PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<FarbeReise>悪徳に一銭の価値無し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 大陸に住まう者なら知る人ぞ知る砂漠地帯、ラサ!
 様々な遺跡が眠っているこの地に夢見る者が多い事は然もありなん。
 名立たるラサにおける遺跡の数々の中には、遠く離れた地にさえ名を知らしめるような聖地もある。
 そうした遺跡群の一つにFarbeReise(ファルベライズ)と呼ばれる区域が存在する事が解明されたのも、他でもないイレギュラーズがよく知っている事だろう。

 ――遺跡が内包する『秘宝』が持つ価値は計り知れない。
 ラサ傭兵商会連合はこれに邪な考えを持った者が現れると危惧し、ネフェルストで管理することを決定し。それによって現在、ラサでは相互監視や牽制し合う環境を元来有している事もあり、比較的安定した状態を保っているようだ。
 しかし、その後ラサを行き来する商人や冒険者、傭兵達に『秘宝』を確保しネフェルストに届けた者に金一封と周知し持ち逃げされる可能性を防いだものの。そもラサの砂漠は広く、人も多かったのだ。
 全てが善ではない。
 傭兵商会連合からの通達を無視して私欲に走る者もあれば、夢と希望に満ちたそのワードに群がる悪意は際限が無い。こと『願いが叶えられる』などと囁かれれば尚のこと。
 そして、こと壮大な背景を持った浪漫に危険はついて離れないというもの。
 数ある『秘宝』を懐いた遺跡には時に、知識のみならず己が身で以て力を示さなければ辿り着けない場合もあるのだ。生半な武力では攻略できない事は稀でもなんでもないのである。

 ……今回、ラサ傭兵商会連合を介しローレットに舞い込んだその依頼は粛清依頼である。
「野郎どもめ! よりにもよってこのタイミングで俺を裏切りやがった!
 ひっ捕まえて市中引き回してくれるわ!! おいローレット! 金に糸目はつけねぇ、ファルグメントを奪って逃げやがった馬鹿野郎共をボコボコにしてくれ!」
 憤慨する商会貴族の男は、裏切り者の粛清をイレギュラーズに頼みに来ていた。
 その、事の顛末はこうだった。
 連合より金一封の報せが入り真っ先に彼等『ヴィデーキヤ商会』は私兵を遺跡に送り込み、すぐさま『色宝(ファルグメント)』を確保したのだという。
 しかし、その色宝を護送中。よりにもよって運搬役だった私兵の中から欲に目が眩んだ者が複数出て来たのだ。
 信を置いていた配下に裏切られたのみならず、それが商会の利益に関わる事に繋がるとなれば気が気ではないのも頷ける。商会長の男は濁った眼でイレギュラーズに迫る。
「奴等め……護送用の馬車を奪取したあと、追手を撒く為に『色宝』を持ったまま元々あった遺跡に潜伏しおった!
 一度は攻略された遺跡だが、トラップが生きておる。迂闊にその道のプロ以外を送り込んでも全滅するか、煙に巻かれてる隙に遺跡から逃げられてしまうわい!
 これは傭兵商会連合の顔に泥を塗る行為だ! 叛逆だ! 何としても見つけ出し、裏切り者どもをワシの前に引きずり出せぃ!!」

 唾を飛ばして怒鳴り散らす商会長は、続けてその裏切り者という元私兵達の事を話すのだった。


 不安そうに見上げて来る家族の頬を撫でる。
 陽光を照り返す熱砂に当てられ、じりじりとローブの下で肌が焼かれる感触に眉根を顰める。仕方ない、これは必要経費なのだと自らを納得させる。
 そう、彼等は恩義を仇で返した。
「にーちゃん……まだここに留まらないとだめなの?」
「にーちゃん。ウチおなか空いたのん……」
 瓦礫の陰に涼みながら見上げてくる、二人の少女。
 兄と呼ばれた男は。
 『シグマ』という男は、石柱に突き立てていた二本の短剣を抜き。数m上から着地する。
「まだ追手の気配がする。暫くはここにいなきゃだめだ」
「うおおい、おい。そう言いながらどんだけ経ってんだよ、二日は遺跡の中を逃げ回ってるぜ俺らァ!」
「止せ『アルファ』……商会長は必ず俺達を逃がさないように外を他の私兵で固めている筈だ。だが気の長い性格ではない、いずれ焦れて遺跡に人員を突入させたその時が好機だ」
 黒面のマスクに素顔を隠した男達。
 イライラしながら重厚な戦槌を担ぐ筋骨隆々なアルファに並び、日陰で魔導書を捲る『ベータ』なる細身の男は互いに視線を交わす。
 彼等以外にも、三叉の槍や拳銃を携えたマスクの男達がその狭い空間に屯していた。
 リーダー格であるシグマは全員を見て言った。
「計画は順調だ。遺跡に来てる追手もトラップに身動きが出来ない程度の連中ばかり、警戒を怠らず、定期的に遺跡を回っていれば捕まらない。
 ……上手くいけば、この遺跡の『隠し通路』から隣の未攻略ダンジョンに移れる。そこで更に『色宝』を手にすれば、俺達には外部組織に売りつけて得た金で自由な生活が送れるんだ」
 ここが正念場だ、とシグマは締め括り。仲間達の士気が落ちていない事を確認すると背後を振り返る。

 彼等が立て籠もっていた遺跡。それは、巨大な迷路となっているダンジョンだった。
 迷路には燦々と太陽光が降り注いでいるが、外からでは透かして見る事の出来ない壁が天井を覆っている。簡単なトラップが多い以外に特徴の無い迷路だが、罠は解除されてもきっかり二時間で再装填される仕様つき。
 加えて……遭遇戦に強い、商会お抱えの元暗殺部隊が定期的に迷路内の安全ルートを通り侵入者を排除しに来るのだから。生半なことでは彼等は捕まる筈は無かった。
 一度攻略したダンジョンだからこそ出来る、大胆な裏切り。
 そして更には、彼等しか知らぬ秘密と計画も在った。

(俺達の成功は揺るぎない……はずだ。商会の裏は欠いた、そして一番難度の高かった奪取作戦も成功した。
 もうこれ以上は、難所ない筈なのに。なんだ? この言い知れない不安感は……)

 シグマは。
 もう一度、不安そうに見上げて来る二人の姉妹を見下ろし。マスクの下で微笑むのだった。

GMコメント

●依頼成功条件
 裏切り者どもを全て捕える(なお、最低三名生かしてあれば他は生死を問わない)
 ファルグメントの回収

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●粛清対象
 『ヴィデーキヤ商会』私兵部隊(8名)
 暗殺部隊の側面を持っていたという噂のある私兵部隊が裏切り者です。
 メンバーはいずれも素顔を隠しており、全員男性。商会が育てた『ベイビー・ソルジャー』とも呼ばれる彼等に名前は存在せず、コードネームで呼び合っています。
 今回のシナリオでは彼等を最終的に『最低三名生かして』討伐ないしは捕獲していただきます。
 戦闘では主に初見殺し的なスキルが目立ちますが、それだけです。

能力)『暗殺術』(初見時に限りCT大幅付与+至・単・【致命】)
   『強行暗殺術』(【溜1】レンジ3以内・単・【移】【飛】)
   『逃走術』(機動力+自付与)

●遺跡ダンジョン(ロケーション)
 逃亡した私兵部隊の向かった先は、ファルグメントが発掘された遺跡です。
 廃墟めいた砂の石柱、壁が所狭しと並び広がるその空間は紛れもなく迷路そのもの。
 柔らかな砂地に潜むトラバサミやワイヤートラップ、不穏なスイッチ型罠から繰り出される毒矢などなど……簡単で単純ながら手つかず同然のダンジョントラップは油断できません。
 迷路型ダンジョンを突破ないしは皆様の機転を利かせ、逃走者を追い詰め秘宝を奪い返しに行きましょう!
 裏切り者は粛★清だーっ!

●色宝(ファルグメント)
 ファルベライズ遺跡群から発掘され始めた『願いが叶えられる』という曰くのついた秘宝。
 個々の能力では小さな掠り傷を治す程度しかないものの、それでも数を集めれば何らかの効果があるとも期待されている。七つの大秘宝を集めて何か出るのカナ!
 今回はこれを奪還する目的もあります!

●最後に
 初めまして、シナリオを運営させて頂くイチゴと申します。よろしくお願いします。
 皆様のご参加をお待ちしております!

  • <FarbeReise>悪徳に一銭の価値無し完了
  • GM名いちごストリーム
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月16日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー(p3p000244)
最期に映した男
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
金色の首領
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ゼファー(p3p007625)
風と共に
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
蓮杖 綾姫(p3p008658)
厄斬奉演

リプレイ

●洗礼
 依頼人の怒鳴り声が少し遠くから聴こえて来るのに、『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)は肩を竦める。
「少々依頼主の態度も気になりますが……もう少し落ち着きが」
 些か頭に血が昇り過ぎてはいないだろうかと思う。結局こうして遺跡内部に入るまでイレギュラーズ相手でも怒り狂ったままだった。
「取り付く島もない。だがまあ、依頼人の言う通り待遇は良かったのだとしてなぜ裏切ったんだろうな」
 これから捕えに行く裏切り者たちの動機に心当たりは無いか、訊ねた瞬間の激情っぷりを思い出した『年上好き』杠・修也(p3p000378)は眼鏡を掛け直した。
「豪気なもんよね。此の手の仕事じゃほんとロクなことにならないってのに」
「裏切り、契約違反はいけません」
 燦々と降り注ぐ陽光の下。熱い砂地を踏み締める度、『never miss you』ゼファー(p3p007625)の銀髪が涼やかに流れる。
 その隣を行く『果てのなき欲望』カイロ・コールド(p3p008306)は同意を示したように一度頷き――
「ここは皆殺し……と言いたい所ですが、それでは契約違反になってしまいますね。ま、張り切って捕獲と行きましょー」
 ――目の前を歩いていた人の背中がブレた瞬間、カイロは表情を一変させずにその背中を蹴り飛ばした。
 バン、という弦が弾かれる音に次いでカイロの前で砂煙を上げながらトラバサミと毒矢が四方八方から飛び出す。瞬く間に蹴り飛ばされた者はその全身を拘束され貫かれ……たかに視えたが、直後に罠を受けた人型のそれは風船が割れた様に爆ぜ飛んで消滅した。
「連中が何故裏切ったか……そんなの考えたってどうしようもねえわな。契約違反は悪だ。この厳しい土地じゃ余計にそうだろう」
 濛々と上がる砂煙を前に、カイロは数歩下がる。彼の横を這う様に抜けた『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)が暗き外套の下で「ぴよっ」と一鳴きしたのに応じ、細い楔を毒矢を発射した石柱の影に打ち込んだ。
 炸薬の香りだ、とキドーは後続に新たな罠の存在を明かす。楔は触れない方が吉という事だろう。
 近く。「むう」と声が揺れる。
「何を考えてかは、知る由もない、が。行いには、報いがある。裏切りには、罰も、当然に。
 ……裏切られるような扱いをしていた、ならば、それに対しても、だが」
 先行させていた自身の式神が消えたのを見遣り。ふと、依頼人の態度が脳裏をよぎる。
 長く蠢く金髪を乾いた風になびかせ、『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は再度『練達上位式』を行使して新たな10フィート棒代わりの式神を喚ぶ。
「なるほど、単純ながら数が多いですね」
「この人数でも解除に手間がかかる事を思うと、逃げている元暗殺部隊は油断ならないな……この中を逃げ回ってるんだから」
 『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が隊列を振り返り、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が後方から問題無いとハンドサインを返す。

 遺跡に入り込んで先ず、イレギュラーズは各々の分野に適した隊列を組む事で迷路攻略に挑んでいた。
 エクスマリアと修也が先行させる式神が感知外にあった罠を肩代わりしながら。注意深く、砂の香りに包まれた遺跡内に散りばめられた罠をキドー他、カイロとカインがそれぞれ前に出ては解除と無効化に努めている。
 一方で、視界の開けた十字通路や意味深な広間。また分かれ道などがあれば、砂の接地面を探るゼファーが追跡の足掛かりを探していた。
「裏切りを見逃すわけにも、色宝を渡すわけにもいきません、か」
 隊列半ば。事情が事情ゆえに今回の捕縛対象たちへ同情はできないと綾姫が頭を振り、エネミーサーチ等で周囲を索敵する。
 今回、彼等が狙う相手はただ組織を裏切っただけではない。裏切りと同時に遺跡に眠っていた秘宝を強奪した事が、より依頼主の怒りに拍車をかけているのだ。

 先のカイロが咄嗟に式神を突き飛ばした際の様などうしようもない物以外、罠が作動する事は無い。
 あっても、式神が控えている。そしてそれら罠を見つける度、解除する毎に、次なる発見時の各種成功率は上がり続ける。
「おっと。珍しいモンがあるな」
「なんだ? ……うわ」
 砂地をキドーが探っていると、砂と同じく黄色の石畳が姿を現す。
 カインがそれを覗きこみ。同時、キドーと場所を替えて石畳の隙間へ手を加えるとその奥からふしゅるる、と音が漏れた。
「加圧式――ガスによる誘爆狙いですかね」
「人の手で出来る細工じゃないねこれ……僕はここを、カイロさん達は少し周囲を探った方がいいかも」
「あー、いやあったあった。十二寸ってとこか? その石畳飛び越えたくらいのとこに落とし穴だ」
 カインの言葉に続き、キドーがほんの少し前方の砂の下から出て来た木板を捲る。パラパラと落ちる砂は光の射す穴の底へと降り注ぎ、闇の中へ姿を消す。深さの知れない穴だという事は知れた。
 次にカインが石畳の隙間へ石礫を噛ませる合間、カイロがキドーの見つけた穴の縁に見つけたスライド式の硝子窓に気付く。
「何か出てきますね」
「この臭いは……ガソリン、か?」
 聖杖で窓を開いた奥からとぷとぷと流れ出て来る黒い水にカイロが首を傾げた所へ、エクスマリアが小さく屈んで鼻を鳴らして言う。
「ガス爆発からガソリンに誘爆したら、この狭い通路では即死でしょう」
 冷静に言い放った寛治の言葉に成り行きを見守っていたゼファーが噴き出す。
 大丈夫だと、キドー達三人は手際よくそれらトラップの誤作動を防ぐ処理を施して行く。
 手は――十全に足りている。

●クレー・ピジョン
 飛来した無数の鉄球をキドーが大きく上体を仰け反らせて回避している最中、綾姫が後方から小さく声を挙げた。
「反応が増えました。こちらの進行に合わせて別ルートを通って来るようですね」
「来たか」
 ぱたん、と修也が手帳を閉じる。
「やれ、この手合いの場所に隠れて陣取るとは傍迷惑な連中よねぇ」
「全く以て。しかし今回は彼等も後悔する事になるでしょう」
 何気ない動作でゼファーが先頭から隊列へと戻り、寛治が眼鏡をクイと上げて応じる。
 彼等はその踵を返して来た道を戻り始めていた。
「壁中や柱の上に設置された罠は無駄撃ちさせてあるから平気だけど、地中設置型のトラップは生きてるから気をつけてね」
「ああ。だが修也と、カイン達が、マッピングしてくれている分、安心して進める」
 たん、と壁を蹴って。何も無いように見える地面を避けて行く一同。
 立ち替わり。先頭へ行くカイロを傍目にエクスマリアが小首を傾げる。
「式神は……まだ、必要か?」
「動きからしてこっちの人数を気取られてんじゃねーか? 相手に圧を掛ける意味合いでも一端引っ込めて良さそうだが」
「頼もしかっただけに惜しいですけどねぇ、いやいや。それはさておき先程から見ていると……ただの奇襲ではなさそうですね」
 キドーの言葉に首肯したエクスマリアと修也が式神を一度消すと、カイロが綾姫に視線を向ける。
 道中。恐らくはエネミーサーチに反応が出た方向を視ていたであろう彼女が、今は時折、その紅電の瞳を忙しなく揺らしていた。
 彼女は「ええ」と短く肯定する。
「二つに分かれている様です」
「……となると」
 カインがノートを開く。
 そこに記されているのは、修也と同じくここまでのマッピングと道中に刻んだ『印』を表記した物だ。彼はそこに加えて遺跡中の考察や全体像をこれまでの経験則を基に幾らか書き込んでいた。
 ――罠の位置も、一つも余さず。

 降り注ぐ陽光は依然として変わらず。遺跡の内部を熱く照らし続けている。
 本来、この迷路は彷徨う間に冷静さを失うなどして力尽きた獲物を狩るように出来ているのだろう。だがイレギュラーズには余裕があり、そしてこれは遺跡の純攻略ではない。
 狩る対象は……決まっている。
「出入口をA地点として、ここをDとしよう。綾姫の報せから数分経っている事から、敵の現在位置は早くてもC地点までの距離を移動していると思う。
 速度も、迂回しているグループは俺達のいたDに着いている事を踏まえれば誤差はあっても後方からの奇襲の方が早いだろう」
 石柱が立ち並ぶ広間。
 遠近感を狂わせるためか、意味深に多数の通路が結びついているこの空間は何処を向いても同じ通路口が視界に入るよう、シンメトリーになっている。
 恐ろしきは……罠の数や種類も四方に等間隔で設置されていた事か。
 修也はそんな『トラップハウス』とも呼べる空間の中央で手帳とカインのノートを手に、懐中時計で寛治らと示し合わせていた。
「そうなるともう接敵? やけに早かったわね」
「このようにスムーズに奇襲ができる、ということは。恐らく安全に移動できる通路ないしルートがあるはず……」
 訝し気にゼファーが広間奥の石柱の陰を覗き込み、綾姫が石壁を小突く。
 道中も探索していた筈だが、見当たらなかった。という事は別のルート上にあるのだろうと彼女は思ったが。
「こっちのどこかにあったのかもね。見つけたわ――ここを通る時に私達を捕捉したのね」
 ゼファーが一同に指し示した先にあったのは、石柱の陰に残された柔らかな砂の窪みだ。
 一見すればなんてことのない凹凸だが、それを軽く息で吹きつければくっきりとまでは行かずとも僅かに踏み固められた痕が見えて来るのだ。彼女は「足跡を消したのよ」と言った。
「都合が良い。標的は、マリア達がここへ戻って来たと、気付けば……油断を誘える」
 この遺跡に逃げ込んだ彼等は、一度攻略したがゆえに庭も同然なのだとでも言う様に地理を活かして攻めて来る。
 当然、罠も把握しているのだろう。修也とカインが言うにはここは入口からそう遠くない。ゼファーが調べた限り、先に突入して敗北した依頼主の私兵達の戦闘痕があることからも、敵にとっては慣れた場所の筈だった。
「そうなるとあちらは何かしら用意して来るんですかねぇ、怖い怖い……ではこういう作戦は如何でしょう?」
 聖杖をぽすん、とカイロが砂地に突き立てて。
 にっこりと笑って告げた。

 かくして。黒面の男達は一斉に通路奥の陰からその姿を現した。
 砂の上を踏み締める音が向かう先には、広間の中央で式神と共に待つカイロの姿。
 無防備を装った三人へ襲いかかる四人の刺客は、一糸乱れぬ連携と同時に回避不能な急所狙いの一撃を繰り出した。
「来ましたか――」
 首筋に触れる曲刀の刃。
 空気を引き裂くのと変わらぬ勢いで、カイロの傍に立っていた男女がその身を両断された瞬間。無数の剣閃と銃撃がその場に殺到する。
「仕留め……は、ッ――!?」
 首を飛ばそうと薙いだ刃が聖杖に弾かれる。刺客の瞳に映ったカイロの姿が信じ難い挙動を描き、式神の残滓が撒き散らされた中で銃撃が彼の身を纏う不可視の加護に爆ぜ飛んだ。
 キラキラと鮮血に混ざり散る魔術光。数瞬遅れて二人の刺客を襲う不可視の『棘』による反撃に、空気が凍り付く。
「――地獄へ叩き落として差し上げましょう。生き地獄、ですが」
 至近にいた男の側頭部へ聖杖が叩きつけられた直後、刺客達の背後で砂が飛んだ。
「ぐおおっハァ!?」
「奇襲、だと! どうやって……」
 閃く眼光。
 落とし穴の内から飛び出したエクスマリアが『満ちぬ伽藍瞳』によって拳銃を握っていた男を魔力暴走の呪法で沈めた傍、狼狽する大剣構えた黒面に不可視の天井を蹴って舞い降りた綾姫の剣撃が襲う。
 一瞬の混戦に飛来する閃光と爆発。石柱に潜んでいたカインが放った神気閃光に仰け反った男を見捨て、咄嗟に他の通路へと逃走しようとした者を綾姫が追撃する。
「くそッ……罠っ」
「お静かに願おう」
 まだ合流していない、他の仲間へ伝えようとしたか。声を挙げようとした男の首に無音で寛治の腕が巻きついた。
 暴れる黒面の男。しかし振り切れる事無く、無言で近付いて来た綾姫が手足の関節を極めながら寛治が更に締め上げたことで、その意識はあっさりと途切れるのだった。

 ――銃声を聞いて身構えていたシグマたちは、突如反転した左右の壁から現れたキドーとゼファーの二人を前に目を見開く。
 瞠目、次いで閃くは殺意を籠めた眼光。
 奇襲と同時に至近で応戦する、高速で織り成す万華鏡が如き暗殺術。乱れ飛ぶ斬撃と刺突をキドーのククリが、ゼファーの槍がそれぞれ打ち合って火花と血液を飛散させる。
「……ッ」
「そちらから打って出てくれたのは僥倖だった、感謝しよう」
 無事に仕事を終えられる。その安堵すら懐いた言葉を添えて、黒面の懐に踏み込んだ修也が全身の筋肉を一瞬だけ膨張させた後に変換された魔力を打つ。
 小枝が何本も踏み折られたかのような音が鳴り響いた瞬間、ゼファーの後方から駆け抜けて来た綾姫が剣戟を放って続いて更に男達を追い詰めに掛かって行った。
 吹き飛ぶ、リーダー格の男。
 狭い通路を飛び交う打ち合いは暫し続き――恐ろしくあっさりと終わった。


 致命傷は、死なぬ程度まで持ち直すように癒せばいい。
「死んだほうがマシだとして、知ったことじゃないわよね」
 カイロが治療しているのを傍らで見守りながら、ゼファーは近くの石柱で縛られたまま呻いている男達へ視線を向けた。
 彼等は一様に、カインやキドー達の手によって衣服や外套を用いて拘束され、猿轡を噛まされていた。
 ……ただ、リーダー格の男だけを除いて。
「さて――ここからはご自身達の今後を左右する内容のお話となります、いいですね?」
「……わざわざ生かして捕えたのは、雇主の希望か」
 見上げ見下ろし、向き合う両者。
 寛治達から交渉を持ち掛けた事に顔を顰めた褐色肌の青年は、イレギュラーズの目的を問う様に言った。
 綾姫は答えず。ただ問い返す。
「目的はあなた達がよく存じているでしょう、何処に隠したのか……教えていただきます。あなたが奪った『色宝』の在処を」
 青年は彼女を睨みつける。
「取引材料はさしずめ、俺達の命か。断る」
「……何故かお聞きしても?」
「『どちらのオーダー』かはどうでもいい、だが……そこに、俺達の全員の抹殺が入っているならば。ここで俺達は全員死ぬまで何も吐かない」
 寛治が眉根を下げる。
「その言い方。他にどなたかこの遺跡にいらっしゃるので?」
「……」
 激しい唸り声が響く。
 他の仲間達、男達が口々に猿轡越しに何事か叫んでいた。喋るな、とでも言うかのようだが。
(……暗殺部隊にしては、随分と粗末な)
 その反応はまさしく肯定に近い。しかし、妙だとも寛治は思った。
 クライアントを裏切るだけの理由が何某かあったのだろうとは考えていた。だが、彼等が隠す様な身内の存在があったからだというのなら。
 ここで必死になり過ぎるのは悪手だ。
「私達に課せられた依頼は、あくまでも皆様の捕縛と強奪された秘宝の奪還です。人数は八人。皆様だけで事足りるのは……分かりますね? 
 同時に、目標に逃げられなければ我々には期限はありません。現状既に八割、任務を遂行していると言う訳です」
「なにが言いたい」
「下手に隠せば不測の事態……つまり、いる筈の無い相手と対面した拍子に"不慮の事故"が発生する事も在り得る。そういう事です」
「貴様……」
「これは、皆様次第です――もし誰かの身を案じているならば。欲を掻かなければ、秘宝と皆様の身柄を我々は依頼主に届ける"だけ"で終わるというだけのね」

●ダンジョンの罠
 ――壁の中に隠された狭い中を進んだ先、確かに元私兵部隊のシグマが言った通りの景色があった。
 荒れた祭壇のような広間、この遺跡で最奥に位置する場所だろう。
「何も無い、な」
「ここに妹ってのがいるんだろ。しかし話が違うじゃねえかよ、二人もイレギュラーが出て来るたぁ」
 オーイ、とキドーの声が響いて。
 何拍かして。崩れた石柱の陰からのそりと小柄な少女が二人出て来たのを目にしてゼファーが目を丸くした。
「寛治がコネで面倒見てくれるって言ってくれて良かったわ、後味が悪くなる所だったもの」
「マリア達は、お前たちの兄、シグマに頼まれて迎えに来た……危害を加えるつもりは、ない」
「ちょっと待て」
 姉妹が並び、エクスマリアとゼファーを交互に見つめていた時。異変に気付いたキドーが仲間の歩みを制止した。
「……どうした、キドー」
 小首を傾げた先。
「こいつら……精霊か何かだろ」
 姉妹の小さな笑い声が重なり、その場に響き渡った。
 それは単純な空気を伝う音ではなく。頭の中に語りかけて来る類の声だ。
「クスクス、もう遊びはおしまいなのね」
「『お兄ちゃん達がおうちに帰してくれる』はずだったのに、ざんねんだね」
 妖しい光が姉妹から瞬き、その場に吹き荒れる。
 身構えるエクスマリアがその正体を問う。
「この姉妹は……」
「色々不思議だったんだよな。てっきりあの連中がどうにかしたのかと思えば……この双子ちゃんが遺跡の精霊だったってわけか?」
 それとも――そう言いかけて。
 一同の眼前に一体の。赤と青の琥珀石で形作られた姉妹像がその場に置かれていた。

「なァこれ…………どうしろってんだ??」

 捕えた私兵部隊を見張っている仲間達、そして依頼人に何を伝えるべきか。
 キドーはふざけるなと言いたくなるのだった。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――差し出された元私兵部隊のシグマたちを見た依頼主の商会長は、酷く狼狽えた。
 黒面の男達はいずれも自ら首を差し出し、覆面を棄て素顔のまま嘆くことなく此度の罪を償いたいと申し出たのだ。
 そこにはこれまで育ててやった恩義に報いる為だけに在る、砂漠の花が如き覚悟があった。
「彼等は、我々ローレットの眼も欺く遺跡の呪いに侵されていたに過ぎません。
 しかし如何でしょうか。彼等なくして『色宝』は手に入らなかったかもしれぬと考える事もできるのでは?」
 大事になる前の段階であったとはいえ損害は出たかもしれない。
 しかしイレギュラーズの寛治が放った一言と、憑き物が落ちたように前に出た配下の姿を目にした依頼主の男は唸り声を上げて言った。
「……ファルグメントは手に入った、感謝するローレット。
 此奴等をどうすべきかじっくり考える……ええい、そんな眼で見るな。仕事を完璧にやって見せたのだ、貴様等の株を下げるような結果にはすまい」


 結果:【大成功】

PAGETOPPAGEBOTTOM