シナリオ詳細
オクルスの夢魔
オープニング
●触れる事は容易い
世界はただ『部屋』として在った。飾り気のない生活空間に『人の騒ぎ』はなく、深々と降り積もる静が微笑んだ。緩やかに過ぎ去る『時間』と称される属性がふんわりと空気を掻き混ぜていく――そんな癒しを想わせる内側に『ひとつ』自棄を起こすような異質が成った。単純に記せば好奇心を擽る邪悪で、何者かの視点では『正しい』透明度だろう。露出した彼方側は『誰か』に対して、おいでおいでと招いている――嗚呼。風など吹いていない。嗚呼。雨など降っていない。茫々たる闇黒が聳えると謂うのに、天国か地獄が映ると嗤うのか――悉くが否定され、尽くが肯定される。中途半端の『ない』現実と幻想の狭間、貴様等は哀れにも手を握った――引っ張られる。這入り込んだのは脳天だった。
本能と理性が融け込んだ彼方、少年には如何視える。中年には如何視える。老年には如何視える……人間には如何に『み』える。どうしようもなく『抗えない』蜜がたまり、啜る事でしか溺死を免れないのだ――解せる者には恍惚で、判らない者には毒物だ。遅延性の眩暈がアルコールじみて臓腑におちる。嗚呼。そうとも、決して『きもちよくなる』云々ではない。吐き気がするほど『貴様等』が在り、漸く捉え方は確定するのだ。
怪物が立った。幸福が座った。想う『光景』は人次第だ。
部屋にひとつだけ。世界には隙間だけ。
――嗚呼。ぬめる掌は気の所為だ。
窓……窓……窓硝子の悪魔。
――クルーシュチャを解けと吐くのか。
●しかし酷く冷えている
「誰が何の薬をやったって言うのよ。私は確かに物語を開いたけどね、今回はしっかりと正常です。ほら。そこ。かわいそうな子を見る目をしない」
イレギュラーズの誰かを指差して『境界案内人』こすもが頬を膨らませた。その目玉は妙にぐるぐる動いているが、本人が大丈夫と言うなら問題ないだろう。
「今回の世界、物語は『ただの一室』よ。そこで過ごしてもらう……なんて『あらすじ』は無いわ。その部屋には大きな窓があってね? それを凝視すると『どこかに繋がる』らしいわ。まあ。たぶんろくでもない光景でしょうけど。たとえば生臭い祭壇とかね」
くすくすと笑って魅せた案内人。おそらく『窓を覗いて幻視体験してこい』という内容だ。溜息を吐きながら文字列に飛び込むと好い。
「さあ。いってらっしゃい――決して悪いようにはならないから」
- オクルスの夢魔完了
- NM名にゃあら
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年09月28日 22時20分
- 参加人数4/4人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●産声
生まれ落ちたのは肉だったのか。孕み堕とされたのは魂だったのか。この世と呼ばれた吐き溜まりに墜落した瞬間、『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は後悔と記された泥水を垂れ流した。悶絶する脳が嚢に収まり、治まる事のない運命に苛まれる。嗚呼。彼に出会ったからだ。今遭遇した背の高い浅黒い男よ……僕に何を与えてくれるの。僕に何を与えてくれたの。窓の向こうに望みが映り、届くと宣うならば口無しを開けてくれ。成程。これは確かに懐かしき『あの』蠕動……! 蛆虫どもの楽園が茫々としていた。葉っぱに群がるよりも肉にさまよい、与えすぎてはいけないと学んだのは何者だった……あの教訓が活かされる事は二度とない。想えば、根の国への旅立ちこそが安寧だったのかもしれない。痴れた王様に成った気分で螺旋状だ。誰かの血肉になって、役に立てるならば出来過ぎた終幕だ。ようこそ管理者の席と責に。遠回りと空回りに眩暈を覚えて窒息死すると好い――ぼと。ぼと。なんだ。夢にまで見た蛆虫の雨じゃないか。この神事を止める術は知れない。おいで。お食べ。いいんだよかまわないんだ……枕元の其方は栄養満点だ。
脳を這い回る感覚がたまらなく心地いい。鬼ごっこだ。窓の向こう側で追って追われて愉し気な貌。小さくて狭い無邪気が愛おしくて、それがすれ違いだと漸く咀嚼した。あの目だ。家の事情。お金。打算……真暗い瞳……出会ってくれてありがとう。しーちゃん。
●断末魔
背骨を脳味噌が這い回っている。窓は灰色のがらんどうだ。死ぬ為に駆けた称号は抜け落ちたのか、『浮草』秋宮・史之(p3p002233)。ツマラナイな。せっかくの機会だ『視たい』ものを想えば好い。女王陛下。女王陛下。女王陛下……本日もお美しい。今日はドンペリよりも海水の気分だ。ただの虚像でもオマエには充分だろう――俺はそれに夢中なんだ。無我夢中に溺れ混んで、恋というものは蜜のように甘くて楽しい。馬鹿みたいだ。莫迦の演技ではなく本物だ。はしゃいで騒いでかなわない思いとは楽でいい。年上はいいよね俺は見上げてるだけでいい。年下は論外だよ。酔っ払ったように駄々こねた……部屋の隅で泣いているオマエ。ガキのナリした僕。
あの子は僕のものにならないよ。天地をひっくり返しても可能性は一もなく、あり得るならばあの子はとっくに女の子だ。雄弁な現実が嘔吐している。伴侶の貌が鏡面を埋めて終えばいい――未練がましい糞野郎だ。眼鏡はどうしたその首刎ねてやるよ。ガラス一枚の蓋が外れ、泣けない俺を嘲るのかこの阿呆のポッカリが――重たいものは証明出来ないよう切り刻む。蛆虫でも涌いたのだ、あの鳴き声が死体から流れている。俺じゃない僕じゃないオマエの……世話係に拒否権は無い。ひな鳥は巣だってくれよ、頼むから……餌を運ぶのが仕事だった。過去形にしてくれ。
どうして僕だった死体がおまえになってる。落ち着け幻覚だ手を下したのは蛆に違いない。嗚呼でも死体なら抱き締めても……心は殺せ。どうしてそんな事を考えた?
膿まれおちた貴様等。
●果て亡くも頭蓋率
出遭ってくれてありがとう。有難くもないね。ドロドロとまじった窓の中で、不愉快な地獄が実っている。もみじの色も忘れたのか、この蛆虫の巣窟め――今日も待っていたのか。中途半端。どうかひな鳥の投身はやめてくれ――あの眼球は誰の色だった。産声も断末魔も似たような音だろう、忌々しい思線で蠢いた独り・独り……論ずる事は出来ない。頷く事も出来ない。全能感――缶に詰め込まれた基盤が崩壊している。絶好調だった。ああ。窓の向こう側で抱き逢う事も唾棄遇う事も嗤い話だ。蟲々ちーずが僕と僕の間で跳ねている。お互いの胃袋にぶつけ合えよ。
――此処が人間音の終着点だ。きもちいい。きもちわるい。
――彼方がオマエの再会点だ。きもちわるい。きもちいい。
頭蓋が並ぶ。頭蓋が並んだ。オマエ等の頭蓋が列を成していた。たらふく啜ったワームが乾杯し、その酒を愉しんでいる。所以は理解出来るだろう。蠅にもなれない後悔のミノムシめ。
アハハ。アハハ。アハハハ……!
●楽園なるかな人形劇
慈しみに塗れた世界感が『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)を手招いた。そんなに心配しなくても大丈夫だよ、オフィーリア。何も悪くならない。誰もおかしな事にならない。じゃあ念の為に君の目玉を塞いでおこう。何が観えたのかは随時報告だ。お耳は大きいのだからきっと聞こえるだろう――鏡面にはオマエ。同じ格好で同じ声色、同じぬいぐるみを抱いている――ないしょばなしは二人のはなし。華々しくも俺に話しかけているんだ。こんにちは。俺・俺・俺……そうなんだ……いいなあ。いいなぁ……ねえ、向こうの俺はね。
痛くないんだ。身体も頭も心も、何も痛くないんだって。幸せが腕を引っ張って逆転しようと微笑。え? 幻覚――嘘。嘘だ。嘘に決まっている。呼んでいるんだよ俺が。ああ。いかないで。待って。今行くからさ……彼方と此方の方程式が混ざり、脳と肝臓が回転する……可愛らしさとは無縁だろう。ああ、こんな、蕩けるような幸福があるなんて! ダンス・ダンス・ダンス。夢のような舞踏会が心肺を擽っている。踵から這入り込んだ沼地は甘ったるい快楽だろう。良心的な無痛が頭蓋を鳴らしている……俺を呼ぶ声が響き気持ち良さったら! 漿液が特殊溶液と入れ替わっている。
オフィー……リ、ア? 声をたぐる。まさぐる。ふふ。ふっふふ……やだなぁ。心配性な君。俺は正真正銘、今までで一番、いっちばん正気だよ。ああ。でも。俺ってどっちの俺だっけ。そもそも俺は何処で冷えたんだっけガラスが心地酔い――窓の向こうで※が笑っている。おかしい!
そうだ。戻ったら身体が、頭が、心が痛いか確認しないとね。切れ味のいいナイフが要るなぁ。奇妙な万能感に脳天から落下していく。ようきな舞踏が頭の中でぐるぐるしている。ああ、このまま永遠に――悪いようにはならない、そうだよね!
●窓硝子を割るんじゃない
覗く――黒く塗り潰された方程式が、その羅列を含んだ浮き出ていた。この容に集約された多岐に渡る噺の中、ソレに纏わる噺も在る故に識っている。『異界の怪異』緒形(p3p008043)は同じかどうか知れないし、知る必要も無い。覘く――ヒトデじみた頭部で在れば良かったのだ。後頭部に貼り付いた五芒星の約束、出席簿に記された子供達の反応。嗚呼。何を感じていると謂うのか、このクルーシュチャな性質め。出来るのは相対する事。願いを叶える事だけ。悉くオマエは『形容』されている。窓■臨く――ガラスが曇ってやしないかね? 掌ひっつけて遊ぶんじゃないよ。大丈夫k……お、キレイになった。背が高くて黒スーツのオマエしかいない。
先生――先生――起きてください。起きてよ、先生! 頭の中で響いている、その黄色い声々。家庭科実習室で焼菓子の調理実習中に居眠りとは! ぶおんと振り上がった脳……脳、が? 揺れた。教師として怪談として面目が立たないぞう。短髪アタマの黒を撫で、誤魔化しかいて苦笑した。調理台の上――料理好きで器用な子。蒼白く冷え切った筈の柔い手。泡立て器は手動か自動か回転している。生地が巡り遭って底には小さな球体が増えてみた。先生、苺と抹茶の何方にする?
ヨーグルト・ソースが注がれたのは気の所為だ。苺だ。苺が好い。彼は動かない筈の片足を使って、ただ何事もなく材料を持っていくホワイトチョコも作ろう。マーブルにするの! 土気色の顔、溢れていた血……薔薇色の頬は何処で手に入れた。嗤っていた解答欄に※※……ささくれ。
違和感――何を傾いている袋の鼠め。先生! オーブンの予熱始めるぜ! 濁ってもいない。爛れてもいない。そんな目玉の彼が操作パネルを『みて』設定する……一人、足りない。いよいよ可笑しい。お菓子の雪崩が意識に吸い付いている。此処には血塗れの約束が『無』い。
俺が居ない。頭部を持った赤黒い靄の少女。
――約束の紙を引っ張った。
ぱりん……ばりん。
窓硝子を割って終った。
●奈落への硝子片
先生――痛くないのは如何してですか。それは方程式を解いたからです。その答えは記していません。約束の紙束は何処に棄てたのかね。そんな問答に意味はない。ただ幸福と隔絶が入り混じった当たり前だ。全くが溶け込んで傷を癒したならば、余熱はおぞましくも膨張していく。おにんぎょうの腕をとっておままごとの始まりだ。大丈夫。先生も一緒のおもしろい演技なのだ。マーブル色の生地が咽喉に詰まっても苦しくいない――いない俺も俺の前に在るのだから、何処にも問題はないだろう。むしろ今日は良い事しか起きていない! やった。おやつは皆が大好きないたまないメロンパンだ。格子を思わせる馥郁が都市伝説の鼻をついている――おっさんにそれは勿体ないぞう。
ばりん……何度目かの窓硝子が罅いった。はりついた鼠が生徒の貌を見ていたに違いない。なんだって齧られても気分がよくなる結果なのか……ぬりたくった黒は破滅的なまでの数列だ。
学校――解放されて混沌に炙られ、また遭ったな鬼面像。
誰だよ校長先生の像壊した奴。
●オクルス
円形窓の此方には誰も残っていない。混在した夢の内で『掌』を視る事は出来ないのだ。愛らしさと憎らしさの濁流に呑まれ、狂える事の何が『あく』と言える。悪いようにはならなかった。悪い事は起きなかった。夢魔は三つ目の貌を晒し、ただ頁を閉ざして謳う。
この部屋は直にこわれていく。この世界は何れ他を求めるのだ。蛆虫が逃げた。餓鬼が放たれた。兎が失せた。黒スーツが剥がれている――何者も留まれない。
ぬめった鱗状の吐き気が、目玉の裏側で悦んでいた。
――嗚呼。あの悪魔は何だ。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
にゃあらです。
今回は『一部屋の世界』にある『窓』の向こう側、思い思いのものを幻視してもらいます。見る者によって内容が変わるでしょう。幸せで戻りたくなくなったり。絶望して戻れなくなったり。その他好きなように。
サンプルプレイング
「視える。見える。観える」
可愛らしくなった私が居た。
たくさんの愛を知って育った、私が居た。
そうして、いつの間にか『私』がそうだった。
美味しいものを食べて本を読み、あたたかなベッドにはいる。
――嬉しいな。
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