PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<巫蠱の劫>狙われた歌姫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 夕日差す高天の京で女性が二人、甘味処にて休憩をしていた。
「この辺りも不穏な様子はなさそうですね」
 女性の片側、『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は、もう一人の女性――『桜の歌姫』光焔 桜に話しかける。
「そうですね……ひとまずは大丈夫そうですが……」
 二人が一緒にいるのはちょっとした偶然からだった。
 夏祭りの際に起こった呪具による混乱――あれと同様の事件がもしや起きるのではないかと考え、調査を続けていたのだ。
 最初はそれぞれ単独で調査をしているだけだったが、今日、ふとしたきっかけで調査しようと思っていた場所が被ったである。
 ひとまずは軽く見て回り、何も問題はなさそうだったため、一度、小休止をするべく甘味処に立ち寄ったわけだ。
「ただ、今はあれと関係があるのか分かりませんが、傷を負った妖が怒り狂いながら住民におそいかかる事件も出てきている様子……」
 桜の言葉にユーリエも頷いた。
 その手の依頼は確かにローレットにてここ数日で増えてきている。
「各所で呪術が執り行われているみたいですね……」
「ええ、聞いた話では宮中深くでも起きているのだとか。
 何かが起こっているのは確かなのでしょう」
 ぽつりぽつりと、互いの情報を整理しあっていたその時だった。
 二人の手がほぼ同時に止まり、視線を交え、頷きあう。
 互いが互いに歴戦故の、目配らせだけでの次に取るべき行動を確かめ合う。
「店主。ご馳走様でした。おつりはいりません」
 桜が先に言って、机に代金を置き立ち上がる。
 二人はそのままあくまで自然体で外に出ると、一気に走り出した。
 ちらりと振り返る。
「桜さん、あれは……なんでしょうか?」
「見た限りでは猩々のようですね。
 ただ、あのように姿が半分透けたようなのは初めてでしょうか」
 二人の後ろ、徐々に追いついてくるソレは、夕焼けに照らされてなお元の色を失わぬ赤い毛で覆われていた。
 その姿は人――というよりも猿の類に近いであろうか。
 建物の屋根を跳んで走り抜けるその反応速度は尋常な物ではない。
「そういえば、ローレットであのような半透明な姿の妖怪の事を聞きました。
 たしか、『忌』と……呪詛で生み出されたものです」
「呪詛……ということは多分、あれの狙いは私でしょう」
 夏祭りの大活躍はさて置き、イレギュラーズはカムイグラにきてまだ日が浅い方だ。
「呪詛を掛けられるほどの憎しみや怒り、あるいは嫉妬を受けるほどの期間はないはずです。
 なので、ユーリエ様、今から私で出来る限りひらけた場所――私たちが今日、会ったあそこまで行きます。
 ユーリエ様はローレットへ戻り、至急、救援をお願いします!」
「分かりました! すぐにでも……!」
 ユーリエの返答を聞くのとほとんど同時に、桜が方向を転換する。
 そちらに向かって屋根伝いに跳ぶ猩々を視界の横に抑え、ユーリエはローレット目掛けて駆け抜けた。


「分かりました。ではすぐにでも集まっていただき、そこへ向かってください」
 ローレットへたどり着き、事情を説明したユーリエにアナイス(p3n000154)が返答と共にさらさらと依頼状を書いて記す。
「それから、一応、お気を付けください。人を呪わば穴二つ、『忌』を倒せばその呪いは術者に返ります。
 生かさず殺さずに倒した方が良いでしょう。さすれば呪った相手もわかるかもしれません」
「ありがとうございます!」
 アナイスからの言葉に頷き、ユーリエは集まった仲間達と共に直ぐにでも走り出した。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。
アフターアクションありがとうございました。

嫉妬なのかなんなのか、ともかく呪うほどの執念とは恐ろしいものです……

それでは早速詳細をば。

●オーダー
『忌』猩々の討伐

●戦場
高天京の一角、ひらけた場所です。戦闘に支障はありません。
皆さんの到着時、周囲は桜さんの呼びかけで退避が済んでいます。
周囲は家屋も多く、猩々はその上をぴょんぴょんと跳ねながら猿のように接近してきて攻撃を繰り返します。

●エネミーデータ
【『忌』猩々】
全長3mほど、赤毛のゴリラのような姿をした妖です。
妖そのものではなく、呪詛のためその身体は半透明です。
元はさほど強力な個体ではありませんでしたが、呪詛と化したことにより強力になっています。
【不殺】による攻撃以外では呪詛返しにより『術者』へと襲い掛かっていきます。

反応、物攻、EXA、回避が高いヒット&アウェイのテクニカルアタッカーです。
また、【怒り】を受け付けず、桜さんへの攻撃を最優先に行動します。
ブロック、マーク、庇うなどでのコントロールが重要です。

<スキル>
跳蹴:物中単 威力中 【移】【恍惚】
跳双蹴:物中貫 威力中 【移】【乱れ】【スプラッシュ2】
狂鳴:神遠単 威力無 【万能】【怒り】【狂気】
狂奮:自付与 【物攻小アップ】【反応小アップ】

●味方NPCデータ
【『桜の歌姫』光焔 桜】
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)さんの関係者さんです。
今回の依頼では標的となっており、常に襲われる立場です。
恐らくはその容姿、歌声、あるいは武名に嫉妬した第三者から呪われてしまったと思われます。

戦闘では弓矢による【必中】や【識別】属性の中~超遠距離攻撃、歌によりバフ、ヒールを用いて戦います。
今回は皆さんが到着時点で無傷です。

●その他
戦後はちょうど夕飯時、傷の療養に力を付けたりするためにも
お夕飯を一緒にするくらいの時間はあるでしょう。
ちょうど近くでイレギュラーズ向けに和食風の郷土料理を扱うお店が開かれたみたいですよ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <巫蠱の劫>狙われた歌姫完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月12日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
永劫の愛
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)
トリックコントローラー
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫

リプレイ


 半ば半透明の、赤毛のゴリラのような化け物が跳躍する。
 屋根を跳び上がったそいつが、自らを鋭い槍か何かのようにして真っすぐに桜めがけて舞う。
 それを彼女が後ろに向けて跳ぶようにして躱したのとほぼ同時、『ナイト・グリーンの盾』アルム・シュタール(p3p004375)は着弾した赤毛――猩々の前へ躍り出た。
(人を呪わば穴二つとは良く言ったものですガ
 嫉妬で人を呪うなど許し難い事ですわネ……ですが)
「不肖アルム・シュタール。堅牢なる盾の名にかけて、光焔様は必ずや呪いの魔の手から守り抜いて見せましょウ」
 白銀の大盾を構え、穏やかなる緑の瞳が猩々を捉えて離さない。
「ぶはははっ! かかったな猿野郎が! ここまで近付けばこっちのもんよ!」
 アルムを威嚇するように猛る猩々の真後ろ文字通りの爆発的な瞬発で背後に回ったのは『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。
 駆動大青鎧『牡丹・海戦』――重装甲の和洋を合わせたような甲冑に装着された反動推進エンジンによる強引ともいえる超加速である。
 ゴリョウの言葉に振り返った猩々は突如として現れたようにも見えるゴリョウに動揺を隠せない。
(今度は、歌姫への嫉妬か。美貌。名声。栄誉。成功したものを羨む感情は、限りない)
 黙したまま、拳を握った『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は疑問が尽かない。
(――だが、呪うほどだろうか)
 自分にとっては大したことのない事実でも、人によってはそれこそ呪いたくなるほどのこともあろう。
 だが、たとえそうだとしても。
(そこまで簡単に扱える呪詛なのか、焚き付けられているのか。だろうか?)
 拳を握る。踏み込みと同時、拳を叩き込んだ。海をも鳴らす圧が飛び、猩々を撃ち抜く。
「半透明の獣とは、また面妖な。呪詛というものは、斯様にも姿を変えるのでありますね」
 ここのところ高天の京を騒がせる呪い。その力の一端を見た『全霊之一刀』希紗良(p3p008628)は刀を抜いた。
 身体強化により距離を詰めた希紗良は猩々へと切り結ぶ。
 命を狙うのではなく、あくまでも牽制に留めた斬撃である。
(桜さんに対して憎しみや怒り、嫉妬を持つ者は一体……?)
 猩々の方を見据えながら『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)はひとまずショートケーキを食べて糖分を摂取し、集中力を高める。
 茶色の髪を銀色に、赤茶色の瞳を赤に変化させたユーリエは自らの力を最大限にまで引き上げる。
「得体のしれない闇に溢れた妖を生み出すほどの怨嗟を突き止める為にも。
 猩々の討伐、皆で力を合わせて頑張りましょう!」
 そう言って、ユーリエは持ってきたスイーツをジョージにおすそ分けし、集中力を高めるのに利用してもらう。
 日傘を差す『夜に沈む』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)はそんなユーリエの様子を見つめていた。
(まぁ、私のユーリエが助けたいと思うなら助けるにこしたことはないんじゃないですかね)
 そのまま視線をちらりと桜の方に向け。
(純潔の乙女の血最近摂取できてないからそろそろ欲しくなるんですけどねー
 報酬に少しもらえたらとおもうのですが……)
 なんて思いつつも、これは黙っておくのだった。
 その時、桜が歌い始めた。
 落ち着いた声色の歌が自然と意識をはっきりとさせる。
(うーむ、呪詛を広めたのが何者かは判らぬがそろそろ尻尾を掴めぬものか)
 考えつつ、『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は始末斬九郎『封』を抜くや、走り出した。
(とはいえ取り敢えずは迫る目の前の脅威、しっかりと片づけると致そう)
 胸がざわつくほどの奇妙な叫び声を上げる猩々へ、軽い踏み込みと共に始末斬九郎を振りぬいた。
 後の先を穿つ刃の閃きが猩々を捉えんと走る。
 ほんの一瞬、猩々の身体が次の動作へ移る手前の刹那。閃いた切っ先が撃ち込まれていく。
「よし、精一杯肉壁になるわよ~! じゃあ今回は宜しくね、光焔さん」
 嬉しそうにきゃっきゃと語る『魅惑の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)を何時でも庇えるような一に立つと、魔剣に接続した魔力導線に魔力を通す。
 魔剣が輝き、形成された魔力障壁は物理的な攻撃を無力化させる代物である。


 猩々が雄叫びを上げる。そのまま自分の胸元を叩きつけ始めた。
 いわゆるドラミングのようなそれと共に、ゴリョウとアルムに挟まれて身動きが取れない怒りからか、その場で何度も飛び跳ねた。
 ――かと思うと、ゴリョウ目掛けて跳ぶように蹴りを放つ。両足で一度ずつ撃ち込まれた蹴りの衝撃は盾を用いて防いでも殺しきれない。
 その衝撃は、ゴリョウを抜け、桜を庇うチェルシーの下にまで届く。
「あぁっ、そんなヒット&アウェイで叩かないで!
 もっとインファイトでいいのよ、内からおなかをえぐりこむ様に!」
 衝撃の全てを魔力障壁で受け止めながら、チェルシーは歓喜の声を上げた。
 強烈な衝撃だが、この障壁のある限り傷を受けることはない。
「だ、大丈夫ですか?」
「もちろん! もっともっと来てくれていいぐらいよ!」
 突然の事に動揺した様子を見せた桜に応じ、チェルシーは魔剣の力を増幅させていく。
 重い蹴りは身軽な猩々の身体から数度にわたって放たれる。
 それを自らへ降ろした侵されざるべき聖なる力を纏い、騎士盾を構えて防ぎ続けた。
 堅牢な防御性能を持ってしても何度も受ければ傷になる。
 だが、終わりがないわけではない。
「ぶははは! にがさねえぞ!」
 盾で足を弾くようにして打ち返したゴリョウは、散々受けた攻撃の分を返すように、四海腕『八方祭』を叩きつけた。
 結界を撃ち込む術式が弾丸となって襲い掛かる。
 その拳を覆うガントレットにたなびく青白い妖気をより一層大きく放ち、ジョージは一気に至近する。
 拳を振りぬいたソレはまるで衝角の如く真っすぐに猩々に伸びる。
 すらりと躱したその身を穿つように深い踏み込みと共に追撃とばかりの打ち込み。
 その瞬間、猩々が自らを奮い立たせた気迫が失せていく。
「キサの剣はまだ軽いやもしれないであります。
 ならばこの身動く限り、何度でも打ち込むであります!」
 踏み込むと同時、希紗良は両手に握った刀を振りぬいた。
 鮮やかな軌道を描き、猩々を結ぶ斬撃が紡がれていく。
 引き絞られた矢が、真っすぐに猩々めがけて放たれた。
 桜色の闘気を纏った矢は、猩々の動きの一瞬の癖を撃ち抜き、その身動きを封じていく。
 ユーリエは咲耶へとスイーツのおすそ分けを終わらせると、最大限にまで引き出された力を行使する。
 赤黒い気が辺りへと立ち込め、意思を持ったように猩々の周囲へと収束する。
 猩々を包み込むように滞留した空間の内側から、その苦悶に満ちた、けれど声にならぬ声が響く。
「その赤色は嫌いじゃないけど森の賢人のような姿は好みじゃないですね」
 すげなく告げたエリザベートは魔力を高めると、連撃を受けたアルムへと魔術を行使した。
 エリザベートの調和のとれた精神性から放たれた穏やかな魔力が癒しとなってアルムの帯びた傷を癒していく。
「巨体に似合わぬ素早い動きでござるが拙者達の連携からは逃れられまい!
 相手を生かすも殺すも自由自在の紅牙の暗殺術。その身に全て刻んでゆけ!」
 敵の様子を確かめていた咲耶は濡羽色に染まった絡繰手甲の機能を組み替えた。
 文字通りの鉄球のようになった手甲を握り、猩々へと至近すれば、そのままそれで猩々を殴りつけた。
 強烈な打撃、けれど死足らしめることなき殴打を受けた猩々の身体が揺れる。
 自らへ不敗の英霊が鎧と闘志を宿したアルムは、堅牢なる防御力をそのまま力に変え、護剣アルタキエラを真っすぐに叩きつけた。
 曇りなき美しき打ち下ろしが猩々を痛めつける。
 チェルシーは魔剣の魔力を開放する。
「いくわよ――!」
 美しい赤い輝きを発した魔剣の翼が擦れあって音を立てる。
 独特な音色は歌となり、破壊を肯定する黙示禄となって音を掻き立てる。
 独特な音が気力を奮い立たせた。

 戦いは順調に進んでいた。
 初手で敵の動きを抑え込むことができたのはかなり大きな戦果といえる。
 戦闘が比較的長期戦の体を為しているものの、苦戦をしているとは言うわけではない。
 傷の多くなってきた猩々が再びドラミングを始めた。
 自らを発奮させるようなその動作の後、猩々はアルムの方めがけて跳び蹴りを放つ。
 両足をそろえた突撃は、本来であれば大きな隙を作りだす勢いがある――が。
 アルムはそれを盾を斜めにして持って受け流す。
「簡単にワタクシ共から逃げられると思わぬ事でス」
 宣告するように振り上げた護剣を、逆に胴部ががら空きとなった猩々へと振り下ろした。
 深く傷を負って後退した猩々が今度は反対側にいるゴリョウ目掛けて同じ一撃を見舞う。
 ゴリョウはそれを天蓋で防ぎきると、再び打ち返すように結界を砲弾として叩き込んだ。
 その隙を狙うように、猩々が動く。片足ずつ、連続して撃ち抜く蹴りの方だ。
 反撃の隙を縫う敵の一撃がゴリョウを強かに打ち据える。
「ぶはは、どうした! そんなもんか!」
 駆動鎧から蒸気を吹き出し、宣言と共に啖呵を切った。
 湧き上がる闘志をそのままに詰め寄るゴリョウに、猩々が怯えたように後退する。
 そんなゴリョウへと向けて、エリザベートは治癒術式を起こす。
 精度と効力の高められた熟練の高度な治癒魔術の輝きがゴリョウが負った傷を癒していく。
「じっとしていてください。魔力なんてそうそう減るもんじゃないですからね……」
 高い補給力と能率を持つエリザベートの治癒術式は途切れることなく仲間達――特に猩々の動きを封じる二人を癒し続けてきた。
「もうそろそろでござるな……」
 咲耶は一気に走り抜けた。一度は鞘に収めた妖刀を抜き放ち、切り払うは悪刀乱麻。
 駆け抜け、猩々の脚へと目掛けて刻まれた無形の刃がその両足――腱の部分を深々と切り裂いていく。
 連続する斬傷に猩々が吼えた。
 ユーリエが魔力を籠めると、その足元から闇の霧があふれ出す。
 形成された闇の霧は指向性を持って漂っていった。
 霧はやがて猩々の四肢と首筋に纏わりつき、まるで引きずり込むように濃い霧の中にその身体を押しこんでいく。
 希紗良は太刀を鞘に収めると、一気に猩々へと踊りこむ。
 そのまま濃い闇の霧から逃れ出た猩々へ組み付き一気に締め上げた。
「誰の、如何程の嫉妬かは知らん。
 だが、呪詛という卑劣な手段を選んだことは気に入らん」
 錨をモチーフとした腕輪が闘気を奮い立たせる。
「――故に」
 握りしめる拳。
 青白い漁火の如き妖気が大きく燃え上がる。
「――貴様は此処で返ること無く果てるがいい……!」
 踏み込みと同時、真っすぐに放たれた衝撃が、猩々を撃ち抜いた。

 ――ガタッと音がした。
 音の方向を見れば、人の影がどこかへと走ろうとしているのが見えた。
 焦ったような、慌てたようなそぶりはあまりにも怪しい。
 ユーリエはそれを見るや、手に持っていたカープパフュームをそちらへと投擲する。
「きゃあ!?」
 悲鳴。女の物のようだ。
 路地に走り出してみてみると――残念ながらそこにはすでに誰もいなかった。
 足元に転がる香水の瓶を、そっと拾い上げる。


 戦いを終わらせたイレギュラーズはちょうど食事時という事もあり、近くにある料亭へと足を運んでいた。
「桜さん、今回襲われたことについて心当たりはありませんか?」
 ユーリエは隣に座った桜へと問いかけていた。
 術者は桜を狙っていた。
「そうですね……高天京で活動していた頃になら、いくらでもいました。
 自分で言うのもなんですが、やはり目立つ活動をしていたので」
 桜の歌姫と呼ばれた彼女の活動を妬む者は、やはりいてもおかしくはない。
「そうですね……その中でも特に、となると……彼女でしょうか」
 少し考えていた桜はふと思いついたように頷いた。
「彼女……というと?」
「えぇ……刑部省にて私と同じような活動をしていた八百万の方がいたのですが……」
 言い澱む様子を見せるが、同じような活動をしていて嫉妬をする相手となると、おおよそ考え付く。
 自分が先に始めていたのに人気で追い越されたか、あるいはそもそも鬼人種である桜が活動することそのものが気にくわなかったか。
「……ですが、いったんはここまでにしましょう。ちょうどお食事がきたようです」
 襖をあけて入ってきた従業員達が配膳を始めた。
 献立はお米に味噌汁、茄子と豚肉と卵と大根の煮物、焼き魚、おひたしと漬け物といったよくある物だ。
 それにほら、あちらの方がユーリエ様の事を見ておられますよ」
 微笑んだ桜の視線の先に目をやれば、エリザベートがいる。
 食事しづらい二つの棒こと箸での食事を面倒と言い切った彼女は、ユーリエに笑いかける。
「ほら、ユーリエ私にご飯を食べさせてちょうだいです」
「うん、いいよ、ちょっと待ってて!」
 ささっと煮物を取り、口を開けて待っているエリザベートの口元へ運んでいく。
 ちなみに、スプーンの類はカムイグラ外からくる人向けということもあって用意されていたが、無粋なので出されなかったのは内緒だ。
 舌触りのいい温かさだ。ユーリエが自分の分を食べようとしているのを見たエリザベートは取り合えず箸もいらなそうなお味噌汁のお椀を取って口に入れてみた。
 魚介類のような風味の混じった味噌汁だ。
 ユーリエ自身も煮物を口に運んでみる。
 よく煮込まれた大根の味がじんわりと染みるようだ。
 自分でも作るし人に振舞うのも好きなゴリョウだが、それと同じように食べる方も好きだった。
(何せ新しいレシピや発想は人のもん食わねぇと知りえないからなぁ!)
 配膳されてきた献立を口に運んでいく。
 ご飯はいわゆる十六穀米が近そうだろうか。
 ベースになっている米はどうやらこの辺りで採れる地元米のようだ。
 付け合わせて食べるのを想定して作られているのか、煮物と一緒に食べると格別の美味しさが舌の上で蕩けだす。
 アルムもゴリョウと同じように自身のレシピ探求の一面を持って食事に訪れていた。
 箸を入れればほろりと崩れる焼き魚を口に運んでみる。
 下味はごくごく一般的な塩味だろうか。
 少しばかり薄味のようにも思えるが、噛めば噛むほどしみ込んだ味が染み出して口の中で味が変わるよう。
「桜殿、術者のことはどうするおつもりでござる?」
「さて……ひとまずは何もする気はないですね。
 私を狙うだけならば、それで構いません。ですが……宮中でも流行っているというのは少し気になります」
 お味噌汁を飲んで少しばかり口を開けた桜へと問いかけたのは咲耶だ。
「そうでござるか……桜殿がそう決めたのであれば、拙者等は何も言いませぬ」
「煮物が美味しいですよ?」
 ささ、と桜に促されて、咲耶は煮物に手を出した。
「この世界のお食事は変わってるわねー」
 差し出された献立を眺めながらチェルシーは驚いた様子を見せつつ、周囲の仲間を見ながら口に運んでいく。
 ジョージも体をいたわるために食事に参加している。独特の配置に驚きつつも、一つ一つ食べていく。
夕食を終えたイレギュラーズが店を出る頃には夕焼けが落ちていきつつあった。

成否

成功

MVP

アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土

状態異常

ゴリョウ・クートン(p3p002081)[重傷]
ディバイン・シールド
アルム・シュタール(p3p004375)[重傷]
鋼鉄冥土

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
さてさて、桜さんを呪ったのは……?

MVPは攻防両方に大きな貢献を果たしたあなたへ。

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