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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>真坂門夜美逸雷舞

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 狩衣の裾を引きずり、屋敷をせわしなく歩き回っている男が居る。
 名を真坂門・宣明(まさかどののぶあき)と云った。
 表の顔は兵部省の役人であり、要は下級貴族である。
 だが巫女姫一派が持ち込んだ『ぱりぴ』なる文化にのめり込み、夜ごと雷舞(らいぶ)と称しては琵琶を弾き殴る蛮怒人(ばんどまん)であった。

 この男、陽人(ようきゃ)文化は好めど『根っから』ではない。
 琵琶に式符を張り技巧的な低音を響かせるのを愛するが、一方で蹴鞠倶楽部は好まぬ。
「この『ぶるうすけいる』は、あなエモしにおじゃるな……」
 真坂門は琵琶の調子を確かめ思う。もたらされた文化の一部は性に合うが、どうにも巫女姫のやり方には馴染めないのだと。
 その上、夏祭りではどこからか渡ってきた祭具を手にして、神使(イレギュラーズ)に随分と迷惑をかけてしまった。
 小心者で、そして意外にも善良な真坂門としては、悔やんでも悔やみきれぬ失態であった。

 真坂門は裾に躓くとつんのめり、手をわたわたとさせる。
 とはいえ今日の憂いは、また別の案件だ。
 近頃京内で『呪詛』と呼ばれる悪しき呪いが横行している事である。
 夜半の妖の体を切り刻み、その血肉を以て相手を呪うというおぞましいものだ。
 皆が何かに取り憑かれたように、自身の厭う相手に呪いをかけている。
 なんと恐ろしいことであろう。
 呪いを受ける身に覚えも心当たりもないが、雷舞では毎夜かなり羽目を外している自覚があった。
「誰ぞになにか恨まれでもしていたら……卍びびりちらしてしまうのでおじゃる」
 とにかく心配なのだ。
 真坂門は根っからの小心者なのであった。

 そんな時だ。あの手紙が届いたのは――


 さて。悪い予感は良く当たる。
 神使――イレギュラーズはこの新天地カムイグラで依頼を受けていた。

 そもそもの発端から語るのであれば。
 海洋王国との合同祭事を無事に終えたカムイグラでは、新たな敵の存在が観測されていた。
 滅びのアークから生じた『肉腫(ガイアキャンサー)』と呼ばれる邪悪な存在である。
 それらの対処も肝要であり、そもそもカムイグラの宮中には魔種の気配があり、イレギュラーズとしては迫らねばならぬ。
 更に今回発生したのが、件の『呪詛』であった。
 都中で妖の血肉を使ったおぞましい儀式を行い、まるで何かに取り憑かれたように、厭う相手を呪い殺すというものである。
 建葉・晴明の談では、古来より呪詛や呪術の類いは存在していたが、今度の物はずいぶん強力であるらしいとのこと。
 呪詛は妖の体を切り刻み、血肉を得ることから、恨みがましく市井で暴れる妖も居るとのことである。
 民達が犠牲となるケースもあり、いずれにせよ由々しき事態だ。

 それで、この依頼ではどうすればよいのか。
「麻呂の雷舞に来て欲しいでおじゃるよ」
「らいぶ……」
 依頼主である真坂門・宣明が云うには、彼は毎夜コンサートのようなものを開催しているらしい。
「雷舞におじゃる」
「らいぶ………………」
「蹴鞠も早詠みも卒業したけど――音楽はやめられなかった」
 はあ。左様ですか。つうかキャラ、ブレてないか、大丈夫か。

 兎も角つまるところ、コンサートで悪目立ちしている彼は、呪詛の対象になるかもしれないから、なんとか護衛してほしいという、そんな依頼な訳である。
「その、じゅそ? っていうの。される根拠はあるわけ?」
 問うたのは、なぜだかカムイグラで暇を持て余している『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)であった。珍しく正鵠を射た指摘だ。
 杞憂の戯れ言に付き合っていられるほど、神使も闘士も暇ではない。
「あるのでおじゃるよ」
 真坂門は背筋を伸ばすと手の平を顔にむけ、ピっと中指と薬指を開いて視線を送ってきた。
「どんな?」
 当人が格好いいと思っているポーズは無視して、イレギュラーズは続きを問う。
「予告状……でおじゃるよ」
 どうも雷舞を滅茶苦茶にしてやるとか、そんな手紙が来たらしい。

 一体誰がそんなことを……。
 ていうか、そんならライブやめればいいじゃん。
 言葉が喉元からでかかった時――
「じゃあ本当に敵が来るのね!? やってやろうじゃない!」
 ただそれだけの理由で乗り気になったヤツが居た。
 ならまあ、なんとかしてやっても、まあ、うん、いいかなあ?

●まさかどないとびいちらいぶ
 いざ、会場である。
 手の甲や頬なんかの好きな場所に六芒星の判子をおしてもらうと、篝火に照らされて光るらしい。
 これが会場のチケットだ。
 ドリンクは一度だけ、アルコールかソフトドリンクを選べる仕組みだ。
 今受け取っても、後で受け取っても良いらしい。
 薄闇の中で、数十名の人々が息をのんでいた。
 野外の舞台に、数名の影が立った気配を感じる。
 構えているのは楽器であろうか。
 すると突如篝火が燃え上がり、舞台を照らし上げ――爆音。
 歪んだ琵琶のサウンドがリズム隊と絡み合い、真坂門がシャウトした。
「臨む兵、闘う者、皆 陣列べて前に在りィイイ!」
 人々がヘッドバンキングを始め、十二単の美人が髪を解いて頭をダイナミックにぐるぐるやっている。
「陰! 陽! 陰! 陽!」
 よく見れば、なぜか学生服の少女が二人いる。なぜだろう。
 これ和音階のヘヴィーメタルじゃないか。ってそれはどうでもいいが。

「ちょっとあれ、見なさい」
 そんな時に、ひじで小突いてきたのはリーヌシュカであった。
 顎で示した先にいるのは――おいおい、つづりではないか!
 いつもと同じ曖昧な表情だが、なんだか拳を握って聴き入っている。
「ほんと、こういう事は早く言いなさいよ、あの馬鹿麻呂……!」
 同感だ。
 そして楽曲がサビに突入した刹那――舞台の前に顕現したのは、燃えさかる二体の巨大な熊であった。
「音楽は、音楽は負けないでおじゃるよ!」
 叫ぶ真坂門へ、観客が一斉にメロイックサイン(を狐にアレンジしたもの)を振り上げる。
 いや、逃げなさいよ。
 突っ込む間もなく、戦闘開始だ。

GMコメント

 pipiです。
 へんなお公家さんと観客を助けてあげて下さい。

●目的
 妖の討伐。

 あんまり難しいことは考えず、和音階のヘヴィーメタルの中で思う存分に敵と殴り合いましょう。
 あとはまあ、浜辺で音楽聴いたり、何か飲んだり、夜遊びしましょう。
 さいきん暑いので……。

●ロケーション
 浜辺に設置された舞台前の広場。
 かなり広いです。
 夜妖ですが、沢山の篝火が炊かれており、敵自体も明るいので視界にも問題はありません。

●敵
 戦闘をしかけてくる者を積極的に攻撃します。
 つまり戦えば、観客とかも守れるってことだね!

 緋炎鬼×2
 角が生え、燃えさかる熊のような妖です。
 かなりのパワーとタフネスがあり、出血系と火炎系のBSを保有しています。
 攻撃は『至』『近』距離のみですが、神秘、物理を保有し、範囲は単体、列、扇を持ちます。

 鬼火×6
 タフネスは小さいですが、威力の高い神秘攻撃を行う妖です。
 火炎系のBSを保有しています。

 焔わっぱ×6
 闇から滲むように現れた妖です。
 丸い顔には巨大な口しかなく、そこに両腕と一本足、燃えさかる髪が生えています。
 殴る、噛みつく、中距離への炎撃を行います。
 そこそこのパワーとタフネスがあります。

●お公家バンドと観客達
 結構たくさんいます。
 なぜか熱狂しながらライブを継続したいようです。
 実に困ったもんですが、ここだけの話、ほっといても『賑やかし』になってくれるだけです。
 今回は、あまり気にしないでおきましょう。
 別に避難しない人を殺したりとかしませんので。

●学生服の少女達
 実は以前、練達で神隠しにあった二人の少女です。
 現代日本の女子学生服のような出で立ちです。
 晴香みとん、多実月子と言います。
 表情は明るく、特に何か困っているような印象は受けません。

 桜流離に花囃子というシナリオに名前だけ登場しています。
 知らなくてもなんら問題ありません。
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2975

●味方
『つづり』
 此岸ノ辺の巫女さんです。
 イレギュラーズと幾度か交流し、好感を持っています。
 なぜ居るし。

『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ
 愛称はリーヌシュカ(p3n000124)
 皆さんと一緒に行動します。
 勝手に皆さんと連携して戦闘しますが、やらせたいことがあれば聞いてくれます。
 必要分の他は、プレイングで触れられた程度にしか描写しません。
 ステータスは満遍なく高め。若干のファンブルが玉に瑕。
・格闘、ノーギルティー、リーガルブレイド
・セイバーストーム(A):物近域、識、流血

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。ジュースになっちゃいます。
 なんでNORMALシナリオにこんな注意書きがあるのだ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <巫蠱の劫>真坂門夜美逸雷舞完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月09日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
葛野 つる(p3p008837)
不枯葛の巫女

リプレイ


「イヨーーォ!」
 ぽん!

 篝火が一斉に灯り、『逆襲のたい焼き』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)の頬を照らす。
 いくつかの花火が開くと共に、香木が炊かれた。
 雷舞(らいぶ)の始まりだ。あまり音楽を嗜まないベークであるが、割と楽しみではあったりする。
 舞台(すていじ)に立つ蛮怒人(ばんどまん)、真坂門宣明(まさかどののぶあき)が飛翔武威(ふらいんぐぶい)の琵琶を弾き殴る。
 式符に歪(ひず)んだ、縦乗りの短音階和音が激しく刻まれ――
「臨む兵、闘う者、皆 陣列べて前に在りィイイ!」
 人々がヘッドバンキングを始め、十二単の美人が髪を解いて頭をダイナミックにぐるぐるやっている。
「陰! 陽! 陰! 陽!」

 和太鼓のブラストビートが腹の底に響いて来た。
「何やら楽しげな催しを行っているようだ」
 おそらく『瑪瑙鎧の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の知らぬ文化であろう。
「こういった音楽を耳にするのは初めてだ。が、知っている者も居る様子だな?」
「ロックじゃねえか!!?」
 意外にも正統派な演奏に『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)が声を上げる。
「マジかー……」
 こういったものも、可能性としてはあるのだろうが、しかも意外とサマになっているし。
 音を激しく歪ませた琵琶をギターとベースに見立て、幾種類もの打楽器でドラムセットを作る。
 琴はキーボードで、ツインヴォーカルか。
 高い声でおじゃおじゃ言ってた真坂門も、中々太い声を出すものだ。
「へびぃめたる……蛇井目樽ですか? あら、違う」
 外つ国から入ってきたばかりの文化は、神威神楽には未だ浸透しきってはいない。
 これは『お姉様!』に教わらねばならないだろう。知ってるのだろうか。ががーん。
 さておき、『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)はこの場で最優先に守らねばならぬ者を見つけていた。
「つづり様」
「――!」
 普段あまり表情を変える事のないつづりが、僅かに目を見開いた。見知った顔だったのだろう。
「日が陰ろうとまだまだ暑うございますから、水分補給はお忘れなく」
「……わかった」
 頷いたつづりがストローでドリンクを飲む様子を見て、しきみは頷いた。
 激しく刻まれるリフ。カムイグラにおいては、あからさまにおかしな音楽ではあろうが。動揺一つないのは精神無効の効果か何かとしておくべきか。マニキュアのお陰か!
 とは言え好悪の分かれるラウドな音楽である。
(…………帰りたい)
 特に時折混ざるガテラルヴォイスのパートは、もっともたる所であろう。
 和風ロックと云うべきか、なんというのか『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)にとってはもうなんかすごいうるさい。
 さっさと終わらせて耳栓でもつけたい気分だが。さて。

 この日、九名の鋼鉄闘士達(へびぃめたるうぉりやぁず)が降り立ったのには理由(ワケ)がある。
 近頃、巷で流行っている呪詛騒ぎに、この真坂門という貴人が狙われたらしい。
 開催を辞めれば良いのだが、小心者のくせして、どうにも負けん気が強い男のようだ。
 楽曲がサビに突入した時、突如舞台の前に炎が吹き上がる。
 演出ではない。炎の中から顕現した妖共こそ、止めねばならぬ呪詛であるのだ。
 つまり。
「戦うんですよね、はい……」
 ベークがぼやいた。
 まあ、妖など殴れば倒れるであろう。多分。

「ったく、おい! 早くそこから逃げろ!」
「音楽は、音楽は負けないでおじゃるよ!」
 誰よりも疾く槍を構えた風牙の叫びに、逃げればよいものを真坂門が拳を振り上げた。
「……根性あるじゃねえか。へっ、しゃあねえな」

「おじゃああある!」

「音楽は負けず」

 ――然り。

「楽隊あり、群衆あり、舞手は吾等が勤め奉らん。
 ならば此方は祭りの場。
 歌舞は魂振り、祭りは儀式。
 巫女の術は武にあらず舞なり、戦場は祭場なり。
 流行り病が如き災禍も天下を覆う暗雲も雲散霧消と吹き飛ばしてくれん。
 神恩よ、一所懸命に生くる者達へと届きあれかし――!」
 凛と眉を上げた『不枯葛の巫女』葛野 つる(p3p008837)が、神楽鈴をかざし舞う。
 オーディエンスがアガった。
 漲る生の意思が会場を包み込み――

「え、こんなに音楽で盛り上がりながら戦いってアリなんでしょうか……?」
 ショートケーキを頬張った『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が、頬に手を添える。
 ――美味しい。
「でもでも、なんだか気分が高まってきましたよ!
 和音メタルの舞台で……いざ! 舞い踊りましょう!」
 月光に照らされたユーリエの髪が白銀に染まり、瞬き一つ。
 その瞳が紅に煌めいて。


 真っ先に駆けだした風牙が、会場に迫る一本足の怪物に神速の槍を突き込む。
 さながら彗星の如く。
 烙地彗天の一撃が、巨大な口を貫いた。
 怪物は絶叫をあげながら腕を振り回し――
 だが槍を支柱にかわした風牙は、蹴りつけ跳びすさる。
「おいっノブ! お前の魂、全力で響かせろよ。
 そうしたら、オレがその音に乗って、こいつら全部片づけてやっからよ!
 オレを乗せるくらいの曲、演奏してみやがれ!」
「おじゃああある!」

「ヘヴィメタをBGMにバトルとか完全にキマッってんじゃんかよ!!!!!!」
 曲と競うような声を張り上げ『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)が満面の笑みを浮かべた。
「イイ感じに熱い曲来てくれたら嬉しいよ私は!!!!
 声とか音を出せる霊魂でも居てくれたら!
 お願いフレンズ! ガンガンテンション上げていって!!」
 叫ぶや否や、土を跳ね上げて手が現れる。落ち武者が飛び出した。
 死に装束に天冠、半透明の老人が駆けてくる。
「霊! 霊!」
 フレンズ達のエターナルヘッドバンキング(割と普通に怖い!)だ!
「半端なやり方じゃ雷舞に失礼でしょかかってこいやおらぁあああー!!!!!!!」
 ハッピーの叫びに怪物達も負けじと唸りを上げる。
「なれば次の楽曲……百鬼夜行におじゃる!」
 蛮怒人達も激しい演奏を繰り広げ、真坂門はガテラルヴォイスでがなりたてる。
「百鬼! 百鬼!」
 和太鼓が鳴り響く。
 ツーバスのブラストビートにオーディエンスが激しく首を振る。
「殺! 殺! 殺! 殺!」
 こうなればハッピーも負けては居られない。
「こっちを見ろへいへい!!!」
 ものの見事に挑発され、ハッピーに殺到する怪物へベネディクトが駆ける。
 真坂門の気概は買った。
 ならばこの催しをやり遂げさせるのみ。
 暴風の如きなぎ払い――黒狼極爪が、貫かれ跳ね起きた焔わっぱ諸共に怪物数匹をなぎ倒す。
 つるの舞い――自身の命を削る神子の饗宴に、一行の闘志が奮い立つ。
 ユーリエからスイーツを受け取った世界が解き放つ暁と黄昏の境界線、刹那の栄光が仲間達を包み。
「やれることはやってやりますよ……!」
 ベークが付与する破壊の詩が、更に魔性の力をもたらし……甘い香りも漂った!?
 数匹の敵と、数名のオーディエンスがベークに視線を向ける。
「あの者から鯛焼きの香がするでおじゃる」
「もしや、あの者自身が鯛焼きなのではあるまいか!」
「僕はライブのお供のおやつではないので。ので!!」
「……いいにおい」
「またおやつもってるのね! ベーク! あとでよこしなさい! この前食べ損ねた分も!」
「あー、はいはい」
 呟いたつづりと、今にも飛びかかってきそうなリーヌシュカに気のない返事を返すベークには、しかし策がある! おやつを持参していたのだ。
「後でお渡ししますよ」
「約束よ! 破ったらあなたを囓ってやるんだから!」
「それは嫌です!!!!」
「つづり様は後ろへ」
「……わかった」
 つづりを下がらせたしきみは戦場を俯瞰する。
「リーヌシュカ様がどうぞ、ラド・バウでの実力見せてくださいませ」
「まっかせなさい!」
 二刀を構えた『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)が、傷ついた敵陣に無数の剣撃を見舞う。
「端から潰す!」
 風牙の槍が焔わっぱを再び貫き、絶叫と共に雲散霧消。
 一体ずつ、確実に片付けるのだ。
「おらおらへいへい!」
 殺到する炎撃は、しかし敵陣を騒々しく飛び回るハッピーの焼き切ることが出来ない。
「わーたしを倒すにはソウルが足りねぇんだよソウルが!!」
 ソウルストライク的な意味で!
「済まんね!!!! 私を倒したければ必殺持ってこい必殺!!!!ミ☆」
 あ。やべ。敵が誰も必殺もってねえ……ハッピーちゃん無敵じゃねえか!


 戦闘は快調な滑り出しから、幾ばくかの時が経過した。
 百鬼夜行は一度目のサビに突入している。クリーンヴォイスのコーラスだ。
 敵の攻撃は多くがハッピーとベークに集中していた。ハッピーは作戦上、味方からの攻撃も受けた状況から幾度か明滅したが、再構成のたびにテンションをぶちアゲている。
 ベークもまた甘い香りで、時にオーディエンスの視線を引き付けているが、それは別の話だ。
 時折仲間に飛び散る業火とベークの傷は、世界が攻撃の合間にすぐさま手当している。
 結果、多くが付与の後に攻撃手へとまわり、焔わっぱと鬼火は、驚くほどの速度で消滅してしまった。
 要するに戦果上々、ここまで快勝である。

「なれば次の一手と参らん」
 優美に舞うつるが、しゃんと鈴を鳴らした。
 可憐な身体から這い出る葛の蔓が地を駆け、燃えさかる二体の緋炎鬼に絡みつく。
 炎をあげながら崩れる蔓は、だが爆発的に増殖し、燃えるより早く妖の巨体を包み込んだ。
 蔓の間から吹き出す炎と怨嗟の叫びは、しかしその束縛――呪いを打ち払うに能わず。
 敵が減ったことで、内心胸をなで下ろしたのは世界であろう。
 いやまあ。何も無理に巻き込む必要もない訳だ。
 虚空に描かれた白蛇の陣がうねり、仮初の生を得た。
 蔓の中に飛び込んだ幾度目かの蛇は、緋炎鬼の力を猛烈な勢いで消失させつつある。
「OKOK盛り上げてこう!!!」
 銃――の形をした超々高精度の指向性マイクを突きつけたハッピーが元気いっぱいに口を開ける。
 二体の敵のみに対象を絞った強烈な音波が立て続けに放たれた。
 見えぬ拳を幾度もたたき込むような乱撃に大気が歪み、緋炎鬼をボコボコに吹き飛ばす。
「派手にやろう派手に!!!」
 確かに!
 こんな舞台ならば魅せながら戦うべきか。
「熱い曲に熱い演出。客を盛り上げてこそエンターテイメント、ですよね!」
 ハッピーに頷いたユーリエは舞い散る炎を軽快に避けながら、敵が重なる位置へと滑り込んだ。
 射線上にはハッピーも居るが、左手に顕現した紅光をためらいなく引き絞る。
「行きますよ……!」
「どんとこい!」
 顕現した紅光の矢――ガーンデーヴァの一撃が戦場を劈いた。
 光は緋炎鬼二体を穿ち、夜空に一条紅の軌跡を描く。
「再構成!!!」
 ハッピーにぽっかりと開いた空洞が、瞬く間の内に消え失せた。
 こいつら、躊躇わない感じですね!

 イレギュラーズの猛攻は止まらない。
 オーディエンスの熱狂も終わらない。
 緋炎鬼の破壊力と体力は尋常でないが、度々動きを妨げられており真価を発揮出来ていない。
 幾度も攻撃を受けているベークにせよタフネスは十分に高く、またBSをまるで受けていない。
 そしてそもそもハッピーちゃんには、なにブチかましてもまるで意味がねー!!
 という状況が継続している。
 そうした中で断続的な攻撃は、緋炎鬼の体力を着実にこそげ落としていた。

「ホラッ もっとアゲろ! 遅ぇぞノブ!」
「ならばこうでおじゃるよ!」
 風牙の煽りに真坂門がノった。ギター……じゃないエレキ琵琶ソロパートの速弾きだ!
「さすれば吾が、此の舞い勤め奉らん」
 つるの舞いが風牙に、技を放ち続ける力を与える。
「よしよしよし! いい感じだ! テンション上がってきた!」
 彗星の輝きを宿す突きが、スウィープ奏法に乗り緋炎鬼に大穴を穿った。
「百鬼! 百鬼!」
 オーディエンスが叫ぶ。
「百鬼!! 百鬼!!」
 ハッピーちゃんも叫ぶ。
「百鬼!! 百鬼!!」
 ああもう。なんかもうベークも乗ってみる。ところでこれどんな意味があるのだろう。
「俺にリズム感があるかどうかは解らないが……百鬼!! 百鬼!!」
 どうしたベネディクト!
 シリアス担当イケメンクールガイだとばかり思っていたぜ!
 スラッシーなリフに合わせて踏み込んだベネディクトが、振りかぶった槍を放った。
 遠吠えする狼――ガルムの如く劈く軌跡がハッピーを貫き、二体の緋炎鬼を次々に穿つ。
「殺害! 殺害!」
 遂に一体が雲散霧消した。
「ほんとに容赦ないな! でも私は嫌いじゃないのだ!!」
 サムズアップを頬にあて、再構成したハッピーがウィンクをキメた。
「ふふ、楽しそう」
 可憐な花紋を手のうちに握り込み、しきみは中段に構えた虚ろの刃を振り上げる。
 閃く偽刀――虚無の軌跡は緋炎鬼を蝕む幾多の呪いを刃に変えて、その生命に終を刻んだ。


「や、やったでおじゃるか?」
 百鬼夜行を演り終えた真坂門一行がへたり込む。
 今になってびびりが膝に来たのだろう。
 こうして重金属伝承(へびぃめたるさぁが)は、その一節を閉じた。
「ふう……如何でしたでしょうか、公家の皆様」
 ぽかんと口をあけていた真坂門一行が、しきみの言葉を聞いてはしゃぎはじめる。
「ええと、私達とっても『ろっく』だったでしょう……?」
「いとくぅるで、げにろっくゆーでおじゃったよ!」
 真坂門一行メロイックサインを掲げる。

「は、ハッピーさん……?」
 慌てた様子でユーリエが駆けつけた。
「へいへい! わーたしをお呼びかい!?!?」
「巻き込みしちゃったんですけど、大丈夫だったでしょうか?」
「だいっじょーぶ! 幽霊なんでね!!」
「お好きなスイーツいっぱいありますから! なんでも言ってください!」
 おやつタイムだ。
「他の皆さんも、リーヌシュカさんも、つづりさんも!
 食べたいものがあったら、ご用意いたします!」
「ベーク! 約束は覚えてるんでしょうね!」
「……はい」
「ああ、つづり様とリーヌシュカ様は私とジュースを飲みませう。
 矢張り背伸びをしすぎるのも余りよろしくないですし。
 ジュースを飲んで淑女力を高めるのも必要だと。
 そう、お姉様が仰っていたのです」
「お姉様?」
「え? お姉様? ふふ、お姉様は――」
 ががーん。語り始めたこれはひとまず置いておくとして。

「して、つづりさんは何ゆえこのような場所に?」
 ベークが口にしたのは、素朴な疑問であった。確かにイメージとずいぶん違う。
「いえ、楽しいのでいいとは思いますが」
「……つい、出来心?」
 出来心!
「よっ、つづり。今日は音楽鑑賞か?」
 風牙の言葉につづりがこくりと頷いた。
「こういう激しい感じのが好みとは意外だな。いや、だからこそか?」
 謎は深まる!

 腕を組んだベネディクトが首を捻る。
 いや、つづりの音楽の趣味とは関係ないが、気になるのは先程の妖の出所であった。
「しかし、あいつらが予告状を送って来たとは考えづらいが……」
 妖達には然程の知性も感じられず、また真坂門とも直接の因果関係はなさそうだ。
 ベネディクトは類似の案件をいくつかこなしたが、やはり妖そのものの悪意ではないらしい。
 人為的なものが働いていると思える。
(とすれば。狂気伝播……か)
 宮中に巣くうと云われる魔種に起因するのではなかろうか。
 と、その前に。
「もしや、神隠しにあった者達か?」
 ベネディクトが真っ先に声を掛けたのは、学生服の少女達であった。
 明らかにこの場にはそぐわない衣装なのだからすぐに分かる。
「あれ? はい、そうです」
「練達に帰れなくって、神使? ってことでけっこう良くしてもらってて」
「なんか旅行気分。でもちょっと寂しいかも」
「必要であれば、練達に無事を伝えようか」
「お願いします!」
「つづりもこの場に居るとは。雷舞を邪魔して済まなかったな」
 つづりは小さく首を振る。
「俺は雷舞は初めてなんだが、つづりはそうじゃないのか?」
「……初めて。誘われた」
「誘いました!」
「わたし真坂門推しなんです!」
 学生達が返事した。なるほどそういう繋がりか。
 興味はあるので、色々聞いてみようか。

(ああ、精神的にも体力的にも疲れた)
 しかし世界も、えらいことに巻き込まれたものだ。
 早速わいわい始めた仲間達から少し距離をおき、ドリンクを受け取って木に背を預けた。
 何しろ未だに耳の中で、何かがわんわんと反響しているような気がする。
 それに篝火がわりと煙い。
 ここでちびちびとジュースでも飲んでおくことにしよう。

「さて、余計なハプニングはあったけど、怪我人も無く片付いたことだし、ライブ再開かな?」
 風牙が一息つく。
「つづり、一緒に聴いてっていいか?」
「……もちろん」
「いやあ、さっき戦いながら聴いてて、結構ツボに嵌まったっていうかさ」
「公家の皆様、よろしければ雷舞を拝見しても?」
「千客万来(かまんべいべ)におじゃるよ!」
「おらノブ! 仕切り直しだ!」
 しきみと風牙に答えるように真坂門が立ち上がり、オーディエンスに向き直る。
「次の曲。をかしなオマエ……聴くにおじゃる」
 静やかな琴の音が響く。
 続いて爆音のリフが刻まれ――

 一行の背に向けて幽霊と落ち武者がにこやかに手を振り――どろんと消えた。

成否

成功

MVP

ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

状態異常

なし

あとがき

 サーガを終えし重金属戦士達よ。
 ロック・ユー!

 へいへい!!!! MVPの発表だぜ!!!!!
 理由は!!!! めっちゃ無敵だったから!!!!!!!!!!

 それではまた皆さんのご縁を願って!!!!! 鋼鉄のpipiでした!!!!!!!!!!

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