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シナリオ詳細

<幻想蜂起>正義にしがみつく者

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●じっと手を見る
 ここは幻想のガブリエル・ロウ・バルツァーレク領。
 バルツァーレクの名において、芸術家が手厚く保護される領地だ。
 俺は、ここで爺さんと畑を耕している、しがない農民の一人だ。
「お上は減税だのなんだの、いろいろやってくれるけどよ。俺たちのくらしはなんも楽にならねえな。商人ばっかり楽してねえか」
「……」
「芸術家崩れも商人も、領主様も、せっせと土を耕したことなんてねぇくせによ」
 爺さんのボヤキを聞き流しながら、俺は畑に交じった石ころを投げた。いつものことながら、ただ、ぼんやりと、俺も「そうだなあ」と思っていた。
 例えば、もっと暮らしが楽になったら。
 もっと……、もっと……。

 正直、バルツァーレクの領主の評判は悪くない。幻想の貴族の中でも、バルツァーレク伯爵は民の声によく耳を傾けてくれる方、らしい。
 ほとんど田舎から出たようなことはなく、お上には会ったことがほとんどないから、あくまでまた聞きであるのだが。
 もっとひどい領主の話も聞く。自分の利権を守るために私腹を肥やす貴族であるとか、某暗殺を好む某貴族とか……。
 おっと、こんなことを考えるだけで、消されてしまいそうだ。
 とにかく、それでも。
 ここが恵まれているほうだとしても――考えてしまうのだ。
 もっと、暮らしがラクだったらなあと。

●誘惑
 日々の仕事を終えて、俺は町の酒場にやってきた。
 良いことなのか悪いことなのか、酒場は今日も活気であふれている。
「お、いらっしゃい」
 酒場の主人が、割れたワインボトルを片付けていた。どうしたのかと聞いたら、客同士で激しい喧嘩があったらしい。
 またか。

 幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』が去ってからというもの、幻想全体が騒がしい。ささやかなことで巻き起こった流血沙汰のケンカが数えきれない。
 ふしぎなものだ。かくいう俺も、たまに煮えたぎるような衝動を覚えることがある。
「不景気だな、どこも」
 主人が言った。
「そうだな」
 一人でちびちびと飲んでいると、ふいに、隣に男が座った。
「辛気臭い顔をしてるな。あんた。一杯奢るよ」
「いいのか?」
「何か言いたいことがあるって顔だぜ、その顔は」
 勧められるままに、酒を飲む……。
「飲め、飲め、全部吐き出しちまえ」
「お前は?」
 レジスタンスだと、男は名乗った。それから「俺はバーグだ」とつけたした。
「レジスタンス? レジスタンスって、なんだ?」
 肩書から名乗るなんて、不思議な奴だと思った。

●レジスタンス
 俺はどちらかというと影の薄いやつだが、バーグは、あっけからんとしていて、いつも自信に満ち溢れている。
 まるで逆なのにバーグと俺は不思議と気が合った。
 レジスタンスの仲間たちと、毎日のように「幻想の明日」について語り合った。
 いや。
 集まった人間は、レジスタンス、なんて呼べるものではなかった。日々の繰り返しがなんとなくイヤな、駄目なやつばっかり。
 レジスタンスの集いは、日々の愚痴を言い合う集会となっていた。
 レジスタンスなんてのは本当に名ばかりで、俺には現実離れした響きだった。
 バーグに言われて戦闘訓練じみたこともやったけれど、木剣を持つのがサマになっているやつなんて一人もいなかった。
 バーグ以外は。
「情けねえな、それでもレジスタンスかよ」
 バーグは。バーグだけは、結構腕が良かった。元傭兵、というだけあって。ほんとかなあ、と思っていた俺はちょっと恥ずかしかった。

「おい、最近どこに出入りしているんだ、畑仕事はやったのか」
 爺さんが言う。
「うるせえな」
 俺はレジスタンスの訓練だのと言って仕事をさぼりがちになった。

 事の重大さに気が付いたのは、ずいぶん後になってからだった。
 アジトと呼ばれた集会所に、武器と防具が運び込まれている。ギラリと光る剣を見て、俺は青ざめた。本物の剣。
 今までに、せいぜい畑の獣を追い払ったことくらいしかない。
「おい、バーグ、まさか本気で」
「俺は本気だ、言ったろう」
 気が付けばレジスタンスには、元傭兵仲間、という連中が出入りするようになっていた。あのゆるい空気はどこへやら、いまにも爆発しそうだった。
「馬鹿なことを言うな、反乱だって!? まさか、ほんとにやるってんじゃ」
 腹に鈍い痛みが走った。
 仲間の一人に、殴られたのだった。バーグの傭兵仲間だ。
「お前のほうが馬鹿じゃないのか?」
 バーグは、ひらひらと証書を揺らした。腹が痛い。でもそれ以上に、心が痛かった。こんなことになるまで、現実だとは思ってなかった。
 そこにあるのは、『決起の誓い』。反乱を誓う書面だった。そこには、俺のサインもある。げらげらわらって、酔っぱらって、盛り上がって……考えもなしにサインしてしまったものだ。
「お前は、これにサインしたんだぜ。なにをしても、しなくとも、お前は反逆者だ」
「……」
「お前だけじゃない。お前の家族も、全員、反逆者としてみられるんだぜ。でも、俺は信じてる! 仲間と手を取り合って、新しい未来を切り開く日を!」
 熱に浮かされたバーグの目。
「だから、な? なあ、そうだろ、みんな!?」
 バーグは叫んだ。
「俺たちで世界を変えるんだろ!?」

●反乱阻止
「領民が反乱をたくらんでいる」という情報を得たイレギュラーズは、ガブリエル・ロウ・バルツァーレクからの依頼を受けて、この領地にやってきた。
「できることなら未然に防いでほしい」というものだ。
 いかにも、穏健派のガブリエルらしい。

 町で情報を集めていると、レジスタンスの一人だという男が、イレギュラーズの前に現れた。
「待ってくれ、武器を向けないでくれ! 俺は、俺は……そんなたいそうなものじゃないんだ!」
 いかにも普通の農民、という感じで気が弱そうな男だ。
「みんな、盛り上がってるだけなんだよ。盛り上がってるのは一部の連中だけで、あとはほんとに、やけになってるか、自分がしょっぴかれるのにおびえているだけなんだ。『決起の誓い』なんてものにサインしちまったから……」
 男が言うには、レジスタンスは一枚岩ではない。穏健派もその証書を弱みに握られ、なんとかまとまっている状態だという。
 その『決起の誓い』さえ取り戻してくれれば、レジスタンスは崩壊するだろうというのである。
 反逆の証拠を処分することになるわけだから、矛盾している気もするが……。
「頼む、証拠が……あの証書さえなければ、レジスタンスのほとんどのメンバーは決起なんてしないし、反乱は起きない……はずなんだ」
 そういった男は、それと、と付け加えた。
「……これはわがままになるんだが。できれば、リーダー……も、止めてほしいんだ。あいつは、たぶん、反乱、みたいなことがしたいわけじゃなくて。仲間ができて、一時的に……舞い上がっているだけだから。
 今ならわかるんだ。どうして俺とあいつ、正反対みたいなのに気が合ったのか。あいつも、ほんとうは……。
頼む、『決起の誓い』さえどうにかしたら、レジスタンスはバラバラになる。そしたら、あいつも止まるだろうから……」
 このままやみくもに反乱を起こせば、間違いなく首謀者は死ぬ。
「頼む。俺だって、俺たちだってきちんと罰も受ける。あいつにも償いのチャンスをやってくれ……今なら、まだ、間に合うかもしれない。そう思って、ここに来たんだ」
 反乱の企ては重罪だ。ここで斬り殺されても文句は言えない。
 それでも、男は地面に額をこすりつけた。
「頼む……」

GMコメント

●目標
 レジスタンスのアジトにある、『決起の誓い(※署名が入った、反乱に同意する書面)』を取り戻す。
 なお、取り戻すか破棄すれば良し。
 『決起の誓い』を破棄することで、レジスタンスは散り散りになります。

●レジスタンスのアジト
 アジトは下水道を抜けるとたどり着く小さな空間にある。
 下水道に降りる道は裏通りにあり、昼間、夜と見張りがいる。ただ、ずっとではないし交代の隙もある上に、レジスタンスの人間には素人が多い。
 アジトの内情は男から聞ける。
 アジトの扉は、『合言葉は?』『地下牢のネズミ』で、開くことになっている。

 中は小さなバーのような形で、カウンターに椅子、テーブル、壁に武器や防具などがかかっている。

●レジスタンス
 メンバーは15人ほどで、ほとんどが素人。
 元傭兵のメンバーの3人と、リーダー『バーグ』のみがまともに戦える。

 レジスタンスの中には本気で世界を憂いているものもいるが、ほとんどはバーグに握られた弱みが恐ろしいからといった理由で従っているにすぎない。
 素人の中にも血気盛んなものと、怯え切っていてもう抜け出したいと思っている者たちがいる。

 バーグ以外の傭兵たちは、素人の群れの中で戦闘経験をかさに着て良い地位にいられるのを楽しんでいるだけで、領地への反抗心というものはない。どころか、バーグのこともリーダーとして認めていない。

 バーグは反乱の理由に表向きは政治に対する不満を掲げているが、内心、リーダーとして頼られることに喜びを覚えている節がある。
 下っ端傭兵として孤独に生きてきたバーグにとって、この組織は自分自身も同然なのだ。
 ただし、自覚はしていない。自分の正義に酔いしれている。
 もはや自棄に近いが、イレギュラーズたちと戦って死ぬ覚悟もある。
 片手剣とバックラーを手にして戦う。
 『決起の誓い』はバーグが所持している。

●壊滅後
 もしもバーグにとどめを刺すなら、バーグは受け入れるだろう。
 レジスタンスが壊滅するため、依頼も成功扱いとなる。
 もしもバーグを見逃すのであれば、彼は一人でも戦い続けると吐き捨てる。
(レジスタンスのメンバーの中には何人か、彼を支持する者もいる。もっとも、戦闘能力は皆無だ)。
 彼の決心を変えられるかは、イレギュラーズ次第。

  • <幻想蜂起>正義にしがみつく者完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年05月09日 21時51分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リオネル=シュトロゼック(p3p000019)
拳力者
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
祈る者
コラバポス 夏子(p3p000808)
一兵卒
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
新たな道へ
一条院・綺亜羅(p3p004797)
皇帝のバンギャ
リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991)
闇に溶ける追憶
新道 風牙(p3p005012)
帰ってきた牙
西園寺 姫乃(p3p005034)
想拳

リプレイ

●男は話した
「いいよなあ」
『駆け出し』コラバポス 夏子(p3p000808) は、しみじみとつぶやいた。
「ココまで親身になってくれるダチが居るってソレだけで一財産だよなあ」
 ダチ。
 夏子が纏う雰囲気のせいだろうか、なぜかすんなりと受け入れられる。
「若者が現状を憂い、より良い明日への想いを馳せる……。よく聞く話ですね。そして、そんな若者達を扇動しようとする者が現れるのも、よくある事。ですが……」
『ねこだまりシスター』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)はそっと目を伏せる。穏やかなシスターだが、常に人の生と死を見つめてきた。
「なまぬるいのう」
『名乗り口上委員会』一条院・綺亜羅(p3p004797)は、レジスタンスの暴走をばっさりとそう評してみせた。
「世情に流されず畑を耕すか反乱を貫徹するかいずれかではないか。芸術家も商人も己の才覚のみで勝負しておる。戦えぬものは抗えぬ……鉄帝国名言集じゃ」
 綺亜羅が重んじるのは、強靭な肉体と意志。
 その隙のない立ち振る舞いから、綺亜羅の言葉が確かな実力に裏打ちされたものだとわかる。
「少しは理性的な判断ができれば、こんな無計画な蜂起が何の役にも立たねえなんてこたすぐわかるもんだが」
『闇に溶ける追憶』リーゼル・H・コンスタンツェ(p3p004991) は金の目を細める。
「まあ、熱に浮かされて見誤るのも人の常って奴かね」
「なんかよー領主が穏健派だからって付け上がってねーかって感じはあるな」
『拳力者』リオネル=シュトロゼック(p3p000019) は、武侠集団『シュトロゼック一家』の子。己の腕で道を切り開いてきた実力者の一人だ。
「近頃噂の狂気だなんだってヤツかもしれんけど、んな言い訳聞いてやる義理はねーっての」
 リオネルの言葉は正しい。
 反乱の決起は、勢いだけで行うにはあまりに過ぎた行為だ。
「事情が事情だから我々の介入やむなしだけど、コレ収まったら直訴くん」
 夏子がぽんと男の肩を叩く。
「ちゃんと君の口で伝えるんだぞ」
 その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
 もともと無茶な頼みであり、伝える機会が本当にもらえるとは思ってはいなかったから。
「本当はどうしたいのか問いただし、決起の誓いを破り捨ててくれよう」
 綺亜羅の言葉に、男は心底ほっとさせられたのだった。

「さて、どっから攻めるか」
『金狼の弟子』新道 風牙(p3p005012) は小柄に見えるが、だからといって、到底かなうと思えなかった。
 イレギュラーズを見ていると、男は、訓練ごっこで舞い上がっていた自分が恥ずかしく思える。
 レジスタンスのアジトの図を前に、イレギュラーズたちは作戦を練る。
『特異運命座標』西園寺 姫乃(p3p005034) は、頭の中でなんどもシミュレーションを重ねる。
 狙うのはなるべく制圧が簡単なタイミング、ではない。レジスタンス側に、できる限り犠牲が出ないタイミング。
(アタシはこっちの世界に来たばかりでLvも低いし弱いけれど、抱く想いの強さに変わりはないんだ……!)
 紫の瞳の奥には決意が燃えている。
「できるだけ穏便に済ませられるように頑張らなきゃ。誠意を持って話をすればわかってくれるかな?」
 そううまくは行かないだろう、というような話でも、なぜだろうか。『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034) の口から出た言葉であれば、なぜか、希望があるような気がしてくるのだ。
「当然、武器は持ってくけど、見せびらかす必要はないよな」
「だな」
 そこで男は違和感を覚える。
 姫乃はグローブからして格闘術を使うのかと見えたが、リオネルは武器を持っているようには見えない。
 拳で戦う、ということだろうか。
「穏便、な。それ自体はなんら悪いことじゃねーし、領主の意向にも沿うだろうし、殴らず済むに越したこたねーわな」
「ちゃんと相手の事を想って話すのも忘れないようにしないとね」
「きっと、なんとかなる」
 姫乃が力強く、男の肩を叩いた。

 また、笑いあえる日が来るのだろうか?
 今度はきちんと、正しい形で。

●堂々と、正面から
 下水道の狭い道をたどる。
 扉の前には、三人の男。戻ってきたところらしい。しばらくすると、一人が扉の奥へと消える。今ならば見張りは二人。
 スティアはちらりと夏子を見る。
 夏子が頷き、立ち上がった。
 下水道に、カツカツと足音が響き渡る。
「こんばんわー怪しいと思うけどとりあえず話がしたいんだ」
 フレンドリーに、夏子はへらりと笑う。場違いな陽気さに、見張りは呆気にとられている。
「荒っぽいことをする気はないよ。お互い、痛いのは嫌だもんな」
 軽く手を上げながら、風牙が近づく。そのしぐさがあまりに堂々としていて、見張りは我に返るのに時間がかかった。
「止まれ!」
 レジスタンスの声は震えていた。
 イレギュラーズたちは取り囲むようにして距離を詰めたが、その後は相手の出方を伺うように、じっと反応を待っている。
「貴方達のリーダーとお話をさせて頂けませんか?」
 クラリーチェは簡潔に、と用件を言う。交渉事は得意ではない。
 ならば、単刀直入に。
 クラリーチェは扉のすぐそばに立つ。退かない、という意思表示だ。
 男の一人が、腰の剣に手をかけた。無論、イレギュラーズも丸腰ではない。
 しかし、仲間が傷つけられるまで武器を抜く気はなかった。毅然とした瞳で、姿勢正しく……二人のレジスタンスを見返す。柔らかな笑みだった。武器を向けられた者の態度ではない。
 じり、とレジスタンスが下がる。武器を抜いてはいたものの、攻撃する踏ん切りはついていなかった。
 もとより、人を斬りつけたことなどないのだ。
「バーグさんにお話があって来たんだけど通してくれないかな?」
 リーダーの名前まで知っている。
「あんたら、何者だ?」
「いやまあ 実はね穏便に済ませに来たんだ」
「穏便?」
「反乱の事、穏便に済まそうと思って」
 反乱。
 風牙がはっきりと口にすると、空気がひやりとしたのが分かる。
 判断に迷って、レジスタンスらは顔を見かわした。
「信用できないならついて来てもいいよ」
 畳みかけるように、スティアは言う。
「要求があれば従うけど どうかな」
「武器を下ろせ」
 レジスタンスは言った。
 夏子はロングスピアを足元に置き、両手を上げる。リオネルは両手を上げ、何も持っていないことをアピールする。
 リーゼルの武器は輝刃、大太刀だ。武器は下ろさないが、鞘にしまいこみ間合いを取って敵意がないことを示す。
 それから沈黙が満ちた。
 リオネルと綺亜羅、そしてリーゼルは、仲間に交渉を任せて黙っている。
 互いの腹を探るようなにらみ合い。

 不意に、緊張の糸が切れた。
「うおおおお!」
 レジスタンスの片方が斧を抜いて斬りかかる。
 勝負は一瞬だった。
 リーゼルの素早い回し蹴りが、男の武器を蹴り飛ばす。無式・昇刃。十分過ぎる隙をつき、綺亜羅の組技が、男の動きを止める。
 男は、獲物に気をとられすぎた。
 クラリーチェが素早く男に近寄り、取り出したホーリーシンボルで威嚇術を放った。殺意のない、無力化のための攻撃。
「誰にも痛い思いはさせたくありません。私達は、話をしに来たのです」
 クラリーチェは柔らかく言った。
 追撃の様子はない。
 もう一人のレジスタンスは武器を置いた。
「少しの間だけ、不自由になりますがお許しくださいね」
 クラリーチェは襲い掛かって来た方のレジスタンスを後ろ手に縛っておく。
「さあ、中へ」
「おい、どうした、何かあったのか?」
「い、いえ、その……くそ、分かったよ」
 レジスタンスが合言葉を告げ、ぎい、と扉が開かれる。
 扉の隙間に、夏子が体を捩じ込んだ。驚いている相手をよそに、ドバンと勢いよく踏み込んでいく。
「よう」
 笑顔の風牙が、続けて乗り込む。
「あぁ、なんだ、テメェら!」
「話がしたい」
 夏子がはっきりと告げる。
「話、だと?」
 暫くの話し合いの後。
「いいだろう」
 一人の男が、後ろから出てくる。
 おそらくは、この男がバーグだ。
「レジスタンスの最終目的は『貴族の打倒』じゃなく『今を何とかしたい』だろ? 戦って殺したり死んだりするのが目的じゃない。それが、なんでいきなり反乱なんだよ。意味わかんねえ」
 しんとしたアジトの中で、風牙の言葉は朗々と響き渡る。
「俺たちを止めたいのか?」
「そうじゃない。やり方ってものがあるだろ。まずは、みんなの具体的な不満とかをまとめて、文書にするなりしろよ。そんで伝えたい相手に伝える。その辺のとりまとめが、リーダーの仕事じゃね?」
「俺たちは、こういうやり方で世界を変えると決めた」
「ふーん。あんたら、本気で領主に勝てる気でいるんだ?」
「……」
「まさか、「逆らったという事実が大事」なんて言わないよな? そんなことしても、残された人が酷い目にあうだけだもんな」
 後ろから瓶が投げられた。
 風牙はなんなくかわした。瓶は壁に当たって砕け散る。
「俺たちは、領主に勝つと決めた!」
「勝てるっていうなら、試しにオレらを倒してみろよ。オレらに勝てない程度じゃ、軍隊にはとうてい勝てないぜ?」
 レジスタンスは、戦闘態勢だ。

●衝突
 やはりこうなったか。
 扉を叩き壊す勢いで、綺亜羅が戦線に躍り出る。
 始まりの赤。流れる血潮が、戦いを告げている。
 おそらく、戦うしかなかった。戦って思い知らせる他に、バーグの心を変える術はない。思いっきりケンカを売って、叩く。叩きのめす。……死なない程度に。
 正面から堂々と宣言して、はっきりと「負け」を突き付ける必要がある。
 綺亜羅は刀を所持してはいたが、抜かなかった。語るは肉体言語のみ、ロクな戦闘経験のないレジスタンスを肘で打つ。
「ぐおっ……」
「殺さぬのではない、殺すに値せぬだけじゃ。その中途半端さ、感情に流れ易さが!」
 死なない程度に武器を蹴り飛ばし、構わず前へと進む。素人だ。反乱というのは、あまりに過ぎたおイタだったろう。
 戦えるのはバーグと3人程度。見れば分かる。
(レジスタンス共に関しちゃ基本的に放置だ。逃げたきゃ逃げろ)
 リーゼルはα式・憑鬼を唱える。
 身体に重い負荷をかけ、身体能力を引き出す強化魔術。過剰な負荷は守りを下げるが、有象無象は相手ではない。カプリースダンス。連続攻撃が繰り出され、レジスタンスの一角が瓦解する。
 リーゼルはレジスタンスを無視して、まっすぐにバーグのもとへと向かっていく。
「う、うおおおお……!」
 へっぴり腰の素人でも、武器を構える者はいた。だが、イレギュラーズたちには殺意はない。クラリーチェが威嚇術を叩き込む。
「自分の意思なら良い……他人の言うことに乗って……それで良いのか!」
 夏子の一撃が、武器を振り払う。
 逃げ出したものが半数、動けないでいるものが残りの半数。その半数が、リオネルの行く手を阻もうと武器を構える。だが、その者たちはリオネルの眼中にない。
(少し、遠いな)
 リオネルがターゲットとするのも、やはり傭兵たちだ。
(……まぁ、オレは問題なく対処できるけどな)
 リオネルは机を踏み台に、跳躍し、壁を蹴る。あまりに予想外の動きに、レジスタンスたちは固まった。
 鋭い蹴りが、カウンターテーブルといくつかの酒瓶を粉々にする。いや、真っ二つに「斬れて」いる。徒手空拳の格闘動作。
(殺したいわけじゃないからな)
 机を攻撃したのはわざとだ。
「かかってくるものはおらんのか!」
 綺亜羅の凛とした名乗り口上が響き渡る。「戦いは人の本性を剥き出しにする」。残酷なまでに。
「だめだ、こんなのに勝てるわけがねぇ!」
 力量の差を痛感し、熱がスッと冷めたように、何人かが散り散りに逃げ去ろうとする。
 不協和音。バーグの信じた仲間はバーグを信じていないことを暗に示唆されている。
「テメェら!」
 バーグが怒鳴るが、その声は逃げる者には届かない。
「いいじゃねえか、久々に暴れてえ」
「傭兵どももお前の言うことを聞きたくないようじゃな」
 英雄的死が、遠ざかる。
(所詮、烏合の衆に過ぎん)
 風牙の動きが、急激に研ぎ済まされていく。年季の入った長剣を構え、一刀両断を放った。傭兵の一人がのけぞり、倒れる。
 夏子が飛んできたビール瓶をキャッチし、壁に叩きつける。
 音は軽快な竹を割ったような爆音だった。夏子の闇を劈く爆裂音が、あたりを明るく照らしあげる。
「田舎の駆け出し兵 夏子 気付けの一発お見舞いしてやるぜ!」
 バーグの瞳に、怒りが燃える。
 破滅に向かうその怒りを、夏子は否定してみせる。
「君達の行動で! 結果! 家族! 友人! どうなるか! 一族路頭に迷うならまだ良い!全員処罰だってあるんだぞ!」

 激しい戦いが繰り広げられる。
「!」
 傭兵が倒れ際に放った攻撃が、背を見せて逃げ出すレジスタンスに向かう。
 夏子が、射線に身を躍らせる。
「ってぇ……セーフ」
 パンドラの力が、夏子を踏みとどまらせていた。その傭兵は、風牙の一撃が、きっちりと無力化していた。
「アンタがしたかったのは本当にこんな事だったのか!?」
 姫乃が叫ぶように言う。
 バーグのバックラーが姫乃の拳を受け止める。
 盾の振動を通して、命のやり取りを通して、殴られた部分が熱い。
 揺るがぬ想いの欠片。負けじと斬り返すが、姫乃の傷はみるみるうちにスティアが癒す。
「リーダーとして皆から頼られて、喜びを感じてるのは分かる」
 説得の言葉の端々の、後ろに心配の影が見える。
 いたわりが。
「でもさ、周りを見てみなよ! レジスタンスの皆、怯えてるじゃないか!」
「仲間の命を預かることもできず首輪に使うとかよ」
 リオネルの言葉が、一撃一撃が、重い。
「そんなんでアタマはろうなんざ」
 受け止め切れない。
「十年はええんだよ!」
 盾が弾き飛ばされた。
 綺亜羅が、バーグに組み付いた。世界が、ぐるりと一周する。
 背負い投げが決まった。
 もう、立てない。

●明日
「みっともねえ……殺せよ」
「自棄的な死亡上等はただの爆弾じゃ。戦いを生き抜いたものに明日がある! すぐに諦めるな!」
 綺亜羅のびりびりとした喝が骨身に染みる。
「この依頼をローレットに頼んだのは誰か分かる?」
  姫乃が静かに言う。
「領主のガブリエルなんかじゃない。紛れもない、アンタのレジスタンスの一人さ。反逆者として捕まってもおかしくはないのに、彼は勇気を振り絞ってこう言ったんだ。『リーダーを止めてくれ』って」
「あいつか……臆病者が」
 バーグの言葉に、険はなかった。
「アンタが、真に求めたのは『世界を変える事』でも、『未来を切り開く事』でもない。一緒に明日を語り合い、気軽に愚痴を言い合える、自分を慕ってくれる『仲間達』だろ!? 目を覚ましなよバーグ!」
「……」
「バーグさんは本当は何がしたかったの?」
 スティアが、淡々と語りかける。
「反乱を起こして、自分の命令で仲間が殺されていく、そういうのを見たかったの?」
 違う。
「それとも仲間の力を把握していながら殺されるとは思ってなかった?」
 違う。
「一度冷静になって考えてほしいな。脅されて嫌々言う事聞いてる人だけでなく、バーグさんの事を慕ってる人もいるんじゃないかな?」
「リーダー、今のうちに逃げてくれ!」
 後ろ手を縛られていた男が飛び出してきた。風牙が受け止める必要もなく、その場でコケる。思わず、苦笑が漏れる。
「……降参する」
 あたりがざわめいた。
 怒りや、渇望が、霧散していく。

「バーグさん。人の心は、強制しても掴めません。貴方も本当は気づいているのではないですか?」
 クラリーチェへの返事の代わりにバーグが取り出したのは、決起の誓いだ。
「幸い、あなたはまだ行動を起こせていない。罪もそこまで重くはない筈。しかるべき罰を受けたのちに、こんなものに頼らず……貴方の心に賛同する方と行動を共にしてほしい。そう……願います」
「他にはなんもねえよ」
「そういう人を危険にさらさないためにも真っ当な道を進んでほしいかな。レジスタンスじゃなくてもリーダーにはなれるでしょ?」
「少人数とは言え、他人に頼られるだけの器量はあるんだろ。もう少し活かし方を考えてからでも死ぬのは遅くないだろうよ」
 スティアとリーゼルが言う。
 単純だが、少し思った。こんなすごいやつらに褒められるなら、ひょっとしてそうなのではないか、と。
「バーグ君 死ぬ覚悟はダチとの関係修復に使え」
 スティアの治療を受けながら夏子が言う。その表情に敵意はない。
「今度 皆で一緒に飯でも食おう」
「は、はは、あんた馬鹿か。反乱企てたリーダーと飯ってか、ありえねぇだろ」
「色々あると思うけどもう分かってるんだろ このやり方は間違ってるって」
 夏子は笑う。
「やり直せるんだ まだね」
「お前に剣は似合わぬ。畑を耕せ、酒場で逢ったあの男と共にな」
 綺亜羅の言葉に少し呆気にとられて、それもいいかもしれないと思ってしまった。
 負けだ。
「これは、お前のケジメだ」
 決起の誓いを、渡される。
 バーグは頷き、びりびりと破り捨てた。
 紙片が舞う。

 こうして、反乱は未然に防がれ、レジスタンスたちは解散する運びとなる。
 いくばくか、罪を償うことにはなるのだろうが、バーグが「その後」を考えるのは、久しぶりだった。

成否

成功

MVP

コラバポス 夏子(p3p000808)
一兵卒

状態異常

なし

あとがき

<幻想蜂起>正義にしがみつく者、以上で終了です。
お疲れ様でした!
バーグがどうなるかは皆様にお任せ、ということにしていましたが、熱いセリフの数々に、思わず魂が震える思いでした。
ありがとうございました。
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。

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