シナリオ詳細
フフとプティと盗賊団。或いは、広い荒野を馬車に揺られて…。
オープニング
●荒野行進
パサジール・ルメス。
彼らは各国を渡り歩き、物資を運び、情報を得る。
彼らの持つ情報は多岐にわたり、そして正確なものだった。
とくに此度の依頼者である【フフ】という名の女性もまた多くの国や都市をわたる者である。
荒野を進む馬車が1台。
ガタンゴトンと一定の間隔で車体が揺れる。
幌を被せられた荷台には各地で集めた書物が山と積み込まれていた。
御者台に座る青い髪の女性が歌う。
それは旅の無事を祈る歌。乾いた風に流されて、歌声は空に溶けている。
「興味深いね。その歌は、パサジール・ルメスの民なら皆知っているものなのかな?」
なんて、細い声。
荷台に積まれた本の隙間に潜り込む、小柄な少女の声だった。
「うちの家系に伝わる歌ですねぇ。遥か昔のご先祖様が、旅の踊り子に教えてもらった歌なんだとか」
なんて、言って。
フフは荷台を振り返る。
小柄な少女……名を【プティ】と言う……の手には一冊の本が握られている。
それを見て、フフは「またか」と思った。
フフがプティを拾ったのは、今からおよそ半月ほど前。
荒野で生き倒れていた彼女を助け、旅の道連れとして以来、プティには驚かされることばかりだった。
彼女は一度見聞きしたものを、一切忘れはしないのだ。
そして、彼女は本のページを一瞥するだけで正確に内容を記憶する。
プティの記憶力は先天性のものらしい。
彼女がいれば、地図はいらない。
彼女がいれば、重たい本や書類の束を一々持ち歩く必要もない。
だから、彼女は狙われるのだ。
荒野で生き倒れていたのも、ある盗賊たちによって誘拐された結果であると聞いている。
「それより、本当にこのルートでいいのですか? この時期、この辺は雨も降らないし水場も無いしで、なかなか危険なのですけれどぉ」
視界に広がる無限の荒野。
若干の恐怖心を抱きながらも、フフはそう問いかけた。
それに対するプティの答えは「大丈夫」と言うものだ。
「私の言う通りのルートなら、誰よりも早くここを抜けてラサに付けるよ」
そう言ってプティは、自分の首に巻かれた金属の輪を指でなぞった。
「ラサに付けば、きっとこの首輪を外せる人がいるはずだから」
「まぁ、いいですけどねぇ。ここまで来たら引き返すこともできないですしぃ」
馬車を先へと進ませながらフフは言う。
プティの首に巻かれたそれは、言わば「発信機」のようなものだった。
プティを捉えていた盗賊たちが付けたものだ。プティの記憶力を活用し、盗賊たちは商人の周回ルートや魔物の出現位置などを把握。
自分たちの〝稼業〟を上手く回すために、長く利用し続けていたのだ。
首輪が巻かれている限り、プティの居場所はおよそではあるが盗賊たちに筒抜けとなる。
首輪が巻かれている限り、プティに真の自由はない。
だから、フフは約束したのだ。プティを自由にしてあげる、と。
「約束ぅ、ちゃんと守ってくださいよぉ?」
「わかってる。首輪が外れて自由になったら、飽きるまでフフのお仕事を手伝ってあげる」
「それなら、いいんですけどねぇ」
と、そう言って。
先へと進む馬車の頭上を、一羽の鳥が飛んでいく。
●カルミネ盗賊団
「彼女たちの前途は果たして何色なのかしら」
ともすると明るいサンライト。或いは、闇のような黒。
叶うのならば、前者が何より好ましい。そう呟いて『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は頬にそっと手を添えた。
「今回の任務の内容はフフとプティを無事にラサへと送り届けることよ」
そのためには、遮るもののない荒野を無事に踏破する必要がある。
この場合の無事とは、襲って来るであろう野盗たちを撃退し、プティの首輪が外れるまで護衛しきることを指す。
「プティを追っているのは“カルミネ盗賊団”と呼ばれる組織よ」
彼らは、ごく少数からなる盗賊団だ。
全員が馬を所持しており、何よりも〝速さ〟を重視する。
対象に近寄らず、遠距離からの攻撃を加え、弱ったところにトドメを仕掛ける。
犯行に時間がかかるが、人気の少ない荒野などで行うならばその戦法は効果的だろう。
「【毒】や【痺れ】の効果がある薬液を塗布された弓や投げナイフを武器としているわ」
数は10名。
フフの操る馬車を守りながら戦うとなると、決して捌き切るのが用意な数ではない。
さらにもう1人、団員たちを纏める団長“クロッコ”にはさらなる警戒が必要だろう。
「クロッコは【火炎】【体勢不利】の効果がある小型爆弾と、【猛毒】を塗布されたレイピアを武器としているわ」
彼も馬に乗っているほか、団員たちよりも身のこなしが軽いという特徴がある。
盗賊に身を落とす以前は、サーカスの団員として活躍していたゆえの身体能力だ。
「以上11人が今回の敵よ。それと、戦場になるのは荒野の真ん中。近くに水場や木陰などはなく、合流後は常にフフとプティを護衛しながら移動することになるわ」
任務遂行のために1台の馬車が借りられることになっている。
馬車には8名が乗車可能だ。
「ラサまでの最短ルートを知っているのはプティだけよ。はぐれないよう気を付けてね」
もしもプティとはぐれてしまえば、戦闘不能の重症を負うことになるだろう。
それぐらいに、この時期の荒野は過酷な環境なのである。
「あぁ、それと、プティの首輪を外す鍵をクロッコが持っているかもしれないの。クロッコの身柄を確保できれば、ラサまで行かなくとも任務を成功させられるかもしれないわ」
と、そう言って。
プルーは仲間たちを送り出す。
- フフとプティと盗賊団。或いは、広い荒野を馬車に揺られて…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年08月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●フフとプティ
荒野を進む馬車が3台。
ガタンゴトンと一定の間隔で車体が揺れる。
「本当にぃ、来るんですかぁ? 盗賊たちがぁ?」
中央を走る馬車の御車台。青い髪の女商人、フフは問う。
フフの隣では、小柄な少女が揺れていた。
彼女の名はプティ。盗賊たちに身柄を追われる少女である。
「しにゃも解りますよ、その気持ち! しにゃも首輪つけられて外せないんですよー」
走る馬車から身を乗り出して『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)は、プティに向かって話しかけた。風になびく桃色の髪が、手綱を握った『涙の理由』泪(p3p008278)の顔を打ち据える。
「あうっ!!」
泪のつぶらな瞳から、大粒の涙がボロボロ零れた。
もっとも、泪の場合はいつだって泣き顏なのだけれど。
そんな泪の顔を一瞥、プティはしにゃこに向き直る。
「貴方も、首輪をつけられたの?」
「そうなんです! まぁしにゃのは自分がやんちゃしたせいなんですけどね!」
「……自業自得」
呆れたようにプティは告げた。
「ところで、その人はどうして泣いてるの?」
「そんな顔だからです!」
「……なる、ほど?」
しにゃこの答えは、どうやら腑に落ちなかったようである。
「色々と苦労もありそうだけれど、本を一度読めば覚えられたり、酔っ払った時にした約束をすっかり忘なくて済んだり……と考えると便利そうですわねー」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、もう1台の馬車を操り、虚空へ向けてそう呟いた。酒豪の彼女とはいえど、ついつい飲みすぎ記憶を失う夜もある。或いはそれは昼の出来事だったかもしれない……昼夜の別さえ、思い返せば定かではない。
「忘れられないというのは……どんな感じなんだろうね」
ヴァレーリアの隣に座る『陸の人魚』シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)は、思わずといった様子でそう零す。
フフの操る馬車の荷台で『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は水を飲む。
「濡らさないでくださいよぉ」
と、そう言ったのはフフである。御車台に座った姿勢のままで、彼女はシャルロットを睨みつけた。
「お話は理解しましたしぃ、同乗は許可しますけど……本当に盗賊は現れるんですよね? それに、たった8人で私たちを護りきれるんですかぁ? 思ったよりも少ない人数で、ちょっと不安なのですがぁ」
「えぇ、信じてちょうだい。ヴァンパイアとして、力ある者として、責任を持って守らせていただくわ」
銀の髪をさらりと掻き揚げ、シャルロットはそう言った。
「って言っても、盗賊たちが使う毒が少し厄介ね。ねぇ、よければ解毒薬を分けてくれない? 使ったら買い取るし、使わなかったら返すって事でさ」
『君が居るから』ニア・ルヴァリエ(p3p004394)の良く通る声。馬車の荷台に彼女は腰かけ、荒野の風を浴びていた。
「使ったら……ねぇ?」
「駄目かな? 言い遅れたけど、あたしは砂漠の里の長の娘なんだよね。パサジール・ルメスには友達もいるし……里の皆や友達に、解毒薬とか積荷のことを伝えてもいいんだけど」
「なるほど。では……4本。解毒薬4本までなら、無償で提供しましょうかぁ」
「おっけおっけ。いい取引が出来たね」
「えぇ、本当にぃ」
にこやかに言葉を交わすフフとニア。
「……2人とも目が笑ってないわね」
と、それを見ていたシャルロットがそう呟いた。
泪の操る馬車の荷台で幻夢桜・獅門(p3p009000)が目を開く。
「来たか……あぁ、やり合うのが楽しみだなぁ」
水筒を手に取り水を飲み、獅門は太刀へ手を伸ばす。
彼の使役していた蛇が、馬車へ迫る盗賊の姿を捉えたのだ。
「ひぃぃぃ先輩方! 敵! 敵ぃ! あっち!」
御車台から響く泪の悲鳴に、獅門はくっくと肩を揺らした。
「おう、来たか! それじゃぁ、ぶちかましてやろうかね!」
荷台の隅で巨体が動く。
身を起こした『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が、傍らに置いた革袋を取り、水を喉へと流し込む。
口の端から零れた水を荒く拭って、獣染みた笑みを浮かべた。
片手に斧を、片手に山刀を握りしめグドルフは荷台の幌を引き裂く。
「ぴゃぁぁぁっ! 僕の馬車がぁっ!」
●カルミネ盗賊団襲来
「ちょっとぉ、来たんじゃないですかぁ?」
手綱をきつく握りしめ、フフは周囲へ視線を巡らす。
はじめは2頭、馬車の背後に馬に乗った人影が見えた。
いつの間にか、さらに数頭の馬が馬車の左右を駆けていた。
あっという間に馬車は囲まれ、フフの頬に冷や汗が伝う。
周囲を囲む馬は10頭。
少しずつ馬車へと距離を詰めてくる。馬にまたがる盗賊たちの数名が、その手に素早く弓を構えた。
矢の狙う先には、フフの操る馬の首筋。
ひゅおん、と空気を切り裂く音がして数本の矢が放たれた。
けれど、しかし……。
「う、う、こ゛わ゛い゛ぃ……うえええええん!!」
滂沱と流れる涙も拭かず、声の限りに泪が泣く。
泪の操る馬車は加速し、馬の代わりにその側面で矢を受けた。
傘を手にしたしにゃこが馬車から身を乗り出した。
「させませんよ! 女の子はモノじゃないです!」
カチ、と軽い音が鳴る。
傘の先端で火花が散った。
撃ち出された弾丸が、宙を疾駆し盗賊の乗った馬を撃ち抜く。膝を撃たれた馬は嘶き、どさりと地面に倒れ込む。
拍子に投げ出された盗賊へ、獅子門が太刀を一閃させる。放たれるのは不可視の斬撃。
「その調子だ、しにゃこ。馬を潰せば逃げられないだろ」
乾いた砂を巻き上げ飛んだ斬撃が、盗賊の胸を深く抉って血を散らす。
馬車の荷台に仁王立ちしたグドルフの手には、太い矢が1本握られていた。
「ハッ……聞いた事もねえ弱小盗賊団ごときが、調子に乗りやがって。おれさまの縄張りでゴキブリみてェにコソコソ這い回ってんのが気に食わねえぜ!」
そう言って彼は、無造作に腕を振り抜いた。
投げ飛ばされた太い矢が、ナイフを構えた盗賊の肩に突き刺さる。
呻き声をあげ、盗賊は落馬。砂埃が舞い上がった。
けれど、その直後……。
ズドン、と泪の馬車が揺れグドルフをはじめ、しにゃこ、獅門が荷台や御車台から投げ出されて地面を転がる。
激しく揺れる車体の横を1頭の馬が駆けて行く。馬へと視線を向けた泪は、騎手の不在に気が付いた。
直後、泪の頭上を影が跳ぶ。
視線を上げた泪の肩を鋭い刃が切り裂いた。
涙に滲んだ泪の視界。
くるりと身軽に宙を舞う、包帯だらけの男が見えた。
馬が嘶き、泪の操る馬車が止まった。
「え、ちょっ!! ストップ、ストップですわ!」
アクシデントにヴァレーリアが悲鳴をあげた。その隙を突き、彼女の操る馬車の隣に盗賊たちが近づいてくる。
放たれたナイフが、ヴァレーリアの握る手綱を切断。制御を失った馬が、明後日の方向へと駆け出した。
進路がずれた馬車の前を、弓を構えた盗賊が抜ける。
それを目にしたヴァレーリアは、メイスを手に取り宙へと舞った。
「かくなるうえは……どっせぇーーーーいっ!!!」
気合一声。
頭上に掲げたメイスの先で、太陽の光がきらりと反射。
渾身の力で振り下ろされた彼女のメイスが、盗賊の背を打ちのめす。
落馬した盗賊とヴァレーリアは、もつれるように地面を転がる。落下の際に、胸部を強く打ったのだろう。ヴァレーリアは俯いたまま咽ている。まさか昨夜飲んだ酒精が、今ごろまわったわけでもあるまい。
護衛の数を減らすべく、盗賊2人がヴァレーリアへ矢を向けた。
けれど、しかし……。
「皆に酷いことをしないで!」
チッ、と短く鋭い音を盗賊の耳は確かに聞いた。それは地面蹴る音だ。
水面を跳ねる魚のように……或いは、低く飛ぶように。
褐色の肌に滲んだ汗が、ぱっと宙に舞い散った。
「シグ、ルーン……?」
胸部を押さえた姿勢のままに、ヴァレーリアは駆け寄る仲間の名を呼んだ。
シグルーンの掲げた拳に蒼い魔力が集約している。
放たれる矢やナイフの間を擦り抜けながら、シグルーンは素早く拳を振り抜いた。空気を切り裂く小さな音と、解き放たれる魔力の弾丸。
盗賊の乗った馬の前肢を、蒼い魔弾が撃ち抜いた。
フフの操る馬車の荷台に、黒い影が飛び乗った。
全身に包帯を巻いた痩身に、両手に構えたレイピアという出で立ちから、彼がカルミネ盗賊団の団長“クロッコ”で間違いないだろうことを理解した。
「プティ……」
「駄目。この距離に近づかれたら、もう……」
クロッコの素早さを知るプティは、震えた声でそう告げる。
小さな肩を両手で抱き締め、彼女は瞳に涙を浮かべた。盗賊団に捕らわれているその間、どのような目にあっていたのか。
捕らわれ、利用されつづけたプティにとって、その記憶はある種のトラウマと化しているのだろう。
「馬車を止めて!」
フフに向けてニアは言う。
それと同時に、彼女は剣を低く薙ぐ。
ニアの放った剣戟は、僅かな動作で回避された。カウンター気味に突き出されたレイピアが、剣を握る手首を穿つ。
飛び散る血には黒が混じった。レイピアに塗布された毒薬だ。
包帯の奥で、にぃとクロッコは目を細める。
これまで多くの敵対者を、刺突と毒で仕留めてきたのだ。毒に侵され弱った男を、嬲り殺したこともある。
先生を取って毒を塗布する。これがクロッコの必勝パターン。
だが、しかし……。
「……この程度の小細工があたしに通用すると思ったら大間違いだよ!」
荷台を蹴ってニアは低く駆け出した。
驚愕に目を見開いたクロッコの脚に、ニアはしかとしがみつく。手にしたレイピアをその肩に深く突き刺すが、ニアは決してその手を離しはしなかった。
「さぁ、根比べといこうか……!」
痛みに顔を歪めながらも、ニアは強気に笑ってみせる。
空色の瞳に強い戦意を滾らせた、それは獣の笑みだった。
「……きれい」
クロッコと共に馬車から落ちるニアの横顔を見て、プティは静かにそう呟いた。
停車した馬車の周囲を盗賊が囲む。
頭目であるクロッコはニアに抑えられているが、おかげでプティの護衛が消えた。フフ1人なら、盗賊たちの相手にならない。
震えるプティを抱きしめて、フフは盗賊を睨みつける。
「わ、わたさないわぁ。プティをラサに連れていくって約束したの。商人は約束を違えない!」
敵意と憎悪を孕んだ視線。
しかしそれは、盗賊たちにとって慣れたものでしかなかった。
次の瞬間には、その眼差しは絶望に染まったものへと変わるだろう。
いつも通り。
仕事をするだけ。ナイフを構えた盗賊たちが、万が一にもフフとプティを逃がさぬように足並み揃えて馬車へと迫る。
その、直後……。
「狙いは悪くないけど、伏兵付きよ」
バサリ、と空を打つ音がした。
黒い衣装が風になびいて、彼女は馬車から跳び下りる。
ふわり、と銀の髪が踊って……瞳に妖しい色を灯して、シャルロットは優雅に笑った。その両の手にはそれぞれ刀が握られている。
まるで不吉の象徴か。腰の位置から生えた翼が、ふわりと空を撫でると同時、身を低くして彼女は駆ける。
踊るように、流麗に。
馬も人も切り裂いて、血の雨の中、牙を剥き出しにして告げた。
「とくとその目に焼き付けなさい。あぁ、いいえ……」
スカートの裾を翻し、シャルロットはくるりと回る。
振り抜いた2本の刀から、盗賊たちの血が散った。
「もう、聞こえていないかしら?」
なんて、言って。
数名の盗賊たちを、あっという間に葬り去った。
●荒野の夕暮れ
肩に刺さったナイフを抜いて、グドルフは唸り声を零した。
そんな彼に泪は解毒薬を手渡す。
それを一息に飲み干すと、空いた瓶を投げ捨てた。
「いけるか?」
そう問うたのは獅門である。
「おうよ」
体勢を立て直し、その身を侵す毒を払ったグドルフは、獅門と共にフフとプティの馬車へと駆け出す。
大太刀を低い位置で構えて、獅門がゆっくり馬車へと迫る。
馬車を囲む盗賊たちの何人かが、視線を獅門へと向けた。彼らの目的であるプティの回収はまだ未完了。だと言うのに、馬車から落とした獅門たちが復帰して来たのだ。
「おー……凄いな。見渡す限り荒れ地ばかりだ。こんな場所で生き抜いているならさぞ強ぇんだろうな、お前ら」
腰を落として、獅門は後方へ腰を捻った。
「ちっ……!」
舌打ちと共に、盗賊たちがナイフを投擲。
にぃ、と狂暴な笑みを浮かべて獅門は素早く腰を切る。
空気が唸る。
半月の軌跡を描き、獅門の大太刀が振り抜かれた。
カカンと軽い音が響いて、弾かれたナイフが宙を舞う。
「お前らは絶対逃がさん。その首と……プティの首輪の鍵を置いてけ」
静かな声に籠る戦意に気圧されて、盗賊たちの乗った馬が嘶いた。
盗賊たちの間に動揺が走る。
直後……。
「その通り、美少女の自由は私が守ります!」
続けざまに鳴る銃声と、銃声に負けぬほどの大音声。傘型銃火器の引き金を引いたしにゃこのテンションは振り切れていた。
戦場の気配と銃声に酔っているのかもしれない。
ばら撒かれる弾丸が、盗賊たちと馬を纏めて撃ち抜いた。逃げ惑う盗賊たち……けれど、障害物の存在しない荒野では、降りしきる鉛の雨から身を隠す場所などどこにもない。
「うーん、完璧……」
装填された弾を撃ち切り、満足そうにしにゃこは言った。
跳ねる、跳ねる。
乾いた荒野を彼女は駆ける。
「私に攻撃を当てられるかな?」
眼前に迫った矢を寸でで回避し、滑るようにナイフの真下を掻い潜り、驚き暴れる馬の背中を飛び越して、ついでとばかりに騎手の頭を掴んで地面に引きずり落とす。
「……ふふ」
小さく笑い声を零して、シグルーンは仲間へ向けて合図を送る。
シグルーンに翻弄される盗賊たちの背後には、メイスを構えたヴァレーリア。
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え」
口の中で聖句を唱え、ヴァレーリアは天へと向けて高くメイスを突き上げた。
ごう、と熱波が舞い散ってメイスは炎に包まれる。
「ん……な!?」
盗賊たちが異変に気付いた時には既に手遅れで。
「どぉぉっせぇぇい!」
大上段から振り下ろされたメイスが強く地面を叩き、火炎の柱が噴き上がる。
刀を構え立つシャルロット。その背後には、プティを抱いたフフがいる。
「さっきの宣誓、見事だったわ。貴方は穢れなき魂の持ち主ね。そしてそういった人には頼もしい仲間がつくものよ」
フフへと迫る2本の矢を、シャルロットは上機嫌に切り捨てる。
騎士である彼女にとって、フフのような“信念を貫く人間”は、守り甲斐のある存在なのだ。
「いい加減に倒れろよ。楽になれるぞ?」
「ぐ……うぅ! きっちり守り抜くって約束したんだ!」
刺突を盾で受け止めながら、血を吐きニアはそう告げた。
防ぎ損ねたクロッコの突きが、ニアの肩や腹部を射貫く。蓄積したダメージにより、ニアは一瞬、姿勢を崩した。
体勢を整えるために、ニアは剣を横に薙ぐ。
クロッコはそれを宙返りして回避して、瞳を細めて何かを投げた。
ころり、とニアの足元に落ちた小さな球体。
「あ……やば」
カチ、とそれは音を鳴らして、次の瞬間、ごく小規模な爆発を起こす。
半身に酷い火傷を負って、ニアは荒い呼吸を繰り返している。
油断なくレイピアを構えたクロッコは、周囲を見渡し舌打ちをひとつ。自分以外の仲間たちが、気づけば全員倒れているのだ。
自分1人ではプティの回収は不可能だ。そう判断し、クロッコは素早く踵を返して逃走へ移行。
「オラァ、カス! 待ちやがれ! 鍵持ってんだろ! そいつを寄越しやがれ!」
倒れた盗賊を蹴り飛ばしながら、斧を振り上げグドルフが駆ける。
そんなグドルフの眼前へ、クロッコは爆弾を放った。
爆音と砂埃に巻かれ、グドルフの歩みが一瞬止まった。その隙に、と走り出そうとしたクロッコだが……。
「うぇぇぇん!! 鍵置いてけぇぇぇ!」
その長い脚に泪が抱き着き、クロッコの逃走を阻む。
「なっ……こいつ、いつの間に!」
腰から抜いたレイピアを、泪の首へと突きつける。
泣きわめく泪は、しかし脚から離れはしない。
そして……。
「いい泣き声だ。おかげで居場所が分かったぜ!」
土煙を突き破り、振り下ろされたグドルフの斧がクロッコの胸から腹を深く深く、引き裂いた。
「……あ」
ガチャンと重たい音を鳴らして、プティの首輪が地面に落ちる。
開放されたプティの身体をフフはそっと抱き締めた。
感動的な一幕だ。
縄に縛られた盗賊たちとシグルーンは向かい合う。
「しっかり罪を償ったなら、私のところに来るといいよ。近々、領地を頂く予定だから、私の所で働かせてあげるから」
盗賊たちから返事はないが、ともするとうち何名かは彼女の領地へ来るかもしれない。
「うぁぁぁぁ、僕の馬車が……」
ボロボロになった馬車を見て、泪は滂沱と涙を流す。
そんな泪の傍に近寄り、フフは小さく笑って言った。
「よければ修理を手伝いましょうかぁ? 特別にタダでいいですよぉ」
お礼です、なんて。
プティの首輪が外れたことがよほどうれしかったのだろう。
フフはひどく上機嫌であるようだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
盗賊団を壊滅に成功しました。
フフとプティに怪我はなく、またプティの首輪も外すことに成功しました。
この度はご参加ありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか?
また縁がありましたら、別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ターゲット
・クロッコ(盗賊)×1
カルミネ盗賊団の団長を務める痩身の男。
かつて負った怪我が原因で、全身に包帯を巻いている。
直接的な戦闘よりも、搦め手による略奪を得意とする性質。
また、その来歴から非常に身のこなしが軽い。
左右の腰に下げた毒付きのレイピアを武器とするほか、小さな爆弾を保有している。
毒針:物近単に中ダメージ、猛毒
毒を塗布したレイピアによる攻撃。
爆薬:神中範に中ダメージ、火炎、体勢不利
小型の爆弾をばら撒く攻撃。衝撃を与えるか、クロッコが操作することで起爆する。
・盗賊たち×10
クロッコ配下の盗賊たち。
毒付きの弓や投げナイフなどを武器とする。
またカルミネ盗賊団の団員は1人1頭、馬を保有しているため移動速度が速い。
投擲:物遠単に小ダメージ、毒or痺れ
毒薬を塗布した投擲武器による攻撃
・フフ
20代半ば、青い髪の女性。
商人。主に本や雑貨などを取り扱っている。
より良い商いのためにプティの協力を得たいと考えている。
その代価として、プティの首輪を外したい。
馬車を保有しているが、荷物が満載されているため移動速度は遅い。
また、彼女が商品を破棄することは決してない。
※交渉次第では【解毒薬】程度なら分けてくれるかもしれない。
・プティ
赤茶色の髪の小柄な少女。
見たもの、聞いたものを忘れない、忘れられないという記憶力を持つ。
長らく盗賊に捕らわれて、利用されていた。
盗賊に付けられた首輪のせいで、彼女の居場所は盗賊たちにバレている。
※首輪を外せる者がラサに在住しているらしい。
※クロッコが鍵を持っているかもしれない。
●場所
ラサにほど近い場所にある荒野。
近くに水場や木陰などはなく、この時期は誰も通りたがらない。
プティの記憶しているルートでのみ、命の危険なく荒野を抜けてラサへ至ることが出来る。
視界を遮るものはない。
日中は熱く視界は良好。対策をしないと熱中症などになるかもしれない。
夜間は涼しいが、視界も悪い。盗賊たちの投擲武器を視認し辛くなるかもしれない。
※日中、夜間どちらの時間帯で盗賊と遭遇するかはお任せします。
※また、移動用の馬車を1台借りることが可能です。
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