PandoraPartyProject

シナリオ詳細

見習い騎士と秋の味覚

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義、聖都フォン・ルーベルグにて『豊穣祭』に向けて収穫祭が行われることとなった。
 ……と言うのも、天義では聖職者や貴族が民に南瓜のお菓子を振る舞い、無礼講で過ごすのがファントムナイトの決まりなのだ。姿形も変わるのだから『誰』であるかはお構いなし――と言ったところだろうか。
 心配事とするアドラステイアの事もあるが今年は復興をより盛り上げようと活気づき、畑からの作物の収穫もちょっとしたイベントにしよう――と言うことだ。
 何も戦だけではない。純粋な労働力として貢献するのも大きな力になることだろう。

 ……と、云う事でだ。
「先輩、先輩! 芋を掘りませんか?」
 桃色の大きな眸をきらりと煌めかせ、その手にはサツマイモを握りしめたイル・フロッタは騎士団の詰め所で仕事を行っていたリンツァトルテ・コンフィズリーの元へと走り寄った。
「……芋?」
「はい。今年は収穫祭を行うと云う事で、アークライト家のポテトより誘いがあったのです」
 騎士団も慈善事業の一環で収穫祭の手伝いに向かっているのはリンツァトルテも知っていた。見習いではあるが、そうしたイベント事には性格が向いているとイルを派遣していた事を思い出す。
「……その畑に、ポテトが?」
「はい! 農業のプロフェッショナルなのだそうです」
 先程から名が上げられるのはポテト=アークライト (p3p000294)その人だ。ジャージに身を包み、市民のように労働している貴族アークライト家の夫人。
 リンツァトルテは「そ、そうか……」と首を傾いだ。
 ポテトがいるならば勿論のこと、アークライト家の次期当主たるリゲル=アークライト (p3p000442)も居るだろう。こちらもジャージを着用して芋掘りをしている事が後々イルより判明した。

 ――――――
 ――――
 ――

「先輩、その衣服は?」
「ジャージと言うらしい」
「じゃぁじ……」
「ああ。ポテトとリゲルより汚れても良い服装として借り受けた。
 人手も足りないだろう。ローレットに人員の募集を呼び掛けておいたぞ」
 成程、とイルは肯いた。リンツァトルテは彼女に「お前のジャージだ」と袋を手渡す。まさかのふんわりとした巻き毛の金髪美少女騎士がジャージを着用する機会が来るとは――彼女も屹度思っていなかったことだろう。
「今日の任務を先輩から聞いても良いですか?」
「ああ。今日は芋を掘る。そして、それを美味しく調理するそうだ。
 調理に関しても教わり自分たちでする。周囲の民にも『上手く』出来たら振る舞おう」
「は、はい! あの……私は余り料理が得意ではないのですが」
 ごにょごにょとそう言ったイルにリンツァトルテは「大丈夫だ」とはっきりと言った。
「俺に任せろ」
 ――先輩、貴族ですよね……?
「芋ならば茹でることが出来る」
 ――先輩、茹でる以外もありますよ……?

 この二人に任せていては折角の芋も残念なことになるだろう。
 ローレットの皆に、至急願いたい。
 どうか……どうか、秋の収穫祭を無事に成功させて欲しい。

GMコメント

 部分リクエスト有難うございます。夏あかねです。
「イルちゃんとリンツァトルテの恋を応援する」シナリオのリクエスト……ですが、ソレも含めて10月の『豊穣祭(ファントムナイト)』の準備もしましょうね!

●成功条件
 秋の味覚を収穫! 美味しく芋を食べましょう。
(ついでに不届き者は「えいや!」としておきましょうね。

●収穫祭
 秋の味覚がたっぷりです.近くには栗の木。目の前にはサツマイモやジャガイモを収穫できる畑があります。
 また、「こんな畑がある!」などがあればそんな畑もあります。自然一杯なので虫さん達も居ます。イルとリンツァトルテは農業初心者ですのでレクチャーしてくださると嬉しいです。

●不届き者
 畑を荒らしに来ました。ついでにサツマイモを沢山貰っていくぜゲッヘッヘな雑魚の方。
「えいや!」で蹴散らすことが可能です。

●調理&食事
 自分で収穫した品々を調理しましょう! イルはスイートポテトを作りたいそうです。
 食事でもスイーツでもお好みのものを調理して皆で食べましょう。
 ちなみにリンツァトルテ先輩は貴族なので料理は出来ません.出来ると言い張ってます。

●ジャージ
 今回のドレスコード。作業服として皆さんしっかり着用してくださいね。
 調理の際はお着替えして大丈夫です。エプロンも貸し出します。

●イル・フロッタ
 身代わりの金髪。非常に明るく元気で子供っぽい騎士見習いです。
 リンツァトルテ先輩に恋をしています。(拙作『見習い騎士と大切なメモリア』で自覚)基本はチョロイン属性ですがリンツァトルテにその機がないので進捗!だめです!
 特異運命座標のことを先輩と呼び慕っています。皆さんのことがとっても大好きな女の子です。

●リンツァトルテ・コンフィズリー
 イル・フロッタの先輩。コンフィズリー家当主。不正義と呼ばれた家名を立て直すために騎士として切磋琢磨してます。
 やや視野狭窄気味ではありますが正義に対しては信頼できます。イルの事は子ども扱いですが、頑張っている良い子と認識してくれてます.恋愛はてんで駄目。
 皆さんを信頼しているので、芋についても指示があれば確り従います!

●備考
 天義関係者やNPCは呼び掛けた際には遊びに来れるかも知れません。
 場合によっては御顔出しも難しいのでお答えできなかった場合は申し訳ありません。

  • 見習い騎士と秋の味覚完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月12日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
※参加確定済み※
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
※参加確定済み※
巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ


 豊穣祭までもう少し。準備の為にジャージを着用して、一行を待って居たのはプロ農家のアークライト夫人――こと、『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)であった。
「皆、ジャージを着用して来たか? ジャージは耐久性が高い素材且つ動き易い農作業時の戦闘服だ。
 一部ではジャージを愛好する者が居るらしいが……今回の用途は農作物と触れ合う為とする。
 そして、農作物は、命を繋いでくれる。大地の恵みに感謝しつつ、今日を楽しもう!」
 堂々と開会のあいさつを行うのはプロ農家、ポテトの夫である『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)。此度の会の主催二人である。
「これがジャージ! 動き易いし、ごろごろするのにも良さそうな気がするね!
 あ、イルちゃんは借りたのが少し大きかったのかな? お袖、折っておこうか」
 萌え袖って言って男性にはウケるらしいよ、と練達で得た知識を披露する『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の傍らで「成程」と頷き、袖を折り畳んでもらうのはイル・フロッタだ。
「これが……ジャージ……。動き易くて汚れても良いという安心感がある。なるほど。機能性に特化しているのね」
 天義貴族ミルフィーユ家の御令嬢、『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は金の瞳をぱちりと瞬かせる。汚れてしまうといけないとやや高めの位置で髪の毛を結わえれば気合のスイッチもぐん、と押される。
「これがジャージ、なるほど動きやすいですねぇ。収穫祭と恋のお手伝いということで張り切らせていただきましょう!」
『これがジャージ』という言葉から始まるのは三者三葉。着こなして見せた『地上の流れ星』小金井・正純(p3p008000)の視線はジャージに慣れないのかそわそわとした動きを見せるリンツァトルテ・コンフィズリーとイル・フロッタの二人に注がれている。事前に聞いた情報によれば『イルの片思い』をポテトが応援している、そうなのだ。ならば、これを機に! というのが『恋のキューピット』正純の狙いである。

\収穫の時間だーっ!/

 ワクワクと畑に立って両手をばしりと広げて見せる『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)。美味しい秋の味覚の為ならば畑仕事だってなんのその。頑張った分だけ後のお楽しみが美味しく頂けると思えば――そう! やる気だって『マジ卍ファイヤー』なのだ。
 マジ卍ファイヤーに滾るやる気をまじまじと見ていた『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)は今日はクールな死神の表情をしていたが、直ぐにマジ卍ファイヤーを見て「うふふ」な表情を見せた。
「違う! 私は死神!」
「その心は?」
「自分の気持ちのまま振舞うのが一番! さぁ、死神の私に出来る一番の仕事をして帰りましょう!
 今日の死神的『最大目標』は! イルさんとリンツァさんにイイ感じの雰囲気を作り出す!」
 ……それって天使なのでは? 愛らしくて幸せをついつい望んでしまうリインは「二人に進展があっても良いと思う!」と瞳を煌めかせ、ポテトはその通りだと大きく頷く。
「収穫祭か…そうか、もうその様な時期なのだな。
 俺が生まれ育った村も小さくはあったが収穫祭は開いていたな……今となっては、良い思い出だ」
 センチメンタルな笑みを浮かべたのは『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)であった。そのナイスな美貌に影を乗せれば畑の野菜もノックアウトである。「参加する以上は力を貸そう、さて、何から手を付けるべきかな?」
 先ずは、畑の野菜の前に畑を脅かす不届き者の相手から――だろう。


 畑の統括はプロ農家のポテトに任せリゲルとベネディクトは畑を荒らし丹精込めて育てられたさつま芋を狙う不届き者の相手をと、剣と槍を向ける。リゲルとベネディクト――その二人が『ジャージ姿で』武器を構えて今にも臨戦態勢なのだ。
「此方には、俺とベネディクトがいる。この双璧を斬り崩せるかな?」
「生憎と此方には俺とリゲルが居る。貴様らの思う様にはやらせん──!」
 ――その姿を、通常装備で見たかった女性ファンには申し訳ないが彼らはジャージ姿である。見事に畑仕事をするためにきっちりと腕まくりをし、頭にはタオルを巻いたリゲルとポテトに気遣われて帽子をかぶる事になったベネディクト。武器を持って居なければ農家の方である。
「農家が何を……!」
 敵がそう言ったことをも許してほしい。それがかの武勲を誇るアークライト卿やベネディクト卿だと誰も思わない事だろう。
 物の見事に簡単に撃退された不届き者。その様子をぱちりと練達製カメラで写真撮影をしたのはリィン(本日の撮影係)だ。
「相変わらずいい腕前だ、リゲル」
「ベネディクトこそ、素晴らしい槍術だ。頼もしく思うよ」
 笑顔でハイタッチを交わし、不届き者の対応は終わったと微笑み合う男性陣。ここ、シャッターチャンスですよ。
「……今養父の姿が見えた気がしましたが気のせいですよね? こういうタダで参加できるお祭り大好きではありますが」
 慌てた正純。もしも見つけてしまったら「どうして……」と項垂れるのだろうか。お義父さん、正純さんはジャージ姿で頑張っています。
 ……ちなみに、イケメンが華麗に不届き者を撃退してくれるが、余計な奴が『キャッキャウフフで可愛い皆』に影響を及ば差ぬ様とクールな死神は壁になって皆を見つめるべく密やかに暗躍していた。
「我美男美女仲良藹藹光景超好隠者奴也夜露死苦。
 人の恋路を邪魔する輩は、死神に刈られて輪廻へゴーだよ!」
 ――芋ほりが目的なので今日は『はんごろし』で済ませてくれたのだった……。


「まずは芋ほりだ! つるを切るように。つるがあると掘れないからな。
 園芸用の鋏で遠慮せずどんどん切って大丈夫だ。あ、葉とつるも食べられるから捨てないでくれ」
 道具は此処に用意してあると微笑んだポテト。「此れも食べれるんだ!?」と不思議そうな顔で芋の蔓を眺めるスティア。
「花丸ちゃんもイルさん達と同じで農業初心者だから、先ずはポテトさんに収穫の仕方を確り教えてもらうよっ!」
 二人とも、と手招く花丸。二人とは初対面でもイルはリンツァトルテに恋をしているという情報はばっちり特異運命座標的に共有済みだ。其れとなく二人が一緒に過ごせるようにというサポートは怠らない。恋のキューピット花丸である。
「つるがなくなって土が見えるようになったら、太いつるを引っ張れば簡単に出てくるぞ。
 引っ張っても出てこない時は、芋を傷つけないようにそっとスコップで回りの土を解せば大丈夫だ」
「成程……」
 真剣に芋を見つめるリンツァトルテ。花丸は思った――この人、隣の後輩より芋に夢中だぁ……。
「うちの社でも畑仕事はありますし、多少は慣れています。芋は力任せに引くと折れてしまいますから、周りの土を落としてからそっと引き抜くのがいいでしょうかね。
 栗は、落ちているものを固い履物でイガの両端を踏んで、火バサミ等で取り出すと安全に取り出せます」
 実践して見せる正純にアンナは「そんなに簡単に出来るものなの?」と手本にしながら着手してみるが――
「……む、そこそこ掘ったつもりだけどまだ抜けないわね。
 丹精込めて育てたものでしょうし、時間がかかっても傷つけないよう丁寧にやりましょう」
 アンナのぽそり、とした呟きにイルは「アンナが難しいのなら私にできるだろうか」と不安げに呟く。
「大丈夫よ。貴女には心強い先輩が付いているじゃない」
「そうですね。イルさんとリンツァトルテさんもやってみます? ささ、おふたりでどうぞ!」
 アンナの言葉に盛大に戸惑って見せるイル。正純は鋏ですよとリンツァトルテに差し出した。傍らの花丸は「やってみるね! イルさんはリンツァさんとファイト!」と応援する。
「さあ、いざ! お芋さんを傷つけないように気をつけながら、ふんぬーっ!」
 苦戦し続ける花丸にポテトがくすくすと笑う。「その調子だ」と励ますその様子を見ながらリインは「女子力(物理)」ってこんな時に役立つんだ! とひっそりお慕い申し上げてるプロ農家・ポテトを真似て気合の芋堀を『ふんぬー!』と熟して見せる。
「せいっ!」
 引っ張って見たスティア。一方で黙々と芋に真剣な眼差しを送るリンツァトルテの空間に入れずにイルはあわあわとしていた。アンナは「イルさんは意識しているけれど……本当に一方通行ね」と溜息を漏らす――ここで、スティアチャンス!
「うわー! 太いつるをせいっとしたけど抜けない! んー、結構大変! イルちゃん、リンツさん助けてー!」
 ふふ、と小さく笑ったヴァークライトご令嬢。こうして二人を近づける作戦をとった彼女はスコップで周りの土をほぐすから芋は二人でお願い! と頼み込む。
 二人の共同作業が無事に行われたことに女性陣はにんまりと微笑んだのだった。因みに不届き者はポテトが「きっちり芋ほりを手伝ってくれるなら芋を分けよう」と丁寧に諭したとかなんとか……。


 今回はドゥネーブ領主代行という立場ではない。芋堀りの一兵卒であったと芋を掘り出したベネディクトは上官の話は無碍にはできないとしっかり芋を干しだしていた。
「中々立派な芋が収穫出来たな。そういえば、コンフィズリーはどういった芋料理が好きなんだ?」
 収穫した芋を洗いながらベネディクトはそう問いかける。リンツァトルテは「ふむ……」と呟き悩まし気な表情を見せた。因みに彼が洗うのは芋の蔓である。
「葉やつるも食べられるのか? ポテトは流石だな。ポテトは家庭料理が得意なんだ。美味しいよ。
 また、リンツァにも御馳走しよう」
 にんまりと微笑んで芋を洗うリゲル。アークライト夫妻が幸福そうな様子を見ればこの国の平和を感じてリンツァトルテも笑みを浮かべる。
「ああ、芋料理限定では難しいのか。リンツァはどんな料理を好むんだい?」
「……そうだな。実はあまり甘い物は食べた事が無いんだが芋、か、……ポテトサラダ、だったか? 昔、騎士団に差し入れで入ったそれが美味しかった気がする」
 成程、とベネディクトとリゲルは頷き合った――これは『イルがリンツァトルテの好きなものを作る』為の情報収集なのである。

「さあ! 収穫も一段落! 食事に向けての調理ターイムッ!」
 わくわくとした花丸は片手に芋。片手に箒と農家スタイル絶好調である。作るのは焼き芋だと洗った芋をしっかりと包んで準備完了だ。
「花丸。その、花丸は何を作るんだ?」
「花丸ちゃんは焼き芋とじゃがバター! イルちゃんには一番大きいお芋上げるから食べてねっ! ホクホクでとっても美味しいよっ!」
 にんまりと微笑む花丸にイルはこくりと小さく頷く。緊張した様子のイルの背をそっと撫で「大丈夫ですよ、頑張って料理しましょうね」と正純は微笑んだ。
「花丸さん、枯れ葉はぱぱっと集めておきましたよ。焚火を作っておけば焼き芋とじゃがバターに加えて、焼き栗も出来そうですね」
「天才では!?」
 きらりと瞳を輝かせる花丸は栗を準備するために走り去る。焚火の世話をする正純は芋類を投下したら消化を助ける煎茶を準備しようと笑みを浮かべた。


「さて、ここが今日の最重要ポイントね。……その様子だとあれから進展はあまりないようね?」
「うぐ」
 着替えを行いエプロンを着用したアンナにがくり、とイルが肩を落とす。「まあまあ」と宥めるスティアに「スティアー」と飛びつくイルはリンツァトルテとの進展のなさに本人も焦っているのだろう。
「焦っては事を仕損じるのはその通りだわ。けれど攻める時は鋭くいきましょう。
 ならば攻め時はいつか? わかる?」
「……ううん」
「攻め時は今に決まってるわ。ここでリンツァトルテさんの胃袋を掴むわよ。イルさんが」
「わっ、私が?!」
 アンナの鋭い一声にイルがギョッとしたように肩を竦める。無理だと慌てるイルに「大丈夫よ」と小さく笑う。
「イルはスイートポテトを作りたいんだったな。作り方は教えるし手伝うから、美味しいの作ろう。
 アンナも大丈夫だと言ってくれているし、みんなでサポートを行うぞ。それと、リゲルとベネディクトが聞き出してくれたリンツァの好きな芋料理も挑戦してみないか?」
 ポテトサラダ、と唇を震わせる。難易度が高いならば挑戦し甲斐がある。「他のお野菜用意して来るね~」とせっせと『裏方死神』に徹するリインが合図を送ればポテトは「よろしく」と大きく頷いた。
「基本的に作業は任せるわ。味付けは彼が甘い物が好きかどうかね……どう?」
「ええと……先輩はあまり甘い物は食べてない」
「そう。なら甘さ控えめにしましょう。私は周囲の人に配る物も作るからどうせなら2パターン一緒に作る?」
 大きく頷くイルにアンナは「そうしましょうね」と手際よく用意を進めていく。料理技術のあるリインが優しの下ごしらえをしている間に、ふと、ポテトはポテトチップを作成するスティアを見遣る。
「……スティア、量ほどほどにな?」
「え、量!? 叔母様に怒られるからスペシャルは止めておくね……いっぱい欲しいならスペシャルにしても良いんだけど!」
 ――危険である。
 芋を薄切り、普通、厚切りの3パターンを用意。仕上げに塩を振るだけの簡単だけどちょっぴり油の手間がある逸品だ。ついでにさつま芋チップスを作成すればそちらは生クリームを添えて完成である。
「いや、冷めても美味しいしスティアスペシャルでも大丈夫か……?」と悩まし気なポテトの背中にベネディクトは首を振った。危険すぎる。
「そして笹木と小金井は……じっと見守らなくても大丈夫だぞ?」
「はっ、花丸ちゃんつい、楽しみで!」
 くすくすと笑う正純の隣で花丸は立ち上がり「皆のお手伝いするよー!」と走り寄ってくる。
 ポテトはと言えば葉と芋の天ぷらとつるの炒め物、栗ご飯を用意している。
「イルにポイントを教えようか。食べてくれる人の笑顔を思って一つ一つ丁寧に作ると良いぞ」
「食べてくれる人の――」
 顔が赤くなる。その様子に誰を思い浮かべたのかは想像に易い。スティアのアドバイスで可愛い形に作ったスイートポテトはリンツァトルテ用だ。
 ベネディクトはさつま芋を輪切りにしバターで炒めた物を用意した。簡単なものではあるが、好ましい料理だとベネディクトはリンツァトルテへと微笑んだ。
「何時もメイドに作ってもらうんだ。良ければコンフィズリーにも今度御馳走しよう」
「ああ、有難う」
 リゲルと共に芋を茹でるリンツァトルテは真剣な表情で芋を茹で続ける。リゲルは「半月切りにしよう」と提案したが分からないという顔をリンツァトルテは見せていた。因みに……茹でた状態確認に竹串を用意するリゲルをさて置いてさっさとざるに上げようとしたリンツァトルテをベネディクトがストップをかけたのだった。
 塩とパセリを振ったシンプルな料理をテーブルに乗せたリゲルは「女性陣の料理が本命だ」とにんまりと笑う。
「お待たせ」とポテトが用意した料理がずらりと並べば、背後でどこか緊張した様子のイルがアンナに連れられて立っていた。
「イル……?」
 視線があちらこちらに散らばるイルの背をとん、と叩いてアンナは笑みを浮かべる。
「大丈夫、上手にできていたから自信を持って」
「……あ、ああ」
 そろそろと進むイルはそっと「先輩」と蚊の鳴く様な声で言った。
「……その、良ければ。いつもお世話になってるので、先輩用に作ったんですが……」
 しどろもどろのイルにアンナは伝わる頭、とはらはらした調子で見遣る。
「――有難う」
 ふ、と笑みを浮かべるリンツァトルテにイルは沸騰間近であった。慌てて、椅子へと誘う花丸とポテトは「ほら、食事を」とテーブルに並ぶ料理の数々を見つめる。
「イルのスイートポテトも、愛情が籠っているのを感じるよ。な、リンツァ?」
「ああ。後輩からこうしてプレゼントを貰えるのは嬉しいな」
 ――もう一声!
 ふと、リンツァトルテが視線を送ったのはポテトサラダである。是非食べてみて、とずずいと進める正純は「どうでしょうリンツァトルテさん、イルさんの作ったお料理は。美味しいでしょう?」と揶揄うようにそう言った。
「これは、イルが?」
「うん! イルちゃんの作った料理美味しいね! 良いお嫁さんになると思うんだ。リンツさんはどう思うのかな?」
 にんまりと微笑むスティアにリンツァトルテは「ああ、料理は苦手だと言っていたが多少練習すればその苦手も克服できるだろう」と大きく頷く。
「イルと結婚する相手は幸せ者だな」
 お前が立候補するんじゃーいと花丸は叫びかけたがぐっとこらえた。「美味しいねー!」とにんまり笑う彼女はポテトサラダと共に叫び声を喉の奥へとごくりと落とす。
(少しずつでも前に進んでると良いんだけど……頑張れイルちゃん)
 応援するスティアに応える様にイルは「あ、あの!」と口を開いた。
「先輩! いつも有難うございます。私は今が一番幸せです! 先輩もそうだと嬉しい!」
 ――と、叫びアンナの後ろに隠れたのだった。
 ポテトとリゲルの笑みを見ながらリンツァトルテは「困った。擽ったいな」と小さく呟いた。
 爽やかな秋風の吹くそんな一日はのんびりとした時間で過ぎていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 恋のキューピットの鬼では!?
 有難うございました。リンツァトルテもちょっぴり良く分からない擽ったさを覚えたようです。

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