PandoraPartyProject

シナリオ詳細

まんまるだと思ったか? ちょっと潰すのがコツだぜ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●待つのは飽きた
 ワンカップ空にしたけど本命はまだ来ない。
 霜月の月見団子は世界一。だけど待てど暮らせど。
「まーだだよ」
 屋根の上で昼寝すれども月はまだ出ない。腹は鳴る一方。退屈でタップダンスしてたら夕暮れカラスカアカア。そろそろ準備はできた?
「まーだだよ」
 ええいたかが団子にどれだけかかっているのだ。されど団子食いたし、欲求ははちきれんばかり。ぐだぐだと飲んで転がってちょっと修行して、体を動かしたら腹が減ったぞ、そのくりかえし。右脳通り越して脊椎反射で会話。何言ってるのか自分でもわかってなーい。それは部下も同じようで考えることはただ一つ「霜月の団子食いてえ」。
「まーだだよ」
 月へ備える分を15個。暦の面々が食すようにたくさん。作るのはひとりだけ、そりゃ時間もかかりますわいなあ。だって霜月の団子が食べたいってみんなして思ってるんだもの、ムズカシイトコロダネ。こうなったら最後の手段だ、れっつごー章殿。
「奥方といえども譲れぬことはあります。夜気を存分に浴びたススキを飾り、涼しい風に吹かれながら皆で共に月を愛でる、すてきでしょう?」
『そうね!』
 ころり、手のひらの上。うぬぬ、撃沈。章姫だけがいい顔で帰ってきた。
『みんないっしょに『いただきます』するのだわ!』
 あれま見事なまでに敵方へ寝返った。これは一波乱ありそうな予感。
 ああ、いい香りだけはたっぷり。白米食べれそう。だれ? 台所から黄な粉だけ失敬してきたのは。甘いそれを指先に乗せてつまみがわりにまた飲んで、ごろり。いいかげん飽きてきた。フラストレーションとかいうものが堪忍袋でぷくぷくと。ぶちっとちぎれて爆発したのは何時何分何秒だっけ地球が何回まわった日~?

●チキレ第一回
「突撃いいいいいいい!」
 ドガガガガガガガガ!
「反撃いいいいいいい!」
 スドドドドドドドド!
 パリンドカングッシャンペニョンポヨングルニッチュンポカポカガッドコッペインガブッズンドコぺちぺちぺちぺちッ!
「月が昇るまでお預け!」

●チキレ第二回作戦会議
「というわけで」
「何が『というわけ』かわからないから最初から説明してほしい」
 アーマデル・アル・アマル (p3p008599)がそう言うと黒影 鬼灯 (p3p007949)は傍から見てもわかるほど苦々しくうなずいた。彼の忍装束はすっかりぼろぼろ、焦げ痕だらけになっている。
「いろいろあって延び延びになっていたお月見を今夜やることにした」
「……満月はとうに過ぎたけど、やっぱり豊穣の隠れ家を手に入れたからにはそういった行事もやってみたいものだよね……」
 逢華 (p3p008367)は興味深げに首を縦に振った。
「いや、実のところ月に興味はない。用があるのは母上が作った月見団子だ」
「オカンがいたの?」
 目を瞬かせた二 (p3p008693)の言葉に鬼灯は首を振った。
「正確には血はつながっていない。それどころか女ですらない。俺の部下である暦の一人、霜月のことだ。立ち居振る舞いがいちいちオカンなので母上呼ばわりしている」
 あとメシが異常にうまいと鬼灯は付け加えた。なんでも暦の胃袋を一手に握っているある意味絶対権力者なのだそうだ。わりとのほほんとしてるけど怒らせるとめちゃくちゃ怖いあたりも母上呼ばわりの理由だとかなんとか。そこまで聞いた虚気 影踏 (p3p008838)は事情を察して察しまくった。
「や、やめようよぅ霜月君の月見団子のつまみ食いだなんて! もう絶対死ぬじゃん殺されるじゃん磔にして鞭百叩きじゃん!」
「それはもう既に食らった」
「いやああああああ! 頭領タフ過ぎいいいいいいいいいいいい!!!」
「うん。つまり月見団子が食べたいと。それなら知り合いのパティシエに出張ってもらえば万事解決……」
「ありがたい申し出だが俺の胃袋が欲しているのは霜月の団子なんだ、すまんな」
 鬼灯は武器商人 (p3p001107)の誘いを頭を下げて辞退した。
「団子をぺたんこにし、こんがり焼いたのをジャリジャリの砂糖醤油につけて食べるのが最高でな」
「たしかにエヴァーグリーンの旦那とは方向性が違うねぇ」
「他にもきなこ、ずんだ、あべかわ、もろもろと可能性は無限大。上等の上新粉で作られた団子はもちもちつやつやで見た目も最高」
「ほっし~~い。ぜったい食べてみた~~い!」
「そうだろうそうだろう」
 目を輝かせるウロ ウロ (p3p008610)に、鬼灯は相好を崩した。
『なのだけど、奇襲に失敗したのだわ!』
 とつぜん鬼灯の胸元からぴょこりと顔を出した人形、いやさ章姫。つややかな頬は生きているかのよう。くりくりした愛らしい瞳は無邪気の一言、そして彼女は笑顔で言った。
『おなかが空いた鬼灯くんが水無月くんを連れて台所へ突撃したのだけれど、見事に返り討ちにあったのだわ! 今頃霜月くんは他の暦を引き連れて台所にこもっているのだわ!』
「え~~つまりそれって~~お団子セキュリティが愉快になってるってこと~~?」
 ウロが肩をすくめた。アーマデルがちらりと先程から部屋の隅に鎮座している水無月へ目をやると、彼は相棒のナナシの毛づくろいをしてやっているところだった。
「頭領がすまないと言っておこう」
「水無月ィ、自分だけ蚊帳の外と思うな?」
「俺は巻き込まれただけで、けっして邪な心は持っていない。ただ協力するからには報酬は欲しい」
「……しっかり片棒かついでるし……」
 そっといれた逢華のつっこみを水無月は涼しい顔で受け流している。
「ナナシがトラウマになるレベルのお仕置きを弥生から受けたので、次回の突撃に俺の索敵能力を期待しないで欲しい」
 水無月は、おおよしよしと涙目の鷹をさすってやった。よく見るとナナシは包帯だらけだ。
「そうなんだ。問題は弥生だ」
 鬼灯は咳払いをしてシリアスな雰囲気を醸し出した。
「知っているかもしれないが弥生はとにかく性格ひねくれまくってるやつでな、美しいものと同じくらい罠やら拷問やらが大好きだ。つまみ食いのために再襲撃をかければ嬉々として立ちふさがってくるのが目に見えている。第一回が失敗したのも、半分は弥生のしかけた罠が原因だ」
「残りの半分は何っすか?」
「霜月のお仕置き」
 それを聞いたジル・チタニイット (p3p000943)は遠い目をした。
「台所に立つ霜月ははっきり言って無敵なんだ。オカンの聖域だからな」
「ふんふん、状況を整理するっす。まず敵は霜月さんと弥生さんっすね。道中は弥生さんが仕掛ける罠が大敵で、台所では霜月さんに気づかれないよう立ち回らなくてはならないっすか。そうまでして忍び込まなくとも、夜まで待てば月見団子が食べられるのに何故奇襲にこだわるっすか?」
「つまみ食いって浪漫よな」
 全員、一発ずつ鬼灯のあたまをはたいた。

●敵もまた学習する
「なんだかいやな予感がするねェ」
 せっせと団子を作っていた霜月は胸騒ぎがして振り返った。広い台所の真ん中には大きな机、その上にどっさりと月見団子。小腹を満たすには足りるだろうが、暦とお客様全員をおもてなしするには足りない。
「頭領のことだから、絶対にもういちどしかけてくるよね」
 霜月は印を描いた手をくるくる回した。どろん、霜月と同じ姿の影がよっつ現れ、台所を周回しはじめる。
「よしっ、分身の術うまくいった。これで安心して団子作りに精が出せるよ」
 鼻歌を歌いながら霜月は新たな上新粉を練り始めた。

GMコメント

リクエストありがとうございました。遅くなってすみません。
今回は前半が戦闘、後半がスニークです。

やること
前半:弥生を倒し、彼のトラップ畑を半数以上がクリアすること
後半:台所にたどり着いたメンバーで計100個のお団子を盗むこと(参加者+章姫+水無月)リトライは3回まで

前半は広い部屋で弥生との戦闘です。罠によってファンブルしやすくなっています。

後半は霜月の目を盗み、こっそりお団子を取っちゃいましょう。名乗り口上とか間違っても使っちゃいけませんよ!
台所は横20*縦10*高さ3mとします。机がいくつか置かれており、他にも食器棚、調味料入れ、練達製冷蔵庫など身を隠す場所があります。霜月は基本的に見張りを分身に任せて団子を煮るのに夢中になっていますが、ちょくちょく振り返ります。一度に盗めるお団子の数はプレの内容に準じます。

見てのとおりゆるいです。ここは俺に任せて先へ行けってするほうがポイント高いかもしれません。

●友軍
水無月 鷹匠 ファミリアーと同程度のギフトを持つけど今回はナナシはおやすみ
 雰囲気スパイシーだけど超絶甘党 
 今回は至近肉弾戦がメイン 毒系BS及び麻痺系BS持ち ナナシと一緒に野山を駆け回るのでけっこうタフです
 攻撃、防御は低め、命中回避はハイレベル

●敵軍
弥生 前半ボス ドS 弱点は美しいもの ただしもぎ取られる危険性があるので注意☆ 信仰蒐集とか性的魅力とか危険が危ない あと女嫌い
 道中には、毒霧(猛毒)、トラバサミ(出血)、落とし穴(麻痺)、ペンデュラム(連)、飛び出す壁(飛)、三角木馬(魅了)、アロースリット(暗闇)、何故かある暖炉(炎獄)、バナナの皮(崩れ)、タライ(怒)、などなど、ファンブルしやすくなっている上に様々なBSが付与されます。非常に痛いだけで命までは取りません。ドSな彼を倒すか満足させるかしましょう

霜月 後半ボス 色んな意味で無敵 倒すのは無理 飛攻撃を受けると台所の外に吹き飛ばされリトライ リトライは3回まで
「もー、あなたって人は!」 火縄銃での攻撃 物中単・飛
「いいかげんにしなさァーい!」火遁の術 神中域・飛 ほら炊事が得意だからね

分身 後半モブ HP1
 侵入者を見つけると騒ぎ立て、霜月へ知らせます。霜月と五感が繋がっているわけではありません。

  • まんまるだと思ったか? ちょっと潰すのがコツだぜ!完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
逢華(p3p008367)
Felicia
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ウロ ウロ(p3p008610)
虚虚実実
二(p3p008693)
もうまけない
虚気 影踏(p3p008838)
逃げ出しチワワ

リプレイ

●VS弥生
「どうなってるんすかこの部屋は……」
 直後、章姫さん可愛らしいっすねうんうんとジルは現実逃避を始めた。なんせもう忍者っていうよりからくり屋敷かな? ってくらい罠だらけだ。
「……うれしいな、俺の美意識をわかってもらえそうだな」
「いやそういう話ではないっす」
 弥生の反応に現実に引き戻された。どう見ても首を刈ってきそうなペンデュラムがふーらふーらしてる部屋と美意識という単語が空中分解してる。
「た~~~~のしそうなことやってるね。な~に、ここ突破しなきゃいけないんだっけ、それでこんなに罠てんこ盛り??? 弥生クンもワルよの~~」
「……母上に頼まれたからだそうだ。どう改造してもいいとお墨付きももらったそうだ」
 辛うじて見えている目元が緩く弧を描いた。獲物を前にした猛禽の笑みだ。
「しょくじ。たべる、こと。おいしい。しった。おだんご。おいしい。きいた。」
 つまり、と二は団子を食べにきたとつぶやいたが。罠で田植えでもしてんのかよって感じの部屋を見渡して後ずさった。
「……。けど。まさか。こうなる、とは。」
 見えてる地雷原へ足を突っ込むバカはいない。いないが、いままさに自分が! 自分達が! それにならなくてはならない!
「母上の団子が食べたかったのだ、理由はそれで十分だ」
 ここにそのおばかさん筆頭がいる。
「みんなでいただきますしなくていいのだわ?」
「章殿、つまみ食いというのは罪と背徳でさらに甘さが増すのだよ。水無月もそう言っていた。な?水無月」
「ええ、まあ、そういうこともあるかもしれませんね」
「……水無月。あんたも狩っていいそうだな」
「やるか? 暦同士で私闘は禁じられているが、頭領と奥方の前なら御前試合にもなろう」
 静かに殺気をみなぎらせる両者。なんか置いてけぼりの鬼灯。
「いや、霜月ママお兄ちゃんのお団子は世界一と言っても過言じゃないけどここまでする?」
 罠の数に引きまくっていた逢華だったが、じゃあどうすんのと鬼灯から聞かれると……。
「参加? もちろんしますとも。だって面白そうだもん」
 暦直属部隊所属だけあって肝が太い。やはりこの娘も暦なのだなあと鬼灯は思った。
「月に団子、なんとも風流でいいねぇ……と思いきや食い気」
 武器商人は袖で口元を隠した。
「これはこれで面白いことになりそうだし、力を貸すとしよう……ヒヒヒ!」
「笑ってるけど、これかなりの難事件じゃないか?」
 アーマデルが思わず声をかけた。
「団子……米とか豆とかの菓子だよな? 豊穣はどれだけ米と豆が好きなんだ……? あと、『ちょっと潰すのがコツ』なのは団子であってヒトじゃないよな?」
「たぶんそうなのだわ!」
「……そうだといいですね奥方」
 相変わらず弥生は不気味なくらい機嫌がいい。そういえばとアーマデルは続けた。
「正座と簀巻きは慣れてるから大丈夫だ。何をやったか書いた板を抱えて正座させられて、通りかかったやつが罪状を見て、アウトだと思ったら膝の上に石板を追加していくんだ。詫び石配布って言うらしいぞ」
「……それ、楽しそうだ」
 懐から取り出した帳面に矢立で何事か書き付けてにたりと笑う弥生。水無月と鬼灯に鳥肌がたった。
「弥生に要らない知識を仕入れないでくれ頼む!」
「じゃあ鬼灯殿を下手人として差し出して御褒美をもらうのが手っ取り早そうだからその作戦で行く?」
「弥生に何されるかわかったものじゃないかあああああ!」
「そ、そうだよ! ……自分別に怖い思いしてまでお団子欲してなかったんだけど……うん、でもね? 聞いて欲しいんだ。……上司が敵に回った時点でたぶんなんか戦闘不可避な気がしたよね!! ならばいっそ敵に回って抵抗した方がまだいいよね!!」
「……影踏、立派になって」
 にたあ。
「ヒイイイイイイ! や、弥生班所属! 虚気影踏! 死ぬ気で抵抗します!!!」
 悲鳴をあげながら、影踏は前方へダッシュした。そんな彼の足元をトラバサミが捕える。
「あいたああああ!!」
 そこへ毒ガスが吹き付け、飛び出す壁が横から影踏をぶったたき、飛んで行った先にはペンデュラムが。ごりっと嫌げな音がしたと思ったら、別方向へ吹き飛ばされた彼は暖炉の中へ。なんでか5HitCombo! と頭上を文字が行き過ぎる幻覚を見た。
「い、いたい、う、グスッ、弥生さん遠慮なさすぎ! 部下がけなげに立ち向かってきたらふつうは手加減するもんでしょう!?」
「……愛の鞭」
「うわあああああああああん!」
 べそべそしている影踏に大天使の祝福がかけられた。痛みが飛んでも彼はしくしく泣いていた。
「ど、どうやら罠を組み合わせて攻撃してくるようっすね。これは凶悪っすよ」
 目の前で起こった惨事に震えるジル。
「ここで倒れないで気張って下さいっす!」
「たおれる。しない。ここまで、きたら。おだんご。ぜったい。」
 ニが足元の罠をその大きな『手』で足元の罠をひっつかんで持ち上げた。ばきばきめりめりめしょ。いっしょになってほかの罠が釣れる。
「なんかに似てるな、あれ」
「あ~~あれだ。サツマイモだ」
「みち。できた。いって。」
「「はーい」」
 二からうながされたアーマデルとウロはそれぞれ構えを取った。アーマデルは英霊を呼び寄せ、ウロはゴーグルをかけ不敵に笑う。鯉口を切った刃が宙を駆け、英霊の嘆きと怨嗟を乗せて二の持ち上げた罠ごと障害物を吹き飛ばす。さらにその奥にある木馬がウロの技巧に優れた精密な射撃で穴だらけになり、使い物にならなくなっていく。
「この調子で、うあっ!」
 突如足元へ現れたトラバサミにアーマデルは足をつかまれた。そのまま強い力でひきずられ、転倒する。トラバサミには鎖がつながっており、それは弥生の手元へ吸い込まれていた。
「あだだあだだだだ!」
 背中をだいこんおろしにかけられたような痛みがアーマデルに走る。
「アーマデルさん!」
 傷とBSてんこ盛りになったアーマデルへ、逢華があわててブレイクフィアーをかけた。弥生の至近距離まで連れてこられたアーマデルを守るため、ウロが援護射撃をする。それを手にした別のトラバサミでよけながら、弥生はアーマデルへ顔を寄せた。
「……綺麗な瞳だ。大きくて、澄んでいて……」
 ぞっとした次の瞬間、弥生の目が見開かれた。
「もらったぁ!」
 手刀がアーマデルへ蛇のように迫る。その手が強く弾かれた。視線の先をたどると、銃口がこちらを向いていた。
「へへ~~、こんな依頼でグロシ~ンはダメっしょ」
 ウロだった。アーマデルが目をえぐられる刹那、ウロの一撃が彼を守ったのだった。その隙にアーマデルは力づくでトラバサミから脱した。追いかけようと武器を構える弥生。と、その時だった。
 つんつん。
 誰かが弥生の背をつついたのは。いぶかしげに弥生が振り返ると、そこには逢華が立っていた。逢華は儚げな花のように頬を赤らめて上目遣いをすると、振り絞るような声で告白した。
「……弥生お兄ちゃんは逢華のこと、嫌い?」
「嫌いっていうか生理的に無理」
 即断即決!
「お兄ちゃんのバカあああ!」
 逢華がびんたしようとしたが、そこは弥生、身体をひねって乙女の一撃をかわす。が、そこまでだった。
「バ〇ス!」
 忍らしく気配を消し、忍び足で弥生へ近づいていた鬼灯が、これ以上なく忍者っぽくない叫びと共にキルザライトをしかけた。
「……う、目が目が」
「意外とノリいいな、弥生」
 目元をこすって視界を取り戻すと、弥生は鬼灯と対峙した。
「……何と言われても、母上からここを通すなと言われているそうなので」
「さて、時に弥生……俺の右腕に何が見える。そう、章殿だな?」
「……そうですが?」
「いいのか? 罠を作動させ俺を狩ろうとすると章殿も傷つけてしまうかもしれないぞ?? いいのか?? 貴殿が忠誠を誓う章殿を!! 泣かせることができるのか弥生!!!」
「弥生さん……痛いの駄目よ……」
 エンジェル! 降! 臨! 無垢な瞳が弥生を映す。が、弥生は小首をかしげた。
「……でも奥方。みんなでいただきますしましょうと母上からきつく言われているそうで」
「そうよね! それが一番よね!」
「寝返った!?」
「……というわけで」
 弥生が鎖を投げかけ、鬼灯をぐるぐる巻きにした。鬼灯だけ、器用に。
「……何も罠だけが俺の得物じゃないので」
「はなせー、弥生、はなせー!」
「……母上の命令の方が上位に位置するそうです、さて」
 弥生は残った武器商人へ顔を向けた。武器商人は見事に破壊された室内で、薄緑の六枚羽を広げ悠然と宙に腰かけたまま足を組んでいる。
「……ただ者ではないと思っていたが、ヒトではなさそうだ」
「さァねぇ。我(アタシ)もよく知らないんだよ。もっとも自分のことをよく知ってるなんて思いこみ、幻でしかないけれど」
「……美しい」
「お褒めにあずかり光栄だね。でももぎとるなら一思いにやっておくれよ、昔、翼をもぎかけで放置されて、その後治るたびにまたもがれたのは流石に痛かったし」
「……では遠慮なく、その髪もらったあ!」
 弥生のトラバサミが宙を舞う。それは鋏のように武器商人の雨露のように透き通る銀髪を襟元から断ち切った。
「なぁんだ、そんなものでいいのかい」
 目隠れ銀髪ショート(イイ……)になった武器商人が呆れたようにため息を付いた。次の瞬間、短かった髪は足元まで伸びていた。
「……なに?」
 いぶかしげに弥生が手に掴んだ銀髪へ目をやる。確かにそこにも刈り取った獲物はいるのだ。
 ざわり、武器商人の髪がさらに伸びていく。するすると意識を持つ蔦のように進んでいった髪は、ついに弥生を捉えた。
「我(アタシ)と遊ぶなら、我(アタシ)如きにバテさせられないようにお気をつけね? さもないと……我(アタシ)がキミで遊んでしまうかもしれないよ? ヒヒ……」
「……くぅ!」
 足元から這い上がった髪が弥生の全身を包む。苦しみもがきながらも、弥生はどこか恍惚としていた。美しいものに包まれるのが快感なのかもしれない。
「武器商人の人外ムーヴが出たよー!!!」
「今のうちー!」
 影踏と逢華が叫び、出口へ向かって逃げ出す。全員それに続いた。鬼灯以外は。
「あ、こら、俺を置いていくな! おい、お役立ちだぞ俺は、後半は特に!」
「それじゃちょっと失礼するっす」
 ジルが鎖をささっとほどき、鬼灯を救出した。
(うん、そりゃここは我(アタシ)に任せて先に行っておいでとは思ってたけど、ここまであからさまだとお団子10個じゃ足りないかもねぇ)

●VS霜月
「ふんふんふふん♪」
 ICV子〇武人こと霜月は上機嫌で団子を煮ていた。皿へ盛るために振り向いた霜月は、戸が開くのを目にした。
「こーら、頭領。つまみ食いは許しまへんえ」
「ちがうっすー。こんにちはっすー。宣伝も兼ねてご挨拶っすよ」
 ジルが顔を出した。その手には何かの詰め合わせを持っている。分身たちが騒ぎ出したのを手で制して、霜月は興味深そうにジルの手元を見つめた。
「それはなんだい?」
「紅茶セットっす! お団子には緑茶と相場が決まってるっすけど、紅茶もいいもんっすよー」
「紅茶かァ。それは盲点だったなァ。いくつか見せてもらっていいかなァ?」
「もちのろんっすよー」
 よし、引っかかった! ジルは後方へ目配せする。
「霜月お兄ちゃんのお手伝いをしに来たよ!」
 逢華が堂々と入ってきた。堂々としすぎていて霜月はなんの疑問も抱かなかった。
「それじゃァお手伝いをお願いしようかなァ。なにせ人数が人数だからねェ、まず頭領と奥方でしょゥ、逢華みたいに直属のぶんも作りたいしィ、慕ってくれる子たちのももちろん要るよねェ」
「うーんたしかに重労働だね」
「料理は好きだから苦にならないんだけど、食べ物には食べ時ってのがあるからねェ。手伝ってくれるならそれに越したことはないよォ」
「はーい、がんばりまーす」
 そこへまた現れたる人影。
「しもつき。かかさま。ほおずき、から。きいた。」
「ん? どうしたの二ィ」
「ひと、いう。かかさま。てつだう、べき。だから。かかさま、てつだい。きた。」
「おやニまで。今日は霜月さんゆっくりできそうだねェ」
「……。けど。にい、りょうり、できない。おにぎり。くらい? だから。かかさま。おしえて。おてつだい。なに、したらいい?」
「そうだねェ、まずは粉を練るところをやってもらおうかなァ。けっこう力仕事だからニにぴったりだと思うよォ」
「ちーす」
 ひょこっとアーマデルが顔を出した。
「小腹すいたんで邪魔しにきた」
「やァやァ、こいつは大所帯だ。見張りはいらないかなァ」
 霜月が指をぱちんと鳴らすと、分身が消えた。
「アーマデルちゃん、あんた冷蔵庫あさるのはいいけど、何を持ってくかは教えておくれねェ」
「心得た」
「素直でいいねェ。他の暦もそうだったらなァ。頭領とか頭領とか頭領とかさァ」
「なんだろう、普段の気苦労が身にしみてわかる」
 味方のはずの弥生からしてああだったもんなとアーマデルは遠い目。
「ところでその紅茶セットの説明聞いてもいいかなァ」
「はいはい。これはまず定番のセイロンティーっすね。飲みやすくてなんにでも合うっす。豊穣のお茶で言うとほうじ茶あたりのポジションっすね。それからこっちはみんな大好きレディグレイ、ミルクティーに合うっすけどストレートもいいっすよ。ちょっと飲み比べてみるっすか?」
「お願いするよゥ。お手伝いさんのおかげで手が空いてるしねェ。団子と合うかもためしてみたいしィ」
 小鍋で手早く湯を沸かし始める霜月。
(いまっすよ強奪班の皆さん!)
 死角を匍匐前進していた影踏が速度を増す。テーブルまであと少し。届いたと同時に膝立ちになり、鬼灯から渡された袋の中へ団子をガッとつっこんだ。そしてまた匍匐前進で撤退していく。
「ぴ、ぴああああああ、死ぬかと思った死ぬかと思った。暦の人たちみんなバケモンみたいな強さなんだもん」
「よくやったぞ影踏、少し休め」
「そうします頭領うううううううう!」
「影踏いいいいい! 気を確かに、傷は深いぞ!」
「ああもうむりぱたり」
 ここまで茶番。
 なんだかんだで弥生ゾーンを抜けられた影踏は士気軒昂、言うほど重症じゃない。あっ、でも霜月は怖いわ、やっぱ。
 てな感じでやってるうちにウロが忍び足で台所へ入っていった。別のテーブルの下へ入り込み、気配を絶ち身を潜める。
(霜月クンが分身消しちゃうとは思わなかったな~~。おかげでだいぶ楽になったかも。ほら、頭領サン、出番ですよ~~)
(心得た)
 真打ち登場。ヒーローは遅れて現れる。この場合団子泥棒だがそんなことはどうでもいい。
(さて、俺の本気を見せてやろう母上!!)
 年季の入った忍び足で敵地へ潜入。もちろん霜月には気づかれていない。ジルや逢華やニたちがうまいこと射線を隠してくれている。死角をつたい、中央のテーブルへ。こんなこともあろうかと用意していた小袋に少量ずつ、しかし確実に団子を詰める。袋が8分目ほどになったらいったん撤退。またも忍び足で台所の外へ戻る。
「ふっ、どうだ」
「やるじゃ~~ん、頭領サン特別に頭を撫でてあげようよちよち良い子でちゅね~~」
「ナデナデは要らん! さて、もう一度今の方針で行くか」
「オッケ~オッケ~。見張りは任せて実行は頼んだよ」
 鬼灯はウロや影踏たちと連携して着実に団子を盗み出した。二度あることは三度ある。三度あったら四度ある? いい感じに団子が集まってきた。だがジルからあらかた説明を聞き終えた霜月がふと眉を曇らせる。
「おかしいなァ。これだけ手伝ってもらってるんだからそろそろゴールが見えても不思議じゃないんだけどォ」
 ぎくっ。
 皆の心臓に霜月の言葉が刺さった。
「ほ、ほら、僕たちってば霜月さんみたいに手際よくないから!」
「にい。がんばってる。けど、うまく。いかない。」
 すかさず逢華とニがフォローを入れる。運悪くそんな雰囲気の中侵入していた影踏は、こそこそとウロと同じテーブルの下へ隠れた。
(見つかりませんように見つかりませんように見つかりませんように)
(さすがにビビリすぎじゃん??)
 そこへアーマデルが冷蔵庫の中身を持ってきた。
「これとこれ、あとこれ。これも」
「よく食べるねェ。アーマデルちゃん背ェ伸びるよォ」
「だといいな」
 そのすきにするりと入り込んだ鬼灯。目標達成まであと一歩。その一歩が、ついに彼の手により成し遂げられた!
「それじゃ撤収するっす。お邪魔したっす霜月さん」
「いやいやァ、紅茶セットありがとねェ」


 かくして、オンザ瓦屋根。夜風サラサラ。いい月夜。
 皆は成果を分け合っていた。
「ほれふぁ、はむふはーひはいっふふぇ?」
「ヒヒヒ、頬張っちゃって。あ、我(アタシ)はきなこがいいなー」
「おいしく。たべれたら。それが、いちばん。」
「やっぱり霜月ママお兄ちゃんのお団子が一番おいしいよ! でも頭領、あとで謝りにいこうね?」
「謝るとことが露見するからしない」
「黙っててバレた時の方が怖いよきっと……あああああ(カタカタカタカタ)」
 あくまで胸を張っている逢華と違い、団子を食ってんだか砂を食ってんだかわからない影踏。
 一方、英霊にそなえた団子をつまみ食いしているアーマデル、ダブルつまみ食いである。
「一足先にお月見ってのも悪くはないね??」
 ウロは両足を投げ出し、月を見上げた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!
皆様の献身のおかげでつまみ食いは無事成功。
霜月さんは「数があわない」とひたすら悩むはめになりましたとさ。
皆さんへ「つまみ食い共犯者」の称号を発行しています。ご査収ください。

またご利用をお待ちしております。

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