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シナリオ詳細

海歌うパルシェイエと雷桜の聖銃士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 もうあんなこと、繰り返させちゃいけない。
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はその想いを胸に事件調査にあたっていた。
 対象は、天義のあちこちで発生していたというウォーカー失踪事件である。
 年内にぽつぽつとだけおこる行方不明事件だったが、種族別に見るとウォーカーの比率が多かったことから都市伝説的に語られるようになった事件群だが……。
「アドラステイアの内情を知った今となっちゃ、無関係と切っては捨てられねえよな」
 サントノーレ・パンデピス(p3n000100)が、煙草を灰皿に押しつけながら言った。

 窓から差し込むは遠い海と水平線。さざなみと海猫の声が交差するここは天義沿岸部に位置するフォルマーダイニングというレストランである。
 ホタテ貝とイカのごろごろとしたスパゲッティをフォークでまくサントノーレを対面にして、ココロはハムとレタスのサンドイッチを両手でちいさく持っていた。
 ひとかじりしたものの、続かない。喉をとおらない。そんな表情である。
「喰わないともたないぜ。調査は体力だからな」
「うん。わかってる。でも……」
 テーブルに並べた写真はどれも伏せられている。食事中に見るようなものではないからだ。
 あえて今内容を説明するならば……食肉加工場のごとく切り刻まれた動物型ウォーカーの資料写真である。
 喋る牛のエドジャーソン、空飛ぶ豚のフォワンソラ、知的な鶏エデニゲコーク。召喚前の世界では酪農の神としてあがめられていた名残か、彼らの住む牧場はトラブルが少ないと評判だった。
 しかしある夜、牧場が何者かに襲撃された。主人とその家族は殺され、ウォーカーであった三人(?)は攫われた。
 目撃証言によると襲撃者は白い怪物たちであり、指揮をとっていたのは眼帯をつけた革鎧の飛行種少女であったという。
「あの子だ、きっと……」
 目撃証言のメモに手を置き、ココロはつぶやいた。
 『雷桜』の聖銃士。かつてフーキというウォーカーをアドラステイア拉致事件から守った際に交戦した聖銃士である。
 あのときは守ることができたが……。
「攫われた三人は休憩のために立ち寄った廃村で抵抗。聖銃士たちはそれをとめるためにやむなく殺害したが、その場の判断で『みせしめ』の儀式を行ったんだろう」
 写真のうち一枚をスッと指でひいて、表にかえすサントノーレ。
 血のついた写真には筆記体でこうペイントされた壁がうつっていた。
『次は助けられるかしら?』

●犯行予告
「おそらくこいつは、廃村へ調査に入れるほどアドラステイアに近づいた者のみが発見できるように仕組まれた……いわば挑戦状だ」
 その場に残されていたのは日時と人物名。
 サントノーレとココロは手分けして調査を行い、この人物の特定に成功していた。
「『歌うオウムガイ』のパルシェイエ。女性のウォーカーだ。沿岸部の村で漁業に出た船の安全を祈るという仕事をしている。まあ厳密には港町の雑用係だが、彼女のギフトは祝福した船の安全を高めるというものらしいな」
 店には招集された仲間のイレギュラーズがやってきていた。
 並べた椅子に、そして中にはカウンターによりかかるようにして話を聞く彼らに、サントノーレとココロの説明は続く。
「前の事件からして、拉致していくのは確実。しかもこんなメッセージを残したってことは、私たちに挑戦しようとしてるってこと……」
 前回の失敗を取り戻そうとしているのか、それともココロたちに対して何か思うところがあるのか。
 それは分からないが、再び防衛作戦が始まろうとしているのは確かだった。

 パルシェイエは全長1mほどのオオムガイで、空中をくるくると回りながら浮遊することで移動する。当然だが人語を解し、のびた髭のような触手で器用にものを掴むなどするらしい。ちなみに好物はイカ。
 彼女はその日の仕事を終え、呼び出しに応えて店へとやってきていた。
「その人達は、なぜ私を攫うのですか? 自慢ではありませんが、あまりお金を持ってはいませんし……」
 そう語るパルシェイエに、ココロはアドラステイアについて語って聞かせた。
「うん。えっとね。アドラステイアには『新世界』っていう組織が深く関与しているの。
 この組織は旅人根絶を目標にしていて、そのための兵力をアドラステイアの下層市民達から得ているとみられてる。
 市民といってもみんな戦災孤児たちで、天義が間違ってるっていう洗脳教育を受けて自分たちの神を盲信している子達なの。その中でも特に忠誠が深い子供たちが騎士……つまり聖銃士になるみたい」
 今回の主犯が『雷桜』の聖銃士である以上、話し合いや説得は不可能とみて間違いないだろう。洗脳を解く試みは一度行われたが、芳しい成果は出ていない。
「わたしたちは、もう、あんな子達にあんなことをさせちゃだめ」
 ココロの言葉に、皆それぞれの反応を示した。
 考えは違えど、結論は同じ。
「パルシェイエさんを守って、あの子たちをとめよう」

GMコメント

■成功条件:パルシェイエが攫われないこと
 旅人パルシェイエを『雷桜』の聖銃士から守り切りましょう。
 周辺住民への被害をさけるため、パルシェイエはあらかじめ天義沿岸部の廃村へと移送し守りを固めます。

■フィールドデータ:沿岸部の廃村
 過去聖獣駆逐作戦にて奪還した廃村です。かつてはアドラステイアから放逐された聖獣たちを恐れる形で住民が退去し廃村状態となっていました。
 アドラステイアにそこそこ近い場所にあり、おそらくはそのことを察知したであろう『雷桜』の襲撃に対して迎え撃つ形になります。

 住宅が密集するエリアで、風景としてはイタリアの下町スパッカナポリに近い風景です。
 具体的にいうと、四階建てのアパートメントが隙間無く何件も向かい合わせに連なっており、建物の間にはロープが張られよく洗濯物などが干されていました。(住民が退去した今はそうした生活感はありません)
 両側が建物に挟まれていたほうが襲撃に耐えやすいということでここが選ばれました。
 エリア中央の一階。カフェ跡に籠もるかたちでパルシェイエには待機してもらいます。

■エネミーデータ
 目撃証言と過去の交戦記録から得られたデータです。
 今回は作戦の性質上『全滅させる』までしなくても『撤退させる』ことで成功条件を達成できます。
 敵も敵でこちらがバチバチに戦力を整えて迎え撃つと分かっているので、それなりの戦力を投入してくるでしょう。
 ですのでリソース配分を考えて戦うことをお勧めします。

●『雷桜』の聖銃士
 アドラステイアにて授かった特別な革鎧を身につけた眼帯の飛行種少女です。
 称号だけが分かっており、名前は不明です。
・高回避、高防御、高抵抗、高再生
・『飛行』『物質透過』
・物至単【出血】【痺れ】
・物近単【致死毒】【炎獄】【失血】【致命】
・物遠単【乱れ】【崩れ】【ショック】

●聖獣部隊
 目撃証言によれば、いびつな翼のはえた白い怪物がかなりの数存在していたようです。
 具体的な数は不明ですが、飛行していたものと陸を走っていたものに分けられるようで、『空中戦タイプ』『陸戦タイプ』の二種があると考えればよいでしょう。

  • 海歌うパルシェイエと雷桜の聖銃士完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月21日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
カイル・フォン・フェイティス(p3p002251)
特異運命座標
アマリア オルコット(p3p005451)
宵闇の聖女
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ

●ホワイトナイトへむけてトラックを走らせよう
 日はまだ高く夕暮れはまだこない。聞こえていたはずの鳥の声がしなくて、空がどこまでも静かに見えた。
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はクルルと喉を鳴らして、深く鼻で呼吸をした。
(雷桜の後ろにいるアドラステイア、その中心にいるウォーカーがきらいな新世界。
 でも旅人に協力的な人をその場で見せしめのように殺すけど
 旅人は連れ去られて行方不明のまま
 命を奪う以上にもっとひどいこと、悪いことを考えてる気がするよ……)
 手に持っていたスノコを抱え直し、リュコスは歩き出した。
「因縁か。そりゃそうだよな。仲間を殺した俺らを、みすみす逃す訳ねェよな」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)があちこちの廃屋から拝借した板やら家具やらロープやらを集めて有効な陣地構築を行っていた。
 相手をジグザグに移動させ進行を遅らせる一般的な配置である。
「壊すのは簡単かもしれねぇし空を飛ぶ連中には無力だが、少なくとも序盤のうちは有効な足止めになるはずだぜ」
「だね。聖銃士の好きにはさせないよ。絶対に守り切ってみせる!」
 釘と金槌で窓を塞いでいく『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)。
 彼女たちが守ろうとしているのは『歌うオウムガイ』のパルシェイエ。
 一般的な女性と大きな違いはないが、爪や髪が綺麗な縞模様でできていた。
 アドラステイアから放たれた『雷桜』の聖銃士(セイクリッドマスケティア)と聖獣部隊が彼女を拉致しようと狙っているという。それも、ローレットを挑発するような形で。
「私ひとりの命のために、こんなに人が集まるものなのですね。とても、ありがたいことです」
 目を瞑って木の椅子にこしかけ、杖を握って語るパルシェイエ。
 カイル・フォン・フェイティス(p3p002251)はそばに土嚢を運び終えたところで汗をぬぐった。
「当然です。人命を守るは騎士の勤め、ですから」
 どこか歯切れの悪そうなカイルにパルシェイエは首をかしげたが、頭上をウィングシューズを用いて飛ぶ『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)を見上げることで会話は途切れた。
 建物から建物へ、本来は洗濯物を干すためにわたされていたロープフックを利用して漁用のネットをかけていた。
(アドラステイア、確か【新世界】が関わっているのよね。イザベラ……いえ、【叡智】もそこに居るのかしら)
 ネットの端をフックへ結びつけながら、アリシアは黙々とそんなことを考えていた。
 アドラステイアの反旅人姿勢は露骨に『新世界』のそれである。パルシェイエを狙う理由も、おそらくはそこに起因しているのだろう。
「挑戦状を送ってくるなんて強気じゃない? 私は護衛なんてする柄じゃないけどこんな事をする子にはオシオキが必要よね」
 その一方、『宵闇の聖女』アマリア オルコット(p3p005451)はシスター服の肩からかけていた小銃を空中に設置されたネットめがけて三発ほど撃ってみた。
 こちらからは狙いやすく、向こうからは動きにくい。
 トラップの設置法としてかなり理想的な状態だといえるだろう。
 そんな指示を送っていたのは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。
 かけるための網はあまり多くなかったが、こんなこともあろうかと用意された廃棄ネットが役立った。漁村が次々に廃村化したことによる恩恵……というと語弊があろうか。
「我が妹分のココロちゃんに、これ以上辛い思いはさせない! 私を、皆を存分に頼ってよね!」
 ねっ、と言ってココロの背中を優しく叩く。『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそんな彼女に微笑み返し、そして遠い空をいまいちど見た。
(新世界の思想も、アドラステイアの教えも、正しいのか誤っているのかはわたしにはわからない。
 でも、子供たちを使って殺しをさせるのは間違っていると、わかる。
 できれば聖銃士の子も助けたい。
 でも、どうしたらいいかわからない)
 なにをもって救いか。
 いかにして救うか。
 『雷桜の騎士』に対して、ココロができることは今のところ……あまりない。
 せめてこの戦いで、彼女の心に触れることができれば。
「行くんだ。もっと知るために、さらに深く……」
 あるいはそれが、痛みと苦しみを伴おうとも。

●自由と尊厳のドア
 雷桜の騎士と聖獣部隊の接近を予期するのはそう難しくは無かった。
 電線に止まる小鳥のように、わたした網の上に立つように飛行していたアリシアとウィズィニャラァムが、遠くより来たる白く歪な群れを見たからだ。
「さあ、Step on it!! 絶対に守り抜きますよ!」
 宙返りをかけて飛び降りる二人。
 いくつものネットとバリケードを俯瞰しながら頭を下にして垂直落下するウィズィニャラァム。彼女を狙った鳥型の聖獣がまっすぐ突っ込んでくるがはったネットにぶつかって急停止。すぐに体勢を整えようともがくが、その瞬間に仲間の射撃が浴びせられた。
「ふふっ、淫魔が銃器を使って誰かを守るなんておかしいわね?」
 アマリアは髪を両手で払って翼のごとく広げると全身の色と体型をサキュバスのそれに変化させた。
 小銃を片手で構え、ねっとにからんだ聖獣めがけて連射。
 なんとか逃れた聖獣が急降下をかけてくるがバリケードの裏へと転がり込んで防御し、膝のホルスターから拳銃をぬいて後退しながら乱射した。
 一方で着地したウィズィニャラァムが『ハーロヴィット・トゥユー』に紫のオーラを纏わせ鳥聖獣の翼を切り裂き、飛行能力を喪失させると返す刀で喉を貫いた。
 本来なら機動力の高い飛行タイプが高高度より降下攻撃をしかけ制空権を獲得したところで陸戦部隊が持ち前の破壊力で轢いていくという勢いのある襲撃が完成していた筈だが、飛行タイプはネットに阻まれおもうように初動をとれず、一方の陸戦部隊はバリケードと外縁防衛チームに阻まれていた。
 巨大なムカデ型聖獣の突撃から羽のオーラを散らして回避すると、スティアはくるくると回転するように跳躍。荒れ地をまるでアイススケートでもすべるように軽やかな起動を見せた。
 追いすがろうと振り返った聖獣に回り込むと、スティアの突きだした手が舞い散る羽根によって魔方陣を描き無数の光線となって分裂。聖獣の身体を次々に貫いていく。
 聖獣が崩れ落ちたのを確認すると持ち前の機動力で急速後退。バリケードを飛び越えて裏へと潜り込むと、蛇のような聖獣が放つ魔術砲弾を防御した。
 その上を飛び越えていく有翼の蛇聖獣。
 しかしまたもネットにぶつかり回り込みに失敗――したところでアリシアの魔法が炸裂した。
 空中で爆発する『ディスペアー・ブルー』の魔術をくらって墜落した蛇。アリシアは助走をつけたジャンプとウィングシューズによってバリケードを飛び越えると振りかざした剣に赤熱の魔力を込めて急降下斬撃。聖獣を真っ二つに切り裂いた。
「撃破。けど数が増えてるわ、アラン、そっちを――!」
 アリシアをスルーし、ネットを切り裂くように剣化した腕を振り回しながら突っ切っていく聖獣が現れた。
「ただ突っ込んでくるアニマルじゃねぇってか。誰かが……雷桜の騎士が指揮してやがるな?」
 アランはそうつぶやくと、階段を駆け上がって扉を振り払うように抜けほこりっぽい部屋を駆け抜け更に窓から身体を小さくして飛び出すと、聖獣の真横に現れて聖剣で切り裂いた。
 更に疑似聖剣を作り出してもう一斬。いや、空中で高速回転をかけながら聖獣を切り裂き血の雨と共に着地した。
「俺らが作った陸用のバリケードも壊され始めてる。
 カイル、リュコス! 少しずつ引いて対応しろ」
「――」
 リュコスはこくんと頷くと、弾幕をよけるために隠れていたバリケードから走って離れた。すぐさまサイのような聖獣にバリケードが破壊され、そのまま突進してきた聖獣を屋内に身を隠していたカイルが顔面を横から剣で貫く形で奇襲。
 動きの鈍った聖獣から急いで離れると『退こう、カフェを中心に再配置!』と叫んで走り出した。
 リュコスは一度反転しチェーンソーを起動。動きの鈍った聖獣の足を切り裂いて店頭させると、続いてやってきた白いバッタの群れめいた聖獣たちをチェーンソーを振り回した回転切りによって振り払った。

 バリケードの破壊によって戦線をさげる仲間達。
 集まってくる様子に、パルシェイエはどこか不安そうだった。
 彼女の手に自らの手を重ね、真剣そうに頷くココロ。
「部屋に隠れていて。あなたは、わたしたちが必ず守るから」
「あなたは、大丈夫なのですか?」
 心配そうに振り返るパルシェイエに、ココロはあえて笑って見せた。
「『わたしたちは死なない』なんて言えない。大事な友達を失ったことだってある。けど、だから……うん、だからこそ」
 自分に語りかけるようにココロは、開いた目に力ある光をやどした。
「失わないって、決めたの」
 ゆっくりと頷いて、部屋へと下がっていくパルシェイエ。
 ココロはサーチ能力を起動させ身構えた。集まってくる仲間達に改めて治癒の魔術を施すと、カフェスペースを扇状に守る陣形を組み直した。
「みんな、もう一息だよ……!」

 ネットとバリケードによって敵の初動を制することができたイレギュラーズ。
 対する雷桜の騎士は首のない馬にまたがってその様子を観察していた。
 白い翼をもち、眼帯と革鎧をつけた少女。
「どうあっても、庇うつもりなのね。あのとき魔女を庇ってた連中、やっぱりまた集まってる」
 腰にさした剣に手を当てる。
「なんでわかってくれないのかしら。旅人がこの世界を穢してるって……それとも、分かって守ってるの? 同じイレギュラーズの損になるから? 自分たちがニコニコできれば、世界がどうなってもいいっていうのかしら……ね」
 憎しみに濁った目を見開き、雷桜の騎士は翼を広げた。
「いいわ、教えてあげる。正義は我にあり――『雷桜』の騎士、ジェニファー・トールキン、打ち貫くわ!」

 バリケードは次々と破壊され、ネットは残らず切り払われた。
 イレギュラーズたちはカフェとその向かいの建物に籠もるかたちで集まる聖獣たちの迎撃にあたることになった。
 アマリアは扉越しに顔を出して拳銃を三発ほど連射するとすばやく顔をひっこめた。壁にあたる数発の魔力砲弾。めきりと音を立てた次の瞬間、大型聖獣の突進によってアマリアは壁ごと吹き飛ばされた。
「下がってろ!」
 アランはアマリアをかばうように立ちはだかると疑似聖剣の一本を投擲。
 聖獣に突き刺すと、両手持ちした剣でもって空間ごとけさ斬りにした。
 ずるりと崩れて倒れる聖獣。その先の風景をぐるりと透視すると、建物群を順番に壁抜けしながら走る少女の姿が発見できた。
 声を張り上げるアラン。
「A2ポイントから騎士が接近、二階を壁抜けしてる。備えろ!」
「私が行きます」
 アリシアは聖獣を剣で斬り捨てると、素早くターンして走り出した。跳躍と同時にウィングシューズを起動。まっすぐ建物二階へと透過して飛び込――んだ直後、待ち構えていたように雷桜のジェニファーが魔道小銃の乱射を浴びせてきた。
「っ――!」
 祝福弾がアリシアのエネルギー障壁を破壊。咄嗟に剣で防御したが衝撃に耐えきれずついさっき透過したばかりの壁に激突した。
「その銃……!」
 アリシアは流れた血を媒体にして蝙蝠眷属を無数に召喚。魔術爆弾を背負わせて雷桜のジェニファーめがけて殺到させた。
 剣によってそれらを切り払うがすぐさま爆発。
「あなたも旅人ね。世界を穢して蝕んで、あなたはそれで平気なの!?」
「悪いけど、話し合ってる時間はないのよ」
 アリシアが剣による突撃をしかけよう――とした瞬間、窓から乗り込んできた首のない天使型聖獣がアリシアへと組み付いた。
 その隙をつく形で壁を抜けていくジェニファー。
 スティアとカイル、そしてリュコスは屋外でその様子を察知していたが対応に向かうのは難しかった。
 今まさに目の前に殺到している首のない天使型聖獣たちが腕を剣にかえて切りかかってくるからである。
 カイルは首を狙って水平に放たれた剣を咄嗟のロールで回避すると、素早く起き上がって天使の足を切りつけた。
 更に剣で思い切り天使の胴体を貫いていく。
 そんな彼にラップショットを仕掛けようとした天使聖獣の腕を、リュコスのチェーンソーが切り裂いた。
 ブブという鈍い音をたててチェーンソーが動きをとめたが、構わずリュコスは自らの血を狼の爪のようなオーラに変えて天使聖獣を切り裂いた。
 両腕に同じようにクローを展開。前屈みの姿勢をとると、獣のように飛んでまた別の聖獣と切り結んだ。
「騎士の奇襲は仲間に任せておけばいい。私たちはここを死守するよ!」
 スティアは自らを覆っていた聖域を逆転。敵を中心としたエリアを聖域で包み込むと、その中へ魔力をこめた旋律を大反響させて流し込んだ。ぐらりとよろめき、スティアに執着するように斬りかかってくる聖獣たちへ氷と炎の剣を作り出して対抗するスティア。
 その一方、カフェの二階に雷桜の騎士ジェニファー・トールキンは到達していた。
 地面に手を突いたジェニファー――の手首を、下から抜けてきたウィズィニャラァムの手が掴んだ。
 ジェニファーが相手の物質透過を先読みして攻撃したように、壁をぬけるたび使用していた物質透過のタイミングからココロが逆算してウィズィニャラァムへカウンターのチャンスを伝えていたのである。
 ジェニファーも絡繰に気づいたがもう遅い。するりと飛び上がってきたウィズィニャラァムが、ジェニファーの小銃を蹴りつけて部屋の隅へととばした。
 更には剣をもつ手首を掴んで懐に潜り込み、その勢いのまま壁に押しつける。
「ココロちゃん! 今!」
 階段を駆け上がってきたココロはココロの壁を幾層にも重ね、それを反転させたものを自らの握り拳に纏った。
「あなたの力が通じないのはなぜだと思う? 嘘をつかれているから、騙されているからだって解って!」
 叫びと共に繰り出された拳がジェニファーの祝福障壁を突破して頭部に直撃した。
 勢いのあまり吹き飛んだジェニファーが棚や空の花瓶をなぎ倒して転がっていった。
「嘘を……嘘つきはそっちでしょう!? 世界中を騙して、汚して!」
 かざしたジェニファーの手に小銃が吸い込まれるように戻り、構えた銃口がココロへと無数の祝福弾を浴びせるが、それをウィズィニャラァムの身体が阻んでいく。
「ウィズィお姉様……!」
「話し続けて。そのための『今』でしょ」
 頷き、飛び出すココロ。
 ジェニファーの襟首を掴んで引き寄せると、自らの額を相手の額に押しつけた。
 眼帯ごしに目が開かれたのが分かる。
「違うの。騙されてるのも、汚されてるのも、あなたなの」
「嘘よ。だって、だって……みんな、あなたちが殺したって言って……」
 わなわなと震える。その震えが、ココロの心にまで伝わった。
 やさしく話した手。
 ジェニファーは数歩後じさりをして、首を振って背後の壁を抜けて飛んだ。





 雷桜の騎士ジェニファー・トールキンは残りわずかな聖獣ごと撤退していった。
 パルシェイエの身柄は守ることができたが、一方で。
「間違ってない、私は、間違ってないはず。だって、そうしなきゃ、そうしなきゃ、私いままで……!」
 のジェニファーの心には、冷たい楔が打たれていた。

成否

成功

MVP

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

状態異常

なし

あとがき

 ――旅人パルシェイエの保護と防衛に成功しました
 ――雷桜の騎士ジェニファー・トールキンの情報を獲得しました

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