PandoraPartyProject

シナリオ詳細

九月蜂起

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●自由を求めて
「a-73! A-106! サボるな、働かんか!!」
 鉄帝の中でも北部の北部。
 リンバスと呼ばれる山脈地帯の一角に――とある洞穴があった。
 いや。中まで見てみると洞穴というには巨大であり、むしろ洞窟と言う方が正確だろうか。その中で多くの者達がつるはしを手に労働に勤しんでいる……鉱山の開拓とも見て取れる光景だが、しかしその労働者たちを見張る者達の存在は『穏やか』には見えず。
「ちくしょう……連中め、俺達の事を家畜か何かだと思ってやがる……」
「しっ! あんまり大きな声を出すな、またどやされるぞ」
 そして実際に、労働者達の目からしても『そう』であった。
 監視の者達は非常に重武装をしており、その手には鞭や警棒が握られている。一方でつるはしを持っている労働者たちの服装は酷いものであり、安っぽい布が巻き付いているだけと言っても過言ではない。視界の隅ではその監視者に警棒で滅多打ちにされている労働者もおり――そう。

 もはや想像のつく者もいるだろうが、ここは完全に強制労働の場であった。

 この場所は一体なんなのか? それは、この地帯一体を所有しているオルグリンという人物が全ての元凶である。オルグリンは鉄帝の中ではそれなりの資産家であり、鉄帝各地に多くの土地を持っている程の人物だ。
 そして彼は『金貸し』の様な事業を営んでいるのだが――時折金を返せない者達をこうして強制労働の場に連れてきて『返させる』訳である。オルグリンは宝石好きであり、この山脈では時折希少なモノが出る事もあるとか……つまり彼の趣味の為に労働者たちは働かされている。
 ――なお。返せない者と分かっている者にわざと貸して状況を追い込んでいるという噂もあるのがオルグレンという人物だ。
「次にこうなりたい奴はいるか? あぁ!?
 ゴミクズ共は目の前にだけに集中していろ!」
 そして、私刑を行っていた監視者――つまりオルグリンの私兵――が労働者の腹を蹴り、悪態を付きながらどこかへと消えていく。見れば打たれていたその人物は老体であり、とてもこのような重労働の場に耐えうる肉体はしておらず……
「じいさん! おい、大丈夫かよ……!」
「げふ、ごふ……わ、ワシに構うな。また連中にやられるぞ……」
 思わず周囲の労働者が駆け寄る程だ。
 このような行為をされていればいずれ潰れる者もいる……だが、前述の様に金を返せないという事が原因であれば、労働者達も国へ強く訴える事など出来ない。まぁまず逃がさないように監視の目が鋭く行き届いてもいるのだが……
 ――直後。今度は労働の場に大きな鐘の音が鳴り響く。
 休憩の合図だ。束の間の休息の合図に、労働者達の疲労がどっと出て。
 座り込む者、倒れ込む者――その反応は様々だ。
 しかし一様に疲れているという方面であるに違いはない。常に働かせ、彼らが『余計』な事を考えぬ様に追い込んでいるのだ。そう、例えば脱出や■■などといった余計な事は絶対に……

「――なぁ。ちょっといいか?」

 と、そこへ。
 息を整えている労働者達へ、掛けられた声があった。
「あん? なんだよ、俺は疲れてんだ要件なら後で……」
「いや今じゃなきゃダメなんだよ――なぁ今がチャンスだとは思わないか?」
 それは『貴方』の声だ。指差した先は、完全に油断している監視者達の方。
 彼らは武装しているが――こちらにもつるはしと人数がいる。
 数の上でいうなら圧倒的に労働者側が多いのだ。戦は数であり、如何に性能が高かろうと数の前には屈してきた戦場が幾度となくあるもの。勝算は十分にある。
 彼らに抗おうという意思と。
 勇気があれば。
「お、おい。滅多な事いうもんじゃ……いやそもそもアンタは一体……?」
 これは『依頼』だ。
 オルグレンは狡猾であり、結んだ契約書の通りだとして――法の上で裁かれないように立ち回っている。中々に厄介な者だが……放置していれば、これからも私欲の為にどれだけの者達を追い込むのだろうか。
 故にと案じた者からの依頼である。『法の上にあるならば警察機構は動かせないが、内部で反乱があった場合には“こちら”の関与する所ではなく――また、その際には反乱を起こした側には情状酌量が見込める。オルグレンは清き者ではない故に』

「なぁ。いっその事全員で――『反乱』でもしてみないか?」

 だから『貴方』は焚き付けるのだ。
 ここに居る者達に自由を。
 法をすり抜け暴虐を振るわんとする圧制者に――天誅を下す為に。

GMコメント

■依頼達成条件
 反乱の成功(オルグリンを逃がさずに打倒する事)

■フィールド
 リンバスという鉄帝北部の山脈地帯の一角です。
 ここに一つ洞窟があります。各所に伸びた通路やそこそこ広い空間などが点在していますが、入り口は一つのみです。内部は各所が灯りで照らされていますので視界に特に問題は在りません。

■本シナリオの特性
 本シナリオでは【A】チームと【B】チームに別れる事が可能です。

 ・【A】チームは洞窟内部に既に侵入しているメンバーです。なんらかの方法により潜伏した貴方は労働者に接しており、彼らの反乱意欲を囃し立てる事が可能です。ただしこちらのチームに属している場合【後述のBチームと合流出来るまで、アイテムを全て装備していないもの】として判定されます。(スキルはOKです)

 ・【B】チームは洞窟の外で待機しているメンバーです。皆さんはAチームの【アイテムを持っている】ものとします。合流時、彼らに武器を渡す事が出来ます。反乱の発生を待って攻撃を仕掛けてもいいですし、内部の動きを悟らせない為に先制攻撃しても良いでしょう。

 別れる事が出来るだけで、全員Aと言う形でもOKです。ただしその場合はシナリオ終了時までアイテム無しで続行する形となります。OPと相違は出ますが全員BでもOKです。ただしその場合、労働者の囃し立ては出来たとしても初動がかなり遅れます。

■オルグリン
 この地帯一帯を所有している資産家です。
 自らの我欲の為に強制労働をさせられる労働者をかき集める人物です。『借りた方が悪いだろう?』の理論で金を貸す人物ですが、元より返済能力が無い事を分かって貸しているとも噂されており、またその金利やら諸々が非常に法律スレスレな事をしています。
 戦闘能力は在りません。追い詰めれば成す術はないでしょう。
 洞窟のどこかには居る様です。

■オルグリンの私兵×25~不明
 重武装に身を包んだオルグリンの私兵達です。
 それなり程度に戦闘能力のある傭兵の様な連中です。防具は元より剣や銃を取り揃えており、戦闘経験はおろか碌な武器がない労働者達ではとても敵わないでしょう……しかし圧倒的な数で押し包めばその限りではありません。
 洞窟の入り口は元より、各地の警備を行っています。
 しかしまさか反乱の計画が進んでいるとは思ってもいないようです。

■労働者達×無数
 オルグリンに騙されて、或いは何らかの事情によりここに連れてこられた人達です。何処まで掘り続ければいいのかも分からない作業に従事されています。
 皆がつるはしを持っていますが非常にボロいタイプであり、武器として使えるかは微妙です。が、数は力。士気さえ折れなければ明らかに優位である程に数がいます。彼らは疲労していますが、オルグリンに対しての恨みや怒りは根本に存在しています。それを思い立たせたり、或いは鉄帝人の魂に呼び掛けてもいいかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 九月蜂起完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月30日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ネリ(p3p007055)
妖怪・白うねり
虚栄 心(p3p007991)
伝 説 の 特 異 運 命 座 標
キャナル・リルガール(p3p008601)
EAMD職員
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

リプレイ


 人は、自由である。
 本来自由であるべきなのだ。
「――旨い物食って幸せになる権利がある。なぁ、アンタらそうだとは思わないか?」
 語り始めたのは『酔いどれた青い花』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)だ。
 監視の者に聞こえないように声を潜めて――しかし内に猛る熱に訴えかける様に。
「このままでいいのか? 明日もアイツらに殴られて、蹴られてよぉ。
 欠片みたいなパンと水だけ貰って生きる――それでいいのか? 違うだろう!」
 それでも段々と声が力を帯び始める。
 なぁ聞け。労働者ですらない者達よ。不当に扱われる者達よ!
「アンタら、外を見たくないか? 旨い酒と焼きたてのパンが恋しくないか! 戦いを良しとする鉄帝人が戦わないクズにハメられて悔しくないのか! 違うって言うなら――あぁそうだ戦おうぜ!!」
「い、いやしかし。相手は武装してるんだぜ? 武器も何もない俺達じゃ……」
「武器ならある!」
 戦う術はすぐそこにある。仲間が用意している物があるのだ――
 だから必要なのはあとは意思だけだ。
 意思がなくばどれだけ高級な武器を揃えようとただのゴミと変わらぬ。立てよ鉄帝の民!
「――恐ろしいのは分かります。私達だけで戦うべきなのではという気持ちも。
 ですが聞いて下さい。そして思い出して下さい。
 オルグリンは貴方達を人として扱ってくれましたか?」
 流石に監視の者達が騒ぎに気付き始めるが、彼らが此処に到達する前に『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の言の葉も紡がれ始めた。
 目の前を見てください。汚い皿に乗せられているモノを。
 過去を想い返してください。病気になった人にお薬をくれましたか?
 ――貴方達の嘆きに耳を貸さず、ただ働けと命じるだけだったのでは?
「彼は――オルグリンは不当な契約で貧しい人々を追い詰め、鉱山で働く人手を急速に増やしつつあります。皆さんも分かっているでしょう……全ては彼に嵌められたのだと。このままでは過労で死に、貴方達の家族や恋人が次に同じような目に遭うだけです」
 立ち上がる彼女はまるで天に祈りを捧げる様に。
 そして腕を開く――己が言葉に耳を傾けている者達を受け入れるかのように。
 怖いだろう。ああ恐ろしいだろう。万が一反逆が失敗したら、と。
 それでも恐れた足で歩く事は出来ず、震えた手で明日を掴む事など出来ない。

 ――ふと、ヴァレーリヤは近くにいた老人の下へと近寄り。
 咳が止まらぬ彼に手をかざす。

 小さく紡がれしこれは神への祈りだ。かの者の病と苦しみを取り除きたまえと、願う心が力と成り――受け入れし意思が目の前の者の苦しみを和らげる。
「おぉ……これは……奇跡か……!?」
 囚人の一人が驚愕したと同時にざわめきが広がり始める。
 かつてこの鉱山に無かった希望と奇跡が目の前に来ているのだと、皆が話し始めて――
「貴様ら、何をしているか! 何の騒ぎだこれは!!」
 その時。ついに監視の者がそんな場へと到達した。
 与えてやった休息の慈悲の間になにを勝手な事を――振りかざした警棒がヴァレーリヤの額を激しく打つ。ヤツェクの周囲を取り囲み、何を勝手な事をしているのだと睨みつけて。
「あぁなんて酷い事を!」
「黙れ! 貴様らに自由なんて贅沢品があるとでも思うのか、作業に戻れ!!」
「――立ち上がりましょう、同志よ!!」
 それでもヴァレーリヤは声を張り上げる。
 周囲の者達を扇動する様に。彼らの心に訴えかける様に。
「今、私達の仲間が武器と食料を持って、こちらへ向かっています。これだけの人数がいれば、反乱は必ず成功します。そして、反乱が成功すれば、無事に故郷に帰ることができると、そのために手を尽くすと約束します――どうか武器を取って、共に戦って下さい。そしてここを出て、祝杯を挙げましょう!」
「――飯が欲しくはないか! 見ろ、これがその証拠だ!!」
 同時。ヤツェクが空に放ったのは――干し肉である。
 本来、此処に自由に『何か』を持ち込めるはずがない。ボディチェックなど当たり前に入るからだ――しかしこんな事もあろうかと準備していたヤツェクは、監視の目をなんとか盗んで保持し続けていた『食べ物』を取り出したのだ。

 食べ物。食べ物――かつては自由に食べていた、羨望せし外への渇望――

「戦え! 手助けは十分にする。仲間も外にいる。今見せたような飯を用意しているし、武器もある。これが最後の大博打だ!」
「貴様――何者か!!」
 警備の者達が遂にヤツェク達の素性を怪しむが、もう遅い。
 見せられた希望と熱に浮かされ、周囲の囚人たちの目に意思が灯っており。
「ま、勝てば天国負ければ地獄。それが勝負事の常さ。とはいえ……断言しよう。この勝負、負けはない。無論、キミらがその気になればの話だが。臆病風に吹かれて尻込みするのはオススメしないなぁ? 機を喪うよ」
「ふふふ、それに。 伝 説 の 特 異 運 命 座 標であるこの私が!
 先頭に立って労働者の盾になると約束しましょう! さぁ反逆のお時間ですよ!!」
 そして『遺跡調査員』キャナル・リルガール(p3p008601)と『伝 説 の 特 異 運 命 座 標』虚栄 心(p3p007991)の二人も熱を後押しするかのように立ち上がる。心の放った一声で皆が理解した――
 監視の者達はイレギュラーズがやってきたのだと。
 囚人の者達はイレギュラーズが助けにやってきたのだと。
 そしてついに。
「が、ぐぁ! 貴様らやめろ! よせ、うわああああッ!!」
 囚人の一人が警備の者の背から突進し――羽交い締めにせんとした。
 その行動を皮切りに一斉に囚人たちが押し寄せる。武器を取り上げ、拳で殴りつける様に。警棒を振りかざして近寄るなとばかりに警備の者は殴るが――あまりの数の違いに後は呑まれるのみ。
「ま、アレだよ。ビンボにつけこんで甘い汁吸おうとする奴ぁ最低だってね。
 散々今まで甘い汁を吸ってたんだろ――? 報いを受ける時が来たのさ」
 キャナルは己が服の一部を破き、その布で簡単な投石器――スリングを作成する。
 武器なんてのは簡単に作る事も出来るのだと周りに示すようにしながら。
 往くのだ。自由を求める者達を――鼓舞する様に。


 反乱だ――! 反乱が発生したぞ――!!
 そんな声が洞窟の中に響き渡る。ああどうやら内部に入り込んだ者達が上手くやったか。
「圧制者への反乱ですか。うんうん、中々に物語的で良いですね。
 革命は鎮圧されたりもある事ですが、しかし此度の物語は、ええ」
 ふふふと笑う様に『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)はついに来た出来事に歓喜する。
 ついに訪れた反乱――騒ぎの音や怒号、悲鳴や誰かが傷つけあう音が外にいる己の耳にも微かに届いている。意思の波だ、物語の始まりだ。やはり人は熱を帯びればとても面白い事をする。
「さぁ私達も早く合流して色々渡して、もっと盛り上げませんと」
「ふっ、自分たちの自由と尊厳を取り戻すためにたちあがるか。
 よろしい、アタシ達も協力しちゃうモンネ~。突入しよっか」
 さすれば四音に続いて『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)もまた準備を始める。と言っても今から行うのは突入だけだが。
 用意した物があるのだ。士気を向上させる為の食べ物や武器。あまりにも噛みづらかったり食べにくいモノを用意しても即効性が無い故に――例えば四音が用意したのはお菓子である。チョコやクッキーなどの嗜好品。
 微かに食べるだけでも『甘い』という事が分かるソレら。
 『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が近場の街で紹介状片手に走り回った故もあるが――かなり多くの量は準備できている。彼女や『妖怪・白うねり』ネリ(p3p007055)が用意した馬車に積み込んでいれば、ああ大量の武器も食糧も運ぶに容易く。
「ああいう奴らは、放っておけばいずれぱぱとままにも悪さする気がするの。
 ……だから、お掃除するわね」
「血が流れる事はあまり好ましい事ではないけれど……私はこの蜂起を……叛乱を。
 肯定するわ。たとえ何人であろうと、ゴミのように扱われる謂れはないもの。
 ましてや……ゴミの様に扱う為に騙して囚人にするなんて、特にね……」
 干し肉、牛乳、その他すぐに食べられそうな食料を詰んだ馬車。
 クロスボウやスリング、銃を詰んだ馬車。それぞれを、必ず届けてみせよう。
 ――駆ける。目指すは入り口、封鎖地点。先程までは警備の者の目が光っていたが――どうやら中で起きた騒ぎに気を取られているのだろうか、その警戒に隙間が見えて。
「ん? お、ぉぉ!? なんだあれは!? 止まれ――ッ!」
 何テンポか遅れて気付いた様だが、もはや馬車は止まらない。
「ちわースッ。蜂起始まったと聞いて! 差し入れデェース。
 あっ。ハンコはいらないんで、全然大丈夫なんでお気遣いなく。失礼しゃース!」
 妨害しようとする警備員がいるが――鈴音の放った見えない悪意の一手が穿ちて押し通る。
 突入だ。万全であったのならば入り口にすぐ警備員の増援が押し寄せてきただろう、が。
「おやおやふふふ。やっぱり面白い事になっていますねぇ」
 四音の視線の先――少し開けた鍾乳洞の様な地点では既に争いが繰り広げられていた。
 囚人がつるはしや、キャナルが示したような簡易スリングを用いて警備員に突撃。片や警備側は潤沢な武器を惜しげもなく投入して――応戦中。
 原始的な武器と、最先端の武器。
 銃や剣を用いる警備側の攻撃力は高い、が。
「皆、待たせたわね――さぁ食料と武器よ。余裕がある人はこっちの方に来なさい!」
 ルチア達が合流した以上そうはいかぬ。
 戦場を突き走り、その渦中へと現れた囚人側の援軍。殺到し、食料と武器を手に取るは幾人も。
「食べ物が必要なのはわかるけれど、自分のためだけに動いていてはオルグリンと同じよ。全員のための行動をなさい! 勝てば後で食料は幾らでも食べる事が出来るわ!」
 だが的確な指示、号令を飛ばしてルチアは囚人達の力となる。
 彼らはあくまでも一般市民の枠組みだが……しかし武器と指示があればある程度以上『戦える』様にもなるものだ。彼らを統制し統率して一塊と至れば、最早これは只の暴動などではない。立派な革命の士ともなろう。
「……んっ。皆も、いた。武器を渡してくるね」
 そしてネリがその騒ぎの中に仲間を見た――先程中で扇動していたヴァレーリヤ達である。
「あぁ来てくれたんだね。助かったよ、数が多いからなんとかなってたけど、やっぱり武器無しだと重武装してる彼らを相手にするのは厳しいね」
「だが武器が届いたんならこっからが本番だ――進め、進め! アンタらの明日と飯と誇りのために!」
 引き続きスリングで対抗していたキャナルだがネリ達との合流を経ていつもの武器を獲得。さればヤツェクもまた――囚人たちを更に囃し立てるものだ。
 彼の一挙一動は囚人たちの目に留まるのだろう。その在り様に周囲の者達は活力を満たし、更なる力を得る。勇壮たる声が鳴り響きば脚に力が、腕に熱が。振るう一撃に重みも出始めて。
「くそがぁ、囚人共が調子に乗りやがって!」
「だ、駄目だ! 突破されるぞ! うわああああ――ッ!!」
 さすれば段々と警備側が押され始める。勢いもあるが、やはり武器の存在が大きいのだろう。
 殺傷性のある武器があるかないかで人の攻撃力というのは随分と変わるものだ。無論、多くの人間がいれば全ての囚人に武器が即座にいきわたるとはいかないが……
「ふふん。蜂起と言えばまずは投石が基本でしょっ。みんな、アタシの周りに集まって投石準備だァ――! ン~ふっふっふっ。みんな殺れそうな気が気がしてないかい? 一発で無理でも何発も重ねればこいつも恐ろしいモノになるんだよ~」
 しかしやりようはあるとばかりに鈴音は囚人を集めて一斉投擲。
 火炎瓶とかだったら更に雰囲気が出たのだが、流石に即席なると投石が限界か。まぁいい、とにかく助け合いながら前進である。死傷者が出れば士気にも関わろう――安全に、かつ確実に進むのである。
「私兵♪ 非道を働き人を虐げるクズめ、お前らの血は何色ダァー!?」
「さぁさオルグリンの居場所はどこですか? 入口から脱出した様子はないので、どこかにはまだいらっしゃいますよね……?」
 鈴音が往き、四音が捕えた警備の者へと言葉を紡ぐ。
 所詮、金で雇われたものであれば命と天秤にすれば護る程の秘密ではあるまい――それに恐らくだが、この奥にオルグリンの私室でもあるのだろう。大方その奥で縮こまっているか?
「楽しみですねぇ、最後にどうなるか」
 そして後方より怪我人がいれば治癒の力を囚人たちへと満たす――
 これでまた戦える。これでまた前へと進める。
 この物語はまだ終わらせない。ああだって、ここからがクライマックスでしょう――?
「神の御心のままに……さぁ皆様、進みましょう! 自由はすぐそこですわ!」
 そしてヴァレーリヤは声を挙げて皆と共に進むのだ。
 ああしかし残念。本当に残念だ。オルグリンの噂は根も葉もない噂で、皆、幸せに暮らしている事を願っていたのだけれど。この地に住まう人々の扱いを見て――彼女は深い失望を覚えていたのだ。
 貧しい人々を巻き込むのは気が進まないけれど。
 それでもより良き明日を手に入れるには、彼らの協力が不可欠。
「……はぁ。ま、特異運命座標様の影がないと何もできない連中だし、はぁーあ……特異運命座標も楽じゃないわ~別になりたくてなったわけじゃないんだけどな~でもなっちゃったものはしょうがないか~神様のご意思だもんな~」
 だって現に特異運命座標なんですもの~と、鼻を天狗に心は前へ。
 全く特異運命座標は大変である。特異運命座標は簡単には死なないが、彼らは簡単に死んでしまうし。だから決死の盾を用いて囚人たちの前に立つ――反射する力も彼女に宿っているから、警備の者達への反撃ともなるからで。
 ああ痛い痛い。まったくも~本当に特異運命座標様のお仕事は大変である!

「な、なにをしておるか! はよう奴らを殺せ! 殺さんか――ッ!!」

 瞬間。野太い声が響いたと思えば――警備員の奥に、やたら太った男が一人いた。
 あれがオルグリンか。見るからにして下劣な様子を漂わせている男である。
 そんな姿が見えたと同時、囚人たちの攻勢が更に強まる――恨みつらみ晴らさずにおれるかと。
「逃げ場はないぞ、金貸しの旦那。こっから先にあるのは、地獄への片道切符だけさ」
「さぁさ怒れる皆の前に出てきてもらおうかネ~!」
 そんな彼らを更に後押しするかのようにヤツェクが鼓舞し、鈴音の本気たるモードの一撃が、私兵共をなぎ倒す。彼らも退路がない故かかなりの応戦をしてきているが――あと少しなのだ。
「……後々で拙い事にならないといいけれど、今は倒すのが先決、か」
「――逃がさないよ。絶対、に」
 押し込む。ルチアが周囲の者の治癒術を飛ばし。
 そして、更に奥へ奥へと逃げんとするオルグリンを――ついにネリが追いついた。
 そのお顔を吹っ飛ばす。膝で蹴り、もはや逃げ場はないのだと示す様に。
「ぎ、ぎゃああ! だ、誰か! 早くこの無礼な女を殺し……!」
 しかし最早誰もいない。警備の者達は囚人の波に呑まれて最早オルグリン所ではなく。
 視線を巡らせれば――いたのは武器を手に取っている囚人たちのみ。
「かくて。反乱に敗れし領主の命は断頭台の上に。
 ――まぁ『そういう事』が期待されていますよね、くふふふふ」
 大抵こういう場では『どうなるか』など相場が決まっていると四音は知っている。
 横暴なりし頭は排除されるのだ。それこそ凄惨に、それこそ無残に。

「やめろこの薄汚い貧乏人共が! ワシに触れるな、よせ、ぎゃ――」

 何か聞こえた気がしたが、人の波で奥が見えない。
 ――因果応報と言うべきか。これが大切な心を搾取した罪を裁かれた結末だと、鈴音は思考し。
「やった! 勝った、勝ったぞ!! 俺達は自由だ――!!」
 そして――ネリは視た。
 数多の束縛から解放された人々の顔を。遂に外へと出られた希望の顔を。
「……報酬さえ貰えて、ぱぱとままを守れればそれでよかった……けど」
 さればつい、思ってしまうものだ。
 労働者の皆の解放された顔を見ると、悪い気がしない――と。
「とはいえ、彼らが罪に問われてはなんともハッピーエンドとは言えない。幸いにして鉱山の奥に追い詰める事が出来たようだし……『不幸な事故』が起こった事にしようか。うん、落盤事故なんて丁度いいね」
 折角ならばと最後の後始末をするのはキャナルだ。
 用意した爆弾。これをそこに仕掛けて……ちょちょっと細工して……ボンッ、じゃ!
 ――鉱山が揺れる。大きな音と煙を出して、ああこれは見るからに『事故』だ、と。

「――さぁ皆様帰りましょう。私たちの家へ。私たちの帰るべき場所へ」

 そしてヴァレーリヤが皆を導く様に。優しく語り掛け、街の方へと誘導する。
 ――これは反乱であった。
 しかし同時に、自由を勝ち取るための戦いでもあった。

 さぁ街に着いたら――勝利の祝杯でも、挙げるとしようか。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

虚栄 心(p3p007991)[重傷]
伝 説 の 特 異 運 命 座 標

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 反乱。革命。歴史の中で起こって来た様々な騒乱……
 自由を求めたが故の戦いも幾つも実際にあったのかもしれませんね。

 ありがとうございました!

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