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シナリオ詳細

<忘却の夢幻劇>巨蛇は尾を食み続ける

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●<黄金の女王>と<灰銀の王>
 ああ、いつまで続くのだろう? 強大な敵国の王である<灰銀の王>との戦は、終わることを知らない。ハーンマルの平原には煌びやかな鎧に身を固めた騎士たちが並び、今か今かと号令を待っている。揃いも揃った勇士揃い。一人一人が叙事詩の主人公になりえる者たちだ。
 ああ、いつまで続くのだろう? 此度の戦の結果を私は知っている。様々な苦難を乗り越えた後に、毎回道筋こそ違えど――我らの軍が勝つ。
 そして夜の宴が終わる頃、朝焼けに鳥が飛ぶ頃、また<灰銀の王>の軍は蘇るのだ。我らに敗北するためだけに。
「女王様――」
 私の忠臣、第一の将が声をかけてくる。甲冑に身を包んだ姿からは表情は見えない。
 いや、最後に彼の顔を見たのは何時だったか。黒髪であったか、白髪であったか。若いのか年を経ていたのか。そもそも『彼』であったかも疑わしい。
 急に記憶がぼやけた気配がして頭を押さえる。
 ――私は、誰――。
 金の髪に金の瞳。ハーンマルの輝く花。<黄金の女王>。
 己に言い聞かす。擦り切れそうになる自己に、しがみつくために。

 馬の首を巡らせ、角笛を高らかに吹く。戦の興奮が身を震わせ、鬨の声が口から響く。これぞ我が望み、我が悦び。
 その一方で私はふと、思うのだ。

 ――ああ、いつまで、続くのだろう? と。

 戦場から離れた城の最奥で、一人の少年が竪琴をつま弾いていた。
「<黄金の女王>と<灰銀の王>、戦はいつも<女王>の勝利で終わる」
 歌う声は人離れした澄んだ響き、少年の耳は尖り、妖精族であることを示している。
 聞き手はなく、彼は一人。目を伏せる様子は痛々しい程に孤独であった。
「彼女が望むは永遠の勝利、僕が呼んでしまったのは尾喰いの蛇――」
 少年は、ふと、宙を見上げて呟いた。まるでこの世界の『外』に呼び掛けるように。
「ああ、誰か。永遠の戦に囚われた我ら亡霊を、お救い下さい。僕を殺して、全てを終わらせて下さい」
 哀調を帯びた竪琴の響きは、石の壁に響いて消える。

●終わりなき戦
「――ハーンマルという名の平原があったと、炉端の人々は語り継ぐ。名を忘れられた二国の争いが終わった直後に、忽然と姿を消した地。鳥が遊び花咲き乱れる平原は、戦場となり血で汚され――ある日、ふいに、消えた」
 『学者剣士』ビメイ・アストロラーブは一冊の古びた本の内容を引用した。暗い革の装丁に、掠れた黄金の箔押しで題名が記された書物。その題名は『忘却の夢幻劇』、神秘と怪奇溢れる仄暗い幻想世界の書。
 ビメイはさらり、とページを開いて机に置く。挿絵の中では竪琴を持った少年が、尽きぬ後悔と悲しみの表情と共にページの外を見ていた。
「尾を喰う蛇の伝説はこちらにはあるかね? 現在のハーンマルはそんな状況下にある。<黄金の女王>と<灰銀の王>が決戦の一日を繰り返し、永遠に戦争が続いているのだよ」
 そうして、ビメイはげんなりした表情になる。
「永遠に一日を繰り返す羽目になったのは、女王が敵国から助けた<妖精公子>が「何でも願いを叶える」といってしまったためだ。女王は勝利の後に、永遠の武勇と尽きぬ勝利を願ってしまった。後は諸君らも想像の付くように永遠の戦場の出来上がりだ……無論<妖精公子>には悪意はなかった。妖精の魔法というのは時に予想外の結果をもたらすものだからな」
 全くこれだから貴人という生き物は! 吐き捨てるビメイはこつこつと苛立ちも露わに細い指で机を叩いている。
「妖精の魔法はハーンマルを世界から切り離し、一個の小世界へと変えた。中にいる者らは死しても朝と共に蘇り同じ一日を繰り返す。毎回細部は違うが同じところが一つある。<黄金の女王>の勝利で終わる、ということだ。しかし、永遠は定命には禁じられた現象だ。日毎に世界は擦り切れ、女王らは自己を失い、同じことを繰り返すのみの亡霊と化していく。やがて切り離された世界は崩壊し――現世に帰還するだろう。そこに広がるのは亡霊だらけの平原、という訳だ。それだけで済めばいいが、最悪、現世の時の流れも歪むかもしれん」
 そして、ビメイは真剣な顔になって貴方たちを見る。
「故に――君たちには、ハーンマルの永遠の一日を終わらせて欲しいのだよ」
 世界の一大事だ、と小さく呟いて、彼女は表情を少し緩めた。
「何、同じことが続いているんだ。全く違うことを起こせばいい――方法は任せた!」

NMコメント

 神秘と怪奇の『忘却の夢幻劇』へようこそ! ろばたにスエノです。
 此度は、小世界にて何度も繰り返す永遠の一日を終わらせましょう。

●今回の舞台
 ハーンマル平原、永遠の戦が続く、この世から隔離された小世界です。緑の草原は五月の風に吹かれ、平和な時ならば美しいでしょうが、今は無数の軍勢が相対する戦場となっています。片方は<黄金の女王>の指揮下で金の鎧を、片方は<灰銀の王>の指揮下で銀の鎧を身に着けており、いつも<灰銀の王>が敗北することで一日が終わり、また朝になって全員が蘇って同じ一日を(細部は違いますが)繰り返しています。
 『世界』の両端には城が一つづつあります。両軍の陣の奥にはテントなどがあります。それ以外の建物はありません。
 
●NPC
 ・<黄金の女王>:もはや名を知る者のいない古の女王です。金髪金目、しなやかな肉体を持つ二十代後半の女性です。黄金の鎧に身を包み、黄金の槍を手にしています。公明正大な良き女王でしたが、その一方で戦を愛する気質も持っており、「永遠の武勇と尽きぬ勝利」を願ってしまいました。
 ・<灰銀の王>:もはや名を知る者のいない古の王です。銀髪銀目、何歳ともわからぬほどに老いた男性です。銀色の長衣に身を包み、銀の王笏を手にしています。魔術に長け、その技で<黄金の女王>が治めるハーンマルの平原を攻めようとしました。
 ・<妖精公子>:妖精界から攫われ、<灰銀の王>の虜囚となっていた妖精族の貴人です。見た目は少年ですが、年齢はわかりません。<黄金の女王>によって救い出され、妖精の掟によって彼女の願いを一つ叶えることを誓い――現在に至ります。魔法の原因たる自分が死ぬことで全てが終わると思っていますが、彼自身も魔法に囚われてしまったため、自害できず生き続けている状態です。居場所は城の奥にある客室ですが、外部の通路では<灰銀の王>から彼を守るかのように沢山の兵が見廻っています。(そうでなくとも城の内部には兵士が沢山いるので彼のもとにたどり着くのは簡単ではないでしょう)
 ・騎士や兵士たち:沢山います。いずれも一騎当千の強者ぞろいです。

●目標
 『ハーンマルの永遠の一日を終わらせる』ことです。
 <特異運命座標>の皆さんは小世界の法則から外れているため、小世界の住人たちに真の死を与えることが出来ます。またそれ以外の手段でも、「<黄金の女王>が勝利する」ことが確定している一日をひっくり返すことが出来ます。
 <黄金の女王>を殺すもよし。<妖精公子>を殺すもよし。それ以外の手段を探るもよし。
 ……すべてはあなた方の発想しだい。キャラクター同士協力し合うのも、また手です。

 それでは、よい冒険を。

  • <忘却の夢幻劇>巨蛇は尾を食み続ける完了
  • NM名蔭沢 菫
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月17日 22時01分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
時任 零時(p3p007579)
老兵は死せず
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花

リプレイ

●灰銀の陣営にて
 ハーンマルの平原は永遠の五月。歪んだ時の中で繰り返されるのは最後を迎えない決戦の一日。何度繰り返したかもわからぬその一日は、今日も慌ただしく始まろうとしていた。

「して、そなたらは――我が方につきたいと……そう申すのだな」
 銀色の衣に身を包み、王笏を手にした老人、<灰銀の王>はいぶかしげな眼で来訪者らを見つめた。はて、このような人物は存在しただろうかと言いたげに。
 <灰銀の王>の前に訪れていたのは『分厚い壁(胸板)』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)と『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)。前者は跪き、後者は気だるげに立ったまま<灰銀の王>を眺めている。
「我は定められた流れを破る為に馳せ参じた。銀なる王、今此の度御身を護る剣と成らせて頂きたい」
 巨躯をかがめ、剣を王の足下に捧げようとする赤き竜人ボルカノ。それを制すように<灰銀の王>は手を緩やかに動かす。
「よい、剣は戦場まで取っておけ。――定められた流れと申すか。そなたら、どこまで知っておる……」
 世界が口を開く。どこか皮肉気な調子が混ざった口調であった。
「妖精族の魔法のせいで、願いが歪んだ形で叶い――結果、0と1の間を繰り返すだけの紛い物の永遠が続いている。違わないか?」
 ふむ、と王は眼を細め目の前の気だるげな顔の青年を見る。王の口元には皮肉な笑みが浮かんでいた。ようやく、正気の相手に出会えた者の笑みであった。
「然り。我は魔術の徒故、ハーンマルが何らかの術に囚われ、天の星が同じ場所に止まり続けていることには気付いておった。が、部下らは現実に気付こうともせぬ。現状を打ち破ろうとしても我らの敗北は既に定まっており、閉口しておった所よ」
「その敗北を覆す為に来たんだ、俺達は」
「銀なる王よ、御身が生き延びれば、永遠の一日は終わると我らは考えている。故に――我らを信じてはもらえぬか」
 二つの声が重なる。<灰銀の王>は眼を伏せ告げる。
「よかろう、そなたらに賭けよう。所詮失敗した所でまた一度死ぬだけよ」
 死に慣れた者の疲れ果てた表情が、口元に浮かんでいた。

 王が去った後、小声で二人の<特異運命座標>らは語り合う。
「ふう……上手く入り込めたようで何よりだ」
 やれやれといった様子でため息をつく世界。その横で真面目な表情のまま、ボルカノがつぶやく。
「ああ。――誰も望まない永遠は、此処で終わりにするのである」
「何にしても、仕事をするだけだ。やるしかないって言うならば、運命だろうと宿命だろうと覆して見せるさ」
 世界が見渡す先には、無数の銀の兵らが並ぶ。ハーンマル最後の戦が始まろうとしていた。

●女王は笑う
 『薄桃花の想い』節樹 トウカ(p3p008730)の周りに、桃の花びらが舞う。花びらは彼のギフト『桃の花びらへと思いを込めて』によって具現化された鬼紋。花びらは黄金の兵士らの心に語り掛ける。
――自身を覚えているか? 故郷の家族や大切な人の名前は? 君達の君主である女王の名前は? これらの質問どれか一つでも答えられないのなら女王の元へ案内してくれ。
 黄金の兵らは足を止める。戦以外のことを考えたのは、はたして、何時ぶりだろう。友の名も、女王の名も思い出せないことに気付いた彼らは、自然と武器を下げる。トウカの持つ人の心をつかむような不思議な気配に影響されたことも強いだろう。
――その忘却を止める為に、少しでも多くの人を助ける為に、俺は女王と話しに来た。

「奇妙な術で私の配下を惑わす――角持つ男よ、そなたは何者ですか」
 応えるように現れたは黄金の甲冑に金の髪の貴人。<黄金の女王>その人であった。黄金の槍を構え、言葉によっては串刺しにすると言わんばかりの様子。
 桃の花びらは更に雄弁に語る。己が心情を包み隠さずに伝える、それがトウカの持つギフトの神髄。女王に再び問う。自己を覚えているか、大事な者らの名前を覚えているか、己が名を覚えているか、と。動揺する女王に、トウカは更に続ける。
――女王よ、君が妖精に願ったことによって、世界は同じ一日を繰り返している。あなたが勝ち続ける限り、ループは止まらない。
 女王の槍もつ手が震える。真実を改めて突き付けられた者の恐怖と、今までとは違う「展開」への期待に、震える。
「だから、俺は外の世界から来た。女王よ、俺と、決闘をしないか? 戦でわざと負けろと言っても、どうせ聞かないだろう」
 突如、女王は笑う。見れば相手は中々の使い手。自分に勝負を仕掛けてきた者は「何時」ぶりだろうか? 配下を手で制し、指揮官の証である己の角笛を側に立つ第一の将に渡す。
「私の槍に勝てると思っているのですね、角持つ異邦人よ。その勝負、受けましょう」
 女王は輝く槍を構える。トウカは青白い妖気を纏った妖刀と、桜の木刀を構える。
――この戦い、負けても死ぬまではどんなに無様でも時間を稼ぐ!

●<獣の魔王>
 平原で、<黄金の女王>と<灰銀の王>の軍勢がぶつかり合う。<女王>の軍を指揮しているのは彼女の代理であることを、<王>の軍に見知らぬ客将がいることに誰も気付かぬまま、戦は進む。戦略眼に優れた世界の活躍によって<女王>の軍はかき乱され、吹き飛ばされ――何とか<王>の本陣に行きついた騎士や兵士らも、ボルカノの銃剣と拳によって軽々と倒されていく。とはいえ攻撃は相手を気絶させるのみで命までは取りはしない。

 戦局は膠着状態であった。トウカと戦う<女王>もまた、倒しても立ち上がる彼を攻めあぐねていた。

 そこに、声が響き渡る。
「ふん、遊びにもならん。手でも組んだらどうだ?このまま蹂躙されたいと言うのならば話は別だがな」
 戦場の中央、突如現れた獣の耳持つ精悍な老人――『特異運命座標』時任 零時(p3p007579)が一騎当千の動きで両軍を屠っていく。零時の放つ千変万化の武技は重装鎧の兵士や騎士らには避けること叶わず。誰が口にしたか「魔王だ、獣の魔王が出たぞ――」とのざわめきが両軍を支配していく。
 戦場の流れは変わる。突如現れた第三の勢力、それもたった一人の勢力が嵐の如く暴れているのだ。
――ひ、必要なこととはいえちょっと恥ずかしいよねこの口調……。
 零時は心の中で苦笑いを浮かべながら、更に尊大な演技を続ける。第三勢力として現れ、二つの国にとって共通の敵になることで共闘を促そうというのが彼の目的であった。

 トウカと戦っていた<女王>の下に伝令兵が<獣の魔王>の存在を告げる。女王はトウカにこの勝負預けたと叫び、馬に跨り最前線へと躍り出る。
 一方<灰銀の王>の側に立つボルカノは<王>に助言するような形で告げる。
「この戦、<魔王>を倒さねば決着がつかぬのでは――共闘などをして」
 <王>は老獪な笑みを浮かべる。夕暮れが平原を支配していた。
「なるほど、よかろう――狼煙を上げよ! <女王>軍への攻撃は止め、目標を<魔王>へと変えよ!」

●巨蛇は尾を解き放つ
 零時の拳は、足は、氣と勁は、両軍を平等に薙ぎ倒していた。無論致命傷は外している。両軍とも手出しができないというように零時の周りを囲むばかり。
「ふむ、共闘したとてこの程度か。両軍の頭を呼べ! 同時に相手にしてくれるわ」
 ちらりと零時は空を見る。日が落ち、何時間が建ったか。僅かづつにだが、天の濃紺が薄れ始めている。
――もうそろそろ朝が来るか……。
 そこに一閃、黄金の槍が。
 そこに一閃、灰銀の光矢が。
 放たれ、撃ち込まれ。零時はしなやかに身をかわす。
「そなたと肩を並べるのは不服ではありますが、<灰銀>よ」
「そのようなことを言っている場合かね、<黄金>よ」
 黒馬に乗った<灰銀の王>、白馬に乗った<黄金の女王>。敵同士の彼らが肩を並べて戦うのは初めてのこと。
――頃合いだね。
 再び放たれる金と銀の攻撃を、零時はわざと受け――。倒れた。

 日が昇る。両軍の決着がつかなかったという現実に、妖精の魔法は崩れ落ちる。<妖精公子>は魔法の反動を受け、塵となって消えゆく。どこかで正しきことが行われたのだ、という納得の表情を浮かべて。
 冷たい風が吹き込む。ハーンマルの平原は一瞬にして秋の色に変わる。外の時にふさわしく、十月の秋の色に。

 疲れたと肩をすくめる世界の背をボルカノがぽんとねぎらうように叩く。傷だらけの体で駆け付けたトウカの横で、魔王の演技を止めた零時が、温厚な笑みでむくりと起き上がる。

 その日、ハーンマルの平原で<灰銀の王>と<黄金の女王>は和解し、これ以降は互いの国が戦を行わぬことを宣言した。
 その日、いきなり現れた伝説の時代の人々に周囲の国々は驚愕したが、やがて受け入れられ、二国は『忘却の夢幻劇』の歴史の中へと戻っていく。
 奇跡的なまでに死者の少なかったハーンマルの最後の戦い。そこに現れた四名の異邦人のことは伝説に語られるだろう。
 巨蛇の尾を解いた者、と。

成否

成功

状態異常

なし

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