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シナリオ詳細

<幻想蜂起>狂った計画

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以来、レガド・イルシオンは不穏な空気に包まれていた。
 各地で頻発する猟奇事件、繰り返される惨劇……。
 原因は不明ながら、徐々に人々の心は荒み、燻る不満は燃え上がりつつあった。

「顔をあげろ、武器を手に取れ!」
「我らに自由を!」
「続け、続け! 奪われ続けた権利を取り戻すのだ!」

 指導者の檄に呼応して、わぁ、という喊声があちらこちらで上がった。
 市民が徐々に広場に集まり始めた。木材所の角材をあるだけ持って来たのか、老いも若きも、男も女も、手したそれを高く掲げている。今まで軍人たちにただただ追い散らされていただけの民衆が、何をきっかけとしたのか、逆に戦う姿勢に急変したのだ。
 もはや威嚇射撃ではすまされず、恐れをなした貴族軍は市民に向けて発砲を開始した。
 しかし、これが火に油を注ぐ結果となる。
 隣人を撃ち殺され怒り狂った民衆が、次々と馬から兵士を引きずり下し、手加減なしに角材をふるう。皮膚が裂け、骨が砕け、もはや人の姿を止めぬほどに打ち据えてなお、角材は振り下され続けた。
 ついに領主より、街に戒厳令が布告されて夜間の外出が禁止された。
 だが、まるで日没を待っていたかのように至る所で火の手が上がり、街は炎に包まれる。
 この暴動に参加した者は数千人。もうここまでくると、ほとんど「革命」に近い状況だ。
 動乱の中で、一般市民はおろか、いわば商人の中でもリーダー的立場にある人たちまで「今の世の中は変わらなくてはいけない」という気持ちを持つようになっていたのである。
「何もかも壊すんだ。まっさらな土地で一から始めよう、新しい人生を!」
 暴徒化した民衆は、貴族たちの屋敷を次々と打ち壊し、ついには領主館を焼き払う。そして――。
 汚れきったものをすべて押し流すため、領地の最奥にあるダムを目指し、ゆっくりと歩きだした。


 クラウス・シュタウフェンベルク伯爵は、招き寄せたローレットの情報屋を前にして、苛立ちを隠そうともしなかった。
「彼らはすべて自分たちが考えたことだと思っているのか。自ら立ちあがったと? ばかばかしい! これは私が考えた計画だったのだ。ただ――」
「ただ? ただなんです」
 情報屋クルール・ルネ・シモンもまた、目の前を行ったり来たりする貴族に対する呆れを隠そうとせず、鸚鵡返しに問い返した。
「こちらが送り込んだ扇動者たちが狂ったとしか思えん!」
「狂った? また、なぜ?」
「知るか! 大方、人々に祭り上げられて己に酔ったのだろう。嘘を誠にして英雄になるつもりだ」
 そんな単純な話しだろうか、とクルールはやや首を傾けた。
 人差し指で頬を支え、冷ややかなまなざしでシュタウフェンベルク伯爵の顔を見上げる。
「隣の領で暴動を起こし、民衆に領主一族を殺害させる……。俺には伯爵が送り込んだ連中はまともで狂っておらず、きちんと仕事をしているように思えますが?」
「そこで終わっていればな」
 民衆が領主館を襲撃したあと、扇動者たちは姿を消すことになっていた。リーダーを失った暴徒たちは早々に烏合の衆と化し、伯爵がさし向けた軍隊によってたやすく鎮圧されるだろう。あとは実効支配で隣の領地を我が物にする。それが伯爵の計画だったのだが。
「ダムが決壊すれば、我が領地にも莫大な被害が出る。とくに農作物に被害が。いまは押さえつけていられるが、飢えは人を凶暴にする。私の領地で暴動が起こることなど許されない!」
「左様で……」
 クルールはすっかりしらけ切っていたが、立ちあがると伯爵から報酬金の入った革袋を受け取った。


「連中はいま、ダムの真下に火薬が詰まった樽を大量に積み上げている最中だ。途中で脱落した者もいるが、それでもかなりの人数がいる。下流からダムに近づくのは不可能だと思ってくれ」
 イレギュラーズは山道を回り込んで湖からダムに接近するしかなかった。
 つまりダムの上からターゲットを見つけ出して接近、殺害しなくてはならない。
 しかも、今から出発すればどんなに急いでも到着は夜になる。ターゲットを見つけ出すのが難しい。
「まあ、そこは何とかしてくれ。で、殺して欲しいのはこの三人だ。彼らさえ殺せば、あとの連中はどうとでもなる……というのが伯爵の言い分だ」
 クルールは、伯爵がお抱え絵師に描かせた似顔絵を地図の上に並べた。
 暗殺対象は男二人に女一人。
 男のうち金髪がデューク、黒髪がリック。女はキャサリンという名だと説明する。
「三人は恐らくバラバラにいる。それぞれが屈強な男たちに取り囲まれ、守られているはずだ。それと、解っていると思うが……樽は絶対に爆発させるなよ。ダムが壊れたらお前たちも激流に飲み込まれてるぞ」

GMコメント

●依頼内容
・ダムが壊される前に、暴動の指導者、デューク、リック、キャサリンの三名を殺害する。
・シュタウフェンベルク軍が到着するまで、ダムが壊されないように手を打つ。

クラウス・シュタウフェンベルク伯爵は蜂起した市民たちに寛大な処置をとると約束しています。
大人しく解散すれば、焼けた街を再建し、無償で家を与えるとも言っています。
「暴動が自分の領地に飛び火することを恐れているようだ」とは情報屋の弁。

●場所
山間部にあるダム。ちなみに満水です。
放水は行われておらず、川の水位はかなり下がっています。
夜です。
曇り。かなり暗いです。

ダムからかなり離れた下流で、シュタウフェンベルク軍と一般市民が小競り合っています。

●殺害対象/三人の指導者たち
・デューク(金髪)……斧
・リック(黒髪)……剣
・キャサリン……弓

●指導者の取り巻きたち
指導者一人に3人ついています。
角棒や、肉切り包丁を持っています。
屈強な若者が選ばれており、肉弾戦になると苦労すると思われます。

●暴動を起こした市民たち
老若男女、数百人。
角材や松明を手にしています。
男たちの多くが爆薬の運び込みや、樽の積み上げなどに従事しています。
女や年寄り、子供は松明を持ち、人の盾になって貴族軍の進行を食い止めています。

●その他
ダムが破壊されれば、当然、河川敷を占拠している市民たちは鉄砲水に巻き込まれて溺れ死にします。
鉄砲水のスピードと破壊力は、通常の放水時とは比べ物にならないでしょう。
たとえ空を飛べたとしても、最初からかなり高いところにいない限り、ダムの崩壊に巻き込まれるのは確実です。
また、下流域の街や村にも相当な被害が出ます。

デューク、リック、キャサリンが何を考え、思ってダムを壊そうとしているのか解りませんが、あながち伯爵の見立ては間違っていないのかも……。
狂ったとしか思えない暴挙です。
彼らの説得は無理だと思ってください。
ただ、市民たちに関しては、大部分の人々が彼らに煽られて理性を失っているだけです。
指導者を失えばあるいは……。
伯爵としても未来の領民は多い方がいいとのこと。たっぷり税を絞り取れますし。

よろしければご参加ください。

  • <幻想蜂起>狂った計画完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月09日 21時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
リア・ライム(p3p000289)
トワイライト・ウォーカー
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
シルヴィア・エルフォート(p3p002184)
空を舞う正義の御剣
ダークネス クイーン(p3p002874)
悪の秘密結社『XXX』総統
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
ルア=フォス=ニア(p3p004868)
Hi-ord Wavered
鏡月 神威(p3p005104)
輝夜

リプレイ


「問題は、どうして彼らは『狂った』のか……よね」
 木の幹に手をついて、『トワイライト・ウォーカー』リア・ライム(p3p000289)は呟いた。ダム周辺の木々から、現場全体の雰囲気を感じ取る。下へ降りる道を確認するためだ。
 『悪の秘密結社『XXX』女総統』ダークネス クイーン(p3p002874)は黒々としたダムの湖面を眺めながら、偵察に出た仲間の報告を待っていた。
「狂気に当てられたか、歪んだ正義に暴走したか。どちらにせよ、ふざけたテロリズムを看過する事は出来ぬ」
 湖面はとても広く、辺りは静かで非常に美しい自然に囲まれているはずだが、それを堪能するには暗すぎる。空に月はなく、油絵のように重い雲が垂れこめていた。
 ひっそりと、『”死神”を背負わされたモノ』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)が闇の中で呟く。
「自由を求めるのは別に否定はせんがな」
 でもよ、と後を受けとって続けるのは『輝夜』鏡月 神威(p3p005104)だ。
「自らの意思で奮起したならいざ知らず、どうにも影響されて暴挙を起こしているようにしか見えねえんだよな」
 身を乗り出してダムの下に集まる群衆を見つめる目は優しくも鋭い。そこに隠れた悪がいるならば、必ずや暴き出して見せようと眼差し熱を込める。
 一方、『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は少々冷めていた。
「よし、さくっと殴って終わらせるぜ」
 どんな大義名分があろうとも、三人の指導者がこれからやろうとしていることは許されるものではない。たとえ誰かに操られてやっていることだとしても、だ。
 空のから敵場視察をしていた『空を舞う正義の御剣』シルヴィア・エルフォート(p3p002184)と『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)の二人が戻ってきた。
 仲間たちが周りに集まると、さっそく偵察の報告を始めた。
「報告します。まず、ターゲットたちの位置ですが、川の東岸にキャサリンとデューク、川の西岸にリックが取り巻きたちと一緒にいます」
 一班と二班はダムの東側から、三班はダムの西側から下に降りることになった。
「樽ですが、南側から見たところ三列、五段の高さまで積み上げられています」
 仮に火薬が詰まった樽が爆発すれば、ダムに大きな穴が空き、一瞬で河原にいる人々が激流に飲み込まれて溺れ死にしてしまうだろう。
「そうそう、キャサリンだけど積み上げられたタルのすぐそばにいるわよ。松明を持った一般市民がすぐ近くに何人もいて……彼女が点火の責任者みたいだって、水の精霊たちも言っていたわ」
 キャサリンの担当の一班は松明を持った市民にも気をつけてね、とユウが付け加える。
 ルア=フォス=ニア(p3p004868)は手すりから身を乗り出して下を確認した。
「おお、あれじゃな。たくさん明かりが集まっておるから、ここからでも解りやすい。……では、あの少し離れて台の上に立っておるのがデュークか」
 デュークの周りには肉切り包丁など、光りものを手に持った一般人が多い。デュークが三人のリーダーであるのは間違いないだろう。
「さすがに標的である扇動者3名の周囲は灯りが多いですね」
 同じく、下を見ていたリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が、人の動きから川の深さを推測する。
「リックは樽の運搬責任者みたいですね。リックらしき人物の指示で樽を担いで川を渡る人を何度か見かけました」
「ふむ。川はあまり深くないようでござるな。それでは、そろそろ参ろう。下流の小競り合いが大きくならぬうちに終らせるでござるよ」
 那須 与一(p3p003103)は弓筒の紐をしっかりと結び直すと、長弓を手に歩きだした。


 ダム横の急な階段をくだりきると、一班と二班はそれぞれターゲットの元へ向かった。
 一班はクロバを先頭に、辺りに気を配りながら人々の間を進んだ。
 三角を二つ上下に重ねた、いわゆる六芒星を赤布に黒く描いた簡素な旗が幾つもたてられていた。人々は旗を中心に小さなグループを作っており、口々に不満をこぼしているが、その目は暗く、松明の灯りすら映していなかった。革命を目指す者たちの集まりというよりも、まるで悪魔崇拝者の集まりのようだ。
 弓を手にした女を囲む屈強な男たちの傍まで近づくと、一行は立ち止まった。
(「しかし、気味が悪いでござるな」)
 与一はさりげないしぐさで背の後ろへ腕を回すと、矢筒から矢を一本、引き抜いた。矢がとどく距離をしっかりと計算しつつ、ターゲットを狙える位置へ移動する。
 ルアもまた銃を抜き、両手に構えた。辺りにまんべんなく視線を飛ばし、松明を持ったものたちの位置を確認していく。とくに、キャサリンに一番近い松明持ちは要注意だ。キャサリンに近づくようなら即、撃つつもりで引き金に指をかけて待つ。
 神威は合図を待つ間に、近くにいた街の男たちに魔眼をかけてみた。ターゲットの三人をそそのかした黒幕の正体に迫る何かが得られるのではないか、と思ってのことであったが……。
「ふん。革命だ、とぶち上げている割に、どいつもこいつも熱のない死んだ目をしてやがる」
 魔眼でその精神に迫ろうにも、どの心の外側にも粘っこい油膜が張っていて届かない。精神汚染という言葉が頭の中に浮かび、ご神体を握る手に力が入った。
 西岸で3度、立て続けに笛の音が鳴った。
 合図を受けて、クロバは全身から殺気を放つ。
 キャサリンの取り巻きが一斉に振り返った。
「死に往く覚悟がある奴だけ来い。――躊躇った瞬間がお前らの最期だ」
 取り巻き立ちが戸惑いの表情を浮かべたのは一瞬で、赤いマフラーを夜風にたなびかせる男を刺客と判断するやいなや、怒声を発して切りかかってきた。
「愚か者め」
 目にもとまらぬ速度で抜き出された鉄刀・夜鋼の肌は黒い雷を纏い、破壊的な恐怖の閃光となって取り巻き立ちの腹を切り裂いた。
 こいつらはただの鉄砲玉だ。知性が伴った勇気ではなく、むしろ愚かさゆえの無謀さで護衛に選ばれたのだろう。
 強い血の臭いに根源の恐怖を刺激されたか、いままで虚ろだった人々が次々と悲鳴をあげながら一斉に駆けだす。
 腹を押さえてうずくまった二人を跳び越えて、角棒を持った男がクロバに迫った。
「そやつの取り巻きになったのが運の尽きじゃ。死んだら恨めよ!」
 ルアの手元で稲妻が光り、一拍おいて雷鳴が鳴り響いた。鳥の名を冠した二丁のガンウォンドから雷撃が撃ち放たれる。
 雷は角棒を持った男の胸をつらぬいて吹き飛ばし、その後ろにいた一人の頭を焼いた。
「火を! 誰か火を!!」
 キャサリンが辺りを見回しながら、声をあげる。
「邪魔だ、どけ!」
 クロバが行く手を遮る人々を怒鳴りつけるが、人々は聞く耳持たずで、安全な場所を求めて勝手に走り回り続けている。
 与一はキャサリンに火を届けようと近づく男に狙いをつけ、弓を引いた。
 キャサリンが振り返る。
 二人は走り回る人々の間にほんの一瞬生じた空白で視線を合わせ、同時に矢を放った。キャサリンの矢は与一を外したが、与一の矢は見事に松明を持った男を射抜いた。
 男が倒れたのを見て、すかさず第二の矢をキャサリンに向けて放つ。
 放たれた矢がキャサリンの肩に突き刺さったその時――。
 一筋の火矢が与一の視界を横切っていった。次の瞬間、導火線を辿って火が樽へ向かって走りだす。
 キャサリンは肩から矢を引き抜くと、火と反対方向へ走りだした。
 クロバは導火線の火を消そうと走りだしたが、歯を食いしばりながら肉切り包丁を掲げた男に前を遮られた。舌打ちして、切り伏せる。
「ルア!!」
「任せよ!」
 ルアは銃で導火線を狙い打った。二度目の発射で導火線は途中で切断され、火は立ち消えになった。
 逃げ惑う人々の間を、キャサリンを追って神威が駆け抜ける。走りながら、ご神体の力を借りて魔力を飛ばし、華奢な背を撃った。
 弓使いは前のめりになって地面に倒れた。体を返しつつ、近くに落ちていた肉きり包丁へ手を伸ばす。
 与一が矢を放ち、キャサリンの手が包丁をつかむ前に地面に刺し止めた。
「見逃して……」
「残念、俺はジョーカーだぜ」
 神威はキャサリンの胸倉をつかんで起こすと、まっすぐ目を覗き込んだ。
(「誰だそこにいるのは。操り人形を使って、裏で糸を引いているてめえのことだよ」)
 内心で呼びかけると、キャサリンの心のひだをかすめて禍々しい異形の影がゆらりと現れたような気がした。それはあっという間にキャサリンの心の底に沈んで溶けてしまった。
 見たわけではない、だが、確かに神威は魔物の気配を読み取ったのだ。
「逃げたか……。だが、許さねぇから覚悟しな。臆病者にはてめえの最悪のエンドを見舞いしてやるよ」
 リーディングが解かれるタイミングで胸倉をつかんでいた手が緩められるや、キャサリンは左手ひとつで神威の胸をつき飛ばした。地面から刺さった矢ごと手を持ち上げ、立ちあがる。
「――逃がさねぇよ。アンタはここで殺す」
 追いついたクロバが剣を振りぬくと、キャサリンの胸の上で血の花びらが散った。


 壇の前に三人の屈強な男たちが並んでいる。
 デュークは斧を手に、人々の視線が集まるまで黙って壇上に立ち続けた。十分に注目を集めたと判断して、口を開いたその時―。
 突然、笛の音が聞こえ、続いてダム壁面で悲鳴が上がった。
「なんだ!?」
「狂った正義に市民を巻き込む、後先考えぬ阿呆共め! このダークネスクイーン、容赦せぬ!」
 壇の後に回っていたダークネスは、合図とともに階段を駆けあがり、躊躇うことなく暗闇の衣を纏った刃重なりの得物をデュークに振るった。
 視力を奪われ、倒れたデュークを取り巻きの一人が腕を伸ばして壇から降ろそうとする。
 リースリットが横から接近し、魔力を注ぎ込んで殺傷力を高めたレイピアを男の肩につき刺した。
「私たちの邪魔をするなら排除します!」
「何者だ!」
 周りにいた他の男たちがリースリットを囲んで凄む。その間に肩を刺された男はまたしても壇上に腕を伸ばした。
「邪魔をしないで、って言ったわよ」
 ユウは取り巻きたちに向けて弓を引いた。矢が夜気を貫く際に水分が凍りつき、無数の刃となって彗星のような尾を作る。
 矢は凄む男たちを仰け反らせ、デュークの襟首をつかんだ男の鼻先をかすめるようにして流れた。直後、氷刃の尾が男の腕を切り刻むと、男は悲鳴を上げてデュークから手を離した。
 斧をデタラメに振り回しながら、デュークが立ちあがる。
「成敗!」
 ダークネスは上段に構えたダーク・ミーティアを振り下し、扇動者のリーダーを一刀両断にした。
 血しぶきをあげながら壇の上から落ちたデュークを見て、群衆は怒りを爆発させた。怒声と悲鳴を上げながら、壇に押し寄せてくる。
「リースリット、こっちへ。壇に上がるのじゃ!」
 ダークネスが伸ばした手を掴むと、リースリットは壇に上がった。ユウは風のエレメンタルの力を使い、人波に飲み込まれる前に空へ飛びあがった。
 イレギュラーズたちがひとまず安全を確保すると、取り巻きの男たちと、怒りで目がくらんだ人々との間で殴り合いが始まり、けんかになった。たちまち、壇の回りは大混乱に陥った。
「大変、このままでは危険です。勢いのまま、民衆が壁際に積み上げられた樽を崩しでもしたら……」
「爆発せずとも危険じゃな。よし、我によい考えがある」
 ダークネスは顔をあげると、ユウを呼び寄せた。
「上から壇上回りの人たちを威嚇して遠ざけられるか?」
「取り巻きの男たちを射抜けば、周りが怯んで引いてくれるかもね」
「頼む。その間に我とリースリットでデュークの死体を上に担ぎ上げる」
 ユウは頷きを持って返事とすると、再び空へ舞いあがった。
 互いの髪をつかんでは地面に倒し、激しく動く男たちの中から、取り巻きたちに狙いを定めて次々と矢を放つ。
 男たちが倒れると、周りにいた人々が驚いて下がった。その隙にダークネスとリースリットは壇から飛び降り、デュークの死体を両側から担いで押し上げる。
「――で、どうするんですか?」
「こうするのじゃ」
 ダークネスはデュークの死体の脇下に肩を入れて立ちあがった。
「ものども聞け! 茶番は終わりじゃ。いい加減、目を覚ませ! この男は貴様らを騙し、殺そうとした。良く考えてみよ、ダムが壊れれば貴様らも巻き込まれて死んでしまうのだぞ!」
 一斉に民衆が腰を落とした。それはとても芝居がかった様子で、まさしく糸を切られた操り人形のようであった。壇にいるイレギュラーズたちを見上げる顔はみな、一様に呆けていた。


 川を挟んで西側では、重そうな樽を担いだ逞しい男たちが下流から次々とやって来ていた。集まっている人々の数は東側よりも少ないが、明らかに荒事になれていそうな者たちばかりだ。
 柔よく刚を制する以外にはないと思い、静かに「ごめんなさい」と謝りつつ、三人は群集をかき分けながらターゲットに近づいていった。
 リアはリックを取り巻く男たちの近くにいた、松明を持つ男に声をかけた。
「ちょっと、火を貸してちょうだい。消えちゃったの」
 男が振り返り、リアが差し出した松明の先に火を近づける。
 取り巻きの一人が顔をリアたちに向ける。
「ありがとう」
 リアは火をつけてくれた男ににっこりと笑いかけながら、背の後ろに隠し持った楽器――笛をさっと前に回わし、短く三度吹いた。
「おい、女! いまのはなんのまねだ!?」
 鬼の形相で駆け寄ってくる取り巻きを、横から飛び出した一悟がトンファーで殴り倒す。ぶっ倒れた男の胸倉をつかみ上げると、今度は背負い投げにして、後追いして来たもう一人の取り巻きにぶつけた。
「おらっ! さっさと目を覚ませってんだ!」
 たちまち、イレギュラーズたちは目を血走らせた男たちに囲まれてしまった。 
「命が惜しくば道を開けなさい。私達の目的は――」
 シルヴィアはブレシッドソードの切っ先を、前を阻む男の胸に突きつけた。
「指導者のみです」
 男は一瞬、怯んだもののすぐに気力を取り戻し、担いでいた樽を投げた。
 シルヴィアは体を折って樽をかわした。
「ま、大人しくいうこと聞くわけがないよな」
 一悟がトンファーを鋭く振りぬいて、男の喉を潰した。どうっと倒れた男の後ろに、肉切り包丁を振り上げた男が――。
「邪魔よ。さっさとどきなさい」
 リアのマギ・リボルバーから放たれた魔弾が、男の額に大穴を開けた。
 戦闘開始の合図から者の数秒で、辺りは騒然とし、大混乱を極めていた。樽を投げ捨てて逃げたす者もいれば、リックを守ろうと素手で駆けてくる男たちもいる。老人や女、子供の大半が下流に出向いているのは幸いだ。
「シルヴィア、行って! この連中は私と一悟が止める」
「おう! 魔眼が利くかどうかわからねえけど、連中を大人しくさせたらすぐ加勢に行く。だから先に行ってくれ!」
 シルビアは群衆の相手をリアと一悟の二人に任せると、倒れた男を跳び越え、川を渡ろうとしているリックを追った。
「逃げるのですか、卑怯者!」
 リックはびくりと背中を震わせて立ち止まった。剣が鞘を滑る音が、水音を切る。
 川の真ん中で、膝まで水につかり、二人はたがいに剣を構えて対峙した。 「オーダーは貴方の殺害。恨むなとは、言いません」
「く……くくくっ、同じ血で穢れた者同士。お前も狂うがいい」
 押し殺したような、不自然というより気色の悪い声だった。
 リックが発する人であって人でない禍々しいオーラに触れて、シルビアは両足から血の気が引いていくのを感じた。
 その一瞬の隙をつかれる。
 シルヴィアはリックの切り込んで来る剣を受け損じ、左の類から顎へかけて微傷ではあるが一太刀浴びた。
「お断りします。正義を成すには、時に命を奪う事も必要だと、教えられました。ええ……躊躇いはありません」
 再びリックが剣を振るいおろす。
 初太刀は大抵受けられるが、後の先といってすぐの斬返しにまで備えるのは余程の腕が要る。だが、シルヴィアは何とかリックの攻撃を受け止めると、その反動を利用して強烈なカウンターを見舞った。
 ばしゃり、と派手に水しぶきを上げて、リックは川に背中から倒れた。
 起き上がりざま、駆けつけて来た一悟から顎にアッパーを喰らってまた水中に沈む。
「おい、なんで雇い主を裏切った? だいたいダムが壊れたら困るのは、お前たちが率いている人々じゃねぇか。わけがわかんねえぞ、いったい、何が目的なんだ!」
 リックは川の中で上半身を起こすと、胸に蠢く黒い衝動を声に変えて笑った。
「ねえ、貴方。リック。もしかして『シルク・ド・マントゥール』の公演を見に行かなかった?」
 銃で狙いをつけながら、リアが聞く。
「見たよ。ああ、見たとも。素晴らしい公演だった。お前たちも見ただろ、あの――」
「ありがとう。それを聞けば十分よ、さようなら」
 リアは引き金を引いた。


 ルアは夜道を馬で駆け、下流に三人の扇動者たちを討ち取ったことをシュタウフェンベルク軍と群衆の双方に向けて告げた。その上で、シュタウフェンベルク伯爵の恩赦と施しを約束し、解散させる。
 扇動者の一人、リックの死体が川を下って流れてきたのは、その時である。悪夢から目覚めた人々は、流れていく死体には目もくれなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

成功です。
集まった群衆の中に多少、犠牲者が出ましたが、大部分の人々がかかっていた洗脳を解き、無事に解散させることができました。
これもイレギュラーズたちの活躍のおかげです。

ご参加ありがとうございました。

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