PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪禍騒乱。或いは、騎士は悪の御旗のもとに…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●人は生来悪である
 彼女……“オォル”はかつて騎士だった。
 弱者のために剣を取り、あまねく全ての不幸を払う。
 正義を良しとし、悪徳を斬る。そんな騎士のあり方に憧れ、幼きころから訓練を積んだ。
 念願叶って騎士となった彼女が受けた最初の任務は、とある村の襲撃だった。
 その村に住む村人たちは、旅人を襲い金品を奪い、その身柄を奴隷として販売することで生計を立てているのだと、騎士団の団長はそう言っていた。
 人が人を欲のために虐げる。
 オォルにとって、それは正しく“悪”である。
 だから彼女は村人を斬った。
 大人も子どもも老人も、男も女も何もかも。
 泣いて叫ぶ子どもの脚の腱を切る。
 この子だけは、と懇願していた母の肩に刃を刺した。
 逃げ遅れた老人の顔を鞘で打ち、武器を手にした男の腹部を切り裂いた。
「諸君らの行いはまさしく悪に他ならない。痛みも苦しみも、自業自得と知るがいい」
 オォルは誰より剣を振るった。
 その作戦において、最も多くの手柄を立てたのはオォルであった。
 生き残りの村人たちを縛り上げ、団長だった男は告げる。

「オォル、お前は少し壊しすぎた。もっと丁寧に、傷を付けずに捕らえなきゃ、こいつら高く売れないぜ?」

 時が止まった。
 否、オォルの脳が考えることを放棄したのだ。
「……は?」
 震える唇からようやく発した言葉は一言。
 団長は笑って答えを返す。
「あん? もしかして知らなかったのか? 領主の旦那は人身売買で一財産を築いた方だぜ? その時の習慣か、今でも時々売ってんのさ。適当な理由をでっち上げて、こんな風に物を仕入れてよ」
「で、では……ここの村人たちが旅人を襲って金品を奪い、その身柄を奴隷として売る……という話は」
「言ったろ。でっち上げだってよ。っていうか、それやってんのは俺たちだしな」
 団長の言葉に周囲の騎士たちは揃って下品な笑い声をあげる。
「まぁ、ショックかもな。でも、そのうち何も感じなくなるぜ。俺も、手下どもも、お前も……どれだけ悪徳を積んだって、なにも、なぁんにも感じなくなる。そうなるように出来てるのさ。うちの団はな。昔からそうなんだってよ」
 そう言って団長は部下に持たせていた団旗を受け取り、地に刺した。
 たなびく旗にオォルは思わず目を奪われた。
 白い旗に描かれた、翼を持つ蛇の紋様が不気味に光る幻想を見る。
 否、それは果たして幻想なのか。
「なるほど。なるほど。了解しました団長殿」
「おう、わかれば……」
「貴方も、私も、どいつもこいつも。人とはあまねく悪なのですね」
 と、そう言って。
 オォルは団長の胸に深く剣を突き刺した。

 力ある者は戯れに弱者を傷つける。強さ、それはすなわち悪である。
 力なき者は大切な者を守れない。弱さ、それはすなわち悪である。
 利益の為に他者を騙す者がいる。
 快楽のために他者をいたぶる者がいる。
 己の境遇に絶望し自ら命を絶つ者がいる。
 それらはすべて人の業。
 すなわち人は悪である。
 ならば自分も悪なのだ。
 幼き日より夢見た正義はこの世のどこにも存在しない。
 いかに善人ぶっていようと、一皮剝けば皆同じ。
『ならば、どうする?』
 オォルの脳裏に声が響いた。
 血に濡れた団旗を手に取って、オォルは告げる。
「私は悪を楽しもう。あぁ、悪は気持ちが良いものな。そうだ、まだそれを知らぬ者たちにこの快楽を教えてやろう」
 なんて、笑って。
 死体の山の頂で、オォルは旗を空へと掲げた。
 
●人は誰しも生まれた時は善なるはずだ
「さて、今回のターゲットだが……墜ちた騎士“オォル”と彼女の持つ旗だ」
 そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は眉間に深い皺を刻んだ。
「旗を手に入れたオォルは雇い主だった領主を殺害。さらに領主の部下たちを暴力で支配し、ある活動を開始した」
 その活動の拠点となるのが、村の地下にある地下墓地だ。
 オォルはそこに、まずは投獄されていた悪人たちを収容した。
 墓標をなぎ倒して開けた空間に、オォルは山と武器を積む。

『お前たち、他者を虐げるのが好きなのだろう? 良いぞ。存分に虐げ合うがいい。斬って斬られて、殺し殺され、楽しもう。これは“悪の祭典”である』

 それがオォルの活動だった。
 悪人たちはオォルに煽られ、旗に心を支配され、嬉々として殺し合いに興じた。
 そうして生き残った数名とオォルと数名の悪人たちは、次に近くの村や街から食い詰め者や荒くれ者を誘致する。
「何度繰り返したんだろうな。今じゃ一般人を誘拐して来てるって話だよ。なんで、お前さん方にはこの殺し合いに参加して来てもらいたいんだ。確実にオォルに接触するには、それが一番のようだからな」
 聞けばオォルは“祭典”の日以外は、どこかに出かけているらしい。
 おそらくは、外で誰かを斬っているのだとショウは言う。
「オォルだけじゃなく、祭典の生き残りたちも似たようなもんだ。放火も殺人も強盗も詐欺も何でもやるって話しさ」
 中には以前と、まるで人が変わってしまった者もいる。
 否、元々の性格が善人であればあるほどに、祭典から帰った時には強く悪に染まって居る傾向にあるのだ。
 おそらくそれが、オォルの手にした“旗”の能力なのだろう。
「この“旗”はどうやら呪物のようだな。持ち主や、影響下にある者たちの性質を“悪”に変じさせるらしい。それも、元々が善人であればあるほどに、より酷く墜ちるとのことだ」
 たとえば、野良猫に餌をやる老婆が、ある日を境に野良猫を虐げはじめるなどだ。
 その者が善人であれば、性質がまるっきり反転してしまうようなもの、とショウは言う。
「お前さんらを抜きにして、今回の祭典に参加するのは30名。とくに注意すべきはオォル。そして4人の“大罪人”たち……今までの祭典で生き残ってきた極悪人どもさ」
 残る25名は、今回の祭典のために集められた……或いは、自発的に参加した者たちだ。
 全員がしっかりと旗の影響下にあるため、他者を害することに何ら抵抗は持たない。
 大人も子どもも老人も、男も女も、全員がその悪徳を発露させた状態にある。
「大罪人の攻撃には【流血】が付いてる。オォルの場合は加えて【災厄】もな。そして極めつけに旗の【狂気】【苦鳴】だ」
 また、地下墓地の外周には祭典を見学に来た悪人たちが並んでいる。
 彼らが戦闘に参加してくることはないが、血気にはやって石や得物を投げ込んでくる者も多くいるだろう。
「まぁ、全員が祭典に参加する必要もないかもだがな。あぁ、回復スキルを使う者や脛に傷のある者、それと“悪”の素質がある者はとくに気をつけた方がいい」
 回復スキルを使用する者は、大罪人たちの敵意を集めやすくなる。
 また“悪”の素質やそれに類する過去があるなら“旗”の影響により冷静な思考を失いがちになるようだ。
「ミイラ取りがミイラに……なんてことにはならないでくれよ。お前さんらの討伐依頼なんて出したくないからな」
 と、そう言って。
 冗談めかしてショウは笑った。

GMコメント

正義って何だっけ?
こちら「正義執行。或いは、少女は空へ旗を掲げて…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3750

●注意
・回復スキルを使用すると【大罪人】の敵意を集めることになります。
・過去、現在に関わらず“悪”の素質がある方は常時解除不能の【不吉】状態となります。※心当たりがある方はプレイングにて自己申告していただけると助かります。
・過去、現在に関わらず“善”の傾向にある方は【狂気】にかかりやすくなります。※心当たりがある方はプレイングにて自己申告していただけると助かります。
・とくに自己申告がなければ、自己紹介欄などを参照してこちらで判断いたします。

●ミッション
・“悪の旗”の破壊。


●ターゲット
・オォル×1
“正義”の騎士を目指した女性。
所属した騎士団、領主の行いにより人の本質は“悪”だと考えるようになる。
“悪の旗”の影響を受けたこともあり、以来彼女は“悪”の道を歩む。
多くの者の命を気まぐれに奪い、旗の支配下に置き殺し合わせて、それを娯楽とするような……。
彼女は自身の行いが“悪”だと知っている。
彼女は人の性は皆等しく“悪”なのだと思っている。
悪の道に墜ちてなお、彼女はこの世のあまねく“悪”を排除しようとしているのだろう。

断罪:物近単に大ダメージ、流血、災厄
 血に濡れた騎士剣による斬撃。


悪の旗:神遠範に微小ダメージ、苦鳴、狂気
 旗より溢れる不気味な波動。

・大罪人×4
オォルの開催する“悪の祭典”において優秀な成績を収める者たち。

虐殺:物近単に中ダメージ、流血



・祭典に参加する咎人たち×25
無理やり、あるいは自発的に祭典に参加する者になった者たちであり、大した戦闘力は有していない。
旗の影響下にあるため、罪悪感や倫理観が麻痺した状態にある。
拳や剣、ナイフなど各々が得意としている武器を使うが“祭典”の特性からか遠距離武器を用いる者はいない。


●フィールド
以前オォルが所属していた騎士団によって滅ぼされたとある小村。
その地下にある地下墓地が今回の戦場となる。
墓標などは踏み倒され、墓地中央には開けた空間。
これまで何度も開催された“悪の祭典”により地面は踏み固められている。
2ターンもあれば端から端まで移動できるだろう。
地下ではあるが光源は確保されており、視界に問題はない。
地下墓地の外周には祭典を見に来た観客たちが屯しており、時折物を投げ込んでくる。
※命中すると【足止め】状態を付与される。
※“悪”の素質が強い者は常時【不吉】状態となる。

悪の祭典は、参加者全員によるバトルロイヤル方式となっている。
それなりに密集していることや、他参加者との距離が近いこともあり遠距離武器を使う者は平時から少ない。
今回、遠距離武器を持ち込んだ参加者は0人のようだ。

  • 悪禍騒乱。或いは、騎士は悪の御旗のもとに…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
スカル=ガイスト(p3p008248)
フォークロア
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨
ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)
竜の狩人
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃

リプレイ

●悪の御旗に集う者たち
 とある村の地下墓地に、集うは数十名を超える老若男女。
 彼ら彼女らを睥睨し、血に濡れた鎧を纏った女騎士……オォルはにぃと頬を歪める。
 その手には1本の旗と1振りの剣。
「さぁ、悪の祭典の開幕だ! 諸君、今宵もおおいに殺し殺されようではないか」
 なんて、言って。
 彼女は剣を一閃し、手近な男の首を落とした。
 飛沫く鮮血は開幕の狼煙。
 絶叫、怒号、歓喜の声に震える空気。
「破滅を悪と定義したとして、悪を滅ぼすのが善とは限らない。むしろ俺自身が破滅を滅ぼす破滅、悪殺しの悪とも言えよう」
『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)の独白と銃声は掻き消され、誰の耳にも届かない。

「頼むぞ、アレクシア!」
「うん……こんな祭典、早く止めないと……!」
 小柄な女性が集団の中を駆け抜ける。彼女の手首でブレスレットが淡い燐光を撒き散らす。彼女の名は『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)。
 回復術の行使を察知し、オォルの付近に控えていた4名の“大罪人”がアレクシアへと視線を向ける。そのうち1人の眼前にマルク・シリング(p3p001309)が躍り出た。
 両の手に持つ杖を駆使して、大罪人の振るった剣を受け止める。
「死なせはしない。まだ助けられる。命も、心も!」
 直後、マルクを中心に眩い閃光が吹き荒れた。その光を浴びた大罪人や咎人たちは、姿勢を崩す。その隙を突き『純然たる邪悪』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が【慈術】を行使。
「まず、ある程度咎人の数を減らさないと厳しいわね
 メリーを中心として展開される魔力の波動が咎人たちを脱力させた。思うように体に力が入らないのか、中には武器を取り落とす者もいる。
 そういった者を狙って、別の咎人は自身の武器を振り上げた。同じ集団に属しているとはいえ、彼らは“悪の旗”によってその在り方を狂わされた者たちだ。
 彼らにとって弱者は守る対象ではなく、絶好の獲物なのである。
「……善だけの世界を求めるも、悪のない世界を求めるのも、理解できないわけではない。しかし、これ以上これ以上、誰でもない誰かの死を紡がせるわけにはいかないな」
 振り落とされた咎人の剣を『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)が受け止めた。直後、閃光が奔る。
「なに、お前たちはきっとまだやり直せるさ」
 咎人たちの手がこれ以上血に濡れないように、グリムは彼らの意識だけを奪い取る。

 大罪人の脇腹に、まったく同じ軌道で射られた2本の矢が突き刺さった。血を吐き、よろける大罪人の視線が周囲を彷徨うが、矢を射た者の姿は見えない。
 それもそのはず、射手である『深緑の弓使い』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)は大罪人から遠く離れた場所にいた。
「あいにく俺は加減が効かなくてな、なるべく殺さないように気をつけるが……」
 とはいえそれは咎人相手の場合である。元より凶悪犯である大罪人に対しては、そこまでの配慮は必要ないとそう判断し、ミヅハは次の矢を番えた。
 追撃が大罪人の膝を穿った。膝の皿が砕け、地面に膝を突いた大罪人の眼前に2刀を構えた『無銘の刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が接近。青い外套を翻しながら、鋭い斬撃をその胸部へと叩き込む。
 倒れる寸前、血の泡を噴きながら振り下ろされた大罪人の斬撃が、ルーキスの頬から胸にかけてを深く抉った。
「……よぉ、人ぉ斬るのは、気持ちいいよな? その感触が忘れらんなくてよぉ、寝ても覚めてもそのことばかり考えてた。お前も……きっと、いつか……そう、なる、ぜ」
 なんて、掠れた声で言い捨てて大罪人は息絶える。
「たしかに、善と悪は表裏一体。人は誰しも何かのきっかけで“反転”する可能性があるのだと思います……勿論、自分も含めてですが」
 血を吐きながら、苦しみながら、けれど笑って逝った男の表情はルーキスの胸にほんの一滴、黒い影を落とすのだった。

 『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)は咎人の肘を掴んで捻る。
 ゴキ、と鈍い音。次いで男の絶叫が響いた。
「大人しくしていろ。その方が身のためだ」
 関節を外され悶える男を端へと転がし、スカルはオォルへと向き直った。その手に握った愛銃『杭打ち機』の調子を確かめて、彼は静かに言葉を紡ぐ。
「さて、本命だな」
 かつてダークヒーローとして、彼は多くの助けを求める人々の声に応えて来た。
 そして、それと同じぐらい多くの人々に恨まれた。
 どうして家族を救ってくれなかったのか。
 どうして私が殺されなくてはならないのか。
 ヒーローなんて、結局は暴力を行使して他者の在り方を否定するだけの存在じゃないか。
 怨嗟の声が彼の脳裏に響いて止まぬ。精神を揺さぶられる不快感。
 それはきっと、オォルの持つ〝悪の旗〟の呼び声だ。
「1つ忠告なんだが……自身を正義だと言いそれを振りかざす者も、自身を悪だと言いそれをひけらかす者も、結局はただの厄介者だと思うがね」

●正義と悪は糾える
 彼女……オォルはかつて騎士だった。
 弱者のために剣を取り、あまねく全ての不幸を払う。
 そんな彼女の在り方を変えたのは、たった1度の凄惨な任務と、そして1本の旗だった。

 繰り出される斬撃をスカルは黙って受け流す。腕が斬られ、腹部を抉られ、頬を裂かれ、その身が紅に染まっても。
「どうした? 反撃もしないまま、斬られ続けるつもりか? まさか手をあげる気はないから剣を降ろせ、などと言うつもりではあるまいな? 言っておくが、そちらが無抵抗を貫くのなら、せいぜい嬲って殺すだけだぞ!」
 哄笑と共に振るわれる剣筋は荒い。けれど、踏み込みもタイミングもしっかりとしたもので、なるほど彼女が騎士となるべく鍛え続けて来た技に、実践的な要素が加わった“使える”武技と化している。
 この場合の“使える”とは、より効率的に人を壊せるということだ。
 つまり……。
「っぇい!」
 スカルが回避したのに合わせオォルは素早く旗を振るう。スカルの視界を黒い旗が覆った直後、下方から繰り出された突きがその脇腹を貫いた。
「ぐっ……オォルよ。自身を悪だと言い、その上で悪を排除しようとしているのなら、何故自決しない?」
「知れたこと。アタシもっともっと多くの……多くの悪を、あまねく悪をこの世から……あ? あぁ、いや。そうだ。もっと大勢、殺すためだ!」
「……そうか。アンタは悪には程遠いな。せいぜい“悪党”辺りにしておくのを勧めるがね」
 腹部を貫く剣を引き抜き、スカルは1歩前へと進む。オォルの腹部に杭を撃ち込み、その身に髑髏の呪いを刻んだ。
 舌打ちを零し、オォルは鋭く蹴りを放った。弾かれたスカルがよろめいた瞬間、オォルは大上段に剣を振り上げる。
 けれど、その剣が振り下ろされることはなかった。
「一つだけ言わせてもらうぞオォル。お前の選んだ道は間違っていた。それでも、悪が無くなってほしいという希望自体は正しかっただろうがな」
 オォルの剣を止めたのは、盾を掲げたグリムであった。
 その背には深い裂傷が刻まれている。複数名の咎人により集中攻撃を受けたのだろう。流れる血は止まらず、グリムの足元に血だまりを作る。
 剣と盾とがせめぎ合う。
 直後、盾の裏からしゅるりと伸びた魔力の糸がオォルの手足に巻き付いた。
「なんだこれは?」
「お前の掲げた正義をこれ以上汚させるのもしのびないのでな……ここでお前を打ち倒すための布石だとでも思ってくれ」
「……あぁ、そうか!」
 オォルの押し込む剣戟に、さらに一層の力が籠る。
 瞬間、グリムは腕に込めた力を抜いた。支えを失い倒れるオォルの右肩に、2本の矢が突き刺さる。
 遥か遠くよりミヅハの放った【ロビン・フッド】だ。思わず剣を取り落としたオォルの視線が、まっすぐミヅハの姿を捉えた。
「さっさと旗ぶん投げて正気に戻れっての!」
 オォルの視界から逃れるように、ミヅハが移動を開始する。狙撃手が同じ場所に留まり続けることはないのだ。けれど、そんなミヅハの進行方向に酒瓶やゴミが次々と投げ込まれるではないか。
「鬱陶しいな、もう!  オォルも助けてやりたいが、まずは咎人をどうにかすべきか?」
 蹈鞴を踏んで立ち止まったミヅハの周囲に、武器を手にした咎人たちが駆け寄っていく。

 オォルがよろけたその瞬間、それを見ていた大罪人の1人が叫んだ。
「へっ、押されてんのか? 今なら俺でもヤツを斬れるかもしれねぇ。おい、雑魚ども! チャンスだぜ!」
 彼の言葉に息巻いた咎人たちがオォルへ向かう。その進路に割り込んだルーキスは2本の刀を閃かせ、大罪人たちの動きを止める。
「そうはさせん。……俺は、彼女に生きてほしいと思うのでな」
「あぁ? 生かしてどうする? あいつが何人殺したと思ってんだ? どうせいずれ、アイツは捕まって処刑だぜ?」
 そういって大罪人は剣を振るった。その剣を受け流し、牽制の突きを放ちつつルーキスはしかと大罪人を睨みつける。
「だとしてもだ。過去は消せない。けれど、捨てる必要もない。これからは自分の過去と未来に向き合って生きてほしいと俺は思う」
 一閃。ルーキスの剣が大罪人の胸部を裂いた。
 胸から零れる血を押さえ、大罪人はにやりと笑う。
「きれいごとだな。過去に犯した罪ってやつは、死ぬまでついて回るもんだし、死因もだいたいそれ関係さ」
 そう呟いた大罪人の背後から、数名の咎人が斬りかかった。その対象はルーキスでなく大罪人だ。背を刺され、血を吐きながらも大罪人は咎人たちを斬り捨てる。
「こんな風によ……俺ぁ散々殺したからな。こうしていつか俺の番が回ってくるんだ」
「生きてほしいと願うのも、エゴだと言われればそれまで……ですが絶望だけで終わるのは余りにも悲しい」
 刀を返してルーキスは大罪人へと迫る。みね打ちによりその意識を奪うつもりなのだろう。けれど、その直前……ルーキスの背後から放たれた魔弾が大罪人の胸を穿った。
「だったら私に殺害されても文句なんて無いわよね?」
 物言わぬ死体に向けて、そう告げたのはメリーであった。
 淡々と。
 小柄な少女のやりようはあまりに慈悲のないものだった。そんなメリーにルーキスはきつい視線を向ける。
「何? 言っておくけど、仲間割れをしている余裕なんてないよ」
 そう言ってメリーはルーキスの背後へ近づいた。2人に向けて、咎人たちが集団で襲い掛かったからだ。
「咎人とオォルは不殺でしか攻撃しないから安心してよね。わたしは別に皆殺しにしてもいいんだけど、お優しい仲間のためにそうしてあげる」
 
 混戦の最中、マルクとアレクシアは墓地の端へと追いやられていた。彼ら自身は回復術を持つこともありまだまだ戦闘は続けられるが、不殺を信条としているがゆえ、その攻勢は散発的なものとなる。
 一方で2人の大罪人をはじめとした参加者たちの猛攻は、確実に2人を傷つけた。
 額から零れる血を拭い、マルクは唸る。
「人の本質は悪……人は弱く、些細なきっかけで悪の道へと流されてしまう事もある、か」
 咎人たちの多くは、元は一般人だった。それが“悪の旗”の影響を受け、このような祭典に参加し、他者を害して笑っているのだ。
 放った閃光により咎人たちの意識を飛ばし、マルクは視線を背後へ向ける。
「もう!  みんなも! オォルさんも! 正気に戻ってよ!」
 声を張り上げアレクシアは呼びかける。彼女の声は怒声と嬌声、剣戟に音に飲み込まれ誰の耳にも届かない。
 叫びながらもアレクシアが行使した【調和の壮花】が淡い燐光を撒き散らす。溢れた魔力が形成するのは白黄の花。どこか甘い香りの漂う暖かな風がR.R.の傷を癒した。
 血の滲んだ包帯は、一部が破れ死人のごとき灰色の肌が覗いている。
「正義を掲げた哀れな破滅に、アンタの声は届かない。少なくとも、今はな」
 アレクシアの肩に手を置きR.R.はそう告げた。
「彼女の運命が今から少しでも違っていれば、きっと輝かしき騎士として名を成しただろうが……」
 構えたマスケットを前へと突き出しR.R.は引き金を引いた。
 放たれた弾丸は、まっすぐ宙を疾駆して大罪人の額を穿つ。飛び散る鮮血を浴び、熱狂する咎人たち。
 どこか悔しそうな顔で、マルクはそのうち1人を杖で昏倒させた。
「~~~っ!!  届かないとは言わせない! 私は誰かを助けることができる人をたくさん見てきた! そして私もそうなりたいと願った! だから私は助ける! 絶対に!」
 回復術の発動準備を整えながら、アレクシアは駆け出した。咎人や大罪人の注意を少しでも自身に引き付けるために。

●正義であろうとするならば、そこに悪は欠かせない
 瞳に溜まる涙を拭い、アレクシアはひた走る。
(人の業だとかなんだとか屁理屈こねて! 自分の都合のいいことだけ言って“人は悪だ”なんて!)
 誰かを虐げる人がいれば、救う人もいるだろう。
 利益を度外視して誰かを助ける人もいるだろう。
 彼女はそうなりたいと願い、けれどまだそれだけの力を彼女は持たない。けれど、それを成せる者がいるのなら、オォルに手を差し伸べられる者がいるのなら、それは自分でも構わない。
 振るわれた剣がアレクシアの肩を抉った。
 その咎人をR.R.が銃の底で打ちのめす。
「人の本質が悪なら、善であろうとする事もまた人の本質だ。大丈夫、オォルはまだやり直せるよ」
 マルクの言葉に背中を押され、アレクシアは魔力を開放。彼女を中心として咲き誇る無数の花が暗い地下墓地に色を灯す。
「……破滅を招く悪の旗、一切の塵も残さず滅べ!」
 銃声が響き放たれるは呪われた魔弾。R.R.の放ったそれはオォルの握る“悪の旗”の柄を撃ち抜いた。

 唇から零れる血を拭い、メリーは掠れた声で呟く。
「ねぇ……やっぱり皆殺しにした方がよかったんじゃないの?」
「これは俺のエゴかもしれない……けれど、少しでも多くの人に生きてほしい」
「そう。それだけ傷ついても、貴方はそう言うのね」
「お互い様でしょう」
 言葉を交わすルーキスも全身に無数の裂傷や打撲を負っている。咎人たちの猛攻に晒された2人は【パンドラ】を使用して戦闘を続行している状態だ。
 その甲斐もあって、咎人たちの多くを無力化することに成功したが……。
「傷だらけだな。俺が楽にしてやろう」
 最後に残った大罪人が細身の剣を掲げて迫る。
 弱っている2人を狩るために、これまで後方から様子を窺い続けていたのだ。そんな大罪人の腹部をメリーの魔弾が撃ち据える。よろけた頭部をルーキスが剣の柄で打った。

 大上段から振り下ろされた1撃がスカルの肩を深く抉った。血を吐きよろけるスカルの前にグリムが駆け込み、オォルの追撃を盾で受ける。
「ちぃっ! さっきから鬱陶しいな、貴様は! 盾持ち風情がでしゃばるな!」
 オォルの蹴りがグリムの身体を後ろへ弾く。よろけたグリムへ剣を向けるが、そんなオォルの背後から、スカルはその肩へ手をかける。
「……アンタはまだどこかで正義でありたいと思っているんだろ」
 ミシ、とオォルの肩が軋む音。剣を振るおうにも位置が些か悪すぎる。
「寝ていた方がいいんじゃないか? 血塗れだぞ、貴様」
「あぁ、重症だな。だが、構わない。俺が倒れる前にアンタを倒せばそれでいい」
「何だと?」
 訝し気な表情を浮かべたオォル。その視界の端で、きらりと一瞬何かが光った。
 それは1本の矢であった。
 宙を疾駆し迫るそれを斬り落とすべく、オォルは剣を握り直すが……。
「そうはさせない」
「き、貴様っ!」
 その剣をスカルは素手で掴んだ。スカルの手から血が溢れるが、剣はピクリとも動かない。
 そして、次の瞬間……。
 放たれた矢は旗の柄へ……R. R.の銃弾が撃ったその場所を、正しく射貫いてみせたのだった。
 砕けた旗が地面に落ちる。
「あ、あぁ……」
 燃える旗を見つめながら、オォルは呻く。どこか虚ろだった彼女の瞳に光が戻り、滂沱と涙が溢れ出す。
「たとえ人のココロに悪があろうとも、それが人の業であろうとも、正しく生きようとすることは、善人であろうとすることは悪なんかじゃねぇだろ?」
 そう呟いたミヅハの声は、オォルの耳に届かない。

 地下墓地に残る人影は2つ。
「こんな小さなものですまないな。だが、誰でもない誰かであるお前達の名はしっかりと墓標に刻み込んだ。だからどうか善も悪も無い空にて安らかに眠ってくれ」
 墓の下に眠るのは、此度の騒動で命を落とした者たちだ。
 それからグリムは、墓の真ん中に座り込んだオォルへと言葉を投げる。
「それで、アンタはこれからどうするんだ? 悪だけの世界でも、善だけの世界でも、人は生きていけないと知ったのだろう?」
 そう告げるグリムの手には鮮血で形成された赤い棘。
 虚ろな瞳でそれを見つめ、オォルは告げた。
「私は多くの命を奪い過ぎた……今更、どうすることも、できない」
 それは懇願だっただろうか。
 グリムは静かに言葉を返す。
「……せめて、俺だけは覚えておこう」

「彼女は?」
 地上にあがったグリムに向けて、スカルはそう問いかけた。
 グリムは空を、朝日を眺め言葉を紡ぐ。
「眠ったよ。ゆっくりと、静かに」

成否

成功

MVP

グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
孤独の雨

状態異常

スカル=ガイスト(p3p008248)[重傷]
フォークロア

あとがき

お疲れ様でした。
悪の旗は破壊され、騎士オォルはその支配から解放されました。
彼女はもうこれ以上苦しむことはないでしょう。
依頼は成功です。

この度の依頼、ご参加ありがとうございました。
お楽しみいただけたなら幸いです。
また機会があれば別の依頼でお会いしましょう。

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