PandoraPartyProject

シナリオ詳細

正義と悪は同じ香りを纏って

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ダリア

(あ、いい匂い──)
 ブラブラと当てもなく街を歩いていた少年・チャーリーは、思わず立ち止まった。
 誰も気付かないような、うす暗い路地から漂う何かの香り。
 こんな路地あったかな? ──暇に任せて入り込み、ずんずんと奥へ進む。
 開けた場所には、一軒の小さな家と、色とりどりの花が咲き誇る小さなガーデン。
「あら、お客様なんて珍しい」
 流れる赤髪が美しい少女が振り向いた。優しく微笑む彼女に一瞬で目を奪われた。
「あ……ちょっと、道に迷っちゃって」
 ぽりぽりと頭をかいて、そう答えた。

 彼女はバトルシスターと呼ばれる気高いひとだった。
「この街の人を悪意から助けてあげたい──私の願いは、それだけです」
 そう小さく微笑む彼女こそ、騎士団や自警団が手に負えぬ魔物や盗賊団などを処理する強力な一個人なのだった。
 世は全て事も無し。だけれどそれを退屈に思う自分も居る。
 彼女との出会いはまさしく少年にとって青天の霹靂であり、しかしそれを恋と呼ぶにはまだ早いようで。甘酸っぱい時間は無為な時間を惰性で生きてきた彼を大きく変えた。
 いつしか彼女のもとに行くのが楽しみになっていった。
 長いようで短い期間が過ぎていった。ひととせが過ぎるころ、チャーリーは騎士団に入る為に猛勉強と鍛錬を始めていた。少年は力を持たぬ凡人に過ぎなかったが、彼女を守ってあげたいと思ったから。

 ある時の話だ。
 彼女の家の花壇に水をやりにくるのがチャーリーの日課になっていた。
「よし、こんなもんかな」
 汗を拭って、立ち上がる。さわやかな初夏を感じさせる日の事だった。

「チャーリー」
「えっ。あ、ダ、ダリア!?」
 背中にふわりと優しい感触。抱きつかれたと分かり、思わず声が上ずった。
 名前を呼ぶ彼女から、淑やかなホワイトカメリアの香りがした。
「チャーリー。一生、私と一緒に居てくれませんか?」
 上目遣いで見上げる少女に、心臓の鼓動が高鳴る。
「え、ダリア、それってつまり……」
「だめですか?」
「……こういうのは男から言わせてくれよ」
 困ったように笑って、少女の肩をしっかりとつかんで、少女の目を見据えた。
 アメジストのような瞳が、まっすぐこちらを見ていた。
「俺も君が好きだ、ダリア! 一生、君の傍にいるよ」
「あはっ……ありがとう、チャーリー」
 へにゃりと安心したように笑ったダリアを、大切にしたいと思った。
 彼女が後ろ手に隠していたのは、何だろうか。
 花束かも。もしかして、指輪だったり──。
 幸福で満たされた少年は、そんな事を考えていた。だから、避けれなかった。

「じゃあ、死んで」
 ぶうんと重い風切り音が聞こえた後、激痛が頭を揺さぶった。
「がっ……ぐうあああ!!!」
 地を転がる。頭を何かで殴られた。赤に染まる視界。痛みに悶えながら、彼女を見上げた。
「あはははっ。楽しい。頭蓋を砕く瞬間は心が躍りますわ」
 けたけた笑うダリアの手に握られているのは、少女の小さな手に似合わぬ武骨なメイスだった。
「なっ、なん、なんで……」
「生身の身体じゃずっと一緒にはいられませんよ? だいじょうぶ。叩いて砕いて躪って磨り潰した後、このガーデンに埋めてあげますから。そこからね、とってもきれいな花が咲くんですよ。そうしたら、わたしがサシェを作って──ほら、そうしたらずっと一緒」
 少女はうっとりとした眼を向けた。何を言っているか、全く理解できない。
 ──いや。分かったことは、ただひとつ。
「おまえ……その香り……殺した人を埋めた花壇で育てた花の……」
「はい。これは、ジェイコブが咲かせたホワイトカメリア。私が愛した29人めのひと」
「ふっ、ざ、けんな……!!」
 喉から熱いものがこみ上げる。
 こいつは、こいつは、とんだ化物だ!
 今まで『カワ』を被っていただけだ! 俺を殺すために、今までだまし続けていたんだ!!
「サシェは、摘んだ花をぐしゃぐしゃに叩いて、砕いて、躪って、磨り潰すんです。ヒトの殺し方と、全く同じ。ごめんね、チャーリー。私、それしか出来ないのですよ。ポプリなんてきれいな作り方、出来ないの。ごめんね」
 そうやって謝る少女は、本当に『自身のその後』が気に食わないから拒絶されているのだと本当に思っているようで。
「そんなの知るかよお、なんでだよ、悪い奴なんかたくさん居るだろ! そいつらを殺せばいいだろ!? くそっ、なんで、なんで俺なんだよ!! 俺が何したってんだよッ!」
「だめですよ。そんな小悪党のけがれた命じゃきれいな花は咲きません。ねえ、逃げないで、チャーリー」
「狂ってる……おまえ狂ってるよッ!!」
 叫びも虚しく。彼女の歩みは止まらない。助けも来ない。ただ、細められたアメジストの眼が美しかった。
「花を慈しむダリアも。殺しを楽しむダリアも、どちらも同じ『私』なのですよ。正義のために殺すのも。私の為に殺すのも。一つの命が消える理由は、どちらも同じということ」
 壊れた理論は彼の耳に届いただろうか。いいや、きっとそんな事はどうでもいいのだ。
 チャーリーは『悪人』であった。幼気な少女に乱暴した『悪漢』だった。殺す理由なんていくらでも作れるのだから。彼女の言う事を疑う者なんて誰も居ないのだから。
 彼女は清廉潔白な、けなげに戦う乙女であり続ける。昔も。今も。
 そうして、血濡れたメイスが無慈悲に振り下ろされた。
「チャーリー。貴方はどんなきれいな花を咲かせるのか、今から楽しみですよ」
 甘い言葉を紡いだ彼女から、裏切りを思わせるホワイトカメリアの香りがした。

NMコメント

 りばくると申します。
 表の顔と裏の顔、その二面性。
 相談期間は短めです。ご注意ください。宜しくお願い致します。

●成功条件

 シスター・ダリアの殺害。
 彼女を野放しにすれば、被害者はこれからも増え続けるでしょう。
 少年・チャーリーは助けられません。イレギュラーズが駆けつけた時点で既に死亡しています。

●シチュエーション

 街中のひっそりとした路地のなかの奥の奥にある小さな花園。
 戦闘場所は屋外なので超遠距離スキル等にマイナス補正はかかりません。
 花壇は障害物として活用は難しいでしょう。また、家を破壊するほどの大規模な攻撃を加えるなどあまりに派手な戦いをしてしまうと不審に思った街人や騎士団などが現れてしまう場合があります。

●エネミー

【ダリア】
 魔物や盗賊団などから民を守る為にメイスを振るう、バトルシスターの少女。
 街や民を守りたいと思う気持ちは本物ですが、反面何かを壊して殺す事に快楽を覚えるという強烈な二面性を持ち合わせています。
 物攻・神攻が高い両面ビルド。高物理で至近攻撃を放ち、高神秘による回復スキルを行使します。また、毎ターン【恍惚】を与える危険なパッシブスキルを持ちます。

・甚振(物至単:【乱れ】【足止】【麻痺】)
・鎧砕(物至単:【弱点】【ショック】【ブレイク】)
・祈り(神自単:HP回復、【BS回復??】【治癒】)
・ホワイトカメリア(パッシブ。毎ターン開始時、BS抵抗判定に失敗した全員に【恍惚】を与えます。)

 以上。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 正義と悪は同じ香りを纏って完了
  • NM名りばくる
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月15日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
春宮・日向(p3p007910)
春雷の
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ

●全てのものは自然に生まれた瞬間は善である。人間の手に渡った時それは悪となる。

 暗い暗い路地裏を抜けて。
 辿り着いたその先で足を止めた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)が見たのは、日光降り注ぐあばら家と、そぐわぬ美しき箱庭。
「……間に合わなかったか」
 倒れ伏す少年の血溜まりが、しとどに地を濡らしている。
「あら──こんな時にお客様かしら。それも、四人」
 足音を聞き、赤髪の少女・ダリアが振り向く。細いが良く通る声を投げかけ、紫瞳がゆっくりと細められる。
「なんて凄惨な……」
 口を手で覆う『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は、絶句した様子で言葉を漏らした。
「彼を助けられなかったのは不徳の致すところです。彼の為にも──いえ、あなたが手にかけた人々すべての恨みをここで晴らしましょう」
「……あなた、何処まで知ってるの?」
 怪訝そうな顔をする少女。本家様──睦月──の前に立つ『春雷の』春宮・日向(p3p007910)が、それを聞いて至極明るく軽口を飛ばした。
「全部知ってるよーん。たまに目に映るものぜんぶはちゃめちゃに壊したくなるよね、わっかるーう! だからってあーたはやりすぎだわー」
 表情はにこやかに。その目は笑っていない。
 ダリアも同じく微笑んでいる。その目は──。日向は最初から分かっていたように、拳を握った。
「貴方達が何者かは分からないけれど──そうですわ。街に入り込んだ賊。悪党。そう『処理』しましょうか」
 ダリアの言葉に、『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)がくすくすと笑った。
「あらあら。ふふ……良いですね。正義漢と悪党なんて物は驚くほどに似ています。そう……ただ単に見た目が整っているかどうか、その違いだけ」
「……取り繕うのが上手なのね? あなたも」
「ええ、ええ、ええ。『同じ』ですとも。貴女が正義のために殺すのも。貴女が楽しむために殺すのも」
 金の為にお前を消すのも。
 ライがゆっくりと銃を向けた。それを合図に、音もなく戦いが始まる。
 白い鳥が、飛び立った。

●善を成すには努力が必要である。しかし悪を抑制するにはそれ以上の努力が必要である。

「この香り……気をつけろ、皆」
 世界が思わず鼻を覆う。うっとりするほど匂い立つは死花の香り。
 これに気を取られた者は、文字通り彼女の『餌』となったのだろう。
「ライ、合わせるぞ」
「ええ」
 ライと世界、二人の魔術がダリアの身体を内側から蝕む。或いは、喪われた人々の呪いの具現化。
 動きが鈍った時を見計らって、睦月の背中から神通力による光の翼が翻った。鋭利な白羽がダリアの頬をかすめる。睦月の力で、カメリアの香りによる精神異常を祓っていく。
「ダリアさん、いったいなにがあなたをそのような狂気に駆り立てたのですか。あなたの信じる神は己の享楽のために人を殺して良いとでも啓示をあたえたのですか?」
 そう投げかける睦月に向かって、振るわれるメイス。それを日向が横から割り込んで拳で受け止めた。みしりと少女の細い腕がきしむ。
「ひなた!」
「本家様、下がっててー」
 距離を取るようにステップを踏むダリア。華麗な動きは、闘い慣れたそれを思わせる。
「神様の啓示にそのようなものはありません。人の為に生きよ、たったそれだけ。だから私は身を粉にして、人の為に生きています。なら、『私』は? シスターとしての私は人の為に。でも、私という個人の意思は無視されている。私がしたい事と反している。代償無くして人は動きません。ほとんどの人は対価としてお金を求めるでしょう? 私は、人の命が欲しかった」
「理由が何だろうが関係なーし、容赦もなーし!」
 かぶせるように、日向が一歩踏み込んだ。全力の魔力を乗せた重い一撃。
「あーたは、死んでいいタイプだわ!」
 ダリアの細い身体が折れたように曲がり、げほっ、と血を吐いた。
「それは、きっと生贄。尊い犠牲の上に成り立つ平和を思えば安すぎる代償ですわ」
 お返しとばかりに振るわれたメイスが日向を吹き飛ばす。
「お前が死んだら、この町はどうなる」
 傷ついた日向の傷を癒しながら、世界が問う。
「『後任』が来るまで、賊や魔物の襲撃に晒される事になりますね。私が死ねば、もっと多くの人が死にますよ」
「……貴女を消しても、放置しても、どちらにせよ此処の人たちは危険と隣り合わせという事ですね」
 拳銃が吼える。呻き声すら残さぬ死の刹那。それが慈悲。
 研ぎ澄まされた集中力から放たれる銃弾が、ダリアの修道服に赤色がにじませる。
「これからの人生ずっとずっと、無償の愛と労働を強いられる。それに見返りを求める事が、悪い事なのでしょうか?」
「……ったりまえじゃん? 悪は栄えた試しなし! ライたん、世界っち、援護よろ!」
 悪の華、魔王などと呼称された日向はそれでもまっすぐ、折れることなく生きてきた。
 彼女のような姑息な道は選ばない! 傷だらけになっても立ち上がり、ダリアの元へと走っていく。
「だからと言って、こんな悪徳を見逃すわけにはまいりません!」
 睦月の放つ福音が三人の傷を癒した後、そのまま恍惚の香りを打ち消すべく、攻撃に転じた。
「サシェの香りが私の鼻を擽るたびに、私は一人じゃないと感じられました。29人、いいえ、チャーリーを合わせて30人のひとが、楽しい時に一緒に居てくれました。苦しい時に一緒に戦ってくれました」
「勝手に付き合わせた癖に良く言う。そいつらは、そんなつもりなんか無かっただろうが……!」
 白蛇を虚空の魔法陣から召喚した世界が叫んだ。
 白蛇は少しずつ、少しずつダリアの力を奪う。彼女の苦し気な表情に、効果的な攻撃であると確信する。
「私は優しいシスターですから。苦しいのなら、慈悲を与えてあげますよ」
 なおも微笑みを崩さぬ、硝煙纏うライの言葉には多分の嘘に塗れている。
 きっと、ダリアは彼女のそれに気付いていて──身を任せたのだろうか。
「ああ……」
 けほ、と血泡を吐いて倒れたダリアが、ぽつぽつと言葉を残した。
「寂しい……皆、死ぬ前にこんな孤独感を味わっていたのですね」
 臥せるダリアの瞳を覗き込んだ一瞬、睦月の脳裏に流れ込んだ情景。
「ごめんなさい……」

 身寄りのない赤髪の少女の生きていく唯一の術が、殺す事だった。
 食う為に殺し。幼い身体に汚い手を伸ばす者を殺した、その果て。
 殺す事を娯楽だと思わねば生きていけない程の、幼い少女には過酷すぎる人生──。
 そうなるべき理由があったのかもしれない。
 それでも──。

「……さあ、悔悛の時間です。命は、命で贖ってください」

 明るい陽光照らす中、少女の命は風に舞う花弁の如く散った。

●正義と悪は同じ香りを纏って

 ──いつか私が壊れてしまう前に、書き残しておきます。──
 ──もしも全て忘れて、私が私でなくなってしまったら。──
 ──あの人が大事にしていたあの花を、どうか見つけて。──

「……あるときは正義の為に、またあるときは私欲の為に力を振るうか……だが考えてみれば、程度の差こそあれど誰しもがそんなもののような気もするな」
 世界がダリアの家から見つけたのは、擦り切れた日記帳だった。きっちりと30人分、愛の日々が綴られている。
 人は常に善行を行いたいと思う同時に、悪に手を染める事に快感を覚える生き物だ。そんなものなのだと。
「命を奪い続けるうち、正常性が失われていくものだ。彼女が花を育てていた理由は──彼女自身が壊れないための大事な要素だったんだろうな」
 そう言い残した世界は、ライに日記を渡す。
「ふっ……」
 くだらないとたった一言、そう唾棄しないだけの情けは彼女にもあっただろうか。
「うおおおーー!」
「日向さん。勢い余って壊さないようにお願いしますね」
 日向がスコップでガンガン土を掘り返していく。出るわ出るわ、白骨化した死体の山。
 ライはその少女の日記を読み返し、花壇に埋められた被害者達の照合を行う。
 幸い、被害者のスケッチのようなものが日記に描き込まれていたため、骨格から被害者を割り出すのに苦労はしなかった。

 ──私が初めて愛した人。あなたが好きなダリアの花が羨ましい。私はダリアになりたい。──
 ──人はいつか死んでしまうでしょう。私もいつ死ぬか、分からない。だから──
 ──貴方も、ダリアになればいいのに。そうしたら、一緒に居れるのに──

「……」
 読み返す日記は、反吐が出るほどの幼い言葉が並べられている。
 ライにそんな少女が抱くような甘ったれた趣味は無い。けれど。
(貴女のその二面性。ええ、ちょっとだけ──親近感がありましたよ)

「よっしゃー! 全部掘り起こしたどー!」
「ひなた、お疲れさま。あとは僕に任せて」
 汗だくでガッツポーズを決める日向に、ぱちぱちと拍手を送る睦月。
 並べられた骨に、睦月は膝を折って静かに祈りをささげた。
 きっとそれが、被害者の救いになると信じて──。

 組まれた指。眠るように逝った少女の最期。4人の答えは、それぞれ一致していた。
「んじゃ、埋めよっかー」
「日向さん。力仕事は任せましたよ」
「あんまり無理しないでね、ひなた」
「……まあ何にせよ、次の後任とやらがまともな事を祈ろうか」
 眠る少女に、土がかぶせられていく。
 やがて彼女はすっかり見えなくなって、元通りの花壇に戻っていく。
「けがれた命じゃきれいな花は咲かないだっけか……仮に本当だとしたら、きっとシスターにお似合いの花が咲くだろうさ」
 
 ──望みが叶うなら。きれいな花になりたい。──
 日記の最後は、そう締めくくられていた。
 小さな願いを叶えたイレギュラーズは、誰の目に付く事も無く去っていく。
 
 少女の希望が芽を出すまで、あと……。

成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM