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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 波が打ち寄せ、引くように。
 火が灯され、消えるように。

(今日もまた来なかった)
 そう気を落として、けれど『きっと明日は』と気持ちを上向かせる日々。一体どれだけ繰り返しただろう。
「明日なんて、ない」
 呟く女は妖を痛めつける。想いは怨嗟に塗れて、埋もれてしまった。
「明日なんて、いらない」
 真っすぐに京を駆けていく忌の後ろ姿を見ながら、女は呟いた。

「──それじゃあ、お母さんのところで休みましょうかぁ」

 その後ろで、女が微笑む。若々しい、まだ少女と言っても良い姿。月明かりに照らされた肌は病的に白く、彼女を振り返った女は安堵しきった笑みを浮かべた。
「はい、かあさま」
 それはまるで、幼子のおように。
 抱かれる女は自らを取り囲む魔の手に気付かない。いいや、気づいているのかもしれないがそれが『魔』であると理解していない。
「大丈夫、大丈夫よ」
 それを伸ばす女は『本当の母』のようにぽんぽんと背中を叩いてあやす。彼女にとっては皆『彼女の子供』だから。慈しみ、時には叱ることもするが全ては愛ゆえに。
 そして愛しているからこそ──我が子の想いに力を貸すのだ。
「だから……それを邪魔するような悪い子は、叱ってあげないと」



「今日は、星が遠い……」
 小金井・正純(p3p008000)は真っ暗な空を見上げる。空には綺麗な満月がのぼり、その光が星の光を薄れさせてしまっているらしい。それは正純にとって痛みの少ない夜であるが、星の存在を感じ難い夜でもあった。
「正純殿、お待たせした。当主にもご足労頂き──」
「良いのです」
 彼女に声をかけたのは焔宮 葵。視線を向けた先には知己である焔宮 鳴(p3p000246)が当主としての顔で佇んでいる。
「調査の結果を聞いても?」
 鳴の言葉に正純が頷いて葵を見る。2人とも、その話を葵から聞くためにここまで参ったのだった。
 今年の夏祭りからこちら、カムイグラに呪詛が『流行って』いる。表現としてはおかしくとも、正に流行っていると言う他ない。政敵へ、愛する人へ、商売敵へ……想いを呪いとしてぶつける人々は後を絶たず、それを公言して行う者までいる始末。
 けれどもその最中、極少数ではあるが行方不明になる者がいるのだと言う。その行方不明者について、より詳細な調査をと正純は願ったのだった。
「まず、行方不明者はいずれも呪詛を行ったようだ。失踪の直後、関係者が亡くなっている」
「呪詛を行って姿を眩ませる、ですかぁ……」
「けれど、呪詛自体にそのような力はない。そうですよね?」
 鳴の言葉に葵は首肯した。呪詛は向けられた者を殺すためのものであり、跳ね返れば術者を殺す。そこに遺体を消すような効力はない。
「行方不明者の足取りは全くつかめず、その生死も分からないが……」
 そこで葵は言葉を濁した。正純と鳴の視線を受け、しかし暫しの逡巡を挟んでその口は開かれる。
「……女を見たという情報が、ある」
 青白い不健康な肌をした、ブルーブラッドの少女だと言う。そんな証言もひとつきりで、完全に信じるのも難しい。その少女が何をしたという証拠もないと言うのに。
 けれども葵の表情は何もないというそれではない。その理由を問うた鳴は、むしろ葵に見つめ返されることとなった。
「……何か?」
「……、……いえ。その女ですが、もしかしたら」
 焔宮家ゆかりの者かもしれない、と。紡がれたその言葉に鳴は目を丸くする。まだ焔宮家の生き残りがいると言うのか。
 勿論証拠など何もなく、カムイグラ中にブルーブラッドも少数ではあるがいないわけではない。しかしたったひとつの証言に含まれた外見の情報は、葵にとってその可能性を示唆するに十分だったという訳だ。
 不意に、影が落ちる。満月の光が差すこの夜に。
「──!!」
 咄嗟に後ずさる3人。彼女らが今までいた場所にどどどっと何かの群れが落ちてくる。同時に後方からいたぞと言うような声と複数の足音が聞こえてきた。
「神使……これは、忌か」
 葵がすらりと刀を抜く。後方からやってきたイレギュラーズはこの呪詛の討伐に当たっていたという訳か。
「私たちも参りましょうか」
 武器を構えた正純に続き、鳴もまた戦闘態勢を取る。
 見てしまった以上、止めなければならない。続きを聞くのはその後だ。

GMコメント

●成功条件
 『忌』を討伐する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●エネミー
・忌『サトリ』
 心を読む妖から生まれた呪詛。人を動揺させて食べてしまうという妖のようです。しかし一節では無害であるとも言われています。
 物理攻撃はあまり強くないようですが、BSが豊富です。また命中も高めとなっています。
 呪詛となった今、非常に獰猛です。皆さんを何としても突破し、対象となった者を呪い殺そうとしています。

ミダシ:神自範:範囲内の心をかき乱します。【乱れ】【混乱】
キンシ:神超単:ショックを与え、技の使用を躊躇わせます。【万能】【ショック】【封印】

●フィールド
 夜の京。満月の夜で、星はあまりみえません。
 代わりに視界は良好です。道なのであまり横幅はありません。

●友軍
・焔宮 葵
 焔宮 鳴さんの関係者。従者であり実兄ですが、鳴さんは覚えていません。数年前から神隠しによってこちらにいます。
 刀を所持しており、近接アタッカーとしてイレギュラーズに味方します。

●ご挨拶
 アフターアクションありがとうございます。一番乗りだった貴女へ。
 正純さんと鳴さんは討伐依頼に巻き込まれた形となっています。忌を倒し、葵から続きを聞くとしましょう。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <巫蠱の劫>みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月16日 21時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ


「こ、この『忌』足が速ぇ……!」
 幻夢桜・獅門(p3p009000)を始めとした6人のイレギュラーズは夜の京を駆けていた。逃した忌が向かった方向はこちら、間もなく追いつくはずだ。通りへ抜けたイレギュラーズたちは3つの影と追いかけていたターゲットを見つけて息を呑む。
「──其処に居る人達、逃げてっ!」
 3つの影へ迫る忌の姿に『おかわり百杯』笹木 花丸(p3p008689)が声を荒げる。ああ、何という失態か。仕事を引き受けておきながら、ターゲットを逃がしてしまうことはおろか──無関係の者を巻き込んでしまうなんて!
 けれども花丸は次の瞬間、別の事にまた瞠目する。声を荒げた対象たる3人は、忌の攻撃に花丸が予想しないほど機敏な動きを見せたのだ。月の光に照らされたその人影は、ローレットで──このカムイグラでも──見たことのある者たちで。
「コャーコャー、運悪く挟み撃ちの形になっちゃったということでいいのかしらー」
 『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)の言葉に「そのようだ」と焔宮 葵は抜刀する。京を騒がせる忌がここにいること、追いかけてきた神使──イレギュラーズたちがいること。この状況を見れば、ある程度は察せると言うものだ。
「お取込み中でしたか! 申し訳ない!」
「だが、こんなのが流行ってる時に、夜の散歩は少々危ないんじゃないか?」
 飛び出し、忌の行く手を塞いだ『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)に続いて『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が問う。『ヘリオトロープ』小金井・正純(p3p008000)は先日葵から聞いていた行方不明事件の続報を聞いていたのだと手短に告げた。その話に関してはルル家も『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)も聞いたことがある。呪詛が蔓延する京の一部で起こっている事件だ。
「成程、それは奇遇ですね! 奇遇ついでに力をお貸し下されば大変助かるのですが!!」
「ええ、私は勿論。葵さんは、」
 視線を向けた『救世の炎』焔宮 鳴(p3p000246)に葵は一も二もなく頷く。彼は焔宮の『従者』。『当主』である鳴が立ち向かうのであれば、その刃となることに異論などあるはずもない。
「協力できる事があったら協力したいけれど、まずこの場を何とかしてからなの」
 胡桃はそう告げながら忌と距離を取る。件の忌は進もうとしながらもルル家に邪魔されている状態だ。
「おっと。そう簡単には行かせませんよ」
「そうそう、やっと追いついたんだからな!」
 獅門が大太刀を抜き、歌舞く一撃を見舞う。しかし忌の獰猛ながらも冷静な瞳はルル家も獅門も見ておらず、どこか遠い場所へ向けられていた。
(まさかこっちを無視してくるとはな)
 忌は──呪詛はあくまで『呪いの成就』のために動いている。そのためならばイレギュラーズという標的も眼中にないと言ったところか。先ほども正純たちがいなければあのまま振り切られていたかもしれない。そう考えると背筋にひやりとしたものを感じずにはいられなかった。
 けれども今度は同じ愚を犯すわけにいかない。そのためにも花丸がチャンスを伺っているのだ、そこまで皆で切り開かなければ!
「行くッスよ! 僕の攻撃を甘く見たらダメッス!」
 鹿ノ子は精神を研ぎ澄まし、より正確に剣を振るう。手首で揺れる琥珀のブレスレットが月の光に煌めいた。
 今は見えずとも、空には確かに星が在る。尾を引く流星の如く、一瞬の煌めきを降らせる鹿ノ子の後方から正純は神弓を引いた。
(昼は消えつつ、ものをこそ思へ──)
 物思いにふけるのは全てが終わってから。
 今は只々精密に、的確なる一矢を放つのみ。正純の手から離れたそれは空気の壁を蹴り、曲がり、不規則な軌跡を残して敵の足へと向けられた。
 葵は刃を忌へ向けたところで鳴へ声をかけられる。大切な、唯一無二の存在へ振り返れば鳴は当主の顔をしながらも、どこか言いにくそうな表情を浮かべた。
「心苦しくはありますが……頼みます。私を、守って頂けますか?」
 その表情は当主たりえないかもしれない。けれども心優しき少女の片鱗に、葵は彼女へ背中を向けた。
「──元より貴女の従者。この命、如何様にでも」
「散らせるつもりはありません。さあ、行きますよ!」
 葵の背後で鳴は魔力を練り上げ、二振りの刀を手に握る。すぐさま放たれた炎の斬撃は半透明な忌へ狙ったように飛んだ。

 ──!!

 叫び声が上がり、進めぬことへ苛立ったように忌は力を放つ。ここにいるのは精神干渉されない者ばかりだが、それでも心のどこかを踏まれるような不快感は拭えない。
「土足で踏み込まれる、みたいな感じかしらー」
 遠方にいて免れた胡桃はぽう、と蒼炎を灯す。明かりではない。れっきとした胡桃の攻撃手段、燃やし呪う狐の火。自らの『もしも』を秘めたその炎は忌の元で激しく燃え上がる。最も遠い位置で構えていたラダは大口径を忌へと向け、嵐の如く銃声をとどろかせた。銃口が跳ね上がり、その射線から忌が消えるまでそれは続く。
「1発目から詰まらないなら上々。次も頼むよ」
 欠けた信頼性を持つ欠陥ライフルをリロードするラダ。さあ、彼女を裏切るのは次か、その次か。
 味方に翻弄された忌の注意力が散漫になる。これこそ狙い時と花丸は駆けだした。暗視を持つ瞳はしっかりと忌を見据え、今度こそ逃がしてなるものかとという決意を燃やす。
「君の相手は私、よそ見してると倒すよ!」
 忌の瞳がぎょろん、と動く。目の前を遮るルル家へ、そして攻撃を加えた一同を経て──花丸へ。かかった、と皆が直感した。
 次の瞬間、忌はどこかではなく花丸へと向かい始める。ルル家が飛び退いたことにより邪魔者は誰もいない。花丸はにっと好戦的な笑みを浮かべて迎え撃った。

 花丸は忌に翻弄されながらも拳を構える。花丸にあるのはこの身ひとつ。そして傷つけ壊すことしかできない拳がふたつ。けれどもそれだけだって何かは守れるのだと、信じているから。
 短い気合と共に傷だらけな拳が忌へ向けられる。援護するのは先ほどまで忌の行く手を阻んでいたルル家だ。
「あとは正面から押し切るのみ! 行きますよ!」
 ルル家の言葉と共に幾重もの閃光が瞬く。あとへ続くのは鳴の治術だ。魂ごと肉体を癒すその術は忌の攻撃を一手に引き受ける花丸へと主に向けられる。時折様々な呪いを帯びた瘴気を忌がまき散らすが、身を盾とする葵が断固として通さない。その頼もしい背中に庇われながら、しかし鳴の瞳はふと陰った。
(……焔宮家、ゆかりの……)
 先ほどの言葉が頭をよぎる。ああ、集中せねばならないと言うのに気になって仕方がない。だってその話が真実であるのならば、冷静でいられないかもしれないから。
(それに──葵さんの表情。まだ何か、ある気がします)
 告げられていない情報がある。それを知るのは戦いが終わってからとなるだろうが、適切に術を行使する裏で心はどこか逸っていた。
 鳴の放つ突きに合わせて正純は執拗に忌の足元を狙って弓を引く。今ばかりは星の気配が遠くて良かったかもしれない。動きが鈍って忌を取り逃がしたとなっては、星を信仰する身としても望ましい結果ではないのだから。
「おあいにくさま、わたしは封印では止まらないの」
 胡桃は瘴気に充てられて技に制限がかけられてもなんのその。通常の威力としては低めだろうが、それでもなお余りある呪いと炎を忌へ送りつける。
「そろそろ弱ってきたか?」
 獅門は組技で仕掛けながら忌の様子を窺う。同時に忌からも窺われるような気配を感じたが、例え妖怪サトリを元にした呪詛と言えど考えている以上の事は読み取れまい。イレギュラーズは一丸となって『正面から叩く』としか考えないように──実際そういう戦法だ──しているのだから、そこへ対処のしようもないだろう。深層心理など狂った呪詛の状態で読めるはずもない。
「結果的にはそれで良かったのでしょうね。心に踏み込まれるのは不快ですし」
「本当です! しかしサトリも元は無害な妖怪かもしれません、拙者は無下な殺害を望みませんよ!」
 先ほど近くにいたが故、サトリに触れられてしまったのだろう。正純の言葉にルル家は眦を吊り上げるも、服の裾から黒い霧状の触腕を伸ばして絡みつかせる。どこから出ているのかって? 乙女の秘密です。
「しかし、こうも暴れるとは」
 ラダはライフルを押さえつけながらも忌へ撃ち込んでいく。目に見えて弱ってきたとはいえ、手負いの獣並にその攻勢は激しい。
(それだけの情念を多くの人が抱えていた、ということなのか)
 背を押す誰かは確実にいるだろう。けれども、それはただの切っ掛けであり伴う想いが無ければ続かない。
「それでも、最後まであきらめない!」
 花丸の真っすぐな瞳に忌が射抜かれる。この少女を屈服させなければとその心をかき乱そうとも、彼女はものともしない。
「これで終わりッスよ! 術者に還ることなく、ここで消滅するッス!」
 死人に口なし。それを恐れるイレギュラーズは、鹿ノ子は忌を生かさず殺さず倒そうとしていた。そのための華麗なる剣舞はまるで華のように、蝶のように、かつ嵐のように吹き荒れて──忌の最後の力を刈り取っていった。



 呪詛の気配が消失したところで一同は息を吐き、花丸はすまなそうな苦笑をたたえて正純と鳴りを振り返った。
「迷惑を掛けちゃって御免ね。それと手助けありがとうっ!」
「困った時はお互い様なの!」
 つかの間『イレギュラーズの顔』を見せた鳴だが、正純が葵へかけた言葉に表情を改める。これまでのそれから、『焔宮家当主の顔』へと。
「先程の話ですが……焔宮家の関係者が、件の行方不明事件に関わりがある、ということなのでしょうか」
「恐らくは……」
 随分と歯切れの悪い返事。葵へさらに問おうとした直前、花丸が「私たちも聞いていい?」と問いかける。
「お礼って訳じゃないけど、ほら、何か手助けできるかも」
 1人より2人、2人より3人。多くの者がいればできることは増えるはずだ。葵が視線を鳴と正純へ向ければ問題ないと言うように頷かれる。
「皆もそれでいい?」
「ああ」
 頷く獅門。他の者も立ち去らないということはそういうことである。
「……それで、貴方がそこまで歯切れの悪い理由は?」
 鳴の言葉に葵はぐっと言葉を詰まらせ、何かを考えるように瞑目する。しかし決意したかのように瞼を押し上げた葵は、当主たる鳴の瞳を見つめた。
(……内容によっては……鳴は。個人的な感情が抑えきれないかもしれないの)
 どんな情報が出されるのかという恐れ。けれども聞く前から屈していては当主など務まらない。それにもしかしたら──未だ思い出せない記憶に、踏み入ることができるのかもしれない。
 こちらもまた決意を胸に。葵の唇が動く様を凝視して。
「その女は……前当主。貴女の母君にあたる方かも、しれません」
「母上……?」
 はい、と葵が頷く。鳴とてブルーブラッドなのだから、両親がいて当然だ。蘇った記憶には姉しか浮かばなかったけれど、まさか葵だけではなく母も生き残っていたと言うのか。
「しかし──」
「……ッ、皆!」
 鹿ノ子がハッとして建物の上を仰ぐ。釣られた一同は、先ほどまで何もいなかったそこに少女を見た。葵もまた息を呑み、「貴女は」と呟く。
「──可愛い『子』の願い、あなた達が蹴散らしてしまったのねぇ」
 焔宮の前当主と思しき──それにしては若く見える──少女は悲しそうに顔を歪め、次いでイレギュラーズたちと葵を見渡した。
「ダメでしょう? 家族の願いを踏みにじるなんて……」
「家族……? 貴女は、何を言っているの……?」
 鳴の問う声が震える。目の前の存在はあまりにも白く月夜に鮮明で、鮮烈で。知らないはずなのに、胸の内を何かが荒々しく巡っていく。
 その何かの名は動揺──または、混乱。深く考える前にははうえ、と言葉が漏れれば少女は嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、ええ、わたしの可愛い子。いけない子にはお仕置きが必要だけれど……それでもわたしの子だもの、愛さないはずがないわ」
 またあとで会いましょうね、と告げて少女は最後にそこへ立つ『子どもたち』を一瞥する。蒼白な色で、それでも穏やかに微笑んで見せた少女は踵を返した。
「待つッス!」
「待ってくれ!」
 鹿ノ子と葵が同時に声を上げ、走り出す。見る間に引き離していく少女を鹿ノ子のエネミーサーチが察知することはない。今、この場において敵対心を燃やしていないということだろう。
 葵も全速力で追うが、もはやその手は彼女に届くまい。それでも彼は手を伸ばす。止まってくれないかと。振り返ってくれないかと。
「あそこ、曲がったはずッス!」
 鹿ノ子が指差した角を曲がり走る一同。しかし間も無くして衛士たちに止められる。この先は関係者以外立ち入り禁止の場である、と。
「ここへ女の子が来ませんでしたか? 蒼白な肌をされた方だったのですが!」
 ルル家の言葉に衛士たちは顔を見合わせ、互いに首を振った。目撃すらしていないという言葉に今度はイレギュラーズが顔を見合わせる。
「星は……いえ、余りにも遠すぎますね」
 空を見上げた正純は小さく眉根を寄せる。月の光が満ち溢れて、普段感じる痛みもカケラほどしかない。星の光も、あの少女でさえも月の光が吸い取ってしまったのだろうか。

 立ち尽くす彼らへ次の報が持ち込まれたのは、この直後のことだった。

成否

成功

MVP

笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

状態異常

笹木 花丸(p3p008689)[重傷]
堅牢彩華

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 あの少女は本当に鳴さんの母上なのか、それとも……。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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