PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<FarbeReise>爽昧ティールーム

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天鵞絨の絨毯に、レースで編んだテーブルクロス。まるで玩具箱を引っくり返した様なカラフルな茶器を持つのは負けず劣らずカラフルなゴーレム達。ペンキの海にぼちゃりと落ちたような色彩のゴーレム達は規則正しく茶会の準備を繰り返す。

 ――良いかしら、お客様をお招きして。

 まるでプログラミングされたかのように。ゴーレム達は自身らに染みついた言葉を繰り返す。
 テーブルの上に置かれた爆弾に魔法道具、毒入りフィナンシェと麻痺薬の入った紅茶。
 罠ばかりが設置されたそのテーブル。それでもゴーレム達は何も知らずにお茶会ごっこを繰り広げる。

 ――良いかしら、このお茶会を最後までこなしたお客様にプレゼントをお渡しするのよ。

 何時か――そんなお客様が来る日を夢に見て。


 茹だる暑さも陽降れば肌撫でる冷たさが包み込む。凍えるような砂漠の夜も幾刻か過ぎれば朝がやって来るだろう。カンテラの火が揺らぎ、のっぺりとした影を伸ばす。羊皮紙の上にペンを滑らせる学者達は皆、未知なる領域への期待に胸膨らませているのだろう。

『FarbeReise(ファルベライズ)』――そう名付けられた遺跡群は外郭部と内郭部の二重構造を形作っているらしい。遺跡内部に存在する『願いを叶える秘宝』を悪用されることなき様にと悪辣なる輩に奪われる前に秘宝の確保の依頼が舞い込んだ。
「例えば、どのような願いが叶うのでしょうか」
 祈り、捧げるように。『かみさま』に懇願する事とは又違った意味合いを持つのだろうかと『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は首を傾ぐ。
「小さな傷が治る、吃逆が止まる……。些細なことでも、叶ったならば。
 屹度、人々は感謝をし喜ぶのでしょう。……悪しき、事に使われなければよいですが」
 呟く。広がる洞には明り無く、カンテラ一つがぼやりと暉す。
 学者達の調べによれば、『ファルベライズ』は様々な顔を見せるらしい.その人区画――夜更けより明け方までしか入り口が現われることのない区画に潜入して欲しいのだそうだ。
 その入り口は植物の蔓で美しく装飾され、貴族の屋敷を思わせる重厚な扉が据えられている。ドアノブは薔薇の花を形取り、扉の中でもその存在を主張する。
 ゆっくりと開けば奥には様々な絵画が飾られた階段が存在した。小高い壁は天井を見ることも出来ない。その場所が遺跡の内部であるとは到底思えないような天鵞絨の絨毯が敷かれた階段を一段一段ゆっくりと降りてゆく。
 最下層まで着いたときに「静かにお入りください」と掲げられた扉が存在した。
 ゆっくりと扉を開く。重たい扉の向こう側には可愛らしいティーパーティーの準備が整えられた空間が広がっている。

「ここはご主人様のティールームでございます。お客様。
 ご主人様はとっても臆病。皆さんが悪しき者で無いかを見極めたいと仰っておりました」

 原色のペンキを頭からべしゃりと被されたようなカラフルなゴーレムは静かにそう言った。胸元の小さな蝶ネクタイは彼を執事であると主張させるかのようだ。

「……見極める、ですか?」
「ええ、ええ、お客様。我らの主が準備したお茶会を心より楽しみ、そしてその力を見せて欲しいのだそうです。
 先ずは私達とダンスをしましょう。それから、席についてお食事を心ゆくまでの楽しんでください。
 途中、主様が皆さんにお聞きしたいことがあるようです――『どうして此処にやってきたの?』と。
 皆様叶えたい願いを主様に教えて欲しいのです。病を治したいでも、強くなりたいでも。主様は外に憧れるお人。お客様の願いと、その理由を聞けば屹度姿を現してくれるでしょう」
「その……ご主人様は願いが叶う秘宝――『色宝』をご存じなのですか……?」
「勿論! 主様はご自身が認めた相手にお宝をお渡ししたいのですから!」

GMコメント

 日下部あやめです。ダンジョンの秘密のお茶会です。

●『爽昧ティールーム』
 ラサに存在する遺跡群。その一区画に存在する夜更けから明け方までしか姿を現さない茶室です。
 美しい重厚感のある扉を開いた先には天鵞絨の絨毯が敷き詰められた階段が存在します。下り階段の最奥に有る扉を開けば――其処では『ゴーレム』達がお茶会を開催していました。
 テーブルの上には『どうぞ、お楽しみください』と紙が一枚乗せられています。

 ・凍て付く痛みが与えられる爆弾の乗せられたお皿
 ・麻痺薬入りのお茶
 ・毒薬入りのお茶菓子
 ・食べると火が出そうに辛いケーキ
 ・精神的に不安定になる泥団子
 ・触れると自身の能力が反転する『魔法道具』
 ・レクリエーションと題して『ダンス(戦闘)』を求める執事ゴーレム

 ……等など。魔法の施されたその空間の主が小さな精霊であるのは確かなようです。
 精霊が『お茶会をお客様が思いきり楽しんでくれた!』と感じた際にお宝を頂けると執事ゴーレムは語りました。

 食事は皆、罠の様な性質がありますが『毒』や『麻痺』『火』などのキーワードは其れ其れBSに適応されるのか、各BSへの耐性等で効果を受けずに済むようです。

●『どうして此処にやってきたの?』
 お茶会の最中、そんな言葉が聞こえてきます。「仕事だから」というのもあるでしょうが、主様が聞きたいのはまた別のこと。
 小さな願いを叶えたい者達として主様は接してきます。
 どうして、そう願ったのかを教えてあげてください。外に憧れる精霊は皆さんの冒険譚を心待ちにしているのでしょう。

●ゴーレム達
 お茶会のおままごとのしたいゴーレム達。
 彼等を満足させることが出来れば主催の精霊もきっと大喜びするでしょう。
 レクリエーションとして簡単な手合わせや戦闘を行って欲しいとゴーレム達は求めます。
 主に帯する見世物と主が認める相手であるかを見極める目的のようです。

●小さな精霊
 この遺跡の主。外の『お茶会』に憧れて自身の魔力で作り出したようです。
 精霊の事はゴーレム達は『ご主人様』と呼んでいます。彼女も混ざりたいようですが、『お宝を狙いに来た悪い奴』であるかを警戒してゴーレム達に応対を任せているみたいです。

●同行NPC エルピス
 元聖女の情報屋。のんびり屋です。指示があれば従います。
 それなりにのんびりお茶会を楽しんでる振りをするようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 ちょっぴり不思議なお茶会です。
 どうぞ、ごゆるりとお楽しみ頂けますと幸いです。

  • <FarbeReise>爽昧ティールーム完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞

サポートNPC一覧(1人)

エルピス(p3n000080)
聖女の殻

リプレイ


 臙脂色の絨毯に、微笑むレディが誘いを述べる。段々続いた階段をそろりと密やかに降りる足取りはやや重く。『秘密のお茶会』に招かれた九人が辿り着いたのはシンプルな木材のドアであった。ドアノブは丁寧に磨き上げられ見下ろすだけできらりと光る。静かにお入りくださいと垂れ下げられた看板だけがその場で不似合いなようにも見えた。
「様々な顔を見せるファルベライズですか……。そして、願いを叶える秘宝――」
 トレジャーハントには余り興味は示さないけれど、と鮮やかなる縹と紫苑を細めた『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)のブーツのヒールは絨毯に埋もれる。飾り紐が光沢揺らし、ドアを照らしたスポットライトの光を鈍色に反射した。
「遺跡の奥。不思議なお茶会。寓話ならばどれ程素敵でしょうか。
 何だか不思議な感じがしますね? さて――どんな物語が待っているのでしょう」
 三日月を作った唇が更にその形を鮮明にする。手を打ち合わせうっとりと。
『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は仲間達を振り返る。扉を開きましょうと無言の肯定、錠も無く『客人』を待つ扉はその重厚さとは裏腹にカチャリと可愛らしい音を立てて開いた。
 ぱちり、とその大きな眸を瞬かせたのは『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)であった。細かく編まれたレースのテーブルクロスにアンティークのテーブルは喜ぶように菓子や茶器をその胴体に並べている。並ぶ椅子には座り心地に気遣ったようなやや草臥れたクッションが置かれていた。
「素敵なお茶会だね」と肯定的に笑み浮かべ『清楚(笑)』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は一歩、踏み入れる。広間と呼ぶほどには広くも無いが一室と呼ぶにはやや広い。足下を包むふかりとした絨毯の感触は遺跡の内部と呼ぶにはあまりにも不似合いだ。
「お客様」と子供の玩具が如く、カラフルなその体躯を揺らしたゴーレムは恭しくもそう言った。胸元には小さな蝶ネクタイが飾られ、巨躯を縮めて歓迎するようにアシェンに手を伸ばす。
「よくぞいらっしゃいました」
「此度はお招き頂き有難うございます、バトラー」
 スカートを持ち上げて。童話の淑女が、幻想王国の令嬢がそうする様に恭しくも頭を下げる。固い体躯で無理にでも礼を取ったようにゴーレムは腰を曲げた。
「主人もお喜びになるでしょう」
 固い口調に喜びが孕まれたのは無機質な『作り物』達にこの部屋を作り出した精霊の心が反映されたからであろうか。此方へと手を伸ばし『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)を椅子へと誘うゴーレムに慣れないエスコートを受けながらキドーはゆっくりと腰掛ける。
 眼前に並んで居るのは甘い菓子では無く世にも奇妙な物品の数々だ。冷ややかさを今にも感じさせる爆弾は青磁の皿の上に鎮座する。テーブル中央にどしりと腰を下ろした天使像がそんなキドーを笑うように堂々たる居住まいを示していた。
「お茶会が正しくはどんなイベントのことを言うのかをあとでトコトン話し合おうね!」
 揶揄うような声音でそう言ったのは『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。目の前に存在する泥団子が人間の口に合うもので無いことは誰の目が見ても明らかだ。静々とお茶会を楽しむのは柄では無いから、マナー等気にする素振り無く青年はからりと笑う。
 エスコートされながら周囲を見遣る。『鬨の声』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)の鋭い二つの眸が映すのはゴーレムの体だった。所詮は土人形たるそれは所々にガタが来ている。カラフルに身を塗固められようとも、その耐用年数は――……そこまで考えてから「お手を」と差し伸べた彼へとそうと手を乗せた。
「何百年だかをずーっと客が来るのを待ってたのか。
 待った甲斐があったって言えるようしっかり歓迎されねえとな」
 幾年、待ち続けたか。定かでは無い小さな小部屋。『ファルベライズ』は未だ眠りから冷めたばかりだ。その中の一つがこの妖精のティールームだと言うならば夜半より夜が明けるまで彼等の心往くまで歓迎を受け続けたいというものだ。
 願いが叶う宝が眠っている。悪意在る者の手に渡るべからず。『聖女の殻』エルピス (p3n000080)が口にした言葉を思い出し『果てのなき欲望』カイロ・コールド(p3p008306)は肺深くに停滞した疲労の息を吐き出した。
「茶会ですか。最近は忙しくてティータイムをする暇がありませんでしたが……
 休息のチャンスですね、ゆっくり休むとしましょう……正しくはゆっくり休みたい、ですか。願望ですよ願望」
 ――そんな些細な願いを叶えてくれるのが色宝。揶揄う声音のカイロは「さて、ムッシュ。ダンスとティータイム、何方から始めますか?」と問い掛けた。


 茶会の席に腰掛けた特異運命座標へとゴーレムは「我が主の為にダンスを踊って頂きたいのです」とそう言った。そのダンスが優雅な社交ダンスとは訳が違うことは一目瞭然だ。カイロの願った『ゆっくりティータイムを』というのは叶わぬ事がそこで分かる。
「お茶会にダンスは必要ないケドね」と揶揄う声音のイグナートは小さく笑って、椅子よりゆっくりと立ち上がった。目の前の菓子類が『自身らに不利益』与えるものであることはよく分かる。それでも、来客を待ち望んで拵えられた者を無碍には出来ないとミルヴィは小さく喉を鳴らした。
(……不利を受け入れるのは少し勇気が要るけれど、折角用意された試しだもん、だから皆、ごめんね!)
 ひょい、と苦々しい泥団子を口元へと運ぶ。泥の香りは独特だ。指先に付着したそれを拭うための布巾を用意したゴーレムに礼を言う。うう、と声を漏らして痺れを感じさせる茶を口へと運んだ。一見すれば美しい茶菓子を齧り、蝕むものを感じた後、ミルヴィは腹の奥底から息を吐き出す。
「うえぇ……わかっちゃいたけれど意外としんどい……」
 泥団子の影響は何もない。それでも、体の痺れに、毒の痛みはその身を蝕み続けるのだ。それがミルヴィにとっての不利であることに気づき、アシェンが小さく息を飲む。
「今、なんでわざわざ不利を受け入れるのかって思った?
 決まってるでしょ? アタシは踊り子でアイドル……ファンからの歓迎のもてなしは全部信じて受け入れるだけサ!」
 にい、と笑う。彼女の不調をまじまじと見遣った四音は状況を兆分析し、問題を解決出来ぬものかとサポートAIの支援を受けてミルヴィを見遣る。
(ふむ……)
 続くように、茶菓子とケーキを手に取ってにんまりと微笑んだ四音は「これは信用にたる相手かどうかというのを試されているのでしょうか?」と揶揄う様にそう言った。テーブル中央の天使像が僅かに揺れ動く。
 少女は自身のその身に付与された苛む全てを拒絶する魔術によって影響を受けることは無い。狡いと云う勿れ。これも戦略なのだとにこやかに「良きお味でした」と微笑んだ。
「無様な踊りを見せるのも失礼でしょうし……これ位で踊り始めませんか?」
 すう、と紅が覗く。その言葉に頷いてキドーは「早速ダンスから始めよう。茶会は後で楽しめるだろ」と小さく笑う。
「共戦……いや、どうせなら皆で踊るかい?」
「イイね! ニギヤカに騒ぎながら楽しむのが一番だ!」
 とん、とん、と。リズミカルに地を踏みならしイグナートは踊るように体内の気を滾らせる。その右腕には拳士のなれ涯てを。そして、纏う気を力に舞踊るように前線へと飛び出した。
「折角なら踊りながら食事はどうだい? ムッシュ。
 爆弾、泥団子に魔法道具! オレたちだけで楽しむのは悪いからね! 自分たちのヨウイしたものがどんなものか味わおうよ!」
「優しいお客人だ」と柏手ひとつ、ふたつと鳴らしてゴーレムが両の手を広げる。その動きをちらりと見遣り、「複数人で踊るダンスもあるんだ。知ってるかい?」とキドーは問い掛けた。
 離れていてはダンスは踊れない。息を合わせた複数人での芸術。その堅牢さを生かしてずんずんと進むその手に刃が一つ。
「さあ……Let`s Dancing!!!」
 ひらり、と剣を翻す。ファル・カマルは美しくも月色を帯びて舞いを蠱惑的に魅せた。ミルヴィはエルピスへ観客席にて精霊と共に眺めることを勧める。
 魔法道具を触るのも気は進まないが、とルカは小さく笑った。踊るならば満足いくダンスを。そして、食べるならば全てを鱈腹平らげて精霊が喜ぶようにと配慮を一つ。
「折角のダンスだろ? なら、色々見てくれ」
 空間ごと、その拳がゴーレムを吹き飛ばす。しかし、その身が部屋の壁にぶつかることが無いのはそっとゴーレムの腕を取った沙月の優雅なる足運び。誠心誠意踊りましょうと邪剣は緩急、極意を瞬時にその身に宿し攻撃に踏み込みの予備動作無く優美に踊る。
 ミルヴィが光の舞を踊るならば、沙月は昏き宵。ひらりとその身を揺らめかし、その手には机上のカップケーキが一つ。
「心頭滅却すれば火もまた涼しと言いますし、辛いケーキは無心で食べるようにします。
 ええ、決してやせ我慢をしているわけではありません――絶対にです!」
「辛いのはお嫌い?」とアシェンは小さく笑み零す。過激なダンスは作法もハチャメチャ、それでも『それが正しい』ならばお引き受けしないのも淑女ではないとひらりとドレスを揺らす。
「なんてこと…! 私の口がおかしくなってしまったのかしら!」
 辛いケーキに唇を押さえれば沙月が小さく笑みを零す。ほら、『大変』なお味でしょうと揶揄う声音にアシェンはこくりと頷いた。
 あべこべの味は寓話のように可笑しくて、お口直しのお茶もぴりりと痺れて背筋をなぞる。
「驚いてしまったけれど、よく味わえば美味しいわ……!」
 食事続けるアシェンの傍らで『魔法道具』に触れる勿れとカイロはダンスにトライする。踊りの経験は少ないですがと前置き置いて、ゴーレムの拳受け止め、金色の光でその拳を弾けばゴーレムのその巨躯が宙を躍った。
 大神官の聖杖がとん、と地を叩けば纏う光が清廉なれと世界を照らし、四音の足下を明るく輝かせた。
「素敵なダンスホールの完成ですね。ならば、此方は如何でしょう?」
 癒し、重ねれば気持ちの良いダンスが踊れるでしょうところりと笑み零す。茶菓子にケーキ、とても美味しいですと微笑む彼女の傍らでイグナートがはっと顔を上げ、もがくように身を固める。
「うぐうおおおおおおお!? これは! キツイ! これを作ったシェフは本当にハンセイして!」
 過酷な空間もなんとやらとイグナートが叫ぶその声にキドーも「ヴッ」と声を詰らせた。
「思ったより強烈だな……!」
「大丈夫ですか? ふふ、ダンスに支障を来さぬように――さあ、もう少し踊りましょう」
 四音の分析を受けても咥内の味覚は悲鳴を上げる。気がつけばテーブルの上は伽藍と何もなく。
 食事もダンスも満足行くほど、心ゆくまで楽しめば、ゴーレムはぴたりと『踊り』を止めて「お見事でした」と手を叩いた。



「ご主人様からのご質問にもお答え頂いても?」
 着席したイレギュラーズへとこてりと首を傾いだゴーレムの歪んだ蝶ネクタイはどうにも珍妙だ。荒れた室内を他のゴーレム達が清掃すれば、一人でで立ち上がる箒がさ、さ、と音立てる。
「『どうして此処にやってきたの?』――でございます」
「簡単なことですよ。この依頼はラサの重鎮達の連名依頼ですからね。
 報酬はもとより、偉い方々との繋がりを得られる可能性があります……要はお金とコネですよ。私が偉い立場ならば、お金だけですが」
 生きる上では必要な基盤であるとカイロは静かにそう言った。色宝は美しくとも一つでは何ら意味が無い。
「色宝への興味もありますが、私は目先の欲の方が大事でね。
 数を集めなければ力を発揮しない、しかも可能性の問題で絶対ではないと聞きます……それならお金とコネ、それと名声を選びますよ。私は」
「お金、コネ……」とゴーレムの口が動いた。次に口を開いても良いかと発言を望んだのは沙月である。光帯び方の違い眸は伺うようにゴーレムを覗き込んだ。
「此処にやってきた理由は色宝などではありません。
 この場所に何があるか気になったからでしょうか?
 噂として聞いたこともありますが、自身の目で確かめてみたかったのです。どのような場所で、どのような物があるのかを……簡単に言うと探求心満たすためでしょうか?」
「探究心というなら俺も叶えたい願いがあってね。覇竜領域でドラゴンと戦って認められる事だ。
 でもそりゃあ人に叶えて貰うんじゃ意味がねえ。自分の力で為して初めて意味がある事だ――だから宝物で叶える気はねえ」
 なら、どうしてと静かな声音でゴーレムは問い掛ける。些かその気配が違ったのにルカは小さく笑った。
「それを探しに来たのは悪い奴に利用されねえ為ってのが本音のとこだ。
 でもアンタらが俺らと遊んで楽しめたんなら、それ以上の意味はあったな」
 ルカが笑うその傍でそっとティーカップを差し出したミルヴィがにんまりと微笑んだ。
「楽しんでくれた?」
 アクションを求めるように。そっと歪んだ蝶ネクタイを直した細い指先がゴーレムの泥を拭う。
「楽しかったですよ」
「なら良かった。アタシはアイドルでダンサーなんだ。どうしてここにだって?
 決まってる! 貴方達にアタシの踊りと音楽を見せて一緒に笑うため!
 貴方達が笑ってくれて、楽しかったって云ってくれるならアタシの願いは叶っちゃったね!」
 微笑むミルヴィにゴーレムがおっかな吃驚したように肩を竦めた。ティーカップを握る石の指先は硬く、とてもじゃないか動かない。然し、それは意図したように容易くカップを握り込んだ。
「どうして此処にやってきたのか。ええ、私は物語を求めてでしょうか。
 幻想や天義、海洋での決戦等で感動的な物語の数々が生まれましたし、最近では、海を越えた向こうの国に住む人達の話――再現された都市に潜む怪異と、それから日常を守る人々の話」
「物語が外には沢山あるのですね」
「ええ、それに……はたまた砂漠の遺跡に眠る秘宝の話とか、ね?
 ここにも。貴女にもあるのです。そういう、たくさんの素敵な物語を集めて楽しみたいんです」
 そうと囁く言葉に胸が躍る。ゴーレムはむず痒くなったかのように沈黙した。イグナートは「もっと願い事らしい願い事がキケルと思った?」と問い掛ける。
「勿論」
「ムズカシイ質問だよね。だから、オレはこう答えようかな?
 オレはコキョウをもっとイイ国にしたいんだ。
 だからそのために強くなりたくてローレットで働いてる。ここに来たのも色んな経験を積んで、色んな考え方を知るため、かなぁ? 楽しそうだから来たっていうのがイチバン合ってるけどね!」
 君も楽しかっただろう、と問われた声音は僅かに跳ねた。ゴーレムは「楽しい」と囁く声を僅かに震わせて――それは無機質な石人形の感情では無かった。


「別に色宝で何か叶えたいって訳じゃない。ただ、そんな凄えものなら手に入れれば気が晴れると思ったんだよ」
 口を開いたキドーは興味もなさそうにテーブルの上の塵を払った。万人にとっての夢、望むべき存在を振り払うように小さく笑う。
「オレはもっと好き勝手に、気儘に、享楽的に刹那的に生きるつもりだったんだ」
「ならば欲しいのでは?」とゴーレムの口が動いた――それは、この部屋の主の意志か。キドーは「の、筈だ」とニヒルに笑った。
「なのに、最近はどうもしっくり来ない。あの荒れ狂う絶望の青で、いとも簡単に沈められた頑強な艦や、足掻きこぼれ落ちた無数のヒトを見たせいなのか。よりにもよって船を俺に託したままくたばったタコ野郎の海賊のせいなのか」
 望むが儘に、享楽的に手を伸ばすことが難しくなった。他人の懐にその手を突っ込むのにさえ躊躇する。落魄れた盗賊のようだと自身を揶揄してキドーは云った。
「もしかしたら、願いを見失ったのかも。或いは、やっと目先の事以外も考えられるようになったのか……? ――叶うならば、叶えたいものを見つけたい」
「それは色宝では何とも」
 ゴーレムの言葉に「でしょうね」と頷いたのはアシェン。白髪を揺らがせて、その眸は真摯な彩を乗せ、ゴーレムを見詰めている。
「私の願いは、正直『色宝』が必要な事ではないのだわ。
 だって、だって『知らない世界を知る旅』が望みで、こちらのお茶会に加われた時点でお願いが一つ叶ってしまっているの」
 にこりと微笑む。それでも人は欲深き者だ――そう念じるようなゴーレムにアシェンは揶揄い笑う。
「それでも敢えて願うのでしたら、お礼にいつか主様達を私のお茶会にお招きしたいのだわ」
 色宝が悪用されず、守人たり得る精霊の主として。笑うアシェンの前にちょこりとした小さな精霊が姿を現した。
「また、ご一緒にティータイムを楽しんで下さるの?」
「勿論」
 頷くアシェンの背後からルカが「おい、アンタがイヤじゃねえならダンスもしよう。折角ならアンタが満足するまで付き合ってやるよ」と明るい笑みを見せる。
 さあ、踊ろう。朝まで。このひとりぼっちの夜が明ければ、明日にはトクベツをあげるから――

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難うございました。精霊さんも大喜びです。
 皆さん全て平らげて下さるとは思わなくて、きっと、精霊も喜んでおります。

 また、ご縁がございましたらば。是非、お会い致しましょう。

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