PandoraPartyProject

シナリオ詳細

冷やし中華は終わらない

完了

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オープニング

●真夏の風物詩といえば
 残暑を見舞うにはあまりにも暑さの残るこの時期。
 うだるような熱に『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)は辟易しながら無言で坂道を登っていた。
 アスファルトから照り返す熱がいつも以上にやる気を削いでいく。……とはいえ、この男。同じ身体を共有する神郷 蒼斗(しんごう あおと)以上に頑固であり、やると決めた事をなかなか曲げない人物だ。
 顎を滴る汗を拳で拭いきり、文句ひとつ垂れる事なく急な坂を上りきる。

――その時、ふわっと冷気が頬を掠めた。

 不思議がって赤斗が前を見ると、目の前にはいつの間にか美しき銀髪の女性が立っていた。
 陶磁のような白い肌にクールな眼差し。このクソ暑い時期に自殺行為ともいえる漆黒のマントを纏っていたが……そこはまぁ、ファッションには我慢が必要という事なのだろう。雪の日でも女子高生がミニスカートで通学するのと同じ原理だ。多分。

「ご機嫌よう」

 凛と鈴を転がすような声が響いた。よくよく見れば、彼女の唇は今何か食べてきたかのように油で艶っぽい。
 ちゃんと拭けよな、と赤斗は内心思いつつ――暑さで疲弊した頭で改心のツッコミを想い浮かずに、小さく会釈するのみで通り過ぎる。

 この苦しみも、あと少しの辛抱だ。
 異世界《フードストリート》。そこは美食の詰まった不変の楽園。
 世界の8割が飲食店で形成されるこの世界は、夏の時期とくに暑さが際立つものの、だからこそ"夏に美味しいグルメ"が山盛り登場する訳で。
 特にこの先にあるラーメン街は赤斗にとって、夏が来る度訪れたい絶好の美食スポットだった。
 炎天下の太陽の下、赤や黄色、色とりどりののぼりと共にお決まりの文句が並ぶ。
『冷やし中華、はじめました』
――それが在るべきラーメン街の夏の姿。そう信じて疑わなかった赤斗にとって、この日与えられた衝撃は類を見ない物となったらしい。

●想定外の異常事態
「あのアマ、冷やし中華終わらせやがった!!」
 珍しくド怒りな赤斗の様子に何だ何だとローレット・イレギュラーズ達が戸惑い気味に集まって来る。

 どうやらとある異世界で、この暑い時期に冷やし中華を根こそぎ喰らい尽くし売りきれに追いやるラーメン屋荒らしが出没したらしい。
 犯人の名は美食家シルバー・シャーリー。美しき美貌と無限の胃袋を持つタフガールで、向かった先の美味しい物を食い荒らし、そこに息づく食文化を根こそぎ奪っていくのだそうだ。

「シャーリーは一度目をつけた街を徹底的に食い荒らしていく。ラーメン街の冷やし中華が滅びちまわないように……特異運命座標、力を貸してくれねぇか?」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 暑い日が続きますね! 今年はまだ冷やし中華食べてないです!

●目標
 冷やし中華でラーメン街を盛り上げる!

●場所<フードストリート> ラーメン街
 世界の8割を飲食店が占めるというグルメな異世界。ラーメン街は食通も唸らせる美味しいラーメンが多く、他の異世界からの来客も多いのだとか。
 夏の間は冷やし中華を中心とした期間限定メニューで盛り上がるはずなのですが、シャーリーに食い荒らされた事により殆どが閉店。街は閑古鳥が鳴いています。

●できること
 ①冷やし中華を作る
  食べ尽くされて燃え尽きたラーメン屋の店主さん達に代わり、おいしい冷やし中華を作りましょう!
  新メニューの考案も大歓迎。お店が活気づくような素敵な料理を期待しています!

 ②冷やし中華を食べる
  作り手がいるなら、もちろん食べる係も必要です。美味しそうに冷やし中華を食べましょう!
  誰かを誘って一緒に食べ歩くのも勿論OKです!

 ③ラーメン街の警備
  新しい冷やし中華が出回っていると聞いて、シャーリーが手下を寄越してきたり、マナーの悪いごろつき達が店を冷やかしに来ているそうです。
  撃退してラーメン街の治安を維持しましょう!

 ④その他
  この異世界でやりたい事があれば、ご自由に!

●登場人物
『美食家』シルバー・シャーリー
 この暑い中でも自分のスタイルを崩さない銀髪の美女。ファビュラスな色気を持ちながらも食べっぷりは豪快で、ヴァンパイアの血筋の者らしく蝙蝠の従者を扱っています。座右の銘は「まず白飯ありき」
 いつこちらにちょっかいを出してくるかは不明です。

『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 グルメな境界案内人。二人でひとつの身体を共有しています。どちらもラーメン好きなので、呼ばれればついて来るでしょう。

『境界案内人』ロベリア・カーネイジ
 嗜虐的な境界案内人。呼ばれたらついて来るかもしれません。冷やし中華を食べた事がないそうです。

 説明は以上となります。
 それでは、よい夏を!

  • 冷やし中華は終わらない完了
  • NM名芳董
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年08月26日 21時36分
  • 章数1章
  • 総採用数5人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

――その夏、俺は太陽を纏った騎士を見た。

 街のゴロツキ達が後にも先にもそう語るのは、リゲル以外に誰もいない。
「皆美食や納涼を求めて、ここへ訪れているんだ。邪魔をするのは無粋というもの」
 口上は叡智を帯びて勇ましく、構える姿は隙がなく。その様は正に流麗である――滝のように流れる汗が気になるが。

「心を入れ替えぬのであれば、俺が相手をさせて頂こう!」
「ひぃっ! こっちに寄って来るんじゃねぇー!」

 纏う鎧は灼熱の太陽の熱を受けた分だけ吸収し、肉を乗せたら焼けそうな程に熱そうで。平蔵達が一目散に逃げ出すと、リゲルはふぅと息をついた。

(暑い……このままでは溶けてしまう)
 熱に浮かされたまま視線を流せば、そこには『冷やし中華はじめました』ののぼり旗。涼し気な誘惑にごくりと喉が鳴る。
(冷やし中華か、これは夏バテしている身もシャキッと蘇るかもしれない。
 飛びつきたい思いはあるが……だがしかし!)

「俺は騎士として、敢えて警備に赴く! それが俺の矜持なのだ!」

 嗚呼、なんと騎士道の過酷な事か!

 ツッコミ不在のままリゲルはその後もラーメン街を駆け回り、エネミーサーチで敵を炙り出しては流星剣で薙ぎ払い――。

「おっ、覚えてろよーー!!」
「これに懲りたら客として改めて赴くがいい!」

 捨て台詞を吐くゴロツキにクールな返しをしてから……ぽつり。

「しかしあまりに暑いなあ、時間があれば冷やし中華も食べに行くかなあ……」

成否

成功


第1章 第2節

サイズ(p3p000319)
妖精■■として

「……ここでごはん食べれると思ってきたが…もしかして食材しかないの?」
 サイズが立ち寄った店は、不幸にもシャーリーに荒らされた後のようだ。店主は厨房の隅に座り、すっかり気力を失っている。声をかけても俯いたまま、
「俺の腕は錆びたのさ。食いたきゃ自分でやってくれ」
……とまぁ、何とも投げやりな返事である。

「はあ、なら作って喰うか……」

 嘆いても飯は出て来ない。厨房に立った鎌と製作者は冷蔵庫を開き、思案しながらも卵へ手を伸ばす。
(卵焼き作るとしたらフライパンも使うから洗い物が増えて片付けめんどくさくなるが……まあ、必要なものだからな…)
「それに、作るといってもキュウリ切って、ハム切って、卵焼き作って切って……」
 切り刻むのは妖精鎌の本領。麺を茹でて容器に入れた後は、下ごしらえした具材達を盛りつける。
「洗い物は……食ってからでいいか…いただきます」
 ごくり。
 サイズが食べている姿を見て、店主が思わず唾をのむ。
 鍛冶で鍛えられた細工のセンス――盛り付け力が、冷やし中華を美味そうに見せたのだ。

「ふう、ごちそうさま…さて洗うか………これわざわざ異世界に来て手間かけて冷やし中華食っただけじゃん…作る手間省くためにここに来たのに本末転倒だ……」

 美味く出来たから良しとしよう。そう思いながら立ち去るサイズの背後で店主は静かに立ち上がり――腕を捲った。
「あんないい仕事見せられたら、俺も負けてらんねぇぜ!」

成否

成功


第1章 第3節

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

 ラーメン街の端から端まで警備を終え、踵を返したその先に彼女は居た。
 バラックを打ち立てたバスの停留所、赤いベンチに座すのは薄い笑みを浮かべた境界案内人。
「また誰かのために駆けずり回って。多忙そうな白獅子ちゃん」
「そうでも無いさ」
……というより、もう十分だろう。限界ともいう。顎を伝う汗をリゲルが腕で拭おうとすれば、目の前に差し出される青いハンカチ。ロベリアからそれを受け取ると、彼は唇を開き――。


「へいお待ち!」
 目の前に出された冷やし中華を見れば、待ってましたとばかりに割り箸入れへ手を伸ばした。取り出した箸は2膳で、ひとつを目の前のロベリアへと差し向ける。

「どうして私を誘ったの?」
「目の前にラーメン街があるんだ。行かなければ勿体ない。
 それにグルメを体験することは人生の喜びに繋がると思うんだ」

 刻んだキュウリと卵は、爽やかな食感を織りなし
 紅宝玉のごとく飾られたトマトは甘酸っぱく頬が蕩けそうになる。
 そして何より弾力とコクのある手打ち麺と、林檎やハチミツで整えられたソースが
 この店独特の魅力と個性を溢れんばかりに表現している。
 爽やかさっぱり! 夏の美食の王様だ!

「ラーメンは冷えても美味しいものだろう? 人の発想は素晴らしいよな」
「食べた事ないわ。温かいの」

――嗚呼、とロベリアは息をつく。
 人生の喜びなんて切り捨てた筈なのに。

「連れて行きなさい、今度」

 この一杯は、幸せの味がした。

成否

成功


第1章 第4節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

 蝉の声が余計に暑さをかき立てる。
「これも沢山の人に冷やし中華を楽しんでもらうため、なんて簡単に言うけどさあ」

 広すぎ。暑いし溶けそう。

 うだりながらも睦月はペタペタ、店の軒先に『冷やし中華終わりました』の貼り紙をはりつけた。無茶する幼馴染に治癒符を貼るよりかは楽な作業だが、如何せん店の数が多すぎる。
「街中にこのチラシを貼れば、唯一貼ってないしーちゃんの居るお店で待ち受けられるって。
 そんな見え見えの作戦でシルバーが釣れるとは思わな――」

「くっ、よもや『冷やし中華大盛り食べきったら無料』の触れ込みが罠であったとは!」
「かかったなシルバー。冷やし中華を楽しむ人達の笑顔を守るため、俺がここで『ご馳走様』を言わせてやる!」
(うわー、しっかり釣られてるよ!)

 炎天下の中がんばった甲斐が無いとそれはそれで複雑ではあるが、こうも易々と引っかかるとは。呆れながらも睦月は幼馴染――史之とシルバーがカウンターを挟んで対峙する姿を眺めつつ、涼しい場所に退避した。エアコンは素晴らしい。スライムさえ中に詰まっていなければ。

「先手は取られたが、だからどうした。私を満足出来るほどのグルメを用意出来ていなければ全ては無駄! 宇宙だぞ、私の胃袋は。半端な事はしてくれるなよ?」
 罠にはまった癖にシルバーとやら、態度のデカい女である。しかし史之はツッコまない。場の空気に酔ったまま、カッ! と目元アップのカットインを画面(?)に割り込ませる。

「喰らえっ……まずはこれだ。オーソドックスな錦糸卵とハムときゅうりの冷やし中華!」
「くっ、これは手堅く美味! だが……足りぬ!」
「続いて正統派四川風激辛麻婆アレンジ!」
「冷たさの中に通り抜ける熱さ! 食が進むではないか!」
「まだまだ! 打って変わって揚げ茄子とバンバンジーのひんやりごまだれ中華!」
「タレの甘味と柔らかな揚げナスのマリアージュ! くっ……何と言う合わせ技をッ!」
「奇襲の一手! がっつり系ゴーヤチャンプル乗っけさっぱりレモンタレで!!」
「旨味の中にくる酸っぱさが至高の一杯だとーーーッ!?」

 ぜぇ、はぁ。肩で息をしながら見つめ合う史之とシルバー。

「……この量と味の違いをものともしないとはやるなシルバー」
「貴様もよい腕だ。久しぶりだぞ、サイドメニューに手を付けるタイミングを逃すのは」
「ちょっと待ったーー!」
「どうしたのカンちゃん、俺もあったまって来た所なんだけど」
 素っ気ない史之の言葉に拗ねたように頬を膨らませる睦月。
「ずるいずるい! 僕もしーちゃんの特製冷やし中華食べる!シルバーだけに独り占めさせない!」

 幼馴染の言葉に史之はハッとする。勝負に集中しすぎて忘れていた。
 この暑い中、懸命に手伝ってくれた睦月へ、してやるべき事があるんじゃないのか。

「ごめん、目が覚めたよ。俺の作った最高の一杯をカンちゃんに――」
「あ、小盛でお願い。さすがにその量は無理」

成否

成功


第1章 第5節

 滅びかけていた冷やし中華への熱意が街の中でぽつぽつと灯り始める。
 やがてそれは繋がり合い、夏のラーメン街を熱狂させる大きな火種となった。
「フフッ……特異運命座標。面白い奴らだ」
 シルバーは笑う。油で濡れた口元をナプキンで丁寧に拭きながら。少し前に赤斗と遭遇した時は、店にティッシュもナプキンもなくてうっかりそのまま店を出てしまったのだ。今度は阻喪をしないようにと丹念に唇を拭った後、バサリ――漆黒のマントを大きく閃かせる。

「私が喰らうだけでは冷やし中華の芽が潰える所だった。しかし貴様らは見事それらを再生させた。より美味く、より強大な冷やし中華が生み出される土壌をつくった上で!」

 この奇跡には価値がある。摘み取るのはもう少し後でも遅くはない筈だ。

「運がよければまた逢おう。さらばだ特異運命座標! フッフフフ……アッハハハハハハハ!!」
「お会計、千と飛んで七百Gになりまーす」
 チャリーン♪

 こうしてシルバー・シャーリーは会計を済ませ、満足気にラーメン街を去っていった。

「面倒くさい奴に目ぇつけられちまったな、特異運命座標」
 誰のせいで、と言われる前に赤斗はごまかすように笑って、先を行こうと歩き出した。

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