PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<幻想蜂起>憂いの青炎

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――彼が羨慕の眼差しを向けるようになったのは何時の頃からだっただろうか。
 小さく紡がれた言葉はエナメル・ブルーの宵闇を映す窓に反射する。
 クリケット・グリーンの長い髪が艷やかに流れれば、自身の双眸と目が合った。
『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは青い瞳を伏せて、赤い蝋印が解かれた手紙を開く。
 憂いの吐息が小さく漏れた。
 手紙の差出人は交流が途切れて久しい知人からのものだ。
 内容は至ってシンプル。
 この混乱に乗じガブリエルを王へと担ぎ上げるというもの。
 検討の余地すらもない『戯言』だ。
 手紙に綴られた文章は無計画にして杜撰。成功の目など一分も無いのだ。
 そもそも彼にはそんな野心も覇気もありはしない。領民の生活と自身の些細な幸せを守り切ることで精一杯なのだ。

 彼はそのまま手紙を破ると、紙切れをランプにかざして灰にする。
 この話もこのように燃えて消えてしまえばよいのだが。
 幻想が誇る三大貴族が一人。大領主であるガブリエルの動きが怪しいとなれば、いらぬ疑念を抱かれかねない。
 ただでさえ三大貴族はしのぎを削り合う所がある。門閥貴族達が騒ぎ立てれば面倒なことになるだろう。

 この状況、かの幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』が来てからというもの、このレガド・イルシオンには不穏な色が滲んでいた。
 最悪の事態だけは回避しなければならない。
 これが小さなボヤ騒ぎ程度ならば、噂が長く続かないのと同じ様に直ぐに掻き消えるというもの。
 しかして、燻る火種はポツリ、ポツリと粉を散らすように飛散していく。
 人々の不満や懐疑心をは次第に膨れ上がり、幻想国の上層部への大きな怒りの炎へと変化していった。
 散った火の粉が弾け飛ぶかの如く、民衆の一部が暴発的に蜂起したのだ。
 原因を鑑みるにサーカスの影響か、はたまた『何らかの外的要因』すらも存在しうるのかもしれない。

 ともかくこの件もその一つだ。
 彼等は決起し、武器を手にガブリエルの館に迫るつもりらしい。
 そうして力づくでも彼を立ち上がらせるつもりなのだ。

 ――冗談ではない。

 蜂起そのものも止めねばならず、そして自身から関わる訳にもいかない。
 ならば力になってくれるのは、『彼等』しかいないのが実情だったのだ。


 東雲色の空が広く澄み渡る朝、バルツァーレク領の街道沿いに大勢の人々が列をなして歩いていた。
 領地南部から北上してきた彼らが領主の元に辿り着くのは半日程かかるだろう。

「俺達の事を分かってくれるのはあのお方だけなのだ!」
 男たちの誰かが大声を上げる。
「おう!」
「そうだ! そうだ!」
 賛同する様に腕を突き上げる人々。大した武装はしておらず、大半が農耕具を手に歩いていた。
 砂利道は日差しによって乾き、ザリザリと靴底が地に擦れる音がする。
 手入れのされていない草原に生い茂る春の草花。高い空と遠くの山。見晴らしも良い。

「俺達が援軍に向かえば、ガブリエル様もきっと感心して立ち上がって下さるぞ!」
「おー!」
 根拠のない自信は牧歌的な風土から来るものだろうか。それとも、幻想に紛れ込んだサーカスの影響か。
 やはり、普段の彼らからは想像も付かない様な高揚感を感じられた。
 集団心理。リスクに目を瞑り、目先の餌に食いつく愚かな人々の姿。否、リスクにさえ気付いて居ないのかもしれない。

 その中でも元冒険者や屈強な男たちからなる精鋭の覇気は凄まじいもので。
 草原に木霊する声は強く。高らかに。
「幻想をぶち壊し、ガブリエル様を、王に! 王に!」

「王に――――!!!」



「憂いのシャレイ・ブルーは何を想うのかしらね」
 青瞳を流して問うた『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はイレギュラーズ達に向けて、ゆっくりと振り返った。
「えっと……、この人たちを説得すればいいのかな?」
 小首を傾げた『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)の金色の髪が揺れる。
「いいえ。叩きのめして頂戴……ただし、カーニバル・レッドを咲かせるのは厳禁よ」
「カーニバル?」
 プルーが発する難解な表現に、益々首を傾げるアルエット。
「そう、バルツァーレクの領主からのオーダーは領民の蜂起を沈静化させること。そして、死人を出さないこと。これが条件よ」
 しかして、総勢250名の人数相手に戦って死人を出さないのは至難の技ではないのか。
 イレギュラーズの瞳が疑問の色を浮かべる。
「ええ、だから。先に叩きのめすのよ。鮮烈なるゴールド・スパーク――」
 つまり、精鋭を瞬時に制圧し、力のない者たちの戦意を削げばいいのだ。
 その上で説得を持ちかけるのが良いだろう。
「……お願いするわね」
 プルーはディープ・グリーンの髪をなびかせゆったりとした足取りでその場を後にする。

GMコメント

 もみじです。無謀な計画を止めて下さい。

●情報確度
 Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。

●目的
・領民を殺さず武力で制圧する。
・無謀な行いを辞めるように説得する。
 殺さないスキルの使用の他、戦闘で圧倒し十分にHPを減らせば、敵の戦意は喪失すると思われます。

●ロケーション
 バルツァーレク領、街道沿い、昼間
 戦闘には支障がない大きな草原

 イレギュラーズが到着すると精鋭15人が前に出てきます。
 その後ろには先導者であるアーブラハムと残りの領民が恐る恐る見守っています。

●主要人物

○アーブラハム・バルシュミーデ
 没落貴族の男。ガブリエルが領主になる前には美食の繋がりで交流があったと自称しています。
 自分の計画は崇高なものであるという自信に満ちあふれています。

 実際には粗雑な計画な上、腕前はからっきし。イレギュラーズの出現に震えています。

○カイエル隊
・カイエル
 犬の獣種。元冒険者で短剣二刀流です。
 腕は立ちます。

・カイエルの部下×4
 いずれも剣等の至近武器を装備しています。
 強くはありません。

○ハーマン隊
 ハーマン
・鳥頭の飛行種です。槍を持っています。
 腕は立ちます。

・部下×4
 いずれも槍等の至近武器を装備しています。
 強くはありません。

○ジーゲルト隊
・ジーゲルト
 両腕が機械仕掛けの鉄騎種。ハンマーを持っています。
 腕は立ちます。

・部下×4
 いずれも斧等の至近武器を装備しています。
 強くはありません。


●同行NPC
・『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)
 PCが絡まない限り、特に描写はされません。
 低空飛行をしています。
 遠術、ライトヒールが使えます。

  • <幻想蜂起>憂いの青炎完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月07日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
久遠・U・レイ(p3p001071)
特異運命座標
ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃
枢木 華鈴(p3p003336)
ゆるっと狐姫
ノブマサ・サナダ(p3p004279)
赤備
サクラ(p3p005004)
聖剣解放者

リプレイ


 新緑に混ざる砂埃の臭い――

 雑然とした無数の足音。
 街道を進む無規律な音は騎士や兵士、あるいは隊商等が奏でるどんな音とも違っている。
 視界に広がる青々とした春の草原。その木々に草花はどこまでものどかで。牧歌的という形容こそが相応しいのであろう。

 この美しい草原で――私は貴方と美食を共にしたいのだ。

 陽気に当てられでもしたかのような呟きが零れる。
 アーブラハム・バルシュミーデは緑の君を思い浮かべていた。
 だがそんな空想は、視界を過る人影に遮られる。
 遠く見える小さな一団の足取り。
 それは引き連れた群衆等とはまるで違う、戦士の歩みであった。

 ――いるよね。

「結局は他力願望的な小心者」
 遠目に見える一団に半分瞼を伏せる『特異運命座標』久遠・U・レイ(p3p001071)は肩を竦めてみせる。
 このまま放おって置けば、何れ領主の兵士と交戦し自滅していくだろう。少しぐらい痛い目を見たほうが彼らの為ではないかと思うレイ。
 けれど、巻き込まれる人々も居るのは確かで。
「まぁ、可哀想だし」
 彼らには早々に退場してもらおうと大鎌を手に取った。

 集団と集団は、どちらともなく足を止め――対峙する。

「私達が何故来た――等というのは如何でも良い事です」
 張り詰めた緊張感の中、透き通る声が響く。
『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は一歩前に歩み出た。
 ――バルツァーレク伯も災難ですね。
 伝え聞く緑の君の評判は、幻想国においては珍しく立場相応の人格と能力を持っているのだと囁かれているけれど。この様な信奉者に好きにさせておけば、二大貴族は疎か他の門閥貴族にさえ足元を掬われかねないだろう。
 嫋やかな指先は胸元に置かれ、ゆるく腰を曲げた彼女の肩から紫銀の髪が流れ落ちる。
「バルシュミーデ卿とその同志の皆様、私達は皆様の無謀を諫めに参りました」
 顔を上げたアリシスの瞳がアメジスト・バイオレットの光を奏でていた。
「む、無謀などと……!」
 アリシスの妖精めいた瞳に晒され、言葉を詰まらせるアーブラハム。それを遮る形で精鋭が前へと歩みだして来る。
「俺たちはこの国を変えようとここまで来たんだ! 早々やられてたまるものか!」
「そうだ! そうだ!」
 アリシスの牽制に揺らぐ士気を、声を張り上げて持ち直させるカイエル。当のアーブラハムは民衆に混ざって動揺している様子が伺える。

「幻想を変えるっていうのは、悪い事じゃないのかもしれないけど」
 サーカスの毒が混入した現状を取っても幻想国は腐敗の一途を辿っている。『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)はブライト・ブルーの瞳を眼前の精鋭達に向けていた。
 ローレットに齎された情報の通り、十五の精鋭とその他大勢の民衆。
 駆け出しの冒険者を自認するシャルレィスにだって解る、無謀で杜撰な方法。犠牲者を生み出す悪策。
 草原を翔ける風が少女の青い髪を攫う。抜き放った剣は陽光を浴びて煌めいていた。
 ブーツの底が地を蹴り上げる。
 シャルレィスが槍を構えたハーマンへ駆けた。
「おっと、俺の相手はアンタか」
 少女の剣先に合わせるように槍を前へと突き出す。ハーマンが横にじりりと動けば、シャルレィスも間合いを詰めた。先へは通さぬ意思。
 鳥頭は力量を見計らう為、槍をシャルレィスへ繰り出した。
 金属が擦れる音。矛先を僅かに逸した少女の剣は、痛打を躱しこそすれ軋んだ骨に痛みが走る。

「散開!」
 カイエルの指示に従ってバラバラと動き出す敵。その頭上を、或いは吐息が聞こえる程近くを、赤と黒の双色が飛舞する。『双色の血玉髄』ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)はその瞳で戦場を見据えた。
 ――僕が好き好んで喰い殺すのは「敵」だけっす。
 信念も無く。
 誇りも無く。
 己が大義を成すという事そのものに酔いしれる。
 そこに実力は伴わず、宛ら餓鬼の遊戯。
 滑稽で。
 嗤える代物。
 ヴェノムの好みに値しない虫けら共の姿。
「よかったっすね。貴方達」
 カイエルの部下が耳の後ろで聞いた声は怖気立つもので。きっと自分たちは化物と対峙しているのだと錯覚した。
「っ……!」
 声にならない悲鳴に気付いた者は居ただろうか。
 赤黒の瞳を本気にさせた――好きだと認識された「敵」は死んでしまう。

「だからぁ」
 青白い触腕が部下の頬を背後からなで上げる。
「ヌルく。ユルく」

 ――――虐めてやるよ

 ヴェノムは先の戦いで重傷を負い流れ出ていた自身の血を部下に吹きかける。
「うわああああああ!?」
 部下の声に気を引かれた敵達は、血に塗れた彼を見て激情を顕にした。
「てめぇ!」
「さーて12人。満足させろとは言わないっすけど」

 赤黒の目が細められ、三日月の唇が弧を描く――

 獣じみた獰猛な気配を抑えながら。
「退屈はさせないでくださいね」
 簡単に壊れてくれるなよ、と。
 少女は嗤う。

 怒りの矛先はヴェノムへと向けられていた。

「ラサ傭兵連合、真田赤備衆頭領、トラマサ・サナダが一子」
『赤備』ノブマサ・サナダ(p3p004279)の声が戦場に響く。馬蹄が地を蹴る音と共に一気に戦場を駆けたノブマサ。
「ノブマサ・サナダが相手になります!」
 カイエルの前に立ちふさがり馬上から槍を叩きつけた。鈍い音が聞こえる。
「チィ!」
 痛打となった攻撃にカイエルは舌打ちをした。間合いを取ろうとカイエルが横に飛べば人の気配。
 レイの大鎌が視界の端を動く。
 漆黒のスカートは内側にクリムゾン・レッドを内包し、そこだけが戦場から切り離された夜会の様に優美な色合いに揺れていた。
 靭やかな細腕によって振るわれる大鎌の軌道。
 咄嗟に身体を捻った敵の背にアガットの赤が走った。
 身を翻すのと同時に剣をレイへと振り抜く。身を割く感触はあった。
 しかし、血の代わりに空へ散ったのは――黒い靄。
「化物かよ」
 赤を内包する橙の瞳には言い様の無い威圧の色が浮かんでいる。
「降参してくれない? 痛いのは嫌でしょう?」
「冗談」
 二人の言葉をノブマサは聞いていた。カイエル個人で見れば腕が立つ部類なのであろう。
 しかして、現状を鑑みるに、分はイレギュラーズにある様に思う。
 そうまでして抗う理由は、本当にガブリエルを王へと祭り上げるだけなのだろうか。
(わからない……。この国で何が起こってるんだ……?)
 先の見えない不安な気持ちはあれども。運命とも呼べる采配に戦いを挑む決意をノブマサは蘇芳の瞳に宿していた。



「お、俺達も……」
 始まった戦闘に感化されてか。見守っていたはずの民衆が農耕具を手に戦場へと近寄ろうとしている。
 それを警戒していたレイは戦場の端に立ち大鎌で地を爆ぜた。
 砂埃が巻き上がるのに驚いた数人の民衆は青ざめ後ずさる。
「あと一歩踏み入ってみなよ。怪我だけじゃ済ませないよ」
 前へ出ていた民衆はレイのプレッシャーに恐怖を感じ、小さな悲鳴を上げて戻っていく。
「こんなので……」
 怖気づいてしまう様な人たちが、この蜂起を成功させてしまえる訳がない。
 レイは冷静な眼差しで分析していた。

「アルエット先輩は回復をお願いするっす」
「はい!」
 ヴェノムの指示を受けた『籠の中の雲雀』アルエット(p3n000009)が傷を受けたレイへ癒やしの光を施せば、彼女の傷口から薄く漏れていた黒い靄がスゥと消えていく。
 アリシスは戦乙女の槍をカイエルへと向けた。青く煌めく魔銀に彩られた世界樹の槍。今はその力の大半が失われようとも、彼女が握る戦槍は輝きを損なってはいない。
 纏わせた魔力はカテドラルの黒を抱いて、ユグドラシルの加護は流星を描く様に迸る。
 攻撃の向かう先はカイエルの脚。アリシスの槍は糸を針で通すかの如く、骨を避けて深く突き刺さった。そうカイエルは自認した。しかし、彼の脚からは血の一滴たりとも流れてはいない。
 痛みはある。確かにそこへ突き刺さったような痛みはあるのにだ。
「はっ……はっぁ」
「――私達が、アーベントロート候やフィッツバルディ公、ゼシュテルの兵ではなくて幸いでしたね」
 例えばの話である。同じ依頼であったとしても穏健派のガブリエルとは違う形の『制圧』になり得たかもしれない可能性。他領とのひいては、他国との武力衝突となれば、こんな温情では済まされないだろう。
 ごくりとカイエルの喉が鳴る。
「おうおう! 怖気づいたのかァ!?」
 膝をついたカイエルにジーゲルトの野次が飛んだ。
 仲間の危機に手を貸そうと動くジーゲルトの前に立ちはだかるのは『特異運命座標』サクラ(p3p005004)だった。
「ここから先は通せんぼ、通行止めだよ!」
 己が架した誓いによって今回は抜けない聖刀を盾代わりに強打を打ち込む。
「はは、嬢ちゃん良い太刀だ。だが俺も負けてねぇぜぇ!」
 至近距離からの回避は間に合わず、サクラに叩きつけられる巨大なハンマー。
 防御の高いサクラとて痛打を真正面から受けたとなれば多少のダメージは負う事となろう。
 しかして、高い耐久力があれば損傷をカバーも出来るのだ。
「まだまだ……!」
 流れるブラッディ・レッドの血飛沫が乾いた地面に散った。
 サクラは思惟する。確かにガブリエルの人柄は他の貴族と比べれば良いのかもしれない。しかして、担ぐに値するのかと問われれば疑問が残る。他の二人であれば担ぐ気にもなれないと、一人ごちりながら。
 彼らの高揚感は何処からくるものだろうか。原罪の声の影響なのかもしれない。ならば、この手で止めなければならないだろう。
「そんな程度じゃ」
 取れる手は限られている。
 一人ならば小さい力なれど、仲間と力を合わせれば、道は広がる――
 その為なら挑発だってお手の物である。
「黄金なんとかさんも暗殺令嬢も倒せないよ!」
「んだとォ!?」
 ジーゲルトの怒号が戦場に木霊した。

 ――――
 ――


 善意である事は必ずしも良いとは限らないものである。受取手次第では結果として悪意と相違ない物に成り下がるのだから。
『くるくる幼狐』枢木 華鈴(p3p003336)は小さくため息をついた。
 幻想各地で狂気に染まった事件が示すのは『先の無い』刹那的な行動だろう。眉を寄せる華鈴は頭を冷やせと言わんばかりに眼の前のハーマンへと大太刀を一閃した。
 アガットの血色を滴らせる刃。避けきれぬ攻撃は敵の皮を裂き肉へと至る。
「汝らは、この程度の戦力で国家転覆を促すつもりなのかや?」
 ハーマンがバツが悪そうにちらりと視線を逸らす。その先に見えるのは傷を負い戦意を喪失したカイエルとその部下たち。
 残っているのはジーゲルト隊とハーマン、それに部下の二人。
「いや、まだだ……俺たちは!」
 何処から。この負けゆく戦場を見て、何処からその闘志が生まれてくるのか。
 華鈴は刀を握る手に力が籠る。
 無謀にも程があるのだ。圧倒的な戦力差が分からない様ではこの先、いつ命が潰えてもおかしくない。
 根っこの部分はガブリエルを慕う気持ちがあったとしても。
「この現状、役に立っていると思っているのかえ?」
「……っ!」
 心の奥底ではもう敵わぬ事を分かっているのではないのかと。華鈴の赤い瞳が強い眼差しを向ける。

「さぁて」
 ダンデライアン・ゴールドの瞳が唸りを上げた。
『白銀の大狼』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)は神話の番犬の名を冠する大剣を掲げ戦場に立つ。
 ――方法が滅茶苦茶とはいえ。
 知人の苦しみ故の行動を、無かった物として扱うガブリエルにルーミニスは憤っていた。
 領主とはそれだけ身動きの取れない立場なのだろう。けれど、繋いだ縁を無碍にする行いは薄情なのでは無いかと思うのだ。自分がそんな事をされた日には相手をブン殴ってしまうだろう。
 政治とは各も厄介なものである。
 さりとて、依頼は達成しなければならない。
 激烈華麗に。ルーミニスは声を張り上げる。
「暴れたい奴は相手してやるわよ!!!」
 振り下ろされるガルムは絶大な威力を持って標的へ打ち据えられた。
「ひぎっ!?」
 咄嗟に急所を避けたハーマン。
 しかし、敵の耐久力を上回る痛烈な強打は腕の骨を砕き、一瞬で戦闘不能へと押しやったのだ。


「話を聞いて!」
 シャルレィスの声が戦場を駆ける。剣戟はまだ続いていた。
 残る戦力はジーゲルトと部下の二人だけ。勝敗など、とうに見えている。
「武器を引いてくれたら、こっちも攻撃はしないから!」
 年端の行かない少女の声に揺れる心。しかし、引けぬ思いも確かにある。
 あるのだが――
「これ以上続けても結果は見えてると思いますが、まだ続けますか?」
 ノブマサの冷静な問い。シャルレィスの真っ直ぐな青い瞳。
 ジーゲルトが意思を折るには十分すぎる圧倒的な戦力差。

「……わかった。降参だ」

 ガランとハンマーを投げ出したジーゲルトはその場に膝をついた。

 ――――
 ――

「こんな計画で本当に成功すると思ったの?」
「ボク達8人も止められない相手が何をしようと言うのですか」
 ノブマサとレイはアーブラハムの前に立ち、質問を投げかける。
 無知無謀。烏合の衆が行き着く先は泥舟だろうか。
「いい? いくら集団になったところで急にみんなが強くなれるわけではないんだから」
 闇雲に武器を振るうだけでは簡単に殺されてしまうだろう。
 大切なのは戦術と策略。
「……」
 叱咤された子供の様に悄気げた顔をして黙り込むアーブラハム。
「自らの意志で立ち上がったならそれも良いでしょう」
 何者かに操られている可能性。それを感じ取ったであろうガブリエルだから、ことこの依頼に関して死者を出さずに済ませろとオーダーしたのだろう。
「貴方達を慮ればこそ、今立ち上がる事はないでしょう」
「しかし……!」
 ノブマサの言葉に首を振るアーブラハム。こうまでして頑ななのは何者かに操られているからなのか。
「見えざる『何者か』は、ボク達が討ちます」

 そこに重なるサクラとシャルレィスの声。
「ダメダメ。私達にも負けるようじゃ全然ダメダメのダメだよ」
「蜂起の噂――私達にすらすぐに漏れてしまった計画がうまくいくと思う?」
 ガブリエルは他の貴族と比べれば良識のある人格である。その彼が王になれば荒れた幻想国も改善されるかもしれない。しかし、ガブリエルは立ち上がりはしないだろう。
「友達をむざむざ死なせるのは嫌だもん」
 ヴェノムは興味無さ気に、けれど精一杯の励ましの言葉を紡ぐ。
「んーあの緑の先輩。「友」の屍の上を歩いていく人には見えないっすけど」
「……友」
「そうだよ。ガブリエルさんの友達なんだよね?」
 サクラとヴェノム、シャルレィスの言葉を噛みしめるように自分の胸元を握りしめる男。
 このままでは友であるガブリエルを窮地に追い込むだけの行為になってしまう。
「本当に彼を信じているなら、今はまだ待つ時なんじゃないかな」

 此処に集まったイレギュラーズにさえ敵わない戦力で。国内の他の貴族勢力に敵う筈も無しとアリシスは紫の瞳を伏せる。この者たちは国内のみならず、他国が動き出すかもしれない、という事も考えに及んで居ないのだろう。
「バルシュミーデ卿。貴方はバルツァーレク伯より自分の方が優秀だとお考えですか?」
「……いや、それは」
 苦虫を噛み締めた様な表情で視線を逸らすアーブラハム。
「国家転覆が成功するならまだしも、失敗した場合の責任は誰が取る事になるかのぅ」
 多大なる代償を払い尻拭いをするのは誰でもない、祭り立てるガブリエルに他ならないのだ。
 その失脚の原因を与えるのは愚考だと華鈴が諭す。彼女の声はカリスマを帯びて耳朶に響いた。
「伯が立たない事には、伯なりの思惑と判断がありましょう」
 重ねるアリシスの声音。
 成すべきは、ガブリエルの言葉に耳を傾け手助けをする事ではないのかと投げかける。

「そうそう。手助けにも相手の事を知るのが大事だし……」
 ハーマンの槍を真っ二つにしていたルーミニスは振り返った。
 美食の繋がりであるのならば。
「今度は美味しいものでも贈ってまた歩み寄る所から始めなさいな」
 にっかり浮かんだルーミニスの笑顔。
 一度は切れた縁を再び結び直すのは容易い事ではない。ましてや三大貴族の一人として膨大な領地を収める領主である。昔の様にはいかない可能性の方が高い。
 けれど。
 進まなければ始まらない。

 特異運命座標が触れた羅針盤は破滅への道筋を捻じ曲げる――――
 可能性を生み出す希望の光。

「歩み寄る……か」
 アーブラハムの呟きは落胆と安堵を織り交ぜた声色で。
 先導者の心の揺らぎ。
 それは、蜂起の終結を物語っていた。


 ――――
 ――


 報告を受けたガブリエルは憂う青い瞳は変わらないものの、領民の命が失われていない事に心弛んだ。
「アーブラハム……君は」
 何を思っていたのだろうかと小さな呟きが漏れる。
 領主という立場上、自ら関わってはならない人物へと相成ってしまった彼に掛ける言葉は無いけれど。
 一人の人間として旧友の行く末に少しでも幸せがある事を願わずにはいられない。
 祈りは誰に憚ることもないのだから。
 その瞳には、憂いのシャレイ・ブルーが仄かに揺らめいていた。

成否

成功

MVP

ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)
烈破の紫閃

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
MVPは先導者の心を大きく揺さぶったルーミニスさんへ。
ご参加ありがとうございました。もみじでした。

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