シナリオ詳細
独立都市アドラステイア
オープニング
●探偵とカルトと
カルトは自らを正常だと思っている。
カルトは日常的に正しいことを言う。
カルトは開放的に人へ接する。
カルトは人を一度救う。
いずれも『探偵』サントノーレ・パンデピス(p3n000100)の手帳に走り書きされた文言である。
天義のなかでも極めてグレーな執務についた信頼ある神父達から聞き取った、経験と知識からくる言葉だ。
知は力だというのなら、きっとこれは聖書と同じ意味をもつだろう。
●カルトと少女と
はじめは人さらいでした。
『迷子になったの? 騎士さんの所へ案内するよ』と、作り笑いで近づいてきた人々がいました。
その人達を追い払ったのは綺麗な鎧と紋章をつけた騎士さんでした。
『いまは人さらいが出ているから気をつけなさい』と、穏やかに笑って騎士さんは言いました。そうして私を保護するからと伸ばした手を、見知らぬ大人のひとが払いのけたのです。
大人のひとは騎士さんの紋章が偽造されたものであることや、この町の人間でないことを指摘して声を上げようとしました。
騎士さん……いいえ、騎士さんの振りをしたひとは、罵声を浴びせて逃げていきました。
大人の人はこう言いました。
『彼らのように巧みに人を騙してカルトへ誘い込む者がいます。お嬢さん。君のように純粋で善いひとが、魔の手にかからなくて本当によかった。そうだ、これも何かの縁です。今度私のパーティーに来ませんか』……と。
素敵なパーティーでした。わたしのように身寄りの無い子や、つらい過去のある子たちが集まって、一緒にドーナツを食べたのです。
この世にはびこる欺瞞から子供たちを守るために、大人……いいえ、『ファザー・ジェフソン』は安全な都市を作ろうとしている。そう語りました。
そこでなら、アストリアのように聖人の顔をして人々を騙す者はなく、未来をゆがめられてしまうこともないと。
そう、『子供たちはみな、なりたい自分になれる』と語りました。
わたしたちは迷いながらも、ファザーについていくことにしました。
もう騙されないために。
もう歪められないために。
天義という、大きな失敗をした国から離れて、私たちはなりたい自分になるのだと。
ええ、そうです。
わたしは。
「その国アドラステイアで、魔女として処刑されたのです」
「我らが新しき神が許に、致命者を送り届けん!
我らが父と母の教育に感謝を!」
「「我らが父と母の教育に感謝を!」」
聖歌をうたう子供たち。
槍を交差し、厳めしく立つ子供たち。
首にかけた縄をそのままに、ブロンズの像が渓谷の台に置かれている。縄はそのまま、跪いた少女の首に繋がっていた。
少女の名を、ラヴィネイル・アルビーアルビーという。
締め付けた縄の苦しさで声がでぬ彼女の前に、ティアドロップタイプのサングラスをかけた大人が立っていた。
反射的に立ち上がろうとする少女を、子供たちの槍が押さえつける。
「ファザー・ジェフソン。この者の断罪を始めてください」
「いいだろう……清き子供たちよ」
大人――ファザー・ジェフソンはサングラスから透けて見える目を、優しく細めてラヴィネイルを見下ろした。
「この者は悪しき魔術によって清き子供たちを誘惑した。彼らの平和を乱し、心を乱し、やがて世界を破滅に導くだろう。よって、魔女の刻印を施し『疑雲の渓』へ堕とすものとする。――刻印を」
「「刻印を!」」
白銀の鎧に身を包んだ子供が手をかざすと、同じく鎧を纏った子供が熱した箱から焼鏝をとりあげた。
この期に何が言えようものか。
ラヴィネイルの後ろ首に手がかけられ、ナイフで服の背が切り開かれていく。
直後に、激しい熱と焼き付く音が背骨を通じて駆け上がった。
どんな声をあげたのか、記憶すらできない。
暴れることのできないように押さえつけていた鎧の子供は、満足げにラヴィネイルを見下ろしていた。
「ターギェ、前へ」
ファザー・ジェフソンが手をかざすと、一人の少女が聖歌隊の中から歩み出た。
「よく魔女を見つけ出し、告発しました。神への奉仕を証して、清きターギェにキシェフを与えましょう」
銅のコインを少女に握らせ、優しく手を握るファザー・ジェフソン。
少女はラヴィネイルを一度だけ振り返ると、唇の片端だけで笑った。
「処刑を」
と声が聞こえた。それきりだ。
ブロンズ像が突き落とされ、引っ張られるようにラヴィネイルの身体もまた谷へと転げ落ちていく。つかまる辺すらもないほどに。
遠ざかる光。
包み込む闇。
聖歌隊の声が遠く、遠く、遠く。
手を伸ばした、そのときに。
――ラヴィネイルは、空中庭園にいた。
「ようこそ、イレギュラーズ」
●探偵と少女と
天義(聖教国ネメシス)には深い深い傷跡がある。
冠位魔種ベアトリーチェの企みによって一度は聖都フォン・ルーベルグが、もとい天義自体が滅びかけたという歴史的大事件である。
その裏には天義の歴史をねじ曲げたアストリア枢機卿や王宮執政官エルベルト・アブレウによる圧政があり、クーデターもまた彼女たちによって引き起こされていた。
長年にわたり魔種が枢機卿に座してた事実は、その当人が討ち滅ぼされたとて消えはしない。
そして人々の中に、当然の不安が湧き出した。
――天義は嘘をついていた。
――神を偽り、魔種に支配されていた。
それは町中にいつの間にか貼り付けられる『天義は嘘をついている』というチラシが象徴していた。
その一枚を引き剥がして放り投げ、探偵サントノーレは手帳のページをめくった。
「チラシにこそ書かれていないが、この運動の主体は『独立都市アドラステイア』だろう。
彼らは震災孤児たちを大量に集めて天義東部の海沿いに街を作った」
元々ただの漁村だった場所を武装占拠し、高い壁で覆った。山の地形を利用したそれはまるで要塞都市である。
「彼らは自分たちの神『ファルマコン』を崇拝して、天義からの脱却と独立を掲げた。
……ああ、その顔は想像がついたって顔だな?
天義はこの極端なまでの異端行動を無視できない。国のすぐ隣に『天義は嘘つきだ』と触れ回る都市が現れたんだからな。
今すぐにでも騎士の大部隊を送り込みたいのはやまやまだろうが、先の傷跡を利用したところから分かる通りに今天義にそれだけの体力がない。
リンツァトルテもイルも、レオパルでさえ天義復興に追われている。
そんな中で慈善を語って戦災孤児たちを大量に奪っていくんだから、たまらないよな。
俺に課せられたのもその一部だ。
ターギェという子供の捜索願が出て数ヶ月。アドラステイアに入ったことが確認された。
でもって、アドラステイアの暴挙を抑えたい国の意向も相まって、俺に内部の軽い調査とターギェ捜索の依頼がなされたってわけだ」
サントノーレはそこまで語ってから煙草をくわえ、火をつけようとして……。
「あ、言い間違えた。『俺とローレットに』だ」
●刻印の少女
説明をするからついてこい。サントノーレがそう言って今回選抜されたイレギュラーズたちと共に入ったカフェに、彼女はいた。
あつあつのコーヒーカップをいつまでもふうふうとさましていた、長いツインテールの少女である。
「紹介する。ラヴィちゃんだ」
こちらに気づくと、背の高い椅子からぴょんと降りて、小さくおじきをした。
「ん……。ラヴィネイル・アルビーアルビーです。今回は、よろしくお願いします」
彼女は? と尋ねるイレギュラーズに、サントノーレは肩をすくめて見せた。
「彼女はしばらくアドラステイアで暮らしていた戦災孤児でね。
長いこと平和にやっていたらしいが、つまらないことで『魔女』に認定。刻印をおされて谷に突き落とされたらしい」
つまらないこと。その内容をサントノーレはごく単純に説明した。
「なに、ラヴィちゃんに三人の男子が告白してきた。みな友達だと思ってたラヴィちゃんが迷ってると、その男子を好きだった女子が『彼女は魔女で、男子たちを魔術で誘惑した』と告発したわけだ。
この都市じゃ告発イコール処刑は当たり前でね。もしイレギュラーズとして召喚されていなかったら、今頃生きてはいなかったろう。
確かにラヴィちゃんは可愛いし可愛いことは罪かもしれないが、それで背中に一生消えない刻印がおされるのはやり過ぎじゃないか?」
だろ? とあえて茶化した聞き方をするサントノーレ。だがその目に怒りや正義の火がついているのが、わかっただろうか。
そして、だからこそ非情な選択を自分の中で押し殺したことにも。
「アドラステイアへの、隠し通路を知っています」
ラヴィネイルは自らの胸に手を当てて、浅く呼吸をしてこう述べた。
「ターギェのもとに、案内します」
――これは、始まりの物語。
――魔女狩りの都市と、そこに渦巻く子供たちの狂気と、そして
――消えない傷の物語。
- 独立都市アドラステイア完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年09月06日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●独立都市アドラステイア
高い高い塀がある。
見上げる住人のローレット・イレギュラーズと、その案内人であるラヴィネイル・アルビーアルビー。
そばの木製看板には『ホープカントリー』という地名がペイントされていたが、それを上から塗りつぶすかのように赤い文字で『アドラステイア』と書き付けられていた。
「本来なら、あの道を通っていくんだよね?」
『夢想神威』クリスティアン=ベーレ(p3p008423)が巨大な門を指さした。
壁のひとつ手前にある、白くて大きなゲートである。
まるで遊園地のウェルカムゲートだが、とてもではないがひとを歓迎する雰囲気には見えなかった。
端的に言って……。
「あそこにぶら下がってるのは、人っすかね」
『秒速の女騎士』中野 麻衣(p3p007753)が同じく指をさし、門のてっぺんからさがったみのむしめいた物体をしめした。
結構な遠さゆえにか、それとも非常識さゆえにか、一見して人がぶら下がっているようには見えなかったが、確かによく見れば逆さに吊された人間であった。
「あいつは……」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は目を細め近づいて確認しようとした自分の足を叩いてとめた。
「いや、構ってる場合じゃねえか」
「そういうこと。あれが気になって近づいていった人を、彼らは逆に観察するつもりだろうしね」
クリスティアンたちは壁を大きく迂回する形で、海岸沿いへと歩いて行った。
「元々、漁村を作り替えた場所なので……通り抜ける道も、なくはないんです」
ラヴィネイルの案内を受けた『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)たちは、渇いた下水道のなかを通り抜けていた。
「背教者たちの街、アドラスティア……。
この街が“破滅”であるかどうか、滅ぼすべき存在であるかを見極めるには今暫くの熟慮が必要か……」
R.R.の行動理念からして、アドラステイアは未だ放置可能な対象だった。
しかしなぜだろう。
理念とは別のところで、『放ってはおけない』という感情が包帯を通して外へ漏れ出していくような、そんな気持ちになっていた。
「時には己の責務ではなく心の声に従ってみるのも悪くない……か」
今回うけた仕事は二つの調査。
ひとつはこの塀に囲まれた都市アドラステイア下層エリアの実情を探ること。
もうひとつは、捜索願の出された少女ターギェの消息を探ることである。
表面的にはターギェの捜索が目的になるが、法王からアドラステイア諸問題の対応と解決を依頼されている以上、可能な限り情報は持ち帰っておきたいというのが本音である。
いまだ、塀のむこうに何があるのかわからないのだ。
「何のためにこんな場所作ったのか、なにをしたいのかもサッパリだね。
けどひとつだけハッキリしてるのは……『子供にひどいことする連中は悪質』ってこと」
地下道の暗さに対応するためにたいまつを掲げ、『鬨の声』コラバポス 夏子(p3p000808)はラヴィネイルの顔をちらりと見た。
期待していない子供の顔。……とでも言えばわかるだろうか。
彼女は生きていくための職務として、自分を崖下に突き落とした連中のもとへ未だ見知らぬ人間たちを案内しようとしていた。夏子の主観では、あくまで夏子は無害な善人であるつもりだが……ラヴィネイルはどう思って接しているのだろう。
表情の薄く、まるで嘘をつくように作り笑いをする彼女の真意を探るには、まだ壁があるような気がした。
それこそ、アドラステイアの壁さながらに。
「平和な場所では、子供はこんな顔しないんだよ……」
道中。ラヴィネイルはアドラステイアのことを話してくれた。
といっても、お友達との楽しい思い出を語ったわけではない。
粗末なバラック小屋に何人も雑魚寝していたことや、キャンディを隠していた子供が告発されキャンディもろとも崖下へ落ちていったことや、毎日笑顔で挨拶とお祈りと聖歌を捧げていたことや……。
笑顔と幸福を毎日たがいに確認し合い、少しでも矛盾を感じたら証拠の有無にかかわらず何人もが一斉に告発をしたという話もした。
「告発は早い者勝ちなんです。沢山告発できた人が褒められて、逆に黙っていた人は同罪として告発されました」
「…………」
『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はその様子を、うまく頭の中で想像できなかった。
歌ひとつで世界をかえたさまや、ひとりの号令が軍隊を突き動かしたさまや、たった一滴の涙が人々を変えたさま……世界は人々の想いで出来ているようにすら、ココロには思えていた。だからこそ、想いに優先して環境が人々を支配するさまが想像できなかったのかもしれない。
(言い訳を作って、陥れて、それであなたの気持ちはどうなっているの?
あの子をみつけるのは誰のためでもなくわたしのため。あなたを知りたいの……)
「ターギェ」
ココロのつぶやきに、ラヴィネイルは肩をびくりとふるわせた。
自分を告発した……言い方を変えるなら自分を殺した人間の名前である。
「その子のこと、聞いてもいいですか?」
『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)があくまで優しい口調で問いかけると、ラヴィネイルはうつむきながら少しずつ語り始めた。
「友達、だったとおもいます」
「仲が良かったのですか?」
ルリの次なる問いかけには、しかし首を横に振った。
「あの場所では、みんなが友達でしたから」
「…………」
ルリは目を細めた。
友達は助け合うものであり、毎日を幸福に清らかに生きる自分たちが、それを損なうような嘘やごまかしをするはずがない。
……と、ラヴィネイルの暮らしていたエリアでリーダーシップをとっていた人物は語ったそうだ。
「そのリーダーの人、名前や特徴を聞いてもいいですか?」
「……探すんですか?」
「はい。だって……」
と、言いかけて、ラヴィネイルの乾いた目にハッとした。
「質問をかえるのです。『どこにいるんですか』?」
「『ヘブンズゲートの向こうに召された』そうです」
ヘブンズゲートとはアドラステイアの頂上の更に上。天上の世界にあるという楽園なのだそうだ。
人々は永遠に老いず病まず、生前の罪が如何なるものであっても聖なる魂と肉体を授かって永遠に幸せにくらしているという。
そんな場所が、あるはずはない。
「な、何て胸糞悪い詐欺師連中スか! ブラックっス! ブラック都市っス!
絶対に許せないっス! ラヴィちゃんはボクが守るッスよ! アイドルの誇りに掛けて!」
アストリアからうけた失敗を繰り返さないための都市でありながら、まるでアストリアたちが生み出したものと同じような欺瞞を、このアドラステイアは積み上げているように見えた。
死者が戻ってくるという月光人形。
秘密裏に製造された聖獣。
危険な薬物や想像を絶するルールのもとで酷使されたセイクリッドマスケティア。
まるで同じだ。
そっくりそのまま移し替えたかのように、繰り返している。
「もう、こんなことはさせないって……思ったのに」
『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は強く剣を握りしめ奥歯を噛んだ。
「弱みにつけ込んで人々を利用してるなんて。今すぐにでも、なんとかしたいけど……」
サクラは賢く強い女性だったが、しかしだからこそ『集団の力』というものを理解していた。
こういうときに『正しさ』が力をもたないことも。
だから、本当に変えたいなら順序を踏まねばならない。
そのために、今があるのだろうから。
『新月の香水』の蓋をひらいて、のぼる香りに目を閉じた。
やがて、彼らはたどり着く。
「そうか、ここが……」
『新たな可能性』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は用意されたローブを身に纏い、顔を隠すようにして周囲を見回した。
どういう経緯で捨てられたのかもわからないような廃材となにかの腐ったような臭いで一杯になったそこは、おそらくゴミ捨て場のひとつだろう。
振り返ればそこには高い高い灰色の壁があり、逆方向へ振り返れば美しい時計塔が鐘を鳴らしていた。
ラヴィネイルは『お祈りの時間です』と、鐘の意味を教えてくれた。
いかなる状態であっても、鐘が鳴っるこの時間にはお祈りをせねばならないという。
(密告、処罰、殺人関与……少しずつ倫理観を上書きして、この子供たちは隣人を殺すに至ったのだろうな)
寄る辺なく倫理も定まっていない子供なら、大人のもっともらしい文句に染まりやすいものだ。
そして選別自体を子供たちに行わせ、狂信は先鋭化を続けていく。
「まるで巨大な、蟲毒の壺だな」
いまアーマデルたちは、壺のふちに手をかけたのである。
●なべて御霊は報われぬ
整然と並ぶバラック小屋は、さながら整地されたコンテナハウスのようだった。
壁と屋根がかろうじてあるというだけの小屋に。木の板を開閉するタイプの粗末な窓がついている。
「…………」
R.R.がそっと中をのぞき込んでみれば、必要最低限の布団がぎゅうぎゅう詰めで並べられているのがわかった。
まるで粗悪な強制労働施設だが、それに反比例するように道行く子供たちの表情はひどく穏やかだった。
「ごきげんようジェイムス」
「ごきげんようハリー。水くみは終わりましたか?」
「もちろんですジェイムス。漁業班に届けに行くところです」
十代前半とみられる幼い少年が、水が入っているであろうタンクを担いで歩いている。
彼らは今の生活が幸福でしかたないという表情や足取りを、そういう仕組みでうごくパペットのように動かしていた。
どこかにぼうっと立ち止まっているような子供はいないようで、R.R.はアーマデルはできるだけ怪しまれないように町中をてくてくと歩き続けていた。
「かわった会話は聞こえたか」
「いいや……まるで壊れた蓄音機だ」
R.R.の優れた聴覚には、アドラステイア下層市民の会話や日常的な雑音が聞き取れた。
しかし入ってくるものといえば、子供が台本を棒読みしたかのような『穏やかな挨拶』と『幸福と大人への感謝』ばかりだ。
日常会話らしい会話を、ほとんどしていないように思えた。
R.R.がそのことを話すと、アーマデルはため息でそれに応えた。
「当然だ。ボロをだせば谷へ堕とされる。互いが蹴落とし合う関係である以上、誰も信じられはしないだろう」
だがこの不気味な状況は好都合にも、場に溶け込むための定型句を唱えやすいという側面も持っていた。
万一の場合はそれもアリか。などと考えながら、アーマデルたちはある場所へとたどり着いた。
「あなたは?」
金色の全身鎧に身を包んだ、アーマデルとほぼ同年代であろう少年が槍を傾けてアーマデルへ尋ねてきた。
「ごきげんようジェディ。俺はオットボール。この場所の清掃を任されました。今から清掃にかかります」
「ごきげんようオットボール。私は監視を任されています。崇高なる父と母のため、感謝をこめて清掃をしてください」
鎧を着た少年は頷き、槍を担いでどこかへと離れていく。
R.R.へ振り返ると、R.R.は『OK』のサインを出してくれた。
彼の役割は優れた聴力による観察と『レーダー』スキルによる警戒である。
たとえアノニマスやインスタントキャリアで身を守っていても、アドラステイア市民の中にそれらを看破可能なスキルをもった者がいないとは限らない。……いや、いるという前提で動いておくのが妥当だろう。
「そうでなければ、今頃どこかの誰かが一人で潜入を済ませていたはずだ」
「いや……潜入は済ませたようだが、失敗したらしいな」
小首をかしげるR.R.に対して、アーマデルは『だろう?』と虚空に話しかけた。
「この場所で抹殺された子供がいる。天義の異端審問教会に属する騎士で、俺たちのようにアノニマスを用いて潜入したらしい。だが、鎧の子供にスキル使用が発覚、特定されその場で殺害されたらしい」
「鎧の子供……さっきのも同じように鎧を纏っていたな。ラヴィネイルの話だと、キシェフを多く得た子供は鎧と称号を与えられて聖銃士(セイクリッドマスケティア)になれると聞いたが……おそらくはそれのことだろう」
下層エリアには貧しい労働者である子供たちだけでなく、入り込んだネズミや反逆者を素早く抹殺するための戦力が配備、巡回しているということだろう。
そしてアノニマスを看破できるほどピンポイントなスキルを保有している聖銃士ばかりではない、と。
「あまりうかうかはしていられないな。俺たちがまるで安全でないことがハッキリした」
アーマデルたちは一旦この情報を持ち帰るべく、仲間達が隠れている合流ポイントへと戻っていった。
●侵攻の証
いくつもの住宅が建ち並び、古い煉瓦で舗装された道がくねるように続いている。
グドルフは民家の影に隠れてローブのフードを目深に被ると、表を歩く十歳前後の子供たちをじっと観察していた。
「今日、先生は?」
「これないって。メイが」
「なんだよ新しい武器作ったのに。キシェフ貰うチャンスだったのにな」
ここの子供たちは表面上自由に、そして互いに友好的に接しているようだった。
グドルフ同じように観察していたサクラが、フードの下で小首をかしげる。
「思ったより、普通に暮らしてるんだね。強制労働施設で幸福を義務づけられてるのかと思った」
奇しくも、サクラがいう『強制労働施設で幸福を義務づけられる』エリアはすぐ隣に広がっている。下層エリアと言ってもその様相や振る舞い方は場所ごとに若干の違いがあるようだ。
サクラがさらなる情報収集のために移動しようとすると……。
「おめえにゃアレが『普通』に見えたのか?」
「……どういうこと?」
ぴたりと動きをとめるサクラ。
グドルフは『見てりゃわかるぜ』といって、民家の窓をあけてするりと屋内へと忍び込んでいった。
このエリアに並んでいるのは一般的な二階建て住宅だった。そこそこの間隔で建設された家々は、壁や屋根の雰囲気を見るに古くからこの場所に建っていたもののようだった。
おそらく漁村を武力制圧した際に家々もまた徴収したのだろう。
もとの住民がどうなったのかなど……。
「う……」
サクラは思わず口元を覆った。
壁にべっとりとついた血の跡と、放置された成人男性の死体。
身体にはさびた剣が突き刺さっており、それが床まで届いているのかぴんと立っていた。
詳しく調べる気にはなれなかったが、どうやら殺害されてからかなり長い月日が経過しているのがわかる。
……にも関わらず、あちこちには汚れたマットレスが何個も置かれ、おそらくは誰かが寝起きしている形跡がみられた。
チッと舌打ちをして、キッチンやその他を物色するグドルフ。
「さっきのガキども、まるで何日も寝てねえってツラしてやがった。歩き方もフラついてよ。だってのに平気そうに振る舞っていやがる。心配するそぶりもねえ」
「この環境での生活が、常態化してるんだ……」
と、そこで。
サクラはグドルフにだけ聞こえるようにチチッと舌を鳴らした。
誰かが接近することを知らせる合図だ。
グドルフたちが素場やく物陰に隠れると同時に、家の扉がひらく。
「ただいまー。あーおなかすいた。誰か居る?」
死体の横をまるで当たり前のように歩いて行く少年。グドルフはすぐそばに落ちていた腐った果実を壁に向かって放り投げた。
べちゃりという音につい振り返る子供。その隙に、グドルフとサクラは目を大きく見開いて子供の背後へ急接近をかけた。
死体の横に、子供が倒れている。
サクラが耳を近づけ、まだ呼吸があることを確認した。
「大丈夫、生きてる。殺すのはさすがに、ね」
「ま、俺様の知ったこっちゃねえけどな」
そう言いながらちゃっかりと不殺攻撃で子供を仕留めていたグドルフは、子供のポケットから一枚のコインを見つけ出した。
窓からさす陽光に表面の刻印を照らす。
すると中央に掘られた文字が不思議と七色に光った。
「なんだこりゃあ? キ――シェ、フ?」
●魔女ならぬ疵痕
秘密の抜け道から一旦戻ったアドラステイア外周地。海辺にあたるエリアに、ドアが外側から板打ち封鎖された家があった。
二階の窓から無理矢理入り込む形で、ラヴィネイルたちは調査班が戻ってくるのを待つこととなった。
「ここは、どういうところなの? そもそもあの抜け道って……」
護衛のためにそばについていたクリスティアンは、ホコリだらけの窓から外を見ながらつぶやいた。
「ん……」
ラヴィネイルは少し話しづらそうにしてから、喉を押さえて語り始める。
「アドラステイアに潜入したっていう人に、聞きました」
「それを、密告しなかったの?」
クリスティアンの問いかけに、ラヴィネイルは頷きはしなかった。
「迷い、ました」
「……」
武器を手に床に座っていたミリヤムが、ぴくりと眉を下げる。
あの環境下での『チクりあい』へ積極的に賛同できない人間は遅かれ早かれ間引かれる。管理と調整によって合理的にもたらされた同調圧力は、時としてこうした自浄然様をもたらすものだ。
身内を崖下に蹴落とすことが自浄とは、皮肉なものだが。
「なら、あの通路は大人達も知らないんですね」
「塞がれていないということは、おそらく……」
それから三人は雑談を交えながらアドラステイア内部のことを話した。
といってもラヴィネイル自信いち下層市民にすぎず、中層市民であるファザーのことも直接彼女を勧誘したファザー・ジェフソンのことしか知らなかった。
それでも、分かったことは多くある。
一旦おさらいをすると、こうだ。
アドラステイア下層域は丘側と海岸地帯をまたぐドーナツ型の街になっている。
街は管理する大人(ファザーやマザー)によってやんわりと区分けされており、物資の移動や人員補充のために相互の行き来は可能だがコミュニティの分離がおきているために情報が隔離されやすい傾向にあるようだ。
また、グドルフやアーマデルたちが見てきた街の様相や子供たちの振る舞い方が場所によってやや異なるのも、管理する大人の性格や方針の違いゆえに現れるのだろう。
そして聞く限りでは、天義の戦災孤児を中心に子供だけで住民が構成されている一方、告発と『魔女裁判』によって頻繁に減少していくため、時折の増加に対して減少量が上回っているように感じられた。
このままではいずれ致命的な人口減少が起こり都市機能が維持できなくなるかもしれないが、そもそも減少させること自体が目的であったなら放置できない問題である。
アーマデルの発言ではないが、それこそ『子供たちを使った蠱毒』であるかもしれないのだ。
「ところで、背中の具合はどう? 痛かったら無理しないでね」
小さく手をかざして言うクリスティアンに対し、ラヴィネイルはびくりと身を縮こまらせた。
暴力に対して過剰におびえる子供の反射的動作である。
そして多くの場合
「すみません……」
と、何もしていないにもかかわらず謝るものだ。
ミリヤムは腕組みをして上向いた。
「うーん……そうだラヴィちゃん、アイドルやりません? 大事なのは過去よりもいま、希望を見られるかっスよ!」
試しに希望のある未来について語ってみたが、ラヴィネイルは作り笑いをうかべて『ありがとうございます』と言うだけだった。
信じて生きた世界が自分を殺したなら、それ以上他の世界を信じるのは難しい。仮に時間が解決する問題だとしても、その時間はまだ足りない。
なので、話題を一度変えることにした。
「ところで、抜け道を教えてくれたっていう人はどうなったっスか? この街にしれっとなじめるくらいの能力は持ってたんスよね」
「はい……そのはず、でしたけれど」
●壁の内
「やっぱり、見えませんね」
アドラステイア下層域を中央側へと進み、高い壁の前に立つ麻衣。
透視能力を行使してみたが、壁の向こうをのぞき見ることはできなかった。壁の厚みが1m以上あるか、それとも透視防止処理が施されているかだ。
この独立都市を建設した人間達がどれほどの資産と能力をもっていたのかはわからないが……少なくとも、誰でも取得可能なレベルの非戦スキルに対して無防備なほどずさんな建築をしてはいなかったらしい。
「まあ、それほどずさんならこんな『壁』程度で隔絶できはしないでしょうしね」
それこそ空を飛べばこんな壁など一分とかからず越えられる。それができない、していないということは、相応の強固なプロテクトが成されているということだ。
結論。この壁はあくまで隔絶の象徴と意思表示にすぎないということなのだろう。そしてきっと、そびえ立つあの時計塔も。
「なら、この先は……」
麻衣はローブを再び深く被り直して、あまり人目につかないように歩き始めた。
場所はR.R.たちと同じエリアだが、別行動中である。
一応の狙いとしては、仲間達が潜入に失敗して追われる段階になったところで、自分だけはアノニマススキルを用いて街への潜伏を継続するというものだったが……。
「麻衣、逃げるぞ。ここにはレーダー持ちがいる」
彼女の居場所をいとも簡単に特定して、R.R.が彼女の肩を叩いた。
狩れもまた、レーダースキルを持っていたためである。
「まだ遭遇していないが、もし孤立した状態で遭遇したら裁判もなくその場で処刑されるだろう。俺たちはその情報を持ち帰るつもりだが、お前はどうする」
「……そうですねえ。壁がのぞけないことが分かったので、今はそれでいいでしょう」
意図的に無防備になっておいた麻衣のこと。それこそバレればその場で死が待っている。R.R.やアーマデルたちと共に一度アドラテイア外周の合流地点へと向かった。
●告発者ターギェ
麻衣が透視能力で得られた情報として『壁が覗けない』と述べたのは、それ以外のものは基本的にオープンであるためである。
隠すことは怪しいことであり、偽ることは怪しいこと。この街では罪を犯すどころか『怪しい』だけで告発され、こじつけの証拠によって処刑される。
子供たちは基本的に、ものを隠さない習慣ができていた。
隠していること自体を悟られない者だけが、隠すことができるのだ。
ココロたちが探索に訪れていたのは丘側のエリアだった。
アドラステイアの門がすぐそばにあるエリアで、ここに暮らす子供たちの多くは『布教活動』に従事しているものが多かった。
どこかでも述べられたことだが……天義の町中にチラシを貼り付けて回ったりこっそりとアドラステイアに来るようにそそのかしたりなんて行為がうまくいくことはない。
「今日もチラシを剥がされていました。あんなに沢山貼ったのに……」
「それは大変でしたね」
ココロはいかにも自分は一緒に布教活動に行ってきたといわんばかりの常態を装って子供たちと会話をしていた。
別の子供たちが話に加わってくる。
「本当に酷いよな、天義の大人達は。法王はずっと魔種に騙されていて、レオパルは都合の悪い奴を嘘つきだって言い張ってるんだ。ファザー・コアストックのことも嘘つきだって言ったんだぜ」
「ほんとほんと。あんな奴らの言うことなんて気にすることないよ。僕らは頑張った。きっとちゃんとした人なら分かってくれるよ」
子供たちは『いかがわしいチラシをはる』という行為に同調し、互いを励ましあうことで結束を強め、その一方で正常な社会を敵視するように歪んでいた。
とても簡単な『敵の作り方』である。
なので、ココロはもう一石を投じてみることにした。
「ねえ。『嘘の告発』をしたひとのこと、知らない?」
アドラステイアにおいて嘘は裏切りであり、裏切りは罪である。
しかもそれが、不当にキシェフを得ることであったならなおのこと。
子供たちは嘘の告発者を探し出すべく、そしていち早く『自分がそれを告発できるように』動き始めた。
この辺りから、物陰に隠れていた夏子とルリも動き始めていた。
「やあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
腰をかがめ、15歳程度の少女に目線をあわせる夏子。
ここに至るまで、ビクビクとしている子供にカマカケをするなどして情報を引き出そうとしてみたが、ほとんど全ての子供が強い警戒心をもって反応するために情報の引き出しが困難だった。
後から考えてみれば、一切身に覚えのないことでもこじつけて処刑していたという環境である。『こじつけ』を罪であるとして告発されないか、皆いつも恐れているのかもしれない。
なので、情報を得るには直接たどっていくのが早いと夏子は結論づけた。
「探してる人がいるんだけど」
「最近、密告をしたり仲間を多く作るなどして力をつけた子供はいませんか」
夏子の後ろからぬっと現れたややがっしりとした体型の人物。
シェイプシフトによって体格をごまかしローブを被ったルリである。
持ち前の『信仰蒐集』能力によって、ルリの言葉はつよい説得力となって子供に響いた。
ルリはこれまで同じ手法で子供たちに問いかけを行い、そのなかでいくつかの情報を獲得していた。
たとえば内部に生まれた反乱分子。こうしたものは芽が出た瞬間に刈り取られるために生まれていない。また子供たちは入れ替わりが激しく隣人が明日には処刑されていることもザラであるため信頼関係が薄くとても『上っ面』で信頼しあっているということ。
下層域にも管理する大人によって方針が若干ずつ異なり、移動した際はそのエリアの方針に従うことが当然であること。
――などが分かった。
「ええと、密告……ですよね」
問いかけられた少女はちらりと振り返り、それに気づいた別の少年へと駆け寄っていった。
こちらを振り返りながらなにごとか話し、そして少年はにこやかに手を振る。
「それはターギェのことでしょうか。ミスター……ええと、お名前は?」
少年の問いかけに一度顔を見合わせ。
「サマバボ」
「ミスティック」
まるっきりの偽名で、二人は応えた。
夏子とルリ、そして少し離れた形で情報収集をしていたココロを交えた三人。
この三人は少年の案内で『疑雲の渓』へとやってきていた。
儀式に用いるであろう様々な道具が並び、聖歌を歌うためのひな壇めいたステージもあった。
ターギェはそれを清掃するスタッフとして、そこにいた。
元々特徴を聞いていたこともあって、夏子たちはターギェへと歩み寄った。
「やあ。君のこと気になるって奴が居てね。ほらアイツ。カッコ良くて優しくて……逢いたいらしいよ。どうする? 場所教えるよ?」
「え、ほ、本当ですか?」
ターギェは頬に手を当て、顔を覆うようにして照れるしぐさをした。
そして小声で夏子にささやきかけた。
「皆にはナイショですよ?」
「ん」
夏子はウィンクをして、そして手を差し出した。
その手をぎゅっと握り、そしてしがみつくターギェ。
「あの、もう一ついいですか?」
顔を赤らめて、ターギェは上目遣いに夏子の顔を見た。
「ん? なんでも言って」
「手首、貰いますね」
腕にしがみついた状態で、金色のナイフが夏子の手首に押し当てられた。
痛み、よりも冷たさが先に立ち。めり込んだナイフをターギェもろとも振り払うことで今度はカッと腕が熱くなった。
「あ、マズいこれ毒だ……」
みるみる腫れ上がっていく左腕。
からころと転がっていくナイフを、今度は少年が拾った。
「逃げないでくださいミスター……ええと、パラボナとミステイク、でしたっけ。偽名なんですよね? きっと」
手の中でナイフをもてあそび、少年はすっと仮面を被った。
すると彼の身体が光に包まれ、黄金の軽鎧が身を包んでいく。
身構える夏子とルリ、そしてココロ。
「こんなに堂々とした侵入者は久しぶりです。きっと、よいキシェフになるでしょう」
少年はナイフをターギェへと手渡すと、仮面の下で笑った。
「殺せ」
「はい、『清廉』のケイン。父と母とファルマコンの名の下に」
とろけるような、恋をするような笑顔で、ターギェは仮面の少年へ応えたのだった。
不運は、聞き込み調査の段階で彼らが外からの侵入者であることが感づかれていたこと。
幸運は、そのエリアがアドラステイア正門前であったこと。
門番の兵士達をココロや夏子の戦闘力で無理矢理押しのけ、門を(ルリのパワーで)こじあける形でルリたちは命からがら脱出することに成功した。
侵入者との戦闘を知らせる鐘の音を背に、舗装された道を走る三人。
ゲートへ逆さにぶら下げられた天義の騎士らしき男が、ルリを見て。
「たすけて」
とだけ、囁いた。
「……!」
背にいまもあたる銃弾や魔法の爆発をうけながらのこと。
走って逃げるしか、出来ることはなかった。
●アドラステイアに鐘は鳴る
「で、撤退してきた……と。オーケー、充分だ。
内部の情報も手に入ったし、捜索願がでてたターギェの状態も確認できた。言うことなしだな」
所変わって天義首都フォン・ルーベルグのカフェにて。
サントノーレは煙草を加えたまま依頼書にサインし、報酬のコインを積んだ。
「こいつを持っていけば、天義の教会連中も予算を割かざるをえないだろうぜ。人員は相変わらず足りないだろうから……これからも俺やアンタらローレットに頼ることになるだろうけどな」
依頼書諸々を突き出して、サントノーレは口の端から煙を吹いた。
「そういうわけだ。これからもヨロシクな。子供の涙ひとつ拭えねえ国にかわって、あのクソの山を打っ潰そうぜ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――依頼条件を達成しました
――独立都市アドラステイアの諸問題解決に対し、本格的な依頼が発生しはじめるようです
GMコメント
ごきげんよう。黒筆墨汁です。
皆さんにはこれから、独立都市アドラステイアへ潜入し、ある少女の行方を捜索していただきます。
そのさなかで、きっとアドラステイアの光と闇にふれることになるでしょう。
■独立都市アドラステイア
外周を高い壁で覆われた都市です。
内部は山もしくはピラミッド型になっており、ふもとには子供たちが自給自足による最低限の生活を送っているそうです。
中央にいくにつれて階級があがっていき、風景も美しいものになっています。
接近は極めて危険であり、高高度からの目視でのみその存在が確認できました。
ラヴィネイルの話によると『アドラステイア下層』と呼ばれるエリアに今回の捜索対象であるターギェが暮らしていたとのことです。
ターギェはラヴィネイルを告発した人物ですが、ラヴィネイル自身は恨みや憎しみはとくに無いと語っています。強いていうなら『環境がそうさせた』とも。
下層はバラック家屋が並び、スラム街の空気に包まれています。
中層への移動は『選ばれし子供たち』以外には禁じられており、中層からやってくる大人たちから貰う物資によって一定水準の生活を保つことがかろうじて可能になっていたようです。
しかし物資はキシェフというコインでのみ手に入れることができ、そしてキシェフは告発をはじめとする『神への奉仕』への証として配布されます。
よって子供たちは日頃から相互監視を行い、少しのことで告発しキシェフを得ようとします。『環境がそうさせた』とはこのことです。
■潜入
下層街のいち地区へと潜入し、ターギェを捜索します。
この依頼の目的はアドラステイア内部の様子を知ることと、ターギェの存在を確認することです。生存を確認したり連れて帰ったりできればベストですが、それはあくまでオプションとして扱われています。
潜入作戦は以下のパート構成で行われます。
潜入するにはラヴィネイルの案内が必要不可欠です。
彼女と共にアドラステイア内部へと入っていきます。
●調査パート
アドラステイア下層の暮らしぶりや常識について調査します。
といっても、本来壁で隔てた子供たちですので、見知らぬ人間が現れれば問答無用で即通報されかねません。
下層でよく用いられるローブを着用して顔諸々を隠してこっそりと紛れ込む形になります。
もし『アノニマス』や『インスタントキャリア』といった高度な潜入スキルを持っていたなら、彼らの中にしれっと混じって調査することも可能でしょう。
依頼目的からしても得られる情報は多ければ多いほどいいので、チームを4~5つに分けて活動するのをお勧めします。もってる技能や調査手段で分けるとベターです。
もし調査や探索が苦手という方は、出入り口にほどちかいやや安全な場所でラヴィネイルに質問するなどして情報を掘り下げてもいいでしょう。(街の子供たちに質問するより百倍安全です)
●脱出パート
潜入はバレるギリギリまで行われますが、もしバレたらこの場からいち早く脱出しなければなりません。
ここでは戦闘力の高い『聖銃士』や『聖獣』といった存在が追っ手として現れます。
彼らの戦闘能力は『不明』です。
適度に戦闘しつつ、追っ手が増えすぎないうちに逃げ切りましょう。
もしつかまったら最悪行方不明や死のリスクを負います。
また、この時点でラヴィネイルが捕まった場合依頼は失敗扱いとします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!(行方不明)
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない行方不明判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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