シナリオ詳細
<幻想蜂起>立証者へ至る物語
オープニング
●初まりと終わりの立証者
「ちょっとばかり面倒な事になっちゃっててさ」
『L.Lの立証者』ヴァン・ルドゥレジィ(p3n000019)は普段のにやけた表情から一変して、複雑な面持ちでローレットに顔を出していた。今日も興味本位の依頼を出すのかと、みながやや呆れた顔で眺めていたものの、その口から語られるのは重要な事件のことだった。
幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以降、相次いで頻発している事件の数々。それらはひとつひとつとしてはささやかな事件でしかなかったが、ここに来てそれが大きく変化してきている。
それはまるでだまし絵みたいな狂気と、嘘みたいな凶行。
ぐるぐると渦巻く、狂った禍根。
抑えていた理性のたがが外されたように、この幻想を包み込む病。
そう、これはまるで、伝染病だ。
「僕の父と兄が治めている領地にも、問題が起きててさ。ちょっと……いや、かなり、困ってるんだ」
彼の父と兄が治めているルドゥレジィ領。古くから代々治めてきた、中規模ながらも平穏な土地だ。圧政などは行われておらず、民も領主も、お互いがお互いを支え合っている関係にあった。
しかし、何故か。
何故か、いま、その均衡が崩れてしまった。
貴族に愛された土地を我がものとして手中に入れようとしているのか、暴動を起こそうという計画を練っている者たちがいるという情報を、彼はいち早くキャッチした。
「でも、僕らルドゥレジィはなるべくなら平穏に事を収束させたい。だから、この一派を説得してくれないかな」
暴動を起こそうとしている一派の主犯格は3人。それに連なるように、10名ほどが手を貸そうとしているらしい。主犯格さえ抑えてしまえば、残りの者たちは自然解体されるだろう。
「で、もうひとつ問題があるんだ」
ヴァンは語る。ルドゥレジィ家に代々伝わる、"畏きL.Lの立証者"という名の宝石。50カラットはあるというその紅玉は、それはそれは美しく、厳格なものとして守護されている家宝だ。
しかし、この暴動の前触れとして、それが盗み出されてしまった。
「主犯格が暴動のシンボルとして盗み出したということはわかっている。何とかしてこれを取り戻して欲しい。これが最優先だ。もしも説得がうまく行かなかった場合、民を殺してでも取り戻してね」
ベストなシナリオは、主犯格の説得に成功し、宝石も無事に取り戻すこと。
最悪なシナリオは、主犯格の説得に失敗し、他10名を巻き添えに戦闘が勃発し死人が出た上に、宝石が取り戻せないこと。
それだけは何とか避けて欲しい、とヴァンは鋭い視線でイレギュラーズたちを射抜く。
「これはローレット……君たちにしか頼めないことなんだ。よろしく頼むよ」
そう言い残して、彼は席を立った。
- <幻想蜂起>立証者へ至る物語完了
- GM名久部ありん(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年05月08日 20時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●まずは、潜入
それは月のない夜のこと。
街灯がぽつりぽつりと灯りをこぼすなかで、その店は煌々と光を放っていた。
とある酒場。
何の変哲もない、ごくごく何処にでもあるような普通のなんてことのない酒場だ。
その酒場をぐるりと一周するように巡るのは、『尋常一様』恋歌 鼎(p3p000741)だった。正面入口から中に入る客に適当に会釈して誤魔化しながら、酒場の周囲の状況を確認している。どんな客層なのか、何処に裏口があるのか。それらを検討付けながら、酒場の周辺を見張っていた。
そして、酒場の内部。
『Ring a bell』リチャード・ハルトマン(p3p000851)が、懐に忍ばせたネズミをちらりと見やる。それが外の鼎と五感が繋がっていることを確認すると、ひとつ、頷いてから店の奥へと向かう。その姿は『ワケありの旅行者』のようであり、酒場の雰囲気に自然に溶け込んでいた。
彼が視線をやった先には、何やらテーブルに地図を広げてこそこそと話し合いをしている者が3名いた。
「……これさえあれば……、……」
「でも……、……だとしたら……」
「……で、……だから……大丈夫だ、きっと上手くいく」
「……、……こっちには"立証者"があるんだ……」
その話題に聞き耳を立てて、リチャードは高々とグラスを掲げてその3名に割り込んだ。
「な、何だお前は」
「悪いね、聞こえちまったもんでさ。どうだい、ここの料金は俺が持つからその話聞かせてくれないか」
リチャードが人懐こい笑みを浮かべ、キャンディでも食べるか、と持ち掛けたがそれは断られた。
「何か起こす気なのか? あんたらはその領主様に不満があるのか?」
「な、何の話だ。俺たちは、そんな、その、別に……不満なんて」
「そうか、羨ましいね。なぁ、ちょっと聞いてくれよ」
そして、彼は自身の出身地の話を語りだす。そこは治安が悪く、領主は横暴で税金も高い。とても普通の暮らしなど送れるような場所ではなく、そこから逃げてきたのだと。それに比べてここの領主、ルドゥレジィ家は良い統治をしているじゃないか、と。
「出来れば移住でもしたいもんだ」
「移住だって? 確かに、この土地は悪くないが……いや、しかし……」
男はもごもごと言葉を濁す。
すると、横から『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が顔を覗かせた。
「何のお話ですか? もしやご商談か何かでしょうか。皆様一杯奢りますよ。いい取引ができたんです」
彼女はにっこりと笑うと、3名とリチャードに対して声を潜めた。
「実はですね……『畏きL.Lの立証者』をご存知でしょう? あれを入手できたので御座います」
その言葉を聞いて、3名は口をつぐんで驚いたように視線を交錯した。
「嘘では御座いません。ほらこの通り」
ポケットから取り出したのは、50カラットはあろうかという赤く美しい宝石。それを見て、3名の内1名の、ふくよかな男に他の2名の視線が集まる。
そんな馬鹿な。
そんなことがあるはずがない。
"立証者"は俺の懐に入っているのだ。
この女は偽物を掴まされたに違いない。
しかし、どうしてこんなことが……――。
その様子を見て、『いっぴきおおかみ』クテイ・ヴォーガーク(p3p004437)がさり気なく主犯格の男、その中でもいま視線を集めたふくよかな男の近くに位置取った。いつ説得が始まっても良いように。最悪、戦闘が始まってもいいように……――。
――……そして、時間は少しばかり遡る。
『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)と十六女 綾女(p3p003203)、『戦花』アマリリス(p3p004731)は事前に酒場へと潜入していた。
マナはたまたまこの酒場に足を運んでしまったものとして、きょろきょろと物珍しげに視線を遊ばせている。
悪いことをするのは見過ごせない。戦わずとも、みなの行動力があれば説得は可能なはずだと信じて。自分自身に何がどこまで出来るかはわからないが、みなと一緒に頑張るのだと、誰にともなく強く頷いた。
そんな決意を胸に秘め、どうやら酒場の客が血気だっていることを感じ取り、そっと近くにいた男性に声を掛ける。
「何か私にも出来ることはありますか?」
「お嬢ちゃん。これは遊びじゃないんだぜ」
「そうそう。危ないから早く家に帰って寝るんだな」
「やはり、何か起きるのですね」
「嗚呼、ま、まぁな。ちょっとした喧嘩さ」
「具体的には何を起こすつもりなのですか?」
「それは……ダメだ、そこまでは話せない。悪いことは言わない。早く家に帰りなさい」
彼女の身なりでは、所謂大人の事情ということで処理されてしまう。しかし、それを話す男の視線が隅にいる3名に向けられていたことに、彼女は気付いていた。きっと彼らが主犯格に違いない。
マナは諦めて退出する振りをしつつ、途中意図的にすれ違う仲間や外にいる仲間に対してその情報をさっと耳打ちした。
そして次に動いたのは綾女だった。彼女は若い男がいる傍の椅子に腰掛ける。男は彼女の美貌に、ほろ酔いで赤ら顔になっていた表情をさらに赤くした。
「相席、いいかしら?」
「嗚呼、もちろんだ。なんだ、姉ちゃん1人かい?」
「ええ、そうなの」
少しばかり、他愛のない会話をする。どの酒が美味いかだとか、オススメの酒場が他にもあるだとか、ともかく本筋には至らない、何気ない雑談をしていく。そうする内に、男はすっかり彼女に気を許していた。
「実は私、他所から逃げてきたの」
「何だって?」
「友人が旅行した際、ここを褒めていたから移住を考えているの。本当にいい所なのかしら?」
綾女は語る。公にはならなかったものの、暴動が起きた地域の出身であること。そして、仲の良かった隣人が参加者であったために、自らも疑われて逃げてきたこと。
「周りの迷惑、っていうのかしら…少しは考えて欲しかったわね。お子さんなんてまだ小さかったのに」
彼女の話を聞いている男のグラスで、氷がからんと音を立てた。
「……嗚呼、そうだな。ここの土地はいい貴族の領主が治めている。悪かないと思うぜ……」
その声はとても小さく、どこか沈んだ様子だった。
そして、アマリリスも行動を取っていた。酒場の入り口付近に立ち、出入りをする者たちに話を聞く。
「すみません。つかぬことをお聞きしますが、最近この街以外の誰かとお話しませんでしたか?」
「いや、別に? どうしたってんだ、そんなこと聞いて」
「いえ、どうぞお気になさらず。失礼しました」
問われた年配の女性は眉をひそめて彼女の横を通り過ぎた。質問が突飛すぎるあまり、彼女の声に答える相手は少ない。だが、得られた情報としては、申し分ないものだった。街の者は特別何か予兆があったわけではなさそうだ。それだけは確かに、情報として掴むことが出来た。
●そして、説得
……――やがて、時間は通り過ぎる。
『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が、主犯格と思われる3名の元に、凛然とした態度で立ちはだかる。その瞳は真っ直ぐで汚れなく、とても正しきものだった。
「暴動を起こす気でいらすのでしょう?」
「な、何のことだ……」
「この暴動でルドゥレジィ家を倒しても、次の貴族が兵士を引き連れてやって来るだけですわよ」
「だから何のことだと……」
「暴動を企てた村の壊滅を依頼するような貴族も居ることを知っていて?」
彼女は詰め寄る。そうして貴族がルドゥレジィ家の代わりにこの土地へやってきたら、街を壊滅させてでも暴動を止めるようなことになるかも知れないと。本当に、こんなことをする意味があるのかと。
「その点、ルドゥレジィ家から受けた依頼は違いましたわ。説得に応じ宝石を返してさえくれれば、今まで通り仲良くやって行きたいと、確かにそう言いましたの」
「…………何?」
男の1人が訝しんだ。リチャードのような旅人なのかと思っていたが、この女はルドゥレジィの名前を口に出した。つまり、これから暴動を起こそうとしている相手から雇われた身だということ。
空気が一瞬で張り詰める。
しかしそれでも、ヴァレーリヤは声を張り続けた。
「勝ち目の薄い暴動に与して無駄死にするよりは、貴方がたの手でルドゥレジィ家を盛り立てて勢力を伸ばし、不満のない統治を幻想に広げていく方がより現実的ではないかしら?」
貴族に対する反感は理解できる。だが、貴族の中には悪政を敷く者も少なからずいる。そんな中で、このルドゥレジィ家は正当だ。ただ滔々と、彼女はそう語った。
その口上に、アマリリスがそっと後ろから姿を現した。
「一体どうして今そのような行動を……」
その伏せられた瞳は、悲しみ舞い散る世界を嘆く、そう、まるで聖女のようなものだった。
この領地は、幻想の中ではそれなりの幸せを謳歌していたはず。それでも少なからず不安は積もることだろう。
しかし、罪を犯してはならない。
「これ以上、罪の増幅は望みません。大切な人を、大切な時間をどうか思い出して。罪に負けないで!」
どうか己を取り戻して。
祈りを捧げるが如く、彼女の言葉が酒場に切なく響いた。
「……悪い、俺もコイツらの仲間なんだ」
そんな中、リチャードが割り込む。何も知らぬ振りをしていたことは素直に謝る。だが、出生に関しては嘘は決してついていないと。
「ここで反旗を翻すよりも不満がないならほんの少し我慢する方が良いと思う」
リチャードは真剣な表情でそう告げる。
「反抗するんじゃない。『恩を着せる』んだ。そしたら領主様は今よりも良い統治をしてくれる。自分がしたイイコトは自分に返ってくるんだぜ」
その言葉に、主犯格3名以外の一般市民たちはすっかり静まり返っていた。今にも武器を手にしようとしていたあの独特の興奮が消えている。酒場のマスターだけが、何も知らぬかの如くワイングラスを磨いていた。
「横槍失礼致します。この方々が言うように、暴動はよした方がよろしいかと」
ギフトで作っていた偽物の"立証者"をぱっと消して、幻が横から口を挟む。
「鉄帝はご存知でしょう? あの国は劣悪な環境ですから、ここのような肥沃な大地を求めているので御座います」
仮に暴動が成功し、ルドゥレジィ家が没落した場合、軍を率いる者、つまり、この土地を護るものがいなくなる。その瞬間を、あの鉄帝が見過ごすはずがない。すぐにでも幻想と戦争を起こし、戦う力を失くしたこのような土地はあっという間に占領されてしまうだろう。
その言葉に、3名は身震いした。
――……そして、からん、と。
50カラットの紅玉を、テーブルに置いた。
「……こんなつもりじゃなかったんだ……こんな……」
「そうだ……ただ、俺たちは……俺たちは…………」
どん、とテーブルを叩く鈍い音。
そこには、泣き崩れる男たちの姿があった。
●やがて、後程
「や、お疲れさま」
一行がローレットへ戻ると、『L.Lの立証者』ヴァン・ルドゥレジィ(p3n000019)の姿があった。
依頼をしてきたときとは異なり、いつも通りにやけた飄々とした表情で、帰ってきたイレギュラーズたちを出迎える。
椅子に座るよう誘導すると、自身もまたその席に着いた。
「で、例のものは?」
彼は、ひらり、と手を差し出す。
その瞳の色は、まるでイレギュラーズたちを射抜くように鋭い視線だった。
失敗されては困る、と口酸っぱく言っていたのだ。
まさかここで"取り戻せませんでした"とは言わせない。
そんな凄みにも負けず、鼎が回収した"畏きL.Lの立証者"と呼ばれるその宝石を彼に手渡した。
「一件落着、でいいのかな?」
「死傷者ゼロ名。"立証者"も無事に取り返した。これ以上無いハッピィ・エンド、だろ?」
鼎が首を傾げるとクテイが肩を竦めてそう言った。
その報告を聞いて、ようやくヴァンは嬉しそうに微笑んだ。
「有難う。今回の件は、サーカスや"呼び声"と関係しているのか、僕もよくわからない。でも、おかげで助かったよ」
もしこの依頼が失敗していれば、暴動に参加した市民はおろか、自分自身もまた殺されていたかもしれない、と物騒なことを、ヴァンはけらけらと笑いながら話した。
「文句なしのハッピィ・エンドだよ」
彼はクレイに向かって、改めて言葉を返した。
「さて、僕はこの"立証者"を戻してくるよ。世話になったね。また何かあったら、まぁ精々よろしく頼むよ」
そう言って、ヴァンは席を立つ。
しかし、イレギュラーズたちに残った一抹の名残。
"サーカス"や"原罪の呼び声"についての情報は、得られないままだった。
それはもう、ヴァンのようないち貴族の問題ではないものなのだろう。
そう思うことにして、彼らはそれぞれの帰路についた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
この度はご参加いただきありがとうございました。
皆さまのおかげで、暴動は起きること無く、平和的に"畏きL.Lの立証者"の回収も行われました。
綿密な情報収集や説得、お見事でした。
素敵なひとときをありがとうございました。
次回もご縁がありましたら、ぜひよろしくお願いいたします。
GMコメント
初めまして。久部ありん(キューブ・アリン)と申します。
ご閲覧いただきまして、ありがとうございます。
今回は狂った暴動を止めるための全体依頼です。
以下に情報を開示いたしますので、ご確認ください。
●依頼達成条件
・暴動を沈静化させ、"畏きL.Lの立証者"を取り戻すこと
・市民の生死は不問
●暴動
・主犯格が3名います。
説得を行う際には彼らを標的としてください。
彼らは古くから代々ルドゥレジィ領に住居を構える一般市民です。
少なくとも、これまでは大きな不満など抱くこと無く、平穏に暮らしていました。
・主犯格は、説得に応じるだけの理性は残っています。
彼らはルドゥレジィ家そのものに恨みはありませんが、多かれ少なかれ、幻想の貴族社会そのものの在り方に不満があるようで、この暴動に対する意志は固いです。
・説得が失敗した場合、一般市民10名が加勢した上での戦闘となります。
主犯格はナイフで武装しており、刃には【麻痺】の毒が塗られています。
一般市民は武装しておらず、素手で殴りかかってきます。
いずれも強さはそれほどありませんが、戦闘となった場合、全員を生きたまま捕らえることは難しいでしょう。
●状況
・主犯格は夜の酒場に集まり計画を練っています。
・隅の方でこそこそとしているため、見つけるのは容易いです。
・戦闘になった場合、酒場にいる一般市民10名を巻き込むことになります。
以上です。
ご縁がございましたら、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
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