PandoraPartyProject

シナリオ詳細

フィジカルバスター。或いは、命の天秤と守護するアムムト…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●命の天秤
 金の髪に朱が散った。
 鋭い爪に額を斬られ、蹈鞴を踏んで背後へ下がる。
 彼女の名は“リーオ=ワイルド=サバンナハート”。
 生来の不幸体質にもめげず、あまねく不幸を打ち砕くべく旅を続ける流浪の騎士だ。
 長身に纏う白金色の鎧。
 背に負った巨大な十字の盾。
 武器として振るうは傷だらけのメイス。
 此度、彼女が相対するのは10に近いワニの魔物だ。
 否、より正しく言うのならワニに“似た”外見の魔物というべきか。
 頭部こそワニのそれである。けれど、その身体……とくに手足は野干のそれに酷似している。
 獣の速度で駆け回り、ワニの顎で獲物を襲う。
 そんなモノに群がられては、いかな強者とて無傷とはいかない。
 事実、リーオの身体は血塗れで、左腕にいたってはどうやら骨が折れている。
「まだ……まだぁっ!!」
 がむしゃらに振り回したメイスが、ワニの頭部を粉砕する。
 血と脳漿、頭蓋の欠片を散らしつつワニはその場に倒れ伏した。
「はぁ、はぁ……1体。く、数が多いな」
 と、そう呟いて。
 彼女は頭上へ視線を向けた。
 複雑に交差した無数の階段。
 数10メートルほど上空、天井付近で何かが光った。
 それは金色の天秤。
 その片方には人の形をした像が載せられている。
 
 場所はラサ。
 砂漠の真ん中にポツリと残ったオアシスと、その傍らに聳えた遺跡こそが此度の舞台だ。
 大部分が砂中に埋もれているため、地上から見えているのは遺跡の一部ということになる。
 けれど、その遺跡は見上げるほどに巨大であった。古くは御殿か神殿か、とにもかくにも多額の費用と時間を投じて建設されたものなのだろう。
 そんなオアシスの畔、遺跡の周囲を囲むように古くからある小さな集落。
 リーオがそこに辿り着いたのは偶然だった。
 そして、彼女は知ることになる。
 豊かな水の湧くオアシスに住まう者たちの、長きにわたる苦難の日々を。

「それにしても……どこのどいつだ。あんな物を造ったのは。あんた物を残したのは!」
 新たに1匹のワニを打ち倒し、リーオは階段を駆け上がる。
「念に1人、少女の心臓を捧げねばワニが解き放たれるだと? 魔道具風情が、人の命を軽々しく弄ぶなど業腹だ!」
 血を吐きながら、リーオは進む。
 襲い来るワニを打ちのめし、薙ぎ払い、やり過ごし、そして遂に彼女は天秤へと至る。
 片方の皿には人の形をした像が。
 もう片方の皿には何も乗っていない。
 だと言うのに、天秤は平行を保っていた。
 聞く話によれば、念に1度、空の皿に少女の心臓を置くことで、この平行は維持されているのだという。
 天秤が片方に偏れば、遺跡から無限にワニも魔物……集落の者は“アムムト”と呼んでいた……が湧き溢れ、大災厄を巻き起こす。
 それを防ぐため、集落の者たちは数百年の長きにわたり遺跡の管理をしているらしい。
 毎年1人、少女の命を代償にして……。
 少女1人の心臓と、砂漠に住まう無数の“誰か”の命が等価と言われれば。
 なるほど、それは“些細な犠牲”と世の人々は口を揃えて言うだろう。

 リーオの前に、一際巨大なアムムトがゆっくりと姿を現した。
 これまでに見た個体と違い、金の鎧を身に纏い2本の脚で立っている。
 太い左右の前肢には、それぞれ湾曲した剣を携えていた。
「ワニ共の親玉か? 貴様が天秤の守護者というわけか?」
 と、そう呟いてリーオはメイスと盾を構えた。
「貴様、生け贄となる少女と言葉を交わしたことが1度でもあるか? 皆のためだから、と笑う瞳が揺れていたぞ。彼女の献身、そして覚悟には頭が下がる。もっと早くにこの場へ至れなかった愚鈍な自分に怒りさえ覚える。そして……」
 にたり、と。 
 アムムトは、裂けた巨大な口を歪めて邪悪に笑ってみせたのだ。
「嘲るようなその面を、潰したくてたまらない!」
 
●吠える金獅子
「私に任せておけ、などと……大見得を切ってこの様だ。まったく、情けなくて泣けてくる」
 唇を噛みしめリーオは告げた。
 鎧を脱いだ上半身には、隙間無く包帯が巻かれている。
「なかなかの手合いでな。何度も斬られ【失血】しながら命からがら、どうにか逃げた。死ぬまで戦えば、ともすれば勝てたやもしれんが……」
 もしも、届かなかったなら。
 誰がアムムトを倒し、天秤を破壊するというのか。
 その時、リーオの死を知った少女はきっと笑うだろう。
『ほら、やっぱり駄目だった』
 死したリーオに、少女はきっと礼を言う。
『私のために、ありがとう』
 ほんの一時の邂逅だったが、少女の優しさをリーオは本能で理解していた。
「怨敵を前に逃げた臆病者と、笑ってくれて構わない。必要ならばこの頭を地に擦りつけることも厭わない。けれど、どうか力を貸してはもらえないか? いかなる困難もこれまで1人で砕いてきたが、今回ばかりは時間がないのだ」
 少女が生け贄に捧げられるその日までに、アムムトを倒し天秤を壊す必要がある。
 けれど、リーオの負った傷は深く、その日までに癒えることは無いだろう。
「私のことを友と呼んでくれた者がいた。友を死地へと連れて行くのは憚られるが、ほかに頼れる者もいない」
 不幸体質。
 そして、生来のフィジカルの強さに起因するがゆえの孤高。
 これまでの生涯において、リーオは自身と並び立てるほどの猛者に巡り会うことは無かったのである。
「その選択が間違っているとは思いません」
 リーオの話を聞き終えて志屍 瑠璃(p3p000416)はそう告げる。
 眼鏡の位置を整えて、リーオの身体へ視線を向けた。
「アムムトの武器は2本の曲刀。そして牙と爪、で間違いありませんね?」
 剣で斬られれば【失血】、牙や爪で付けられた傷には【流血】といったところだろうか。
「それと、息苦しさもだ。小さなアムムトたちに斬られる度に気力を失う感覚がした」
「なるほど。【窒息】でしょうか。数も多いようですし、長期戦は不利と見た方が良いかも知れませんね」
「うむ……小さなアムムトたちは、20ほどいたか? 階段の至るところを徘徊していてな。大アムムトとの戦闘中も横槍を入れてくるのが鬱陶しかったよ」
 多勢に無勢では、リーオも長くは戦えず。
 盾を落としたこともあり、集団に嬲られる結果となった。
「遺跡内部には無数の階段が張り巡らされている。どれも上へと伸びていて、複雑に絡み合っていたな。まるで階段で作った迷路のようだった。壁があるわけでもないので、死角からの不意打ちを受ける心配はないが……天秤のもとに辿り着くまでが、なかなかに面倒だったよ」
 そして、いざ辿り着けばそこに控える大アムムトとの戦闘だ。
 また、大アムムトが階段を降りてこないとも限らない。
「私のせいで警戒されているだろうからな。あぁ、天秤の置かれている場所はおそらく祭壇だ。直径10メートルほどの円形をしていてな、壁などないので端に追い込まれたら、落下するかもしれない」
 もっとも、それは階段の途中でも同じこと。
 遺跡を進行する途中で、リーオも何度か地上に叩き落とされたという。
「階段の幅も2メートルほどと狭くてな。複数のアムムトに進路も退路も塞がれた時など、どうしようかと思ったよ」
 結局はいつも通り、打ち倒して進んだのだが。
 それが一等、賢いやり方とも限らない。

GMコメント

※こちらの依頼は『フィジカルバースト。或いは、獅子奮迅の女騎士…』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3854

●ミッション
“命の天秤”の破壊
大アムムトの討伐


●ターゲット
・大アムムト×1
3メートルほどのアムムト。
頭部や身体はワニ、手足は獣のような姿をしている。
大アムムトのみ2足歩行であり、左右の手には曲刀(コペシュ)を携えている。
人の言葉が理解できるだけの知能がある模様。
また、主に祭壇付近で天秤の守護にあたっている。

裁きの剣:物近単に大ダメージ、失血、体勢不利
曲刀による鋭い斬撃。

斬り払い:物近範に中ダメージ、流血、窒息
爪や曲刀による横薙ぎの斬撃。


・アムムト×20
2メートルほどのワニ型の魔物。
手足は獣のようで、見た目の割に素早く動く。

侵入者への裁き:物至単に中ダメージ、流血、窒息



・リーオ=ワイルド=サバンナハート
白金色の鎧を纏った放浪の騎士。
メイスと十字架型の盾を武器とする。
生来運が悪く、行く先々で散々な目に逢ってきた。
そんな運命を回避することは不可能だ、と判断した彼女はそうした不運を打ち壊しつつ前へ進むことに決めた。
今回は生け贄を要求する魔道具を破壊するため、アムムトたちの巣食う遺跡の踏破を試みている。

フィジカルバースト:物至単に大ダメージ、飛
十字架型の盾、あるいはメイスによる渾身の一撃。



・命の天秤
黄金の天秤。
遺跡内部、天井付近の祭壇に安置されている。
片方の皿には人の形をした像が置かれている。
アムムトの発生源。
毎年1人、少女の心臓を生け贄として要求している模様。
生け贄がなければ、無限に発生するアムムトにより砂漠に大きな被害が出る……と、集落には伝わっている。


●フィールド
ラサ。
オアシスの畔にある遺跡。
地下より侵入することになる。
遺跡内部は巨大な空洞。
階段が絡み合ったり分岐したりしながら、天井方向へ伸びている。
さながら階段で出来た迷路のよう。
階段の幅は2メートルほど。
天井付近には直径10メートルほどの円形の祭壇。
中央に“命の天秤”が安置されている。
祭壇、階段には壁などないので落下の可能性有り。落ちると痛い。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • フィジカルバスター。或いは、命の天秤と守護するアムムト…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
志屍 志(p3p000416)
遺言代行業
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫

リプレイ

●アムムト
 黴と埃、血の匂い。
 薄暗い遺跡の中にぐるると響く獣の唸り。
 獣の名はアムムト。ワニの頭部と野干の身体を持つ怪物だ。
「ぬ、おぉぉおっ!!」
 ワニの頭部をメイスが砕いた。飛び散った血が、白金の鎧と金の髪に朱を散らす。
 それを成した者の名はリーオ=ワイルド=サバンナハート。
 不幸の星の元に生まれ、そしてそれを撃ち砕くだけの力と強い意志を持った女騎士である。
「こいつら、なかなかに頑丈なうえ数も多くてな。今回は、貴殿らの協力を得られて助かった。私1人では、天秤のもとに辿り着くのも一苦労でな」
 メイスに付着した血を振り払い、リーオは視線を頭上へ向ける。
 天高くへと絡み合い、伸びる階段の上。
 円形の祭壇に安置された、金色色の天秤があった。

 その天秤の名は“命の天秤”。
 遺跡に蔓延るアムムトたちの発生源である。
「あー、あー。人身御供? とかいうやつですね、悪習ですよ悪習!」
 手にした指揮杖を閃かせ『(((´・ω・`)))』ヨハン=レーム(p3p001117)は、空中に魔性の詩を刻む。その詩は一時、暗く光ると、即座にほどけ仲間たちの身に降り注いだ。
 悪習。
 アムムトを遺跡から外へ出さないために、命の天秤は年に1度、少女の心臓を求めるのだ。多くの命を救うため、少女1人を生贄にせよ。遺跡近くの集落には、そのような言葉が伝わっているという。
「道具が生け贄を求めるなんざ気に入らねぇ」
 喰らいかかってきたアムムトの口蓋を『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)がその太い腕で押し止める。鋭い牙が義弘の肩に突き刺さるが、ヨハンの補助もあって彼は表情をピクリとも動かさない。
「まぁ、幸い……理解できなくとも、ぶち壊す事はできる。気合い入れていこうか」
 振り抜かれたアッパーカットがアムムトの下顎を打ち抜いた。
 大きく仰け反ったアムムトの懐へ『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)と『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)が接近。
 しきみの刀と、エルスの鎌がアムムトの首元を深く切り裂く。
 アムムトの巨体が傾ぎ、階段の下へと落ちて行った。エルスの鎌が喉に突き刺さったままだ。アムムトに引っ張られ、エルスは危うく階段から落下しそうになった。
「っと。道幅がかなりギリギリね……慎重に進まなくちゃ!」
 階段の幅はかなり狭く、今のように2人も並べば余裕がなくなる。
「皆、まだまだ進めそうかしら?」
 淡い燐光が周囲に散った。
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の回復スキルの発動だ。燐光が義弘の負った傷を癒す。
 だが、そうしている間にも階段上部からは続々とアムムトが迫っていた。
 狭い通路だ。アムムトほどの巨体であれば1列になって進むしかない。
「徒労の階段上りは避けたいよな、こんなん」
 道を塞がれる前に、と空を蹴って『須臾を盗む者』サンディ・カルタ(p3p000438)が疾駆する。空中を走るサンディを追って、アムムトたちが吠え猛るが、悲しいかなその牙がサンディに届くことはない。
「右の階段! こっちのアムムトを減らしてくれ!」
 天秤へと至る最短ルートを確認し、サンディは仲間たちへそう告げた。
「えぇ、承知しました。しかし、悲劇の舞台装置としか思えないアイテムですね。存在を知った以上は残しておくのも寝ざめが悪いですし、早々に壊してしまいましょう」
 そう告げて『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)がナイフで自分の手を切った。瑠璃は自身の血が付着したナイフを、列を為すアムムトたちの先頭へと投擲。
 アムムトの額に刺さったナイフから、猛毒の煙が溢れだす。
「走れ! 殿は私が務める!」
 音響弾をライフルに篭め『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が叫んだ。
 毒煙に飲まれもだえるアムムトたちの中心にラダの放った弾丸が着弾。衝撃と怪音波を周囲に散らした。
 混乱に陥り、何体かのアムムトが階段から地面へと落ちる。
「よし! 駆け抜けろ!」
 叫ぶリーオを先頭に、一行は階段を駆け上がる。

●命の価値
 ラダは姿勢を低くして、ライフルのストックを肩に押し当てた。
 引き金に指をかけて引き絞る。
 撃鉄が落ち、火花が散った。
 音を置き去りにして疾駆する1発の弾丸が、アムムトの膝を撃ち抜いた。
「1体1体始末するより、下に落とした方が早い」
 前肢を射貫かれたアムムトの巨体が階段を踏み外し、地上へと落ちていく。けたたましい咆哮が遺跡に響いた。
 しかし、落ちたアムムトの背後から後続が続々と向かって来る。
 それを止めるべく、刀を構えてしきみが駆けた。その一閃はアムムトの下顎を抉るが、分厚い顎骨を切断できずに停止する。
 バクン、と。
 アムムトが顎を閉じる。牙が突き刺さったしきみの肩が軋んだ音を立てて砕けた。
「くっ……」
「皮膚が厚いのだな! 刃は通りにくかろう!」
 しきみを援護すべく前進したリーオが、アムムトの鼻先を盾で殴った。よろけるアムムトの口内目掛け瑠璃はナイフを投擲する。
 痛みにもがくアムムトを瑠璃は“視た”。
 眼鏡の奥で、赤い瞳が不気味に光る。
 見えない悪意に射貫かれて、アムムトは苦しみ悶え、血を吐いた。
 倒れ伏したアムムトを踏み越えながら、新たな1体が前に出る。
「後から後から……」
 舌打ちを零し瑠璃は告げた。
 彼女の横を駆け抜け、エルスは前へ。
「ふふ、なかなか結構……沢山湧いてくるじゃない……!」
 頬を歪めて不気味な笑みを浮かべた彼女は、鎌による一閃をアムムトの眉間に叩き込んだ。
 流れる黒髪。翻るスカート。飛び散る血飛沫。
 雄たけびを上げ、アムムトは前進。エルスの腹部にその鼻先が突き刺さる。
「ぐ……っは!?」
 足を踏み外し、地上へと落下するアムムト。
 一方エルスは簡易飛行を使って、空中に留まった。しかし、エルスが階段に復帰するよりも先に、さらに1体のアムムトが彼女目掛けて跳びかかる。
「行かせるかよぉっ!!」
 アムムトが宙へと跳んだ瞬間、義弘は手を伸ばしその尾を掴んだ。
「ぬぅ、おぉおおおお!!」
「おぉ、手伝うぞ! 義弘!」
 義弘に続いてリーオもアムムトの尾を掴んだ。 
 膂力を活かした2人によるフルスイング。投げ飛ばされたアムムトが、後続を巻き込み次々地上へ落ちていく。
 その間にエルスは階段へと復帰した。
「どうしても前衛の人数が限られるからね……庇えないのが痛いのだわ」
 ダメージを負ったエルスやしきみを回復すべく花蓮は術式を展開。
 けれど、先行していたサンディが慌ててそれに待ったをかけた。
「前が空いたんだ、今のうちに進もうぜ! 下から昇って来る奴は俺が止める」
「私も手を貸そう。皆は先へ」
 地上に落ちたアムムトが、一行の後を追いかける。
 その群れの先頭へ向け、サンディは魔力の籠った矢を放つ。放たれた矢は、針の穴を通す正確さでその鼻先を貫いた。
 痛みに怯んだその瞬間、ラダの銃弾がその膝を撃ち抜く。
「っ……行きましょう! リーオさんは先頭へ。フィジカルバーストでアムムトを叩き落してください!」
「あぁ、任された!」
 ヨハンの号令に従って、リーオは前へと駆けだした。
 サンディが見出した最短ルートは既にヨハンに伝えられている。
 であれば、後は仲間たちを導くのみ。
 振るう指揮杖から流れる燐光が、一同を先導するように宙を駆けた。

 命の価値は、必ずしも等価ではない。
 例えば、一国の王と、貧しい生まれの少年では、その命の価値は天と地ほども違うだろう。
 けれど、しかし……。
 だからと言って、貧しい少年が王のために犠牲になっても良いはずがない。
 命の価値は等価でなくとも、命の重さは誰だって同じなのだから。
「私だって神社の娘だもの、宗教に対して良し悪しなんて言うつもりは無いけれども……今時はやっていけないだわよ、こういう人を愛さないやりかたは! 自分の命の使い道は、自分自身で決めるべきだわ!」
 誰かの為に犠牲になるという選択も、自分の意思であるのなら、悲しいけれど構わない。
 だが、しかし。
 他人の意思で、誰かの為に命を使われるだなんて……。
 そんなことがあって良いはずがないのだと、花蓮は叫ぶ。

 黄金の天秤が安置された祭壇に、1体の巨大なアムムトが立っていた。
 2足歩行の大アムムト。両手には、コペシュという名の曲刀を構えている。
 アムムトたちを発生させる“命の天秤”……その守護者といったところだろうか。
 さらに、祭壇の手前……階段の終着付近には2体のアムムトが控えている。
 眼前には3体のアムムト。
 階段の下からも無数のアムムトが追いかけてくるのが確認できた。
「礼を言う。貴殿らのおかげで、再びここに辿り着けたぞ」
 メイスを構え、リーオは告げた。
 ゆっくりと祭壇へ向け彼女は歩く。その後を、義弘とエルスが追いかける。
「生贄などあってたまるか!  貴様らは一人残らず殺してやる!!」
 指揮杖を掲げたヨハンの号令。
 その言葉に宿る魔力の奔流は、正しく仲間たちの身に降り注ぎ、活力を与える。名もなき兵士でさえもを英雄へと変える強化術式。
 冴え渡る感覚に高揚を隠し切れないのだろう。リーオは歯を剥き、獣のような笑みを浮かべた。
「恩に着る。そして……これで仮を返せる。目の前の困難を、この手で打ち砕いてやれる!」
 
「まぁ、待てよ。1つ、試したいことがあるんだ」
 そう言って、リーオを追い越しサンディが飛ぶ。
 飛翔するサンディに反応し2体のアムムトが雄叫びをあげた。直後、サンディが放ったそれは1枚のカード。
 狙い違わず、カードはアムムトの眼に突き刺さる。
 その痛みはアムムトの怒りに火を着けた。
アムムトの瞳がサンディへ向く。その隙を突き、前へ出たしきみがアムムトの脚へと斬撃を放った。
さらに1枚。もう1体のアムムトの眼にサンディの放ったカードが刺さった。
『ぐぅぅうぁあああ!!』
 悲鳴か、それとも怒りの咆哮か。
 2体のアムムトは、しきみを巻き込みながら跳躍。
「うぉっ!?」
 うち1体が、サンディの胴に食らいつく。ミシ、と骨の軋む音。
 サンディ、しきみと共に2体は地上へと落下していった。

「なっ⁉ あいつ、何を……!」
 困惑するリーオの手を引いて、義弘は祭壇へと駆ける。
「これで2体片付いた。しばらくは大アムムトに集中できる」
「し、しかし……」
「奴はこの場を俺たちに託したんだ。きっちり天秤をぶっ壊さねぇとな」
 義弘が、落下したサンディたちの方へ視線を向けることはなかった。
 血が滲むほどに強く拳を握りしめ、彼は一直線に大アムムトへと殴り掛かる。

「一気にキメるのが好きなんだけれど……仕方ないわね」
 エルスの振るった鎌を、大アムムトが受け止める。
 一撃、二撃。
 刀と鎌とが打ち合う度に、エルスの肌は切り裂かれ赤い血が辺りに飛び散った。
「……簡単には倒れてあげないわよ」
 胸を裂かれ、肩を抉られ、けれど僅かも彼女の戦意は衰えていない。

 大アムムトと仲間たちとの戦闘を、花蓮は空から見下ろしていた。
「皆、回復は私に任せるのだわ!」
 翼を広げ、彼女は小さな手を翳す。
 その掌を中心に展開された魔法陣から、淡い燐光が零れだす。
 それは仲間たちに降り注ぎ、その身に負った傷を癒した。
 彼女の胸に抱いた想い。その小さな手が届く範囲に、傷を負った者がいるのならば癒して見せる。
 その為には、戦場をつぶさに観察し続ける必要がある。仲間が倒れてしまわぬように、最適なタイミングで治癒を行使するために。

「さて……後方からアムムトが乱入してきそうだな」
「でしたら私たちは、後続の対処に集中しましょう」
 階段の終点。
 祭壇の手前で踵を返したラダと瑠璃は、下から迫るアムムトたちへ冷たい視線を向けた。
 背後では激しい戦闘の音。
 仲間たちが大アムムトと交戦しているのだ。
 悍ましき“命の天秤”を破壊するため。
 長年にわたる悪しき習慣を、ここで終わらせるために。
「邪魔はさせない」
「えぇ、神気閃光をどかどか叩き込んでやりましょう」
 
●悍ましき黄金の天秤
 土に塗れたサンディは【パンドラ】を消費し起き上がる。
 傍らに倒れたしきみは、どうやら意識を失っているようだった。
「……しばらくそこで休んでてくれ」
 しきみを安全な場所に避難させ、サンディは宙を蹴って跳ぶ。
 次々と降って来るアムムトの身体を回避しながら、向かう先は祭壇だ。
「あの天秤にありったけ剣魔双撃をぶち込んでやる」
 携えた弓に矢を番え、サンディはそう呟いた。

 眩い閃光。
 視界を白に染め上げる。
 瑠璃の放った神気の光がアムムトたちの身を焼いた。よろけ、階段から落ちていく個体もいれば、その場で呻きうずくまる個体もいる。
 中には痛みを無視し、がむしゃらに階段を駆け上がる個体も。
「威力は自慢できるほどありませんが、それでも使いようで役には立てるものです」
 アムムトたちの眼前に、瑠璃の放ったナイフが刺さる。
 直後、湧き出る毒の煙がアムムトたちの身を侵す。動きの鈍ったアムムトの額を、ラダの放った銃弾が射貫いた。
 ぱきゃ、と骨の砕ける音。
頭骨の特に薄い部分を、彼女の放った弾丸が正確に撃ち砕いたのだ。
「天秤への影響は減らしたいからな……慎重に始末していこう。1匹たりとも残さずな」
 次いでラダの放ったそれは、着弾と同時に爆風と不気味な轟音を周囲に撒き散らす。
 音波と爆風はアムムトたちの脳を揺らして、その動きを鈍らせた。

 横薙ぎの斬撃が、義弘の胴とエルスの脚を斬り裂いた。
 血を吐き、地面を転がる2人を庇うように盾を構えたリーオが前進。大上段からの一撃を、十字の盾で防いで見せるが、巨体から放たれたその一撃を完全に止めることは叶わない。
 ミシ、と骨の軋む音。
 踏みしめたリーオの脚が床に大きな罅を走らす。
「まさに力押しといった所の被害。対処が容易とは言いませんけど、詰めるにはまだ甘い!」
 ヨハンの号令に従って、上空の花蓮が回復術を行使した。
 降り注ぐ燐光が仲間たちの傷を癒す。
 また、ヨハンの振るう指揮杖から零れた光が、その身を侵す異常をすべて取り除いた。
「うむ! 上出来だ!」
 盾から手を離し、リーオは大アムムトの懐へと潜り込む。
 振り上げたメイスがその顎を打ち抜いた。砕けた牙の1本が宙へと舞う。
 大アムムトの赤い瞳が、リーオを捉える。
 視線が交差し、そして……。
「悪意を今ここで断て!」
 ヨハンの怒号が響くと共に、リーオはメイスを振り抜いた。

 義弘の拳が、大アムムトの腹を打つ。
 踏み込んだ衝撃で、祭壇が激しく揺れた。
 大アムムトの浮いた巨体へ、さらなる追撃を放つ。
 1発、2発。
 続けざまに放たれるジャブが、大アムムトの腹へ、胸へ、肩へ、顎へと叩き込まれた。
「俺らがここに何しに来たか知ってるか?  テメェと、そこの天秤を殴り倒しに来たんだよ」
 唇から流れる血もそのままに、義弘はさらに1撃を大アムムトの胸に放った。
 殴打された箇所に浮き出る髑髏の痣が、大アムムトの身体を毒に侵す。毒を受け、もがき苦しむ大アムムトは、激しく暴れ左右の刀を振り回した。
 切り裂かれた義弘が、踏鞴を踏んで数歩後ろへと下がった。切り裂かれた胸部から鮮血が散る。
 思わず膝を着いた義弘を庇うべく、リーオが前へ。
『おぉぉおおお!!』
 咆哮と共に大アムムトは突進を慣行。盾ごとリーオを祭壇の外へと弾き飛ばした。

 落下するリーオへ向けて、花蓮は精一杯に腕を伸ばした。
「まだ、戦える?」
 花蓮の問いに、リーオは不適な笑みを返す。
 伸ばされた腕を、リーオは握った。
「当然だ。ここで戦意を失う私ではない!」
「では……行きましょう。大アムムトのところまで、私が運んでさしあげるのだわ!」
「あぁ、よろしく頼む! 最速でな!」
 手と手を繋いだ花蓮とリーオは、空中で大きく弧を描くように旋回すると祭壇へ向け最高速度で飛翔した。
 
 大アムムトの頭上で、花蓮はリーオの手を離す。
 手にしたメイスを頭上へ振り上げ、リーオは狙いを大アムムトの頭上へ定めた。
 リーオの接近に気づいた大アムムト。
 そんな大アムムトの瞳へ向けて、エルスは大鎌を振り下ろした。
「これ以上、生贄になる少女がいなくなるように……」
 終わらせて、と。
 エルスはリーオへそう告げる。
 瞳を抉られながらも、大アムムトは両手の剣を頭上へ向けて振り抜くが……しかし、それは叶わない。
「させねぇ」
 2本の剣を両脇に抱え止めるのは、血を吐き呻く義弘だった。
 大アムムトの曲剣がリーオを斬り裂くことはなく……。
「これで、終いだ!」
 大上段から振り下ろされた一撃が、大アムムトの額を砕いた。
 そして、倒れる大アムムトの背後からサンディが祭壇へと跳びあがる。
 サンディの構えた矢が狙う先には黄金の天秤。
 絶命の縁にある大アムムトは、天秤を守るべく手を伸ばす。
 しかし、伸ばされたその腕はエルスの鎌に切断された。
 そして……。
「思ってたんだが、ワニごときに少女を捧げる、なんて勿体ねー話じゃん。なぁ?」
 サンディの放った矢は、黄金の天秤を射貫き、砕いた。
『――――――――――――――――!!』
 瞬間、大アムムトは声にならない悲鳴を上げて……。
 黄金の天秤が砕け散るのとほぼ同時に、その身を砂へと変えて崩れた。

成否

成功

MVP

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
花榮・しきみ(p3p008719)[重傷]
お姉様の鮫

あとがき

お疲れ様です。
アムムトは討伐され、黄金の天秤は破壊されました。
こちらの遺跡で今後少女が生贄に捧げられることは無いでしょう。
依頼は成功です。

この度はご参加ありがとうございました。
皆さまの協力のおかげで、リーオも悔しい想いをせずに済んだかと思います。
また、いずれ彼女から助けを求められることもあるかもしれません。
その際はぜひ、ご助力をお願いいたします。

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