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シナリオ詳細

<幻想蜂起>Eye of the gloom

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ロウブレイド子爵領。
 王都西部の街道沿いに位置するひとつの街と、いくつかの小さな村を束ねた地方である。
 狭い領土ながらも農作物や酪農を産し、鉄鉱石も取れる。
 そして街自体も小さなマーチャントやクラフトマンズのギルドを有しているのだ。
 もともと先代領主は穏健派で知られ、領民達の信頼も厚かったとらしい。だが今はからっきしだ。
 息子である現子爵セイン・イノケンティウス・ロウブレイドは非道で名が通る幻想貴族らしい幻想貴族であった。

 元々あった租税で十分に賄えていた財政は、子爵の放蕩で悪化の一途を辿っている。
 子爵は結婚、出産、移動に日々の食事。生活の細かな部分に租税を課た。
 人々の生活は徐々に徐々に貧しさを増していった。
 けれどいかに病み疲れた街であっても、多くの人々はそこでの生活を続けざるを得ないのだが。

 ――時刻は夕刻だろうか。
 この日、街の中心にあるクラフトマンズギルドに集まった男達は四十名を数える。
 口にする話題は陰惨なものばかりだった。
 ある男は、突如娘が失踪したと言う。育てた恩を綴った一枚の置き手紙と金貨が一枚。家計を案じて身を売ったに違いない。
 別の男が言う。彼は生まれた子と同じ重さのバターを納められない事情が生じたそうだ。
 子は死産という扱いになった。産婆に殺させたのである。
 そして薬が買えず、治る病を拗らせた妻を失った男が居る。
 暗い話にはきりがない。
 誰も彼も、その瞳に宿す光は憎しみに燻っていた。

「親方、準備はいいですかい」
「わかっとる」
 俯きながらも下を見ればきりがないと日夜奮起し、かろうじて繋いできた四十の命。その灯がある。
 その炎が今、燃え盛ろうとしていた。

 薄暗い建物の中で、一人の男から男へ、羊皮紙がゆっくりと手渡される。
 ろうそくの灯が揺れる中で、厳かな儀式であるかのように連綿と続き。
 最後の一人。初老の紳士がそこへ己が名を記し、指を切る。流れる一滴の赤が滲み。

「明日。我等は大逆を成す」
 朗々と響く声には張りがあった。
「だが我等が血は、暁の明光となろう。さあ、剣を取れ!」
 男達が一斉に剣を抜く。
 いずれも筋骨逞しいが平凡な身なりだ。この町のクラフトマン達であろう。
「この一戦に必勝を!」
「必勝を!」
 一点に集った剣の元、男達は声を張り上げた。


「ちょっと難しい依頼かもしれないね」
 開口一番、『黒猫の』ショウ(p3n000005)はそう切り出した。

 クライアントのオーダーは『市民の脱出』らしい。
「けどこれが中々に厄介でね」
「だから私達が居る。でしょ?」
 眉間に僅かな皺を刻ませたショウに、『駆け出し冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が胸を張り、仲間達を見渡す。
 無論デビュー以来、破竹の勢いで功績を上げ続けるローレットのイレギュラーズ達も同じ気持ちであろうか。

「そいつは頼もしいんだけど」
 言葉を濁しながらショウは声を潜める。
 いつもであれば羊皮紙を机に差し出す頃合いだが、今日はそんな様子が見えない。
「実はね――」

 ショウの話によると、幻想では民衆の蜂起が相次いでいるらしい。
 原因は不明――未だ不明としておく他ない情報量でしかないのだが。
 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以来、レガド・イルシオンは不穏な空気に包まれていた。
 猟奇的な事件が頻発し、惨劇が巻き起こり。
 それは瞬く間に、この国の上層部へと向けた怒りの炎として燃え上がりつつある。

 サーカスの影響か、あるいは他になにかあるのか。その辺りは定かではない。
 蜂起自体は連鎖的でこそあれ、全く無計画に近いもので貴族達に敵うようなものではない。
 だが貴族任せにしていては猟奇事件とは比較にならない被害が生じるのは間違いないだろう。
 だから人命にも経済にも大きな打撃を与えるような、より大規模な暴動や内乱を未然に防ぎ、被害を極小に留めたい所だ。

 今この国にそんな痛みを与えてしまえば、おそらく背後に存在する疑いの強い『魔種』や『原罪の呼び声』に与することになってしまう。
 そこでレオンは貴族達を相手に告げた。
 今回の反乱封じをかいつまめば『ローレットが行う。故に軍の派遣は待て』というものであった。

「そんな所が背景なんだけど」
 ロウブレイド子爵領の街グレッグで、クラフトマンズギルドの男達が蜂起を企てているという一報があった。
 だが依頼主は討伐を望むであろう幻想貴族ではなく、かの『幻想大司教』イレーヌ・アルエその人らしい。
「だからそんな男達を逃がして欲しいっていう内容なんだ」

 なるほど、と。イレギュラーズの一人が頷いた。
 この街には古くからマーチャントギルドとクラフトマンズギルドの確執がある。
 きっと街道と鉄鉱山という強力なカードがすれ違いを起こしでもしたのだろう。
 物流で潤うマーチャント達と、工業製品を生み出すクラフトマンズ達。
 かみ合えば結構なことなのだろうが、そうでなければ敵となるのだろう。
 領主、工業、商業。そんな三角関係に業を煮やす商人達の思惑も入り混じり、事態は悪化してしまった。

「これは大変なことだよ」
 クラフトマンズ達の動きを事前に察知したマーチャント達はすぐさま領主に取り入り、既に軍が動き始めているらしい。
「貴族達はともかく、商人の情報はさすがに早いね」
 情報屋が皮肉気に笑う。
「クラフトマンズ達に裏切り者でも居たのか?」
 イレギュラーズの一人に、ショウは首を横に振った、
「単に計画が杜撰だったんだよ」
 なるほど。
「それで領主のオーダーは『反逆者達の殲滅』だそうだ」
 ショウの言葉を聞いたアルテナが息を飲んだ。
 多くの貴族達が事態をローレットに任せた中で、軽挙妄動した子爵は各方面の頭痛の種になるのだろうが。
 しかしそんな一領主の軍勢とはいえ、幻想の公的な騎士団と直接的に剣を交えるのは、いろいろな意味で得策ではない。
 第一彼等に、少なくとも公にはこちらの正体を知られる訳には行かないのだ。

「敵さんや、クラフトマンズのおっさん達の作戦なんかは分かるのか?」
 まずは情報が欲しいと、イレギュラーズが問う。
「そこは大丈夫」
 決起は終わった。
 まず夜半過ぎ、男達はクラフトマンズギルドに集うという。イレギュラーズ達が丁度現場にたどり着く頃だ。
 命を捨てる覚悟をした男達を説得しなければならない。
「説得、ね」
 イレギュラーズの一人が唸る。
 ここで依頼人であるイレーヌの名は絶対に出す訳にはいかない。リスクが大きすぎるからだ。
 そうすると材料は言葉と心、強さ程度しかないのではないか。
「キミらには、この国では結構信頼があるんだよ」
 ショウが言う。
 それはこれまでの冒険で培ったイレギュラーズ自身の信頼だ。
 だが安易に正体を知られる訳にもいかないのが、歯がゆい所でもある。
 他にもアイディアは出るかもしれないが、それは追って考えるしかない。
 具体的な言葉と行動をどう捻りだすかが鍵となりそうだ。

 他に懸念はあるだろうか。
「クラフトマン達にも家族は居るんじゃないのか?」
 家族が捕まり殺された、では片手落ちどころの話ではない。
「そちらは依頼人側が動くそうだよ」
 なるほど、細かい心配は任せてしまって良い訳か。

 さて。おそらく到着する頃。敵には第一の襲撃計画がある。これは子爵子飼いの特殊な部隊らしい。
「こいつらは人間と魔物の混成軍だね」
 その存在は間違いなく不法な連中だと、情報屋は念を押した。
 彼等とは鉢合わせするであろう予測が立っており、撃破――というより殺害を前提にしなければならない。

 だがイレギュラーズ達は、正規の騎士団が到着する前に全員で脱出する必要がある。
 説得はそれまでに終わらせなければならない訳だ。

 これらは完璧に成し遂げなければならない。
 騎士団と正面から戦えば、まず勝ち目はないのだ。
 ローレットのイレギュラーズ個人は強力で信頼性の高い存在だが、あまりに数が違いすぎる。

 誰かが大きく息を吐いた。
 難関だ。
「騎士団の到着までどのぐらいかかるの?」
 アルテナが問う。
「彼等はたっぷりの時間をかけて、じっくりと準備して、入念に進軍する筈だ」
 ショウの答えは奇妙ながら、確信に満ちていた。
 要するに、騎士達にとって非常に気が進まない仕事なのだ。

 虐殺など。子爵が重用する暗殺部隊の士気こそ高いが、まともな軍人がやりたい仕事ではない。
 騎士団の駐屯地は街から数キロ離れた場所、子爵の館の近くにある。
 様々な理由をつけ、出来る限り時間をかけて進軍してくるらしい。
 きっとそういう心持の武人が居るのだろう。
 もしかしたら本件を依頼元へとリークした人物なのかもしれないが、口にすべき話題ではない、か。
「依頼人も動いているから、その後のことはどうにか出来る」
 ショウは言って一枚の地図を差し出した。
「とにかく四十名程の男達を、この位置まで連れて行けばいい」
 それで依頼は完了するということだ。
「絶対。全員無事に帰って来てくれよ」

GMコメント

 pipiです。初全体依頼。
 難しい仕事だと思います。
 がんばってください。

●目的
 以下を全て満たすこと。

・クラフトマンを説得して、全員で街の外に脱出する。
・敵第一陣となる襲撃者を排除する。
・敵第二陣となる騎士団(敵主力)と絶対に鉢合わせない。
・イレーヌの名前を絶対に出さない。
・敵にイレギュラーズの正体を知られない。(知られたら殺す)

●情報確度A
 依頼達成の為には、出ている情報が全てです。

●ロケーション
 クラフトマンズギルドにイレギュラーズ達が踏み込んだ所から開始します。
 ほどなく第一陣の敵部隊が現場に現れます。
 クラフトマンの犠牲者を出さずに倒してください。

 その後、敵主力の騎士団が踏み込んで来ると思われます。
 到着まで十五分よりは長く、一時間よりは短い程度です。

 その前に説得を終え、全員を町はずれの指定ポイントに全員を避難させます。
 騎士団に見つからずに、全員でクラフトマンズギルドから出る事が出来れば成功と見なします。

 広さ、明るさ、足場等は十分です。

●クラフトマン達
 クラフトマンズギルドに集まった四十名の男達です。
 説得し、全員無事に脱出させて下さい。
 屈強ではありますが、戦闘力は低いです。

 彼等は領主の軍勢と一戦交え、その間に暗殺する計画を立てているようです。
 計画の詳細は粗雑そのもの。成功する要素は微塵にもありません。

●敵
 四方八方から現場に飛び込んで来ます。
 クラフトマン達を守りつつ、撃破して下さい。
 そして少なくとも、デゾールに正体を知られる訳にはいきません。
 殺害も検討して下さい。

〇『呪術決闘者』デゾール
 強力な魔法使いです。
 魔術による遠距離単体攻撃を得手とします。
 接近戦闘が不得意な訳ではありません。

〇インプ×4
 痩せぎすの餓鬼めいた魔物です。
 コウモリのような羽を持ちます。
 強くはありませんが、すばしこいようです。
・爪(A):物至単
・呪念(A):神中単
・飛行(P)

〇バルログ×4
 悪魔のような姿の魔物です。大鎌を持っており攻撃力が高いです。
・大鎌(A):物至単、出血
・飛行(P)

●同行NPC
『駆け出し冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 格闘、一刀両断、遠術、ライトヒールを活性化しています。

 特に指示がなければ、適度に無難に行動します。
 何かさせたい場合は、具体的に指示を与えてあげてください。
 絡まれた程度にしか描写はされません。

  • <幻想蜂起>Eye of the gloom完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月05日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
求婚実績(レイガルテ)
Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
朝を呼ぶ剱
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
玲瓏の壁
天津ヶ原 空海(p3p004906)
空狐
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
Ende-r-Kindheit
ファナ・リルフィーヌ(p3p005054)
忘却の騎士

リプレイ


 煌々とした月明かりに照らされた街並み。
 中心にある建物が、この街が誇る職人ギルドの拠点である。
 その扉がゆっくりと開かれた。

 軋んだ音へ、視線が一斉に注がれた。
 視線の主達はいずれも武器を持っている。
 だが頑丈なだけが取り柄の汚れた衣服は、彼等の仕事が戦いではない事を告げていた。

(ひでぇ話だ……クソ貴族め……!)
 内心毒づいた『渡る風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が思い起こしたのは、この依頼の背景事情の一つ。
 目の前に居る男達は支配者に全てを奪われてきた。
 故に彼等は暗殺の計画を立てた訳だが――

「このギルドに襲撃があります!」
 誰よりも早く声を上げたのは『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)だ。
「夢見ルル家、義によって助太刀致します!」
 あどけない顔立ちに輝く眼差しは真剣そのもので、集う男達は息を飲む。

 ――男達の動向を察知した貴族により、この職人ギルドは襲撃の危機に瀕していた。
(オーナーが珍しく東奔西走していたけど……)
 辺りを警戒している『Esper Gift』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)の脳裏に、そんな事がふと過る。
 ローレットオーナーのレオンは、貴族の暴走を未然に防ぐ手配を行っていたが、全てが抑えられた訳ではなかった。
 その例外の一つ。貴族による襲撃が予測されたのが、この場所である。
 だが残念なことに襲撃される側である職人達は、いまだこの重篤な事態に気付いていない。
 なにせ自分達こそが貴族を攻める側だと思っているのだから。
 それをどうにか説得し、襲撃から逃がすのがクロジンデ達の仕事であった。

 ルル家はまず事実を告げた。
 驚愕冷めやらぬ男達の応答は、ざわめきと強烈な警戒だった。
 これもまた当然の反応。この段階で訝しまれるのは致し方のない事ではある。
 ロジカルに先々を予測するという気質ではなかろうが、彼女の行動は理にかなった定石だろう。
 ここから、手をどう進めるか。

 ちりちりとした気配が室内に浸潤して行く中で、一歩足を踏み出す少女にルル家は頷いた。
「わたし達はこの辺に魔物を操る悪い人が来ていると聞いて退治に来ました」
 まずはそう述べた次女服の少女。『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)の言葉。こちらも事実である。

 そうした中で片手を上げてざわめきを制したのは中年の男だった。
「標的が、ここだと?」
 殺気立った空気の中で、男がそう尋ねる。
「ええ、情報から」
 仲間内での話を合わせる形で、Suviaがそう述べる。
 職人達の中であえて比較するのであれば、多少小奇麗な身なりをしている。

 もちろんSuviaは、男がざわめきの中で『親方』と呼ばれているのを聞き逃していなかった。
 彼女の狙いはまず、敵でないことを信用して貰うこと。
 こうした集団に対して、彼女はまず頭目を説得することを考えていた。こちらも定石の筈だ。
 そして彼女は全てをいきなり打ち明けようとは考えていない。
 これはあくまで交渉。ならば情報の出し方一つにも気を配る必要がある訳だ。

 仮に『クラフトマン達による領主暗殺計画を止めさせに来た』と。
 真っ先に述べて聞いてもらえれば話も早かろうが、土台そんなことはあり得よう筈もない。
 ならばあくまで、彼等を守る形で話を進めるのがスムーズであろう。

「まずはこちらを――」
 いつの間に用意したのか。突如現れたのは瀟洒なティーワゴンであった。
 Suviaはハーブティーで茶器を満たし、暖かな香気が辺りにふわりと漂った。
 緊迫が俄に弛緩する。ざわめきと溜息の中で肩を動かす姿が見える。
「これは」
 動揺したのか。或いは突然の事に毒気を抜かれたのか。
 親方は僅かに視線を泳がせ、頷いた。

 まずはSuviaが一口。隅々まで気を配った所作が美しい。
 毒がない事を暗に示す行動だが、信用がない現状で考え過ぎとは言えない。

「実はな……」
 とてもではなくリラックスしているとは言えない空気ではあるが。
 わずかな意識の弛緩は意外な効能をもたらしていた。
 簡素な茶室へと変貌を遂げた広間で。男達はあっけなく計画の全容を口にし始めたのである。

 堰を切ったように話始める男達に、『誓いは輝く剣に』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の表情が曇る。
 訴えられるのは、どれも悲惨な事情だ。
(胸が張り裂けそうです……)
 彼女は、ひょっとするとこの国の誰よりも貴族らしいのかもしれないとも思える。
 だがそんな彼女の家にこそ『元』という頭文字が付与されてしまっている事が、この国を蝕む病巣を端的に表しているのだろう。

(……この世界でも、奪われ、立ち上がる者たちがいるのか)
 可愛らしい耳を動かし、『空狐』天津ヶ原 空海(p3p004906)が思案する。
 かの幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以来、幻想にはそんな空気が蔓延っていた。
 相次ぐ猟奇事件。暴力事件。そして今回の蜂起。その不自然な連なりに、彼女は強い警戒を抱いている。
 それは狂気の連鎖であるが、眼前の男達にそうした空気は感じ取れない。
 むしろ彼女からすれば、原因となった貴族の残虐さと放蕩にこそ狂気を感じようというものだが。さて――

 こうして懸命な話し合いは続いている。
 一人一人の事情は、事前の情報やミルヴィによる調査である程度察しがついている。

 じりじりと時間が過ぎてゆく中で、イレギュラーズ達は辺りに注意を払い続けていた。
 祖国(ラサ)の傭兵達はよく『突き立てきれなかった牙も己の内』などと言う。
 だが幻想ではこんな彼等に手を差し伸べる者も居るのだろう。ある意味では優しいものだ。
 尤も彼女等にとっては多くの秘密を通さねばならない、厳しい仕事ではあるのだが――
 口には出来ぬ依頼人のことを考え、クロジンデがフードを整える。

 この国では珍しい小麦色の肌、ハーモニアの耳。ラサ風の衣装に包まれた愛らしい容姿。
 更にはローレットで長く、名声も高い彼女は比較的足が付きやすいと思われる存在だ。
 故に今日はフードのついたローブで見た目をバッサリと覆い隠しているのである。
 少々怪しいのは致し方ないが、交渉は任せている。
 既に神秘の力を張り巡らせている彼女の役目は、戦場の把握と襲撃への警戒だ。

 それにしても。この短時間で彼等に信用されたとも思えないが、良く話すもの――

 ――羽音。
 風を切る。微かな。

 一つ。二つ。合計で八つ。
 幾人かのイレギュラーズだけに聞こえるであろう羽音が上空から近づいてくる。
「聞こえるねー。『妖刀の』『黄泉落とし』」
 目配せ。頷き。
「聞こえます。八。大きな羽音は入口側。小さい羽音が奥でしょう」
 クロジンデの問いにルル家が答え、高い天井を仰ぐ。経路はおそらくあのガラスになるだろう。
「今正面に九」
 こちらは足音だ。
 愛刀、首狩正宗に手を添えた『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)が姿勢を低く構える。

「どうしたのかね?」
「上から来るようです。中央にお集まり下さい」
 男達が動き出す中。
 けたたましい音を立てて上空のガラスが割れる。
 月光に煌く破片が降り注ぎ、重い木扉が開かれる。
「お集まりの所、恐縮だがね――」
 芝居がかった口調で、両腕を広げながら歩いてくる男。襲撃者デゾールか。

「…アンタ達は絶対守り抜いてみせる、どうか死なないで」
 ミルヴィが『1日契約』を誓い――


「テメェの相手はアタシだ」
 ミルヴィがデゾールへ宝刀イシュラークの切っ先を向ける。
「親方殿は傭兵でも雇ったのかね」

 鋭い剣戟の音。火花。
 疾風の英雄ヴィンセントを讃える唄が仲間を鼓舞する中で、雪之丞が悪魔のような魔物バルログと切り結ぶ。
「こんな形で、終わって良いはずがない!」
 矮小な小鬼へ向けて、空海は燃え盛る炎を叩きつける。
 剣を震わせる職人達の訴えは、手段は兎も角として、少なくとも正当なものではあろう。
 だからこそ、彼女等はこうして抗ってみせるのだ。
 男達の命を無駄に散らせる訳にはいかない。

「なかなか、やるようだ――ッ!」
「どうも。ちっとも嬉しかないけどねえ!」
 イレギュラーズ達は敵を職人に近づかせないよう、交戦体制を構築している。
 故に各々の事情を抱えた危うい拮抗の中で、まずは作戦が成立したと言えるか。

「大丈夫です。仲間が何とかしてくれますから」
「あ、ああ」
 青ざめた職人達をなだめるように、Suviaが語り掛ける。
「うん、大丈夫。後ろは任せて!」
 クロジンデの指示で、『駆け出し冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)も仲間達と歩調を合わせていた。
「ふん、侮らないでよね!」
 そう言った『忘却の騎士』ファナ・リルフィーヌ(p3p005054)が槍を構える。

「お。俺達だってえ!」
 呼応する男達へ。
「死にたくなければ下がりなさい!」
 剣光一閃。雪之丞の刃が正確無比な軌道で敵を切り裂く中で。
 震える剣を握った素人など、戦いの中では邪魔に過ぎる。

 煌く氷鎖と共に、風のように駆けるルル家が跳ぶ。
「ック!」
 彼女が放つ氷縛の術鎖はデゾールの足を強かに打ち、蛇のように絡みついている。
「捉えました」
 強烈な冷気がデゾールの足を妬く。
「小癪!」
 足を縺れさせたまま、デゾールが素早く印を切った。
 迫る魔刃を視界に捉えたルル家は細い足で石畳を蹴りつける。
 魔刃が少女の小さな肢体へ迫り――切り裂かれたのは裾だけだ

「き、さまッ!」
 振り返り戦慄くデゾールへ向けて。
「よそ見たぁイイ度胸じゃねえの」
 円舞するかのような足さばきから繰り出される、ミルヴィの鋭い一撃が、デゾールの肩を抉った。

 ――

 ――――

 交戦開始から幾らかの時間が経過していた。
 そもそもこの戦闘で。敵はイレギュラーズ達を察知出来ていなかった。
 その上で配下を抑えつつリーダーへ集中攻撃する作戦は予想外だったのであろう。
 敵の足並みが大きく乱れ、有効な戦術は機能していそうにない。

 イレギュラーズ側では、職人達の動向が意外なほどに大人しい。
 僅かな時間で信用とまでは言えぬものの、一定の信頼を得る事は出来ているのであろう。
 これもある種、説得の効能かもしれない。

 抑えが行き届かなかった敵の一部が職人を襲撃し、二名が浅い傷を負っている。
 同時に職人より優先すべきはイレギュラーズという状況が構築され、以後の安全性は増してもいる。
 そうした中デゾール個人の戦闘力と、悪魔の攻撃力は脅威であり、既にパーティの大多数は傷を負った。
 職人達に広がる動揺を抑えつつ、Suviaはアルテナと共に懸命な回復を行っている。
 ともあれ総括すればイレギュラーズ優位、だが予断は許さないといった所か。

「っこれで」
 クロジンデは迫り来るインプの爪を難なく避ける。
 敵は思うように動けないのであろう。中空でよろめきながら、振り向こうとするが。
 彼女が放つ帯状の力場がインプの胴を強烈に締め上げ、魔物はそのまま動かなくなる。
「終わりだねー」
 イレギュラーズ達はあくまでデゾールを目標に定めたまま、状況に応じた配下の各個撃破を進めている。

 青ドレスの裾が舞い。白く美しい足先。踏み込むブーツが石畳に甲高い音を刻む。
「聖剣技――」
 騎士剣を象る白銀の力場が、シフォリィの細剣を覆い。
「――オートクレールっ!」
 一閃。銀光が悪魔の胴を横一文字に薙ぎ払い、光の残滓が雪のように宙を舞う。

 体中に憎悪を漲らせ、猛り狂う敵へ。彼女は光が消えゆく剣を翻した。
「はぁっ!」
 雷光を纏わせた細剣がドレスを宝石のように彩り――爆雷。
 炸裂する稲妻が悪魔と、駆け付けたインプを一網打尽に貫いた。

 そろそろ敵には後がない。
 決死の形相で大鎌を振り上げる悪魔の懐へ。
 今まさに振り下ろされる鎌――その刃の先。
 人体など容易に両断するであろう力の中心点は、荒れ狂う暴風と共に雪之丞へ迫り――

 ――彼女は刃を走らせながら。僅か一歩、更に踏み込んだ。
 白銀が煌き、悪魔の身体が僅かに傾き、そのまま崩れ落ちる。
 行き場を失った大鎌の切っ先が、甲高い音と共に石畳へ深々と突き刺さった。

 激闘は続くが。
「なるほど、貴様等は」
 憤怒の形相で歯を軋ませるデゾールであったが、戦況は覆せそうにない。

「この勝負は預けよう、だ――ガッ」
 ローブを翻し、逃走を試みるデゾールの胸部から血濡れた銀が生えている。

 ミルヴィは殺しを好いた覚えはない。
 だが。
 逃走を防ぐにはこれしかなかった。
 これは今ミルヴィがなすべき仕事であり、そして宝刀が望む小さな呪いであったのかもしれない。


 静まり返った広間の中央で、Suviaとアルテナが負傷者の手当を終えた頃。
「もう大丈夫です」
 Suviaの額にも汗がにじんでいた。いかに魔力と親和性の高いハーモニアであっても、立て続けの癒しは体力を使う。
 イレギュラーズ達にも、最早戦う力は残されておらず。
「――ああ」
 職人達にしてみれば、このまま援軍と共にあわよくば作戦の遂行をと思ったのかもしれない。
 だが鎮痛そうな面持ちの職人達を見れば、それが十二分に伝わっているのは明白だった。
「すぐに騎士団が来ます。脱出しましょう!」
「騎士団、だと!? ここが割れているのか!」
 ルル家の言葉に職人の一人が、声を荒げる。
「チャールズ。襲撃されたばかりだ。そういう事なのだろうて」
 男が歯ぎしりする。

 だがルル家は一つの朗報を。
 手段は明かせないが、既に家族の避難は済ませている事を伝える。
「確たる物理的な証拠はありません。命をかけて皆様をお守りしたこの身を証として下さい」
「だが我々は! ――いや、言うまい」
 ルル家等の激闘を目の当たりにした直後なのだ。
 命の恩人への文句など、元来は気の良い彼等には口が裂けても言えないだろう。

「だが俺達は命が惜しいんじゃない!」
「死んでもイイとか……」
 ミルヴィが声を張り上げる。
「ふざけんな! アンタらは満足だろうね。
 でも遺されたのは? 憎しみ抱えてまた繰り返せっての!?」
「っく!」
 幾人かの男達が震え、下を向く。

「家族は。悲しませてはなりません」
 そう述べたSuviaは妙齢の少女だ。
 また幾人かの職人が、彼女の目を見て俯く。
 娘か、若い職人であれば恋人でも想起したのであろう。

「俺達は、まだ死ぬと決まった訳じゃあない!」
 だが、それでも声を張り上げる者は居た。

 報われるなら命も惜しくない。
 その想いは――雪之丞には理解しがたいものだった。

 問答は得意ではない。故に。
 彼女は低く構え。刀に手を添える。
「先の戦闘を見ていたと思いますが」
 眼前で顔を憎悪に歪めた男を一瞥し、抜刀した。
「貴方達は、拙らに勝てるでしょうか?」
 突き立てられた切っ先に、男が震える。

「補足すれば、拙らは騎士団に勝てませぬ。
 命は拾えど、数が違う。集団戦の練度が違う」

「物づくりで貴方達が優れるように、彼らは戦の職人です。
 拙らに拮抗できぬのなら、貴方達の計画は破綻しているのです」
 再び。いくつかの剣が、石畳を転がった。

「貴方達のその手は、槌を振るい、大地を耕す、そのために、培われてきた手のはずです」
 未だ怒り醒めやらぬ男達へ。シフォリィが訴える。
「どのような苦難があったか、私には想像もつきません。ですが、その手は血に濡れる為にあるのではありません」
「ナリのいいお嬢ちゃん、聞いてくれ」
「はい」
「俺はこの国を、そして『元』であろうと、貴族なんてものは信用したくない」
 一人の職人の凍てついた瞳を、けれど彼女は柔らかに受け止める。
「――はい」
「だがな、嬢ちゃん達なら信用は出来る」
「では」
「今更、退けんのだよ!」
 男の声に、幾人かが「そうだ」と叫んだ。

「それなら……」
 僅かに震える声で。シフォリィが瞳を閉じた。
「私を殺してから進みなさい」
 死ぬのは怖い。だが父や母、思いを寄せた方を失った辛さを知る彼女だからこそ、彼等を通す訳にはいかなくて――
 凛とした声に貫かれるように、幾人かがへたり込んだ。

「……必ずこの国はアタシ達がなんとかしてみせる。
 憎しみの味に酔って憎い心を伝えていくのは止して。
 アンタ達が伝えるべき事は職人としての腕と誇りだ!」
 ミルヴィが石畳に膝をつく。
「復讐は別にいい、けど死ぬつもりの復讐なんて誰の為にもならねぇ!」
 頼み込む。
「もう、もういい。やめてくれ――! わかった、わかったから!」
 男がミルヴィの肩に手を乗せる。
「お嬢ちゃん等が、そこまでする事はねえ!」

 そうか――

 そう呟いた親方が静かに頷き、剣を取る。
「ならば私一人で往こう……」
 青ざめた決意をみなぎらせた男に、空海は瞳を閉じたまま語り掛ける。
「ジョン。貴方に剣は似合わないわ、と」
 男が空海の肩へ乱暴に両手を乗せる。
 奥方はそう言っていると告げ、空海が俯く。
「出まかせだ!」
「上着の内側に、私の母の形見のルビーが縫ってあります。それを使って、と」
 男は己の胸元に手を当て、そのままへたり込んだ。
「使う、ものか……マリー……」
 嗚咽。涙。

 こうして戦いは終わりを告げる。
 遅々とした行進の音が遠くから聞こえる中、少女は一つの決意を胸にした。
 二度とこんな悲しみを生まぬ国をにするのだと。

成否

成功

MVP

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
朝を呼ぶ剱

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 今回は文字数との兼ね合いから。
 細かなターン戦闘を端折り、判定結果から各人のハイライトを抜き出して連ねる形でお送り致しました。
 お楽しみ頂ければ幸いです。

 MVP。これが説得の決めの一手だったでしょう。お見事です。

 それでは。
 またのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

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