PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<巫蠱の劫>金魚わらし

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 この口に鋭い歯があったなら、指を食いちぎってやりたいと何度思ったことか。
 ぽってりとした小さな指も、ほっそりとした長い指も、日に焼けてごつごつとした指も、すべて大切な友達を奪っていく憎い敵だった。
 何度も何度も指が持つそれから逃げ、あるはそれを突き破って、白くて四角くて狭い世界に戻って来ても、指はまた戻ってくる。
 終わりがない地獄。
 生まれてからずっとそう思っていた。これ以上の苦しみはないと。
 あの時までは。

 生き残った私たちは捨てられた。水の流れ込まない、時間がたてば干からびるだけの、小さな沼……いや汚い水たまりに。
 少しずつ、少しずつ、水位が下がり、動ける範囲が狭くなり、体の美しい模様は泥にまみれて見えなくなり、泳げなくなった。
 強い日差しに体を焼かれ、目は乾いて白く濁り、やがて呼吸ができなくなった。
 悔しい。
 悔しい。
 私たちは一体何だったのか?
 光が小さな点となって黒々とした闇に飲みこまれそうになった時、可哀想に、という声を聴いた。

 気がつけば『指』になっていた。
 いや、指を持つ生き物……人間の姿になっていた。憎い敵の姿に。あれをもって。

「それは『ポイ』というものだよ。こんどは君たちがそれで人の子をすくって、呪い殺してやるといい」

 声だけが木々の間で揺れていた。


 夏祭り以後、都を中心に『呪詛』と呼ばれる悪しき呪いが横行していた。
 その呪詛は『夜半に妖の体を切り刻み、その血肉を以て相手を呪う』という手法であるらしい。どうしたことかそれは大流行し『何かに取り憑かれたように』皆、自身が厭う相手を呪い続けていた。
「金魚の姿をした童……いや、死にかけた金魚が肉腫化してこどもの姿になった、が正解だな。そいつらが、金魚を入れた袋を持つ子供とその親を殺して回っている。見つけ次第、倒してくれ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は、豊穣のある地域の地図を緋毛氈(ひもうせん)の上に広げた。
「便宜上、討伐対象を金魚わらしと呼ばせてもらうぞ。で、ちょっと調べたら、やつらの出現箇所にあるパターンを発見した」
 金魚わらしたちが現れるのは、いずれも"祭り”が終わる直前だという。
「幸いというか、高天京の夏祭りが終わったため、祭りをやる村自体が減っている。この近辺で次に祭りを行うのは夜市の村だ。オレの推測か正しければ、やつらはここに現れるはず……今すぐ向かってくれ」
 なお、金魚わらしたちは、祭りが行われたてる神社や寺の境内の外れ、暗い道で祭り帰りの子供を襲い掛かるらしい。
「ああ、そうだ。金魚すくいをやった子供や親の護衛も頼むぞ。自分たちがおとりになるなら、おびき寄せのための金魚は自分ですくって用意してくれ。自腹でな」

GMコメント

●依頼条件
・金魚わらしの全滅
・被害者を出さない

●日時と場所
・夜市の村の神社
・夜 …… 遅い夏祭りが行われています。

●金魚わらし……5体
 巨大な『ポイ』を武器として全員が所持しています。
 打撃、突きが行える近距離武器です。体重が軽いものをすくって飛ばすことができます。
 ポイには呪詛で作られた霊紙が貼られています。

【前衛】
 ライオンヘッド(オス) 物理攻撃力が高い
 ・尾芯乱舞……物近単(連撃)
 ・金魚群雷……神近列
 ワキン(オス)、物理防御力が高い
 ・尾芯乱舞……物近単(連撃)
 ・割り水……自付け/受けた『神秘』ダメージの4分の1を攻撃者に与える。
【中衛】
 コメット(メス)、素早い
 ・水流の矢……物遠単
 デメキン(オス)黒、回避が高い
 ・水流の矢……物遠単
【後衛】
 タマサバ(メス)、神秘攻撃力が高い 
 ・水底の花 ……神遠列/睡眠
 ・清流の滴……神近単/回復

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <巫蠱の劫>金魚わらし完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月22日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
シュヴァイツァー(p3p008543)
宗教風の恋
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
篠崎 升麻(p3p008630)
童心万華
Binah(p3p008677)
守護双璧

リプレイ

●屋台と避難
 小さな寺の境内。
 松林のあいだに吊りわたした提灯が、あかあかと燃え、夜に浮かぶ。石段を上がった参道の左右に露店が出ていて、たいまつの燃える匂いが流れていた。狐の面を売る店、木太刀を売る店、鉛屋……どこの縁日にも見かける店がならんでいる。
「この先に道に賊が出たという通報があったのです。安全が確認されるまで祭り会場にお戻りください」
 『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は、幼い娘の手を引いて、来た道を戻る親子を見送った。
 腕に姫人形を抱く『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)が、右手に金魚か入った袋を二つ下げて、音もなく闇から浮かび上がってきた。
 ヘイゼルが視線を金魚袋へ落とすと、鬼灯の代わりに姫人形――章姫が答えた。
「事情を話すと、素直に金魚を渡してくれるから助かるのだわ」
「それだけイレギュラーズの名がこの国に広まっているということですね」
 ああ、と鬼灯が暗い声で受ける。
「どうしました?」
「意外と人が集まっている。近くの村からも来ているようだ」
 予想外の人の多さに、妖の犠牲になるかもしれない人を見逃す可能性が出てきた。
「それでもやらなくては……」
確実に被害者が出てしまう。
 そこへ綿菓子を手にした『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が、金魚袋をさげた男の子の手を引いてやってきた。男の子はさっきまで泣いていようで、頬に涙の筋がある。
「その子、どうしたのだわ?」
「迷子。人助けセンサーに反応しちまって……家が近いっていうから、オレ、送っていくよ」
「それはいいが、早く戻ってこいよ」
「わかってる。この子の親を見かけたら、家に戻っていると伝えてくれ」
 一悟は男の子と一緒に石段を下りていった。
「では、私たちでできるだけ安全を確保しましょう」
 ヘイゼルと鬼灯たちは人混みをすり抜け、祭りの様子を見に戻った。

 『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)は腰にポイを持った手を当てた。
「大体でいいの。まったく覚えていないなんてこと、ないでしょ?」
 金魚すくいのオヤジは風牙の顔を見もせずに、水槽に言葉を落とす。
「覚えてねぇな」
「人の命がかかっているの、もっと真剣に思い出して!」
「ンなもの、いちいち数えてるか。こちとら金魚売ってるんじゃねぇ、ポイを買ってもらってんだ。金魚はおまけだよ、おまけ。すくえなくったって、三つも四つもポイを買ったら一匹ぐらいおまけしてやらぁな」
 まあまあ、と『新たな可能性』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は間に割って入った。
「覚えていないならしょうがない。もう家に帰った人もいるだろうしな……境内にいる金魚袋を持った人は、見回り組が見つけてくれるさ」
 ところで、とアーマデルは膝を屈めて屋台のオヤジと目をあわせる。
「店じまいだ」
「あン? なにを藪から棒に――」
 急に気色ばむオヤジを抑さえるように続ける。
「怪物を倒すまでのことだ。その間だけでも商いを止めてくれ」
 『守護双璧』Binah(p3p008677)が、穴のあいたポイを水から上げて口添えする。
「金魚掬いを行った者が狙われます。だから、怪物退治が終わるまで営業を中断して欲しいのです」
「やなこった」
 『宗教風の恋』シュヴァイツァー(p3p008543)がすっとオヤジの横にきて座り、耳に口を寄せた。感情を押し殺した声で囁く。
「ああ、無論タダでとは言わない、損害は補填するよ。子供達の笑顔とは替えられないのが申し訳無いがね」
 さりげなく、オヤジの左手に銭を握らせる。
「皆が安心して祭を楽しめるようにするためだ。俺達はイレギュラーズ。ここでは神使と言うのだったか……信じてくれ」
 オヤジは渋々と言った体でシュヴァイツァー心づけを受け取った。
 屋台に誰も近づけさせないよう水槽の前に立ち、鋭い眼光で道行く人を威圧していた『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)が背を向けたままオヤジにいう。
「頼むわ。あんただって、自分のとこの客が襲われるってーのは嫌だろう? ――と、駄目だ。わけあっていま金魚すくいはできない。すまんが他で遊んでくれ」
「升麻、オレだオレ。一悟だよ」
 一悟は狐面を額に押し上げた。
「なんだ。見回りはどうした? まさか、遊んでいたんじゃないだろうな?」
「終了。いま境内に金魚の袋を持っているのはオレたちだけ。ま、ちょっと綿菓子たべたり、お面を買ったりして楽しんだけど……で、そろそろ祭りも終わりそうなんで呼びに来た」
 ヘイゼルと鬼灯が、見回中に目星をつけておいた襲撃ポイントで待っているという。
「てか、屋台のおっちゃんもあぶねー。いつ金魚たちが怨みの矛先を向けてくるかわかんねぇぜ。オレたちが退治するまで、休んでいたほうがいいんじゃね?」
「そ、そうすっか」
 シュヴァイツァーの袖の下、そして一悟の脅し。風牙にくってかかった時の勢いはどこへやら、金魚屋のオヤジはいそいそと道具を片付け始めた。
 現金なものだな、と独りごちたアーマデルの脇腹をBinahが肘でつつく。
「しーぃ」
 参道を行く人の流れも途切れがちになってきた。あれほど賑やかだった笛や太鼓の音も聞えてこない。秋口にしては熱を孕んだ風がぬるりと吹く。いかにも物の怪が出そうな雰囲気である。
 升麻はゆっくり体を回すと、腰をかがめて木箱にポイをしまうオヤジに声をかけた。
「できれば、祭の主催者に声をかけてもらえんか。『客の帰り道に灯りを用意、人を出して出口まで誘導する』ってのをやって貰えると有難い」
「まあ、声をかけるぐれぇなら……」
 升麻はオヤジにあまり期待せず、仲間の後を追った。


 本堂へ向う参道には祭りの提灯や燈籠もあって、僅かな月明りに石畳が白くみえるから、歩くのに不自由はなかったのだが、鐘つき堂の脇を通って本堂の裏へ行くとそちらは真の闇であった。
 暗い道を、お面の代わりにサイバーゴーグルをつけたアーマデルが、金魚が三匹入った袋を揺らしながら歩く。
(「人通りの少ない暗い道で待ち伏せるくらいには考えが回る。金魚だと油断すると危なそうだ」)
 どこだ。どこからくる?
「気をつけるのだわ!」
 警告の声をあげたのは、鬼灯が抱く章姫だった。
 前方で複数の小さな影が蠢いた。――と、闇の中からいくつもの空気の塊が見えない尾を揺らしながら飛んでくる。
 アーマデルはさっと後ろへ飛びのいて金魚群雷をかわすと、情熱を込めたステップで石畳に呪いを刻んだ。
「この金魚たちを巻き込むつもりか!」
 闇の中から幼い男(おのこ)の声が飛んできた。
「キョウダイに当てるつもりなんてない! おマエがウゴかなきゃいいんだ!」
「……黙って倒されろってか。それはできない相談だな」
「そのコたちをかえして! すぐにコロしてしまうくせに。あくとう!!」
 女の子の声にアーマデルは首を横に振ると、金魚袋を火の消えた灯篭に預けた。
 雲が流れ、月が顔を出す。
 風牙は強く石畳を踏んで跳ぶと、月下に姿を現した金魚わらしたちに接近した。
「悪党……ね。一応、オレはすくった金魚は大事に飼ってたんだけど……慰めにもなんねえか」
 扇に見立てたてのひらを空に舞わせ、冷気を呼ぶ。
 薄く凍った空気が、花びらのごとく月下に吹雪いた。頭に白縮緬の帯でこしらえた団子をいくつも載せた男の子と、鮮やかな錦帯を閉めた大柄な男の子体がうっすらと霜づき、硬直する。
「けど、オレはあくまで『人』の側だ。『人の世に仇為す『魔』を討ち、人々の平穏を護る』。それがオレの使命。倒させてもらうぜ」
 幼い子供そのものの姿は、妖といえども手をあげるに忍びない。しかし、ここで討たねばこの先幾つもの悪行を重ねることになろう。
 悪いな、と詫びの言葉を置いて、風牙はさがった。
 木々の後を回り込んで仲間と合流したヘイゼルが、壁を築いた仲間のうしろで腕を大きく振る。
「命を遊びに使われる……。まあ確かに、殺したいほどに恨むと云うのは頷ける御話ですね。それが全く別の種だとあれば特に」
 ごうっと風がうなりをあげるや、人壁の向こうから悲鳴がいくつも上がった。熱を帯びた風が竜巻となって金魚わらしたちを持ち上げ、石畳に叩きつけたのだ。
 ですが、とヘイゼルは平らな声で継ぐ。
「野生に生きる者の摂理は、それとは比べ物にならない程過酷。まあ、枠の中しか知らない貴方方では、文字通り知る由もないのでしょうが……」
「い、いたいよう」
 帯を長く垂らした子が、涙目で膝がしらを押さえた。おそらくこの子がコメットだろう。
「痛いですか? 貴方方に襲われた子らもさぞ痛かったことでしょう。……殺そうとするのでしたら殺されもする。それもまた当然の御話なのですよ」
 うわぁぁん、と泣き声をあげてコメットが、黒い浴衣姿のデメキンが立ち上がる。ボンッ、という音とともに突き出した手のひらに泡が出て、水流の矢が発射された。
 矢は夜の闇を巻きながら、ヘイゼルを狙って一直線に飛ぶ。
 すかさずアーマデルとシュヴァイツァーが間を詰めて、矢をブロックした。
 Binahは氷壁の魔方陣で矢を受けると、凍らせて砕いた。
「気持ちは分かりますが、周囲に恨みを撒き散らす事しか考えられなくなったのであれば低俗ですね!」
 ひらひらした袖を振ってコメットの手当をしていた女の子が、ふっくらとした頬を朱に染める。
「わかる? ウソツキ、わたしたちのキモちなんてわかってないくせに!」
「かわるのだわ」
「……!!」
「俺にも解る。確かに金魚からすれば鬼畜の所業以外の何物でもないな」
 鬼灯は印を結んだ。黒衣の篭手に、赤く疼くように梵字が浮かぶ。
 章姫は目の縁に浮かんだ涙をそっと指の背で拭った。
「怖かったわよね、それでも……人を傷つけちゃダメなのだわ」
「章殿のいう通りだ。さぁ、舞台の幕をあげようか」
 黒き風の流れが金魚わらしたちの間を吹き抜け、回り、小さな体を傷つけた。
「やったな!」
 他のわらしよりも一回り体の大きなワキンが、両腕あげ、勢いよく振り下ろした。ワキンの頭の上からキラキラとした水が流れ落ち、石畳を打つ音が響く。
「これでもうへっちゃらだぞ」
「へー、そうか。だったら、オレはライオンヘッド……って、どの子だ?」と一悟。
 Binahが「あの子だ」と頭に玉帯をいくつも乗せた子を指さすと、一悟はワキンが動く前に、月光を集めて作った柱をライオンヘッドに叩きつけた。
 ワキンは、頭を抱えてうずくまるライオンヘッドの前に立つと、両手両足を大きく広げた。
「ひきょうもの! さっきかららいおんクンばっかネラって!!」
 シュヴァイツァーは、日本刀の刃を持つ不思議『片袖の魚』のキーホルダーリングに指を通した。
「卑怯? これが戦いというものだ」
 ガスマスクの下で小さく呟くと、『片袖の魚』をくるりと振り回し、月夜にもう一つ青い満月を出現させた。
「あらよっと」
 シュヴァイツァーがドレスの裾をひるがえす。青い月が放物線を描いて石畳の上を滑っていく。
 青い月の縁がワキンの胴を薙ぎ、水流の矢を放った直後のコメットとデメキンの腕を切った。
「痛っ」
 矢が当たった一悟が脇腹を押さえる横で、鬼灯が膝を落とす。
「鬼灯くん!」
「く……章殿、ご無事か?」
「わたしは無事なのだわ。ヘイゼルさん、お願い!」
 こくりとうなずいて、ヘイゼルは癒しの波動を鬼灯に飛ばした。
 回復させまいとして、ライオンヘッドはしゃがんだまま金魚群雷をヘイゼルに向けて放つが――。
「くそ、トドかなかった?」
 金魚雷は壁を作ってブロックしたイレギュラーズの体に命中した。
 ワキンがそのまま壁を崩しにかかる。体を回転させながら固い帯の尾で升麻を激しく乱打した。
 升麻がかみしめる奥歯がぎりりと軋む。
「死にかけた金魚が、ねぇ」
 口から滑らせた言葉が闇を呼び込む。ワキンを見据える升麻の眼光は鋭く固い。幸薄き生の果てに魔道へ落ちた金魚たちを哀れに思えども、手加減するつもりは微塵もなかった。
「何であろうと、親子を殺して回るような奴等は退治するのみだ!」
 呪いを帯びた刀身がするりと鞘から滑り出て、辺りに妖気を広げる。升麻は鋭く気を吐くや、ワキンの胸に妖刀を深々と突き刺した。
「う、ぐ……? メが、メが……」
「わきんクン!?」
 タマサバがフリルのついた袖を大きく空に泳がした。空気が波打ちながら流れて、清流の滴をよけめくワキンへ飛ばす。
 ――が。
「なんで……なんで、キズがふさがらないの?」
 タマサバの目の前で、ワキンは胸を手で押さえながら石畳に膝をついた。


「一気に畳み掛けるぞ!」
 ワキンにトドメを刺そうとした風牙を、頭から血を流すライオンヘッドが尾を振り回して迎え撃つ。
「こんにゃろ、あっちいけ!」
 ライオンヘッドは風牙が尾を避けようと体を横へ泳がせた瞬間を狙い、巨大ポイですくいあげた。
空へ飛ばされた風牙は、月を背負ったが碧い光を放つ。
「先に逝け。彼岸で仲間を待っていろ」
 風牙の持つ槍が強い光を放ち、黒く塗りつぶされていた立木に緑と黒のコントラストを与え、石畳の上に小さな稲妻をいくつも走らせた。
 直撃を受けたライオンヘッドの体が激しく震え、轟音にその形を崩れ、消えた。
「いやぁぁぁ!」
 タマサバが泣きながら巨大ポイで夜気を激しくかきみだす。ぽうっと、淡い光を放ちながら、夜のみな底から睡蓮の花が浮かんできた。
 一悟とヘイゼル、鬼灯が怪しい花光の揺らぎに目を奪われて、目蓋を重くする。
「鬼灯くん、目を覚まして。しゃんとするのだわ!」
 章姫の小さな手が鬼灯の頬をぺちりと打った。
 その音に一悟もはっとして目をあける。
 コメットとデメキンがヘイゼルを狙って腕を突き出していた。
「ヘイゼル!!」
 一悟の傷を治している最中に、ヘイゼルは眠気に捕らわれた。名を呼んだ一悟と鬼灯の声がやけに遠く感じる。ぼんやりと危険を感じてはいたが、体が思うように動かない。
「――っ!」
 水流の矢はヘイゼルの胸を直撃し、倒れた体を一悟に抱きとめられた。
 影と影の間を縫って音もなくコメットの横に近接したアーマデルが、蛇鞭剣を振るい、闇の一撃を見舞った。
 最後に声を発することなく、コメットの体が斜めにいくつも捌かれ、流れるように石畳に落ちた。
「こっちゃん、こっちゃーん!」
 ワキンの胸に手をあてて懸命に止血を試みていたタマサバが、コメットの体が沈んだ血だまりに駆け寄り、腕で肉をかき集める。 
「よ、よくもやったな!」
 Binahはデメキンが降りおろす巨大ポイを左の前腕で受けると、そのまま勢いに押されて半身を回して、右肘を顔に叩き込んだ。
 鼻血を吹くデメキンに、血だまりの中から顔をあげたタマサバが回復を施す。
 デメキンがまたポイを構えて突っ込んできた。
 シュヴァイツァーが振り回されるポイを体で受けて止める。
「升麻さん!」
「よし」
 升麻の妖刀が、デメキンの頭に振り下ろされようとした瞬間――。
「うわぁぁぁっ!」
 ワキンが血を吐きながら立ち上がり、デメキンを突き飛ばした。
 『血蛭』の刃がワキンの肩に食い込み、血をすすり上げる。それでもワキンは仁王立ちで踏ん張り、升麻を睨みつけた。右手でぐっと妖刀の刃を掴み、それ以上深く刃が降ろされないようにする。その眼の奥で燃えたつは、狂気と憤怒。
「苦しみ、恨み、憎悪のままに殺し回る……地獄だな、正に」
 ワキンは自分の持っていた巨大ポイを高く掲げると、横から升麻のカバーに入って来たシュヴァイツァーに投げつけた。
 仲間の血で全身を赤く染めたタマサバが、ワキンを助けようとして巨大ポイを振り回しながらイレギュラーズに突っこんできた。一振りするごとに、目から大きな涙の粒が飛び散る。
「ごめん」
 一悟もまた泣きながら、タマサバの頭に光の柱を落とした。
 首を折り、石畳に伏せながらもなお、タマサバはポイを振り続ける。
「見ていられない……もう終わらせてあげるのだわ」
「ああ、章殿」
 鬼灯はデメキンとタマサバを闇の花が落とす影の中に収めた。魔糸をひいて破滅の刻を向かえる。
「でめっ、たまっ!」
 ワキンが肩に妖刀を食い込ませたまま、腰を回してデメキンたちを影の外へ蹴り飛ばす。肩の肉が骨ごと削げ落ち、右の手が半分、切れた。
 だが、蹴りの威力は弱く、タマサバが影の中に残る。
 デメキンが悲鳴じみた声をあげた。
「そんな……たまちゃん」
 鬼灯が目蓋を伏せる。黒い花弁が閉じ、タマサバを包んだ。
「でめ、おマエだけでもニゲろ!」
「で、でも」
「ニゲて、あのカタに……ぼくたちのうらみをはらしてくれ!」
 デメキンが逃げ出した。
 腕を広げたワキンがイレギュラーズの後追いを阻む。
「……もういい。その有り様から解放してやる!」
 升麻が持つ妖刀が赤く燃えて夜に火の粉を散らし、ワキンを斬った。
「見逃すわけには……ごめんなさい」
 ヘイゼルが放った青糸が黒袖に絡みつく。
 たたらを踏んで振り返ったデメキンにBinahが迫り、胸に手を当てて波動を放った。
 哀に染まった声でアーマデルが別れを告げる。
「ヒトであれ、獣であれ、魚であれ、死者を送る。死せる魂に安らぎのあらんことを」
 デメキンに蛇鞭剣が振りおろされた。

 月を写すタライの中に三匹の金魚を放つ。
 祭り提灯が降ろされた村に、間もなく秋がやってくる。

成否

成功

MVP

シュヴァイツァー(p3p008543)
宗教風の恋

状態異常

なし

あとがき

1人も被害者を出すことなく、金魚わらしたちはすべて倒されました。
来年の祭りは、安心して金魚すくいができることででしょう。
お疲れさまでした。

そうそう。
屋台のオヤジですが、イレギュラーズが去った後、ちゃんと祭りの責任者に人々の避難を頼んだようです。
その後、早めに店じまいしたにもかかわらず、赤ちょうちんで景気よく酒を飲んだとか……。

ご参加ありがとうございました。

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