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シナリオ詳細

再現性東京2010街:火球は空より降り注ぐ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●きらきら星
 ここは、再現性東京。
 この場所を誰かが守りたかった。誰かが維持したかった。誰かが焦がれた。
 だから、作られた日常が、今日も、当たり前のようにそこにある。
 一組の親子連れが空を見上げていた。
「わあ、みて、ながれぼし!」
 少女が空を指さした。
「え?」
 両親が、それに続いて空を見上げる。
 きらりと、空で何かが光ったようである。
「あっ、ほんとだ。良く気がついたね」
「そういえば、ここでは、流れ星が消える前に3回お願い事ができたら叶うって言うわよね」
「ほんと!? じゃあね、えっと、えっと……ああっ、もう消えちゃった!」
「うふふ」
「次までに考えておくといいよ」
「そうね。……それにしても、なんだか最近。空が明るいみたいね」

●連続放火事件
「ヒハハハハハーーー! 炎を! もっと炎をォ!」
 男が持っていたライターは、不完全な放物線を描いた。
「さがれ! 危ないぞ!」
 あたりは、男が撒いた灯油があった。
 燃え上がっていく男。
 ……端的に言えば、異常者であろうか。
 希望ヶ浜市を震撼させた4件の連続放火事件の犯人は、このようにして取り押さえられる事となる。
 これが、事件の結末であった。

「お見事でございました、我が主。見事、犯人を突き止められましたね」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)の従者、真砂は主に向かって一礼をしてみせた。
「一時はどうなることかと思いましたが、これにて一件落着でございましょう。
私(わたくし)もゆっくりとできるというものでございます」
「どうだろうねぇ」
 しかし、それに納得がいかないのは武器商人であった。
「……主は、まだ終わっていないとお考えですか?」
「あのライター、“火がついてなかった”。まるで、自然発火でもしたようだったね」
「いえ、しかし、はあ。……実際に燃え上がったわけで……見間違いでは?」
「ただの勘だけどねェ。気のせいかもねェ」
 そういうときの武器商人はたびたび頑固であった。
「ま、念のためだ。しばらくは調べておいで」
「……あの」
 真砂の狐耳はぺたんとなり、尻尾はしゅんと垂れ下がった。
 休まるときはないのか。

●従者は見た
「私、名探偵ではないのですが……」
 そう言って情報を運んできたのは、夜通し見張りを続けた武器商人の眷属、真砂であった。
「はい。あのど外……コホン。申しつけられた場所で見張っておりましたら、ふらふらと通行人が、尋常ならざる様子で、何かに招かれるように歩いて行く様子を見たのでございます。はい。
ええ、もちろん。声をかけたら気を取り戻したようですが。視線を感じ……この私の装束の一点が熱を持っておりまして、ええ、ご覧の通り焦げ跡が!
主の言うとおり、あれは自然発火だったのではないでしょうか。
おそらく何者かが手引きをしているのでございましょう。このまま放置しておけば次が……。
これ以上の犠牲を招かぬよう、……どうかよろしくお願いいたします」

GMコメント

布川です!
苦労人従者が好きです(自己紹介)。
『ラデリ』から派生いたしまして、炎関連のアフターアクションです。
完全な別件となっております。

●目標
夜妖<ヤマンソ>の討伐。

●場所
とある廃校の屋上です。
夜だというのにそこは昼のように明るく輝いて見えます。
通行人がふらふらと向かって行こうとした場所でもあります。

脆い校舎であり、おそらく、戦闘終了後に学校が倒壊することになるでしょう(ダメージと経過ターン数によって軽減)。
建物の下敷きになる前に脱出しましょう。
校舎に細工するのは難しいのですが、何か持ち込む程度の対策は可能です。

●敵
夜妖<ヤマンソ>
 炎の円。そしてその中心にいる”何か”。
 意思疎通はできそうにない、禍々しい生物。
 炎の花弁を纏い、それはうすらぼんやりと黒焦げになった人間のように見える。
 ヤマンソの影響を受けた人間は、軽度であれば炎に飛び込もうとする。
 深く取り込まれた人間は炎をあがめ、放火を愛するようになる。
※この影響はイレギュラーズにはありません。フレーバーです。
 ただ浮いてその場にいるように思えるが、”自然発火”じみた攻撃をする。

炎の精×5
 まるで流れ星のように、天から飛来する炎の精。
 5体以下になった場合、1ターンに1体飛来する。
 その様子はまるで流星群のよう。
 ヤマンソを倒せば崩れ落ち、それ以上現れることはない。

●背景
今までに4件の連続放火事件が起こっていた。
犯人とおぼしき人物はOPの通り錯乱し取り押さえられているが、この事件はまだ続いていたのであった……。
地図から言ってそれは五芒星を描こうとしているように見える。
という背景です。
この事件を追っていたとしても、ここからの参加でも、偶然異変に気がついて駆けつけたでも構いません。

男は元々小さな放火を繰り返していた男で、夜妖に取り込まれて大いなる力を得、この騒ぎを起こしていました。
大やけどを負いましたが命は助かったようです。裁きを受けることでしょう。

●登場
真砂(まさご)
 武器商人の従者。逆らえない。
 人が死ぬことを悲しんでおり、とくに特に子供が死んでしまうのが嫌。
 無事に帰れることを願っている。
 イレギュラーズの中に年少に見える者がいる場合はかなり心配そうにしているだろう。
(いえ、分かってはいるのでございますが……やはりどうしても……)

●その他
・最近、このあたりで流星群が見られる
(炎の精の降ってくる様子のこと)
・五芒星は炎の象徴として使っています。フレーバー的なものですが、なんかそろえたらヤバそうだな……って感じです。
・敵の目的は「全てを焼き尽くすこと」。建物の破壊の意図を持っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 再現性東京2010街:火球は空より降り注ぐ完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月23日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
武器商人(p3p001107)
闇之雲
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞

リプレイ

●夜空に瞬く
「ヤマンソ……ええ、よく知っておりますよ。元世界で耳馴染みのある名前です。まあ、夜妖が同じ存在とは限らないでしょうが……」
『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は、その存在を理解していた。人ならざる存在。その気配を。
「地図上に点在していた現場を繋いでみれば、ヒッヒッヒ……」
 自身の半分……まさしくその人ではない部分が、絶え間なく”不愉快”を告げている。その降臨をかぎ取ったのは、本能に近いものに違いない。
「……急がねばなりませんね、この予感が正しく、『第五の楔』を打たせれば……恐らく、この街は灰燼と化しましょう……」

「夜に灯りはつきものだが。炎はこの街には似つかわしくねぇわ」
『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は明るすぎる空を一瞥する。街の空。人々の平穏。刹那の快楽を愛するニコラスだが、命を懸ける理由は十分に思えた。
 まるでスポットライトのように、偽の星が少女たちを照らし出していた。
「あらあら……何か騒がしいと思ったら、なんだか大変なことになっているわね……」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は小首をかしげる。
「悪だくみなのは解るけれど、何をしようとしているのかは謎かしら?」
 わからないからこそ、『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)は歩みを進める。わかるのは、このままにしてはいけないということ。
 完璧な所作。つくられた肌には瑕のひとつもない。
「ううん、お仕事になるかしら。まぁでも、暴れている子をほったらかしにして、知らない顔でお家に帰るのも、ね……」
「ああ。それもこんな狂気じみた炎なら尚更だ。さっさと鎮火といこうじゃねぇの。この街は夜でも明るいが、それでもこの炎は眩しすぎるからよ」
 ニコラスが、ためらうことなく廃校の裏門を押し開ける。

 参照される幾多の物語の欠片。千切れたバックストーリー。
「……ってて、あぁ、耳障りな音色が聞こえてくる」
『壊れる器』リア・クォーツ(p3p004937)は額を押さえる。
「おや」
『ひと』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は、希望ヶ浜学園の美術教師であるという。何か、というように首をかしげ、わざとらしく三日月を浮かべる。
「ん? あぁ、今回は貴女の事じゃないわよオラボナ。まぁ、ちょっと似てるけど」
『英雄幻奏(レプ=レギア)』……詩歌の魔法を操り、クオリアとして感情をとらえるリアにとって、ヤマンソの雑音は不愉快でしかない。
「何処かで観た記憶が有ると思えば我等『物語』の枝分かれ。悪性と称するのに相応しい花弁だが、果たして枠には嵌ったと解せる」
 地図を辿り、嗤うオラボナ。なんとも歪に当てはめられたものだ!
「あたしのオトモダチも、なんかざわついてるし、嫌な感じね……」
 リアは手にした水筒を握り締めた。
「――五芒星。旧印は封の筈だが。私の気の所為か、逆転なのだろうよ!」
「人体発火現象の正体が貪食者とは……また面白いコが顕れたこと」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)の掲げる提灯の中で、青い炎が揺れた。
 この世の者ではないナニかが持ってきた炎は、屋上の炎とは似て非なるもの。
「ヤマンソ……話としては本で読んだ事がある……確か別の邪神を呼んだ際に失敗したら呼び出される邪神だっただろうか?」
『甘くて、少ししょっぱいレモネードを』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)は空を見上げることはない。
 あれは焦がれる星ではない。
「わざと呼んだか、それとも下手なコがうっかり呼び出したか……ま、放っておけば学校どころか練達中火の海であろうね。ヒヒヒ!」
「みなさま、いらっしゃいましたか。お気をつけてくださいませ。ここからでも熱を感じております」
 真砂は、武器商人の使い魔である。
「いざというときのために、マットを運んでおき」
「ええと、い、いまからでございますか?」
「体育倉庫か、どこかにあるだろ。念のためさ、屋上から飛び降りたコらが着地を失敗するのは嫌だろ?」
 嫌な想像をしたのか、真砂はぐっと息を呑んだ。
「幸いこの校舎は使われていないようだし、後始末は上手くやってくれるだろ」
「かしこまりました、重ね重ね、お気をつけてくださいませ」
「うん……」
 ヨタカはふう、と息をつき、去っていくしっぽを眺めていた。
「人々を狂気に陥れる古の者……この街を護る為にも裁かねばならない。真砂の安寧を護る為にも……かな……何時もお疲れ様だね……」
「五芒星だかなんだかよく分からねぇが相手の狙い通りにさせるのは良くねぇしな」
 ニコラスに、ヨタカはこくりとうなずいた。
 予感のとおりか、光は増しているように思われた。
「五芒星を描き……何をしようとしているのか……神に脳みそがあるのかは知らないが……神々の頭の中を覗いてみたいものだ……」

●まるで昼のような明るさ
 イレギュラーズたちの足音が響き。あるいは……それは不自然なほどに静かだったり、影の分だけ多かったりする。
 イレギュラーズたちは屋上へと至った。
 見知らぬはずのその場所を、ヴァイオレットは迷わずに進んでおり、そこには、すでにいくつかの消化器が並んでいる。
「ごきげんようございます、ひひひ……ご一緒いたしましょうか」
「用意が良いわね」
「視るまでもなく、ええ……」
「不愉快よね、あれ」
 リアは皮水筒をあけ、砂時計のようにひっくり返すが、床にぶつかってはねるはずの水音は聞こえなかった。
 水の精霊たちが現れる。
「戦闘には参加しなくていいから、いざって時はよろしくね」
 心配そうに軋む校舎に、ヴァイスは小さく膝を折り、挨拶を交わした。
「大丈夫よ、きっと。よろしくね」
 その言葉を添えて。

(あれが、ボスか)
 賽は投げられた。
 一か八か、考える間もなくニコラスはヤマンソに接敵し、大剣を振るった。
 ニコラスの繰り出すヘヴン・セブンスレイが、ヤマンソを横に切り裂いた。
 不意を突いた。
「思惑通りにいかないのが、ギャンブルってもんだ」
 従えている精霊たちの攻撃を、ニコラスはすれすれのところで受け止める。炎をこぼさぬように、真正面から勝負を仕掛ける。
「よっ、と!」
 ニコラスは姿勢を変え、二度の連撃を繰り出す。
 舞い落ちる炎が、火の粉へと変じる。
 炎が、じりじりと皮膚を焦がす。だが、ニコラスは退きはしない。戦場に身を置き続ける。
(燃えてるやつに突っ込むんだ。突っ込んだら火傷するなんざ分かり切ってる。だがそんなもんで止まると思うなよ)
 ぽつりと、雨。
 いや、それは炎を穿つ、鋼の雨だった。
「援護になれば、いいのだけれど!」
 ディチェットのプラチナムインベルタが降り注ぐ。この驟雨のごとき雨は、的確に敵のみを撃ち抜いていく。
「相手をしようか。さあ、コッチだよ」
 武器商人の破滅の呼び声が、ヤマンソを呼びつける。本能に訴えかけるような不吉は、生きとし生けるものの共通言語。世界を変えてもどこまでも不安定にさせられる。
 声。
 燃やさなければとせき立てられて、ソレに寄せられる。
 その場所は、燃えにくいむき出しのコンクリート。
「頼むよ、可愛いモノガタリ」
 寄り付く炎の精霊を阻む姿。
 オラボナは自身を晒し、炎の精霊の間に立つ。向かって、炎のムチがいくつもしなったが、くらやみの中で、くすぶって消える。燃焼しようとあえぐが、それすらも黙殺される。
 この暗闇においてすべての明かりを吸収するがごとく、揺らめき、輝く、暗黒色に染まる。
「貴様が望むならば我が肉を燃やし給え。貴様が餓えたならば我が血を啜り給え。硬い部位の方が多いがな――Nyahaha!」
 有翅の死神が、羽化をしようとしていく。飛んで火に入る夏の虫、いや、この場合は逆だ。炎が虫を覆い尽くそうとする。
 炎の精はひらひらと舞い、飛び込み。
 そして燃えるのは、虫ではない……。
 因果の逆転。
 ノイズが走った。
 その羽音は煩わしく、道理はねじ曲がっている。燃えて転げ落ちるのは炎の方だ。
 この混沌の中。
 張り詰めた弦が、正しい一音を奏でる。
 ヨタカの放った無数の糸が、ヤマンソを食い止めていた。
「さぁ……ヴァイオリンで奏でるは……奇妙奇天烈摩訶不思議なVizzarro……奇妙な物には奇妙な音色で相手さ……!」
「いいわね。この音色(こえ)、塗りつぶしてあげる」
 リアの手にする長剣……Tyrfingが。魔力を込めればヴァイオリンへと変じる。
 誰かが残した、誰かの旋律。
 六芒星の最期の起点。
 ヴァイオレットの始めるジーニアス・ゲイムによって。
 ヨルに選ばれたはずのこの場所が、いまや、イレギュラーズへの盤の上へと変わる。

●奏でる
(これまでの事件から、建物に火をつける事は即ち「その地に五芒星を描く」ことを目的としている筈)
 蒔かれた炎は、ヴァイオレットによって芽を出すことなく刈り取られていく。
 ヴァイオレットの影もまた、炎の瞬きでは説明のしようがないほどに揺らいでいる。
 ヴァイオレットから伸びた影は、まるで生き物のようにヤマンソを喰らう。飲み込み、苦痛を与え、姿は揺らぐ。シュウシュウと燃える音が吸い込まれ、悲鳴へと変わる。
(……ワタクシの半分は、かの「無貌の神性」ですゆえ、「生ける炎」やそれに類するものの降臨は、例え似たものであっても「生理的に無理」というものです)
 この存在を、許してはならないと。
 絶え間なく、自身の半分が囁いていた。

 ヴァイスの衣装が、一撃の反動でひらりと舞う。
 ブルーム・ロータス。しとやかに夜空に煌めく星々は尾を引いて煌めいた。
 ルーンシールドが瓦礫を阻み、マギ・ペンタグラムは熱をはねのける。金と銀の輪が周囲を取り囲む。天球と輪の下にあっては、ここも星々の一つのようだ。
 ヨタカに降りすさぶ灼熱は、武器商人の体で遮られ、音色は深く豊かに響き渡る。
 炎に照らされて浮かび上がる影が、不自然にゆがんだ。
 影。
 武器商人の姿の奥には、うごめくナニかがいた。
「全く、やんちゃな子たちね……おしおきよ!」
 ヴァイスは薔薇に語らいかける。ヴァイスはありとあらゆるものと語らう。自然界と、その空気と……分け隔てなく。
 薔薇に茨の棘遂げる。エネルギーを集約させた、一定範囲を吹き飛ばす暴風を生み出していた。風に吹き消され、炎は消える。
 不自然に二体の精霊が足を止められる。
 オラボナは、炎の精霊の後退を許さない。比べれば、目の前のヨルは所詮はまがい物。
 闇夜に浮かぶ赤色の三日月が、ささやく。――撲り殺せ!
 オラボナを包む炎はありとあらゆる炎色反応を示し、あるいは奇妙に漆黒に塗りつぶされていった。明らかに不自然な、芳香とも呼べるような奇妙な匂い。
「陣は足りず、演算は不可逆、故に」
――いあ。いあ。くるうるう。
 根源的な恐怖に、ヤマンソがおののいた。
 邪剣ホイップクリームを携え、オラボナは振るう。不釣り合いな威力に、形容しがたいなにかが飛び散る。
「ったく、オラボナのいい感じに焼かれた肉とか見たくないっての」
 燃え上がるオラボナをちらりと見たリアは、Tyrfingを構えなおす。その意図を察して、ヨタカの旋律がこのときばかりは緩やかになる。
 奏でるは、雄幻奏第六楽章。
 奉仕と献身を信条に、人命救済に生涯を捧げた天使の旋律。つやつやと煌めき、無貌が色濃く姿を現す。オラボナが一体を炭の欠片に返し、精霊が欠ける。
 不意に空から飛来する流れ星。
「させないのだわ……」
 飛来する炎の精霊の炎を、地上からの一筋の射撃が交錯して撃ち落とした。
 陳腐なバラッド。
 それは、ディチェットが放った、精霊の落下に合わせた射撃であった。
「悪いお願いを叶える願い星でしたら、ご遠慮したいのだわ!」
「紫月、大丈夫かい?」
 ヨタカの作り出した魔性の茨は、武器商人を襲う炎を消して。
「おまえが無事なら」
 武器商人はヨタカをかばう。
 ヤマンソは、くすぶり、ひるむように後退しようとする。
「今更、降りれると思うなよ!」
 ニコラスのセブン・ヘブンスレイ。水平に切り裂く一撃が、炎を虚空へと飛ばし、かえす刃が、炎を打ち消した。

●陣は成らない
 ヤマンソの炎が、大きくゆがむ。
 六芒星はいつまでも欠けたままである。
(ヤマンソ自体を素早く斃さなければ、攻撃は校舎に燃え移ってしまう……)
 ヴァイオレットのバロックディストーションが、ヤマンソを大きくゆがめた。
「そろそろ終わりにしようかしら」
 ぶわりと、空気が広がった。
 それは音圧。
「ほぉら、起きろトルネンブラ! あたしの旋律を纏って、あいつらをブチ抜いてきなさい!」
 リアが奏でる、生きた音そのもの。
 外なる邪神トルネンブラ。それにきまった姿はない。
 リアのその才能は、ヤマンソの旋律をとらえ続けている。
 リアの英雄幻奏を纏いて、降臨するは濁流だった。誰かの残した旋律の一つ。うなる水の流れ。
 じゅうじゅうと、火が消えてゆく。
 苦しみ、奇妙な声をあげるヤマンソ。
 ヤマンソの一撃が、オラボナの頭をえぐった。
 だが、オラボナの脳髄はない。そこは急所ではない。稼働するのに必要な機構ではない。後付けの何か。神性に偽りなし。すぐに傷は塞がっていく。
 なぜならば、無窮にして無敵。オラボナはそういった存在である。
 流れ星。
 ディチェットは踊るように、くるりとターンして、空へと一撃を走らせた。流れ星は途中で潰える。
「博徒の旦那、まだいけるかい?」
「ああ! この瞬間を待ってた!」
 ニコラスは、姿勢を低く保ちながら、ヤマンソの攻撃をその大剣ではねのける。焼け焦げる身は、リアの旋律が塞いでみせる。
 運命の輪の轍に沿った、幾多もの剣筋が、余すことなくヤマンソを轢いていく。
 空中でばらばらになり、寄り集まる炎はもうずいぶんと再生が鈍い。
「ここまでだ!」
「……ええ、よろしくね」
 ヴァイスはほほ笑んだ。
 白い代に城の跡。身のうちから飛び出した茨が、ヤマンソを包み込む。
 茨を伝い、燃え広がることはもうなかった。 獲物を狙い這い回るその茨は、冷たい毒を持っている。
 燃え上がり、打ち消され。
 燃え上がるたびに打ち消され。小さな太陽のように、ヤマンソは白く白熱した。
「!」
 選択肢があった。
 防御姿勢を保つか、それともこのまま、突き切るか。
「博徒の旦那」
「俺に賭けな!」
 ニコラスは誰よりも素早かった。
「わかった……そうするなら……」
 ヨタカの奏でる魔曲・四重奏が、炎を取り囲んで魔術と成す。
「終焉! まさしく、嗚呼まさしく!」
 オラボナは、聖骸闘衣をニコラスに託す。
「! わかった、間に合って……!」
 リアの旋律が、踏み切るニコラスの背を押した。
「手助けを」
 ヴァイオレットのミリアドハーモニクスが、それに重なる。
「しつこいわね……」
 ヴァイスの茨がヤマンソを弱らせた、その時。
 ニコラスは欠片を切り上げ、空へと放り上げる。
「当てるのだわ……!」
 ディチェットはすかさず、一番高いところで、一撃を見舞った。
 ヤマンソは、小さく膨張して、花火のように破裂した。

●空から降りる
 自身に燃え移り、燃え広がろうとする火の粉を、ニコラスは上着でたたきつけた。くすぶった炎は行き場を失い消えた。 
「なんとか、なったみたいだな」
 戦いの中で、校舎はなんとか形を保っている。
 燃え盛る炎を、リアの水の精霊が消していく。
「ありがと」
「消防車を呼ぶか。巻き込まれる奴はいねぇと思うが……念のためな」
「そうね。野次馬が来ないとも限らないわ」
「すみやかに、下りるといたしましょう」
 ヴァイオレットが腕を伸ばせば、転がっていたモップの一部がそれに応えて手に収まった。
「大丈夫……かい?」
「ああ、先に行くぜ」
 地上は遙か下。
 とはいえ、最後の博打というわけでもない。
 ニコラスは奥歯でペテロ・ヘイストをかみ砕いた。
 星明りと月光のみを背負い、ニコラスは飛び降りる。

「!」
 オラボナが、飛来するがれきから仲間をかばう。ここは任せて先に行け、と。
 道が瓦礫でふさがっている。
「ここから降りるのね?」
「ええ」
 リアの問いに、ヴァイスが微笑む。
「じゃあ、掴まって」
 ヴァイスの手をリアが取る。そして……。
 窓から二つの影が、ぽーんと飛び出した。

「ここまでか。……跳べるね?」
「ええ、ありがとう」
 濡らした縄を使い、ゆっくりと下に向かっていた武器商人とディチェット。ディチェットは勢いよく飛び降りる。風にまかせて、壁を蹴り、……夜風にスカートがひらりと舞った。
 少なく見積もって3階分といったところか。
「行くか。まァ我(アタシ) なら死にはしないだろう」
 それは、迎えに来るだろう予感を知っていたからでもある。
 飛び降りる武器商人を、抱き留める腕があった。
「紫月」
「待っていたよ、おまえ」
 最愛の人物が、腕の中にいる。
 二人はしばし見つめあい、飛ぶ。
 重力を半減し、真砂の用意したマットへとぶつかる。
「お怪我は……」
「間に合ってよかったのだわ」
 先に降りたディチェットが、うまい位置にずらしてくれたらしい。無事を確認し、それから傷を押さえた。
「優しいコだね」
 ずいぶんと戦いで傷ついただろうに。
(紫月には悪いかもしれないけれど……真砂もいっぱい頑張ってたから後でいっぱい褒めなきゃね)
 であるからして、校舎の中には誰もいない。
「これ以上の救済は不要ということか、Nyahahahahahahahaha!」
 オラボナの哄笑が響き、飛び出して。

 暗闇があり、それから。
 目が慣れれば満点の、控えめな星空ばかりが広がる。
「夜妖が消えてお空も本来の夜空に戻ったのかしら……」
 ディチェットは空を見上げる。小さな星が……その空が見えていた。

成否

成功

MVP

ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの

状態異常

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
同一奇譚
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)[重傷]
名無しの

あとがき

フレーバー的なクトゥルフネタでした!
いろいろと盛ったらすごく専門の人たちを呼びつけてしまった気がします。
なんちゃってヤマンソよりまずいのでは……?
お疲れ様でした!
校舎ボロボロにしてたくさんサイコロを振ろう! と思ったらかなり、かなり思った以上に校舎が無傷でした。おかしいな……。
MVPはヤマンソの懐に飛び込み、校舎の破壊を最小限に保ったであろうニコラス様に!

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