天に光の花束、地に笑顔の花を

オープニング

●門出を祝い前途を護る
「春に花祭りを行った町は、今どうしているのかしら」
　リゲル・アークライトの母、ルビアはとある昼下がり、自宅に居たリゲル＝アークライト (p3p000442)とポテト＝アークライト (p3p000294)の2人に問い掛けた。
　「観に行ったかしら？」と続けたルビア似、2人は静かに首を振った。そう言えば、春の花祭り以来足を向けた事は無い。風の噂では上手くやっているらしく、既に来年のチューリップの球根やその他準備も進んでいるとは言うが。
「あの人達は花祭りでかなり元気になっていましたし、大丈夫だと思いますが……」
「いいえ、『だと思う』では不足よリゲル。私達が一度目をかけたのだもの、ちゃんと最後まで見守る義務があると思うわ。……具体的には今の時期になにか町おこしができないかしら」
（多分、お義母様が催しを所望してらっしゃるのだろうなあ……）
　リゲルの疑問に息巻くルビアを見て、ついそんな感想を抱いたポテト。恐らく間違っては居ないが、町おこし自体は悪い話ではないし、寧ろ天義を盛り上げる為にもいいのは確かだ。
「それなら、花祭りに参加した仲間達なら話が早いでしょう。至急、相談してきます」
　そうと決まれば話は早い。
　リゲルとポテトはローレットに赴き、以前花祭りに参加した面々と相談を始めるのだった。

●夏祭り（初秋）
「花祭りの準備に来た時と違って、皆さんの音は穏やかですね。でも次のことを考えている忙しなさも混じっている。活気のある様子だと思いますよ」
「よかった……花祭りがいい影響を与えてくれたならわたしも安心できます」
　リア・クォーツ (p3p004937)の“耳”に届くのは、以前の町とは違い平和な音がメインだ。落ち着きのある音に胸をなで下ろす彼女の様子に、アニー・メルヴィル (p3p002602)も胸を押さえてほっとする。
　差し出がましいことをしてやいないか。そんな疑問が無かったといえば嘘になる。
「大丈夫だよ、アニーは祭りの成功の立役者だったんだから。皆感謝してるさ」
　上谷・零 (p3p000277)はそんなアニーに優しく話しかけ、問題ないと笑ってみせた。彼の姿を見た子供達が手を振ってくるのを見るに、彼は彼でそれなり顔を覚えて貰っているようだが。
「夏を感じさせる祭りを増やそうって糊塗でいいんだよね？　なら、花火大会と縁日みたいなものがいいのかな？」
「縁日！！！！　いいですわね！　あちらこちらでビールが売られて長椅子を囲んで飲んだくれますのね！？」
「気が早いわよぉヴァレーリヤ。花火大会のフィナーレでいい感じに酔いがまわってるくらいが丁度いいのよぉ」
　ユーリエ・シュトラール (p3p001160)があれやこれやとアイデアを考えていると、ヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤ (p3p001837)とアーリア・スピリッツ (p3p004400)は既に夏祭りでいかに呑むかをかんがえていた。タイミングの話まで。
「2人とも、お酒は構わないがまずは準備からだぞ。日取りを決めて町の人と出店や花火を用意して本番になったらやっと飲んでいいくらいだからな」
　思わず漏れたポテトの言葉に、2人の表情がしなしなと崩れたのは無理からぬことだろう。だが、別に2人とも抑えがきかぬ性格でもない……はずだ。
　取り敢えず、イレギュラーズ達はこの町でふたたび、祭りを企画する大任を背負うこととなる。

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

リプレイ

●何故こうなったかは最早聞かない
「……さて」
「何故私達が呼ばれたのでしょう……？」
　『白獅子剛剣』リゲル＝アークライト（p3p000442）の母、ルビアの声かけで、「花祭り」を催した町で夏祭り（中秋だが）を行うという話はあった。イレギュラーズも、それに合わせて選りすぐったと聞いている。
　……のだが、なぜか準備が急ピッチで進められる状況に『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)と『蒼ノ鶫』ドロッセル＝グリュンバウム (p3n000119)の2人が駆り出されていた。何故だ。
「お二人共お忙しいでしょうが……きっと良い息抜きになりますよ」
「ドロッセルちゃんは空を飛んで当日の迷子誘導ができるし、三弦ちゃんはほら、企画運営得意そうじゃない？」
　困惑する両者を畳みかけるように、リゲルと『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ（p3p004400）が呼びだした理由を説明する。確かに依頼に赴いたメンバーには空を歩む者はいないので、ドロッセルについては道理である。三弦について若干、理由として弱いだけで。
「ビラ配りの準備をしたいのだけれど、三弦、貴女も暇なら手伝ってもらえませんか？」
「あ、はあ……確かに手隙……ですが……」
　間髪を入れず『壊れる器』リア・クォーツ（p3p004937）から仕事を振られた三弦はその場を離れ、ドロッセルは用意されたビラを配りに飛んでいく。
　周囲で人々の動きがはげしくなり、順調に祭りの準備が進むのを見て、リゲルはひとまず胸をなで下ろす。これも、交渉と最低限の根回しが上手くいった証拠である。

「というわけで、花火を……ええと、火薬の加工が得意な方をご存知であれば教えて頂きたくて」
「町の名物料理とか得意な方は是非ご協力頂きたいですわー！　調理のお手伝いとか任せてくださいまし！」
　リゲル達が2人を連れてくるより大分時間を遡って。
　『優心の恩寵』ポテト＝アークライト（p3p000294）と『祈りの先』ヴァレーリヤ＝ダニーロヴナ＝マヤコフスカヤ（p3p001837）は、手始めに町長に祭りの開催の交渉と、協力の要請に足を運んでいた。
　話は前もってルビアからも通っているのだが、こういうのは本人達が足を運ぶのが重要なのだ。
「成程、花火ですか。確か少し離れた鍛冶を生業にする村にそういうものが得意な連中が居った筈ですが。料理に関しては腕自慢の婦人も小料理屋も案内できますがいかがか。聖都に劣らぬ酒も用意がありますが」
「お酒ですの！？」
「ヴァレーリヤ、今はまだ駄目だ。……腕のいい花火師をご存じなのですか？」
　町長は2人の問いに思い出すように指折りつつ応じ、酒にすかさずヴァレーリヤが反応する。ポテトが制止しなかったら危なかった。
「そうですわね……まだ我慢……」
　ヴァレーリヤが理性と必死に戦っているところに現れたのは、誰あろうリゲル。どうやら町の人々と話しながら人を集めやすい日取りや町の現状を纏めてきたらしい。用意周到である。
「俺達はこの町を盛り上げるべく、尽力致します！　日程の候補も此方に！　一過性の祭りで終わらせず、人の交流がある祭りを目指しましょう！」
　彼の真摯な訴えは既に開催に前向きだった町長の背を後押しする一因となった。
　まあこんな感じで。前回の成功という事実も相まって、彼等の提案はかなりすんなり通り、ポテトは近隣の村から火薬師を、ヴァレーリヤは町内の料理自慢を集めてイベントの準備を進めるに至ったのである。

「花火大会！　夏祭り！　もっともっと盛り上げる為、しっかり頑張っていきます！　私は射的屋を！」
「俺とアニーは今回出店とかしてお祭り盛り上げようか！　町の人もいっぱい出店出してくれるみたいだしな！」
「皆に喜んでもらえるようなお祭りにしましょ！　食べ物は粉物や綿飴、りんご飴……飲み物も欲しいですね！」
　『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール（p3p001160）、『伝える決意』上谷・零（p3p000277）、『お花屋さん』アニー・メルヴィル（p3p002602）の3人は、出店に向けて町の人達のもとを駆け回り、様々な提案を行っていた。焼きそばやお好み焼きのような練達色の強いものは、しかし「崩れないバベル」の効果で「天義のそれらしい料理」に置き換えられた。例えば、少し食事としての色がつよいパンケーキなどのように。
　りんご飴や綿飴は言うに及ばず、である。射的などの具体例が出ると、我先にと出店の案が出てくるものである。
「あと、俺の屋台は電気も使えるし、こっちのお供も宣伝を手伝うから困ったことは言ってくれよな！」
「金魚すくいとヨーヨー釣りも出しましょう！　飲み物はお酒も必要よね、零くん？」
　あれよあれよと言う間に提案が盛り沢山の2人の姿に、ユーリエならずともほっこりとする一同。そして、手隙の人々をそれらの出店の手伝いに誘う周到さも彼等ならではである。
「今お酒って言いましたわね！」
「はいはいヴァレーリヤちゃんは私とお手伝いよぉ～？」
　どこで聞いていたのか素早く反応した赤い飲んだくれを、紫の素面が襟首掴んで引きずっていく。
　で、その素面の方ことアーリアが何をしているのかといえば、町長と掛け合ってお祭りの実行委員会の設立について協議を重ねていた。何故か進行役でギフトを使わされる三弦の姿があったが、お約束である。
「私達ばかりでお祭りの企画をしていたら誰の為のお祭りか分からなくなっちゃうわぁ。花祭りを成功させたのだし、次からは私達抜きでも動けるようにしないとねぇ」
「リゲルとポテトさんが努力してくれたからいい感じになっているのだしね。それに……お、おねーちゃんも、頑張ってるし……」
　アーリアの言葉を継ぐようにリアが頷き、最後におずおずとアーリアを褒めた。その場に居た面々の反応は、まあ言わずもがなである。
　なにはともあれ、祭りの準備は順調に進み、一同素面のまま祭り本番を迎えることが出来たのである。

●
　夕焼けから夜へと移り変わり、町がにわかに騒がしくなりつつある時間帯。祭りは既に始まっており、人々も徐々に増えてきていた。誰が教えたでも無く祭り囃子が響き、人々の様々な声が入り交じる。
「零、アニー、出店の準備は順調か？」
　そんな中、ポテトは両手に野菜を抱えて出店を回りながら準備状況や人いりを確認していた。無論、アニーと零は出店の人々を纏めている分、重要度が高い。
「ポテトさん！　おかげさまで大盛況です、ありがとうございます！」
「零くんも私も大忙しです！　あ、野菜ですか？　助かります！」
「2人とも忙しいのに楽しそうだな。野菜は配って回るから必要なものだけどうぞ」
　零とアニーは口々に忙しいと述べつつも、周囲の喧噪と相まって非常に充実感を覚えている様子。周りの人々と交流しながら祭りの勢いをつけていき、新たに訪れる人の満足度を高めていく。三方よしの姿勢は、2人がそれだけ真摯に祭りに取り組んでいるという証左である。
「リゲルは花火作りの手伝いもしていたし、今は警備をしていると言っていたな……」
　邪魔をしては悪いだろうか？　と首を傾げた彼女の視線の先には、今まさに両手に花火の束をもって子供達と戯れているリゲルの姿。思わぬ遭遇に両者とも一瞬放心するが、すぐさまリゲルは動きだし、子供達に花火を配っていく。
「ポテト、もうお祭りの補助はいいのかい？　なんなら花火を楽しんでいく？」
「リゲル……残っているならひとつ貰おうかな？　これも職人の方に作って貰ったんだろう？」
　リゲルの溌剌とした問い掛けに、ポテトは思わず二つ返事で受け取っていた。オーソドックスな手持ち花火で、子供達はあちこちにむけて花火を楽しんでいるが、リゲルの周囲からは離れすぎず、人にむけずに楽しんでいる。彼の指導が適切であることがありありと伝わってくる。
「そうそう、今渡した花火は俺が頼んで火薬の調合をさせてもらったんだ」
　だから、君に合う色に出来たと思う。
　そう、さらっと告げたリゲルの顔を見るより早く、ポテトの手には光の花束が握られていた。

「いーえーーい、かんぱいかんぱーーい！　ふへへ、一生懸命働いた後のお酒は格別でございますわ！」
「まだよ、まだまだ！　これは見回り！　いいお酒がちゃんと出回っていておつまみも完備されているかの確認よぉはいカンパーイ！」
「って、早ぇよ！？　出来上がるの早ぇよ！！　『絶対騒ぐなよ』ってフリが無駄になったろうが！」
「皆さん、余程溜まってたんですね……リアさんは先日成人したばかりですし、これからはお2人のアルハラを受けることになるんですね」
　ところで、ヴァレーリヤとアーリアはもう外聞もなく出来上がっており（飲む前から！）、リアは完全に被害者枠として収まっていた。なお、三弦にヴァレーリヤ係を押しつけようとしていたリアは彼女のざっくりとした対応に絶望の表情を色濃くしている。
「三弦ゥ！　あなた他人にタダ酒振り撒いておいて自分では飲んでねぇだろ！　この際飲めよ！　義務だぞ！」
「おっとあそこにユーリエさんの射的屋台が」
「話逸らすんじゃねぇ！」
「ほらほらリア、このお酒美味しいですわよ？」
　失敬、外聞をかなぐり捨てているのはリアもだったようだ。ヴァレーリヤから酒瓶を頬にぐりぐりされつつ目が笑っていない。
「皆さん仲良しですね！　来てくれて嬉しいです！」
「ユーリエさんは幻想での経験が活きていますね。品揃えが多彩で目移りしてしまいます」
　ユーリエの射的屋台は、三段構えの本格的なものだった。軽めの菓子を上段に、重めのぬいぐるみや花火のセットを下段に置き、下段から順に遠くなっていく仕様で難易度にばらつきがでないよう工夫がされている。そのうえで、上段はかなり取りやすい良心的な設定だ。足元を見るに残念賞も完備。
「細かい狙いを付けるのって、実は得意ではないのですわよね。もっとパワーだけで突破できる方が……ええい、悔しいし悲しいのでやけ酒でございますわーー！！」
「っておい、クソ赤髪！　迷惑かけんじゃねぇよ！」
　三弦が屋台の出来を褒め、ユーリエがうんうんと頷いている間にヴァレーリヤは2回分の弾すべてを外してやけ酒に浸っていた。残念賞を後生大事に抱えつつ。そしてリアは次第に口調が荒くなっていく。これはもう隠せるメンタルではない。出来上がってるな？
「……あっ待ってリアも中々やば、あっこの2人もうだめだわ！　ということで私も飲みまぁーす！　ユーリエちゃんは屋台頑張ってねぇ、差し入れのりんご飴とやきそばよぉー！」
「あ、ありがとうございます！　後で花火楽しみにしていますね！」
「……全員酔い潰れたら私の負担が増えるんですよねえ」
　ユーリエに見送られ、本格的に酔い始めた3人を連れてさっていく三弦。なお、彼女はこの飲んだくれ共と同程度には飲んでいるのだ。飲んでいるのだが……。
「リアの演奏が聞きたかったが、もう少し後でお酒が抜けてからかな？」
「ポテトさんも来てくれたんですね！」
　姦しい集団と入れ違いで現われたのはポテト……と、両手に屋台料理を抱えたドロッセルだった。たまたま、一緒になったようだ。
「すいません……最近ずっとヴィーザルで味気ない食事ばかりだったのでついテンションがあがってしまって……」
「きょ、今日は折角の祭りなんだし無礼講だ、大丈夫だ！　ユーリエ、射的を1回頼む！」
「そうですね、楽しんでいってください！」
　ドロッセルのどこか黒い告白はさておき、ポテトは残念賞を手に屋台を去ることとなった。なおドロッセルに就いては、まあ、うん。

「零くん……手を繋いでもいいかな……？」
「勿論、むしろ許可取らなくて大丈夫だぜ？　恋人同士なんだし」
　アニーのおずおずとした問い掛けに、零は大胆にも腕を絡めることで返答とした。男らしい彼の態度に、アニーは口をぱくぱくさせながら目を白黒させる。
　両手に抱えた祭りの景品やの重みや屋台のソースや料理の匂いもどこへやら。彼女は完全に、零の顔と浴衣しか見えていない。
（アニーの浴衣かわいい……腕が絡むのは素直に嬉しいしドキドキするし超やばい……好き……）
　で、冷静に見える零もまたこの調子で。打ち上げ花火を前に捻り鉢巻きに法被姿に着替えたリゲルの気合の入りようなど何処へやら。2人はふらふらと打ち上げ花火が見える場所へ歩いて行く。

「うっぷ、きぼぢわるい……調子に乗って呑みすぎましたわね」
　打ち上げ花火が始まってからしばらくして。因果応報というべきか、ヴァレーリヤは酔っ払い通り越して気分が悪くなるほどに飲んでいた。そして、お手洗いに向かった帰りにふらりと収まりの良さそうな闇へとあたまを突っ込んでいた。おいそこは井戸じゃねえぞ。
「あら、ここは一体…何だかじりじり音がしているのは気のせいですの？」
　じりじり。じりじり。
「誰か、誰か居ませんの！！？？　なんだかすごく嫌な予感が」

　あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！？（エコー）

「エクセレント！　流石の覚悟ですヴァレーリヤさん！」
「リゲル、ノリノリだな……いや、アレは本当にヴァレーリヤなのか？！」
「……あのバカ野郎！」
「わぁ、綺麗な赤い花火だわぁ」
　リゲルのノリが若干不安になるポテト。別の場所では慌ててダッシュ始めたリア、現実逃避するアーリア。
「さっき夜空にヴァレーリヤさんによく似た人が打ち上がってた気がするんだけど……本人じゃないよね…？　うん、きっと気のせいよね」
「え、ま、まさかマジで花火になるはずは……気のせいだよ、多分」
　零とアニーもまた現実逃避。たーまやーとかシンクロしてるし。
「素敵な打ち上げ花火ですねー！　……ドロッセルさん？」
　遠巻きに花火を愛でていたユーリエは、傍らのドロッセルがいきなり飛び立ったのに驚きを隠さない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「ヴァレーリヤさん、何処に落ちたいですか……って聞いても無駄ですよね……！」
　空中キャッチの姿勢から自ら下になる格好でドロッセルが身構える。下にはリア、これは――。

　なおこの一件でドロッセルが暫く動けなくなる憂き目に遭ったが、当の飲んだくれが微妙に無事なのを明記しておく。この野郎。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

あとがき

　この野郎。