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シナリオ詳細

unlucky you 或いは、悪党たちのお楽しみ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●禍福は糾える縄のごとし
 カムイグラのとある賭場。薄暗い部屋に蝋燭の明かり。視線を下げた男が数名。
 誰かがゴクリと喉を鳴らした。
 男たちの視線の先には、諸肌脱いだ妙齢の美女と、その手元にある小さな壺。
「…………揃いました」
 ツボ振りの美女は静かに告げて、男たちの顔を見回す。男たちの手元には「丁」或いは「半」と書かれた木札が置かれている。
 さらにその前には色の付いた木札……賭け金の代わりなのだろう……が積み上げられていた。
 男たちの支度……または覚悟が決まったのを見て取って、美女はすぅと息を吸い込む。
「勝負!」 
 ゆっくりと美女はツボを引く。畳に残る賽子が2つ。どちらも「1」の出目である。
 つまりそれは「ピンゾロの丁」。
 歓声が、或いは落胆の声が上がる中ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は拳を握り笑みを浮かべた。
「よし! 今日はツいているな!」
 丁の目……つまり、2つの賽子の出目の合計が偶数であることにニコラスは賭けていたのである。
 分配された勝ち金の札を手元に積んで、ニコラスは笑う。
「お兄さん、ずいぶんと持ってるじゃないか」
 ツボ振り役の女が、呆れたような口ぶりでニコラスへと話しかけた。見れば、ニコラスの手元には山と積まれた札がある。
 賭場に入って数時間、今日の彼はかつてないほどツいていた。
「あぁ、今日はいい日らしい。ま、長い人生だ。時にはこういう日もあるだろうな」
「ふぅん? そりゃいいやね。兄さんったら、何もかももってっちまうんだもの。そんならついでにうちのヤクネタも持って行ってほしいもんだね」
「ん? ヤクネタ? なんだ、それは?」
「トランプって言うんだったかね。これがなかなかのものでさぁ、金の足りなくなった客から、身ぐるみと一緒に剥いでやったんだけどねぇ。後から曰く付きのものだと分かってさぁ大変。捨てたいところだけど、ちょっとおっかなくってねぇ。ほら、呪いの品を粗末に扱うのも、さ? 元の持ち主もその後おっ死んじまってるし」
「トランプか。それも“呪物”と……どんな呪いかは知らないが、生粋の博徒が後生保有していたもんだ。きっと俺らギャンブラーにとってみれば碌でもない災いの種に違いないだろうな」
 なんて、言って。
 顎に手を当て、ニコラスは呵呵と笑って見せた。

●災い転じたその先が、福であるとは限らない
 カムイグラのとある宿。
 店の片隅。偶然居合わせ、流れで同じ席を囲むこととなった男女が4人。
「はぁ……それで、そうまで言っておきながらついつい貰って来てしまったと?」
 きょとん、と瞳を見開いてヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)はそう問うた。
 彼女の視線のその先には項垂れたニコラスの姿。
「その様子からすると“呪い”は本物のようでございますね。なんとも、愚かな……と言いますか」
「……返す言葉もねぇ。いや、ギャンブラーとして、ついな。呪いが勝つか俺が勝つか、賭けてみたくなったもんでよ」
 そう応えたニコラスの前には、箱に入ったトランプが1つ。
 トランプを引き取って以降、それまでの豪運が嘘のように負け続けたのだ。身ぐるみを剥がされなかったのは「トランプを引き取ってくれたから」という恩があったからに過ぎない。
 それでも有り金は一文残らず毟られたのだが……。
「まさに“ヤクネタ”ですね。それで、そのトランプ、どうするんです? 持って帰って来たところを見るに、捨てられない事情があるのですよね?」
 琥珀色の酒を喉へと流し込み、マヤ ハグロ(p3p008008)はそう問うた。
 ニコラスは頭を掻いて、口の中で言葉を転がす。
「まぁ、これは後から聞いた話なんだがよ」
 曰く、そのトランプは持ち主が死ぬまで破棄できない。
 曰く、そのトランプの持ち主は不幸になる。
 曰く、そのトランプには怨霊が憑いている。
 そして、通常の手段では破棄できないそうである。
「紙束の分際でぇ……なかなか生意気な呪いを有していますねぇ」
 鏡(p3p008705)の瞳が好奇に光る。
 ニコラスの話を聞いて、トランプに興味が湧いただろう。
 鏡の手が傍らに立てかけた刀へと伸びる。
 直後、シャランと鞘なりの音が静かに鳴った。
「……おやぁ?」
「無駄だって。俺だってそのぐらい試してみたさ」
 鏡の居合いを浴びてなお、テーブルの上のトランプには小さな傷の1つさえも付いていない。
「通常の手段じゃ解呪できないっていっただろ。呪いを解くには……遊ぶっきゃねぇ」
「……」
 3人分の呆れた視線がニコラスに向く。目が口ほどに物を語るとするのなら“まだ懲りていないのか”とそう告げていた。
「まぁ、聞けよ。このトランプに取り憑いてるのはジョーンズっていうギャンブラーの怨霊だ。そいつは賭け事に負けて、首を括って死んでいった。以来、怨霊として同じギャンブラーを呪い殺してやるために、トランプの持ち主に不幸をばら撒いてんのさ」
 と、それはニコラスが賭場に居合わせた霊媒師から聞いた話だ。
「呪いに負けず、遊んでいれば業を煮やして怨霊は姿を顕すはずだ。そこを……」
 握った拳を突き出して、ニコラスは笑う。
 生半可な者たちでは、怨霊のもたらす不幸に耐え切れず、早々に命を落とすだろう。
 怨霊の呪いに耐え抜いた場合だけ、ジョーンズの怨霊は顕れるのだ。

 かくして、ニコラスによって開催された遊戯会。
 新たに4人が面子として追加されることになる。
 宿に泊っていた者に、食事をとりに寄った者、偶然宿の前を通りかかった者。
「なるほどね……困っているなら、手を貸すよ」
 と、そう呟いてレオ・ローズ・ウィルナード (p3p007967)はトランプへと視線を向ける。
 偶然通りかかったところを、知り合いであるニコラスに呼び止められたのだ。
 そんなレオの隣では、驚いたような顔をしてシラス (p3p004421)が身を仰け反らせていた。
「おいおい、いいの? そんなに安請け合いしちゃってさ」
 呪われてるんだろ、と眉をしかめてシラスはそっとトランプをつつく。
 突いたからと、何かが起こるわけでもないが。
 そんなシラスの手元からノワ・リェーヴル (p3p001798)がトランプを取る。箱から出したそれをパラパラとめくりながら、口元に薄く笑みを浮かべた。
「そう嫌がらなくてもいいじゃないか。トランプで遊ぶだけだし、楽なものだろ?」
「……いや、それはそうだけどさ」
 ノワに借りのあるシラスとしては、そう言われてしまえば否定し辛いものがあり、返す言葉も歯切れが悪い。
 トランプを手繰るノワの手元を興味深げに眺めつつ有栖川 卯月 (p3p008551)は顎に細い指をあて、こてんと小首を傾げてみせた。
「失敗しても、私たちには何の影響もないのよね?」
「そうですねぇ。不幸になるのはニコラス君だけぇ……のはずですよぉ」
 そう答えたのは鏡であった。
「なるほどなるほど。だったら別に良くないですか?」
 なんて、卯月は言ってお行儀も良く卓につく。
「それで、何をプレイするんだい? ニコラスさんも長く呪われたままというのも大変だろうし、さっそくゲームを始めようよ」
 と、レオは問う。
 ノワの手からトランプを取り、ニコラスは「決まっている」とそう答えた。
「トランプでゲームったら、ポーカーだろ?」
 

GMコメント

●ミッション
ポーカーで遊び倒してギャンブラー“ジョーンズ”の怨霊をおびき出しましょう。
怨霊は非常に脆弱であり、簡単に討伐可能です。
怨霊が出現した時点で、もっとも勝っている人から順に【魔凶】【不運】【不吉】のBSが付与されます。
また、ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)はトランプの持ち主ですのでシナリオ終了時まで【呪い】が付与され続けます。


●ポーカー役(参考までに)
・ワンペア 
同じ数字のカードが2枚、1組だけあるもの。

・ツーペア 
同じ数字のカードが2枚づつ2組あるもの

・スリーカード 
同じ数字のカードが3枚あるもの

・ストレート  
5枚の数字が続き数字(J-11,Q-12,K-13,A-1とする。)であるもの。

・フラッシュ 
5枚のカードがすべて同じマークであるもの

・フルハウス 
5枚のカードが3枚の同じ数+2枚の同じ数という構成であるもの

・フォーカード 
同じカードが4枚あるもの
                         
・ストレートフラッシュ  
5枚とも同じマークで、続き数字になっているもの
         
・ロイヤルストレートフラッシュ 
同じマークで、10,J,Q,K,Aの5枚の役


●フィールド
カムイグラのとある宿屋。
食堂かもしれないし、遊戯室かもしれないし、誰かの借りている部屋かもしれない。

●その他
ローカルルールその他は皆さまでご相談ください。
せっかくなので、何か賭けてみるのも面白いかもしれませんね。
※何位狙いなのか、プレイスタイルはどうなのか、など書いていただけると助かります。

  • unlucky you 或いは、悪党たちのお楽しみ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月10日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノワ・リェーヴル(p3p001798)
怪盗ラビット・フット
シラス(p3p004421)
超える者
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
レオ・ローズ・ウィルナード(p3p007967)
青に堕ちる
マヤ ハグロ(p3p008008)
有栖川 卯月(p3p008551)
お茶会は毎日終わらない!
鏡(p3p008705)

リプレイ

●scommessa
 カムイグラのとある宿。
 人気の失せた遊戯室。
 各々手元にカードを広げ、ある者は挑発的に、ある者は不安そうな、ある者は愉悦に蕩けた視線を躱す。
「種目はジョーカーなしの5カードドロー。親は持ち回り制。レートは100-100-200。ゲームへの参加費が100ってことだな。んで、スモールベッドも100、ビッグベッドが200だ……まぁ、ゲームごとに2人が100と200を強制的に賭けさせられるってことさ」
 そう言って『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は100と記されたチップを弾く。各プレイヤーの手元にはそれぞれ5000分のチップが積み上げられていた。
 第1ゲームのディーラーはニコラスである。
「それとイカサマがバレたら1枚脱衣だったよね?」
「最後に一番チップの少ないやつが全員に今夜の飯を奢る約束も忘れないでくれよ」
 にぃ、と笑みを浮かべた『盗兎』ノワ・リェーヴル(p3p001798)とシラス(p3p004421)は揃ってニコラスへと視線を向ける。
 ノワがチップを1枚、次いでシラスが2枚のチップを卓へと置いた。
「コール。名だたるギャンブラーのニコラス様だけでなく、一癖も二癖もある集まり……おぉ、怖い怖い。どうかお手柔らかにお願いしますね?」
 ヒヒっと、不気味な引き笑い。ヴェールに口元を隠した褐色肌の美女が瞳を細める。
 彼女の名は『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)。イカサマがバレて脱ぐまでもなく、そもそもが薄着の占い師である。
「初心者だけどよろしくお願いします。えっと、コール、でいいのかな? ところで、カードの交換をするには山札の数が足りないんじゃないかな?」
 ルールを脳内で反芻していた『青に堕ちる』レオ・ローズ・ウィルナード(p3p007967)は、卓上のデックへ視線を向けてそう問うた。
「そういう時は、デックと捨て札を合わせて山札を増やすのよ。レイズ」
 レオの問いに答えつつ『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)は4枚のチップを卓へと投げた。左右へ素早く視線を走らせるのは、イカサマを警戒してのことだろう。
 続いて『お茶会は毎日終わらない』有栖川 卯月(p3p008551)も「コール」と言って4枚のチップを卓に差し出す。
「ギャンブルとしてやるのは初めてだからドキドキしちゃいますね」
「ふふ……いいですよねぇ、この緊張感。あぁ、私もレイズ……リレイズで」
 鏡(p3p008705)の手により8枚のチップが卓に置かれる。そうして鏡は手札を伏せて、胸の前で手を合わせた。
 それを見て卯月が「シャーロックホームズハンドね」と呟きを零す。
 両手5指の腹と腹を合わせるようにした独特のポーズを卯月が元居た世界では、そのように呼称していたようだ。
「あぁ、リレイズってのはそのラウンドで2回目以降のレイズのことだ。直前のプレイヤーのベット額に前回のレイズで上乗せした金額以上をベットするんだが、まぁ、不安なら倍額賭けときゃいいぜ」
 ルールに不慣れなレオに用語を解説しながら、ニコラスは8枚のチップを卓に出す。

●Notte di trucco
 呪われたトランプ。
 今回、ゲームに使用しているデックがそれだ。
 賭場でニコラスが貰ってきてしまったものである。
 結果、彼はトランプの呪いにかかってしまい、解呪のためにこうしてゲームに興じているのだ。

 席順はニコラスから時計回りに、ノワ、シラス、ヴァイオレット、レオ、マヤ、卯月、鏡。
 誰1人降りることなく1回目のベッティングラウンドは終了した。
 ドローラウンドではヴァイオレット、マヤ、レオが2~3枚のカードを交換。続く卯月は4枚の手札を卓へと捨てる。
「おやぁ? よほどに悪い手札だったのでしょうかねぇ?」
 なんてヴァイオレットの問いかけに、得意げな笑みで卯月は応えた。
「実は運ゲー、というかチャンスつかむのは得意なのよね。それに初戦ならイカサマを仕込む暇もないんじゃないですか?」
 卯月の視線はノワとシラスへ向いている。苦笑を浮かべてノワは軽く肩を竦めた。
「大した自信ですねぇ。あぁ、私はこのままで結構ですよ」
 相変わらずのポーズのままで、鏡はニコラスへ交換権を渡す。
「アンタも人のことを言えた義理かよ?」
 そう言ってニコラスは2枚のカードを入れ替えた。
「ギャンブラーと名高い君が随分と慎重に行くじゃないか?」
 ノワはカードを1枚交換。ニコラスは無言のまま言葉を返すことはなかった。2人の視線が交差する。
「どいつもこいつも楽しそうにしちゃってさ……あぁ、こいつは気合が入ってきたなあ!」
 バチン、と頬を打ったシラスは3枚のカードを入れ替える。
 2度目のベッティングラウンドでは、シラス、ノワがコール。
 ヴァイオレットはフォールドを選択。
 伏せたカードを1つの束に纏めて卓へと戻す。
 その動作に違和感を感じたマヤは素早く、ヴァイオレットの手首を掴んだ。
「待ちなさい。その手をゆっくり開くのよ」
「おいおい、しょっぱなからかよ?」
 なんて呆れたようにニコラスは言う。
 ほんの一瞬、ニコラスの視線はヴァイオレットの胸へと泳いだ。
 けれど、しかし……。
「何もしてはおりませんよ。もしやマヤ様、ワタクシが脱いでいる所が見たいのですか?」
 ヒッヒッヒ、と嘲けるような笑い声。開いた手の内は空だった。
 渋面を浮かべたマヤは荒い手付きで8枚のチップを卓へと放る。
「悪いわね。見間違いだったわ。というか、元々水着のような服装でしょうに。それ以上、何を脱ぐと言うのかしら」
「ヒッヒッヒ……さぁ、どれから脱ぐのが良いですかねぇ?」
 ちら、とヴァイオレットの視線がレオの方へ向けられる。
「ボ、ボクに聞かれてもわからないよ。でも、良かった。脱ぐのは恥ずかしいでしょう」
 頬を僅かに朱に染めて、レオはしばし迷いを見せる。
 レオの手札は999のスリーカード。悪くはないが、勝負に出るには些か心もとない役だ。
 数秒ほどの沈黙の後、レオは小さく吐息を零した。
「……フォールド。このまま続けるのは少し怖いからね」
「良い選択だわ。無理だと思ったらちゃんと降りる。ポーカーの基本ですもの」
 などと言いつつ、卯月はコールを宣言した。鏡はコール。ニコラスはフォールドと続き、第1ゲームのショーダウンを迎える。
 果たして公開された手札はノワ、シラス、マヤはそれぞれスリーカード。鏡に至っては44のツーペアだ。
「基本運がいいんですよ、私。ほら、ストレート」
 勝って当然。
 そんな様子でカードを広げた卯月の役は9、10、J、Q、Kのストレート。
「なかなか大きな役は作るのが難しいね」
 果たして、最初の勝者は卯月であった。
 ポットのチップを回収しつつ、参加者たちへ挑発的な視線を向ける。上機嫌な鼻歌は、参加者たちを煽るための演技であろうか。
 舌打ちを零したマヤは、酒瓶の中身を一気に煽るとトランプの束を鏡へ押しやる。
「さぁ、早くカードを配りなさい! 次のゲームに移るわよ!」
 荒っぽい仕草でマヤはボトルを卓へ置く。揺れるグラスをそっと支えるノワだったが、弾みでシラスの肩にぶつかる。
 瞬間、ノワはするりとシラスの袖から何かを抜いた。
 そのことに気が付いたのは、鏡ただ1人である。ノワの飛ばしたウィンクを受け止め、鏡は笑みを深くした。

 レオは努めて丁寧にカードをカットして、1枚1枚、各人へと配る。
 その行程に祈りを込めて。
「貴方の行く先に不幸が起こりませんように」
 澄んだ声が卓へと降った。

(流れは最悪。良手の一つも入ってこねぇ。かはは、ここまでいくと笑えてくるな……)
 表情をピクリとも変えないままに、ニコラスは内心で冷や汗を流した。配られた手札は見事にバラバラ。完膚なきまでに〝ブタ〟だった。
 これもカードに憑いた怨霊“ギャンブラー”ジョーンズの呪いだろうか。つくづく運には見放されているようだ。
「レイズ……。いやはや、不運になる呪いとは。随分とワタクシ好みな呪いにかかって下さいますね、ニコラス様?」
「はは、この程度ギャンブラーにとっちゃ日常茶飯事よ」
 掛け金を吊り上げたヴァイオレットに不適な笑みを返しつつ、ニコラスは思考を加速させる。
(レオは初心者。ラッキーパンチにだけ警戒しときゃいい。あぁ、卯月もだな。マヤは勝つ気で来てやがる。気迫が半端ねぇぜ。鏡は……)
 チラと隣に座った鏡の表情を窺う。鏡はカクンと首を傾け、悪戯好きの猫に似た視線をニコラスへと向けた。
「ふふ。私もレイズにしておきましょうかぁ。ニコラス君は、どうしますぅ?」
 絡みつくような不気味な視線だ。知らず、ニコラスの背が粟だった。

 シラスの手札は10が2枚、残りはAと3、Qが1枚ずつだ。
「えっと、ショーダウンです」
 恐る恐ると言った様子でディーラー役のレオが告げる。
ゲームに残ったのはノワ、シラス、鏡の3名。
まずは鏡がカードをオープン。QQQのスリーカードであった。
(この手札じゃ負ける……けど)
 カードを両手で持つようにして、シラスは素早く自身の右袖へ指を伸ばした。先のゲームで出来たKKKのスリーカードをそこに忍ばせていたのである。それを今回出来たツーペアと合わせればフルハウスの完成だ。
 けれど、しかし……。
(……あ? な、ない? なんで!?)
 そこにあったはずのカードがない。シラスの頬を冷や汗が伝う。そんな彼を、にやにや笑いで鏡が見つめる。
「お2人とも早くだしてくれませんかぁ?」
「……っ」
 鏡に急かされシラスはカードをオープン。ツーペアでの勝負となる。
「なかなかの勝負師だね、シラス君。いやぁ楽しいな……ふふふ♪」
 肩を揺らしてノワが笑った。オープンされたカードはKKKKのフォーカード。
「なっ……!? あぁっ!!」
「ん? どうかしたのかな?」
 シラスのイカサマは、ノワに丸ごと奪われていたのだ。
 
 カードを配る鏡の手首に、シラスの弾いたチップが当たる。
 手を止めた鏡は、胡乱な視線をシラスへ向けた。鏡の手が傍らに置いた刀へと伸びる。けれど、ニコラスが鏡の手首を掴んで抜刀を制止する。
「見え見えなんだよ」
 と、そう告げたのはシラスであった。
「……検めさせてもらうわね」
 乱暴な手付きでマヤは鏡の手からデックを取り上げ裏返す。Kの札が2枚。さらに既に鏡の手元に配られていたカードの数字もKだった。
「フォールシャッフルね。賭け事はいつも命のやり取り、海賊の間ではそう言われてきたわ……イカサマはもちろん即処刑よ。さぁ、きっちり罰符を払いなさい」
「えぇ、ざぁんねん」
 そう言って鏡は潔く外套を脱いだ。
 にやにや笑いはそのままに、脱いだそれを自身の足元へと落とす。

 ショーダウンに残ったのは、マヤ、卯月、レオの3名だった。まずはマヤが手札をオープン。10のフォーカード。なかなかに強い役である。
 ふっ、と小さな笑みを浮かべて傍らに置いたボトルを掴んだ。ラム独特の苦みと甘みが五臓六腑に染み渡る。
「マヤさん、知ってる? 賭け事は勝てると思った時が、一番注意。最後まで楽しまなきゃ!」
「……なに?」
 ボトルを置いたマヤの視線が、ゆっくりと卯月の手元へ向いた。
 もったいぶるような手つきで、卯月はカードを1枚1枚、テーブルへと捨てる。
 卓に広げられたカードはハートの2~6。
 揃いのスートかつ続き数字が5枚。
「ストレートフラッシュよ」
 それはポーカーにおいて最強と呼んでも差し支えない役だった。
 ツイてるわ、なんて呟いて卯月は楽しそうに笑う。
 生来彼女は運がいい。加えて【幸運】のスキルや装備品が、それに拍車をかけたのだろう。
 けれど、しかし……。
「えっと、間違えてたらごめんね? ボクは初心者だから……許してくれるよね?」
 今にも消え入りそうな声音で、レオはそう告げカードを出した。カードの数字は10、J、Q、K、A。
 マヤと卯月はそれを見て目を見開いた。ひゅう、とシラスが口笛を鳴らす。
 スートは5枚、すべてがスペード。
「ろ、ロイヤルストレートフラッシュ、だよね?」
 文句のつけようがないビギナーズラック。
 強役を揃えたレオは、ひどくご機嫌のようである。
 こうしてレオは大量のチップを見事獲得してみせた。

●Perdente e vincitore
 両手に持ったカードの束が、ノワの手中を流れて落ちる。
 ウォーターフォールやリフルといったシャッフルテクニックである。レオや卯月は素直に感嘆の声をあげるが、一方でニコラスやマヤ、シラスの視線は厳しいものだ。
 既に2度、ゲーム中にノワはイカサマを行使している。1度目はともかく、2度目のイカサマなどわざとバレるように行った節さえあったことは記憶に新しい。羽織っていたカーディガンは既に没収済みだった。
「っと! 待ちなって!」
「よくあるイカサマだな」
 ノワの左右からシラスとニコラスの手が伸びて、シャッフルを強制的に止めさせた。
 苦笑いを浮かべ、ノワはゆっくり席を立つ。ドレスのスカートの内側から数枚のカードが零れ落ちた。
「ふふ、参ったな。身ぐるみ剥がされてしまったよ」
 そう言ってノワはドレスを脱いだ。下着姿になったノワは、しかし恥じることもなく席に座り直す。シラスとレオはそっとノワから視線を逸らした。見れば2人の頬は上気しているようである。

 改めてカードを配り直して、最終ゲームのスタートとなる。
 それと同時にニコラスの持つカードから、じわりと黒い影が滲んだ。
「お出ましだな。ニコラスが破産するところを見に来たか?」
「これが、自ら賭けに負けて破滅したジョーンズとかいう愚か者でございますかぁ?」
 シラスとヴァイオレットの視線がニコラスへと向く。
 しかし、まだ影が滲んだだけだ。怨霊の姿は顕れておらず、討伐もどうやら適うまい。
「よぉ、来やがったな。こいつのせいで負けが随分こんでるが……さて、勝ちに行くか」
 挑発的な笑みを浮かべて、ニコラスはそう告げたのだった。

 第1ベッディングラウンドでまず仕掛けたのは卯月であった。
 手札と面子を交互に眺めて頷くと、彼女は4枚のチップを卓へ転がした。
「レイズです♪ ふふ、私の運に勝てるかな?」
 そう言って卯月はカードを卓に伏せたのだった。つまり既に勝率の高い役が揃っているということだ。
「えっと、ボクはコールで。何だか勝てそうな気がするんだ」
 続くレオはコールを選択。
 緩んだ口元を見るに、彼の手札も良い役のようだった。
 そして続く鏡だが……。
「勝負所ですかねぇ? さらにベットを上げておきましょうかぁ」
 賭け金がさらに吊り上がった。隣に座りニコラスが眉をしかめる。負けが混んでいるニコラスの手持ちのチップは残り僅かなのである。
「……コール」
 手札を伏せて、ニコラスはそう宣言した。
 
 ニコラスの手札はスペードの4、5、6、8。そしてダイヤのAであった。
 ストレート、或いはフラッシュの目こそあるが現状は単なる“ブタ”でしかない。けれど、ここに来てニコラスのテンションは、静かに最高潮に達していた。
 弱い手札だ。けれどしかし、弱い手を最強にする手段を博徒の彼は知っている。
「交換だ」
 と、そう宣言しニコラスは手札を全て表に返した。うち1枚、ダイヤのAを交換し新たに配られた札を一瞥。
 それを裏にして広げたカードの列に加えた。
 
 最終ベッティングラウンド。ヴァイオレットは手札と賭け金を見比べた。
「このまま行けば3位か4位……ならば高見の見物といきましょう。ニコラスさんの結末を」
 フォールドを選択し、ヴァイオレットは深く椅子に背を預けた。
 ついで手番はマヤへと移る。
「勝負を逃げては、海賊マヤ・ハグロの名が廃るわね……レイズよ」
 堂々とそう宣言し、マヤは賭け金を吊り上げる。
 卯月、レオ、鏡とコールが続く。
「あれ? ニコラスさん、チップが……」
 そこでレオは気が付いた。ニコラスの手持ちでは、もはやコールさえもできない。
「あぁ、だから……オールインだ!」
 そう言ってニコラスは、残るチップのすべてを卓へ差し出した。

 ショーダウンまで残っていたのはマヤ、卯月、ニコラスの3名だ。
 早々に手札を返したマヤはフラッシュ。卯月はフォーカードである。
「スペードの7ならニコラスの勝ちか」
 と、そう呟いたのはシラスであった。
 暫しの沈黙。ニコラスの手が伏せた1枚のカードに伸びる。
 そして……。
「悪ぃんだけどよ……俺は今一文無しだ。ちゃんと払うから、誰か金を貸してくれ」
 捲られたカードはクローバーの9だった。
 瞬間、カードから影が溢れ出す。現れたそれは人の姿をとって、その手をニコラスへと伸ばす。
「よぉ、ギャンブルで負けたんなら潔く終わっとけよ、ジョーンズ。負けにしがみついて先に進まず足を引っ張るってぇのはギャンブラーの名折れだぜ?」
 その手が喉に触れる寸前。
ニコラスの剣が一閃し、ジョーンズの怨霊は裂かれて消えた。テーブル上のトランプも、ただ1枚を除いてすべてが黒い炎に包まれる。
 たった1枚残ったそれは“ジョーカー”のカード。
「ま、アンタとの勝負だけは俺の勝ちってことだな」
 と、そう言ってニコラスはそれを手に取った。

成否

成功

MVP

有栖川 卯月(p3p008551)
お茶会は毎日終わらない!

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
ジョーンズは討伐され、ニコラスさんの呪いも無事に解除と相成りました。
依頼は成功です。

以下、総合順位
1・有栖川 卯月(p3p008551)
2・ノワ・リェーヴル(p3p001798)
3・ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
4・マヤ ハグロ(p3p008008)
5・シラス(p3p004421)
6・レオ・ローズ・ウィルナード(p3p007967)
7・鏡(p3p008705)
8・ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)

この度はシナリオリクエスト、ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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