PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔女シュエットと硝子の靴

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●魔女シュエットの寓話

「麗しい小鳥。空を飛びたいと云ふならば、その足を喪っても良いと云ふのですか」
 姫君に、魔女はそう言った。
 コントラルトは悍ましく。背筋を撫でては離れていく。吐息のような、指先。
「ええ、ええ。この足も、この声も、あなたへとあげましょう。一度で良いからこの空を飛びたいのです」
 ならばと魔女は姫君に魔法を掛けた。午前0時の鐘の音が鳴り響いたならば、その時にその指先は地を蹴り空を飛ぶでしょう。
 けれど、気をつけて。あなたの大切なものがひとつ喪われてしまうのだから。

 ――硝子の靴を鳴らして地を蹴って、プリンセス。


 天義貴族シャリエール家の主催する大舞踏会。煌びやかに飾られた会場内には色とりどりの華が紳士の手を取り優雅に踊る。今宵はシャリエール家の姫君ナディアのデビュタントであるそうだ。
 長らく姫君が生まれなかったシャリエール家ではナディアは大層可愛がられている。イブニングドレスも新たに仕立て、今宵のために装飾具から化粧道具まで新調したそうだ。フィエスタ・ローズの巻き毛にやや釣り上がった冴えたインディゴの眸の姫君は父君にも「盛大なパーティーを」と強請ったらしい。シャリエール家より大量に配布された招待状を手元に並べてから『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は「魔女シュエットの寓話、はご存じでしょうか」と首を傾いだ。
 元聖女――天義出身である彼女は『教育』の中で貴族達の事や其れ等の好む寓話や伝説には精通しているのだそうだ。
「この寓話をなぞるように、奇妙な噂があるらしいのです」
 魔女シュエットの寓話は『自由を求めた貴族の姫君が魔女と取引をする』というストーリーで展開される。有名な寓話であれば人魚姫などとも類似しているそうだが――最後、魔女は姫君に自由を与えるために彼女の手にナイフを握らせて、0時の鐘と共に『大切な人』を殺させるのだという。それこそが、彼女の心を縛る愛という戒めから自由にするという理由を添えて。……天義では『知らない人のことは信じちゃいけません』という戒めとして幼子に教えられている。
「午前0時の鐘が鳴ったら硝子の靴を履いた姫君がこの舞踏会の参列客を皆殺しにしてしまう、と。
 ……根も葉もないうわさだと切り捨てることは、容易なのです。
 けれど、どうにも居心地がわるいのです。『誰か』がそうするために『硝子の靴の姫君』を準備しているのではないかと」
 例えば、魔種の手によるものやマジックアイテム、その類いの効果である可能性もある。
 その噂も『此度の舞踏会での予告』のように立っているというのだから、違和感が拭えないとエルピスは言った。
 硝子の靴はその足先から離れれば効力が離れる。硝子の靴の姫を探し出し、その靴を彼女から奪ってきて欲しいと言うのが今回のオーダーだ。
「みなさんがもしも良ければ、この舞踏会に参列して欲しいのです。
 ええと……私用のドレスやタキシードがなければ、ローレットがご準備させていただけるとのことです」
 美しいレェスを重ねたドレスやきちりと誂えられた燕尾服。靴に装飾品に至るまで、大舞踏会に参列するのに可笑しくないように準備をしようとエルピスは提案した。
「シャリエール家は、ナディアさまを大層可愛がられています。
 彼女のデビュタントである舞踏会をローレットに台無しにされたとお怒りになられるのもとても困ったことになると……そう思うのです」
 だからこそ、舞踏会に似合う服装で潜入しろと言う事だろう。ドレスの下に隠された『硝子の靴』を探し出し魔女の呪い――午前0時の鐘までに回収為て欲しい。
 勿論、舞踏会を台無しにする事が無いように注意を行って欲しいと付け加えて。
「……その硝子の靴が『魔女シュエットの寓話』をなぞらえて用意されたものなら……屹度、『魔女』はどこかにいるのでしょう」
 不安もありますが、とエルピスは指先を汲みイレギュラーズに「神のご加護があらんことを」と小さな祈りを捧げた。

GMコメント

 EXリクエストでご縁頂き有難うございます。部分リクエストです。

●成功条件
 魔女に呪われた姫君の硝子の靴の回収

●失敗条件
 午前0時までに靴を回収できない

●シャリエールの大舞踏会
 一人娘ナディア嬢のデビュタントのために開かれる豪勢な大舞踏会。午後9時から開会されます。
 天義の貴族の皆さんは招待状は送付されてきています。そうではない方はエルピスが用意した招待状で潜入可能です。
 煌びやかな舞踏会は豪奢なシャンデリアが照らし、オーケストラが奏でる音楽と共に優雅に進んでゆきます。外周部分にはぐるりと立食形式の食事が置かれており、シャンパン等を片手に貴族達は楽しげに語り合っているようです。

 ナディア嬢のデビュタントを台無しにした場合はシャリエール家から大バッシングが飛んでくる可能性があるのでご注意を……。
『硝子の靴』探しは非戦闘スキルや戦闘スキルは勿論のこと、ダンスや会話などの様々なアプローチを行っていただけると思われます。

●『硝子の靴』
 魔女シュエットの寓話の硝子の靴。ソレをなぞらえた本当の呪いのアイテムです。
 舞踏会の参列者である『一人の令嬢』がその硝子の靴を履いています。
 悪しき気配をさせるほか、珍しい硝子の靴であることもありダンスなどの工夫で見つけることは容易でしょう。
 どうやって脱がすか……は皆様にお任せ致します。口八丁か、戦闘か、全ては皆様次第です。

●装い
 ローレットから準備させていただきます.どのようなお洋服かご指定がある場合はプレイングにご記載下さいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

どうぞ、宜しくお願い致します。

  • 魔女シュエットと硝子の靴完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月22日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
※参加確定済み※
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
※参加確定済み※
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
※参加確定済み※
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
※参加確定済み※
アマリア オルコット(p3p005451)
宵闇の聖女
レオ・ローズ・ウィルナード(p3p007967)
青に堕ちる
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に

リプレイ


 煌びやかなシャンデリア、喧噪の中にドレスのフリルが揺れる。美しき天鵞絨にシルクのテーブルクロスの上で鎮座するワイン。今宵はシャリエール家の姫君ナディアのデビュタント。寵愛受けた籠の鳥が社交界(せかい)へ羽ばたく第一歩の日。
 その日に似合う服装で無くては招待状も効力を失ってしまう。まじまじと見詰めて『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)が選び取ったのはサテンのベルベッド。何時か見たアーベントロート卿が選んだ美しき紅色のパーティードレスを『真似』た彼女の髪を結い上げ、仕立てるのは『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)。
 青の差し色が入ったミントグリーンは裾に青と白の花と蔓を踊らせて。青いブローチと、髪へと『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)からの愛の徴、奇跡の青。
「素敵な青薔薇有難う」
 にこりと微笑む彼女と同じ奇跡をその胸元に飾り、黒いベストに銀のシャツ、白いタキシードに合わせた白い手袋、袖口には妻と同じ花と蔓を踊らせたアークライト卿は美しく微笑む妻に「似合うよ」と穏やかに返す。
「パーティー、か」
 ぱちり、と瞬くのは『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。子供らしく可愛らしい、ピンク色のチュールをあしらった可愛らしいドレス。派手すぎない程度に宝石をちりばめた可愛らしい靴でとんとんと爪先叩けば見目麗しき令嬢だ。ぬいぐるみを抱き締めて、幼い子供をイメージさせれば『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)が「愛らしいよ」と笑み零す。その胸元はサラシで潰し、男性の衣服に身を包めば麗しの王子様の完成だ。
「折角のパーティーだけれど、仕事だね。硝子の靴、童話にでてきた自由の象徴と言えば聞こえがいいけれど……そんなものを呪いのアイテムにしてしまうなんて!」
 ああ、と頭を抱えたラクロスに『魔女シュエット』の寓話を読んでいたエクスマリアは頷いた。『呪いのアイテム』とはこの聖なる国には余りに似合わない。
「お姫様が幸せになれない御伽噺は好きじゃないんだ、ハッピーエンドに変えちゃおう!」
「うん。タイムリミットは0時。それまでに任務を果たさないと、ね」
 黒のテイルコート。ジャケットとパンツ以外は清純の象徴、白を纏い、白い蝶ネクタイの位置を調整しながら『青に堕ちる』レオ・ローズ・ウィルナード(p3p007967)は静かにそう言った。
「悪夢なんて見せさせやしない。夢を見るなら、楽しいほうがいいでしょう?」
「そうですね……夢……ふふっ、夢ならばとびきり素敵なものをご招待できるのですが……」
 ぺろ、と舌を覗かせたのは『宵闇の聖女』アマリア オルコット(p3p005451)。その『本来の姿』は今はひた隠し、濃い金髪を結わえ上げ、金の刺繍を飾った紫のドレスに身を包む。
「『魔女シュエット』……『魔女』の目的は何なんだろう……?
 この舞踏会を台無しにすること……? それともただの嫌がらせ……?」
 シャリエール家の姫君と言えばその溺愛っぷりも有名だ。だが、それ故に『そうした事情でデビュタントを邪魔する』とは考えにくいと『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は悩ましげに呟いた。
 ライトグリーンのシンプルなドレスには鮮やかなリボンとコサージュの花を飾った。あくまでもメインはナディア嬢であることを意識しながら招待状を片手に立ち上がったアレクシアはふと、介添えとして案内していた『聖女の殻』エルピス (p3n000080)を振り返った。
「よければ、いくつかサイズ違いのドレスを借りても良いかな?」
「……はい。ローレットの倉庫にも、いくつか、有ったと思います。馬車にお積みしますね」
「有難う!」
 何に使うの、とは問わなかった。時計の針がかちり、かちりと音立てる。ヒールが音立て馬車の車輪が回り出す――まるで、運命が流転するように。


「魔女とガラスの靴ねぇ……回りくどいことをするなんて魔女らしいといいますか。
 まあここでの私は敬虔なシスター。無事に靴を回収できれば神はお怒りにはならない事でしょう」
 うっとりと笑みを浮かべたアマリアが見上げるのは美しき此度の会場であった。デビュタントの為に一層手入れされた屋敷のホールは広々としている。敬虔なる神の徒のヴェールを脱ぎ、着飾ったアマリアはくすりと笑みを浮かべた。ホールの中央では聖母が祝福するように佇んでいる。
「……その為にも私達が努力するだけの事。……まぁ、神なんていればの話、ですが……」
 唇にうっとりと乗せる。この神の国なれば『神の怒りに触れる』事なきようにという『脅し』は十分な効果を発するだろうと周囲をきょろりと見回した。
 息を潜めるように、靱やかに広間へと滑り込んだレオは運を味方に硝子の靴を見つけ出したいと遠巻きに出来た淑女紳士の輪を眺める。仲間達が挨拶に向かう姫君ナディアは今宵の主役である事を堂々と誇らしげにそのかんばせへと貼りつけていた。
 ゆっくりとリゲルを伴い歩み出たポテトは「ご機嫌よう、ナディア様」とカーテシーの礼を取る。
「今宵はお招きいただけ光栄で御座います。ナディア様のデビュタントをお目にかかれたこと、嬉しく思っておりますわ」
「まあ、アークライト夫人ではありませんか。それに、アークライト卿も。
 ふふ、お噂はかねがね。どうか、のんびりとなさって下さいませ。『お忙しいでしょう』から」
 その響きに僅かな『意味』が込められていることにリゲルも、そしてポテトも気付くが笑みは崩さない。ローレットを羨む令嬢は少なくはない。特にナディア嬢になれば寵愛を受ける分、束縛も激しく両親が過保護なのだろう。陰った笑みにリゲルは「また、のんびりとお話を致しましょう、ナディア嬢」と微笑みを返した。
「友人をご紹介しても?」
「ええ。アークライトご夫妻のご友人でしたら喜んで」
 ナディアの言葉に頷いたリゲルがそっと前へと案内したのはエクスマリアとアレクシアであった。
「こんばんは。エクスマリアです。今日は兄と共にナディア様のデビュタントをお祝いしに参りました」
 常と違いハキハキした様子で、そして『子供っぽく』エクスマリアは振る舞う。無表情は維持されているが、それでも楽しげな雰囲気にナディアはくすりと微笑んだ。
 カーテシーを取った彼女の足下の煌めく靴。ナディアは「素敵な靴ですわね」と彼女の自慢を褒め称える。
「とっても素敵な靴を、いただきましたの。こんなに素敵な靴、他には魔女の硝子の靴くらいじゃないかしら」
「そういえば、魔女の御伽噺の『硝子の靴』を何処かの令嬢が履いてきていると噂になっていましたわね」
 ナディアの言葉に見たい、とエクスマリアの眸が煌めいた。挨拶を一つ、アレクシアは「本当ですか?」と笑みを浮かべる。
「実は……服飾関係の仕事をしているのです。それで、噂の魔女の寓話の靴を是非一目でも見てみたかったのです」
 にんまりと微笑むアレクシアにナディアは「令嬢の皆様もきっと、靴なら見せてくれますわ。私も今度は硝子の靴にしようかしら?」とくすりと笑って「はしたないかしら」とこそりと靴を見せてくれる。ヒールの部分に天使の羽を描いた可愛らしい靴だ。
「素敵な靴ですわ」とエクスマリアが微笑めばナディアは満足げに「ソレでは、楽しんで」と挨拶へと歩んでいった。
 ダンスを楽しみながらアマリアとポテトは硝子の靴を探し続ける。適度に応じ、怪しまれないようにと舞踏会に馴染む二人の様子を遠目に、ルル家はきょろりと周囲を見回した。
「ごきげんよう。噂で、ガラスの靴をお召になった方がいると聞きましたがご存知ありませんか?」
 にこりと微笑んだ。前髪で片目を隠し、鮮やかなエメラルドを煌めかせるルル家はうっとりとしたように硝子の靴へと思いを馳せる。
「まあ、硝子の? まるで寓話の姫君みたいですわね」
「ええ。ええ。でしょう?
 それで……少々はしたないのですが……お話みたいで素敵と思い、一目拝見出来ればと思いまして」
 あの、寓話が好きなのですとシュエットの話をするルル家にデビュタントに集まった女性陣は「わたくしも」と賛同する。どうやら先程のナディアとの話が広がったのか令嬢達は靴の自慢を始めた様に見受けられた。


 シャンパンを片手に周囲を見回した。ダンスの相手を探し、そして今宵の華を愛でるラクロスは赤間の合図を待ちながら、硝子の靴の『お姫様』の行方を捜し続ける。
 レオは貴族の輪には入ることは無く、バルコニーで調香を、と。そうと混ぜ合わせた甘く擽るそれは舞踏会の女性たちの雑踏と香水の中でも一層に美しい。硝子の靴を好む軽やかな女性ならば屹度この様な香りが好ましいだろうかとぽとり、と落とした雫には気疲れした青年達が周囲を取り囲むようだった。
 ラクロスの視線がレオのちらり、と見遣った。心地よい香りがバルコニーから漂ってくるが、令嬢達は靴談義に夢中であろうか。
「麗しきお嬢様……この夜の出会いに感謝を。よろしければ、一曲躍って頂けませんか?」
 にこりと微笑むリゲルが令嬢を『誘い出す』。それを見詰めて一斉にイレギュラーズは持ち場に着いた。
 ワインを片手にとったラクロスの傍ではエクスマリアがちょこりと『兄と一緒に来た妹』を演じ、その舞台を整えやすくするためにアマリアとレオは周囲の人間を遠ざけるようにパフォーマンスを演じる。
 商人の娘であり、此度は『服飾関係者』としての立ち位置であるアレクシアはトレンドや簡単な知識を活かして聞き込みをしていた結果が実ったと胸を張り、更衣室の準備を整えた。
「とても素敵な靴ですね。繊細な美を伴う貴方によく似合っておられます。この靴はもしや、硝子製なのですか?」
 リゲルの合図を受けて、ルル家は眸をきらりと輝かせる。「これが『魔女の硝子の靴』ですの?」と見ることが出来て喜ばしいと言わんばかりに近寄れば令嬢は「素敵でしょう?」と胸を張った。
(……何処かから『魔女』の言葉に反応したものが居るようですが……拙者達の前には『出てこない』のか……はたまた……?)
 貴族の中にも未だ『過去のいざこざ』を抱えている者も居るだろうかとルル家は確かめるように令嬢と靴の話をしながら歩み出す。
 リゲルが「良ければ友人の妹にも靴を見せてやって欲しいのです」と令嬢をエスコートすれば、エクスマリアが「硝子ですわ、お兄様」とラクロスの袖をくい、と引く。
「あ」と小さく声を漏らし、『シャンパン』がぱしゃり、と令嬢――アリアドネのドレスへと掛かる。
「申し訳ない、素敵なドレスと靴を汚してしまった……。すぐに変えを用意させるよ。濡れたままでは気持ちが悪いだろう?」
「無礼を働き大変申し訳ありません…貴方の美しさに見とれ、つい足元が疎かに」
 二人が頭を下げれば「お気になさらず」とアリアドネは肩を竦める。すかさずラクロスは「アレクシア」と『自身のお抱えの商人』を呼ぶようにくるりと振り返った。
「お兄様が、ごめんなさい。お詫びに代わりのドレスを用意するわ」
「代えの……?」
「ああ。アレクシア。すまないが彼女にドレスとシューズを用意してくれるかな」
 アリアドネをエスコートしながら、エクスマリアと共にアレクシアは「よろしければ姫君のお好みのものを」と更衣室に並べたドレスを選ぶように促した。
「折角の硝子の靴ですが、もしもよろしければドレスに似合うものにしては?」
「けれど……」
「とっても綺麗な硝子の靴だけれど、きっとこっちもよく似合うわ。だめ?」
 靴にはこだわりがあるのだというように『妹力』を発揮するエクスマリアにアリアドネは「お二人の見立てで選びます」と微笑んだ。
(……この人はもしかしたら知らずにガラスの靴を履いてるんだ。それなら、最後まで楽しんで欲しいじゃない!)
 アレクシアとエクスマリアが上手く硝子の靴を奪取しているその間に、レオは更衣室に不審者が向かわぬようにと注意を向ける。
「貴方に似合う香りをボクに作らせてくれませんか?」
 更衣室の扉に手を掛けようとした令嬢はレオの言葉にびくりと肩を跳ねさせる。凜とした大人の女性の香り、それでいて何処か少女のような幼さを感じさせたそれとはまるで真逆な赤毛の娘――彼女はレオに「まあ、素敵ですわね」と微笑んで足早にホールへと戻っていく。
 アマリアは「何だかおかしな人が居ますね?」とこそりとルル家へと耳打ちした。
「ええ……顔色が変わった。『硝子の靴』の事を知っているのでしょう」
 頷く。ドレスを揺らして歩み寄るルル家をエスコートするようにリゲルは「お手を」とそうと声を掛ける。まるで其方に『焦る人物』が居る事を知らないとでも言うように歩み寄ったルル家はそう、と傍に立っていた令嬢を――ナディアの友人だという姫君を覗き込んだ。
「硝子の靴見つかりましたの。先程はお話を聞いて下さって有難うございます」
「……そう、ですの」
 そっと背を向けた彼女にリゲルはにんまりと微笑んだ。その言葉に、令嬢は走り出す。
 まるで0時に怯える寓話の姫君のように――
「硝子の靴が気になりますか? お嬢様。
 今宵は華やかな舞踏会に免じて、退いては頂けませんか。――これ以上の悪あがきは、美しくはありませんよ」


「素敵なドレスですね。アリアドネ様はやはり赤色がお似合いになる」
 にこりと微笑んだポテトにアリアドネは「そうかしら」と頬を赤く染める。色素の薄い娘は足下を確かめてそわそわとした心地でポテトやアレクシアを見詰めた。
「所で、この硝子の靴は何方で購入されたのですか? エクスマリアが――……いえ、友人の妹がとても気に入ったようで」
「こちらですか? マリオン様………あ、デュヴィーエ家のマリオン令嬢にお譲りいただいたのです」
「マリオン様、と言うと……」
「ナディア様のご友人であらせられる姫君ですわ」
 うっとりと微笑むアリアドネにポテトは「そうなのですね。なら、デュヴィーエ様に確認してみます」と微笑み、礼を言った。
 靴はアレクシアとエクスマリアに任せ、シュリエール夫妻の元へと靴の回収の報告へ向かうとポテトは主催者の元へと歩き出した。
 ナディアは「アークライト様」とポテトへと走りより「その……友人を、 赤毛の娘を見ませんでしたか? マリオンというのですが……」と悲しげに告げた。
「マリオン様がどうかなさったのですか?」
「姿が見えないのです……」
「マリオン様なら先程急いでお帰りに成られましたよ」
 リゲル、と声を掛ければルル家がぱちりと瞬きでポテトへと合図する。
 靴の事を知っていたであろう彼女は、靴が回収されたことに慌ててこの場を後にしたのだろう。
(……靴を使って何をする木だったのかは分からないが――大凡、誰かに罪をなすりつけてナディア嬢のデビュタントを台無しにしたかった、とか、そういう事情なのだろうな)
 リゲルはあの時、悔しげであったマリオンには『殺意』を感じなかった。それはルル家徒手同じだ。あのぬくぬくと温室で育ったような娘は人を殺すわけでは無く、ちょっぴりの悪戯気分で『硝子の靴』に手を出したのだろう。
 まるで人魚姫の魔女のように甘言で姫君達を狂わせるものが存在しているのだろうか――リゲルは静かに息を吐いてから「ご友人が帰られてお寂しいことでしょうし、よろしければ私達と談笑でも致しませんか?」と微笑んだ。

 着替えを終えたアリアドネの姿を見てラクロスは目を細めて微笑んだ。レオの用意した香りを「君のために準備したんだ」とそうと手渡した。
「私はラクロス・サン・アントワーヌ。良ければ一曲踊ってくださいませんか、プリンセス」
「ええ、喜んで」
 軽い足取りで踊り始める。魔女の硝子の靴なんか無くったって、羽ばたくように踊り出せるよ、徒微笑めば「あの靴、妹さんによろしければ差し上げるわ」とアリアドネは微笑んだ。

 0時の鐘まで後少し――嗚呼、けれど、恐ろしい魔女なんて今日ここには居ないのだから。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 とても新鮮な気持ちで描かせていただきました。MVPは『妹』の貴女様にお送り致します。色々なシチュエーションに適応できているなあと感心致しました。

 また、ご縁が御座いましたら。宜しくお願い致します。

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