シナリオ詳細
飢餓は毒すら馳走となる
オープニング
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以前、カムイグラ某所の竹林を妖が襲撃し、竹を燃やすことで傍の民家まで燃やそうとする事件があった。
その後、それが複製肉腫となった妖によるものだと分かったのだが、悪意を振りまく彼らは更なる事件を引き起こそうとしていた。
豊穣某所にあるナスガ山。
そこは様々な種類のキノコが生育していることで知られている。
エノキ、ブナシメジ、シイタケ、エリンギ、マイタケ、ヒラタケ……。
それ以外にも毒キノコもちらほらと確認されてはいるが、食用となるキノコがかなり多い。
ヤオヨロズ種の岳蔵が管理するその山、少額の入場料さえ払えばキノコは採り放題とあってキノコ狩りを行う人々も少なくない。
なお、食用キノコ、毒キノコの見極めは自己責任だが、追加で岳蔵の雇うキノコ専門家に鑑定料を支払うことで毒キノコを確認してもらうことができる。
その為、遠方から来る利用者はともかく、近隣の利用者は確実に分かるキノコのみ採集していたようだ。
そんなキノコの山に、とある妖の一団が目を付けたらしい。
「「アァアァアア、クイモノ、クイモノダァアアァ……」」
ひどく痩せ細った手足を持ちながら、腹だけは異様なほどに膨らんだそれらは、餓鬼と呼ばれる妖だ。
餓鬼道に堕ち、飲食物全てが火に変わってしまい、決して満たされることの無い者達と言われているが……。彼らもまた複製肉腫とされ、周囲へと悪意を振りまく存在と成り果てている。
例え食べ物が炎に変わろうとも、お構いなしに喰らっていく。
彼らにとっては食用キノコだろうが、毒キノコだろうが関係ない。ただ、食らうことができるモノを手当たり次第に口に入れていくのみだ。
「ハラヘッタ、ハラヘッタァアァア……」
「クッテルノニイイィ、ハラガフクレナイイイィィイ……!」
片っ端からキノコを喰らっていく餓鬼ども。彼らに採りすぎてキノコが無くなるなどという考えなど存在しない。
そいつらは報告を受けた管理者岳蔵が現場へと駆けつけてなお、山全てのキノコを喰らう勢いで自らの飢えを満たそうとしていたのだった。
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此岸ノ辺は他地方から豊穣に来る中継地点として利用される。
その為、豊穣の事件を説明する場所としてローレット所属の情報屋も利用している。
「複製肉腫による事件の解決依頼が届いています」
海種の少女、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は集まったイレギュラーズ達へと告げる。
きっかけはユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)のとった行動。
彼女は竹林の騒動の後、キノコの山を狙う妖もいるのではないかと高天原で聞き込みを行っていた。
そうして、行き当たったナスガ山で起きた事件に遭遇したのだという。
「この山に餓鬼という妖の集団が現れ、生息しているキノコを喰らっているのだそうです」
キノコの数は多く、すぐに全てがなくなるという状況ではないが、餓鬼の数は10体あまり。群れを率いる餓鬼大将……名乗るわけではないので仮称だが……を始め、餓鬼達はキノコどころか菌糸に至るまで喰らってしまいかねない。
「放っておくと、キノコが食べられるだけではなく、キノコが生えない山になりかねません」
その為にも全ての餓鬼を倒さねばならないが、散開してキノコを食べている敵をうまく引き付けて倒したいところ。
「妖に味覚があるかは疑問ですが、美味しそうな食べ物で相手を釣るのもいいかもしれませんね」
もしかしたら、キノコで腹は膨れないと考えた餓鬼がくいついてくるかもしれない。あとは一網打尽にしてやるといいだろう。
事後は、ナスガ山でキノコ狩りをするといい。せめてもの礼と管理者も無償で提供してくれる。なお、毒キノコの鑑定料も自腹で出してくれるそうだ。
「キノコ……秋の味覚。もう秋ですね」
残暑を感じながらも、アクアベルは吹き付けてきた風に季節の移り変わりを感じていたのだった。
- 飢餓は毒すら馳走となる完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月15日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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豊穣ナスガ山。
キノコの群生地として知られるこの山に、怨霊討伐の依頼を受けたイレギュラーズ達が登っていく。
「しかし、本当にたくさんのキノコが生えているでありますね」
「へぇ~、キノコですかぁ。地上の人間はこんなトンチキなものを口にしていると。興味深いですねぇ~」
黄泉津に住まう妖憑の少女、『全霊之一刀』希紗良(p3p008628)は見渡す限り生えている様々なキノコに感嘆すると、天真爛漫、天衣無縫な『月の落とし子』月照(p3p009060)は少し違った観点でこのキノコの山に興味を示す。
実際、キノコに興味を持つメンバーは多い。
「きのこが採れる山……」
ゆるりのんびりといった衣装を抱かせる『魔法仕掛けの旅行者』レスト・リゾート(p3p003959)は、なんとなくタケノコが採れる里と仲が悪そうなどと口にすると。
「何と言いますかー。……最近、キノコとタケノコに縁があるのかしらー」
シロイルカの海種、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)はこの間の竹林の炎上事件と近しい時期に起こったこの山の事件を関連して結び付けていたようだ。
「キノコ美味しいよね、キノコ」
死の国より召喚されたという猫神、『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は豊穣の地で初めて食し、思ったより美味しかったと思い返す。
キノコには毒を持つものもあり、素人が迂闊に手を出すと危険とバスティスは聞いていたが、今回の敵、餓鬼の集団には関係ないとのこと。
「なんでも食べる悪食の化身。常に飢えに苦しむ哀れだけれど、面倒な相手だね」
しかし、希紗良はそんな相手に同情を見せていて。
「命あるものはそれぞれ日々働き、糧として食料を得、それを皆で分け合い腹を満たして明日へ命を繋ぐ」
彼女の里では、子供がさらに小さい子の面倒を見て、大人は田畑を耕し、皆で食事をとって笑い合っていたという。
「この餓鬼と呼ばれる怨霊達は、腹が減って食事をするも満たされぬ。……それはとても悲しい事なのであります」
しかしながら、それはそれと、小柄でやや子供っぽい『特異運命座標』篠崎 升麻(p3p008630)は考え、かなり腹を立てていた様子。
「秋の味覚を無節操に独占たぁ、ふてぇ奴等じゃねーか」
「せっかくの茸を餓鬼どもにくれてやるわけにはいかんな」
真白な全身に赤い瞳が印象的な『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)もまた、全てを食われてしまう前にさっさと片付けてしまおうと仲間達へと促すのだった。
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ナスガ山を登っていた一行は程なく、それらを発見する。
「「ハラヘッタ、ハラヘッタァアァア……」」
全身痩せ細っているにもかかわらず、腹だけが膨れた容姿をした餓鬼の集団。
彼らはあちらこちらに散らばってこの山のキノコを貪り、決して満たされぬ空腹を埋めようとしていた。
キノコの種類は問わず、毒キノコだろうが構わず喰らっていくその姿を、純粋な黒いマナから生まれた獣の悪魔、『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)がじっと見つめて。
「何とも惨めな見た目の鬼だけど、少し同情してしまうよ」
食に対しては貪欲であるマルベートは、さすがに全てを食らい続ける餓鬼達の姿には憐憫の念を抱いたようだ。
「でも、怨霊の類らしいから、速やかに本来いるべきところに還っていただきたいね」
どんな事情があれ、相手は怨霊。
折角のキノコの山なのだから、美味しそうに食べてあげないとキノコに失礼だとバスティスは主張する。
もっとも、毒キノコだけを優先的に食べてくれるなら、それはそれで……とバスティスが考えている間に、一部の餓鬼どもがこちらに注意を向けてきて。
「「アァアァアア……?」」
虚ろな瞳を向けてくる餓鬼の前へ希紗良が向かうが、今なおキノコを貪る敵も少なくない。
「散開している餓鬼を集めるのは大変!」
レストは予めそれを想定し、キノコの着ぐるみを着て戦いに望む。
見た目でアピールする彼女はさらに星夜ボンバーで爆発音を起こし、星を煌めかす。
「「メシ、メシガキタアアァ……」」
キノコぐるみに興味を示した餓鬼の群れはキノコを食べる手を止め、レストへとゆっくりと近づいてくる。
そして、餓鬼の中で唯一、一際大きな個体を瑞鬼がつり出し、戦いやすい場所へと誘導を試みる。
「ほーれ、腹が減っておるのじゃろう? こっちにいいものがあるぞ」
「ソレ、クワセロ……!」
仮称餓鬼大将は彼女の持つマツタケの匂いにつられてゆらりと動き、巨体を揺らして瑞鬼へと近づいてくる。
「全く。よもや、マジモンのガキ大将を相手にする事になるたぁな!」
誘導されてきた餓鬼大将の背後へと升麻が回り込み、そいつとの交戦に当たる。
一方、ユゥリアリアは大将担当の2人や他の群れを相手にするメンバーを合わせ、できるだけ多く自らの支援能力の効力内に収まるよう位置取る。
かつ、ユゥリアリアは敵からも距離を取りすぎぬよう気にかけていたようだ。
バスティスもまた引き付け役となる瑞鬼やレストから離れすぎぬように布陣し、仲間をバックアップする。
「邪魔者は排除、ですよぉ~!」
面白そうだからと、キノコを貰うべく敵へ立ち向かう月照。
対して、マルベートは満たされぬ空腹以上の悲しみはそうないだろうと餓鬼達を哀れんで。
「その哀れな魂を解放してあげるよ」
ディナー用のフォークとナイフを模した槍を手に、餓鬼どもの掃討を開始するのである。
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空腹を訴え、呻き声を上げて叫び続ける餓鬼達。
「「ハラ、ヘッタァァ……」」
そいつらは自分達の注意を引きつけるイレギュラーズを食らわんと涎を垂らして近づいてくる。
中でも、一際大きな餓鬼大将は体格もあって食欲も群れで一番のようで。
「アア、キノコ、キノコ、クウ……!」
「残念じゃが、お前らにやる茸はもうない。腹を空かして逝くがよい」
つり出しに使ったマツタケを懐にしまい、瑞鬼は残ったキノコはわしのものだと向かってきた餓鬼大将へと黄泉の国への道案内を行い、さらに強く気を引いていく。
(せっかくのキノコが燃えたらもったいないからのう)
相手は炎を放出するとの情報もある為、瑞鬼は敵から余り距離をとりすぎぬよう立ち回り、森を燃やさぬよう気がける。
「食の恨みは何より恐ろしいって言葉、聞いたことあるか? なぁ?」
その背後からは升麻が迫る。
常に餓鬼大将の死角を取りつつ、相手の腰から太ももの付け根、膝といった部位を狙い、升麻は闇と呪いを帯びた拳を叩き込んでいく。
「その図体なら、足に掛かる負担ってーのも相応に高い筈だよなぁ?」
ただでさえ四肢の細い餓鬼だ。升麻の主張通り、すぐにダメージは効いてくることだろう。
「アアアァァ……!!」
すぐに餓鬼大将は瑞鬼へと鋭い牙を突き立てて食らいつこうとしてくる。
全身を噛みつかれる瑞鬼を癒すべく、バスティスはすぐに調和の力で賦活する。
「さあ、みんな頑張って! 回復は任せてよ!」
そして、すぐにバスティスはもう1人、他の餓鬼を引き付けていたレストへと視線を向けた。
「くるくるくる~、みんなキノコおばさんの虜にな~れ~」
くるくると回転する彼女が召喚したのは、キノコがデザインされたリボン。
それすらも食べられるのではと餓鬼を集めるレストへとかなりの数の餓鬼が群がり、しがみ付き、食らいついていく。
そんな仲間の姿を見ながら、マルベートは群がる餓鬼の討伐の為、全身より黒きマナを迸らせる。
ユゥリアリアも多くの仲間に支援をと号令をかけて。
「全力で支援いたしますので、速攻でお願いいたしますわー」
そんなユゥリアリアの支援を受けつつ、最も敵から距離をとっていた月照は餓鬼どもを僅かに視界に入れて。
「ちょっと直接は近寄りたくないねぇ」
重度の潔癖症である月照は治癒魔術を使い、仲間の回復へと当たることにしていたようだ。
マルベートが奈落より呼び出した紫雷を纏わせていたレストも仲間の援護を受けつつ、引き付けを続けて。
彼女は自らに集まる餓鬼へと纏めて、殺傷の霧を浴びせかける。
毒は効かない餓鬼だが、空気が足りないのはどうしようもないのか、苦悶していたようだ。
さらに、ユゥリアリアが仲間を巻き込まぬように、かつては絶望とされた海を歌って餓鬼どもを惑わす。
「アァ、ウマソウ……」
「オオキイハラ、タベル……!」
一部共食いを始める餓鬼どもへ、希紗良が迫って。
「そなたたちに恨みはありませぬが、狼藉を見過ごすわけにはいかないのであります。御免」
一番弱っている餓鬼を見極めた希紗良は、鬼渡ノ太刀で牽制と合わせて1体目がけて多段攻撃で攻め立てる。
「アアアアァァ…………」
細切れになったその餓鬼は、嗚咽を漏らしながら崩れ落ちていく。
ただ、抑えられぬ餓鬼どもがなおも暴れており、距離をとっていた月照を狙う。
餓鬼の接近を厭う月照は自らの敏捷さを活かしてひらりと身を躱し、威嚇射撃を放って相手を怯ませようとしていた。
その敵のうちの1体を対象として見定めたマルベートは攻め手として攻撃を開始して。
「あまり期待もしてないけど、一応、味見もね」
マルベートの双槍から斬撃と共に黒い魔力が迸る。
相手に血を流させて体力現象を狙うマルベートだったが、早くも1体の餓鬼がそれに耐えられず、苦しむ悶えながら倒れていく。
「……やっぱり美味しくないな」
一言呟いたマルベートはさらに、まだ血を流していない敵へと黒い魔力の奔流をぶつけていくのである。
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餓鬼の数は多く、最初は激しい攻防が続く。
「「ハラ……ヘッタ……!」」
皆一様に空腹を訴えながら、イレギュラーズ達へと食らいついてくる。
「「ガアアァ、メシクワセロォォ!」」
餓鬼大将が巨体から放ってくる飢餓の力。
挟み込んで餓鬼大将を抑える瑞鬼や升麻から有無を言わさず、体力、気力を奪ってくる。
それを堪え、瑞鬼は餓鬼を巻き込みながら周囲へと呼びかけを行って。
「頼んだぞ」
「「オオオオオォォオォォ……」」
その声は呪いの歌となり、周囲の餓鬼ごと呪いを浴びせかけていく。
少しずつ動きが鈍っていた餓鬼大将目がけ、升麻が今度は内蔵……肝臓、腎臓といった部分へと殴り掛かる。
「人と同じ構造なのかはわからねぇが。まずはブッ潰して確認する!」
「グウウッ……」
升麻の重い一撃に、炎と共に嗚咽を漏らす餓鬼大将。
その間に、バスティスがすかさず天使の歌を響かせて仲間達を支える。
一方、離れた場所では月照が遠距離術式で餓鬼を振りほどこうとしていた。
「近寄らないでくれますぅ?」
1体の胸部を魔力弾で撃ち抜いて倒した月照だったが、それだけで数いる餓鬼の攻撃から逃れるとはいかず、餓鬼どもは月照へとしがみついて彼の体力を削いでいく。
「触ら……な……」
体力が尽き、崩れ落ちてしまった月照へと飛び掛かろうとする餓鬼を、希紗良が真っ二つに切り裂いた。
まだ残る敵の討伐を、メンバー達は加速させる。
敵に血を流させようとしていたマルベートが仲間の攻撃の集まる敵に黒い魔力の奔流を浴びせて1体を倒せば、ユゥリアリアがレストの集めた餓鬼達へと纏めて舞い踊る光刃で3体を切り伏せてしまう。
さらに、レスト自身もまた殺傷の霧を再度振りまいて3体の餓鬼を倒してしまい、残る1体をまたも希紗良が一刀両断してみせたのだった。
これで残りは餓鬼大将のみ。
餓鬼が数体残っていた段階からこちらの攻撃を始めていたマルベートは一般の餓鬼と同様に餓鬼大将にも両手の槍で切りかかっていく。
すぐに他の餓鬼を掃討したメンバーも駆けつけ、レストは調和の力を賦活に、バスティスは天使の歌声を響かせ、癒しをもたらす。
「グオオオオォォォ!!」
「大丈夫。交戦を続けて!」
燃え上がる炎を吹きかけてくる餓鬼大将。すぐさまバスティスが状況を超分析し、号令を発してその炎を消し去ってしまう。
ここまでのらりくらりと抑えを続け、時間を稼いでいた瑞鬼の身体にも引火していた炎が収まり、彼女は一息つく。
「あとは好きに料理するだけじゃな」
「クイタイ、クイタイイイィィィ……!」
だが、餓鬼大将はなおも己の欲望を周囲へとぶちまけ、飢餓の力を放出してくる。
それを警戒していたマルベートは仲間の気力を気にかけ、黒きマナを迸らせ、特に仲間の回復を行うバスティスをサポートしていた。
そうした仲間達のサポートを受けながらも、攻撃に出るメンバーが一気に餓鬼大将の切り崩しにかかる。
ユゥリアリアは自らの傷から流れる血を使い、氷の槍を生成する。
なんとかして食欲を満たそうと暴れる餓鬼大将に狙いを定め、ユゥリアリアはその槍を投げつけると、艶やかさを見せつけながらも敵の巨体を穿っていく。
「これでも援護はお手の物でしてよー」
そこで、希紗良が一気に餓鬼大将へと近づいて。
「まだ修行の身なれど……キサの全力を」
彼女の太刀は変幻邪剣となり、餓鬼大将を惑わせる。
「ウ、ガアアアッ!!」
「この身を齧られようが焼かれようが、一切構いませぬ」
大きく口を開いて食らいつかれた希紗良は痛みに耐えながらも、毅然と相手の顔を見据えて。
「その首を、命を貰い受けるならば、相応の痛みを負うて当然」
なおも変幻自在の剣で相手を惑わせ、希紗良は己の太刀を振り払う。
「代償なくして、対価は得られないのであります!」
「アアアッ、アアアアアアアアッ!!」
その一撃は見事に相手の首を切り裂いて血を噴き出したが、骨に届くまでは至らない。
尋常でないタフネスを見せつける餓鬼大将はさらに飢餓を訴えかけてくる。
力が奪われるのを実感しながらも、攻撃を続けていくイレギュラーズ達。
その最中、レストが攻撃に転じ、意志の力を衝撃波に変えて放出し、餓鬼大将へと浴びせかけていく。
大きく揺らぐ敵の姿に、升麻が掌を敵の腹へと叩きつけて。
「餓鬼道の鬼ってんなら、それらしく……地獄に堕ちやがれ!!」
膨大な量の気を送り込み、升麻は餓鬼大将の体を破壊してしまう。
「グワアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
断末魔の叫びを上げ、餓鬼大将はその命を散らしていったのだった。
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全ての餓鬼を討伐し、イレギュラーズ達はまず事後処理を行う。
希紗良が仲間達の傷を癒している傍ら、他メンバーは先程の戦いで飛び火してないかと周囲の草木をチェック。レストが水の入った如雨露を召喚して鎮火し、さらに種の箱から植物の種を使ってギフトで急成長させる。
「緑化してアフターケアもばっちりね~」
「……許可も頂きましたし、キノコを頂きましょうかー」
一仕事を終え、管理者と連絡を取ったユゥリアリアがそう告げると仲間達は目の色変えて。
「いやー、働いた働いた。腹が減ってしょうがないってな!」
「……そういえばキノコ狩りが出来るのだったね?」
升麻はキノコ狩りが初めてとあって、仲間からやり方を教わる様子。マルベートも遠慮なくたっぷりと収穫する構えだ。
「いざ茸狩りといこう」
瑞鬼もまた、仲間と共に改めて山を回って豊穣の幸を集めて回るのである。
程なくして、メンバー達は大量のキノコを抱えて集まる。
升麻も多数集めていたが、仲間のも含めて見回した彼は目を輝かせて。
「ついでにキノコ料理も食わせてくれ!」
「皆さんが手掛けられるお料理、楽しみですのよー」
この場は仲間にお任せな升麻。ユゥリアリアもまた余りなじみないその食材が新鮮に見え、調理を託す構え。
ただ、魚と一緒にキノコを蒸し焼きにすると美味しいと小耳にはさんでいたユゥリアリアは、それだけ試しに作っていたようだ。
呼んでいたキノコの鑑定士にチェックしてもらい、1,2割混じっていた毒キノコを排してから調理開始。
バスティス、瑞鬼はまず七輪を使って炭火で頂く。
「仕事の後の一杯は格別じゃ」
瑞鬼は早速、炭で焼いたキノコを肴に酒を飲み始める。
「味のわからぬ餓鬼になんぞくれてやるのは、やはり勿体なかったな」
実に格別だと瑞鬼は舌鼓を打ち、秋の味覚を存分に楽しむ。
また、バスティスは炭火焼きキノコを振舞いながらも、さらに山菜を加えた醤油ベースのあっさりキノコ鍋も作っていた。
「うーん、白いご飯が欲しくなるよね」
「はむっ、このキノコの歯ごたえがいいのよね~」
レストもまた、とろ~りチーズと色んなキノコを山盛りにしたピザをこの場で焼き上げており、美味しそうに食していた。
月照もキノコ狩りの間に目覚めており、直焼きだけでなく、鍋やピザといった仲間達のキノコ料理を口にし、満月のような笑みを浮かべる。わがままな月照ではあるが、この場の料理は美味しいものばかりでかなり満足していたようだ。
「皆と語らい、同じ釜の飯を喰らい、明日へ命を繋ぐ」
――これが生きるという事。命を長らえるという、こと。
希紗良は淡々とキノコ料理の味を噛みしめ、生を実感する。
「ふふっ、ディナーが楽しみだよ」
その傍らで、料理を食べ終えたマルベートは一部持ち帰り、今晩の料理に使うことにしていた。
「ご馳走様でした」
程なくして、希紗良は心行くまで秋の味覚を堪能し、山の恵みに感謝を示していたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは餓鬼大将を討伐したあなたへ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
こちらは、拙作「油と炎にご用心!」において、ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)さんがアクターアクションを起こしたことで発生したシナリオです。
●概要
全ての妖の撃破
●敵
○餓鬼×13体
いずれも、腹が大きく膨らみ、手足がひどく痩せ細った姿をしております。
いずれも怨霊の類で、いくら食べても決して満たされず、全てを喰らおうとします。今回はナスガ山のキノコを狙っているようです。
なお、毒キノコでも全て喰らうようで、毒に耐性があるようです。
・餓鬼大将(仮称)×1体
全長2mほどもあり、群れの中で一際大きい個体です。飢えを訴えるのみで名乗るわけでもないのであくまで仮称です。
直接相手に食らいついたり、炎を放出したりする他、一定範囲に飢餓の力を放出して相手の体力、気力を奪い取ることもします。
・餓鬼×12体
身長1m程度。引っかき、食らいつき、しがみ付きといった攻撃を行います。
●状況
豊穣某所のナスガ山へと上ります。
然程高い山ではありませんが、様々なキノコが群生していることで知られております。
このキノコの山を狙い、餓鬼の群れがやって全てのキノコを貪り食おうとしていますので、阻止すべく全て討伐を願います。
事後は、地主の方からキノコを採る許可をもらい、調理もできます。
調理器具の持ち込みは自由です。七輪で直接焼いても美味しいですし、調理してキノコ料理としても美味しいですよ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、よろしくお願いいたします。
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