PandoraPartyProject

シナリオ詳細

この子の七つのお祝いに

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄帝の収穫祭
 力こそ全て。力こそ正義。
 そんな実力至上主義のゼシュテル鉄帝国にも収穫祭は等しく訪れる。むしろ、実りに乏しく軍事に頼らざるを得ない国家であるからこそ、その貴重な収穫は一層尊ばれるのかもしれない。
 もちろん、収穫祭の後の『不思議な三日間』も平等に訪れる。
 どのような立場の、誰であろうと、『なりたい姿』になれる。

 この鉄帝国で多く望まれる姿と言えば、それは――。

●解雇危機の弁償に
 イレギュラーズ達が空中庭園から移動した先のギルドにて。その人物を目に留めた途端、ある一人が反射的に声をかけた。
「何やってんだあんた」
「やあ。見ての通り薬草の選別だけど」
 強者を目指し、強者が集う鉄帝国とはあまり縁があるように思えない人物がそこにいた。
 イシュミル・アズラッド。黒い布で目隠しをして微笑む、白銀の髪の美形――黙っていれば――である。
 華奢で男とも女ともつかないその妖しさが、その美しさに更に拍車をかけるだろう――黙っていれば。
「普段世話になってる草カフェバーで、私なりにアレンジを加えた逸品を出したら店長に怒られてしまって。まだ働きたかったら材料を弁償してこいって、酷いと思わないかい?」
「どうせ、げーみんぐ汁? とか出したんだろ。まさか今回の依頼って、そういう……」
 彼の嫌な予感は、残念ながら半分ほど当たることになる。

「まだ必要な薬草があるんだけど、どうしても一種類が集められなくて。
 道中にね、出るんだ。戦士のなれの果て……自分が死んだ事に気付いてない、認めたくない子の霊だろうね。あれは」
 『死』は、旅人であるイシュミルにとって、元の世界ではとても縁深いものであった。その『死』に在って、未練という不調を抱えている存在に手出しできない事は、精神領域を専門とする身としても歯痒いものであったらしい。
「この国は、強い事が全てらしいからね。あんな子供の内から、誰よりも強く在ろうとしたんだろう。それで、逆に誰かに殺された。さぞかし無念だったろうね。
 だからと言って。死してなお、通りすがる者を手当たり次第に襲うのはどうかと思うんだよね。この世界は、私がいた世界よりは『死』が遠いようだし」
 このままでは、もっと質の悪い霊になってしまうかもしれない。
 そうなる前に子供の戦士の霊を『立ち直らせて』ほしいとイシュミルは言う。
「退治でも、浄化でもなく。『立ち直らせる』?」
「ほら、収穫祭も近いそうじゃないか。この鉄帝国の人達は、望む姿と言ってもほとんどが『強い姿』になりたがると聞いたよ。
 いい幽霊に戻れたら、混ざれるんじゃないかな。そんなお祭り騒ぎにさ」
 なるほど。
 少し手間はかかるが、いい話かな……?
「私の解雇阻止の為にもさ。ね? 頼むよ」
 いい話……かなぁ……。
 イシュミルの雇用事情はともかく。子供の霊を放置するのは道の利用者にとっても、子供当人にとっても良いことにはならないだろう。

 子供の霊と侮るなかれ。幼く道半ばで斃れたその子の無念は、鉄帝人を退けるほどの存在に成長している。
 されど、その子は子供である。良くも悪くも、きっと純粋だろう。

GMコメント

旭吉です。
この度はシナリオのリクエストをありがとうございました。
リクエスト者以外の参加も可能となっておりますので、どなた様もお気軽にどうぞ。

●目標
 子供の戦士の霊を滅ぼさずに鎮め、収穫祭に誘う。

●状況
 鉄帝のとある薄暗い路地。薬草の採取地へ向かう近道のようです。
 スラムにほど近く、道幅は大人二人が何とか並べる程度。
 民家の出入り口などは面していませんが、洗濯物が路地の間に干されています。
 この路地を通る者を、子供の戦士の霊が無差別に襲っているようです。

●敵情報
 子供の戦士の霊×1
  やたら背伸びをして老戦士っぽく喋りますが子供です。
  鉄帝一の戦士を目指していましたが、まだ幼い内に大人との喧嘩で負けて落命。
  死んでからの時間の方が生きた時間より長い。
  『誰よりも強くなりたい』気持ちは死んでも変わらず、『全ての生きるものを倒し尽くす』事が目的になりつつあります。

  本当は誰かに認めて貰いたかっただけかもしれません。
  楽しく遊びたかったのかもしれません。
  今はまだ、ぎりぎり話を聞ける状態です。
  邪悪な形に歪んだ剣はまともに食らうと痛いですが、うまく話を聞いたり、消滅しない程度に懲らしめたりしてください。

 描写としては、『戦闘<霊とのやり取り』の比重になる予定です。
 (プレイング次第で変化する可能性はあります)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • この子の七つのお祝いに完了
  • GM名旭吉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月23日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
虚栄 心(p3p007991)
伝 説 の 特 異 運 命 座 標
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
※参加確定済み※
セレステ・グラス・オルテンシア(p3p009008)
蛇霊暴食
※参加確定済み※

リプレイ

●特異運命座標の強さ
 大人の戦士に殺された子供。
 不幸ではあるが、よくある話だと思った。
 力量を誤って死んだ、殺された。「殺すつもりは無かった」などという事故と大差ない。
 それを、死んだ後になってまで「強くなりたい」だのと。

「結局、素質が無かったのよ」

 不満を内に燻らせる『号令者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)の思考に、『伝 説 の 特 異 運 命 座 標』虚栄 心(p3p007991)の一言が落ちる。
「だって、そうでしょう? 最強になれるような素質があるなら、特異運命座標として召喚されてもおかしくないもの。そうすれば、いくらでも鍛練を積めたでしょう? 致命傷を負ってもパンドラが尽きるまで蘇生できる」
 今回の子は、そうなる前に死んでしまった。本当に素質が無かったか、素質があったとしても生前に運が無かったか――いずれにせよ、心にしてみれば『その程度の愚かな純種』でしかないのだ。
 その証として、心自身はこうして純種でありながら『選ばれて』いる。少なくとも彼女はそう思っていた。
「否定はしないでありますよ。生き残れなかったのは事実でありますからね」
「確かに、運も実力の内という。我らはイレギュラーズとして、我らが得られる強さを。件の子は死して尚強さを渇望し、彼にしか得られぬ強さを得たのであろう。
 その姿、大いに結構である」
 心の話に一部同意を示すハイデマリーと『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)。しかし、ベルフラウは子供の在り方を否定しなかった。
 生きていようと、死んでいようと。何を犠牲にしていようと。そこに『通すべきもの』さえあるのなら、それは肯定すべきものだと考えていたからだ。
「誰より強くなりたかったのに、大人に殺されて……今の彼が一番されたくないことは、子供扱いされることでありましょうな。戦士として堂々と相対したいのではないでありましょうか」
「彼がどこまでかつての自分を覚えているか、にもよるだろうけどね……」
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が考えたことは、誰もが一度は考えたことだった。その上で『雷光・紫電一閃』マリア・レイシス(p3p006685)は子供としても、戦士としても、彼を傷付けたくなかったのだ。
 マリアとして生きてきた全てが、それをどうしても許せなかった。
「ならば話は早い。あちらが強い力を得た1人ならば、こちらは8人で協力して打ち負かそうと思うが如何か」
 ベルフラウの提案には、同行していたイレギュラーズ達からも賛否両方の声があった。イレギュラーズならではの強さを示すことができる、という声と。あくまで一人の戦士として向き合うべきだ、という声と。
「……それでも、私は。子供を傷付けたくは無い……。子供だからと実力を甘く見るつもりはないよ、それは彼にも失礼なことだ。けれど」
 例え彼に傷付けられようと、傷付けたくはない。自分を彼から守る行為もどうか無用に。
 そこまで懸命に頼まれては、無理強いもできなかった。
「こちらの想いに関係なく、いつまでも居座る霊というのは一般に頑固で、視野が狭いものです。頑固だからこそ還れずに留まり、視野が狭いが故に気付きを得ない」
 『蛇霊暴食』セレステ・グラス・オルテンシア(p3p009008)が静かに語る。
「大抵の言葉は届かない、という事か? だが、いきなり殴りかかってねじ伏せるのは、それこそあの子のやってることと変わらない気がする……対話を望む姿勢を見せるのは必要だと思う」
「愚民の雑音など聞くに堪えぬわ! とのたまう頑固親父も、ゴツンとショック療法のひとつでも食らわせればあら不思議。とりあえず話くらいは聞いてみようかなー、となることもあるでしょう? これを業界では……」
 『蛇霊暴乱』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)の言葉に微笑んで答えている間に、当のアーマデル本人は別の場所ヘ移動していた。少し先にある例の路地を、ファミリアー達も使って調査していた『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)の元だ。
「何かわかったか?」
「聞き込み、も、少し、してみました。あの子が、どうして、この路地に留まるのか。この場所で果てた、かも知れない、と思って」
 しかし、メイメイの調査に対してこの辺りの人々は非協力的だった。自分が一日生きる為、略奪されない為に、誰かを殺して略奪する。それが日々続いているような地域で、昔に死んだ子供の戦士の詳細など忘れ去られていた。
「忘れられてしまったのは、悲しいです。でも、少しだけ、いいお話も聞けました」
 戻ってきたファミリアーの鳩を両手で抱き留めて。メイメイは少しだけ笑った。

「とにかく、まず説得を試みて。それからマリアさんにタイマンを張って頂いて。その後に7:1で拳で親睦を深める方向で?」
 セレステが確認すれば、皆が承知した。
 準備を整えてイレギュラーズ達が路地へ向かえば、まず禍々しい形に歪んだ大剣が目に入る。
 続いて、それを片手で軽々と扱う――少年と呼ぶにも幼そうな、しかし戦士の身なりをした男児の霊が道を塞いでいる様が嫌でも視界に入った。 


 男児から叩き付けられる敵意と戦意は誰にでも感じ取れただろう。少しでも動けば、それを皮切りにしてくるであろうことも。
「ごきげんよう。突然すまないね」
 それを承知の上で、マリアは努めて優しく、親しげに語りかけた。
「私はマリア。マリア・レイシスと言うんだ。君の名は?」
 手を差し伸べて尋ねても答えない。それどころか歪んだ剣を振りかぶると、問答無用で斬り付けてきた。
 事前に申し合わせた通り、彼女を庇う者はない。焼き付く様な一撃を受けたマリアは、笑っていた。
「効くね! 見事な太刀筋だ!」

 子供の一撃を、気の済むように受けてやる。何をしてもただ褒めるばかりで。まるで、大人が聞き分けのない子供を宥めるようで。
(私は不満でありますけどね)
 今は手を出さないでいるハイデマリーは、内心憮然とした心持ちだった。
 殊に、旅人でありながら大きな力を持つマリアが相手であれば尚更であった。

「君はどうして強くなろうと思ったんだい? 相手を選ばず傷付けるために強さを求めたのかな?」
 傷付く身体を厭わず、マリアの説得は続く。しかし一方的に汗と血に塗れる姿を見かねたメイメイが、ミリアドハーモニクスで彼女に癒しをもたらした。
「ごめん、なさい。とても痛そう、だったから。あなたにも、ごめんなさい」
 小さな勇気を振り絞って、メイメイは男児の霊に一歩歩み寄る。
「わたしは、メイメイ、です。あなたは……あなたのこと、覚えてますか」
 住人達には忘れ去られてしまった、かつて生きていた存在。名乗らない彼は、自分のことを覚えているのか。それが少しだけ不安になった。
「力を示し、ここに在りと名を掲げ、己の存在を知らしめる。戦士とあらば一度は憧れるものだと聞いた。お前は名乗るべき名を覚えているか? 求めるのは力だけか?」
 問うたアーマデルも、思い出したように名乗った。そうするのが戦士の礼儀らしいから。
「戦士ではなく、騎士でもなく、誇るべき武勇も持たないが。
 armored-el, al-amal。七翼の系譜より零れしもの。一翼の加護を編む、糸のひと撚りであったもの。
 今は……ただのイレギュラーズだ」
 3人の名乗りを受け、名を尋ねられ。男児はまだ、己の名を口にしなかった。
「私に聞かせておくれ。君が本当になりたかった戦士の姿を! 忘れてしまったのなら一緒に思い出そう!
 君ならすぐに思い出せるとも! 死して尚、強くなりたいと願い! 願い続ける君の思いは本物だから! 思い出すまで私が君を受け止めよう!」
 マリアは何度でも手を差し伸べる。しかし、その手は何度でも斬り払われ――。
「いい加減にするであります。これ以上の『大人の対応』はつけあがるだけでありますよ」
 レールガンを構えたハイデマリーが、男児へ向けて臨戦態勢を取った。
「貴様みたいなのは好きではないであります。何れ、もしかしたら、強くなったかも知れない。そんな『かも』に縛られたところで、死んだ以上もう先はない。
 殺されたのも、逃げ道すら用意しなかった貴様の失態に他ならない」
 相手が子供の戦士なら、己も13歳の『子供』として。しかし鉄帝の掟を知る軍人として。ハイデマリーは口も手も、加減を加えなかった。
「私は非力だった。でも頭を使った、仲間を作った、情報を作った! だから死ぬような目に遭ってもこうして生還できた! 子供の腕一本で、何ができると思っている!」
 剣では届かない遠距離から放たれたゴルトレーヴェの連撃が男児に襲いかかる。大剣で防いでも相殺はできない。
 それが攻勢への合図。エッダがギャラルホルンで憤怒の感情を解き放ち、その激しさのままに獅子吠連環拳を繰り出す。その攻撃にも手心はない。
 男児もやられてばかりではなく、大剣での衝撃波を放つ。しかし反射の性質を得た心が狙われたイレギュラーズ達を庇うと、受けたダメージに僅かに距離を取った。
「脆弱なただの純種は、一度死ねばおしまいだから……このまま続ければ、自分の攻撃で消えるわよ。霊だろうとね」
 そう言う心自身は、今の時点では男児よりも深い傷を負っている。しかし、心には再生能力がある。回復のスキルを使うメイメイもいる。
「愚かなただの純種が決めたルールに縛られて、安全に生きられるように、怯えて暮らすしかない。でも特異運命座標様は違う。ただの純種にはできない手段も、力も得たわ。
 伝説の特異運命座標様は凡庸なただの純種より全てにおいて例外なく未来永劫上位の存在であり続ける事は100%確定した誰の目にも明らかな事実よね?」
 狂気にも近い気迫で凄む心。彼女は本心からそう信じて止まない。
 しかし己をただの純種と蔑まれようと、死後に足掻いても先はないと言われようと、男児の刃は止まらなかった。
 それを知ると、エッダは気当たりで気を惹きながらショウ・ザ・インパクトで彼を弾き飛ばすようになった。彼が攻め入る度、何度でも弾いて逃げ続けた。
「なぜ当たらないか。なぜ自分が逃げるか。まだわからないでありますか。それを答えねばならないほど蒙昧でありますか」
 何かの一つ覚えのようにただ攻撃を繰り返す男児に、エッダは告げる。
「自分は、子供であろうと戦士であれば相応に対峙するでありますが。戦士たる覚悟がなき者に向ける拳は持っておらぬであります。
 今の貴様は戦士ですらない。無慈悲な強さと行き合い、それを目指してしまった、哀れな者よ。我らの強さと、貴様のそれの何が違うか知りたいか?」
 ただ拳を構えているだけなのに、隙が無い。流石に男児も学んだのか、闇雲に剣を振るうことはしなくなった。
「卿に敬意を払い名乗ろう。我が名はベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ。卿と同じ様に強さを追い求めた成れの果ての者だ!」
 イレギュラーズの強さは否定せず、ベルフラウは仲間達に神子饗宴を施した後、エッダに並び前に立つ。
「卿は死した後、老いも忘れこの場で力を磨いたのだろう。私はそれを卑怯とは言わぬ。それが例え卿が求める道の形で無かったとしても、私はその強さを肯定する!
 そしてそれと在り方は違えど、私達は足りぬ部分を互いに補い支え合う事を強さとする」
 攻撃力が全てではない。攻撃力で及ばない者は補助に徹し、守りに長じる者は回復に長ける者に背を任せる。イレギュラーズ一人で全てを賄うことは不可能でも、それぞれを任せられる仲間がいるのだ。
「そもそも卿の考える強さとは何だ? 卿の求める強さの『先』には何がある。全ての生きる者を倒し尽くす、それも良かろう。だがその先に何がある?」
『……強さの先』
 男児が初めて発した声は、ベルフラウの言葉を繰り返したものだった。
「身体は器。如何に屈強な肉を纏おうと、心弱ければ潰れてしまう。力だけを頼りとすれば、それが衰えた時に何も残らない」
「あなた……このままではこういうものになってしまいますよ」
 アーマデルの言葉に、セレステが男児の近くへ放ったのは死霊弓の矢。自我はほぼ消えて、誰かを呪うだけの怨霊に成り下がったものだ。
「死霊であるあなたには、『先』というものは無いのでしょう。だから、考えることを諦めてはいませんか?」
『……先はないと言うたのは、お前達じゃ』
 セレステに答えた男児に、エッダとマリアが反論する。
「生者と同じ未来は無くとも、思い出すことはできるであります。我らは志の下に刃を振るうものだ」
「私はね。誰かの『大切』を守りたくて軍人になったんだ。君はどうだい?」
 戦う理由を。己が誰であったかを思い出せる限りは。何かを残せる限りは、彼は怨霊にならずにいられるだろう。
「卿は以前の私だ。力に溺れ過信し、己を見失う。力さえあれば全ては己が思うが儘と強さを追い求めていた頃の私だ」
 かつての己と重ねたベルフラウは、そこまで言うと実体の無い男児の両肩を抱いて力強く告げた。
「だからこそ今のままには捨て置かぬ。何も残さぬ強さを得て、卿は何を成す! 卿が強さを求めた本当の意味を見つけ、思い出せ!
 その答えが世界を滅ぼす為だとすれば、それが真意であれば私は肯定しよう。肯定した上で我らの強さが上であると、打ち負かしてくれる!」
 世界を倒す力が相手であろうと折れない心。それこそがイレギュラーズの、今のベルフラウの強さであると宣言する。
「私は、イレギュラーズのエッダ・フロールリジ。貴方の名を、名乗りなさい」
 今度は、エッダも逃げない。
『名前……強さを求めた、意味……』
 男児はしばらく、本当に長い間考え続けた。考えている間に邪悪に歪んだ大剣は真っ直ぐな形を取り戻し、纏う気配も禍々しいものが抜けていく。
『……思い出した。わしの名は、キール。爺さんに、認めて欲しかったんじゃ』
 そう答える頃の男児キールの霊は、大剣を抱えた静かな姿へと変わっていた。

●キールは収穫祭を楽しみたい
 鎮められたキールの霊を伴って、イレギュラーズ達は依頼人への報告へ向かっていた。
「私は若い頃は身体が弱くて、様々な事を諦めていました。あの頃に『力が……ほしいか……』なんて囁かれていたら、軽率に頷いていたかも知れません」
 セレステがキールに諦めているのかと尋ねたのは、過去に覚えがあった故だったのだ。
「うちの里の蛇神様は人の営みには無関心ですから、そんな囁きはして下さいませんでしたが。とてもいいですよね、そういうクールなところ。
 皆様、そういうオトナになればいいと思います」
「願いは近く、傍らに在り、自分の胸に抱くもの。純度の高い願いだからこそ原形を保っていられたのかな」
「聞いてます?」
 アーマデルが思いを馳せるのは、怨霊になる寸前で踏み止まっていたキールの存在。強さとは何か、深く考えさせられる依頼だったと思う。
(収穫祭後の三日間。彼はどんな姿を望むんだろう)

「大体でありますなあ、道で辻斬りってそんなんで強さなんか示せるわけないでありますよ。あほめ」
 一方、キールはエッダにかなり絞られていた。
『そうじゃなぁ。爺さんも、もうおらんようじゃし……わしがいる意味は……』
「あなたがいる意味、あるよ」
 寂しそうに剣を抱えたキールに、メイメイが戦闘前に聞き込みで得た情報を教えた。
 キールが出現するようになってから、あの界隈では彼を恐れて夜の略奪や喧嘩が行われなくなったらしい。彼が存在するだけで、一定の抑止力にはなっているようだ。
「強くなりたい。その気持ち、は、私の中にもあります。
 強さ、とは。腕力だけではない、と思います。心の強さなら、自分との戦い、です。……私は弱い、ので、あまり説得力はないかも、です、が。
 あなたも、きっと……そう、なれる」
『斬れないものとの戦いはいやじゃ……』
「死霊が何を言うでありますか。貴殿は既に、認められたい一心で死後もこの世界にしがみついていたではありませんか。正直凄いとは思うでありますよ」
 エッダと同じ軍人口調でも、キールがそこまで見上げなくていいハイデマリーが、無愛想ながらも彼を褒めていた。
「私はただの強さだけの鉄帝なんかにさせたままでいるつもりは一切合切無いですが。
 それより、ゼシュテルももうじき収穫祭でありましょう。その魂で目いっぱい楽しめばいいでしょう」
『わしを、嫌いと言っておったのに』
「肩の力抜いて視野を戻した今なら、別に問題無いでありましょう?」
 収穫祭の話題が出ると、メイメイやエッダも次々に彼へ収穫祭への参加を勧めた。なりたい自分の姿を、見つけてみないかと。
 例え、死んだ彼の時間が動くことはなくとも。
「もし、よかったら……一緒に参加しないか、収穫祭」
『……!』
 マリアの誘いに見上げたキールの顔は、完全に年相応――7歳くらいだろうか――の男児のものだった。もう、先程までの邪気は一切感じられない。
『なあ、なあ! 何の姿になろうか! 楽しみだのぅ!』

 子供の様にはしゃぐ姿を遠巻きに見守るベルフラウ。興味なさげに道中の街並みを見渡す心。
 様々な思いを抱え、イレギュラーズ達は依頼人の元へと向かってゆく。

成否

成功

MVP

ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神

状態異常

マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫
虚栄 心(p3p007991)[重傷]
伝 説 の 特 異 運 命 座 標

あとがき

お疲れ様でした。
『イレギュラーズとしての強さで鎮める』という括りでは共通しているものの、その中身の違いに皆様の個性を見ました。
個性と個性のぶつかり合いが輝かしくて楽しかったです。
余談になりますが、キール君がある種の抑止力になっていた件は調査によって生じた設定だったりします。

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