シナリオ詳細
再現性東京2010:迷中TV
オープニング
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濃霧が立ち込めていた。黄色い、視野を惑わす霧だ。おかげですり足で動くしかない。振り返ってもどこから来たのかとんとわからないし、前を見ても漠然とした印象しかない。
あなたはガラクタだらけの道をゆっくりと進んだ。時折黒い影を固めたようなスライム状の何かがかじりついてくる。だが惑星環に守られた身には傷一つつかなかった。
歩いているうちに結界が消えた。かけなおそうと印を結ぼうとしたとき、また黒い影が襲い掛かってきた。めんどうくさくなったからそのまま腕をくれてやって、あなたは丁寧に結界を張るとまた歩き出した。足元の影がしゅるりと伸びあがり、失った腕を形作る。何事もなかったかのように元の姿を取り戻し、あなたは先へ進んだ。
どれほど歩いただろう。数時間か一週間か、それとも時計の針がおやつの時間を告げるまでか。どちらでもよい。重要なのは何も見えなかった霧の先に人影をとらえたということだ。
近づいてみるとそれは少年だった。この世の存在ではないのだろう。うっすらと向こう側が透けて見える。少年はあなたへまったく興味を示さずイヤホンに手をかけたまま音楽へ聞き入っている。
あなたが声をかけると少年は心底どうでもよさそうに振り向いた。青みを帯びた髪が片目を隠している。
「ここはどこだね、知っているかい。昔歩いた場所にそっくりなのだけれど」
「テレビの中」
「あァ、やっぱりそうなんだね。この毒のような黄色い霧は見覚えがある」
「はい、メガネ」
「話が早くて助かるよ。対価は?」
「どうでもいい」
「たしかこのモノガタリはとうに終わったと思っていたのだけど」
「視聴者が欲するなら、モノガタリは何度でもくりかえされる」
「いまこうして再びテレビの中の世界が生まれたという事は……」
「新たな迷妄が生じた。そしてあなたは、すこぶる不運だね」
何が? と疑問があなたの口を突こうとした直前。高らかにファンファーレが鳴り響き、紙吹雪とテープが宙を舞った。レーザー光が霧の中で反射し、巨大なリングが周囲からせりあがってくる。どこからともなく腹に響く威勢のいい声が響き渡った。
――かわいい小鳥は誰にも渡さん! 強敵相手のベンチマーク! 武器商人!!!
紙吹雪とテープまみれになりながらあなたは言った。
「……なんだね、今のは」
「僕が出歩いていることからわかるかもしれないけど、ここはあいつの夢に繋がってる。テレビの中であり、同時に夢と現実、精神と物質の狭間にある、荒唐無稽なでっちあげ空間。ずいぶん高周波のチャンネルにつながったね。普通はここまで高みに来れないのだけど、何者なのあなたは」
少年はふと辺りを見回した。霧が濃くなっていく。
「訂正、あなたは、ずいぶん運が悪い。あいつがあなたを気に入ったみたいだ」
ずるり。影が固まり、あなたと同じ姿を取った。
「これはあいつのアバター、見てくれと能力だけは立派だ、おそらくあなたを超えるだろう。でもあいつが欲してるのは中身だ。あなたを壊して中身を取り出そうと…どうでもいい、省くね…要はこいつを倒さないとここから出られないよ。……あ、来ちゃった」
少年はふわりと浮き上がり、リングの外へ。
「ファンタスティックお邪魔いたしまぁす」
のびやかで独特な抑揚の声音が耳に入ったとたん、あなたは吹き飛ばされていた。黄金と白銀の惑星環が粉々に砕け、あなたはもう少しで床ペロするところだった。
闖入者は、銀髪のショートボブで金の瞳をしていた。印象的な群青色の衣装はエレベーターガールのように見える。その女はあなたに目もくれず、少年を前に感極まっている様子だった。
「ああ、再会を心待ちにしておりました。よもやこのような場所で、たとえ幽玄の幻と言えどあなたの声を聴くことができようとは!」
「僕も君に会えてうれしい。けど、あまり他者と関わるとあいつが妬いて目覚めちゃう」
「そうでございました。けれど、多少はよろしいのでしょう?」
「お待ち」
あなたは血まみれのまま這い寄り女の足を掴んだ。
「何でございましょう」
「人を足蹴にしておいて、自分は逢瀬かい? 謝ってもらうよ」
「ああごめんあそばせ。何せ幾星霜ぶりの奇跡。わたくしとしたことが、あの人しか目に入っておりませんでした」
あまり実感のこもってなさそうな声で女は謝罪した。さて、と少年が言葉を継ぐ。
「このテレビは視聴者が見たがるものを写す。そして番組はハードなバトルをお求めのようだよ」
あなたの姿をした黒い影がにたりと笑う。女は少年を見、アバターを見、最期にあなたを見た。
「なるほど、わたくし合点がいきました。闖入者たる者、場をイレギュラーに盛り上げねばなりません。幸い荒事には少々心得がございます。こちらにいらっしゃる方々をすべて、アイナメ、否、パイ投げ、いえ、平らげてご覧にいれましょう」
- 再現性東京2010:迷中TV完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年09月17日 23時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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空気を割いて振り下ろされる禍々しい両手剣を、『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は剣を横にして真っ向から受け止めた。刃と刃が削りあい、剣の咆哮が二重に交差する。器用に空中で静止し全体重を乗せている相手。アランは苦々しい思い出そいつを睨んだ。両肩の筋肉がパンプアップする。
「うおりゃあ!」
膂力だけでCode:Demonを振り回し、相手ごと吹き飛ばす。アランにそっくりなその相手は空中で姿勢制御、そのままリングへ着地した。反動で足元が揺れている。
「……”俺達”か。妖精郷でアルベドが来なかったと安心してた時に、ドッペルゲンガーかよクソが」
アランはブロウタイプの伊達眼鏡をかける。黄色い濃霧が消え、視界が急に晴れやかになった。
「ほんとにね、まーた練達のよく分からない「てくのろじー」ってヤツ? 良くもまあ傍迷惑なモンを次から次へと……」
くりだされる槍の突きを受け流し、『never miss you』ゼファー(p3p007625)は一歩、二歩と後退した。右の突きを避け、左の突きをかわし、中央の突きを槍の長柄で弾く。相手はシャドウがかかっているかのように黒い。かろうじて表情だけが読み取れる。その顔が笑っているのを確認したゼファーは槍のこじりを跳ね上げ、同時にバックジャンプ。大きく距離を取った。
(自分と同じ顔、同じ技、嗚呼、嫌でも思い出してしまうじゃないの)
胸をよぎるのは名前のない徒花。同時に攻撃したあの瞬間はたしかな想い出として胸にある。それを穢されたような気分。
「……ま、中身が無いみたいで助かったわよ!」
フォックスタイプの眼鏡を涙をぬぐうように押し上げ、ゼファーは愛槍を構えなおした。
「さて、状況がよくわからないが……」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はさっきから自分のアバターとやりあっている。突っ込んできた相手の腕をつかみ、その勢いを利用して懐へ滑り込み、空いた片方の手に魔力を集中、掌打を放つ。右胸、左わき腹、右肩、顔面。四か所連続で叩きこまれた『気』が爆発し体を苦の字に折り曲げたアバターは大きくリングを滑っていき、兎のように跳ね起きた。
しゅう……と余力の煙がゼフィラを彩る。
「自分の影と戦う必要があるなら望むところだよ。面白い経験になりそうだ」
ギルドショップで購入した眼鏡は良く見える。霧に包まれた奥、前衛芸術のような風景も、ここが異界だという事も、はっきりと。
鉄骨がランダムに組み合わされているだけの空を見上げ『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は大剣を思い切り振り下ろした。相手は寸前で避け姿勢を崩したが、そのまましゃがみこみ、片手を支えに回転、足元を刈り取るようにキック。それを軽くジャンプしていなすと、ニコラスは瓦割りのごとくアバターの脳天めがけて大剣を。相手は視点にしていた腕で強くリングを叩き側転。寸でのところで逃げおおせる。衝撃でずれたヘキサゴンタイプの伊達眼鏡をかけなおし、ニコラスは油断なく大剣を担ぎ上げる。
「テレビねぇ。練達でしか見たことねぇがこんな世界が広がってるとはな。てか視聴者って誰だよ」
とたんに湧きあがる歓声、飛んでくる紙テープ。すだれのようなそれを払いのけながらニコラスは顔をしかめた。
「うっぜ! ……ま、いいさ。さぁて視聴してる誰かさんよ。お前はどいつに賭ける。俺達か。アバターか。それとも……あの姉ちゃんか。どいつに賭けたって構わねぇが俺らに賭けなかったことを後悔だけはするんじゃねぇぞ」
視線の先では群青のエレガが退屈そうに分厚い辞典をめくっている。
「テレビの中ァ!? 確かにガキの頃テレビの中に入りたいって思ったことはあるけどよ……なんだよこの霧は、何も見えやしねえ!」
ぶんぶか首を振り左右を見回しているのは『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)。
「メガネをかけろ。何かを通して真実を視る――神秘絡みでよくある手法だ」
『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がすちゃっとかけたのは、たまき先生の伊達眼鏡。ハーフリムのそれはこの異界でも汰磨羈をどこかセクシーに見せる。とたん、ドアップになる靴底。反射的に身を避けると飛び蹴りしてきたアバターは大きく足を広げ、姿勢を極限まで低くしてリングへ着地した。その姿勢から再度飛び上がり、汰磨羈へ襲い掛かる。汰磨羈は二振りを刀をクロスさせてこれに応戦、アバターの蹴りを防いでみせた。相手はクロスした刀の中央部を蹴って後退、空中で猫のようにくるくると回転と同時に抜刀。リングへ降り立つ。
「何かしら映し出す物を異界への入り口として扱う術なら、何度も見た事はあるが。よもや、こういう形で来るとは……面白いじゃないか」
唇の端を引き上げる汰磨羈。
千尋はというと自分のアバターに追いかけまわされていた。リングサイドへ追い詰められ、へっぴり腰になる千尋。じわじわと距離を詰めるアバター。大きくリングを蹴り飛びかかる相手。それに対し千尋はリングアウトギリギリまでロープを引っ張り、弾丸のような速度で飛び出してラリアット。……になるかと思われたが、タイミングが悪かった。ずべしゃあとリングに伏せるアバター。見当違いの方向に走っていく千尋。
「ええい攻撃もままならねえ! つか本当にテレビの中の世界があるなんてなあ。まあ異世界に来てるし今更か。はい! 切り替えていこう!」
千尋は高々と鼻眼鏡をかかげた。
「ダチが是非使ってくれって貸してくれたコレを使うぜデュワッ!」
「おいおいそんなもんで……」
「見える! 見えるぞおおおお!」
マジかよと『大地に刻む拳』郷田 貴道(p3p000401)は千尋の反応にちょっと引いた。ならこれもいけるんじゃないかとディープグリーンを削りだして作ったサングラスをかけてみる。視界がクリアすぎてやっぱりちょっと引いた。そして改めて顎を引き、自分のアバターと対峙する。お互い獣じみた表情で戦の予感に神経を高ぶらせる。
「ニュクス・アバター、パチモンとはいえ自分より強い自分との対決ってのは中々いい趣味じゃないかい? ああ、自分より強い奴とやりあってこそ磨かれるってもんさ」
言うなり貴道は相手の胸めがけてストレートを放った。アバターもまったく同じ動きをとる。剣のようなそれはまっすぐに互いの胸へ吸い込まれていく。刹那か、那由他か、髪の毛一筋貴道が速かった。インパクト、両者は勢いを殺しきれず姿勢を崩してリングの上を滑る。肋骨がきしみ、心肺をえぐられるような苦痛が貴道を襲う。だがそれ以上の打撃を与えたと貴道は自負していた。アバターはいまいましげに顔をゆがめ黒い唾を吐き捨てる。
「ただ……なんだ、闖入者? くそったれめ、俺に恋バナしろってのかよ!?」
アバター以上に苦虫かみつぶした顏の貴道。闖入者は辞典で顔を隠してこっそりあくびをしている。
「ふむ惚気話が聞きたいと。幸運だね。我(アタシ)はネタに事欠かないよ。それにそういう話は大好きだ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)はリムレスのオーバルタイプをゆっくりと開いてかけた。
「長く生きているとね、俗な話ほど面白くなってくるものでね。そうだろう我(アタシ)?」
柔らかな曲線に似合わないギラリと鋭いまなざし。
「お行き」
武器商人は自分のアバターなど気にせずエレガへ攻撃を仕掛けた。片手を振り上げると袖がまくれ上がり、生白い腕が露わになる。同時に足元の黒い影が伸び、エレガへ向かって突進した。タムッ。小さな音がしたと思ったら、エレガが影の先端を細いアシで踏みつけていた。リングの上でびちびちと震える影を、エレガは興味深そうに見つめている。
轟音が聞こえた。否、全身へ響く見えない観客の歓声だ。これから始まる試合を待ち望み、狂喜している。
――ニュクス・アバターvsイレギュラーズ、やらせなしのガチンコ勝負! 勝つのは死の御使いか可能性の爆心地か、それとも突然の闖入者かー!? 試合開始クマよー!
高らかにゴングが鳴る、それより先にアバター達が動き出した。
「さて。文句垂れてる時間はなさそうね。私、待てが出来ない子はあまり好ましく思えないの。……少し躾けてあげるわ?」
ゼファーを先頭に、イレギュラーズたちも宴へなだれこんでいく。
●
イレギュラーズたちが最初に狙いをつけたのは武器商人のアバターだった。
「その邪魔な飾りを外させてもらうぜ!」
ニコラスのスニーク&ヘルがアバターの惑星環を砕く。続いて汰磨羈が動こうとした瞬間、エレガのハイヒールが砲弾のように命中した。
「ぐああああっ!」
パンドラの輝きを発しながら吹き飛んでいく、崩し無効をつけていた汰磨羈。
「おのれ!」
「待て、まずはアバターの対処が先だ!」
ゼフィラが叫び、ショウ・ザ・インパクトで貴道のアバターを叩きのめす。吹き飛んだ相手はエレガの脇へ。狙い通りエレガは無効が多くついた貴道のアバターを一撃でリングへ沈めた。
その隙にアランが武器商人のアバターへ接近する。
「本当に奴と瓜二つなら、何度でも立ち上がれるんだろうなァ!?」
紅が、蒼が、炎のようにCode:Demonを包み込む。何度でも斬りつける、そのたびに立ち上がるアバター、これ以上は気力の無駄と判断し攻撃を途中でやめる。代わりに飛び込んだのが千尋だ。
「お見舞いしてやらぁ! ケンカじゃ使えない方をよ!」
裏拳がアバターの顔へ入った。そのままラッシュをかける千尋、相手はしだいにぐずぐずと崩れていく。
「Finish!」
首から上を吹き飛ばし、千尋はその拳を掲げる。
――NEW HERO HAS COME!
いつのまにか出現していた数多くのモニターへ、止めを刺した瞬間の千尋のアップが止め絵で流れる。大歓声が沸き起こり、紙吹雪が舞い散る。
「イエア! どーよみんな、楽しんでるぅ!?」
見えない観客へアピールする千尋。その後頭部をニコラスがどついた。
「”アンタ”が見せ場を欲しがってるぜ!」
注意を向ければまさに今千尋は自分のアバターに殴りかかられようとしていた。
「わぷっ!」
大きくそりかえり、千尋はそのまま足を滑らせリングへ大の字になった。その上からボールを待ち構えていたかのごとくニコラスが大剣をアバターへめり込ませる。そのまま振りぬくと、相手は運良くコーデの下に隠した装甲で直撃を免れていた。吹き飛ばされるも、リングのロープに引っ掛かり、それを反動にしてバウンドする。
(へっ、今のを受けてけろっとしてやがるぜ。だが虚勢を張らずして何が博徒だ。勝つ道はか細いがあるんだ。ならそれに向けて走るだけだ)
「おおおおっ!」
汰磨羈が渦状結界を身にまとった。瀲淌圜舞へアバターをいざなう。一撃、さらに一撃、さらにさらに。
――SMAAAAAAAAAASH!
千尋のアバターは場外へ吹き飛んでいき、そのまま星になった。
「ちっ、こっち来やがった!」
貴道はエレガの動きに焦りを顔に浮かべ、腹をくくった。
(ヤケッパチだ、後で覚えとけよ!)
「おいエレガさんよ」
「なんでございましょう」
「……正直、俺は恋愛ってもんは得意じゃないんだがな」
エレガは聞く姿勢に入った。
「最近その、鈍感な俺でも分かるくらい好意を向けてくる子が居る。可愛い子なんだ、だからなんで俺なのか分からない。言っちまえば闘う事しか取り柄の無い男だからな。もちろん嫌いじゃないさ、ただそんな目で見たことがなかった。でも……そうだな、あまり待たせたくはないと思ってる」
「貴道様はご自分の道を既にお決めになっていらっしゃる御様子。わたくし、心から祝福させていただきます」
エレガは感じ入った様子だった。その隙にニコラスのアバターが倒された。アランが自分のアバターへ向かっていく。
(俺がどれくらいやべぇかってのは俺が一番理解してる。偽物が『俺達』の技を真似てんじゃねぇ。速攻で消すぞクソ野郎!)
「来い、月輪の聖剣。今こそ偽物の勇者を消し去らん――」
古き月輪に守られた彼を止めるすべはない。腰から下が両断され、アランのアバターはもがき苦しみながら消えていく。そんなことは露とも気にせず、武器商人はエレガの前へ出た。
「我(アタシ)の番になった小鳥の噺を聞いていくかい?」
「ぜひともお願いいたします」
「出会った時は自分の容姿が嫌いみたいで、ふわふわの白い髪で赤い目を隠して、願いを叶える対価に瞳の色はどうだと聞いてくるくらい。だから小鳥を自分の所有物にしてからも、番になってからも毎日「綺麗だね、可愛いね」って褒めてたのだけど。それで成果があったのか最近は髪で目を隠すことが減ってきてね。教師としてスーツを着てる時や豊穣で活動する用の衣装を着ている時は美しい目がちゃんと両方見えるの。あと可愛いものに嫉妬した時に『俺より…?』って聞いて拗ねるようになったものだから本当に可愛いよねあのコ」
「愛情を注いだ結果の開花。すばらしい心の交流、わたくしに足りないものでございます。できることならば他の方のお話もお伺いしたく思います」
ゼファーが名乗り出た。
「さて、何の話をしてほしい? 朝寝起きが悪くって、子猫みたいに手に抱きついたまま離れてくれない時のこととか。人見知りで外に出る時はいつも雛鳥みたいに私にくっついて歩くって話とか。ウチのかわい子ちゃんのネタなら無限にあるわよ、ええ」
「『かわい子ちゃん』、光あれと宣言されし時より歴史を裏から操ってきたという黒幕たちの総称。あなたにもそのような黒幕が……お察しいたします」
「そっちの察しはいらないわよ! あとで思いっきりぶん殴ってやるから覚悟してなさい!」
「はて、わたくし、またやってしまいましたでしょうか」
「まあね」
エレガはリングサイドの少年と顔を合わせていたが、ゼフィラに向き直った。ゼフィラは待て、と義肢を突き出し、ひとまず敵意はないと示した。
「聞くに、あの少年との再会を望んでいるとか」
「さようでございます」
「良ければひとつ相談に乗ってくれないかな」
「人生だけは長くとも経験は薄いわたくしでございます。それでもよろしければ」
「混沌に召還される前、私にも婚約者と言うか旦那が居たわけだが……まあ、政略結婚という事もあって、最後まで本当の意味で愛していたのか分からないが、帰れない今になって、せめて一度は顔を合わせて、自分の感情をハッキリさせたいのさ。帰る手だてもないのに、そんな事を考えるのは無駄かな?」
エレガは辞典を開いて一枚のカードを抜き出し、ゼファーへ見せた。
「回答は運命の正位置でございます。意味は幸運、転機、向上。このような不確かなお答えしか出来ぬことをお許しください。なにぶんわたくし愚者なもので、お恥ずかしいかぎりでございます」
「幸運、転機、向上……か。そうだな。この願いが私の原動力のひとつということにしておくよ」
のんびり長話をしているように見せかけて、これはイレギュラーズの巧妙な罠だった。場をかく乱するエレガの足止めをし、味方の損耗を減らす。話をしている一名以外は、すぐにその場を抜けて戦闘へ加わっていく。
ゼフィラがにっと笑う頃、アバターはすべてリングのしみになっていた。
「さあ、残るはキミだけだ」
「なるほど。わたくしにも意地があります。あのひとの前で無様な姿を見せるのはけっこうけだらけ。力を司る者として全力でお相手しましょう。参ります、ドロー、ワイルドカード!」
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そこからは一方的な攻勢が続いた。エレガは嵐のようであり、一度は少年の起こした奇跡で立ち上がるが手も足も出ない。
「くっそおおお! やられっぱなしでいられるかよ!」
千尋がやけっぱちの攻撃を仕掛ける。当たった。エレガが痛そうに片目を閉じる。
「いまだ、やってしまえ!」
ゼフィラのクェーサーアナライズが発せられる。戦う力の片鱗を取り戻したイレギュラーズは一斉攻撃を仕掛けた。死角に入った汰磨羈がエレガの足を払う。
「どんな高視聴率番組だろうと、何時かは終わるものだ。コレも例外ではない」
限界まで自己強化したアランが立ち上がろうとするエレガへ斬りかかった。
「自分が狩られる立場になった時も、余裕そうにしてられっかなァ!?」
バックステップしたエレガの銀髪が一房、風に舞い散る。ゼファーが槍を投擲せんばかりの勢いで突き出す。わき腹をかすめたそれはエレガの服を切り裂いた。エレガの背後に曰く言い難い不吉な影が浮かび上がる。
(来た! またあれ!)
ゼファーへ向けて紫の閃光がほとばしった。ふらり、ソレは突然に現れ、当然のように閃光を受けきった。
「狙いがそれてきてるよ、ヒヒ」
「最後まで大穴狙うのが博徒ってもんよ!」
ニコラスがリングアウトを狙う。ロープに向かって押し出されていくエレガ。そこへ貴道が割り込む。
「忘れろ! 全部忘れろ! ここで死ぬか忘れるか、選べ!!」
貴道の拳が、エレガのボディへめり込んだ。直後、エレガは後ろへ大きく跳び、リングの隅の鉄柱の上へ舞い降りた。終了を告げるゴングが鳴る。
「じつによい連携でした。目的を果たすまで死ぬわけには参りませんので、残念ながら貴道様のお話は忘れることにいたします」
エレガはくふふと笑った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー!
マヨナカテレビっていうかアリーナでしたが、楽しんでいただけましたでしょうか。
MVPは作戦が見事にはまったうえにいちばん甘酸っぱかったあなたへ。応援してます!
それではまたのご利用をお待ちしてます。
GMコメント
みどりです。武器商人(p3p001107)さんのアフターアクションから派生したシナリオです。
たぶん求められてるのとは違うけど、ある意味最大の怪異に襲われる恐怖をお楽しみください。
やること
1)ニュクス・アバター殲滅
A)オプション 闖入者KO 大成功条件・不殺不要
●エネミー
ニュクス・アバター ×8 今回のターゲットです。
PCのドッペルゲンガーです。使用スキルが同じで能力はPCより上です。激戦が予想されますのでAPの配分には注意しましょう。
群青のエレガ 闖入者 これはコミュがMAXですわ…
BS無効・マークブロック無効
アホかな?ってくらい強いです。また○○耐性を積んでいる人を優先してアホなの?ってくらいの大ダメージを与えてきます。BSは使ってきません。アバター・PC関係なく殴ってきます。
ただし人間の精神に対する好奇心が強く。コイバナ、のろけ、を聞かせると聞き入って行動不能になります。
「手札をお見せするのは心外の極みでございます」
●戦場 50*50m
リングアウトあり1T行動不能
初期位置は中央、PC・アバター・乱入者による彼我距離10mの正三角形
戦場効果:迷妄の霧
アクセサリ・メガネを装備していない場合、視界及びそれに準じる強烈なペナルティ。メガネは特殊化でも対応可能。
●他
少年の魂魄体
リングアウトした登場人物は彼がリング中央へワープさせます。
・君ならできるよ 全滅時エネミーHPそのままでPCHPAPフル回復 ※一回だけ
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