PandoraPartyProject

シナリオ詳細

千の幸が咲く夜に

完了

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オープニング

⚫︎湿気ってなんかいられない!

 早く、速く、はやく!
 
 声に急かされて職人達は和紙を捻る。赤から黄色、緑を経由して青、紫、濃い桃色へ。目を引くグラデーションのこよりには少量の火薬が包まれ、机には完成品が山と積まれていた。
 それでも声は喧しく、額に汗を滲ませた職人の手が止まることもない。和紙も火薬もまだまだたくさんある。いったい幾つ作れば終わるのだろうか。
 鬼気迫る作業場のそこかしこに貼られた『火気厳禁』の四文字。一際大きく書かれた奥の倉庫には大小様々な花火玉が厳重に管理されている。そこからも声は響いていた。

 早く火をつけて!
 速くバチバチッと光らせて!
 燃やして!
 燃やさせて!
 もう待ってるのは飽きちゃったの!


⚫︎終わりを飾る夜の花

「夏っていつまでだと思う?」
 小さな紫頭の境界案内人は頬杖をついた格好でそう投げかけた。彼の視線の先には一冊の本。開かれたページにつまらそうな視線を向けたままの質問だった。
「暦の上で秋になったら? それとも、暑くなくなったら? まあそんな感じで、人や地域によって違ったりもするじゃない。ここに花火で夏を締める世界もあるみたいなんだけど」
 そう言って広げて見せたページは夜色に塗り潰されていた。大切なものが足りないことに気づけば、ニヤリと意地の悪そうな笑みが本の向こう側から覗く。
「花火職人さんが張り切って作った線香花火がたっくさん余っちゃってるんだってさ! 遊び尽くす目処が立たないと打ち上げ花火はお預け、ついでに秋も来ないなんてタイヘンだよねぇ……ちょっとお手伝いついでに楽しんでくるとイイんじゃないカナ☆」

 曰く、この世界では火薬が意思を持っており、ひと度火がつけば全てを燃やし尽くすまで跳ね回る元気すぎる性格らしい。人間が扱うには火の神様の加護という名のリミッターが必要で、それでも暇を持て余せば隙をついて火の気のあるところへ脱走するほどだとか。
 故に年に数度、花火として発散させてやるのが習わしなのだそうだ。特に、夏は花火大会と称して火の神様に捧げる大きな花火を打ち上げ、会場では『千幸花火』——所謂、線香花火である——が配られるのだ。
 今年は花火職人が火薬達に煽られて予定より作りすぎてしまったため、このままでは不満を抱えた彼らによる暴動が起きるかもしれない。それを火の神様が知ったのなら、同時に司る夏の太陽を居座らせて抗議してくることは間違いない。

「それを阻止するために打ち上げ花火を見て、千幸花火を楽しみつつ、火薬ちゃん達も楽しませてあげてネッ☆」

NMコメント

花火無くして夏を終えられない、氷雀です。
初めてのラリー!
沢山の方に楽しんでもらえるよう頑張ります!
お一人様でもグループでも、どうぞ気軽に参加されてくださいね。


⚫︎世界観
神話が色濃く根付いている、日本の江戸時代に似たところ。
職人の技が神様と人間を繋いでいます。
過去作『本日、提灯日和』と同じ世界ですが、読まなくても大丈夫です。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3907

⚫︎千幸花火
職人曰く、お喋り好き。
自分達が知り得ない『夏の思い出』を聞きたがる。
楽しかった夏。悲しかった夏。
今年でも、もっと昔でも。それらを振り返って抱いた来年の夏に向けた思いを添えてみたり。
貴方の『夏の思い出』を聞かせてあげてください。
なお、火がついた状態で話し相手をしてくれなければ一晩中消えずに催促し続けます。

⚫︎打ち上げ花火
職人曰く、目立ちたがり。
詰められた火薬達は派手に燃えられれば満足だが、見上げる人々の反応も楽しみにしているようです。
何か叫んであげるのも良いかもしれません。

⚫︎花火職人
男女を問わず、十数人の青年から老年までが所属する職人集団。
みな火薬の声が聞こえる能力を持っており、親方と呼ばれる男性が彼らを仕切っている。
無事に打ち上げが終われば休憩しに会場に現れるでしょう。

⚫︎境界案内人
呼ばれなければ出向きませんが、花火には興味があるようです。

⚫︎各章の概要

第一章:千幸花火(前半)
会場の入り口で花火を受け取り、側の河原でお話ししながら弾ける小さな火花を堪能できます。
点火用にも明かりにもなる『一晩消えない魔法の蝋燭』も貸し出しており、消化用のバケツも何ヶ所か設置されております。
ひとつで足りなければふたつみっつ、とお楽しみください。
ある程度、花火が減った頃合いに移行します。

第二章:打ち上げ花火
会場中央の屋台には、日本のお祭りっぽいものならひと通りあります。
長椅子に座って、または食べ歩きしながら、向こうの河岸から打ち上げられる花火を見上げて楽しむことができます。
花より団子でもまぁ大丈夫です。

第三章:千幸花火(後半)
打ち上げ花火や屋台を楽しんだ後に、残りの花火を楽しみたい方や職人達と話したい方はこちらへ。

⚫︎注意点
二名様以上での参加はお相手様の名前とID、もしくは【タグ名】の記載をお願いします。
また、【ソロ】と書いてあれば単体で描写しますが、それ以外は他PCとの絡みが発生する場合がございます。

  • 千の幸が咲く夜に完了
  • NM名氷雀
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月14日 19時57分
  • 章数3章
  • 総採用数8人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束

「屋台のご飯も美味しかったし、綺麗な打ち上げ花火だったなぁ」
 賑わいの余韻から離れ、黒髪少女の背高の影は河原へ。
「多分、お腹も空いているだろうけど。花火の打ち上げなら熱が相当凄いだろうし、喉乾いているかなぁって……喜んでくれますかね?」
 抱えているのは様々な飲料の詰まった籠。そんなひと仕事を終えた者への配慮に満ちた冷たい差し入れを渡すべく、花火職人を探していると橋を渡ってくる男がひとり。恐らく関係者だろうと見当をつけて『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)は歩き出した。


「ひっひー、打ち上げ花火、すごいした。ね、提灯職人さん」
 ご機嫌な『新たな可能性』カルウェット コーラス(p3p008549)に頷き、忘れているだろうと両手の戦利品を掲げる。
「と、と。終わる、する前に、食べる、しなくちゃ!」
 食べ歩きにも最適な屋台ものだが、感動で食欲が迷子になったカルウェットの動きは止まってしまう。
「……花火職人さんと、仲良し、しない?」
 突然の問いかけに、祭りに出張る職人同士の縁はあるが、と短く答える。
「それなら、残るしたご飯、差し入れ? したいぞ」
 みんなでなら美味しく食べられる、と言われてしまえば躊躇いつつ彼が見遣った先、橋の袂には少女と談笑する男の姿があった。


 また飲んでいるのか。提灯職人は合流した花火職人が握る瓶に渋い顔。
「いんや、こりゃ嬢ちゃんからの差し入れさ」
 有り難ぇもんだ。にんまりと甘く熟した果汁を口に含む。どうぞと朝顔が勧めれば、カルウェットもいそいそとたこ焼きやら何やらと取り出し、差し入れのバランスは完璧だった。
「花火、すごいした、伝えたかった! 提灯職人さんと楽しい、した!」
 河原に腰を下ろした四人は和気藹々。
「そりゃ職人冥利に尽きらぁ。なぁ提灯の?」
 親しげな様子を揶揄おうと視線を投げる花火職人だが、彼は取り合わない。
「これからも、ボクと、なかよくする、してくれる?」
 職人二人はそれぞれに喜色を滲ませた。
 そういえば、と果実水で喉を潤した朝顔。
「どういう方法で花火を作ってるんでしょうか?」
 脳裏に焼きつく鮮やかな火花をなぞる。
「千幸花火はとても不思議で。私が想い出を言う度に色を変えて、まるで心を映すように。言わなかった事も、すべて……素敵な想いを込めて作ったんだろうなぁって」
「弟子になりゃ幾らでも教えてやるんだが——」
 しれっと酒精香る液体を煽った花火職人は、とんとん、と心臓の上を叩く。——そこにある、嬢ちゃんのやりたいもんを大事にしな。それが不完全燃焼にならねぇようにあわらすのが俺らの仕事よ、と。

「職人さん、みんな、尊敬。ボクも、なりたい。ねぇねぇ、なんで、そんな、かっこいい、するの?」
 志に興奮してカルウェットが畳み掛ける。
「おっ。お前さんも弟子になるか?」
 その辺にしておけ、と睨む提灯職人に花火職人はケラケラ笑うだけだった。

成否

成功


第3章 第2節

 花火は尽きた。空に走る白煙の跡がすっかり風に流され、星の瞬きも鮮明になる頃。さあお開きだと誰かの声が谺する。
 そんな川向こうの喧騒を背景に、身を清めた花火職人達は静かに整列していた。祭りの締め、最後の大仕事の時を待っているのだ。

 ボッ、と突如彼らの目前の空間が燃え上がり、伸びた火柱が狐に似た姿を形作った。生物の理から外れた気配に粟立つ肌を、その場にいる者を丸呑みする程の熱量がチリチリと炙っていく。
 職人達の長たる男が進み出た。怯むことなく、恭しく何かを捧げ持つ立ち居振る舞いは、酒を喰らって笑っていたそれとは正反対のもの。この世界において『職人』を名乗る者に無くてはならない能力だ。
 一言、二言、独特の抑揚を持った祝詞と共に首を垂れて差し出すのは金色の稲穂。今年一番に刈られた、実りの証。夏の太陽を司る火の神様に、ここに至るまでの感謝を伝える意味がある。彼ら花火職人の屋号『稲屋』もここから戴いたものだ。
 そして次の年の加護を請えば、己が眷属達の声を聞くように揺らいだ焔は稲穂を咥える。その鼻先が掌を焼くが職人は微動だにしなかった。
 やがて狐は火柱に戻り、現れた時と同じ音を立てて宙空に消えていった。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。数えて呼気を緩めた職人は弟子達を振り返り、お疲れさん、と呟いた。
 これにて夏の花火大会、閉幕。

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