シナリオ詳細
[404 Not Found] 09021-β
オープニング
●404 Not Found
――この依頼書は後に消失する。
これは貴方達の記憶にだけ残る物語。
●α-β
人が死ぬなどと言う事はあっけないものだ。
例えば事故であったり例えば突然の病であったり。
人は何の前触れもなく死んでしまう。
――命を奪い合う戦場であれば特に、だ。
傭兵にドラマティックな死に様など期待するな。
お前達の命などパン屑と変わらぬ。
「んな事言ったのはどこのどいつだったかな……」
空を眺めてぼやく男が一人――ああくそ、憎たらしいほどに綺麗な月が出ている。
ここはラサの砂漠地帯。その中にあった遺跡……の中に彼はいる。
仲間の傭兵達と共に。傷ついた仲間達と――共に。
「どうだ。傷は癒えたか?」
「何とか全員応急処置は済ませたが……流石に万全とはいかないな」
「いつだって傭兵は負け戦さ。少しでもマシになっただけ、良しとしようや」
視線を巡らせれば体のあちこちに包帯を巻いた連中ばかりだった。かく思う彼……この傭兵団を率いる団長だが、そんな彼もまた足を負傷しているのか動きが些かぎこちない。
端的に言えば彼らは襲撃された後なのだ、盗賊団に。
「どっから情報が漏れたんだかなぁ」
呟き、遺跡の窓から外を見れば――ああいるいる此方を伺っている盗賊団が。
完全に包囲されているようだ。奴らのお目当ては傭兵団が護っている『宝石』だろう。
先日、鉱山で大きめの宝石――売ればそれなり以上の額になりそうな――が発見されたのだ。当然持ち主は売って金にしようと考えた訳だが、ラサの首都ネフェルストに運ぶまでに危険がないとも限らない。よって傭兵団に運搬と物の警護の依頼をしたのだ――が。
「多すぎるだろ。三十人は超えてるぞ」
敵の戦力が多すぎる。傭兵団は十人、盗賊団はその三倍以上。
同数か、少し数が多い程度なら負けるつもりはなく。二倍の数が来ようと依頼物をなんとか突破してネフェルストにまで運ぶ自信はあったのだが……これだけの数が違うと流石にそうはいかなかった。
放たれた多くの矢を始まりに大量の数が押し寄せて。
何人も切り伏せたがそれでもまだ多く――なんとか敵の攻勢を退けながらこの遺跡に逃げ込んだのが現状であった。この遺跡も穴ぼこだらけであり別に城塞と呼べるような堅牢さは無いが、壁があるだけ外の平地よりはマシだ。
……だが結局状況は好転していない。
敵も獲物を追い詰めたとみて一息ついているのか、今の所動く様子はないが……
「時間の問題だな」
攻撃が始まれば今度こそ終わるだろう。
これ以上は逃げられる余地も無し。逆転できる余地も無し。
せめて傭兵の矜持として――依頼物だけでもなんとかしたい所だが――
「はいはいはい! じゃあボク! ボクがなんとかしま――す!」
と、その時だった。嫌な空気を振り払うかのような陽気な声。
「ここでなんとか出来なくてもさ……一点突破して援軍呼んで来ればいいよね!」
「――レイン。お前、そうは言うがな。援軍なんて間に合わないだろ」
「ふふん。どうかな、盗賊の連中油断してるからワンチャンあるかもよ?」
それはこの傭兵団の紅一点。
レインと言う名のまだ年若い、少女ともいえる人物の声だった。まぁ彼女が言うのも一理はある。この場でなんとかしかねるのなら、どうにかこうにか『外』に希望を寄せるしかない――
どの道、このままでは敗北あるのみだ。
「……そうだな、やるだけやってみるか」
「おっ、流石団長! そうこなくっちゃね!!」
「そんならレイン、お前がこの依頼物は持っとけ。俺は脚をやられてる――動きが鈍ってる奴が依頼物気にかけて更に鈍るより、一番元気なお前が持ってんのが一番いい筈だ」
「ん? あぁ、おっけおっけぃ。任せておいて!」
故に団長も決意する。陽気に振舞うレインが脱出のための準備を進めつつ。
その背後にて、小声で周囲と。
「おい」
「ああ。最悪の場合レインだけでも逃がすぞ――」
「あいつは女だ。捕まりゃどうなるか分からねぇし、そうでなくとも若い奴だ。こんな所で終わっちまうのは寂しいわな」
決意する。
もはや最良が望めぬなら、せめて次善を。
未来ある奴の未来を繋ごうと。
●β-1
「よぉ――アンタらがイレギュラーズか」
その声は実に野太い声であった。
目の前にいるのは依頼主――にして。
この辺りを根城とする『盗賊団』の長である。
「金さえ払えばなんでもしてくれると聞くぜ。その力を見込んで頼みがある」
「――あの遺跡に立て籠もってる連中か?」
「……くくっ、話が早いと助かるな。そうさ。連中はなんでも珍しい宝石を持ってるとかいう話でな、そいつを俺は欲しいんだが――こいつがやはり中々にしぶてぇ連中だった。強引に潰すのも出来るだろうが、イタチの最後っ屁でこっちの傷が深くなるのも俺としちゃ看過できねぇ」
視界の先。盗賊団が包囲している遺跡があった。
遠目にしか見れていないが、どうにも人の気配というか――視線を感じる。
盗賊団から得た情報によるとあそこに逃げ込んだのは手練れの傭兵十人。いずれもが大なり小なり負傷しているようだが……もし死力を尽くしての戦いと成れば練度に勝る傭兵団が包囲側にどんな損害を齎すか分からない。
――だからイレギュラーズ達の力を借りる。
その力を持って連中を殲滅してほしい、と。
「ああ。そうそう……その傭兵団の内、女が一人だけいる。そいつは出来れば生かして捕まえてくれや」
「なぜ?」
「色々と『使い道』があるもんさ――女ってのはな」
下卑た笑みの色が目に映る。ああ一体何を考えているのかまでは、聞かないが。
この依頼のオーダーは簡単だ。傭兵団を潰し、宝石を手に入れる。
身ぐるみを剥ぎ、尊厳を剥ぎ。全てを我が物としたいのだ、彼らは。
「所詮傭兵なんざ幾らでもいるんだ。パン屑と変わらねぇよ」
日々の中で零れる一滴。
傭兵の命などそのようなもの。だから別に気にするなと。
食い散らかしたい側が食い散らかしたいが故の理屈を並べていた。
- [404 Not Found] 09021-β完了
- GM名茶零四
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月29日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
依頼は依頼。ローレットには『様々』な依頼が流れてくる。
善もあれば悪もあり、だからこれは。
「よくある話の1つだね」
『デイウォーカー』シルヴェストル=ロラン(p3p008123)は思うのだ。受けた依頼の途中で盗賊に襲われるのも、数の力で蹂躙されるのも、想定外の展開で命を落とすのも――
「全部、よくある事だよ」
世界の片隅に溢れる一つの零れ話。
ただそこに偶々立ち会っただけの事――だから。
「これも仕事だ、悪く思うな」
縁が無かったと思えと『策士』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は思考する。
もしかすれば立場が違う事もあったのかもしれない。例えば傭兵側からの依頼などという事があったのならば。
しかし『そんな事』は無かったのだ。
ここに在るのは只奪うだけの現実――故に容赦はすまい。
動く。奴らが立て籠もっている遺跡までは幾分か距離があり、準備しながら近付く余裕はろう。故に戦いを効率化する支援をまずは己が身へ、次いで。
「あぁ、あの子がレインちゃんですかねぇ。
美味しそうな子じゃないですかぁ、アレ私がもらいたいなぁ」
いいですよねぇ? と、言う鏡(p3p008705)にも付与も。
捕縛? 盗賊団に渡す? どうしてどうして。あんなに可愛らしくて美味しそうなのに。
――魂の舌なめずり。絶対に渡さないとばかりに盗賊団よりも先に出る。
「……仲のいい盗賊団。気持ち悪い。ずっと嫌な目で向こうを見ていた……」
それに何より彼らと歩調を合わせるなど『白い死神』白夜 希(p3p009099)にとっては願い下げであった。だが仕事であるのならばこなす事はしよう。
構える愛銃。射撃にする事によってこちらの存在に気付かせよう――狙撃兵がいるぞ、と。
遠方にまで攻撃出来る者がいるならばそう容易く外に飛び出す事は出来まい。
「……やれやれ。何とも下卑た話で御座るが……まぁ、正式な依頼である以上は特に言い含める事も御座らぬな。それに……まぁ、故郷で路銀が尽きた時に用心棒紛いの事をしていた事もあったで御座る」
同時。跳ねる様に『咲々宮一刀流』咲々宮 幻介(p3p001387)が遺跡へと接近。刀を抜いて、思い起こすはかつての事だ。
思い出す。雇い主の言う通りに動く用心棒の様な事をしていた時を――
金が必要であれば『なんでも』やれるものだ。まぁそれに、あちら様も傭兵稼業な以上は。
「……こうなる事があるのも承知の上で御座ろう?」
だから同情はしない。ただただ縁が無かったのだと彼は思い。
始末する。傭兵達の首を、オーダー通りに叩き落とす為に。
「三下雑魚盗賊が周りを固めてるとはいえ、一点突破されて万が一があっちゃ敵わねぇからな。ま、こいつも仕事だ……おれさまが賊の何たるかってやつをあのアホ共に教えてやるよ」
そして『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が前進する。梟の護符の力が彼に闇を見通す目を齎し――遺跡の入口へと。もはや傭兵達の命運は決まっているようなものだが……しかしそれはそれとして油断は出来ない。
障害物の陰や死角に敵が潜み、ゲリラ的に抵抗してくる可能性が高いからだ――故に。
「ハッ! あめぇんだよトーシロがぁ!!」
自らに施した治癒術式と共に、中へと進むのだ。
斜め後ろに潜んでいた傭兵が襲来する――しかし固めた防御があればそう容易く傷は負わぬし、むしろ返しの一撃でぶっ飛ばしてやろう。挑発じみた言動も重ねれば怒りを誘い、奴らから撤退の選択肢を遠ざけさせる。
しかし誰も彼もが負傷しているとはいえ、成程。未だ動きだけは健在のようだ。
これにマトモに当たれば犠牲が増えよう――そうも思えば依頼人の『損害を抑えて、最大限の利益を得る』為にイレギュラーズ達を雇ったのも納得であり。
「必要なら金も惜しまないタイプっぽいし、盗賊っつーか組織のアタマとしちゃ理想なんじゃねーの? ま、こーゆヤツは斬り捨てる時も容赦ねェケド。考えてもしゃーねぇか。依頼主に損させねェよー働きますか!」
だからこそ『悪徳の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は一部だけ共感しながら、傭兵達へと一撃を紡いだ。それは長距離からの一撃――遺跡の中に潜んでいようと、射線が全くない訳では無いのだ。
特に先のグドルフ達が突入して以降は必ず外からの射撃が区切れぬ様に位置し続ける事が出来る訳でもあるまい。そして。
「さーて。精々追い詰めさせてもらうかね――ラサってのはこんなもんさ」
『須臾を盗む者』サンディ・カルタ(p3p000438)は後方より。盗賊達の行動と合わせて彼は裏手側を塞ぎに行く。
現場も見てねぇ商人達がなーんの心配もせずに、ただ鉱山から宝石を運び出して手に入れる?
「そんなのもう腐った幻想国だぜ。ラサがそんな『つまんねー』んじゃだめだろ?」
全てはあちらの落ち度だ。任せれば大丈夫だと踏んだ、その甘さ。
報いを受けてもらうとしよう。逃げ出そうとする傭兵がいれば、その足を止める。
――機動力を奪う為の術はあるのだ。そう簡単には逃がさない。逃げられるという希望すら与えない。
お前達は、ここで死ね。
それが――きっと今宵の運命なのだから。
●
「おぉ! 迎撃しろ! 機を伺うんだ、レイン準備しろ!!」
傭兵達は奮戦する。侵入してきたイレギュラーズ達を足止めせんとしているのだ。
宝石を持たせている――レイン。彼女が逃げられればそれでよい。もう、よい。
俺達は死んでもいい。
「だがアイツは殺らせねぇぞ……!」
「ふむ。流石と言うべきか、中々腕が良いで御座るな」
金属音。それは、鍔迫り合い。
幻介と傭兵の長とのぶつかり合いだ――成程。手負いであるのは確かなのだが、その上でも未だ戦うだけの力を残している。一合、二合。刃を交わせれども、その首に届かせるのは容易ではない。
「――が。女子を庇いながらというのも戦い難かろうて」
それでも、状況的に有利なのはイレギュラーズ達に変わりはない。
傭兵団は全てレインの援護の為に命を賭さんとしている――故に穿つ。通常の戦闘布陣ではない、いつもと違う戦い方が幻介の目に『隙』を見せていた。気は進まぬが、早々に逝かせてやるのが慈悲というものか。
「抵抗は無意味……などとは言わないよ。降伏されても、結果は同じだからね」
同時。シルヴェストルが前へと。挨拶代わりに放つは――己が影より生成した蝙蝠。
放ちて嗾けるその魔術。視界を潰さんとする、只の嚆矢であればそれだけに終わらない。手近な傭兵に肉薄し、魔力を纏いて掌底一閃。
抵抗は存分にすると良い。盗賊団を相手に降伏しても、待っているのは悲惨な末路。まぁ傭兵としての矜持を持っているならば、命乞いなどという選択肢はきっと端から頭には無いだろうが……
「だからこそ残念。ああ本当に、とても残念だが――死んでくれ」
リアナルはそんな彼らへと熱砂の嵐を。
外の盗賊達には傭兵らの逃走ルートを主に警戒させている――ついてきても構わないが『こういう』技もあるのだ。巻き込まれて死んでも責任はとらんぞ? と脅していれば、無為な犠牲を払ってまでここまで来ようとはしないだろうと目論み。
「……まぁ盗賊達がどこまで信用できるか。いっその事撃ちたいぐらいだけれども」
そして希は引き続き射撃を繰り返す。特に狙うのは遠距離への攻撃手段を持つ者、だ。
迅速な抜き撃ちを幾度も。放ち放ちて、頭を狙えるならば狙撃し。
「どうしたこんなもんかぁ? もちっと根性見せてみろやァ!」
最前線を張るグドルフは正に重厚。各個撃破の狙いを取りながら、警戒も怠らない。
ここは傭兵達のテリトリーであると考えて、背後から予期せぬ一打を貰おうと――顔には出さないことを重要視。
何かしたか? そう言わんばかりに振り向いて。
膂力を全開に。己の一刀を――敵の腹へと叩き込んだ。
「皆――ッ! くそ、くそ! やめろよ! うわああああ!!」
さすれば段々と死を迎える傭兵もいるものである。
動かなくなった仲間。その顔を見てレインは激高する。
なぜ、どうして。こんな事を、くそ、なんなんだよお前らは!
「うふ、あはは。逃げなくてよろしいので? それならそれで――好都合ですけれどぉ」
瞬間。剣を振るうレインの背後に回り込むのは鏡だ。
見るのは首筋、柔らかそうな美味しそうな首筋。
あぁあぁ斬りたいと。神速の抜刀が――鍔を鳴らした。
「クッ!」
金属の衝突音。レインが辛うじて刃を差し込ませたか。
可愛らしい抵抗だ、むしろ心が躍る程に――鏡の口端は吊り上がっていき。
「レイン、此処は良いから逃げろ! 逃げろ――! 目的を忘れるなッ!!」
同時。レインの前に傭兵団の長が立ち塞がった。
最重要なのは宝石をここからなんとしても届ける事だと。俺達に構うなと――ばかりに。
「おいおい逃がす訳ないだろ? こっちは当然塞いでるぜ」
だが裏手に回っていたサンディがそこを塞いでいた。
特異なマントを身に纏い、待ち伏せていれば奇襲の様に襲えるものだ。宝石を持っているだろう少女……レインを特に狙う。
逃がさない逃がさない。どれだけ願おうが、どれ程天に祈ろうが。
「運が悪かったと諦めな」
ことほぎの一言。刹那、狙いすました一撃が遥か彼方より襲来する――特に逃走を、あるいはレインの逃走を支援しようとしている者を穿つのだ。
その一閃はまるで熱に浮かされるように。毒に侵されるように。
踏み込もうとする足を留める魔性の欠片。
「アンタらはここで終わるのさァ。分かってるだろ――何しても無駄だって」
例え突破しても盗賊団が山ほどいる。包囲に穴などあるものか。
傭兵達にはもう希望など無いのだ。
伸ばした手の先に在ると信じる光など、今日この場のどこにもない。
それでも。
「それでもなぁ、俺達ぁ……ラサの傭兵なんだよ!!」
諦められぬ理由があるのだと、傭兵団が奮起する。
ああきっとここで俺達は死ぬのだろう。だがな、ラサの連中が『タダ』で死んでやるとでも思うか?
「レイン! 果たせよ――自分の責務を!」
奥歯を噛み締め地を踏みしめ。死兵に至りて力を灯す。
あぁ彼らは今正に――最後の輝きを見せようとしていたのだ。
●
「おいおいおい逃がさないって言ってるだろ?」
サンディは視た。口を噤んだレインが泣きそうになりながらも、別の方向へ向かったのを。
サンディの居る方向からは逃げられないと踏んだか。しかし予想の範囲内だ。
「その足、潰させてもらうぜ」
敵の動向はしかと見ている。逃走など許すものか。
腕を振るえば魔の風が至る。それは真空刃――鎌鼬――?
いずれにせよ届かせるモノである。彼女の足を抉り、その動きを押し留めんと。
「させるかぁ!」
しかしそこへ傭兵の一人が立ち塞がった――庇ったつもりか?
「泣かせるじゃねぇか。だが、んな体でどこまでやれる?」
「如何に素早く動けても狭所であるなら万全とはいかないだろう――追い込むよ」
ならば届かせるのはグドルフだ。大きく踏み込み、一撃一閃。同時、シルヴェストルの雷撃が邪魔をせんとする傭兵達を纏めて飲み込む。地を這う蛇の様な雷が傭兵達を食す様に。
それでも最後の輝きをとばかりに奮戦する傭兵達は揺らがない。
せめて若きレインだけでも逃がさんと死力を振るう――剣の鋭さが明らかに先程よりも優れ、削れた体力でなお倒れずに踏み止まる意思がそこに在ったのだ。
傭兵団が吠える――邪魔をする者を排除せんと、活力を満たして。
「ふむ。これが火事場の馬鹿力……或いは窮鼠猫を噛む、の真っ最中かな?」
であればとこちらの力も万全にせんとするのがリアナルだ。
味方全体を立て直す号令がまるで言霊の様に力と成る。此処からが正念場だという事を切に感じている次第だ――傭兵達の攻勢が激しく、ああ全く強行突破の為の一打と言う訳か。
「執念は御見事。しかし、その信念を通させ訳にはいかぬで御座る」
それでも折る。必ず折ると幻介は真正面から激突。
素晴らしい太刀筋だ。これが誰かを『守る』と決意したが故の力か――剣先が幻介の肉を抉る。痛みが走り、彼らの想いが痛い程に伝わって来る、が。
「せめて一撃でその首を断ち斬って差し上げよう……遠慮せず、その首を差し出すが良い」
直後。天下御免の一刀が大天上からその頭を――カチ割った。
願う事による力の増幅。理解は出来るし実感もするが……だからといって真に戦況の全てを凌駕するかは話が別である。
彼らの一撃は確かにイレギュラーズ達の身を刻み、猛撃している、それでもそれでも。
結末を変えてやる心算は一切ないのだ。
「あ、ああ……ああぁ……」
消えていく。皆の命が消えていく。
さすれば最早レインの喉は恐怖と悲しみによって震えていた――
奥歯を噛み締めなんとか足に力を。外を求めて走り抜ける。
どうしてこんな事になったのだろうか。
情報が漏れていたから? 力が無かったから? 数が違い過ぎたから?
或いは――今自分達を追い詰めている彼ら――
イレギュラーズ達が味方であるような未来があったのならば、違った結末もあったのだろうか。
頭を振って否定する。そんな『もしも』を考えても仕方ないのだと。
レインは駆ける。包囲に穴がきっとある筈だ、逃げられる場所がある筈だ。
きっときっとどこかに希望が――
「あ、ぐッ!?」
瞬間。己が脚に走った痛みは銃の一撃。
――希だ。予想だにしないタイミング、彼方から放たれた一撃がレインの足を穿った。
「……この距離からは当てれないとでも思った?」
そんな筈はないよと口に零して。
見る。転んだレインを。見る。それでも前に進もうとする彼女の姿を。
「はッ、はッ、は、ぁッ、はッ、はッ……!」
荒い息。焦燥に満ちながら鼓動を鳴らす心臓。
全身を覆う気持ち悪さに耐えながら、這ってでも前に進む。
皆が繋いでくれた命を――こんな所で――!!
「だけどまァ――ここまでだわなぁ」
されどその背を、ことほぎの見えぬ刃が襲った。
死力を尽くされようが、それまでに弱らせた経緯が傭兵団の力を削いでいたのだ。さればレインに追いつくのも決して難しい事ではない。死兵となられても、その実力を発揮させなければ良いだけの話なのだと。
そして。
レインの眼前に回り込む影が一つ。
敵――!? そう想ったレインが顔を上げれば、そこに居たのは長の顔で。
「――ぁ」
しかし、気付いた。
それは長ではない。長の振りをした――
「駄目ですよぉ、その硬直の差はデカい。まぁその足取りじゃ元から駄目でしょうけど」
鏡であった。
鏡のギフトが模倣を果たしたのだ。たった十五秒間の偽造、それでも一瞬。コンマでも躊躇いや戸惑いが生まれた隙を、鏡は見逃さない。
斬り殺す。
肩を大きく抉る一撃。骨が割れ、肉が削げる嫌な音……
「はぁはぁ……ッ! うっ、ごふ! げ、ふッ……!」
そして口から零れる紅きソレが彼女の喉を塞ぐ。
懐に隠している宝石を奪われないように身を丸めるが――無駄だ。
死体になればソレまでである。
故に鏡はレインの前髪を掴み、強引に持ち上げる。
さすれば力が残っていないレインには抗えず――その綺麗な首が鏡の前に晒されて――
白き肌に。刃を、差し込まれた。
ゆっくりと横に引く。されば消えていく命、命。
人を斬る感覚が愉悦たる鏡にとっての満足。その手中で欲求が今まさに満たされて……
「――、――――」
そしてついにレインが息絶えた。失われる血液、零れていく魂。
もう彼女は笑わない。絶望に染め上げられた瞳は瞳孔が濁り。
やがて一寸の動きもなくなり果てる。
「――まぁあんな奴らのおもちゃに成るのは御免だろう」
それでもきっとソレはマシな結末だと、追いついたグドルフが紡ぐ。
何のためにレインを求めたのか。口にはしないが予想が付き……だからこそ殺す。
「偶々当たって死んだとでも、なんとでも言おう」
「あぁまぁなんでもいいさ。とりあえず後は――目当ての宝石が必要だな」
やがて希とサンディも合流し、レインの遺体から宝石を収奪せんとする。
しっかりと握り締めている、その五指をどかして。地に塗れた石ころ一つが手中へと。
「おぅ、流石だなイレギュラーズ――んっ? 女は死んだのか?」
「ああ。悪い悪い、あんまりにも反抗的すぎてねェ……勢い余ってオンナも殺しちまったぜ! ま、あの程度じゃあ大したカネで売れねえよ、ハズレ引かなくて良かったな。ええ? ゲハハハハ!」
やがてゆっくりと追いついた山賊の頭に対し、グドルフは大笑いしながら誤魔化して。
――はした金で売ってはいけないプライドもあるという事だ。
悪なる依頼。結構であるが、魂まで底に落とす気はない。
「はっは。まぁこれで依頼完了、だなァ? ま、今回のはご縁があったという事で。
依頼がありゃあまたどーぞ!」
そして。ことほぎも軽い挨拶にだけ留めて、その場を離れんとする。
盗賊のハナシなど碌でもない。付き合うだけ無用なリスクが増えると思考し。
誰も彼もの足が離れ始めれば、この地に残ったのは幾つもの死体のみ。
やがて全ては消えよう。砂に埋もれて、砂が隠して……
まるで此処には誰も居なかったかのように。
まるで此処で何も、起こらなかったかのように……
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
404 Not Found
――お探しの依頼は見つかりません――
GMコメント
これはちょっと不思議な依頼。
備考欄にも記載していますがαとの直接的な繋がりはありません。
よく似た依頼か、或いは――
■依頼達成条件
・傭兵団を一人も逃さず殺害する。(後述のレインに関しては捕縛でもOK)
・盗賊団側に八人以上の負傷者が出ない事。
両方の達成。
■戦場
ラサの砂漠地帯――の中にあるとある遺跡。
時刻は夜です。月明かりがあるので視界にはほぼ問題ありません。
遺跡の中は多少の壁や障害物が存在していますが、遺跡故か穴ぼこも多く回り込む(回り込まれる)事も決して難しくないでしょう。
■傭兵団
ラサで様々な依頼を請け負う傭兵団の一つです。
メンバーは後述のレインを含めて十人。近遠にバランスの良い編成です。
今回、とある宝石の運搬依頼を引き受けていました。
……が、数で勝る盗賊団に襲撃され戦況は不利に。近くにあった遺跡の中に逃げ込んで体制を立て直そうとしていますが、傷が癒える間もなく、戦況は未だ傭兵団の方が不利なようです。
戦闘能力は個々人では盗賊団よりも勝っています。
ただし負傷している人物が多く、戦闘能力やHPが低下している様です。
完全に逃げられないと分かった際には文字通り命を懸けて死力を尽くしてくる事でしょう。その際は【全員の戦闘能力が上昇】します。
■レイン・クルジス
傭兵団の紅一点で、十代後半の若い年齢ながら将来の才覚に溢れた人物です。
剣を用いる近接タイプ。非常に素早い動きで敵を翻弄させることを得意としている様です。現在、依頼物の宝石を持っています。
■盗賊団
砂漠地帯に潜む盗賊団です。縄張りにしている地帯に入り込んだ商隊の襲撃などをよく行う連中。今回、貴重な宝石の運搬依頼を傭兵団が行っているとの情報を得て襲撃。数で押してついに遺跡の中へと追い込んだようです。
確認できるだけで三十人程度はいます。
強さや武器はまちまちですが、大きな斧を持っている頭目だけは抜きんでた実力を持っている様です。また頭目は周囲R2以内の盗賊団員の戦闘能力をほんの少しだけ上げる指揮能力を所有しています。
盗賊団はシナリオ開始後暫くの後に攻撃を開始します。
皆さんはそれと同時に攻撃をしても構いませんし、先行しても構いません。
■宝石
鉱山で発見された大きめの宝石で、傭兵団はこの宝石を運搬していました。
現在はレイン・クルジスが持っている様です。
■備考
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合『ラサ』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
この依頼では成功時、通常の依頼よりもGoldの入手額が少し増えます。
レイン・クルジスの捕縛に成功するとGold報酬が更に少し増えます。
この依頼は[404 Not Found] 09021-αと非常によく似ていますが【繋がりはありません】。例えばαの参加者と出会う事などは【ありません】。ですので両方の依頼に(当選した場合)参加する事も可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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