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シナリオ詳細

<傾月の京>刑冥ノ戯

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 忽那・ 沙峨(くつな・さが)は刑部省に属する獄人である。
 刑部省の長がたとえ天香・長胤に与するとて、彼は霞帝が為に自ら得た地位を捨てる気はなかった。――今日この日までは。
「あの方は……あの方も、七扇も、どうかしてしまっている……!」
 今更彼等の狂気を指弾するのか? それこそ己の不明であろうと彼は心中で舌打ちする。空には満月。地には影。自らのものではないものが伸びた時、彼は後ろを見ずして敵へと符術を放ち、駆けた。
 僅かな苦鳴。だが、すぐさま足音と影の数は元通り。それどころか増えた気すら、する。
「忽那。貴様の大局を見る目が曇っていることは今に始まった事では無いが、さりとて己が長が巫女姫様の悲願を為そうとされておるのを、貴様はあろうことか神使と通じて潰そうてか。愚かなり」
「巫女姫の色香に目が曇り、この国で呪詛が横行する現状を放置した『冥』の連中が言うようになったな。闇でしか立ち回れぬから目も退化してしまったと見える」
 沙峨の挑発に獣の様な呼気と共に殺気をあらわにしたのは、七扇直轄部隊『冥』の面々だ。
 長胤の忠実な手足として動く彼等は、この満月の夜に彼等が為そうとする『大業』を推し進めんと立ち回っている。その障壁となるのが神使であることは自明の理。当然、神使と通じ長胤に疑念を寄せるこの青年は前々から今や遅しと排除する対象であり、さりとて有能であるが故に潰し時を見失っていたのだ。
「減らず口は変わらずか。なれば貴様には大人しくなってもらおう……巫女姫様から賜った『奥の手』がこちらにはあるのだぞ」
「長口上に興味は無い。来い」
 『冥』の頭目とおぼしき男は禍々しい空気を漂わせる小袋を取り出し威圧的にゆらして見せた。
 沙峨は気にした風も無く、顎をしゃくって誘いかける。……わずかの間をおいて、両者は激突する。
(何秒保つか……神使が御苑に向かうならここを通るだろう。それまで――せめて、それまでには!)


 夏祭りからこれまで、高天京では呪詛が蔓延し、呪詛の媒体となった妖『呪獣』、呪詛そのものの『忌』、そして怨霊や複製肉腫と呼ばれる既存の生物が変異した者などが闊歩する様になっていた。
 イレギュラーズの活躍目覚ましく、それらの被害を相当に軽減させてはいたが、やはり被害は大きい。
 そんななか、高天京に存在する高天御所にて強大な呪詛が行われることが『けがれの巫女』つづりによって予見された。
 矢も楯もたまらず御所へと向かうイレギュラーズ達を待ち構えるように、高天京内部は混乱を極めている……そんな中、何かに誘われるようにアーリア・スピリッツ(p3p004400)が路地を一本曲がり、駆けていく。その先では――。

「チ、神使共か。だが丁度良い。貴様等の知っているこの男が、いま俺と同じ――肉腫を得るところを特等席でみられるのだ」
 地面に倒れ、3人の『冥』に押し倒され、今まさに呪具を押しつけられている沙峨の姿。
 居丈高に語る『冥』の頭目と、10名ほどの配下。
 ……そして、禍々しい空気を発し続けている七つ頭の怨霊、『七人みさき』。
 状況は、最悪へと針を進めつつあった。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 条件達成自体はかなり簡単といえば簡単です。ええ、なにもかんがえなければ。

●達成条件
・『冥』頭目の打倒or撤退
・『冥』配下の全滅
・七人みさきの撃破
・(オプション)沙峨を3ターン以内に救出する
※メタ情報となりますが、『沙峨を救わない』選択をした場合、頭目は複製肉腫化した沙峨と数ターン後に撤退しますので撃破よりは難易度が大幅に下がります

●七扇直轄部隊『冥』
 長胤派の忠実な部下として暗躍する者達。
・頭目(複製肉腫)
 神攻・HP・反応高め。
 円環呪:神中範・識別、変幻(中)、HA吸収(中)、猛毒
 呪突:神至単・喪失、Mアタック(大)、連
 その他、BS回復等をこなす。

・配下(×10)
 基本的に揃いのアフリカ投げナイフめいた武器を用い、通常攻撃(物至、必殺、ブレイク)で戦う。
 頭目との連鎖行動などを行う。
 うち、沙峨を拘束し呪具を押し当てているのは3人。彼等を倒せば沙峨を救出できる。

●七人みさき
 呪術の影響を受けた霊体。
 複数の人間の怨念が集合したもので、非常に強烈な呪いを発している。
・怨嗟(神超単・万能、呪い、呪殺)
・呪言(神特レ・自身から2レンジ、不吉、致命)

●忽那・ 沙峨(くつな・さが)
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)さんの関係者。
 『<禍ツ星>来たれ呪いよ、冥府の辺に』にて純正・複製肉腫との戦闘で共闘しており、イレギュラーズにやや好意的。
 なお、アーリアさんの外見に思うところある模様。
 戦闘においては神秘状態異常特化型。能力値減少系BSを多用するが、肉腫化した場合これが全部イレギュラーズに向かう事に。

●戦場
 高天京城下町。
 周囲に人は無く、戦闘自体に支障は無い。

 切り捨てたりなんやかんやすれば十分NORMALです。
 よろしくお願いします。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>刑冥ノ戯完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月05日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
晋 飛(p3p008588)
倫理コード違反
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫

リプレイ

●『特等席』を蹴り捨てて
「へっ、この数に包囲されて逃げられると思ってんのかい?」
「……数に頼っただけの木偶が、巫女姫様の恩寵を受けた我々の道程を遮るなど片腹痛し。形だけの虚勢など哀れにみえるぞ」
 『朱の願い』晋 飛(p3p008588)の切った啖呵に、『冥』の頭目は鼻で笑いそう、応じた。
 高天京の危機にあって、彼は霞帝を支持する者達を扇動して捕物を模すべく動いたものの、方々で起きる混乱と命の危機とのせめぎ合いにあってはその効果は十分に発揮されはしなかった。気休め程度に集まった者達の覇気は世辞にも高くはなく、複製肉腫を交えた集団を威嚇するには心許ない。耳目を引きつけるという意味では、成功したと言えるだろうが。
「何よ、これ……!」
「あそこに見えるのは、人と……今、なんと?」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は眼前で今まさに行われようとしている行為に目を剥き、『全霊之一刀』希紗良(p3p008628)は『冥』の頭目が口にした言葉を反芻する。
 「肉腫を得る」といった。自分と同じように、と。それは両者にとって認めがたいおこないであり、嘗て沙峨が自ら振り払った肉腫の脅威を強引に与えようとする最悪の選択肢でもある。
「忽那氏を助ければ、カムイグラ衣装のアーリアさんからお酌をしてもらえる、と。これは張り切って成功させねばなりませんね」
「知人を助けたいって言うなら、手助けするのが友達だろ?」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)と『神威の星』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)の2人はアーリアが言葉を継ぐ暇を与えず、揃って彼女の心情に「応」と告げた。口火を切ったのは寛治だが、本意は全員、同じ所にある。
 少なくとも、アーリアを除く全員にとって初対面の男だ。顔を隠し得体の知れぬ姿をしている、と思えもする。が、『アーリアの知人』という事実はそれら全てをひっくり返して余りある。
 見捨てていい相手ではない。何をおいても彼の無事は、イレギュラーズの至上命題となるのも無理からぬことだ。
「巫女姫に関することを放っておくわけには行かないし、沙峨を複製肉腫にさせるわけには行かないからな」
「沙峨さんを助けて、敵を退ける。出来ることは、全部やろう」
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)とマルク・シリング(p3p001309)は沙峨の救出も当然のこと、『冥』の面々を確実に退けるべく身構える。両者とも、攻めよりは護りを主体とした戦力だ。この状況にあって「より確かな目標」を目指すのに、両者の存在は欠かせまい。
「気にくわないんですよね、他人からもらった力で力だけ得た気になってる人たちって」
「……ほう?」
 ふと、『逆襲のたい焼き』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が零した(露骨ともとれる)挑発に、『冥』達は一様に敵意を露わにする。
 本質を捻じ曲げられた状態で、それこそが己の本懐であると嘯く者達が、それこそ幸せであると他人に押しつける。上書きされた価値観だと気付くこともなく。それは滑稽としか言いようがないではないか。
「貴方達の身勝手に沙峨さんも、アーリアさんも付き合わせる気はありません。早々にお引き取り頂きましょう」
 寛治の言葉が契機となったか、『冥』の面々が動き出す。沙峨を拘束した連中はにたにたと笑いながらそれを見るばかりだが、寛治の立ち姿は誰がどう見ても無防備で、戦う意志など皆無にみえる。
 彼を庇うようにに立ち塞がったベークもまた、先の言葉を契機に敵意を向けられている。それ幸いと向かっていく者は気付くまい。ベークの身を覆う力の奔流を。
(沙峨くんを貴方達みたいな『そちら側』に連れて行かせるわけにいかない! だってまだ、貴方とお酒を飲んで……笑う口元を見てないもの!)
 アーリアは、彼の口から聞いていないことが多すぎる。
 自分を見て瞠目した理由。彼の口元。笑顔など、目許ですら表現された覚えが無い。堅物なだけの沙峨など――彼女が知るところではないが――『らしくない』と感じたのだ。
 別れがあろうと、隔絶があろうと、それらはすべて『今ではない』。
「お前等、道を塞ぐくらいは出来るんだろ? 任せたぜ!」
 晋は連れてきた役人達に檄を飛ばすと、自らも『冥』を押さえ込むべく走り出す。
 威嚇できないなら、死なない程度に壁になれば。そうでなくても、数の驚異で尻込みする数秒が値千金となろう。
 一刻も早く沙峨を救う。イレギュラーズにとって、今はそれが全てだった。

●血の一滴を時に混ぜ
「死に晒せェっ!」
「殺すには少し力不足だと思いますが……まあ頑張ってください」
 『冥』の配下達の猛攻は、ベークが瞬時に生み出した加護を容易く引き裂き、続けざまに次々と斬撃を叩き付ける。が、そんなものが無くてもその護りはもとより強固。都合六度の猛攻をして、ベークの肉体は危機と呼べるまでには傷ついていなかった。
「…………愚図共が」
(配下の治療に回ると思えば、初手は見に回りましたか。治療の為でしょうか、それとも出方を見て仕掛けてくる……?)
 寛治は、部下の不出来に舌打ちする頭目の構えが緩まぬことに怪訝な視線を向けながらも、自然な態度を崩さない。頭目が見に回り、治療を後回しにするとすれば、配下をいま一度誘い込めばいい。そうでなくとも、この連中は邪魔だ。引きつけておかぬ理由がない。惜しむらくは七人みさきをフリーにしたことだが、仲間が軽々に後れをとるとも考え難い。
「すっ飛べクソ野郎!!」
 晋は真っ先に沙峨を抑える一人へ間合いを詰めると、強烈な一撃を叩き込む。可能なら抑えている全員を蹴散らしたい所だが、沙峨を巻き込めばまるで無意味だ。ならば堅実に一人ずつでも仕留めた方がいい。
「その御仁を離すであります!」
 晋の殴りつけた相手に、さらに希紗良が斬りかかる。妖刀一閃、変幻の切っ先は深くその身を抉れど、命を落すには至らず。それでも、深手を負わせたのは明らかだ。
「沙峨くんは返してもらうわよぉ、あなた達にあげていい子じゃないんだから!」
 希紗良の斬撃を受けた配下は、続くアーリアの『琥珀の雷撃』を受け、喉奥から苦鳴を漏らしつつ耐えきった。虫の息とはいえ、果断な攻勢を受けてそれでも踏み止まったのだ。イレギュラーズの攻め手より寧ろ、『冥』としての矜持を――謝った形であれ――示したこの配下をこそ褒めるべきだ。翻って、眼前の手勢の厄介さ、そして頭目の脅威が浮き彫りになる。
「……馬鹿、な、事をする」
「沙峨、意志を強く持て。俺達が戦ってる。絶対に助けてやる!」
 うつ伏せのまま、喘ぐように吐き出した沙峨の言葉に、ウィリアムは否と応じた。彼を見捨て、頭目と七人みさきに注力すればこの場の面々の実力なら言うほど苦戦はすまい。が、それらを無視して沙峨を救う選択肢を一同は選んだ。ウィリアムの熱意を露わにするような熱砂は、晋と希紗良に痛撃を受けた一人の命を削り取る。
「僕達なら貴方を救える。この国だって救える。目の前の誰かを救えないで、国を救うなんてことは許されない」
 次いで、マルクの放った光がのこる2人を巻き込んでいく。殺しはしないが、一歩手前まで削りとった光は、『冥』として暗部にあった者達には余りに眩しい事だろう。ゆえに抗う余地もない。
『許セヌ……許サレヌ……』
『痛イ痛イ辛イ』
『アアアアアアア』
 ――マルクの光がそれを刺激したのかは分からない。七つの顔からこの世にあらぬ響きで怨嗟を吐き散らす七人みさきは、手始めに晋目掛け呪いの波濤を投げかける。
「チッ、耳にガンガン響きやがる……!」
「大丈夫か、晋! ベークも!」
 ポテトは呪いを受けた晋と配下達の攻撃を引き受けたベークを交互に見つつ、体内の魔力の流れを整え次に備える。仲間の被害はまだ、問題ない。確実に治癒を重ね、戦う為には焦ってはならない。
 仲間達が沙峨を救うことを望みながら――。
「貴様、忽那から色目を使われているな」
「冗談きついわよ、そんなんじゃ、ないわ」
 頭目は、アーリア目掛け一気に距離を詰めると匕首を突き出し、その心臓を狙う。呪力でぐんと伸びた刃を身を捻って逸らした彼女はしかし、心臓こそ避けたが浅からぬ傷を負う。
「貴様っ……外道がッ!」
「それでいい、憎め忽那。俺を憎めばより強く生まれ変われよう」
 喉を振り絞り呪詛を吐き出す沙峨を、頭目は粘着質な笑みをむけた。それで肉腫の浸食は早まるまい。あり得るならば肉腫がより深く根付く様にする、といった所か。そうでなくてもアーリアの存在は脅威ではあるのだが。
「悠長な事をするのですね。此方の部下の皆さんは無視ですか?」
「其奴等は俺とは違う。それに、俺一人で処理出来ぬ手合いでもあるまいよ」
 寛治の挑発に、頭目はくすりと笑みをうかべ、アーリアから引き抜いた匕首を螺旋の如くに振り回す。
 アーリア、そしてウィリアムとマルクを巻き込んだ斬撃は威力こそ諸撃の突きに劣れど、肉体を蝕む毒と変幻自在の軌道が3人の認識を曖昧にする。
「私は困難な状況の方が燃えるんですよ。ですが……貴方の立ち回りは余り、燃えませんね」
 冷徹な目で頭目を一瞥し、寛治は配下達へと無防備な姿をさらす。
 彼は強いのだろう。ポテトの治療を待たず多少なり被害が出るやも知れぬ。
 だが、彼と仲間の望む未来を引き出す為の盤面は些かも揺るがない。血の一滴、運命の片鱗などくれてやろう。勝利の美酒を前に、それは安い代償なのだから。


「そなたたち、正気でありますか?肉腫を植え付けられた者は、化生となり果てるであります!」
「異な事を。隊長は化身ではない。その身を以て己の正気を示す御方を我等は……疑わぬ……」
「我等が『アレ』に至らぬというならそれで構わぬ。ここな男が隊長を支えればよい」
 希紗良が振るった一閃が2人目の命を奪う。肉腫を他者に与える行為など、彼女には信じがたい。が、配下達は微塵も疑わず沙峨を陥れようと呪具を手にしている。自分達でさえ浸食しかねないそれを、憎しと想う相手へと。
「お前らのやり方は気にくわねえな。死んでもいいなんて思ってる奴は特に」
「私を少し小突いて斬って、その程度で勝ち誇ってもらっちゃ困るわぁ。沙峨くんは返してもらうわよぉ」
 晋の拳によって呪具持ちの配下が全滅したのに間髪入れず、アーリアは彼の元へ駆け、そのまま大きくその身を退く。希紗良と晋より更に速く動き、後衛を思うさま切り刻んだ頭目による傷は深い。だが、沙峨を救えぬ悔いが目の端にちらつく方が、より『痛い』。片膝をついたアーリアの手首からアミュレットが転がり、ひび割れ砕けたのと、ウィリアムが配下目掛けて全力の魔術を叩き込んだのとはほぼ同時。
「ベークさん、あと少しだけ庇って頂けますか? その間に私が彼等を、仕留めます」
「分かりました。手早くお願いしますね……痛くはないけど面倒なんですよ、彼等」
 寛治は沙峨の救出が成ったのを見ると、即座にステッキを突き出して七人みさき共々、配下達を銃撃の渦に巻き込まんとする。
「沙峨は私の後ろに、皆、もう少し耐えてくれ!」
「僕も治療します。……これ以上、傷つけたくない」
 ポテトは沙峨、そして仲間達へと治癒の波濤を流し込む。マルクもそれに呼応し、治癒術式を展開する。
 マルクは元より治癒が専門だ。それでも沙峨を救うという決意のもと攻めに回ったが、仲間が傷ついては意味が無い。
『憎イ』
「そうだろうさ、恨みがあるままこんな場所に引き込まれて暴れるしかないんだから」
 七人みさきの呪詛を聞きながら、しかしウィリアムは冷静に返した。歪な魂と呪いの塊がどう生まれたかは知る由もない。が、ろくでもない経緯なのは明かだ。
 ならばろくでもない『冥』の配下共々、倒してしまう以外の道はない。
「同じ技と侮るなかれ。鍛錬を重ねた技は時に、想像以上の力を出すでありますよ」
 希紗良は納めた刀を横薙ぎに払い、七人みさきを深く切り裂く。返礼のように放たれた呪いはその切っ先を僅かに重くするが、積み重ねた鍛錬は些末な妨害を苦にもせず、切り返す。
 思えばこの国に現れた化生のたぐいを繰り返し切り払い、傷つきながら彼女は前に進んできた。泥を啜って傷を負って倒れ込もうとも、尻餅だのをつく事は無かった。ただ前に、そう己を定義し続けた少女の一念は、返した二太刀目で怨霊を斬り祓った。
「沙峨くん、頑張ったわねぇ……晋くん、頭目はお願いねぇ!」
「オウよ! 酌は頼むぜ!」
 アーリアは傷の癒えた沙峨を起こしつつ、晋へと声援をむける。その気になった晋の背後に唐突に降り立ったのは巨大な影……二足歩行の巨体だ。これで頭目の行く手を阻もうと言うのか。
「ここから先は遠さねえぜ、ここでテメェは終わりだ!」
「否、終わらぬよ。忽那を手放すのは惜しいが、貴様等と死ぬまで争うのも面倒だ。その役割は、彼奴等が負おう」
 晋のAGの関節目掛け痛烈な一撃を突き込んだ頭目は、追撃を仕掛ける直前で身を退き、そのまま踵を返して一目散に逃げを打つ。その足取りを追うことは適うまい。闇夜に溶けた彼は、控えていた役人達ですら見落とす程で。
「この人達は確実に倒す必要があるんですね。……厄介ですが仕方ありませんね」
 ベークは諦めたような声で配下に向かって歩を進めると、相手は何かに弾かれたように散り散りになる。……これがベークの香りによるものだと言われたら、果たしてどんな顔をしたものか。
「和装でお酌でもなんでも、この騒ぎが落ち着いたら、お礼は弾むわよぉ!」
「……お前は本当に、この状況でも変わらんな。あの女を見ているようだ」
 魔力を遠慮無く放出し、次々と配下達を蹴散らすアーリアとイレギュラーズの姿を見て、呪符を生み出しつつ沙峨は笑う。その表情は、以前『純正』を前にした時のよう。
「アーリアさん、約束を楽しみにしていますよ。カムイグラの事件が無事解決したら、ですけどね」
「ええ、分かってるわ……沙峨くん、その人って」
 寛治の言葉への返答もそこそこに、アーリアは沙峨へと詰め寄る。勝利の快哉に沸く希紗良も、頭目を取り逃し悔やむ晋の姿も今は見えない。
「……お前に似た、というより瓜二つの女を知っている。藤色の髪に緑の目をした神人の女を」

成否

成功

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者

状態異常

晋 飛(p3p008588)[重傷]
倫理コード違反

あとがき

 お疲れ様でした。
 怒り付与はオーソドックスかつ強力な技能で、庇い役がいたりカバーが確りしていると猛威を振るう典型例でした。実判定ではもうすこし抵抗してるのもいたんですが、最終的に一網打尽にされていた感があります。
 あと七人みさきがクソ邪魔だし頭目は一旦ブン回ると鬼畜な立ち回りをするんですがそれはさておき、いいとこなしで終わった感じです。

 さて、沙峨君も無事助け出されて予想外の発言も飛び出しましたが、今後どうなるやら、ですね。

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