PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<八界巡り>洸汰の世界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●世界を身体は覚えている
 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――桜咲 珠緒 (p3p004426) 、検出完了。
 ――上谷・零 (p3p000277) 、検出完了。
 ――リュグナー (p3p000614) 、検出完了。
 ――ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788) 、検出完了。
 ――清水 洸汰 (p3p000845) 、検出完了。
 ――マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007) 、検出完了。
 ――藤野 蛍 (p3p003861) 、検出完了。
 ――ジェック (p3p004755) 、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界です。
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 ようこそ。今よりここはあなたの世界です。

 もう四度目になる。説明の必要はないだろう。
 『イデアの棺』によって八人が追体験することになった次なる世界に、正しい名前なんて無かった。
「オレは『チキュー』って教わったけどなー」
 洸汰はこともなげに、そう語る。
「多分フツーの世界だと思うぜー。普通に過ごして、終わりなんじゃねーか?」

●きれいできれいできれいできれいな社会
『地球A8721。振り分け番号を覚えて貰う必要はありません。地球と名のつく世界はウォーカーの中でも多数報告されていますが、それぞれが同名かつ異なる世界であるケースが多いため便宜上の振り分けをしています』
 この研究における依頼人、眼鏡をかけたあの男……眼鏡をかけた男であるという以外のあらゆる特徴が記憶に残らない彼がそんな風に説明したのを、ベルの音の中で思い出した。
 ベルをなんと表現したものか。擬音語で『キーンコーンカーンコーン』というごく短い音楽が、くぐもったスピーカーからの電子音として聞こえる。
 よく磨かれた木の机に、ジェックは座っていた。
 右を見ればランドウェラが、左を見ればマカライトがそれぞれ座っているが、どちらも異様に背が低い。
 小学校低学年程度の背丈と顔つきを、彼らはしていた。
 どころか日本の私立小学校のようなパッキリとした制服を着用し、等間隔に並んだ机についている。
「この世界では、俺たちは『子供』……ということらしいな」
「たしか『学校』の外に出ろと言われていたんだったかなあ。ってことは、この場所が学校ってことでいいのかな?」
「たぶん」
「ククク……」
 ぼんやりするジェックの後ろで、聞き覚えのある声がした。
「よもやこの身が童子のそれに成り果てようとは。愉快……!」
 リュグナーだった。振り返らなくてもわかった。
「なあ、なあ」
 斜め後ろの席から小声で話しかけてくる零。
「あ、零もいたんだ。たしか零も『ガッコー』の出身だったよね。懐かしい?」
「えっと、それなんだけどさ……」
 零が開いた本と教室の角を交互に見つめて、眉間に深く皺を寄せた。
「時間割からすると、学校の授業がさ、一日にさ……」
 歯切れ悪くいう彼の様子に、マカライトたちも振り返る。
 そして端的に。
 彼は言った。
「20時間あるんだけど」

「お、すっげー! オレ、『大人』になってるじゃん!」
「本当ね。学校に行くって言うからてっきり私も生徒になるものだと思ってた」
 洸汰と蛍は鏡の前に立ち、自分の格好をいまいちど確かめていた。
 ビジネススーツをバチッと着こなし、整髪料で綺麗に髪を整えたりりしい洸汰。
 一方でワイシャツとパンツスタイルで教科書の束を抱えるクールな蛍。
「二人とも、とっても似合ってますよ」
 にこやかに言う珠緒も、髪を後ろで団子状にまとめてゆるふわな服を着た大人になっていた。
「で、ここは?」
「職員室じゃねーかな。一回来たことあるぜ」
「……ほんとに?」
 スチールデスクが並ぶ、大人だらけの部屋。
 窓際には『子供たちに明るい未来を』と書かれたポスターが窓ガラスを埋め尽くすほどびっしりと貼り付けられ、壁には大量のモニターがびっしりと並びその全てで学校教室や廊下の監視映像が流れていた。
「刑務所じゃなくて?」

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。
 こちらはVRマシンを用いて異世界を仮想体験するシナリオシリーズ<八界巡り>です。
 皆さんは練達での実験スタッフとして依頼をうけました。
 ウォーカーの身体に蓄積されている異世界の情報を抽出、追体験し、一定の行動をとらせることでデータを完成させていくという実験です。
 これまでのシリーズはこちら
 https://rev1.reversion.jp/scenario/replaylist?title=%EF%BC%9C%E5%85%AB%E7%95%8C%E5%B7%A1%E3%82%8A%EF%BC%9E

■ミッション
・『学校』からの脱出を試みる
 あくまで試みることが与えられたミッションです。何人か脱出できなくても、最悪全員脱出不能になってもできる限りのことをしたならよしという扱いのようです。
 一応『学校』からの脱出と合流が最終目的として据えられています。

■世界:チキュー
 洸汰さんの世界、というより彼の脳やら肉体から抽出できた限定的な世界情報です。
 皆さんは『学校』という巨大な建築群の中にいます。
 この世界では『子供』は適切な教育を施されて『大人』になり、犯罪発生率は0%を記録しているそうです。
 ちなみに日本の2005年の犯罪率が9.9%です。そもそも犯罪者というもの自体をみんな見たことないってレベルだと思います。だとしても0%って……。

 この国では14歳までを『子供』として扱い、『大人』庇護下で衣食住が保証されなおかつ適切な『大人』になるための教育をすべて施されます。
 大体みんな14歳まではそれなりに生育していきますが、15歳の誕生日を迎えた瞬間いきなりキリッとした『大人』になるといいます。

 余談ですが。
 洸汰自身は『えー? こんな世界だったか? オレもっと野球とかしてたけどなー』と語っています。
 記憶と肉体情報が異なる良い例なのかもしれません。

●能力について
 皆さんはスキル、装備、ギフトなどあらゆる固有能力が使用不能になっています。通信機器等も持っていませんし持つことを許されていません。
 知恵と勇気と天運でこのミッションを乗り切ってください。

●脱出について
 皆さんはこの世界で三日ほど普通に暮らしてみましたが、『子供』は時間割に全てを制御され食事や睡眠はおろか排泄の時間まで指定されています。
 それに逆らう子供はどこかへ連れて行かれるということだけ漠然とわかりましたが、連れて行かれてからどうなったのかはサッパリです。
 なんとかこの監視され切った生活から物理的に脱出しなければなりません。

 また、皆さんが暮らしている校舎はみな同じD3704校舎です。
 この校舎から出ても『学校』という巨大な施設群が広がっているので、自動車を運転するなりしてこの施設群の外へ出なければなりません。
 風景としてはオフィスビルばかり並んでる開発地区みたいな風情です。要するにビルしか建ってません。道路もきっぱり碁盤目状に通っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

  • <八界巡り>洸汰の世界完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年09月10日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

上谷・零(p3p000277)
恋揺れる天華
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
神翼の勇者

リプレイ

●学校
 チョークが黒板をうつ音が、ひどく静かな教室にいつまでも響いている。
 時計の針の音が聞こえそうなくらいの世界で、『お姉チャン』ジェック・アーロン(p3p004755)は閉じかけていた目を開く。
 上下二段になった大きな黒板と、その脇に貼り付けられた巨大な時間割表。
 一日二十時間の授業スケジュールが組まれ、ひどく高く見える天井が、無機質な穴模様をしていた。
 大人の教師はまるで大人かくあるべしといった雰囲気の格好と振る舞いをして、授業と授業の間にある5分ほどの休憩時間でさしたる会話もせずに入れ替わっていく。
 生徒達にとっての休憩時間はといえば、主にトイレに行ったり四角いブロック状のレーション食で食事をこなしたり、中には少しでも睡眠時間を得ようと目を瞑ったりしている子供もいた。
「学校、思ったよりずっと怖かった……。
 希望ヶ浜は流石にこんなんじゃないよね……?」
「あー、うんまあ、俺の知ってる学校はもっと希望ヶ浜っぽかったぞ? あそこはちょっと派手めだけどさ」
 『伝える決意』上谷・零(p3p000277)はぼんやりと斜め上を眺め、疲労困憊といった様子を見せていた。
 ぶっちゃけドラゴンと戦ったとき以上に疲弊している。
「マジの20時間勉強とか頭おかしいって。清水の故郷だからあんま悪くいいたくないけど、20時間はないわ。マジないわ。死ぬだろ絶対」
 生徒達に『配給』されているカフェイン錠剤ペットボトルの水でのみこみ、眼をくらくらとさせる零。
 いっそ大人の目を盗んで居眠りしてやろうかと画策したが、授業中にコックリコックリしていた生徒が即座に連れ出されそれ以降二度と見なくなったことから、必死で目を開け続けている。
 一日の終わりに学力テストが行われ、これもまた一定以下の成績だった者は見なくなるという仕組みらしく……零は一日乗り切るだけでやっとだった。
「苦痛でしかないわこれ。小学校の授業内容だから大して難しくないけど、今すぐにでもやめたい……」
「俺ら邪神憑きには地獄みてえな場所だ……」
 その横で、『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が深くて大きなため息をついた。
「多分、刑務所ってやつより厳しいぞ。そりゃこんな洗脳まがいの教育を幼少のころからやってれば犯罪もなくなるだろうが……仮想現実ってコトを差し置いてもマジに逃げたいな」

 こうして死んだ魚のような眼をした仲間達がいる一方で、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は未曾有の体験にややはしゃぎぎみだった。
 最初にいたっては『や、やったー! 子どもの姿になってる!! しかも学校で、授業を受けれる! 相応の姿で学校に!!』とテンションマックスだったが、流石にそれが20時間以上続くと嫌になってくるらしい。
「こんぺいとう食べたいな……装備もなにもない……やだなぁ……」
 窓を見れば透明なガラス。
 大人が知らぬ間に清掃しているらしく、よごれひとつないピカピカな窓だ。
「三日も経てばこの小さな体にも馴染むというもの。
 しかし……やはりこの完璧なまでに管理されている状況には疑問が残るな」
 そんな窓を指でひとなでし、『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は小さく唸った。
「清水がログイン前に話していた内容との違いも気になるところだが、さて……」

「もっとフツーの学校だった気がする。あれ?」
 職員室と言う名の薄暗いオフィスにて、スーツ姿の『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)は腕を組んで小首をかしげていた。
 部屋にびっしりとならぶ小さなデスク。キーボードを叩く音と小さな咳払いだけが響く部屋で、唯一明るいのは彼らの見つめるディスプレイと壁際にならんだモニターだけだ。モニターには分割され切り替わり続ける監視カメラ映像が流れ、コーヒーをすすりながら大人達がそれを見つめている。
 そして時折壁際の受話器をとってはどこかに連絡していた。
 はじめはよく分からなかったが、少しすると映像の中にヘルメットとタクティカルジャケットを装備した数人の大人が現れ、子供の髪や腕を掴み上げどこかへ運んでいるのがわかった。
 肩からなにか四角いものを下げているように見えるが……。
「あれは、短機関銃ですね。PDW――個人防衛火器といって、ああいった警備作業においては扱いやすさに優れた重火器です」
 『二人でひとつ』桜咲 珠緒(p3p004426)が小声で情報を補足してくれた。
「犯罪率0パーセントと聞いてはじめは不自然に思いましたが、ああして『犯罪をおこしうる人間』をすべて排除していれば、報告される犯罪はなくなるということなのでしょう。
 もしそうなら、洗脳されきった大人が『起こすはずのない行動』をおこしたらどうなるか……」
「それが隙になりうる、ってこと?」
 髪を後ろでまとめ、赤みがかったスーツを着た珠緒のすぐとなり。頭のうしろでお団子を作った『二人でひとつ』藤野 蛍(p3p003861)が、眼鏡をきらりと光らせてこちらを見た。
「そういうことになりますね。しかし、なんといいますか……」
 珠緒は自分の手のひらを見下ろした。
「元々体力に乏しい身でしたから、この身体はとてもパワフルに感じます」
「珠緒さんは、そうよね。けどボクは……」
 同じように手のひらを見下ろす蛍。
「なんでだろう。あんなにこの混沌のすべてが不思議だと思ってたのに、いざ力がなくなるとこんなにも心細い。もう、昔のボクには戻れないわね……」
 ま、それはそれ!
 蛍は気合いを入れるように手をぎゅっと握りしめた。
「この、学校のフリした刑務所から脱出しましょ。
 こんなところが教育施設だなんて認めたくないもの。ボク達でこの世界に教えてあげましょ。『自由』ってものを!」

●大人ってなんだろう
 子供たちに交じって暮らすうち、ランドウェラはひとつの共通点を見いだした。
「ねえ、どんな大人になりたい?」
 二段ベッドの上に眠る同室の子供にそう尋ねると、『は?』という返事から数秒してから『わからない』と帰ってくる。
 これはどんな子供に質問をしても、タイミングや言葉の形容は異なれどもおおむね同じ答えが返ってくる質問だった。
 子供は大人というものに対して疑問はおろか希望や憧れといったものすら持っていないようだった。
 毎日ただ生きて、時が経てば大人になる。そこに選択の余地はないし、選択するということ自体を教えられていなかったのだろう。
 ランドウェラから見れば異常なことだが、この環境のなかだけで生きていた人間からすればあまりに当たり前のことだったのかも知れない。
 質問をするランドウェラに対しても、『わざわざ大人について話すなんて変わった奴だな』程度の感覚しか持たれていなかった。
 続いて武器ないし道具の調達だがこれは思いのほか上手くいかなかった。
 道具は常に必要なときに必要なものだけが支給されすぐさま返却を求められる。鉛筆一本とっても、書き取り学習のためだけに渡され、それが終わったらすぐに返すといった淡泊ぶりだ。
 子供たちに『所有物』という概念がなく、極端に言えば学校という巨大な生物の一部であるかのように振る舞っている。
 それでも行動を起こすときのために、ランドウェラは押していた小石やなにかを袖の内側にしまいこむなどして確保。来たるべき時を待っていた。
(こんぺいとうがないしポジティブにもなれないし……なにより飽きた……)

 マカライトたちはこうして得た情報をノートの切れ端に書き付け、授業のために現れた蛍や珠緒たちに渡るように仕向け情報共有を図っていた。
 そうして手に入れた情報を、同じく子供組であるリュグナーたちと共有する。
 トイレ休憩にでた二人は、他に子供が居ないのを確認すると物陰へとなにげなく入った。
「監視カメラが学校じゅうに設置されてる。下手な動きをすれば即通報されてどこかへ連行されるそうだ」
「どこか、とは?」
 小首をかしげるリュグナーに、マカライトは顔をしかめる。
「それが……大人達にも分からないらしい。そもそも、洸汰の様子からして変だ。聞いていた内容と違うぞ。こんな環境でああいう精神性が育つとは思えん」
 ここが、最も注目すべき点だと言えた。
 洸汰はどこへ行っても友達ができて明るく元気で野球大好きな青少年である。
 ただ冷静に思い返せば奇妙なところが多い男でもあった。
 見るからに元気な野球少年といった風貌と振る舞いをしているのに、彼の年齢は22歳だという。
 悩みなんてないようにも見えるし、その割にこの環境を見たうえでもさして驚いた様子はなかった。
「なあ、洸汰は本当にこの世界から来たのか? 仮にここから来たとしても、もっと別の環境で育ったとは考えられないか?」
「ふむ……」
 言うことはもっともだ。
 リュグナーも洸汰に意見を求めたいところだが、洸汰はいまだ沈黙を続けているという。この世界に戸惑ったのか、それとも予想外のアクシデントに見舞われたのか……。
「とにかく、そのことは脇に置くとしよう。まずはここからの脱出だ」
 そんな話を、していると……。
「上谷零、止まりなさい。あなたを連行する」
 三人の大人が銃を向け、教室へ戻ろうとする零を取り囲んだ。

「え、うそ……なんで?」
 両手を挙げ、まわりをぐるりと見回す零。
 数人の子供がこちらをじっと見ていた……ことまでは分かったが、すぐに大人に腕を掴み上げられた。
「理由を話す義理はない。来い」
「ちょ、チョット待って! どこに連れてく気だ!? 俺はまだ……!」
 抵抗しようとする零をいとも簡単に担ぎ、運んでいく男達。
 そして……。

「あ痛っ! おいっ乱暴にすんなよ!」
 雑草だらけの地面に投げ捨てられた零を置いて、武装した大人たちはさっさと校舎の中へと戻っていく。
 零も後を追ったが一階にあたる部分は扉も窓も頑丈なシャッターによって閉ざされ、とてもではないが中に入ることは叶わなかった。
「おい! 入れてくれ! なんだよ、俺が何したって……」
「無駄だぜー」
 聞き慣れた声が、した。
 咄嗟に振り返る零に。
「『中』の連中はマニュアル人間ばっかだからなー。一度通報されたらいいわけなんて聞いてくんねーって」
 まるで野球少年のような格好をした洸汰が、ぼろけたジャケットをはたいて笑った。
「オレ、シミズコータ。アンタ、この世界の人間じゃねーんだろ? この子から聞いたぜー」
 コータが振り返ると。
「え、うそ」
 ガスマスクを外したジェックが、片眉を上げて立っていた。

●大人の異変
「清水さんと連絡がつきません。授業に行ったきり帰っていませんし、シフトにも別の人が入っています」
 キーボードを素早くタイプしながら、仕事をしているふりをして珠緒は真横の蛍と話し合っていた。
「変だね。問題がおきて捕まったんならもっと騒ぎになっていいはずなんだけど……まるで『突然消えてなくなった』みたい」
 エンターキーをタンと人差し指で叩いて、蛍はふと顔を上向けた。
「ねえ、珠緒さん。これまでの世界って……『どう』だったっけ」
「どう、とは?」
「珠緒さんの世界では、珠緒さんとは異なる代の巫女が人柱になってたよね。あの世界に珠緒さんはいないことになってた……ずっと前に役目を終えたか、珠緒さんの代になる前の話だったのかはわからないけど」
「ああ……『そういう』ことですか」
 珠緒はキーボードから手を離した。
「マカライトさんの時は、『本来参加していない筈の戦い』に参加しました。
 ランドウェラさんの場合は『行ったことのない裏世界』へ侵入していたんでしたね」
「そういうこと。どちらも、『本来なら本人がいない』状況を追体験してるの。けどここがもし洸汰さんの学校だとしたら、『洸汰さんが本来持つべきだった役割』はなんだったのかしら。
 そしてもし洸汰さんが学校内で大人か子供のどちらかとして接していたなら、いまこの空間には洸汰さんが二人いることになる」
「……もし今回がパターンから大きく外れた状況だとしたら」
 何かに気づいて、二人は慌てたように立ち上がった。

「洸汰さんの存在は致命的なバグになる」

●異常存在
 ――データに異物を検出しました。正体不明。分析中です。
 ――分析中です。
 ――分析中です。
 ――分析完了。
 ――異常存在の不正なログインを検出しました。
 ――『イデアの棺』に過剰な負荷がかかっています。
 ――異常事態に注意してください。

●崩壊
 作戦は実行に移された。
 あらかじめメモによって共有された計画日時にあわせ、ランドウェラが突如として近くの子供に掴みかかった。
 大声を出してとっくみあう子供たちに対し、銃を持った大人達が急行。
 他の子供たちが巻き込まれまいと距離をとるなか、リュグナーはため込んでいたチョークの粉を少ない水でといた粘液状のものを監視カメラへと投げつけた。
 狙いは見事にカメラレンズをとらえ、マカライトは備え付けの消火器を取り外しレバーを紐で縛って常時開放状態で放置。
 あたりが真っ白になる中で、それ以上の大人を投入できないためか場がひどく混乱した。
 珠緒たちの入手した経路図にそって走り、後者の外へと続くゲートをくぐる。
 何かを検知したのか警報が鳴り響くが、構わず野外に止めてあった自動車へと飛びこんでいく。
「みんな居る? ……三人だけ!?」
「そっちこそ二人だけのようだが?」
 蛍とリュグナーは顔を見合わせたが、待っている時間はない。建物から武装した大人が飛び出し、こちらに銃撃を始めたからだ。
「成長できるかもわからぬ身、大人姿のドライブデートに憧れもありますが……」
 珠緒は『憧れは後に取っておきましょう』と言って自動車を走らせた。
 彼女たちをのせた自動車はビルとビルの間を抜け、等間隔に並ぶ『校舎』がまるでループ映像のように前から後ろへと流れていった。だがそれもやがて終わり、開けた風景へと――。

●塀の中の幸せ
 ジェックは手慣れた様子でパイプピストルを操作し、奇妙な形状の犬を射殺。
 更に犬と同じ大きさの昆虫を射殺した。
「こうしてみると、アタシの世界とあんまりかわんないね」
「ま、すげー戦争だったみたいだしなー」
 あまりにもあんまりな風景を前に呆然とする零をよそに、コータとジェックはその日の夕飯を確保してナップザックへと詰め込んでいた。
「なんだっけ。カクセンソー? があったとかで、人が暮らせる場所なんてチョットだけしかないんだよな。
 人間だって30歳まで生きられれば儲けモンって感じでさ。
 だから、『ニホン』は塀の中に閉じこもったんだよ。メリケンも華国も、海を渡ってまで移動する力なんかもう残ってないし、生き残る方法を探るので手一杯だったんだろ」
「え、っと……ジェックななんでここに?」
「外のことを聞いたから。多分、密告されたんだと思う」
「大人の庇護下から外れた子供は『半端物』として捨てられちまうんだ。あそこの大人は、捨てた子供はみんな死んだと思ってるだろーけど……」
 コータは帽子を脱いで、赤く沈み行く夕日を見つめた。
 まるで、いつまでも少年であり続けるかのような彼の横顔に、ジェックはたまらなく懐かしさをおぼえた。その理由は分からない。彼がどうにも、頼りになるように思えてならなかった。
「ねえ。コータはいま、何歳なの?」
「さーなー……」
 バットを振って緑色の血をふりはらうと、肩に担いだ。
「50年くらいは生きたんじゃねーか?」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――洸汰の世界、介入終了。
 ――データの取得に成功しました。

 ――システムに侵入した異常が拡大しているようです。
 ――疑わしいデータの隔離を行います。

PAGETOPPAGEBOTTOM