と華武は両名揃って無事生還することができた。

 件の絵画は祠に封じられた。いつか付喪神になるのであれば、自らの意思で人の前に現れることがあるかもしれない。
 その時、いたずらに人をたぶらかすようであれば、今度こそ破壊されるのだろうか。
 その前に誰かが手を差し伸べるかもしれないし、本当に破壊が命じられるかもしれない。
 確かなことは、付喪神になる日を夢見て今は祠の中でまどろんでいるということだけだ。

 イレギュラーズは幽美と華武を伴い善辰の屋敷に帰還するも、もぬけの殻だった。
 ――善辰が『あれ』に変化してしまったのは、絵画の妖気に触れたことが引き金だったのかもしれない。

 彼の中には昔から醜くて情けないものが渦巻いていた。それがどうしようもないほどに膨らんで仕舞には壊れて、滅びのアークを宿すまでに堕ちた。
 彼は近いうち、イレギュラーズの前に現れるだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

冒険、お疲れさまでした。無事、依頼達成です。
諸悪の根源を見破ることに成功しました。次の冒険でお会いしましょう!

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