PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<R>perfect noise

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死の降りしきる街へ
 雨降りしきるビル街に、浅いブラウンのレインコートの男が歩いている。
 信号機の点滅の後、十字路を自動車が通り抜けるのを横目にみながら、男はただ一直線に進むのみだ。
 襟を立てた男の顔は若く、黒い眼鏡の表面にはうっすらとだが何かのシグナルが表示されていた。動作、点滅。
 ブーツで水たまりを踏んで、小さな図書館の前に立ち止まる。
 懐から取り出した手帳のメモと図書館の看板をしばらく見比べてから、男は透明なドアを開けた。
 図書館のなかは外に比べてひどく静かで、時折咳払いをする声が聞こえる程度。歩く靴音ばかりがひどく響くようだ。
 男はまっすぐに係員のいる受付まで歩くと、『なにか?』と顔をあげる係員にある本の名前を告げた。最後に『初版を』と付け加えて。
 端末におそらくはその情報を打ち込んだ係員は印刷されたレシートサイズの紙片を男に差し出す。
「あなたが来ると、いつもよくないことが起きるわね。ミスターニッタ」
 紙片を受け取り、ニッタ――もとい新田 寛治 (p3p005073)は眼鏡の奥で目を細めた。
「よくないことが、私を呼ぶのです」

 そこは練達再現性東京2000の私立図書館であった。
 目的の本が収められている地下書庫へと下り、ほんのりと薄暗い棚の間を進む。紙片に記された番号の前に立ち、目的の本を手に取った。
 スッと本を引いて出来た、その空洞の向こう。
 スキンヘッドにサングラス。黒い革ジャケット&パンツというとてもまともではない格好の男がこちらを穴ごしに見ていた。
「どうも新田さん。いま呼び出しに応えてくれるとは思わなかったすわぁ。今ローレットは豊穣郷ってトコロでしょう?」
「静寂の青さえ夜を明けずに飛び越えられるのが、イレギュラーズのよいところですよ」
「羨ましいっすわぁ。どこでもなドアじゃないっすか」
「そこまで便利では……」
 と、そこまで語ってから二人はスッと背を向け合った。首振り運動でこちらをうつした監視カメラへの偽装動作である。
「『R』が動きを見せました。これまでかなり隠蔽に力を入れてたみたいで、俺たちも全然動きをつかめなかったんですが、大きく動くときはさすがにわかりますね」
「……」
 R――もとい『R財団』とは死の商人である。
 広義には武器商人の意味ももつが、どちらの意味も正だ。
 財団会長のザムエル・リッチモンドは世界中にコネクションを広げ、安価な武器の供給をあちこちに行うことで戦争の激化を誘発させている。
 主な目的は『死の増加』。元々地球救済のための人口の最適化として人類の大量虐殺をもくろんだ彼は、混沌世界にやってきても尚その手腕を発揮し続けていた。
「奴は、人類が激減すれば魔種の脅威が去ると考えてるみたいっす。新田さん……」
「ありえません。確かに彼らは道楽で殺人を行い、海洋の外洋遠征然り人類が革新的な行いをしようとすればそれを阻みます。しかし……彼らの最終到達点はアーク収集による世界の滅亡。ザムエルは魔種の狂気にあてられたことで、その事実を認識できなくなっているのでしょう。
 彼はただのウォーカーでありながら、もはや魔種とおなじ滅亡側の人間となった」
 彼の起こした事件の内、新田たちが介入できたのは四つ。
 幻想国で行われていた武器密売。
 魔物使いによるモンスターの運用。
 偽神計画による狂戦士の量産。
 憎悪の魔剣の量産と拡散。
 どれも一年前の出来事だが、一年たてばローレットが新天地を発見するほどの進歩が生まれるもの。R財団が世界にどれだけの拡大や浸食を済ませたのか……想像するのも恐ろしいほどだ。
「で、掴んだ動きというのは」
 次に述べられた言葉に、新田は手帳を取り落としそうになった。
「殺人スマートフォンの販売です」

●PNの再来
 『Perfect Noise(PN)』は再現性東京2000で販売されようとしているスマートフォンである。
 格安の基本料金を支払うだけで通話もネットも使い放題という画期的なサービスで登場したそれは先行予約90%オフキャンペーンも相まって瞬く間に町中に広まった。
 しかしPNは異常なパーツを含んでおり、ある周波数の電波を受けると本体から特殊な催眠音波を発生させる。これを受けると周囲の人間に向けて無差別に攻撃行動をとるようになり、町中で制御不能な殺し合いが繰り広げられることは確実であった。
「今回はその実験が行われる会場を見つけました」
 所変わって再現性東京2000内のカフェ。
 新田は資料をテーブルに並べて仲間のローレット・イレギュラーズへと説明を続けていた。
「政治家綱村の講演会です。この会場にはPNにも使われている音波発生端末が持ち込まれ、殺し合いの実験が行われるそうです。
 成功させてはならない……というより、これを邪魔することが今後に対する強力な牽制になるでしょう」
 最後に置いた資料はローレットへの依頼書である。街を管理する団体からローレットへの極秘の依頼書だ。
「しかしR財団の根は深い。政治的権力を持っていても容易にこの実験に手出しはできないそうです。そこで我々が一般市民に紛れて会場に入り込み、この実験を阻止するのです」
 もし放置すれば大勢の一般市民が『謎の殺し合い』によって死亡することになる。
 これはただ命が失われるだけでなく、死後の名誉までもが踏みにじられる行為だ。
「ですが彼らを殺さずに仕留めきることがもし叶ったなら……ザムエルは我々の登場を恐れて簡単に実験を再開できなくなるでしょう。この先失われるかもしれない多くの命と名誉を、守ることが出来るのです」
 さあ、行きましょう。
 新田はステッキ傘を手に取り颯爽と立ち上がった。

GMコメント

■オーダー
成功条件:会場の死者数を50%にまで抑える
オプションA:会場の死者数を30%にまで抑える
オプションB:会場の死者数を0%にまで抑える

 政治家の講演会にて行われる実験を阻止します。
 端末がいかにして持ち込まれるかは不明であり、発生そのものを阻止することはほぼ不可能です。
 ですので会場に紛れ込み、問題の音波が発され周囲の人々が無差別な攻撃を行い始めた段階で彼らを鎮圧してください。
 また、メタ情報ですが鎮圧に成功した場合R財団のエージェントが皆さんを始末しに会場へ突入してきます。(そのことは外部から監視している新田の仲間が知らせてくれます)
 これを撃退する必要も出るでしょう。

■殺し合い阻止パート
 一般市民たちはいわゆる解除不能な混乱状態にあり、周囲にいる人物へ無差別に攻撃を行います。といっても武器らしい武器は持っていないので取っ組み合いをしたりパイプ椅子で殴りつけたりといった程度におさまり、殆どはすぐさま死に繋がる攻撃にはならないでしょう。
 ですが時折カッターナイフで斬り付けたりボールペンを突き立てたりといった非常にえげつない攻撃手段をとれるケースもあるので、わりとがちめに対応していきましょう。

 このとき【不殺】攻撃を持っていれば確実に、プレイングで殺さない程度の攻撃手段を宣言できれば高確率で、対象を殺さずに気絶させることが可能です。
 混乱状態にある一般市民は気絶した人間を攻撃優先対象から落とすため、そのまま倒れさせておけば良いかと思います。
 地味に複数人での【怒り】で引きつけるのもお勧めです。
 一方で【魅了】や【混乱】をかけてしまわないように注意しましょう。鎮圧は楽になりますが一般市民死亡リスクが増大します。

■エージェント迎撃パート
 実験が妨害されたことに気づけば、監視していたR財団のエージェントが突入してくるでしょう。
 彼らは魔剣を装備した灰色髪の男女で、非常に好戦的かつ高い戦闘力をもちます。
 サファーオルタと偽神因子で構成された戦闘員と思われます。それぞれの要素については今回あえて触れません。

 彼らは高い戦闘力をもった敵として現れますが、一般市民への攻撃は特に行いません。彼らにとって無駄なので。
 PCたちの持ち味を活かして積極的に戦えば、きっと彼らには勝てるでしょう。

■オマケ解説
●R財団とは
 世界中にコネクションをもつ死の商人。ウォーカーを中心に構成されており世界人類を激減させることを主目的とする。
 そのため安価な武器流通の他にも様々な方法で死をばらまこうと画策している。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/replaylist?title=%EF%BC%9C%EF%BC%B2%EF%BC%9E

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

  • <R>perfect noise完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月22日 22時01分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
※参加確定済み※
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

リプレイ

●滅亡への近道
 雨上がりの雑踏。点滅する信号機と、やがて流れる歩行者誘導ブザー。
 古い童謡が流れる脇で、黒塗りの高級車がとまった。
 ビニール傘を持った運転手が手をかざして空をみあげ、『どうやら上がったようです』と言って後部座席の扉をあけた。
 促されるようにして下りるブラウンスーツの男。綱村という政治家である。
 彼は余裕のある足取りで街の集会場へと歩いて行った。
 その様子を、やや離れたテナントビルの一室から観察する『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。
「彼に裏は?」
「無関係……というより、ザムエルにとっての邪魔者ですね。2000街はガラケー主体ですが、ザムエルは新しいものを欲しがる心理をついてR財団のスマートホンを流通させようとしている。保守派はこれに反対していて、綱村はその筆頭といったところでしょう」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は手帳を閉じてコートのポケットへとしまった。代わりに拳銃を取り出し、いつでも撃てるように整える。
「消えると都合がいいわけ、か」
「……退屈な仕事だ。暇ってほどじゃないけど余りに面白くない。
 詰んでた本を読みながら仕事を片づけてもいいかい? ダメ?」
 そばで『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が文庫本を開いてパイプ椅子に腰掛けている。
「あら、だいぶ余裕そうね?」
 部屋の中央で柔軟体操をしていた『never miss you』ゼファー(p3p007625)が奇妙なほどの柔らかさで振り返った。
「当然。ボクひとりで終わってしまうんじゃあないか?」
「流石にそれはないでしょう」
 その一方で、向かいのビルから一般来場者に混じれるような格好をした『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がリクルートスーツの襟を正していた。
「何か事情があるのかも知れないけれど、何の罪もない人達にこんな事をさせるだなんて許せませんわね。
 主が裁きを下される前に、私達が捕まえて反省させて差し上げますわっ!」
「はぁーん!?!? 音で人を不幸にしようとか、騒霊への挑戦かおらぁー!!!!!!!
 毎晩夢枕に立って爆音でヘヴィメタやってやろうか!!!!!!!」
 その横では『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)がモザイクをかけた指を立て『Look』の形をしたサングラスをかけていた。サングラスをひょいっと取り上げるヴァレーリヤ。
 振り返ると、それぞれ2000年代に即した格好をした仲間達が集合している。
 その中央で寛治はネクタイを締め直し、ただ小さく一言『行きましょう』とだけ述べた。

●R-phone PN
 講演会が始まるそのわずか一分前。
 扉を開け放った美少年セレマに誰もが振り返った。
 集まる視線をそよかぜのよに流し、セレマは部屋中央へと歩いて行く。
 それに続くようにして会場入りした
 やがて部屋の扉が閉められ、拍手と共に政治家綱村が講壇へとたつ。
 彼が一言目をはっしようとした、その時。
 それまで何の異常もみられなかった屋内スピーカーから突如として古いクラシックミュージックが流れ始めた。
「これは――!」
 寛治はすぐに事態を察し、そばにいたマリアの肩を叩いて合図を出す。
 マリアは拍手していたその手でマリアの首に掴みかかってきた老婆を頭髪をねじりあわせて作った巨腕で掴んで床に伏せさせると、視線だけを寛治へ向けた。
「あのスピーカーが、原因か?」
「いえ――」
 ステッキ傘で素早く天井際に取り付けられた屋内スピーカーを破壊したが、直後に部屋中から折り重なるようにして同じ音楽が鳴り始める。
「――この場全員の携帯電話がハックされています」
 新型のスマートフォンを発売したからといって街の全員がそれを所有するわけではない。ザムエルの狙いが街の人口減少ではなく『人口消滅』であったなら、ただ殺人誘発音波を流すだけでは事足りないと考えるだろう。
「奴め。この期に及んで技術を発展させてきたか」
 少年が寛治のネクタイを掴んで殴りかかろうとしてくるのを、腕で押さえつけてとめる。
「ハッピーさん」
「しゃおらー!!!!」
 ジェット噴射で講壇の上へとびのると、ハッピーは大声で歌をうたいはじめた。
 精神をハックする作用のある音波がハッピーに狙いをつけさせ、老若男女が一斉にハッピーへと掴みかかる。
「痛っ! 痛っ! いや殴りすぎでしょ!
 ボールペンとカッターはやべぇでしょ!! 気合い入りすぎか!!!!!!」
 彼女が組み伏せられ、集まった人間が団子状になるまで三秒とかからなかった。
 これ以上手出しはできないと考えた、ないしは察した人間たちは座っていた椅子をもちあげすぐ近くの子供へと振り下ろ――そうとした瞬間、寛治の放ったスタングレネードが炸裂。子供もろともその場に崩れ落ちた。
「一撃……む、むむむ」
 ヴァレーリヤは振り上げていたメイスを一旦とめ、ボールペンを逆手持ちして飛びかかる男の側頭部を殴りつけることでとどめた。
 いかにも死にそうな打撃だが、聖なる力が男を気絶させるだけにとどめている。
「ゼファー、セレマ! この状況、私かなり不利ですわ! 派手に動けば殺してしまいます!」
「それは、マリアもだ」
 エクスマリアは組み伏せた老婆を細心の注意をはらいながら気絶させたが、大勢をいっぺんに押さえつけるにはパワーが足りない……というより『ありすぎて』殺してしまう。
 大勢を一斉にとらえるほど器用に頭髪を動かすとなればなおのこと手元ならぬ髪元が狂いやすくなるだろう。できれば試したくないのだ。
「なるほど、時代はボクを求めているようだ」
 美しいセレマの、くぐもった声がする。
「もう少し楽しんでいたかったけれど仕方がない
 ほんと……退屈な割に仕事が多くって困る」
 と語っているが、見回してみても姿がない。
「ここだよ、ここ」
 部屋の端。何人もの男女が殺到してもごもごと暴れている人間団子のなかから腕が一本でてきてこちらに手を振った――直後、新たに助走をつけてとびかかった女性が握りしめた鉛筆でその手を貫き、かじりついて組み付いた。
 冷静に指を指すゼファー。
「私みたことあるわこれ。砂場に磁石を落としたときあんな風になるのよ」
 ハッピー同様人が殺到しすぎたせいでそれ以上の誘引効果を失ったように見える。場合によっては会場中の人間がオイルショック時のトイレットペーパーのごとくセレマに殺到してその多くがセレマに触れることすらできずに手足をバタつかせてすべてが終わるとも考えられたが、どうやら今回はこうなったらしい。
 それでも、必要充分だが。
「私がやるとセレマごとヤっちゃいそうだから……ヴァレーリヤ、頼めるかしら?」
「はいよろこんでー!」
 居酒屋の店員みたいな返事と共に飛びかかっていくヴァレーリヤ。
 対して、ヴァレーリヤを追いかけて殺到した人々めがけてゼファーはその辺の長机を豪快にスイングした。
 自動車のワイパー、とでも表現しようか。
 何人もの人々がゼファーのスイングひとつで一斉になぎ払われ、そしてまっさらなフロアタイルだけが残るのだ。
 へし折れた机を放り投げ、こきりと首をならす。
「なあに。死ぬこたないわ。こちとらそれなりに慣れてますからね」

 しばらくして、クラシックミュージックはやんだ。
 人々は床に倒れ伏し、その中央にはスタングレネードを手の上で転がす寛治がいた。
 ハッピーとセレマは団子状になった人々の中からはいだし、しんどそうに汗を拭っている。
 やがて寛治の懐から荒い電子音によるカントリーミュージックが流れ、PHSを取り出すとそれを耳に当てた。
「……了解。ご苦労様です。皆さん、来ます」
 寛治がそう述べた直後、部屋の窓ガラスが破壊され三人の男女が飛び込んできた。
「いいタイミングだ脇役たち。ちょうどボクの見せ場が足りないところだったんだ」
 振り返るセレマ――の胸を貫く魔剣。衝撃でそのまま壁に叩きつけられたセレマは、剣を抜いて口から流れる血を拭った。
 パキパキと彼の美しい頬や首の肌がひび割れ、まるで老人のように皺が寄っていく。
「厄介な魔術を込めたね」
 手を握って開いて、巻き戻し映像のように肉体を修復するセレマ。
「パンドラが無ければ死ぬところだった」
「むしろ今のでなぜ死なない?」
 手をかざす男。彼の手に吸い寄せられるように魔剣が戻っていった。
 小太刀二刀流、長剣一刀、パグナウタイプ。三人のエージェントはそれぞれ別々の刃物を装備しているようだ。
「サイファーオルタと聞いていましたが、どうやら見ない間にバリエーションも豊かになったようで」
 寛治は部屋の反対側へと下がってステッキ傘による射撃を開始。
 放たれた徹甲弾が防御したエージェントの剣を破壊しそのまま肉体を壁際まで吹き飛ばす。
「エージェントだろうが一般市民だろうが関係ねー!!!!!! くらえー!」
 そこへハッピーがきりもみ回転しながら頭から突撃。
 エージェントのひとりと組み合う形で窓の外へと飛んでいく。
 更に部屋の入り口から日本刀や長刀、何本ものナイフを装備したエージェントたちが入ってきたことで戦闘は激化。
 ヴァレーリヤは待ってましたとばかりにメイスをひょいっと投げ、回転させてキャッチした。
「ふふん、ついに来ましたわね! 私達を倒せるというのなら、掛かって来なさい!」
「お言葉にあまえてぇ」
 日本刀をもった女性は鼻歌をうたいながら突撃。ヴァレーリヤに突きを食らわせるが、それを鋼鉄の腕ではさむように受け、右手から左手へメイスをパス。
「――『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』」
 真っ赤に輝くメイスが女の側頭部に直撃。
 その辺の倒れた椅子やなにかをなぎ払いながら吹き飛んでいく。
「へいおまち! たっだいまー!」
「退屈は紛れたけれど……やはり面白くないな」
 やれやれと首を振るセレマと窓からジェット噴射で戻ってきたハッピーが加わり、それぞれエージェントたちの引きつけを開始。
 それを突破した固体がナイフを投げるが、対抗したエクスマリアが髪を球状に変化させバチバチと電流を溢れさせた。
 ぐるんとモーニングスターのように振り回した髪がひとつの雷の玉を作り出し、それがエージェントへと飛んでいった。
 無数のナイフがエクスマリアに刺さる一方、雷の玉もまたエージェントに直撃する。
 ゼファーはここぞとばかりに突進。
「さて、やっと本命のお出ましってワケ? 歯応えがない相手で退屈してたところよ」
 長刀によるスイングを跳躍によって回避すると、相手の両頬にスッと手を添える。
 更に開いた足で相手の頭をはさみ――強引にねじってその場に振り倒した。
 勢いよく頭から転落したエージェントと、逆立ち姿勢から素早く復帰するゼファー。
 ……だが、ゼファーの肩にピッと深い傷が開いた。かわしたはずだが、くらっていたらしい。
「例の音といい、どんなインチキを使ってるやら分かりませんけど。出会った以上は出たとこ勝負。こっちも本気でかかってやるわよ」

 それから、六人はエージェントたちとの激闘の末に勝利し、突入してきたエージェント六人の死体と綺麗に気絶して部屋の隅にあつめられた綱村とその支援者たちを残して部屋を出た。
 これにておしまい……かと、思いきや。
「いやぁーあ、やるね。ブラボー」
 拍手の音と、男の声。
 建物の外で待っていたのは。
「ザムエル……」
 の、写った大きな薄型テレビとそれを抱えた女性だった。
 素早く拳銃を構える寛治。
 傷ついた仲間に肩を貸していたゼファーはハッピーやセレマと共に素早く後退し、それを守るようにヴァレーリヤがメイスを相手へ突きつけて立ち塞がった。エクスマリアに至っては頭髪を大量の銃砲にかえてどっしりと構えてみせる。
「テレビを壊して女を殺すか? そんなことをしても――」
 ドン、と発砲する寛治。素早く女の額にも発砲。
 その場に崩れ落ちるが、近くの建物から新たに別の薄型テレビを持った男性が当たり前のように現れ、ザムエルの映った画面を見せるように立った。
「無駄だって言おうとしたのに……」
 デスクに置いてあるハンバーガーの包みをほどいてかじると、もぐもぐとやりながら画面越しに寛治たちを指さす。
「俺たちの邪魔をするのはもうやめたほうがいい。お互い無駄な血が流れるだけだ。さっきの子みたいに」
「…………」
 寛治は眼鏡に手を当て、それを合図と受け取ったマリアとヴァレーリヤは周辺をサーチ。セレマも感情の探査を行ったが、敵意ある存在を見つけることはなかった。
 いま目の前でテレビモニターを抱えている男で、さえも。
「ザムエル、いまその女性が死んだのを見たか? エージェントが死んださまも」
「ん? ああ、まあね」
 ハンバーガーの最後のひとかけをほおばり、親指についたケチャップをなめるザムエル。
「そうですか……」
 寛治は肩を落とし、小さく首を振った。
「あなたの目的は?」
「あれ、まだ話してなかった? オーケー、説明するよ。
 この世は魔種のおもちゃ箱だ。海の果てを目指そうとすれば殺されるし、信仰を暴こうとすれば殺される。それも酷いときは国ごとオジャンだ。そんなこと古代からずっと繰り返してる……と、俺は見てる」
 二本指を自分の目に向けるジェスチャーをして、身を乗り出すザムエル。
 かたわらにおいたコーラのカップを手に取りストローをくわえると、そのまま話を続けた。
「世界は七罪を二人倒したらしいが、そんなのはマグレにすぎない。奴らが本気を出して結託なんてしてみろ。国は一夜で消滅。手も足も出ない。
 奴らが人類を侮ってるから、俺たちは生きていけるんだ。つまり奴らにとって『つまらない人類』でありつづける必要がある。今後、永遠に」
「その手段が、『あれ』だと?」
 吐き捨てるようにいうヴァレーリヤに、ザムエルは『せいかーい!』といって手を叩いた。
 ラップのリリックでも刻むようにトントンと机を叩いて説明をかぶせていく。
「人類が減る。文明が失われる。残った人間は動物みたいにつまんない生き様を晒す。魔種は興味を無くしてロバ牧場いじめでも始めるだろう」
「あなたの理屈はわかりました」
 急に短く言い切った寛治に、ハッピーが『はぁ!?』と露骨に顔をしかめた。
「あなたの言うようにしましょう。さようなら」
 男の額に発砲し、モニターにもまた発砲。
 折り重なるようにして倒れた男と女を見下ろして、寛治はネクタイをなおした。
「いやいやいやいや、理屈滅茶苦茶じゃん。なにあれ」
「ボクも正直引いたね」
 セレマがやれやれとため息をついたが、しかし寛治に対してのあきれではなかったようだ。
「あのザムエルって男、狂気に完全にやられてるようだ」
「そのようです。私の知るザムエルは人の血を見ることすら嫌悪した。嘔吐するほどに」
「…………」
 エクスマリアは倒れた女と、いま部屋の中で死体となりはてているであろうエージェントたちにそれぞれ想った。
「奴は、ケチャップをなめながら語っていたな。見た、と」
「旅人なりに、歪みきってしまったってわけね……」
 ゼファーは『ああなったらもう戻れないわね』とモニターへかがみ込んだ。
「ん?」
 ふと、モニターの裏にポストイットが張り付いているのが見えた。
 慎重にはがしてみると、書かれているのは12桁の意味不明な英数字。……何かのパスワードだろうか。
「まだまだ、付き合うことになりそうねえ」
 どこかげんなりと、しかしいつも通りにゼファーは息をついた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――実験を阻止しました
 ――これ以降同様の実験は行われていません。ザムエルへの牽制は成功したようです
 ――『Svto6ZA3sxd5』と書かれた紙片を入手しました。使用用途は不明です。

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